第3回産業労働事情懇談会議事概要  日  時:平成23年2月3日(木)13:00〜15:00  場  所:中央合同庁舎5号館9階 厚生労働省議室  内  容:若手人材の育成と世代ごとにみた働き方  参加企業(業種):旅行業 ○業界の状況、会社概要  旅行業界並びに弊社グループにおける現在の取組等々について少しお話をさせていただ きたいと思います。旅行業界は、旅館やホテル業界、運輸関連業界、イベント業界、ある いはテーマパーク業界などで構成されるツーリズム産業という括りの中に存在します。そ して、このツーリズム産業自体は、平成20年度データでは約23.6兆円という非常に大きな 市場規模と言われています。  「旅行」という軸に様々な産業が関連し、お互いに連携をしながら進めています。他の 産業に比べても非常に裾野が広く、また、雇用面においても非常に大きな雇用を生み出す 産業と言われております。その中で旅行会社という仕事も、比較的最近はインターネット による申し込みが増えておりますが、まだまだお店というリアルな「人」を通じての申し 込みは根強く残っております。  海外旅行者数も、今は横ばいの状況でありますが、世界的にはいわゆる「人の交流」と いうものはアジア圏を中心に非常に増えています。そうした中で、私共もビジネスチャン スを見出していこうと取組を行っております。   日本においても、出国する人数に比べて、海外から日本にお越しいただく外国人の方が まだまだ世界的にみると少ないということで、現在ビジット・ジャパン・キャンペーン等 も含めて、日本により多くの外国人の方がお越しいただけるような取組を一企業として、 あるいは観光庁や地方自治体と連携して進めています。それが結果的に国内の雇用の拡大、 あるいは第一次産業から第三次産業まで含めた幅広い分野の経済の活性化等々につながる のではないかということで、重点的な施策として取組を図っているところであります。  国土交通省で打ち出されている「観光立国推進基本計画」ですが、まず訪日外国人の拡 大、及び日本人の海外への渡航者数の拡大等が謳われております。そうした中から、私共 は一翼を担う企業として様々な貢献ができれば、という思いで進めています。  次に当社グループの経営理念ですが、2006年からいわゆる持株会社化を行いまして、グ ループ本社の傘下に様々な事業会社を抱える形で経営体制を構築しております。  弊社は旅行会社というイメージが非常に強いかと思います。確かに中核の事業としては 旅行業ということになりますが、その他にも出版の事業会社を持っていたり、あるいはホ テルを運営する会社を持っていたり、様々な事業展開を行っております。  会社数でいいますと、国内に約100社、海外に約100社程度を有しているというところで す。旅行業を本業としながら、その周辺事業にも一定程度展開を図っているという企業グ ループといえます。  2005年まで中核事業については1社体制で運営していました。それを地域別あるいは事 業別に約15の事業会社に分割をし、運営を行っております。また、最近はWEB販売、イ ンターネット販売等も非常に増えております。そうしたことを専門に行う会社も分社化に より、独立させて経営しております。分社化の目的は、お客様のニーズというものが非常 に細分化されてくる中で、地域性であったり、あるいは事業の専門性であったり、そうし たところを追求するために、1社体制の大きな船ではなかなか舵を切るのが難しいので、 細かく分けて機動的に対応できるように、2006年に分社化を行いました。  しかしながら人財課題として、分社化による様々な課題も顕在化しております。今まで の大きな会社に所属しているという意識から、地域ごとに分かれた会社に所属するような 形になっておりまして、あまり他社には事例がないケースと言われております。持株会社 型でグループ運営をしている企業グループは多々あろうかと思いますが、概ね本体に社員 が所属していて、その子会社群に出向するという形態の会社が比較的多いと伺っています が、私どもの場合には、グループ本社(持株会社)には一人の社員も所属せず、全社員が いずれかの事業子会社に所属をし、グループ本社は各社からの出向者で運営するスタイル をとっております。こういう形の運営方法を行っているのがグループとしての一つの特徴 と言えます。  先ほど200社と申し上げましたグループ会社で働いている社員は、総トータルで2万7,526 名となっております。これは昨年度の数値になりますが、従業員数としては約2万7,000名 強を抱えているということであります。後ほどの人財課題の一つにありますが、私どもの 課題としては「グローバル化」という課題を抱えております。そうした中で、社員のグロ ーバル化、あるいは現地の法人において採用した社員と日本法人で採用した社員とのバラ ンスの問題など今後の課題としてはございます。  取り扱いのシェアということで、弊社も総トータルとして約1兆1,000億程の取り扱いと いうものを有しております。2万7,000名の社員で1兆1,000億を取り扱っているということ ですので、規模自体は割と大きく見えますが、生産性・効率性という面では様々な課題を 抱えているグループであると自覚をしております。 ○事業戦略  次に、現在のグループの戦略についてですが、当社は旅行業が中心ではありますが、基 本的には「交流文化事業」というものをグループ事業のメインコンセプトに据えて展開を 図っていきたいと考えております。  当然、日本国内も少子高齢化ということで、基本的に旅行業の商売は人に動いていただ かないとビジネスとして成り立たない世界でありますので、やはり人口の減少あるいは高 齢化によって今まで積極的に出歩いていた方が出歩かなくなってしまうということには、 非常に大きな危機感を持っております。ですから、我々自らが需要を創造していく、より 需要が期待出来るマーケットに展開をしていく、こうしたことを日本のみならずアジアを 中心とした世界のお客様の交流の場を積極的に創造すべく、これから申し上げる3つの戦 略を機軸とし、新たなチャレンジ、つまり交流文化事業を推進してまいります。  1つは、「地域交流ビジネス戦略」です。まさに各地域ならではのお祭りやイベントな ど人の交流そのものを当社が地域の自治体、観光協会、地域の旅館、ホテルなどと連携を しながら、その街にお客様を呼び込む仕組みづくりを行い、その地域の活性化というもの に繋げていくというビジネスを展開しております。各地域の魅力ある街づくりということ に当社もお手伝いをさせていただきながら、特に各47都道府県の首長の皆様はじめ様々な 方に、ご支援・ご協力をいただきながら様々な地域で取組を図っております。こうした取 組をすることが、分社化の一つの目的でもある「地域に根差した会社」を創り、その地域 に日本中あるいは世界中からお客様に来ていただけるような仕組みづくりに繋がるもので あり、事業の基幹に据えて現在取り組んでいるところであります。  2つ目は「WEBビジネス戦略」です。基本的には私どもは、街中の旅行カウンターで の販売というものが未だに主流ではあるものの、マーケットがインターネット販売という ものに軸足が移る中で、WEBとリアル店舗による、いわばクロスチャネル的に旅行申し 込みの促進をさせようという取組を一層強化しています。