第4回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日 時 平成22年2月10日(水) 10:00〜12:00 場 所 中央合同庁舎5号館17階 厚生労働省専用第21会議室 内 容 雇用機会の創造に向けた取組と今後の課題について 参加団体:多摩信用金庫価値創造事業部、八王子市産業振興部、 東和プリント工業株式会社 ○多摩信用金庫価値創造事業部 ・企業の概要について  まず、多摩地域のご説明を少しさせていただきたいと思います。我々は都下だとは 思っていませんが、東京都下と言われることがあります。多摩地域は26市3町1村がござ いまして、7つの商工会議所と21の商工会がございます。  私ども、この地域を県の一つ、「多摩県」のような形でとらえております。多摩地域 を47都道府県と比べた場合にどこに入るかという数字をランキングにしておりまして、 人口ですと400万人。速報値ですと410万人を超えておりますので、10位に入りまして、 静岡県よりも少し多い数字になっております。事業所も13万事業所ぐらいあります。そ れから、工場の数は23位ぐらいと余り多くありませんが、NPO法人の認証数が8位、 大学の数が4位ということで、多摩地域は大学が多いこと、コミュニティビジネスの活 動をNPOでしている方々が多いことが特徴であると認識をしております。  それから、たましんについてですが、地域金融機関でございます。地方銀行、第二地 銀、信用金庫、信用組合については、地域金融機関と呼んでおります。もう一つ、普通 の生活をされている個人の方にはなじみが少ないところかもしれませんが、信用金庫、 信用組合、労働金庫、JAバンクという協同組織金融機関というあり方がございます。  そんな中で信用金庫に望まれている機能というのは、我々の理解ですが、金融機能と、 もう一つが地域のコンサルティング機能であると思っております。社中であまりコンサ ルティングという言葉を使いませんが、外部の方にお話をするときにはコンサルという 言葉が一番分かりやすいかなということでお話をさせていただいております。我々はこ の機能をこなしていくために、課題解決活動を実践していこうということがテーマにな っており、信用金庫の中においても、そこに特化してビジネスモデルを見出そうとして いる金融機関という理解をしていただければいいと思っています。  それでは、信用金庫という組織をどのぐらい理解されているかということで、「株式 会社三菱東京UFJ銀行」と「株式会社多摩信用金庫」、どこが間違っているかを質問 させていただきます。答えは多摩信用金庫には「株式会社」がつかないというのが正解 になります。協同組織金融機関ですので、「信用金庫」というところが「株式会社」の かわりになっています。例えば、株式会社の会社名から「株式会社」を取ると会社名に なりますが、私どもの会社から「信用金庫」を取りますと「多摩」という会社名になり ますので、多摩地域と一緒にやっていかなくてはならない宿命がある金融機関というこ とかもしれません。株式会社型の金融機関とは少し立場が違うと理解してください。  地方銀行、信用金庫、第二地銀、信用組合と規模別に並べることにあまり意味はあり ませんが、規模別に比較しますと、規模は信用金庫の中では一番大きいほうに入ります が、地方銀行、第二地銀と比べてみると、地方銀行の中間ぐらいの規模になっております。  たましんについてですが、立川に本店がありまして、店舗は78店舗、店外ATMが55、 職員数が2,100名を超えました。それから総預金量が2兆円で貸し出しが1兆円というこ とで、預貸率が50%を切るという状況になっておりまして、貸し出しがなかなか伸びな いという状況と、預金が思ったより自然に集まっているという状況が進んでいます。  組織といたしましては、私どもは価値創造事業部という部署に所属しておりまして、 約2,000人の職員がいますけれども、そのうちの137名がこの部署にいます。通常の融資 業務であるとか預金業務とか営業店のような対応をしていない職員がそれだけいること になっております。それが、これからお話しさせていただきます課題解決活動の裏方を していると見ていただければと思います。  少し古い資料になりますが、平成19年に東京商工会議所で出された中小企業のニーズ というものがございます。リーマンショック以前の話ですが、我々も中小企業を回って いて、同じ感触を持っていました。つまり、お金を貸そうと思って回っているわけです が、そうすると社長から話が出てくるのは、人が採れなくて困っているという話が一番 多く、大手の会社にみんな採られてしまい、地元の中小企業にいい人材が来なくて困っ ているという話ばかりでした。次が販路拡大、研究開発、後継者問題など、想像がつく ような話がある中で、金融の話がなかなか出にくい状況にありましたので、例えば、設 備投資があるという話の後ろに金融の話があるので、金融の仕事は付随業務として、そ れよりもお客さまの財務の内容、あるいは事業の内容を見直させていただいて、一緒に 課題を解決していく活動をさせていただいております。  中期経営計画書をみてみますと、個人のため、企業のため、地域のためというように 分けておりまして、基礎自治体がつくっているような事業計画書に近いものになり始め ており、お話ししたような課題解決型の方針は、結果的にこのような形になると思って おります。  たましんの理念ですが、「たましんは、お客さまの幸せを創造する企業 たましんの 仕事はお客さまの幸せづくり」という、随分大きなテーマを掲げています。  たましんの店舗ですが、平成18年に八王子信用金庫、太平信用金庫、多摩中央信用金 庫が合併をした関係がありまして78店舗になっております。三鷹、狛江、調布、西東京 というのが23区との境目になりますけれども、そこから西に店舗があるということと、 多摩地域、JRを中心としながら西武線と京王線に囲まれた地域に店舗が広がっていま す。それから、店外ATM機も55機出しておりますので、この地域に住んでいる方には 一番便利な金融機関になっていると思っております。  帝国データさんの資料で、多摩地域の企業のメインバンクを調査した結果についてみ てみますと、たましんが一番多い結果となっておりました。先日新聞に載って、我々も 驚いたのですが、外部の数字を見て自分たちの姿が分かったということでございます。   ・地域活性化と雇用機会づくりについて  それから、雇用の機会ということで、幾つかの事例をお話しさせていただきます。  まず1つがブルームセンターになります。地域で子供を増やしていくことと同じで、 創業者を増やしていかなければいけないということで、ブルームセンターをつくりまし た。京王八王子支店の7階に、3畳ぐらいの部屋を十数室つくりまして、そこで創業者 の支援をさせていただいております。4階と7階がこのようなフロアになっていまして、 7階のほうがインキュベーションになっています。4階のほうは、皆さんが会議や商談 をするスペースになっております。このような施設は他にもございますが、この施設の 一番の特徴は、後で八王子市さんのほうから話が出ると思いますが、サイバーシルクロ ード八王子という地域の産業支援組織がございます。市役所がつくった組織の事務局を 置いているところがポイントになっておりまして、市役所、商工会議所、金融機関と連 動しながら地域の創業支援を行っている施設になっております。  それから、昨年の4月20日に、Win Centerという施設を立川にオープンを しました。簡単に言いますと貸会議室になっております。この目的は2つありまして、 1つ大きな目的は、行政機関の補助金等の説明会をする場合に、関東ブロックというこ とで、大宮のほうで開催されることや、東京都ということでは、秋葉原などで開催しま すので、立川とか八王子の企業の方はなかなかそこまで行かないものですから、立川に このような施設をつくりました。無償でやらせていただいて、なおかつ国や都の施策の 説明などがあるときには優先して貸し出すようにしました。そのおかげで、補助金の説 明会などを開催していただいています。地元の中小企業さんたちに、より近いところで 説明会などに参加していただくために、つくらせていただいた施設でございます。  1か月前でないと予約できないなどというルールがありませんので、有効なセミナー をどんどん入れていただくようにしています。