平成25年度第2回産業労働事情懇談会議事概要 日時 平成26年3月20日(木)15:30〜17:30 場所 厚生労働省省議室 テーマ: 企業における人材育成・人材マネジメントの現状と課題 招聘企業(業種): 銀行業 <会社概要、人材育成・人材マネジメントの考え方> ○ 当社では、それぞれの部門で専門性を持ってサービスを提供しているが、それを  ばらばらに提供するのではなく、いろいろな悩みを持っている個人・法人のお客様 に、どんなメニューが提供できるのかを考え、それを総合的に組み合わせて提供し  ている。このため、求める人材としては、専門家であることは必要だが、それ単体  ではなく、総合的に視野を広くできる人を求めている。 ○ 人事制度のコンセプトは、「働いて成果を出す人に報いる」ということであり、  @「職務・成果」、職責に応じた或いは成果に応じた処遇をつくっていこうという  こと、A「プロフェッショナル重視」、全員が専門家になっていこうということ、  B「創造・挑戦・自律性」、チャレンジをしっかりしていこうということの3つの  要素からなっている。 ○ 正社員は、勤務地に制限がなく、どこでも転勤OKというコースと、勤務地が限定  され、転居を伴う異動は基本なしというコースに分かれており、正社員の約65%  が前者の全国転勤あり、残り約35%が勤務地限定となっている。 ○ キャリアとしては、最初の7〜10年位の、大体課長代理になる前くらいまで、課  長代理、課長クラス、それを過ぎた次長・部長、といった3段階に分けている。な  お、ラインマネジメントでない人でも、専門性を発揮している人については、部長  に等しい処遇が得られるような制度になっている。 ○ 退職率は、1〜2%で推移している。平成25年度の退職率は全体で約1.7%、勤  務地に制限がないコースが約0.6%、勤務地限定のコースが3.9%と見込んでいる。  勤務地限定のコースは女性が大半で、出産等による退職のため数字が高めになって  いる。勤務地に制限がないコースについては、景気回復に伴い、退職率がやや高まっ  てきているように感じる。勤務地限定のコースについては、出産等の後も働き続け  る人が増え、退職率は低下してきている。 ○ 採用は、基本は新卒採用が中心である。これは、ビジネスの専門性を基に幅広く  ソリューションを提供できる人材を育てたいということで、それには一定の時間が  掛かるためである。新卒採用に加え中途採用も行っている。中途採用では、当社の  人員構成上30歳台が少ないということで、将来の人員不足を考慮して、この世代を  中心に採用している。 ○ 当社の人材に求められることは、専門性、人間性、行動力である。専門性や人間  性にはゴールがないと考えており、常に改善していこうと考え続ける集団でありた  いと思っている。 ○ 新卒採用後、最初の2年間は基本を習得期ということで、社会人、銀行員として  の基本を身につけてもらい、それが終わる頃に人事部が面接して次の配属に移る。  3〜7年目は、当社の業務のうち、それぞれがその後の軸となるものを持ってもら  う期間となっており、ひとつの業務が一人前になるまで大体5年かかる。それが終  わる頃にまた人事部面接をして、その後はキャリアをさらに拡大してもらう期間と  いうことで、それまでに築き上げたものをどうやって膨らませていくか、異動プラ  ンを考えていく。このように、専門性と総合力を兼ね備えた人間を育てている。 ○ 専門家集団として、資格取得を奨励している。業務に直結し難易度の高いいくつ  かの資格については、若手を選抜して、試験準備のための特別休暇を与えたり、社  外の講座を受講できるようにしたり、一定期間、合格をしっかり目指してもらう制  度を作っている。また、昇級には一定の資格取得を条件としており、これを取らな  いと昇級できない。それ以上の上級職級の者にも、よりレベルの高い資格の取得を、  目標値を定めて奨励している。 ○ 業務の分野ごとに人材育成のプログラムというものを作っており、社内のイント  ラネットに掲載されている。これを見て自分がどう育っていくのか認識でき、他業  務に興味がある場合は、これを見て何が必要かを認識できる。また、業務ごとのス  キルのレベルを判定する仕組みを設けており、年に1〜2回判定する機会がある。  ペーパーテスト、資格取得状況のほか、上司や周りの者による定性的な判断を含め  てレベルを判定する仕組みを作っている。 ○ 定年は60歳だが、55歳でポストオフし、関連会社に転籍する運営になっている。  将来的に55歳以上の比率が大きくなることが見込まれるため、今からいろいろ手を  打っている。今まで47歳で行っていた、キャリアの棚卸とそれ以降の働き方につい  てイメージいただく研修を45歳で受けてもらい、その後、人事部が、今後どんなキャ  リアを目指していくのか、そのためにどんな研修、自己啓発をしたほうがいいかと  いった面接をする。50歳を超えたところでどういう分野に行ってもらうか定めて、  53〜54歳で具体的な研修、本配属へと移っていく。 ○ ワークライフバランスについて、制度的に長めの育児休業を認めているほか、出  産予定・育休中の社員が利用できる様々なプログラムを用意している。また、育休  後に仕事に戻るという意識を高めてもらう必要があると考えており、休業前に面談  を行うことも検討している。平均勤続年数も伸びてきており、女性の管理職比率も  上昇している。 <主な意見交換> 【Q】 御社はどのような方を中途採用のターゲットとして集めようとしているのか。   またどのような採用手法を採っているのか。 【A】 中途採用は、即戦力としての専門性があることが1つの要素になっている。最   初はその専門分野で働いてもらうが、仕事の幅を広げて、当社としての求めてい   る人材になってほしいため、30代が望ましいと思っている。エージェントに採り   たい人材のスペックを伝え、紹介してもらった人を面接する。 【Q】 使っている人材ビジネスの会社は何社か。また、その会社に対する料金面を含   めた評価はどうか。 【A】 今は3社で、余り不満は感じていない。料金については、相場があるので、余   り差はない。 【Q】 来年の採用活動時期の後ろ倒しについて、どのようにお考えか。 【A】 学生にとっては良いことだろうと思うので、きちんと対応していきたいと思っ   ている。 【Q】 新卒採用において、採用基準はどのようになっているのか。 【A】 エントリーシートでのカットは余り行わず、なるべく面接をするようにしてお   り、その時の基準は、望ましい人材の3要素である人間性、専門性、行動力の3   つを具体化したものとなっている。3回程度面接をしているので、ある程度バイ   アスがかからないような形にはなっていると思う。 【Q】 既卒で職務経験がない者を新卒として採用することについて、人事上問題はあ   るか。 【A】 既卒者でも特に区別はしていない。ブランクがあったとしても、その経験が非   常に良い効果になっていることが感じられれば普通に判断している。ただ、ブラ   ンクがある場合には、その意味付けがしっかりできているかを見るということは   ある。 【Q】 採用時に職務要件を明確化するなど、人と職務の結びつきを強めていく考えは   あるか。 【A】 学生時代にこれを勉強したのでこれをやりたいという志向の方が一定程度増え   てきているとは感じる。ただ、専門性と総合力のバランスが非常に重要なので、   この業務だけやっていけば良いのだという考え方の人間は望ましくないと考えて   いる。 【Q】 留学生も含め、外国人の採用について今どれぐらい取り組まれているのか。 【A】 今までは、普通に春の採用を行っていて、日本に留学されている方が応募され   た場合には、普通に面接をして、御縁があれば採用ということになっていた。し   かし、足下ではグローバルな展開をより強めているため、留学生向けのセミナー   に参加するなど、少し意識をして留学生へのアプローチを行っている。 【Q】 勤務地の制限がないコースと勤務地限定のコースの間の転換の仕組みはあるか。 【A】 コース転換の制度があり、双方向に異動できる。多いのは勤務地制限がない   コースへの異動で、コースを移ることによって仕事の可能性が広がるので、転換   する人が年間で4、5名程度いる。 【Q】 社内公募制は行っているか。 【A】 公募制は行っている。毎期60〜70位のポストの募集をかけて、30〜40位の応募   がある。また、シニア層に向けて、55歳になったらこんな仕事をやってみたいと   いう意味での公募も行っている。 【Q】 55歳の時にどういう労働契約に切り替わるのか。その対象者は、いわゆる取締   役にならない方全員が対象なのか。また、どのような仕事に就かれるのか。 