旅行という商品自体は、基本的 には予約情報をお客様に代行してご提供するということが本質になりますので、WEB販 売というものはインターネットと非常に親和性が高いと言われております。その一方で、 お客様自体が旅行購買そのものを一つの楽しみと捉え、その旅行を「選ぶ、探す」ことに 価値を見出されておられることや、あまりにも情報が氾濫しているため自身にとって有意 義な情報を見つけられない等の要望も強く、リアルな店舗において私どものスタッフと様 々な会話やご質問、ご回答を通じてお客様一人ひとりにあった旅行を一緒に「選ぶ、探 す」といったことをしながら、インターネット販売の運営を強化することによって、独自 のサービス展開を図っています。  戦略の3つ目は「グローバルビジネス戦略」であります。従来の私どもの海外拠点の役 割は基本的に日本人の方が海外に行かれたときの現地でのホテル、バス、ガイドなどの手 配のお手伝いをすることでありました。例えば、フランスにご旅行に行かれる日本人の旅 行客の方を現地でツアーオペレーションをしていく等の取組が殆どだったのですが、現在 は、世界各地の日経企業やその地域に在住の方々に対して訪日セールス活動を行ったり、 プロモーション活動を行ったり、あるいは3国間ビジネスという形で、韓国のお客様がハ ワイに行かれるご旅行を、日本の企業である弊社がお手伝いをするという取組もしており ます。特に、アジア・中国圏は、おそらく旅行ということだけを捉えると、丁度20年から 30年前の日本と同じような状況であるかと思います。  特に、もう間もなくと認識しておりますが、中国公民の海外渡航の規制緩和ということ が謳われております。それに対応するべく、中国あるいはアジア地域を中心に、これまで 培ったノウハウを展開しながら現地で旅行ビジネスを展開出来るような取組を進めており ます。 ○人材育成  教育研修制度について簡単にご説明いたします。  グループ内には、約200社近くの企業群がありますが、その中に人財育成・能力開発を専 門に行う会社がありまして、この企業を中心としてグループ内の社員への教育活動、研修 を行っております。東京多摩市に専門の研修施設を自前で持っております。そこを中心に、 多数のメニューで構成される独自の教育研修プログラムを展開しております。  毎年、上期と下期には教育研修プログラムの冊子を全社員に配布しております。この冊 子には、その期中に行う研修メニューを全て記載し、世代や職能毎に必須のプログラムに 加え、各社員が自分がどういう研修に参加したいか、あるいは職場の上長がその部下に対 して、どういう教育をいつ行わせたらいいのか、そうしたことを考えてもらうような選択 型プログラムを約250コース程度用意しております。その教育体系は、大きく分けてマネジ メント教育と旅行実務を中心とした専門教育の2つの体系に分けられ、新入社員の基礎教 育から始まりまして、将来的には経営者層に向けた研修等々の展開までを図っているとこ ろです。  それから、教育研修とは少し異なる観点になりますが、ダイバーシティという考え方を グループ共通として推進しています。「ダイバーシティ推進委員会」という社長直轄の組 織を持ち、この考え方の浸透・推進を図っております。この考え方のもと、男性女性の区 別なく、あるいは国籍の別なく、多様な人財が活躍できるような取組を、社内誌などを通 じて紹介し啓蒙を行ってます。約2万7,000名のグループの社員のうち約60%程度が女性社 員です。女性が多い会社でございますので、当然ながら女性の活躍というものに取り組む こと自体が、グループが成長していくためには避けられない事実であるという認識をもち、 女性が長く活躍できるような環境づくりをめざし、現在さまざまな働きやすい制度を構築 するなど、一層のダイバーシティー推進にむけ努力をしているところです。  求める人財像ですが、弊社は、大きな工場を持っているわけでもありませんし、資金余 力が潤沢にあるわけでもありません。経営資源はやはり人にほかならないということで、 人財の力をいかに伸ばしていくのかということに経営的な重点も置いております。その意 味で、求める人財も多様な価値観を有する人物を求めるため、特定の人財像というものは 定めておりませんが、その人財の個性・特長をいかに発揮させるかに焦点を当てた会社運 営を目指していると認識しております。  最後に、グループ人財戦略における課題ですが、まず「計画的な基幹人財の育成」が挙 げられます。弊社はグループ内で約200社を抱えておりますので、単純計算で必ず200人の 社長が必要になってきます。そんなに基幹人財が多くいるわけではございません。おかげ 様で来年度100周年を迎える歴史は長い会社ですが、計画的な基幹人財の育成を行ってきた 訳ではありませんので、今後の大きな課題と認識しております。  また、中高年の社員も多く抱えておりますので、世代交代ということも非常に大きなテ ーマになってきております。90年代初頭、ちょうどバブル期と言われる時期に毎年1,000名 強の大量採用をした時代がありました。もう既に90年入社の社員も年齢としては41歳、42 歳ぐらいを迎えることになってきて、当然ながら10年経ちますと、その世代層が50代を迎 えます。一方で昭和45年以降、ちょうど大阪万博があった以降、ツーリズムブームで非常 に大量に社員を採用してきた時代がありました。その団塊の世代に差しかかる部分の方が この数年でリタイヤされる。その後、すぐこの90年代前半の大量採用層の人財が中年期、 高年期を迎えつつあるという中で、この基幹人財をどう育成していくのか、あるいはグル ープ総トータルでどのように人財を活用していく必要があるのか。また一方で、多様性、 様々な個性、特徴を持った社員の一人ひとりが能力を発揮できるような場を提供していく ことを次年度以降、人財戦略の中でも何とか実現をしていこうと現在も取り組んでいると ころであります。 ○意見交換 Q01 2006年4月の分社化の前後を比べた場合、どのように変化したのかという点と、 グループ間の人事といったものはどれぐらい集権化、もしくは分権化しているかお伺 いしたい。 A01 2006年以降分社化を進めてまいりまして、人事的な面で言いますと、一番大き く変わったのは、社員の意識ということになると思いますが、大きく分けると、2006 年以前に入社していた「大きな会社」に入社した世代と、2006年以降の各社毎に入社 した社員との意識の違いというものが、今までには無かった課題として捉えておりま す。  いわゆる大きな全国的に展開していた会社に入社した社員は、2006年にそれぞれど の事業会社に所属をするかを選択しました。やはり一部には「今までと違う」という 意識がなかなか芽生えないで、変化に対応できない社員が存在しております。分社化 そのものの趣旨としては、小さな形でそれぞれのマーケットに正対していこうという ことが目的で行ったのですが、人事的、人財的には、なかなか大きな企業意識という ものが抜け切れなくて、古い社員ほど変化に対応できない、そうした課題が顕在化し てきております。  また、その真逆なのかもしれませんが、分社化をすることによって逆にグループの 仲間意識というものがどんどん希薄になってきている気がします。