また、懇親会もできるようにさせていた だいておりまして、地域連携のために、地元のNPOがつくっているオードブルなどを 出させていただいております。  また、多摩地域だけではありませんが、国や東京都がつくっているもの、民間ででき 上がってきたものなど、様々な中小企業支援団体がございますけれども、複数の重複す るような支援活動を行っておりますので、これをワンストップでできるところをつくっ ていこうという場所でもあります。  それから、地域力連携拠点事業の機関として、経済産業省から補助金を委託されまし た。委託先として、327機関の中の金融機関の中の一つとして補助金をいただき、中小 企業の支援を行っております。中小企業診断士、ITコーディネーター、税理士ですと か、専門の方々を派遣しております。今年度は、300件ほど派遣して、相談件数だけで 2,000件ほど上がっております。だいぶ形がついてきたと思いますが、78店舗あります ので、1店舗が10個出してきても780件ということになり、1年間の数としては少ない と認識をしておりますので、3倍から5倍にできるのではないかと思っているところで ございます。  また、TAMA NEXTリーダープログラム2009という、20代、30代の人限定で後継者塾を 開催するというものを、地元の一橋大学さんと一緒にやらせていただきました。今、28 名が受講しておりますが、20名募集したところ40名ほどの申し込みがありました。今年 は意外といい感じで進んでおりますので、来年は2回、やろうと思っております。例え ば、広告業界に勤めていた女性の方が親の後継ぎで経営者になったけれども、経営のメ リット、デメリットが全然分かっていないので、それを教えてほしいという話があった のですが、その受け皿がなかなか地元にないので、これから地元でこういうものをつく っていかなければならないというニーズをすごく感じたところでございます。  また、地元の商店街振興の調査をしたいけれども、コンサルティング会社のように調 査しただけで終わってしまうのではなく、継続的に地域のことを考えて調査をしてほし いという市からの依頼がありましたので、文献調査ですとか、商業アンケート調査、道 路通行量調査のような、コンサルティング会社がやるような調査に協力させていただき ました。  例えば、自転車の人は何人とか、おじいちゃんが何人通ったとかをカチカチと勘定す る調査ですが、このような調査の仕事は地元の方を雇用して行うことにして、青梅のハ ローワークさんにお願いして紹介していただきました。基本的に裏方として協力させて いただいていますので、調査を外注したお金はほとんど地元の雇用対策に回ったという いい例ではないかと思っております。この調査がうまくいきましたので、ほかの市から も依頼がきておりまして、すごく短期的な話ですが、一つの雇用対策にはなっているよ うに思っています。  それから、明星大学さんと産学連携を行っております。明星大学さんは、多摩地域に 72校ある大学の1つですけれども、多摩地域の社長さんの出身校を調べましたら、明星 大学の方が一番多いことが分かりました。またそのご子息もこの大学に入っていること が多い中で、地元の就職率が非常に高い明星大学さんと協力協定を締結しています。う ちの人事部が就職のための説明、面接の受け方などの説明をしております。それから、 学生さんたちに中小企業のホームページをつくってもらっています。  また、年に2回の学内の合同企業セミナーを行っております。大学では、合同企業説 明会を年に6回ぐらい行っていますが、その2本は地元の中小企業とやりたいというこ とから行わせていただいております。4回は大手の企業さんたちに来ていただいていま すが、2回は我々が企業を集めにいきまして、その企業さんと面接会をしていただくや り方をとらせていただいております。2年前までは断るのに大変なほど企業さんが来ま したが、昨年1年間は事情が変わり、企業に説明するのが大変でした。  先日、多摩地域の大学の合同企業説明会を行いました。今年の就職率が20ポイントぐ らい悪いので、企業を紹介して欲しいという話が随分来ましたので、急遽大学に集まっ ていただいて、一緒に何かやろうということで、12月末に決めて1月25日に実施しました。 結果的に26大学が参加して、企業も20社以上が集まりましたので、面接会という形をさ せていただきました。いい結果が出ましたので、4年生向けにもう1回、3月にする話 をしていて、もしかしたら4月でも間に合うのではないかという話をしている状況です。 そのぐらい、一人でも4年生を就職させておかないと、この子たちがみんな地域に出て きてしまったらどうなるのかという危機感を持って開催したイベントでございます。  また、東京高専さんで匠塾という技術講座を開講させていただいています。高専さん がいろいろな施設に設備を持っていますので、その設備を活用しながら地元の企業さん のOBエンジニアの方々の匠の技を、地元のほかの企業の従業員の皆さんに勉強しても らうことをしております。これも評判がいい事業でございます。  コミュニティビジネスのことに少し触れさせていただきます。多摩地域は製造業の会 社が非常に多い地域と言われており、今は9,500社ほどありますが、毎年減っている状 況で、これから製造業だけで地域の産業が回っていくのか疑問をもっております。特に 介護ですとか、健康、それから福祉関係の企業で雇用を支える状況になっているのが、 多摩地域でも顕著になってきておりますので、コミュニティビジネスのような形で、余 りもうからなくてもいいけれども、地域の困り事を解決するようなビジネスがどんどん できはじめております。市町村ごとに少しそういう流れに拍車がけをしたいという思い がありまして、昨年1年間、小平市、三鷹市、西東京市などの6市の行政の担当や関係 団体、NPOさんにお声がけをさせていただいて進めた結果、6つの市が何らかの形で 動き始めているという現状がございます。  何をしようと思っているかといいますと、多摩には30の市町村がありまして、どんど ん隣の市、隣の市に波及していくわけです。例えば、行政の担当者、コミュニティビジ ネス、NPO、商工団体などの方々が、地域で何をしたらいいかという議論をして分か ってくるのが、子育て、福祉、介護、商店街振興、産業振興という課題が小平市でも起 きているし、福生市でも起きているし、調布市でも起きていることが分かってくるわけ です。これを、その一つ一つの市で解決するのではなく、隣近所で横串を刺して話し合 い、より効果的なビジネス展開、効果的な課題解決をしていくことが急務であるという 認識をしております。  また、今週の土曜日の1時から亜細亜大学をお借りして、多摩コミュニティ・ビジネ スシンポジウムがございます。各市で、子育てや介護など、いろいろなことをされてい る方がいらっしゃいますので、その方々が一堂に会しまして、年に1回、横串を刺すと いう会でございます。例えば、行政マンでいろいろなことをやられている安井さんとい う方、また、この荒川さんは酒屋さんで、浜松のほうで普通の酒屋さんがつくったポテ トチップスが飛ぶように売れるようになったので、ついでにラガーが売れるようになっ たという商売を考えられた方々です。このような小さなビジネスの中にもヒントがある ので、こういうヒントを地域の方にお知らせすることによって、次の展開をしていただ けないかということで、会合をする予定でございます。  最後に、当金庫のことをお話しさせていただきます。職員の人材育成をどのようにし ているかということですが、いろいろな研修制度があるうち、2つだけポイントとして 成果が上がっているものをお話しします。  2002年から法人渉外担当を設置いたしました。私も実は1期生の16人のうちの一人で すけれども、中堅企業の新規先が100先ピックアップされますので、当金庫と取引も何も ない企業を100社まず与えられまして、16人、19人、15人が1年かけて、その企業の課題 解決をするためにどうしたらいいかということを一生懸命考えながら、その企業と一緒 になって解決活動を行うということをしております。会社とすれば新規開拓ということ にはなりますけれども、裏方に人材育成ということが隠れておりまして、実は成果を問 うてはおりませんので、融資を幾ら取ってきたとか、そういうことを全然言っていない、 中堅の職員を100先回らせるという活動を1年間やっておりました。そして、この卒業生 がざっと足して200人ぐらいになっていまして、このメンバーが、今は支店長になってお ります。