【A】 55歳で退職再雇用のような形だが、契約としては転籍先の正社員としての契約   になる。対象は、当社の役員にならなかった人だが、課長代理未満の人は、基本   的には当社籍のまま60歳までとなっている。仕事の内容は、関連会社でのマネジ   メントか、銀行本体でのプレーヤー的な仕事かのどちらかになる。60歳以降は、   65歳まで継続雇用となる。   【Q】 関連会社でプロパーが育ってきて、関連会社に出向させるのが難しくなってき   ているということも聞くが、御社の場合はどうか。 【A】 関連会社の仕事もアベノミクスの効果により繁忙になってきており、ポストの   不足感は逆になくなってきている。 【Q】 環境変化の中で、人材育成やキャリア形成の取り組みで変化させたところはあ   るか。 【A】 昨年度までは、2業務を経験してくださいというパターンと、1業務を極めて   くださいというパターンの両方を提示していたが、総合力が大切なため、今年度   から、他の業務も一度は経験し、自分のやっている業務の幅も広げてくださいと   いうことを明確化した。   【Q】 人材育成のプログラムにおけるレベル判定は、人事評価と考えて良いか。 【A】 人事評価には直結しない。ただ、人事の評価基準の1つに業務スキルや専門性   を測る項目があり、判定結果を上司が参考とするケースはある。 【Q】 賃金制度について、成果の反映のさせ方など、どのようになっているのか。 【A】 賃金制度は、能力を等級化した職能給と、課長といった職位に応じた職務給の   組合せになっている。人事評価は、半年に1回の成果に関する評価(各期の課題を   どれだけ達成できたか)と年1回の能力に関する評価の2つがある。能力に関する   評価は職能給に直結し、賞与は成果に関する評価だけから決まる。また、職務給   の中には号俸があって、2つの評価の総合点で毎年変わる。 【Q】 人材育成に熱心に取り組んでおられるが、中途退職を抑止するような対策は何か   考えているか。 【A】 離職率は足下で少し膨らんでいるが、真剣に危機感を持つまでには至っていない。   採用の時に、長く働きたいと思っている人間が多く入ってきているのだと思う。 【Q】 社員の資格取得支援に力を入れておられるが、資格取得後に離職してしまうよう   なことを防ぐための工夫はあるか。 【A】 取得した資格や本人の適性が生かせるような仕事についてもらい、やり甲斐や   自分の成長を実感してもらうことが大切だと思う。それでも辞めてしまう場合は、   損失だが仕方がないと思っている。また、そのようにならない人を人選して支援   するというのもポイントだと思う。 【Q】 男性の育児休業取得状況はどうか。 【A】 男性の育児休業はまだ例が少ない。取る人には不安感があると思うので、各部   門の管理者に対して、取れるような環境整備をしっかりやってくれと言っていく   必要があると思っている。金銭的な面もあるが、取りやすい環境かどうかという   ところの影響が大きいと思う。 【Q】 特別に高度専門的な知識を身に付けられた方で、他と異なる給与のテーブルを   適用して特別高い報酬を払っているような職種があるのかどうか。そのような方   の中で、契約社員のような形で外部から来ている例はあるか。 【A】 プロフェッショナルとして進んでいくと、ラインを持たなくてもライン職と同   じように給与は上がっていく。正社員の中で特別なテーブルの人はいないが、若   干バリエーシンはある。例えば、ファンドマネージャーに関しては賞与の体系が   少し違っていて、メリハリが効きやすい設計になっているが、基本は同じである。   高度専門職の契約社員は、トレーダーなどでごく少数いるが、例外的である。 【Q】 契約社員のトレーダーについて、時間管理や報酬体系はどのようになっている   のか。 【A】 普通の残業管理、労務管理をしっかりやっている。報酬は、一般の社員に比べ   ると賞与の水準が大きく、メリハリのききやすい形になっている。 【Q】 裁量労働制は導入しているか。 【A】 まだ導入していない。裁量労働制の適用範囲を拡大して頂けると有り難い。際   限なく働かせようと考えているのではなく、時間ではなくアウトプットで勝負す   るような仕事、例えばトレーダーや企画業務などでは、アウトプットで働けるよ   うな制度があると、仕事の仕方が拡がってくると思っている。