今までですと同期 入社、同じ釜の飯を食った仲間が全国に点在しているので、その意味で営業上も連携 が深まって、自分の同期が例えば北海道にいる、九州にいるということで、いろんな 情報交換をして営業的にも連携を取り合うということが一つの強みであったものが、 会社が違うということで、割と内向的になっているような、自分の会社の利益しか見 ていない。グループトータルでダイナミズムを発揮するとか、そうしたところについ ては今やや弱くなっているのかなと感じます。現在、それを払拭すべく、様々な取組 を進めているところでございます。  2006年度以降入社した社員もちょうど5年目ということで、人財層で言うと全社員 の大体2割5分ぐらいは、もう既に大きな会社を知らない社員になってきています。 そうなると、やはり非常に思考が狭いというか、自分が所属している会社のみが全て の世界のようなところで、全国展開あるいは世界に向けても展開しているというグル ープ全体の企業活動についての理解がなかなか進まないジレンマを抱えているかなと、 そんなところが分社化以降の課題と考えております。  人事の分権と集権の部分ですが、基本的には全て分権ということで、グループ本社 には誰も所属していない形になっています。グループ本社が握っている人事権という ものは、いわゆるグループ各社の役員のみです。一般社員の人事権は、全て所属して いる各社が人事権を持っているということで、そういう意味では分権を思い切って行 ったところですが、それだけでは正直なかなか今うまくいっていないことの方が多く なってきて、再び中央集権的に行うような取組を、ちょうど今年度から少し舵を切り 直して進めているところであります。  今までは、各社が同じグループ内でも他の会社と交渉をしながら人財交流、出向な どを行ってきたのですが、それだと各社間の利害が一致した場合しか成立しないもの になりますので、この3〜4年グループ全体で人財を有効活用するという観点に非常 に欠けている部分があって、その弊害の方が今随分出てきていると感じております。  今後は会社間をまたがる人事については、グループ本社の人事が全て関与すること に切り替えまして、もう一度グループ全体での人財活用を促進する方向に切り替え始 めているところであります。 Q02 女性比率が6割から7割ということで、なかなか全国転勤というのは難しい事 情を抱えている方も多いかと思います。勤務地を一定範囲内に限定する地域限定正社 員に限らず、職種限定正社員などにした方の人財の定着なり、あるいは、様々な面で やり易いというメリットみたいなものがあったのかどうかお伺いしたい。 A02 地域分社化を図っていく中で、ワイド型の全世界どこでも転居・転勤ありとい う社員形態のグローバル型社員、その地域特性に応じた限定型社員のリージョナル型 社員、ローカル型社員の3段階に分けながら、その雇用形態を変えながら進めてきて おります。当然ながら企業ですので、背景には人件費コントロールということも意識 しながら人数バランスをとって配置・採用していくような、そうした取組ということ は今後何年間かで進めてきていります。  課題は、当初はリージョナル型で入社した社員でも、いずれもう少しワイドに働き たいだとか、グローバル型社員で入ったけれど、転勤が出来ない状況になったという 要望も出てまいります。一度選んだから文句を言うなよということだけではいけない ですし、そのライフサイクルに合わせてグローバル型からリージョナル型の社員へ転 換するブリッジですとか、逆にリージョナル型で入った社員でも能力を発揮して、本 人が望めばグローバル型に転換できるという、そのようなブリッジのかけ方の在り方 は今後の課題と捉え、現在研究を進めているところです。 Q03 かつて会社は一つということで1本の採用とされていたでしょうが、現在の採 用はどういう形態で行っていますか。基本的にはグループでまとめて配属という形で すか、それとも、採用も個別の会社ごとでしょうか。 A03 基本的には各社ごとの採用という形になります。ただ、弊社グループでどうい う事業をやっていて、どのような会社があるかということを学生に知らしめる「グル ープ合同求人」を大体3月ぐらいまでは進めております。そして4月以降については 事業各社が選考活動を進めるという形をとっています。各社ごとの採用ですから、学 生もグループ内で4つ、5つの会社を併願して受験をするという形態になっています。  議論は様々あり、なるべくまとめてやった方がいいのではないかとかいうこともあ りますが、倫理憲章に対する合憲性などを考えていくと、基本的にはやはり採用する のは分社した各社ということが望ましく、原則的には各社ごとに条件を提示して求人 をしていくということを今現在は進めています。 Q04 現在の採用スケジュールは、いろいろ議論がありますが、3年生の途中から始 める場合が多いわけですが、その採用のスケジュールについてと、どのような選考プ ロセスで実際の方を絞られていくのかについてお伺いしたい。 A04 当社は、非常に学生からのお問い合わせは多い企業だと認識しております。現 在様々な企業でも主流となっていますが、基本的には求人用のホームページを設け、 学生がそこに登録をするスタイルをとっています。  昨年の実績で何らかの形で弊社グループの求人ホームページにアクセスいただいた 学生というのが、概ね全国の4年制大学生の大体4人に1人と聞いております。昨年 10万人ぐらいが仮のエントリーをされ、それから本エントリーの方が大体年間で約3 万人程度です。ただ、各社の面談にお越しいただく方というのは、全国あわせても 7,000〜8,000人がどうしても限界です。いろんな適性検査などで全く一度もお目にか かれずに縁が切れてしまう学生というのが非常に多く、やはりそこが我々としても非 常に悩ましいところであります。  今経団連で言われている10月からのものを12月にという、これも一つの取組方なの かなと思っていますが、会社のスタンスとしては、なるべく多くの人にお目にかかる 機会を設けたいということで、就職活動の期間が長期化することの弊害もあるのかも しれませんが、今後は面談の時期というのが、どうしても4月から6月に集中すると ころを6月以降の求人活動、あるいは海外留学されている方々も視野に入れた秋採用 なども含めながら、なるべくその学生と接点を持つ機会を増やしていくことの方が大 事なのかなと考えております。  また、インターネットでエントリーをさせるという形が、やはり学生が機械的に多 くの会社にエントリーをされ、それに振り回されて、本質的な企業研究などをする時 間というものが本当に無いのではないかなと思っています。お互いに、とにかく数撃 ちゃ当たるみたいなことで、実際に面談に来ていただいても私共の企業の中身すら殆 ど知らないような学生が来られたりします。全体の採用数そのものが絞られている焦 燥感に起因するのかもしれませんが、逆にこういうインターネット化、WEB化によ り学生が今までよりも飛躍的にエントリーできる企業の対象が増えたがゆえに、あま り自分にどういう業種、業界がふさわしいのかと研究しないままに面談に入ってくる ようなことは、日々面談等を行っていても感じるところであります。この辺をうまく 就職活動の時間軸と合わせて何か解決できると良いと感じます。 Q05 標準的なキャリアパスのようなものはありますか。