この活動がやっと9期目を迎え始めて、社内が理解をしてきたという状況にな っているところでございます。  もう一つ、この効果が一番高いのですが、東京高専さんと電通大さんに人材交流のた めに人を出しております。東京高専さんには五十代の職員を出しました。そして、2年 後に転籍し、東京高専さんで先生をしております。そのおかげで、我々のことが分かる 方が高専の中にいるという関係になり、それとともに、東京高専の話題、言葉がすごく よく分かるようになってきました。それから、電通大には、若手の職員が1人、1年間 行っておりまして、2年目に入るところでございます。また、経済産業省とも人材交流 をしております。中小企業基盤整備機構、それから信金中央金庫から人を預かるという ことで、人材交流ですね。官民交流みたいなものも含めて人材交流をしますと、人はと てもよく育つのだということを痛感しているところですので、ここも少し拡大していき たいと思っているところでございます。  最後に今後の課題ですが、地域から出て、富を生むような産業と、地域の産業を2本 に分ける必要があると思っています。外に出る産業の人材育成をすることが1つ、それ から地域の産業の人材育成をどのようにしていくかがポイントだと思っています。  また、これからの人材、特に若手の人たちをどう育てていくかということと、地域に とっては地域学のようなものをしっかり理解をさせていくことで、特に子供たちに理解 をさせていかないと、なかなか地域の理解というのは進まないという、今、壁にぶつか っているところでございます。 ○八王子市産業政策課 ・市の概要について  まず八王子についてご説明させていただきます。八王子といいますと都内というご認 識はいただいていると思いますが、東京の外れに位置しております。人口が55万人、例 えば鳥取県は60万人ぐらいですので、都道府県規模と同じぐらいの人口が基礎自治体な がらあり、しかもその人口はまだ伸びています。あと、面積は186キロ平米で、これは 東京都の市部で一番大きな面積となっています。  ここから産業構造等の統計的なデータを簡潔に述べさせていただきたいと思います。  まず、平成18年度の調査になりますが、事業所数が1,700社、これは多摩地域で1位 になっております。従業員数は2万8,572人、これも一番多いということになりますが、 この辺は人口も面積も多摩地域最大なので、ある程度想定ができる数字になるのですが、 注目していただきたいのが製造品出荷額と法人市民税です。製造品出荷額の5,109億円 で多摩地域3位、これはそれほど高い数字ではありません。事業所数、従業員数が市部 で一番多いのに、製造品出荷額は3位になっていまして、これは産業力がないと思われ るかもしれませんが、実は法人市民税では順位が逆転をいたしまして、100億円を越え ダントツ1位となっており、またその50%以上をものづくり企業で占めています。これ がどういうことかということですが、一般に、大手企業がたくさんある地域の製造品出 荷額は多い傾向にあります。一方で八王子にも大企業は多くありますが、実はその大企 業の研究開発部門が非常に多く、製品そのものはそれほど製造されておりません。製造 品出荷額は、その地域で製品が多く製造されれば数字は大きくなるものですが、八王子 は製品製造が少ないために、製造品出荷額はそれほど高くなりません。一方、法人市民 税は、その地域に勤務する従業員数に割り戻して算出されるため、利益を出している企 業で八王子の事業所に勤務している従業員が多い場合は、八王子に納める法人市民税も 多くなります。つまり、製造品出荷額の割には法人市民税が高い八王子には、力のある 大手メーカーの製造部門ではなく、研究開発部門が多いということがわかります。  もう一つ、製造品出荷額を市内企業の売上の合算と考えてみます。通常、売上から製 造原価を差し引くと粗利があり、そこから販管費等を引いたものが経常利益となります。 法人市民税というのは当然経常利益に比例するものなので、製造品出荷額の割には法人 市民税が高いという八王子には、「売上の割には、経常利益は高い」企業が多いという ことになります。一般に中小企業は利益を生み出さない間接部門をスリム化する傾向に あり、販管費等がかなり圧縮されるため、売上の割には経常利益が高くなる傾向にあり ます。すなわち、八王子には、利益を出せる力のある中小企業が多くあることもわかり ます。  まとめますと、八王子には、大手企業の研究開発部門と力のある中小企業が非常に多 く、それが八王子の物づくりの底力になっております。  次に、多摩地域の産業史と本市の産業政策ですが、明治から昭和20年代後半ぐらいは、 日本全体として繊維工業が非常に盛んで、八王子も非常に織物業が盛んでした。ところ が昭和30年代の高度経済成長期に入りますと、いわゆる繊維産業の自由化を起点に急激 に繊維産業が衰退していき、多くの繊維関連事業者が廃業しました。  一方で、工場等制限法などの法律の下で都心に大きな工場がつくれなくなった大手企 業が、多摩地域に進出してきました。その下請をする中小企業が、主に廃業した繊維事 業者の跡地に創業を始めたこと、また、大手企業をスピンオフした人々が始めたベンチ ャー企業の受け皿になり、今の八王子の産業構造が構築されるきっかけとなっておりま す。また、昭和50年代以降は大学の進出が進みまして、現在、市内に23大学ありまして、 11万人の学生がいる状況になっております。  また、八王子のものづくりですが、先ほど説明させていただいたとおり、製造品出荷 高と法人市民税の関係から、力の強いものづくりが特徴になっております。すぐれた開 発支援型企業や高度な技術を持つ基盤技術型企業の集積があり、大手企業の研究開発部 門が多い。これは、中小の繊維事業者が多かったために、都市計画上の用途地域で準工 業地域が非常に広く、また市街地にあったこと、工業用地が非常に広く繊維産業から引 き継いだ水や電力などの工業資源があること、また、ベッドタウンですので、住むとこ ろと働くところが非常に近いこと等が相まって、非常に磐石な産業基盤がある土地であ ることが大きく影響しております  八王子の産業構造を、東京都と分野別比較しますと、東京都全体では業種別、分野別 で多いのが、まず印刷関連、次に一般機械になっております。一方、八王子は圧倒的に 付加価値の高い電子部品・デバイス、精密機械器具が多い。すなわち、ハイテク産業が 非常に多く、ニッチな部分でトップシェアをつかんでいる会社がたくさんあるような土 地柄になっております。  このような土地柄で、我々は産業振興をどのような形でしているのかということです が、平成12年に現在の市長が、産業振興に力を入れるという選挙公約で当選をしまして、 そこから10年、猛烈な勢いでいろいろな施策を展開してきております。   ・産業政策とものづくりについて  まず、いきいき産業基本条例というものを平成15年に制定いたしました。これは条例 といっても宣言的なもので、産業振興の必要性、八王子の特性を活かした産業振興のあ り方、目指すべき将来像など、基本的な理念を示しています。このような基本的な理念 のもとでいろいろな施策をしておりますが、「首都圏情報産業特区・八王子」構想の推 進と、工業系用地の保持等、具体的施策の実施につきまして、説明させていただきます。  それから、「首都圏情報産業特区・八王子」構想の推進ですが、サイバーシルクロー ド八王子という愛称を持っております。これは平成13年に八王子市と八王子商工会議所 が連携をしてつくった組織で、本市産業振興の実行部隊になっております。まず会長の 甲谷のさんという方ですが、かつて日本HPの社長、会長をご歴任されている方で、第 一線を退かれるときに、サイバーシルクロード八王子の会長としてご就任いただいてお ります。歴史のある町はいろいろなしがらみなどがあり、なかなかドラスティックなこ とができない。 一方で、で甲谷会長は全くしがらみのない方ですので、自由に陣頭指揮をとっていただ いています。  具体的に何をしているかといいますと、会長の強力なリーダーシップの下で企業間の 連携、つまり我々が触媒になりまして、企業と企業の連携をどんどんつくっていくこと で、いろいろな付加価値を生み出すことを基本的な活動のミッションとしております。 また、ビジネスお助け隊という強力な実行部隊をもっております。ビジネスお助け隊の メンバーは主に企業OBの方々です。八王子はベッドタウンで、団塊の世代を始め、能 力の高い方々がたくさんいらっしゃいます。時給で換算すると幾らかかるか分からない ような方々が企業の第一線を退いてから、生きがいとして地元の産業振興に関わりたい ということでボランタリー的に参加をしていただいている組織になります。このビジネ スお助け隊が、地元の企業への経営支援や企業間の連携ですとか、あらゆる意味で強力 な実行部隊になっています。後段に説明する私どもの緊急雇用対策も、この方たちがい ないととても成り立たないような仕組みになっております。  次に、いきいき企業支援条例に基づく土地関係の立地促進ですが、これは、八王子市 内に新設・移転をする企業や、一定規模の拡張等を行う市内企業に対して、税制の優遇 をしていくという施策です。今やこのような施策は、都道府県や力のある基礎自治体で はかなり実施されていますが、施行当時の平成16年では東京都内の自治体ではほとんど 前例がない状況でした。この施策の大きな特長は、市外から市内に移転する企業だけで はなくて、市内で一定規模の拡張、移転をする企業に対しても優遇措置をとっておりま す。会社に対しても優遇措置をとっている点です。具体的には、納めた税金のうち、固 定資産税・都市計画税・事業所税相当額を3年間キャッシュバックするということで、 施行以来今まで50件の会社に対して指定をしております。これら企業による八王子市内 での総投資額が1405億円に及んでおり、さらに雇用者数ですが、2,265人の新たな雇用の 創出に結びつき、さらには最終的に9億6,000万円の税収を得ることになるということで、 かなり実績が出ている施策になっております。  こういった八王子の産業も、一昨年の秋のリーマンショック以降は非常に厳しい状況 になっております。私どもは、自治体の経営の中で、税収の増加と雇用の確保は非常に 大事なミッションとして考えておりますので、厳しい状況にいち早く動きまして、平成 20年12月に緊急雇用対策本部を立ち上げ、さらには地元の金融機関であるたましんさん やハローワーク、東京しごとセンター等を巻き込み、情報の共有と雇用対策を検討して いく場である緊急雇用対策連絡会を立ち上げました。  こうした場での検討を経て、平成21年度の八王子市緊急雇用対策事業ということで、 一般財源で1億円の予算を急遽捻出しました。その中の特長ある事業として、雇用の維 持を目的とした八王子市雇用維持奨励金制度、さらには、厚生労働省の中小企業緊急雇 用安定助成金を有効に活用していこうという雇用制度の活用支援事業、また、就労支援 の一貫としての創業支援制度を新設しております。  この3つが具体的にどのようなものかをご説明します。まず八王子市雇用維持奨励金 制度は、求職者を対象とするものではなく、今現在雇用を維持していただいている会社、 事業主さんを対象とした施策です。一昨年の12月と言えば、世間では派遣切りが話題に なっていましたが、八王子は先ほど述べたように、大手企業の研究開発部門が多いこと から、派遣社員を製造ラインに就けて大量生産するような業態はほとんどなく、他地域 と比べて比較的派遣切りは少ない方でした。また、求職者もリーマンショックの前と後 で劇的に増えておらず、ぎりぎり雇用を維持できているような企業が多いことがわかっ てきました。そこで、求職者を対象とするよりも、雇用を何とか維持して頂いている事 業者をバックアップしていくという切り口で制度設計をしました。  制度の内容は、現在の雇用を維持するための自助努力を行っている、これは雇用維持 計画書を作成して頂きますが、その企業に対して、従業員1名当たり5万円の奨励金を 出すものです。さらに、基礎自治体としてとてもばらまきをする余裕はないため、中身 のある施策にするために、奨励金を支給した企業に対しては6か月間の雇用維持期間を 設定しまして、その雇用維持期間の間にビジネスお助け隊が1社につき1人以上入って いただいて、雇用維持計画を遂行しつつ、経営改善もしていただくという制度になって おります。  申請と交付状況ですが、この制度に第1期に5,000万円の当初予算、第2期に2,500万 円の補正予算、合わせて7,500万円の予算を組み、結果として、交付決定が141社、その 従業員数は1,715人、これは6か月間の1,715人の雇用が担保できたと解釈していただき たいと思いますが、そのような実績でした。さらに、141社の中にはビジネスお助け隊の 支援が必要としない会社もありますので、実際には94社の会社にビジネスお助け隊の経 営支援が入り、述べ186回お助け隊が出動し、大変事業者さんから喜ばれました。  この制度については、いろいろな自治体から視察を受けましたが、結局はビジネスお 助け隊という組織がなければとても真似できないため、視察者はがっかりして帰ってい きました。つまり、八王子市雇用維持奨励金制度は、ビジネスお助け隊という実行部隊 があるからこそできた制度だと思います。  次に、雇用制度の活用支援事業、通称申請サポート事業と言いますが、厚生労働省の ほうで制度として確立していただいた中小企業緊急雇用安定助成金を有効に活用してい こうという施策になります。この助成金は、申請が非常に煩雑いいますか、当時は22個 の書類を揃えなければなりませんでした。大手企業ですと総務部等でそのような書類を 揃えることができますが、中小零細企業には間接部門がほとんどないため、こういった 作業は社長がやらなければいけない。ところが、社長はこのような厳しい時期は、資金 繰りのために銀行に通い、少しでも仕事を確保するためにお客様のところに日参しなけ ればならず、とてもそんな時間はない。そこで、社長が対応できない申請書類の作成を ビジネスお助け隊が丸々申請をサポートしていくという事業です。  この事業は、現時点で65社を対象に、延べ153回のサービスをご利用して頂きました。 八王子のハローワークによると八王子・日野管内で安定助成金を新規に申請している企 業数が4月から150社ぐらいですので、4割以上がこのサービスを使って申請をして頂い たことになります。さらに新しい動きとして、地域金融機関であるたましんさんと連携 をしまして、たましんさんの顧客を対象に掘り起こしを行い、1週間で42社訪問し、そ のうち22社を申請サポートにつなげている状況です。  次に離職者創業支援事業です。大手企業のリストラの中で、不採算部門を丸々切リ捨 てるというケースがあります。これは、大手企業にとっては不採算部門かもしれません が、その部門だけで考えると売る製品も顧客も備わっている。そこで、その部分を有効 活用して新規創業していくというスピンオフ創業に対して、手厚い支援をするものです。  具体的には、大手企業がリストラを行うタイミングに、スピンオフに特化した創業セ ミナースピンオフ創業塾を行い、さらに有望と思われる事業者には家賃の補助をすると いう施策をしました。本事業によって、本年度だけで新たに4名のスピンオフ創業が八 王子市内で起こり、さらに4名が近々創業する見込みとなっております。  最後に、来年度の説明を少しさせていただきます。当初は不況がこれほど長引くと思 いませんでしたので、雇用対策は平成21年度の時限措置ということで検討しておりまし たが、まだ地元事業者さんは厳しいということで、継続して雇用対策をすることになり ました。平成22年度の目玉といたしましては、企業の運転資金が非常に厳しいというこ とに着目をしまして、緊急つなぎ融資資金助成利子給付金という制度を確立いたしまし た。  これは、資金ショートを防ぐために、短期間で迅速な借り入れができるような仕組み をつくるということで、申請をしていただいて3日から10日で融資を決定し、また、超 短期の6か月以内で上限500万円のつなぎに特化をするものです。この融資実行はたま しんさん等を始め地元の金融機関にご協力をいただいて、それに利子補給させていただ くことで、地域金融機関との信頼関係の中で制度としてつくっております。これも先ほ ど説明したとおり、求職者というよりも企業、あくまでも雇用を維持していただいてい る企業に向けて積極的な施策を展開している施策になっております。 ○株式会社東和プリント工業 ・会社概要について  地域金融を支えていらっしゃるたましんさん、それから地域行政の八王子市さんとは 違いまして、一事業体としての個社事情のお話になりますので、これまでのお話とは目 先が変わるところはありますので、ご了承いただければと思います。  まず、私どもの会社が、どのような会社かというところをご理解いただいて、雇用も しくは労働問題等のところについては、後ほど質疑応答があるかと思いますので、ご質 問いただくような形でお答えできればと思います。  