例えば、入社後最初は必ず 支店の窓口業務につかせるとか、どこかで必ず1回添乗員を経験するとか、海外に1 回は必ず出すとか、15年か20年ぐらいすればほぼリーダーにするとか、階段をどうや って上がっていくのかとかそのようなものはございますか。 A05 大きく分けると入社から4年間は人財育成期間、5年目以降が能力発揮期間と いう位置づけをしております。そういう意味では入社4年までの人財育成期間は、な るべく幅広くいろんな仕事に携わってもらう。基本的には現場です。店舗営業、カウ ンター営業、渉外営業ということもあります。その中で当然、添乗などの業務も経験 してということです。5年目以降の部分については、人それぞれ専門性を追求してい く社員もいれば、在外も含めた経験をしてキャリアパスを積んでいく社員、その意味 では決まったキャリアパスというもの自体は持っていないのですが、本人の特性を見 ながら専門型人財でいくのか、様々な経験を経ながら基幹人財、幹部候補生として育 成していくのかということを各社ごとに見据えながら、実際にはキャリアパスを積ま せているという形が中心です。  大体、現在は概ね入社10年目ぐらいから課長、役職者への登用というものを始めて おります。少し前までは、大体15年ぐらいというふうに言われていたものを、かなり 前倒しで早い登用をする一方で、報酬もそうですけれども処遇も含めて相当差をつけ るような、かつては割と15年、20年ぐらいまではほぼ横並びぐらいで、そこからぐっ と差がつくという形なのが大体10年目ぐらいで、ある意味で言うと選別を始めている というのが、今実態になってきているのかと思っています。 Q06 分社化の前後でも、キャリアのつくり方はあまり変わらないということですか、 今は各社ごとなのか、それともグループ全体で行っているのかお伺いしたい。 A06 グループ全体では、労働組合との協定ももちろんあるのですが、4年間は人財 育成期間で、それからが能力発揮、そういう大きなベースのところはグループ本社で 仕切っていますが、後は原則としては各社任せにしています。各社の中でも事業特性、 地域特性にあわせた育成方法というものを現在模索研究をしています。 Q07 世の中でよく留学を希望する人が少ないとか言われますが、若い人の中であま り外国に出たくないという希望の変化のようなものとか、今入社して来られる方の中 で進取の気性に欠けるなど、そうしたことは人事で感じていらっしゃいますか。 A07 非常に感じます。特に、我々旅行業ですから、本当に10年前ぐらいまでは、ど ちらかというとデスクワークよりも、海外等に行きたいので弊社に入りたいという学 生が割りと多かったのですが、今は、地域交流ビジネスというものを前面に出してい るせいもあって、面接上のテクニックもあろうかと思いますが、海外志向を全面に出 す学生は少なくなりつつある気がします。九州の事業会社の面談などでは、もうほと んどの学生が判で押したように、「私は九州というところが大好きで、九州に骨を埋 めて九州のために頑張ります」とか、こういう話ばかりが出てくるわけです。弊社と しては先ほどご説明した通り、世界的に展開するためにグローバル人財候補も採用し ていかなければいけない。基本的には首都圏、九州といった事業会社に所属している 社員の中から、出向でパリに行かせたりアメリカに行かせたりしているので、もう若 い時期から九州に骨を埋めてという社員ばかりになってしまうと、これから事業展開 はどうなるのだろうと、非常に不安感を覚えておりまして、その意味では、あまり地 域なり事業各社だけに所属させるような意識をさせないような取組をしていかないと、 我々が欲しい人財像と、実際に応募される人財というものがマッチしていかないのか なと感じます。  内向的なものは入社以降も非常に感じるところがあって、特に社内公募で在外研修 とかというのを毎年グループ全体で募集しますが、これも年々応募者が減っています。 あまり冒険をしたがらないというか、大過なく過ごせばというふうな風潮が、特に新 入社員から入社5年目前後の社員に非常に感じます。新入社員にも感じるところです が、そういう傾向というのは弊社の若年社員にも結構感じるところではあります。 Q08 観光立国推進計画の話も出ていましたが、また去年、新成長戦略を政府がつく りまして、観光、健康、環境、アジアという4本柱で今後成長していくのだというふ うになっていますと、非常に期待が高いと思うのですが、国内だけではなく海外分も 含めてグループ全体の社員数を、今後増やそうとされているのか、それともそうでは ないのかというところをお伺いしたい。 A08 社員数に関しては、全般的に絞っていくということではなくて、既存事業から 成長事業に人財シフトをさせていく中で、どちらかというと成長事業に人的投下をし ていくよりは、既存事業の効率化の方が少しボリュームが大きいのかなということで、 必ずしも大幅に縮小させる、あるいは大幅に拡大させるということよりは、事業ごと のポートフォリオの見直しを図る中で、結果としてその積み上げとして現在の社員数 が漸減するイメージを持っています。  そういう意味では地域交流やグローバル事業のような分野については、比較的人的 資源も投下していきたいという考えを持っていますので、どちらかというと一番見直 しののりしろが大きいのが、やはり市中にある店頭営業、カウンター販売のところで す。市場のインターネットへのシフトや、重複店舗を中心とした店舗ネットワークの 見直しとか、そうしたところを考慮していくと、そこの部分の要員減が一番大きいの かなと、そんな認識を持っています。 Q09 若い方は採用時やその後も、グローバルな活躍をしたいという方が少なくなっ ているのではないかという話があったことと関連しますが、それ以外に、採用学生の 質の変化として感じられること、また、そうした採用学生の質の変化に対応していく ために行われている取組などがあればお伺いしたい。 A09 採用の部分で言うと、自分たちで言うのは口幅ったいのですが、この何年間か、 いわゆる大学生の就職人気ランキングでは大体1位から3位ぐらいということで、非 常に人気先行の企業で、学生も割とイメージ先行で応募されてくることが非常に多く、 いわゆる学生の質の変化は、先ほど申し上げた内向的とか、そうしたことに加えて、 特にこれは我々企業グループの特性なのかもしれませんが、どちらかというと応募を されてくる学生の気質として、基本的にはサービス業が好きとか、お客様の笑顔が私 の無上の喜びですとか、もちろんサービス業にとっては必須のことではあるんですが、 そういった傾向が多く見受けられます。。  こういうサービス業を目指す人というのは、割とイメージ先行で来る分だけ、どち らかというと、日本経済への貢献云々よりも自分のホスピタリティーを発揮出来るこ とに価値観を見出すような、我々は好感度人財と言っているのですが、そういう学生 層が比較的受けてくる傾向が強いと感じます。ただ今後は「観光立国」とか、あるい は「地域活性化」とか、これも一つの国策として日本経済に寄与していく、日本の魅 力を世界に発信していくなど、産業としての魅力を分かってくれる学生に来てもらい たいというのが、我々の今抱えている最大の課題です。  またダイバーシティを推進しつつも、どうしても女性の場合ですと、優秀であって も、ライフイベント等の影響で長期に渡り働くことへのハードルが高い社員も多数存 在します。