東和プリント工業は何をつくっている会社かと申しますと、プリント基板、もしくは プリント配線板と言われるものです。そのプリント配線板とは何かといいますと、電気 製品、電気を使っているもの全ての中に内在する電子部品のベースになるものでござい まして、基板という絶縁体の上に導電回路が施されているもので、電気を通すための銅 の回線が、基板という電子を固定する部品の上に予め乗っているものという定義になり ます。分かりにくいと思いますので、見本を持ってまいりましたので回していただけれ ばと思います。  設立は1981年です。来年でちょうど30周年になります。今の会長、前社長が創業しま して、もともと基板の会社で勤務していた経験を生かして独立をしたのが約30年前。6 年前に2代目になります今の社長が経営を継承して、ちょうど新社長になって6年目と いうことになります。売り上げ規模は、2009年9月期で72億です。国内のプリント基板 の売り上げ順位では29位ぐらいになるかと思います。  現在の方針といたしましては、社長が若く、時代感覚といいますか、経営センスも若 く、いろいろなことに挑戦したいという意欲がありますので、これからの展開を模索し ている最中になります。  グループ会社ですけれども、国内に4社。事実上はプリント基板の製造を一貫生産し ておりまして、材料から製品まで、全ての工程を5社の国内生産体制で一貫生産が可能 になっております。それから海外グループ会社ですが、この辺が雇用の問題とも絡んで くるところになりますけれども、香港にYSPトレーディングという貿易商社がござい まして、私どもの製品を海外に販売する、もしくは海外から材料の調達をする機能にな っています。 昨年から中国広東省の恵州市というところに、従業員が今180名の生産工場を、台湾の会 社からM&Aという形で買収しまして、そこに生産キャパがあるもので、国内からの製 造シフトが徐々に起きている状況にあります。  それから、プリント配線板というものについて、製造工程に沿ってご説明いたします。 まず、この緑色の絶縁体がフェノール樹脂とかエポキシ樹脂と言われている樹脂ででき ている板なのですが、その片面に銅箔を張り、銅箔の上に感光性のあるフィルムをもう 一枚張りつけ、その上に、つくるべく回路の型紙になるものを型紙としてドライフィル ムの上にかぶせます。型紙の黒い部分は光を通さず、この青い部分は光を通すマスクの ようになっていますので、それを自動露光機という光を当てる機械の中に入れますと、 要は写真と同じ原理なのですが、黒い部分が感光せず、つくりたい回路の部分について は光を当てることで化学変化をします。そのマスクフィルムをはがしますと、感光した 部分と感光していない部分がフィルム上にできますので、次に、感光していない部分だ けをアルカリ水溶液で溶かします。そうすると、つくりたい回路のところだけにドライ フィルムが乗っていて、ほかの部分は銅箔がむき出しになりますので、そこをエッチン グといいまして、銅を溶かす溶液で溶かしますと、残すべく回路のところに銅が残って いる状態になりますので、最後に感光性のフィルムをはがしますと、もともとの絶縁樹 脂の上に銅でつくった接続回路だけが残った状態になります。この工程がプリント、印 刷技術のようなイメージになりますので、プリンテッドサーキットボード、いわゆるプ リント基板という言い方をされております。  これは一番シンプルなものについてご説明をしましたが、ご覧いただいたものは、こ の薄さの中に、今お話をした絶縁体が6枚重なっております。その6階建ての中にそれ ぞれ違った回路が入っていて、縦に穴があいていますけれども、この穴で必要な部分だ けがいわゆる階段のように、2階と3階はつながっていたり4階と5階はつながってい たりしている形で、基板の両面に回路が形成されていて、それが6層になっています。 回路、連動部分が1か所でも途切れていると、製品として使えませんので、特別突出し た技術は求められませんが、全ての工程での技術力が一定以上でないと製品として使え ない特徴がありますので、一貫生産をしているのは、協力会社さん、外注さんに出しま すと、その辺の品質管理がなかなかできないという背景があります。  人員についてですが、現在、1月末の国内の社員数は219名で、アルバイト、パートを 含めますと計265名になっています。海外は増えておりまして180名。中国に拠点を構え たということで生産のシフトが起きていく中で、日本の雇用をどうしていくのかという ところが非常に我々自身も日々悩んでいるところです。   ・雇用への取組み等について  今回ここにお呼びいただいた背景になると思いますが、新規採用は2008年が11名、 2009年は30名採らせていただいています。ハローワークさんからすると、八王子の中で も、このリーマンショックの中で30名の採用をしている企業はあまりないと思いますが、 この5年間の人員構成を見ると、実働人員は増えておりませんので、ほとんどが入れ替 えになります。1つは、派遣さん、アルバイトさんという雇用形態から社員、それから 年配の方たちから若手、それから外国の人から日本人という形の雇用の変化を補うため に、この30人という日本人の新規採用者が充当された形になりました。したがって、人 数的にはこの5年間でほとんど変わりませんが、日本人・外国人比率、もしくは正社員 ・臨時雇用比率、もしくは若手・年配という意味で言うと、明らかに構造の変化が起き ている形になっております。  あと、経営理念については、雇用に絡むところが出てくるところがあるかと思います。 1番目の「日々改善、常に創造。」は、業務に関わる多くの企業さんが問題意識、改善 意欲を持って取り組みましょうということですので、比較的分かりやすいと思います。 2番目の「従業員一人ひとりが心的、物的に幸せであるように。」という経営理念です けれども、これは雇用問題ということに関わる当社の考え方ですが、物的に幸せである ようにというのは、所得が上がって経済的な豊かさを求めましょうということですが、 もう一つ、社員の人たちと共有したい考え方として、心的な幸せというものも、会社と 雇用者の中に求める関係としてあるはずだということです。多くのお金を払うこと、物 理的に豊かになることだけではなく、職場をともにすることによって、一人一人が心の 豊かさと満足さというものを得られるような環境づくりも一方でしていきたい。要する に物的豊かさだけを皆さんに提供し続けることには限界があるということの裏返しとい うことも言えると思います。皆さんの生活、会社を守ることは約束するけれども、必ず しも給料をどんどん上げて物理的な欲求だけを満たすことは会社としては想定していま せんよ、皆さんもそれを理解してくださいねというところだと思います。それから、3 番目の「国境、種別を越えた全世界の為に。」も雇用問題に関わってきます。今、国内 で働いている人は、フィリピン、中国、韓国、イラン、グアム、ブラジル、日本という 人たちが、雇用形態はそれぞれですけれども社員、パートさん、あるいは派遣という形 で活躍してもらっています。やはり3Kの仕事ですので、景気がいいときに日本人の若 い社員さんにはなかなか来ていただけないですが、景気が悪くなると30人も若い日本人 の方を採って、充足できなかった人的、質的な構成比率を是正するような採用になるの ですが、いわゆる景気のいいとき、経済、企業が成長しているときに活躍していただい たのは、フィリピンの人であり、ブラジル、中国の人であり、その人たちが日本の労働 者の不足を補ってもらえたがゆえに、今の会社があるということですので、我々も人種 を区別することなく、うちの会社で働いてくれる人については一律公平に処遇をしてい くという考え方が、ここにあらわれています。これは中国で働いている中国の人たちに も同じことが言えまして、一言で言えばグローバル化ということですが、生産のシフト が中国に移っていくときに、日本国内の雇用を縮小していいのか、それを補うために企 業として新しいビジネスを創造していかなければならないということが課題になってき ています。  人の問題に関して1つだけ言わせてもらえれば、一番基本的な部分で、向上心とか競 争心とか将来設計とか、そういうものが何か欠けている人が今多い気がします。技術と いうのは、そういうものがあれば会社に入ってもらってから、技術支援とか、雇用のト ライアル制度とか、いろいろサポートしてもらえる制度ができてきていると思いますの で、素人であっても技術のスキルは後天的に覚えていただくことは幾らでも可能だと思 います。 やはり基本的な部分で、向上心かと競争心とか、あとは人を引っ張っていくコミュニケ ーション、人間力とかマネジメント力というところは、ある程度の年齢になって組織の 中で鍛えていって、伸びる人は伸びますけれども、伸びない人というのは非常に対応に 苦慮するところです。  そういう基本的な部分も会社として何とかレベルアップ、あるいは意識の改革という ようなものをやっていきたいという試みで、3年前から始めた「私の目標」という制度 があります。この制度への参加は自由で、社員、アルバイトさんを含めて、国籍も問い ません。1月の初めに、この1年間かけてやる自分の目標を明示してもらいます。目標 は何でもよくて、例えば、秋にあるロードレース、マラソンとか10キロに出て、タイム を何分以内で完走する、あるいは資格とか趣味の検定とか、これから楽器を始めてコン クールに出るとか、あるいは華道のような趣味で、自分がやりたいことを目標に決めて もらって、それに対して1年間どうやって練習をする、どうやって勉強をする、どうや って自分を鍛えていけばそこに到達できるかという練習をしてもらい、その成功体験を 感じてもらうというようなことをしています。  去年は146名の応募がありまして、38名が達成しました。基本的にエントリーフィーの ようなものですが、お金をもらうのではなく、会社として1人1万円の予算をとってい ます。146名ですから146万円。三十何名で達成すると、それをみんなで分けるというよ うな形で報償金を出しておりますけれども、お金を与えるとか、お金をもらってもらう のが目的ではなく、自分が何か目標をつくって、1年間ステップを踏んでそれに向かっ ていくという習慣をつけてほしいということです。当然のことながら、それを達成した ときの成功体験も、うれしさというか感動する気持ちも味わってもらいたい。今年は人 数が減っていますけれども、90名ぐらいのエントリーがあり、語学の資格を取りたいと か、それぞれ見ているとおもしろいですけれども、こんな趣味があるとか、こんなこと をやりたいという話題にもなりますので、そういう一つの目標を持った制度でやってい ます。  結局、そういうところから意識改革をしてもらい、それが同じように、例えば10年後 には課長になりたい、部長になりたい、こういう仕事をしてみたいということの一つの きっかけにしたいということでやっている制度になります。 ○意見交換 Q01 八王子市独自で雇用維持に奨励金を出されたということですが、国の雇用調 整助成金制度は、生産量が減ったとき、休業をしたときの休業手当の助成制度です が、ビジネスお助け隊の支援を受けることの他に、何か支給用件はあるのでしょうか。 A01(八王子市産業振興部)  ご案内のように雇用安定助成金については、申請サポート事業で事業者をバック アップしております。基礎自治体である我々は資金力に限界があり、一般財源で、 ようやく雇用維持奨励金として7,500万円程度しか捻出できません。したがいまいて、 国の施策はできるだけ使わせていただこうという感覚がありまして、雇用維持奨励 金を活用しようとしている会社に関しては、安定助成金も積極的に活用することを 奨励しております。そのために、雇用維持奨励金の申請書類は、安定助成金の申請 書類を有効活用できるように制度設計致しました。例えば、安定助成金の前年同期 比で売上5%以上減、もしくは生産量5%以上減という要件も、雇用維持奨励金で はそのまま使わせていただいて、安定助成金が適用されれば、雇用維持奨励金の要 件にも適応されるという形でさせていただいています。だたし、八王子市の企業の 95%以上は40人以下の中小零細企業であるという現状を鑑み、雇用維持奨励金の ターゲットを、40人以下中小零細企業にしております。  また、他の要件である雇用維持のための自助努力には、安定助成金の主旨である 休業ですとか、ワークシェアリングも含まれますので、そういったものを雇用維持 期間の6カ月間実施することも、奨励金審査の評価対象にしています。  ですから、使えるものは何でも使うという考え方で、事業者には国の安定助成金 と雇用維持奨励金をどんどん併用して頂き、この苦境を切り抜けていただきたいと いう周知をさせていただいています。   Q02 中小企業も2年前の採用については問題がなかったと思いますが、現在の中 小企業の人材採用意欲についてお伺いしたい。また、コミュニティビジネス関係の シンポジウムをされるそうですが、これからコミュニティビジネスを事業として成 り立たせるには、行政の公的な援助も含めて何が必要になるのかをお伺いしたい。 A02(多摩信用金庫価値創造事業部)  まず、最初の採用のお話ですが、明星大学と2年前から開始しまして、その際に 「新卒採用を希望される中小企業が多いから一緒にやってくれませんか」と伝え、 協力いただけるようになりました。そのときに、当金庫の店舗に通達文書を流した ところ、通達文書を流すが先か、電話がかかってくるかという感じで四十数社が集 まりました。2年前は一瞬で、それは大学の新卒を採りたいという中小企業の意欲 を感じました。昨年、難しいと思いながらも同じことをしましたが、一件も電話は ありませんでした。これが現状だと思います。  今年の1月25日に開催したときには、需要と供給のバランスが崩れていましたが、 求職者を応援しなければならないということで、当金庫が企業を回って説明いたし ました。担当ベースのところに行くと余り動かないのですが、この趣旨を社長にお 話をさせていただくと、そういうことであれば、頑張ればもう一人ぐらい採用でき るというお話になり、いい会社さんに出ていただけたと思っています。適切な人が 行って話をすれば、雇用が少し増える可能性はあるという認識は、今回これをやっ てみて感じたところです。これを3月にやろう、4月にやろうということを考えて いるのは、それがあるからです。  ただ、先ほどもお話の中に出ていましたけれども、中国への問題が、確かな数字 は持っていませんが、八王子を含めた多摩地域では、研究開発型や試作をしている 企業が多いのですが、最近は企業ごと中国に行っている感じがしています。また、 その流れに拍車がかかってきたという感じもありますので、もう一回景気が戻って きたときに、研究開発型の企業も今まで通りの採用力があるかということには正直 なところ疑問があります。それで先ほどのお話のように、外に出ていくところの人 材育成と、もう一つとして地元に残った地域経済はどうなるのかが心配ですので、 そこでの雇用をどうしていこうか、あるいはそこでの税収も含めてどうしていこう かということが地域の大きな課題と感じているところでございます。  それから、2つ目のコミュニティビジネスですが、まず主体は2つあると思って います。1つは、中高年の方、主婦の方、PTA上がりのような方がNPOを構成 されて、特に子育てであるとか介護であるとか、地域の課題に向かっているという ことは非常に強い流れとしてありますので、これは今後ビジネスとして展開してい くといいと思いながらも、そう簡単にビジネスとしては回らないだろうという認識 も持っております。ただ気持ちはあります。  それと、小さな商店などの口コミ、例えばブログでありますとか、そういう関係 の中での地域内の販売促進には、そういうものが効果的に機能してくるだろうとい う感触は持っています。現在、NPO向けの融資も積極的に行っていまして、億単 位で出しているところも数社はあります。そこは介護であるとか福祉であるとか、 そういうビジネスをやられているところです。ですので、NPOという名前はつけ ていますけれども、株式会社ですとか、有限会社をイメージするようなところです。 きちんとハードを持っていて入居者もいらっしゃるところでございます。そういう ところの雇用も含めて、かなりいい調子でいっていますので、いろいろなタイプの コミュニティビジネスがある中で、実際そこは分けて考えないのですが、そこの精 査みたいなものがまだできていないと思います。 Q03 ボランティアの方は、一般的に定年した男性とか家庭の主婦の方とか、ほと んど無給ベースで活動されている方もいらっしゃると思うのですが、そこからある 程度のお金を稼げるようなビジネスにするには、どのような支援があれば事業とし て回っていくことが可能になるのかお伺いしたい。 