そのような中で、企業の継続性という観点からは、男子学生も一定数継続 して採用する必要があるという認識をしています。その点では、よく最近草食系男子 とか言われますけれども、好感度人財ばかりになってしまうと、将来この会社は誰が 支えていくのだろうという不安を今抱えております。そこは学生の質の変化に対応し て、我々も「人が好きで、旅行が好きで」という学生へのアプローチだけでなくて、 産業としての魅力ややりがいをアピールしていかなければいけない。そういうことに 気概を持った観光立国を担っていくような人財層、そうした人に来ていただきたい。 そんなところのミスマッチをどう解消していくのか、この辺は私どもが今課題として 捉えているところです。  事業構造を転換していく中で、我々としても欲しい人財層というのが間違いなく変 わってきている、変化してきているということです。その辺の課題を踏まえ、各社ご とに採用していく形がいいのか、グループ全体で採用していくのがいいのかという議 論を現在進めているところであります。 Q10 学生の気質が変化している中で、採用された方たちが成長していくときに、具 体的に接する上司、先輩方がどういうやり方や方向性で育成されたり指導されたりし ているのかお伺いしたい。また例えば、業務の知識、技能を身につけていく中で、う まくいっている時期もあれば、うまくいかなくなってしまうような時期もあると思い ます。 そうしたものを乗り越えてそれぞれの社員の方が成長していくときに、研修制度は整 備されていると思いますが、それ以外で何かサポートするような仕組みがありました らお伺いしたい。 A10 人財育成という観点では、集合教育で入社時の研修、それから入社半年後のフォ ロー研修ということを行います。また、指導社員制度というものを設けていて、概ね 1年間、直近の2年から3年上の先輩がマンツーマンで、1人の新入社員に対して必 ず1人指導社員というものをつけるような仕組みになっています。いわゆる交換ノー トのようなものを設けて、その中での成長を振り返ったり、日々のOJTの指導など も含めてやらせるような仕組みというものは持っています。  後は、上司のフォローと、そうしたフォローアップ教育のようなところで同窓会的 に集まって、またいろんな悩みを解決したり、そういうことで入社時の人財育成とい うことは概ね構築をしています。新入社員そのものへの教育もさることながら、指導 社員に対する教育ということに今かなり注力をしております。人に教えることは、本 人にとっても一番勉強になるところでもありますし、やはりそこの育て方によって育 ち方が違ってくるところもありますので、どちらかというと指導される方よりも指導 する方への教育というものを今重視して行っているところです。  ただ課題としては、それぞれ分社化した会社に入社していますので、その会社が全 てになってきていますので、特にグループの他社が何をやっているかとか、グローバ ルな展開をやっているとか、新しい取組、グループとしてこういうことを行っている ということを学ぶ機会というものが欠けています。  次年度から全てのグループ会社の概ね大体4年目から5年目の社員を対称に、「キ ャリアデザインセミナー」という研修を新設する予定です。グループの事業展開に対 する理解促進と、入社5年目から10年目ぐらいの間に自分がどういうグループの中で のキャリアデザインというものを求めていくのか、目指していくのかということを考 える機会を設け、グループの一員という意識付けと共に、ちょうど10年、大体早い社 員で役職登用が始まる時期までに、自らどういう自己研さんを積んで自己啓発をし、 どういう仕事・分野で能力発揮をしていくのか、こういうことを考えるような場を新 たに設けて、グループ横断型で人財育成ということを図っていきたいと考えておりま す。 Q11 指導員の育成が課題になっているということでしたが、指導員の育成の際に、 具体的にはどのような取組をされているのでしょうか。 A11 いろんなアプローチがあると思っていますが、コーチングとか、あるいは割と メンター制度に近いようなメニューを取り入れながら、どれだけ聞いてあげるかとか、 コーチングスキルのようなところと、その教える側もちょうど入社3年目、4年目ぐ らいで、どちらかというと自らが一番悩んでいる時期でもありますので、その子たち 自身に対する上長のケアをあわせてやるという、そんなことを中心に取り組んでいま す。 Q12 グローバル型社員、リージョナル型社員、ローカル型社員の各々どういうところ に違いがあって、どれくらいの社員の方が配分されているかというところをお伺いし たい。 A12 グローバル型と言われる社員は、実質的には分社化前に入社した社員というこ とで、実際には今まだ大体半数近くの社員が対象になるのですが、基本的には全国ど この会社にも出向しますし、全世界どこでも赴任しますというカテゴリーの社員が全 国で約4,000名〜5,000名程度です。  ちなみに社員2万7,000名の中で、実質的に国内で働いている社員というのは大体 1万5,000名程度です。そのうちの4,000名から5,000名ぐらいが、いわゆるグローバ ル型社員です。契約スタッフ、有期契約スタッフなども約6,000人強おります。それ 以外がいわゆる地域型の社員という、概ねそんな構成になっています。  いわゆる出向の有・無ということと、居住登録地というのを持っているのですが居 住登録地からの転居を伴う転勤ができる・できない、大きく2つでしばっています。 基本的には転居・転勤なしで、かつ、出向もなしということになると、完全にローカ ル型のスタッフということに結果的にはなりますが、その中でも出向なしで転居・転 勤ありという社員、転居・転勤はできないが出向はできる社員等、それをもってリー ジョナルという言い方がふさわしいのかどうか分かりませんが、そうしたカテゴリー で社員を分けながら現在やっています。  将来的なあるべきバランスというものも一応持ちつつ、そこの部分のバランスをど うとりながら進めていくのか。少なくとも地域によっては有期契約スタッフの比率を 高めようとしている企業もありますし、逆に正社員化を進めようとしている企業もあ ります。これは本当に事業特性によって各社ごとの判断でいろんな色が出てきている。 それを現在、グループ本社として方向性という政策自体は打ち出していないのですが、 一方で各社任せだけではバランスの不整合が出てくる場面もあり、あるべき水準とい うものは現在研究しながら進めています。 Q13 ローカルの場合、有期の方から正社員というのは、どのくらいの登用、機会が あるのか。また、実際に有期から正社員の希望が多いのかどうかお伺いしたい。 A13 かなり機会自体は多く設けておりますので、毎年、会社の規模にもよりますが、 全国で大体有期契約スタッフから正社員になる人というのは、全国の会社全体を合わ せると毎年100名以上は正社員化が図られております。ただ一方で、ダイバーシティ という話に関連して、あえて自分は有期契約スタッフがいいんだという方も中にはい て、極めて優秀なのですが、あんまりしばられたくないとか、責任を持ちたくないと か、自分は特定の分野で能力発揮がしたいんだということで、あえて正社員登用の試 験を受けないという社員も意外と多いです。