A03(多摩信用金庫価値創造事業部)  事例といたしましては、一人の経営能力のある方がそのコミュニティビジネスの 中に入ってくると、うまく動き始めたりすることはあります。また、公的な支援と いうことでは、そのような団体に支援をしたところで、今はそれほど大きなものに はならないと思っています。ですので、我々が2月13日に開催するフォーラムは、 まずそういう方々をたくさん集めることが重要と思っています。去年は100名の参加 者が一瞬で集まりましたので、今年は300名の募集をかけて、200名ぐらい集まって います。そして、これから参加者が増えていき1,000人ということになってきますと、 その中の1%なり10%にそのような思いを持つ人たちがいるということで、刺激と 啓発活動になるという段階は否めないところです。ただ、ペースはかなり上がって きている状況です。 A03(八王子市産業振興部)  八王子市でもコミュニティビジネスにかなり注目しております。まず、いろいろ なデータをとりますと、コミュニティビジネス市場は3兆円ともいわれていまして、 一方で、日本が非常に強い分野、いわゆる生産機械ですとか工業機械の市場で 8,000億円から1兆円と言われていますので、それらを凌駕するぐらいの期待がコ ミュニティビジネスにはこめられています。そして、広義にはコミュニティビジネ スという認識に含まれていると思いますが、いわゆるスモールビジネス的な考え方、 将来会社を大きくしようと思っていない、そこそこ稼げばいいという職業感、再就 職が難しいので、自ら創業して自分が食べていけるぐらいの商売ができればいいと いう考え方が確実に増えています。従って、我々の雇用対策としては、単純に求職 者を再就職させるだけではなく、そこそこ食べられる創業形態をつくっていくこと も雇用の機会という認識を持っています。  我々はスピンオフ創業塾を始め起業家の育成にも力を入れておりますが、このよ うなコミュニティビジネスの創業を対象とした施策も来年度はいろいろ検討してお り、例えば、創業予定者がビジネス感覚をつけられるように、先ほどのビジネスお 助け隊がマンツーマンで支援を行う伴走型支援を行ったり、オフィスの賃料を補助 して、固定費の削減に協力したり等の仕組みづくりをしていかなければいけないと 考えています。 A03(多摩信用金庫価値創造事業部)  一つ言い忘れましたが、今年になってから地域の中堅企業の方から、コミュニティ ビジネスについて相談に乗ってほしいという電話が2件ほどありました。  その理由は2つともCSRについてで、景気が悪いため自社ビルの部屋が空いて、 本業にしっくりくるようなCSRをして、地元のための何かに使いたいということ でした。ただボランティアを集めて場所を使うのではなく、コミュニティビジネス としてやりたいということで、例えば、地域の介護の方々を集めるとか、子育の方々 を集めて、そこでビジネスとして回るような事業部をつくっていきたいというお話 が立て続けに来ましたので、こういう方向もあるのかと感じたところでございます。 職員には一応言っていますが、いろいろ企業の課題解決活動をしている中で、中堅 企業に行ったときには、我々が解決できる課題が余り見当たらない場合があります。 その場合にはCSRのような切り口でお話をすると、興味を持ってくださる企業が 増えてくると感じているところです。 Q04 新卒の場合には、採用の流れが大体決まっていると思いますが、新卒でない 場合の採用方法についてお伺いしたい。また、八王子市内にあることによって、い ろいろな支援とか、あるいは同じような研究開発型の企業が多いわけですから、そ ういったところとの連携ということの地の利というのをどのように感じているのか というのをお伺いしたい。 A04(東和プリント工業)  まず、採用ルートということでは、先ほどお話しした2009年1年間の30名の採用 のうち新卒者は4名です。残りの26名はハローワークさんを介して、いわゆる若年 層雇用というような制度で、その都度募集をして採用させていただいております。 先ほど、派遣切りというのは八王子では余り現象としてなかったというお話でした けれども、近隣には派遣切りがあったようで、当社に応募された20代の半ばから30 代の初めの若い方たちの中には、今まで派遣で来たけれども、いよいよ駄目になっ たという方が多く、上場会社だったけれども事業の撤退とか事業の縮小により、職 場がなくなったという方もいらっしゃいました。採用のルートとしては、募集を出 すとかなりたくさんの方が見える状況でしたので、ハローワークさんを介して採れ ないことはない状況でしたが、その中で少し思ったことは、日勤とか、いわゆる昼 間の勤務とか、作業工程が比較的きれいなところの応募は多いのですが、短納期の 関係で夜勤があるのですが、夜勤の応募になるとかなり少なくなります。採用する 側からしますと、まだまだ高い目線で仕事を選択されていて、仕事がないと言って いる人がいるのではないかという思いは正直あります。結局、募集条件が厳しいと ころになると、相変わらず外国の方が中心になるという傾向は依然としてあります。  あと、地域ということですけれども、先ほど一貫生産と申し上げましたけれども、 部分的には協力会社さん、外注先さんが八王子周辺の地域に結構ありまして、そう いうところとは、雇用という問題ではなく、いろいろとネットワークを持っていな いと、仕事が集中したときに相手先、協力会社がなくなってしまうと困りますので、 なるべく協力会社さんが存続できる外注は割り振っていくつもりでおります。うち だけの仕事ではないので、やはりそれでもなくなってしまう企業あるということは、 現実問題としては起きています。  では、何か協力会社とのネットワークを、八王子市さんとかたましんさんからの ご紹介でつくっているかというと、そうではなくて、やはり過去の歴史の中で培わ れたところが相変わらず続いている状況ですので、周辺地域の中で、そういうネット ワークはできております。 Q05 中小企業で人材を確保しようとしたときに、単に中小企業だからではなく、 今後伸びていく、あるいはおもしろい仕事という面で、単にブランドだけを見るの ではなく、地域の優良企業を就職先として、中小企業の理解を大学であるとか若い 人たちにどのように働きかけているかお伺いしたい。 A05(多摩信用金庫価値創造事業部)  一番分かりやすい例が、先ほどお話しした明星大学さんと企業さんを集めた就職 面接会ですが、普通に求人票が出ているところは、我々が応援しなくてもいいわけ なので、今までにそういう採用をしたことのない企業さんを連れていくわけです。 そうすると大体社長さんが来られます。40社来たときの一番人気は、やはり有名な 大企業でした。そこだけは企業説明会を若い女の子がしていましたが、あとは社長 がぶすっとした顔をして並んでいたので、我々から見ると、あの会社はもうすぐ上 場しそうだとか、製造業さんでいい会社なので、その会社に行けばいいと思っても、 やはり大企業に行ってしまうのが、今の若い人の感覚なのかと感じました。我々も そうだったのかもしれませんけれども。  そんな中、中小企業という言葉自体がよくないと思っていますが、中小企業向け の理解が必要ということで、これもそうですけれども、学生が地元の企業さんたち を取材している冊子を八王子市のほうでつくっていただいて、3巻目も出ておりま すので、そういった啓発活動をしております。  それから、先ほども言いましたけれども、高専に関しましては、就職課の先生方 をお連れしてバスツアーをして地元を回るような、考えられるありとあらゆること はしています。けれども、2つハードルがありまして、まず、ポイントになるのは 大学の就職課の方々が、このことに対する理解があまりないことです。もう一つが 親御さんで、多分まだうちの子だけは勘弁してくれというのがありますので、それ は自分の子供だったらそうだろうと思いながらも、そこが抜け切れないところとい う、想像どおりのことが起こっていると思っています。  後ろのほうは、我々ではどうにもならないですけれども、就職課の先生方に関し てとか就職課の事務の方々に関しましては、もう少し理解促進をしてほしいという ことで、先ほどの説明会をするときに声をかけています。このような活動をしなが ら、いろいろ交流していくことによって少しずつ変わっていくしかないというのが 現状の姿です。 A05(八王子市産業振興部)  八王子市には、22の大学で11万人の学生がいますが、八王子の若者はできるだけ 八王子で職を求めていただきたいという活動をここ七、八年ずっとやっております。 中でも我々が力を入れている事業が、3日間社長のかばん持ち体験というものです。 中小企業の魅力イコール社長の魅力です。大きな会社ですと社長の敷居は物すごく 高いですが、中小企業は社長の存在は近い。企業理念なども全て社長の考え方が反 映されている。このような中小企業の社長に徹底的に3日間付き合って、そこから 中小企業のおもしろさを学んでもらうことが狙いです。かばん持ち体験は大体毎年 20社ぐらい参加していますが、5年間やってようやく行った先の会社に就職する ケースが出てきた状況です。  先ほどもありましたが、中小企業へ若者の関心を向けさせるためには、まず大学 の就職課がポイントです。やはり大学は大きな会社に学生が就職してもらえば大学 の株が上がりますので、中小企業への関心度は低く、例えば中小企業でも力があり、 グローバルな展開をしているような企業がたくさんあるという理解がなかなか持た れていません。さらに、もう1つのポイントは親御さん、特にお母さんで、子供を 名もない中小企業へ就職させることに大きな抵抗があるようです。こうしたイメー ジを変えるのは一朝一夕にはなかなかいかず、こつこつ続けていくしかないという 感覚はあります。  ただ、このリーマンショックで、就職できればどこでもいいという感覚があるの で、あくまで私的な意見ですけれども、これまで大手企業に就職していた優秀な人 材が中小企業に来るケースも十分考えられますので、この機会を逃さないように多 少無理してもここで採用しておこうという呼びかけを地元中小企業にさせていただ くなど、地道な活動を積み重ねているような感じです。 Q06 八王子市では、ふるさと雇用再生特別交付金とか緊急雇用創出事業などに積 み増しをされるような制度をつくられたということですが、ちなみにどれぐらいの 支援をされておられるのかお伺いしたい。 A06(八王子市産業振興部)  平成22年度予算額で、雇用対策として7億9,000万円と出ていますが、このうち八 王子の一般財源としては1億円です。残りの6億9,000万円は、いろいろな緊急雇用 関係の補助金をいただいて施策をつくっているところです。特に今度は生活困窮者 向けのものですとか、そのほかに、いわゆる緊急雇用創出事業臨時特例助成金など も、使えるものは使いたいという感覚です。ただ、各地域により産業構造も違えば 求職者の方の考え方も違うところがあります。例えば、リーマンショックのときに 各自治体で何が行われたかというと、求職者を市の嘱託員として緊急で採用して、 例えば公園の草むしりをやっていただくという施策が実施されましたが、先ほど述 べたように、我々の考えとしては雇用を維持している企業に対してピンポイント的 に支援をしたいという思いがありました。ただ、そのような考え方に適用できる国 の助成金メニューがなく、強いて言うと安定助成金くらいだったという認識があり ます。ただ、その安定助成金も大手企業の雇用調整助成金を中小企業向けにカスタ マイズしたようなものです、必ずしも中小企業の実態とあっていない気がします。 例えば、八王子の中小企業は、試作品をつくっているような会社が多く、量産して いる会社はほとんどありません。一般に休業というのは、量産ラインを丸々1個止 めたりするものにはフィットするのですが、いわゆる多能工というか、この人がい なくなるとできなくなるという中小企業の勤務形態で休業させるのは難しい。すな わち、休業という切り口の助成金ではなく、雇用維持という観点の助成金が抜けて いると考えまして、それゆえに雇用維持奨励金を独自にやらせていただいたという 経緯がございます。  あと、トライアル雇用も、雇用する一方で、そのしわ寄せで逆に切られる人も出 てくるケースがあると思います。これは経営判断なのでこちらから強く言えず、行 政の思いと民間企業の思いが異なる非常に難しいところがありますが、あまり雇用 ばかりに力を入れると、大事なものが抜けてしまうケースも考えられますので、そ れらが担保される施策があればいいと現場の人間としては考えています。 A06(多摩信用金庫価値創造事業部)  我々は、いろいろな補助金を企業さんに紹介しています。経産省から出ていたり、 農水省から出ていたり、厚労省から出ているものを紹介しますけれども、経済関係 のものは、中小企業診断士の方がそのことを勉強されていて応援してくださること が多いのですが、高齢の社会保険労務士の方は、余り広くその補助金のことを知ら ない方もいます。我々は、何人かの若い労務士の方とお付き合いをしていて、その 方々が新しい施策を一生懸命勉強されて、その応援をしてくるネットワークをつ くっていますが、まだまだそのネットワークが地域の中に足りないという感じはし ています。企業に、ここはこの補助金を使って応援したら、少し助成したらいいと 思うときがありますが、見つけ切れない、やり切れないので、そういう意味で応援 部隊のような、後ろに専門家部隊がいていただけると地域的には助かるし、その最 初のきっかけをつくるぐらいは信用金庫でできると思います。 A06(八王子市産業振興部)  我々の安定助成金申請サポート事業を実施していると、零細企業には必ず情報格 差があり、一生懸命に厚生労働省さんで安定助成金を実施していても、その内容が 伝わっていないケースがかなり多い。例えば、サポート事業も今年度後半になると 活用ペースが落ちてきました。ただ、よく調べてみると、業績が回復して安定助成 金が必要なくなったというわけではなく、こうした情報にアンテナの高い、感度の 高い事業者の申請が一巡しただけではないかということがわかり、掘り起こせば もっとニーズがあると考えました。ただ、説明会等を開催しても、参加する会社は アンテナの高い事業者しかいません。そこで、新たなお客を掘り起こすために、企 業直に訪問して説明することとし、八王子の多くの企業と取引があるたましんさん にお願いをして、市内の3支店にご協力を頂き、支店の顧客の中で安定助成金を取 得していなさそうな企業をラインナップしていただいて、その企業に対してたまし んさんと一緒に積極的に営業をかけたところ、また安定助成金の申請が増えたとい うケースがありました。末端まで情報が行くような、そういう仕組みができるとい いと思いました。 Q07 厚生労働省でもいろいろと、コミュニティビジネスの支援や創業支援的なも のもしていますが、その周知といいますか、本当に必要としている方々に情報を届 けるところでいつも苦労しています。ハローワークから周知をするとか、信金さん にお願いをすることもありました。例えば、信金さんにお願いをして、融資などの 相談に来る方に合わせてパンフレットを渡す場合に、そこで具体的なアドバイスを していただくには、やはり社会保険労務士さんとか職業診断士さんでないと、具体 的な施策の利用にまで結びつきにくいのでしょうか。 A07(多摩信用金庫価値創造事業部)  多分そうだと思います。現場のオールマイティーなプレーヤーでないと、金融機 関の窓口はできない状況に今はなっていまして、その中の優先順位が本人の中で勝 手に決められていて、まず直接事業に関することからスタートしていきますので、 間接分野ですとか、福利厚生の分野のようになりますと、説明を怠ることが多くな ると思います。ですので、金融機関にパンフレットが送られてきたとしても、それ はそこに並べるだけの作業であって、その施策を理解していることとは全く関係あ りません。例えば、経産省の中小企業の地域力連携拠点という制度がありまして、 これに補助金をいただいています。もらってしまいましたので、これまであまり知 らなかった経産省の施策を、今では、正直言ってほとんど全部知っています。委託 を受け、それでお客さんに説明するようになってしまいました。お金は貸すほどあ りますので要らないですけれども、ただ、補助金をもらってしまいましたのでやり 始めたら、こういう施策をきちんとお客さんに伝えていけば、お客さんにもメリッ トがありますし、その補助金が命だとは思っていませんので、そのきっかけに使う のには非常にいいと思いました。ある意味、中間支援組織のような形のコミュニティ ビジネスの中間支援組織が必要だという議論と同じように、地方銀行がどこまでや るか分からないですけれども、信用金庫等であるとか、そういう共同協同組織金融 機関を中小企業のような中間支援組織的なものとして捉え、その組織と連携を とっていくのも、やり方の一つとしてあるかもしれません。