これは弊社グループの特徴かもしれない ですが、正社員になると責任が重たくなるとか結構残業が多くなるとか、そういう理 由で正社員を拒むような人も少なからずいるという気がします。 Q14 グループ全体の教育研修で250コースもあるということでしたが、例えばマネジ メント系と旅行実務系があるという話がありましたが、どのようなものがあるのか。 研修の中身もありますが、それぞれの重さ、期間がどれくらいなのか、OFF-JT で完全に職場からはずしてしまう形でやっておられるのか。そうしますと、職務の実 行との関係でいろいろ課題も出てくると思いますが、その辺りのところをお伺いした い。また、講師はどうされているのか、社内の方、あるいは人事部門の中に講師やコ ーチングができるような方がいるのかお伺いしたい。 A14 いわゆる基礎教育と称しているものが新入社員教育から始まり、旅行実務、新 入社員のフォロー研修、社員の数年経った中でのフォローアップ研修のような基礎教 育系。完全な旅行実務のどちらかというと旅行の予約専用端末のたたき方から、ある いは接客スキル、渉外営業に必要な情報知識、国内地理、海外地理などの実務教育系 のカテゴリー。それから、課長登用前のプレマネージャー研修というものがスタート になりますけれども、いわゆるマネジメント系教育の体系。この大きく3つの体系を 持ってそれぞれを進めています。  基本的には全ていわゆるOFF−JTを中心として、集合教育の形としております。 比較的現場を離れて教育を受ける機会というものが、マネジメント系であったり、あ るいは実務系であったりというのはありますが、何がしかの形で毎年、全社員、年に 1回は研修施設に行っているかなという感じになっています。  それぞれの講習でも、長いものは新規事業開発のプログラムで延べ30日程度で行う 研修もあり、短いものでは日帰りの半日の研修まで様々ですが、組み合わせながら現 在も進めているというところです。  講師については、いわゆる旅行実務系はどうしても外部にノウハウがないというこ とで、基本的にはグループ内の社員で賄っているのがほとんどです。ただし、旅行実 務のことは比較的分かるのですが、本当のマネジメント系などは、かなり専門性も必 要になりますので、人事企画部主導で外部の機関を使った講習というものを今相当増 やしております。  やはり専門教育、経営者育成のようなところになると、残念ながらグループ内にノ ウハウがない分野が多くなりますので、いろんな専門機関と提携をして外部講師で運 営して、ゆくゆくはそのノウハウを内製化できるような取組をしていきたいとは思っ ていますが、なかなかハードルが高いとは感じております。 Q15 人材育成の運用面で、多数の研修メニューの提供があったときに、従業員は主 体的に選べるのでしょうか。あるいは、何らかの形で受講命令のようなものをして、 会社サイドとしてこういうふうに育っていってというようなメッセージを込めるのか。 たくさんのコースを提示しているということでしたが、それはうまく選んで自分で組 み立てて、自分で育っていけるというような形になっていくのでしょうか。運用面で どういう課題があるのかお伺いしたい。 A15 基本的には、これはどちらかというと表裏一体だと思っていますが、目標管理 制度の中で本人と上長が必ず年間目標というものを立てて、あとは自己申告というの を年に1回、自分は将来こういうことをやりたいんだ、こういうことを学びたいんだ ということをシートに記入をして、そして上長と面談の上に人事が全部集約をする。 それから、本人が臨時手当を含めた評価につながる目標シートというものを年に1回 記載をして、それの進捗チェックということを四半期ごとにやる。こういう仕組みが 基本的には確立されていますので、必ず、その1年間の目標の中で、今年度はどうい う研修を受けるのか、あるいはどういう資格取得にチャレンジをするのかということ を目標に立てることにしています。その中で上司と本人が、今年はこの教育を受けま しょういうことの確認をし、それに基づいて上長が集約してそういう教育研修の申し 込みをしていく。これを基本としています。  その中で会社としても、この年次にはこの教育は必須で必ず全員受講としているも の、本人の希望に基づいて公募制でやるもの、それから会社のほうが指名制で行うも のと、この3段階に分けてやっております。そうしたことを鑑みながら上長が本人の 育成度合いをみながら、この年次になったからそろそろ課長登用前のプレマネージャ ー研修を受けてほしいとか、実務上、この分野が弱いので今年は必ず基礎をもう一回 行くようにとか、そうした目標設定をして受けたか受けないかという本人チェックと 上長チェック、そうしたことの中で計画的に人財育成、教育の機会が比較的均等に、 かつ本人の足らざるものを補うようなことで運営できるような、そういう仕組みで現 在運営を行っております。 Q16 研修は目標管理とか職場の上長との話合いの中でどういう受講をするかという ことが決まる部分が大きそうな感じがいたします。結局グループ全体としてどう人を 育てていくかということと、やや各社ごとで目線が落ちがちだということで課題にな っておられるというようなところが、重なっているのか重なっていないのか。その辺 りで人材育成面の課題がどの辺にあるのか、どのようになっているのかということを お伺いしたい。 A16 まさにこれはグループガバナンスの本質の問題というふうにとらえております けれども、人事権の話にも非常に近いのですが、グループ本社が主導権を持ってやる べき領域と、各社が主体的に主導権を持ってやる領域の線引きがどこなのかというこ とが本質の議論として、特に分社化経営を行っていると、そこはやはり様々な分野で 非常にいろんな課題が出てきている。人財育成に関しても同様で、各社なりの事業に 適した社員を育成しようとするので、そういう意味ではPDCAのサイクル自体は、 箇所内での完結型では比較的うまく回転はしていると思いますが、それがグループ全 体の視点であったり、全体最適のような視点になっているかというと、そういうドラ イブは効いていない状態になってきています。ですから、あくまでも現在のグループ 本社というのは、全体方針、育成方針というものだけを出して、あとの実際は各社ご とにお任せという形になっていますので、2万7,000名全員を対象としてグループ本 社がハンドリングをすることは現実的ではありませんので、ある一定の領域だけはグ ループ共通のテーマとしてグループ横断型でやっていこうということで、今現在改善 を図っています。すなわち、グループ本社がやるべき人財育成の領域というのは、将 来に向けた経営人財の育成ということです。あとは専門型人財の育成、特に財務系で あったり、特にIT系であったり、そういう専門人財をどう育てていくか、あるいは 将来のグループ経営を担う人財を各社から選抜をして教育育成を図っていくかと、そ の2点の領域に絞って現在取組を進めているところです。  ちょうど次年度からスタートさせるのですけれども、経営人財育成プログラムとい うものを各社横断型に展開をしていく予定にしていますが、これは各社から将来の各 社の経営を担ってほしいという候補者を人選し、大体概ね8年から10年程度とかなり 長いスパンで教育を進めていく、座学の研修と課題を課して通信教育を課したり、資 格の取得を課したりします。今までは行っていなかった人財、人事運用も連動させる 形で、まさにキャリアパスを連動させながら、幅広い経験を経ながら、将来的に様々 な経験を経て将来各社の経営層に入っていくような人財を育てていくというプログラ ムをグループ横断で進めることにしています。  弊社グループでは、今まで選抜的にやる研修というのはあまり実際には行っていま せんでしたが、どうしてもやる必要があるだろうということで、これから一歩踏み込 んで進めるようにしております。そういう中で、どうしても個社完結になりがちなと ころに、少し風穴をあけて進めていけたらなと、今そんなことで取組を図っていると ころです。 Q17 グループガバナンスという意味で言うと、人事との関わりを持ちながら一定の 選抜ということも考えていかざるを得ない、グループ会社としてのガバナンスをどう やって再構築して立派に人を育てていくかということだと思うのですが、そうした動 きの中にメンター、キャリア相談室、社内公募制度等はどのように位置づけられるの かお伺いしたい。 A17 これは当社だけの話かもしれませんけれども、やはり過去からの歴史と現在ま での経年変化の中で、そういう意味では割と企業風土として平等主義というのが非常 に強くて、選抜などには非常にアレルギーの強い企業風土を持っていまして、今まで も何となく緩やかな中で、何となく何でこの人が経営者になるのだろうとか、どちら かというと営業で成果を上げた人が経営者になっていくという、非常に変な形ですが、 当社の大きな支店の支店長の方が、いわゆる子会社の役員よりも偉いという風潮があ って、今まではどちらかというと、親会社、子会社時代の感覚がそのまま残って、ど ちらかというと大きな当社の本体でお役御免となった人が子会社に天下り的に行くよ うな感覚、行く本人もそんな感覚、会社自体もそんな感覚という古い体質が結構ずっ と根強く残っていました。  それをグループガバナンスを変えることにより、あとは当然企業として社会的責任 を果たす部分など、コンプライアンスやCSRも強く要請される環境になってきた中 で、そういう人事運営は難しいということで、本当にその経営ということに資する人 財をつくっていかなくてはいけない。そうした危機感がグループ全体に今芽生え始め てきていて、やはり早いうちからそういう能力を持った人間を計画的に育てていく必 要があるということで、選抜のようなことをやっと始めるという、今、時間軸として そんな状況です。ですから、他の企業に比べると相当取組が遅いだろうという自覚を 持っております。  ただ、その中でご質問のメンターとかキャリア相談のようなことをどう捉えていく のかというと、まだまだ平等主義、よく言えば下克上みたいなチャンスは誰にでもあ るということを割と文化として培ってきましたので、今後早いうちからの選抜、選別 のようなことが出てくると、個々人のモチベーションみたいなことにどう影響してく るのかというのは、我々も今非常に懸念としては持っています。ですから選抜教育を していくのですが、途中リタイヤもありますけれども、途中入学もありみたいなとこ ろを設けて、その選抜したメンバーに施していく教育体系と全く同じ教育体系を、全 国の公募型で全く同じものをやっていこうということで取り組んでいきます。やる気 があって手を挙げたら同じような教育はしますと、そうした選抜候補の中に途中編入 もできるようにしていく予定です。  ダイバーシティの推進という中で、多様性の尊重ということで様々なキャリアデザ インというものを支援していくような取組を図っていかねばなりません。しかし残念 ながら、今は私共では、そういうキャリア相談みたいな窓口というのは厳密には持っ てなく、能動的に自分がこれからどのような会社の中での働き方をしていこうかとい う相談に積極的に対応できるような窓口自体の構築が、次なる課題として捉えており ます。これもまさにグループ本社が持つべきものか、各社が持つべきものかという議 論もある中で、いずれにしてもそういった窓口的なものは必要だということで構築を 図っていこうと今検討しているところです。 Q18 就職人気企業ですので、世の中の時代の流れの中で若い人の気質というのをか なり長期にわたりみておられる側面から、世代的にこういうふうに変わってきたので はないかという話をお聞きできればと思います。あるいは会社の人材育成の中だけで は解決できない社会的な課題、それは家庭の問題があったり、学校の問題があったり 少しその辺の問題意識をお伺いしたい。 A18 私も人事的な業務についたり現場にいたり、行ったり来たりなんですけれども、 10年前ぐらいからずっとみておりますが、確かに明らかに学生の気質は、社会全体が 変化しているものと、先ほど申し上げたような私どもの会社に来る人の層の2つの違 いというものを感じます。よく肉食系、草食系と言いますが、少し前までは、これは 当社グループの傾向として、20年前ぐらいは、どちらかというと割とアウトロー的な 学生が比較的多く来る、とにかくデスクワークが大嫌いでこの会社に入ってくるとか、 何となく面白そうだからとか、そうしたことで入ってくるような、割とそういう気質 が多くて、比較的そういう時代は肉食っぽい人種が多かったのかと思います。  ちょうどバブルを経たぐらいから、今もそうですが当社は圧倒的に女性が優秀です。 男性に比較すると女性は極めて優秀な層が来るというのが傾向で、どちらかというと 男性は草食系、女性は肉食系みたいなところがあったのですが、この1〜2年は男女 とも草食系になっているのかなという印象は受けます。やはり就職戦線が厳しいから かもしれないですが、非常に大人しくまとめる。ですから昔面談をやると、10点満点 で10点もいれば1点もいるという感じだったのが、あるいは見方によっても、大体複 数で面接をやりますので、片方が9をつけていて片方が2とか、そういう賛否両論い ろいろありそうだなという人が10年前ぐらいは多かったですが、最近は9もつかない けれども2も1もつかないという、割とどちらかというと4から6の中に全部が納ま ってしまうという傾向は感じます。  ですから、本音がみえてこないというところを感じます。それが、面接で取り繕っ ているだけなのかなと思うと、新入社員で入社してきて現場で預かっても、何考えて いるか分からない。やはり6点とか7点ぐらいの子なんです。すごい10のものを持っ ていて、でも3のよくないところ、2があるとかというタイプではなくて、全てにお いてすごく小さく、盆栽のようにまとまっているとよく言うのですが、小ぎれいで滅 多に失敗もしないけれども、大きな成功もしないという、そういうたぐいの人が多い のが割と最近の傾向ではないのかと。  世代的、社会的な課題というのは、先ほど申し上げたとおり企業が悪いのですが、 あまりにもインターネットに頼った求人活動をやり過ぎるのでお互いの顔が見えない。 企業も学生の顔が見えないし、学生も企業の顔が見えないのではないのかということ は感じます。何か是正する方向としては、もう少しリアルコミュニケーションを大事 にして、学生も業種をきちんと絞って勉強して、自分にふさわしいところを見出す。 あまりにも情報が氾濫し過ぎているから学生も悩むし、企業も悩むのかなとそんな気 はします。 Q19 厚生労働省として新卒の採用について、既卒者3年以内の方は新卒者と同じよ うに扱ってくださいということをお願いし始めたんですが、背景には、経済変動によ って毎年募集人数が大きく変動や景気の動向により採用数が変わりますので、その意 味での世代間の不公平をならすという意味合いと、もう少しじっくり企業のことにつ いて考える時間を与えた方がいいのではないかということ、さらには留学する人もそ うした就職活動の関係で減っている、学生の時代には行っていた方がいいようなボラ ンティア活動等いろんな体験が減っているのではないかということもあり、もう少し 幅広く募集対象者を広げてくださいというふうに言っているのですが、その辺の既卒 者の扱いをどうされているのかというのが1つ。もう一つは、中途採用を行っている のかどうか。もし行っているのであれば、どうような分野でどういう経験なり資格を 持った方を採用されているのかお伺いしたい。 A19 新卒採用における対象の拡大というところについては、広く人財を求める観点 からは個人的には賛成で、4年制を出たすぐの人だけが対象ということではなく、グ ローバル人財を求める上での留学生や海外からの留学生の方も含めた採用を検討して いかなければいけないと思っていますので、それを紋切り型で、もう4月から6月で 全部完結してしまうということだけでは、本質的にいい人財をとれないのではないか という懸念も持っています。枠が拡大すること自体は、実務をやる担当者は大変にな るのですが、本質的には私どもとしては、前向きに対応していくべきものというふう には捉えております。  特に、求人時期を春限定にしないで、秋採用のようなことを、あるいは、学生にと っても夏休み期間中をどれだけ有効に活用できるのか、企業研究ですとか、そういう ところの時間軸等をうまくバランスをしていくところ、その辺がうまくいくのであれ ば、割と幅を広く対応したいなというふうに考えています。  そうはいっても企業同士の競争の世界もあるわけですので、そういう意味では足並 みがそろった方がよいのだとは思っています。けれども、産業競争力という観点で旅 行業界は割とどちらかというと弱い立場にあるものですから、一緒に足並みそろえて も、金融、銀行、商社に行く人というのは、やはり行くだろうなということで割り切 って考えれば、独自に長いスパンで考えてもいいのではないかという話はよくするの ですが、そこの部分については割と積極的に捉えていきたいなと。もう少し枠を広げ て、もっとチャンスを与えていくみたいなことは必要ではないかと、そんなふうに考 えております。  中途採用に関しては、かつてはかなり行っていまして、今現在も一定程度行ってお ります。どういう基準かというと、その時々の事業、伸ばすべき事業で、かつ我々の 企業内、グループ内にノウハウのない分野のある意味でいうとスペシャリストという 基準で採用するケースが多いです。割とそういう意味では、スポットスポットで採用 しておりますので、どちらかというと今は中途入社対象で大々的に募集をかけてとい うやり方自体はしておりません。 Q20 優秀な女性の社員が多いということですが、一方で、例えば子育てなどで一度 フルタイムで働くような勤務を離れて、短時間勤務にするとか、地域を限定した形で 仕事のやり方を変えたりした後に、また子供が大きくなったので通常の勤務に戻るか という選択を迫られた時に、なかなか元の勤務に戻りにくいような方もおられると思 うのですが、女性の活用というところでそうした長期的なライフプランなども前提に した上で、うまくいっていること、あるいは課題として抱えていることなどがあれば お伺いしたい。 A20 一口に女性活用と言いながらも、その事業特性によって難易度が非常に違いま す。例えて言うならば、大体1つのビルに社員が300名、400名いるようなオフィスで すと、休職あるいは産休・育休の時期をとっても比較的早く復帰ができる。すなわち 本人の問題と、送り出す側の職場の問題と両面があり、本人の問題はもちろん待機児 童の問題などがありタイミングがなかなか難しい。保育所が探せないと復帰しづらい などの課題等はありますが、それ以外に送り出す側の職場の方が、やはり人が1人抜 けると、何とか周りでフォローして耐えて、その人の復帰を待つということができ得 る職場と、1人抜けたら仕事が回らないので後任者を入れざるを得ない、こうした職 場だとなかなか同じ条件でその方が復帰するということが難しいなど、その事業特性 あるいは事業所の特性でもその辺の対応というのは非常に大きく変わります。  特に私どもショッピングセンターに旅行カウンターを展開していく会社があって、 基本的には年末年始も含めて365日営業で、大体朝10時から夜8時ぐらいまで営業し ているという非常に長時間営業のところで、なおかつ1つのお店に大体4名から5名 しか社員がいない。ここは実際に全従業員の約8割が女性という会社です。  こうしたところでのダイバーシティなり、産休・育休だとか、女性活用のありよう と、どちらかというと男性中心で女性が内勤型で中心にやっている会社、これによっ ても取組というのは今非常に違う。そこの部分をグループトータルでダイバーシティ 推進ということを取り組んでいますが、会社によって取組方というのは全く異なるの で、個社ごとのありようを見出しながら対応していく、そんなことに今取り組んでい るところで、悩みといえば多種多様だというところです。  ただ、どうしても比較的昔からそういう女性が中心の会社がゆえに、本当に昭和30 年代ぐらいから産休・育休みたいなことを取り組んでいたり、そうした復職制度、フ ルタイムで復帰できなくてもパートタイム的にノウハウを生かしてできるリエントリ ー制、スタッフ制度、そうした仕組み自体は歴史の中で随分持っているので、それを どのように上手くこの時代なり事業にあわせて活用していくのかというところが今後 の課題なのかなというふうに感じています。 Q21 昔から女性の方が活躍されているということで、先輩の女性の方が苦労されて きたこと、あるいは生活の環境なども整ってうまくいった例などあると思いますが、 先輩の方々がいろいろ活躍されたことの経験が順番に若い人に引き継がれているとか、 例など何かありますでしょうか。 A21 これも世代間ということになると思いますが、ちょうど今の40代ぐらいの女性 がお店でいうところの店長ですとか、主要なポジションを担うようになってきていま すが、ここの世代は比較的そういう先輩方から薫陶を受けて育っている最後の世代で す。  一方で、現在の30代以降の子たちというのは、逆にそういうものに対して、今の40 代の店長とかが、どちらかというと自分の仕事を優先して自分のプライベートを犠牲 にしてというふうに思っている節が結構強くて、あまり世代ごとのよい継承というこ とよりは、割とアンチテーゼになっていて、だから課長になりたくないんだとか、少 しそうした傾向で世代間の意識のずれみたいなことが今生じているのかなというとこ ろです。また、その30代と20代ともまた考え方が全然違ったりという感じがあって、 なかなかスムーズな世代間継承というのは難しいというのは今感じています。 <照会先> 政策統括官付労働政策担当参事官室産業動向係 03-5253-1111(内線7724) −1−