第2回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日時 平成21年1月15日(木) 13:00〜15:00 場所 中央合同庁舎5号館17階 厚生労働省専用第21会議室 内容 今後の望ましい賃金制度の在り方について 参加企業(業種):電気機器 ○企業の概要について  当社は3つの主要な事業領域を持つ334社からなる企業グループで、今年7月に創立 110年を迎えます。当社では、ビジネスユニットと呼ばれる組織(社内では略してBU と呼称)を大きな意思決定の単位としており、このBUが、後ほど説明させていただき ます部門業績を賞与に反映する仕組みにおける単位ともなっております。 ○人事・報酬制度の概要について  当社の人事・報酬制度は昭和40年代から、一般社員は仕事を中心として、また、管理 職は職能資格を中心として、制度を作ってまいりました。当時の社内通知を見ましても、 既に能力成果主義がうたわれておりますので、能力成果主義も随分歴史があることにな ります。その後、それぞれに改定を重ね、2000年代の初めには、一般社員はプラクティ ス制度、管理職は役割グレード制度という、いずれも役割をベースにした制度体系に変 更をしております。  まず、一般社員のプラクティス制度ですが、2000年10月に導入した制度で、各人の プラクティス(=コンピテンシー)のレベルを見てA〜D職群までの4つの職群とそれ ぞれの職群の中に3〜7区分を設定しております。  このプラクティスというのは、社内で高い成果を上げている人の特徴的な行動やスキ ル(ベストプラクティス)を分析して、どのような行動が成果につながるのか、必要と なるスキルは何かを抽出して基準化したものです。プラクティスは、どのような職群、 等級にも共通のプラットフォームプラクティスと、それぞれの役割個別につくられたプ ロフェッショナルプラクティスの2つからなっており、プロフェッショナルプラクティ スは、職種・部門ごとにプラクティスファイルと呼ぶ表形式でまとめられております。 このプラクティスファイルを、会社は、職群や等級を定めるための基準や評価の基準と して活用し、一方、本人たちは、意識と行動の変革のための行動基準として、また能力 開発やスキルアップ等のキャリア目標として、活用しています。  一方、管理職の役割グレード制度は、プラクティス制度の2年後の2002年4月に導入 した制度で、一般社員におけるプラクティスに加えて、事業部長、部長といったそれぞ れのポジションごとの成果責任を戦略策定・方針策定、業務遂行、組織・インフラ整備 といった項目をもって規定しており、それを役割定義書という形でまとめ、G1〜G6の 6区分に分けています。  なお、一般社員、管理職ともに、これらのプラクティスに基づいて毎年10月から12月 に本人と上司が対話をする機会を制度として設け、そこで部下の強みや将来の希望が何 か、育成のための指導やキャリアをどのようにしていくのか等を話し合うことにより人 材育成を強化するキャリアレビューという仕組みを持っております。  評価は、そのキャリアレビュー面接のほかに、半期単位に業績を評価する業績レビュー 面接というものもあり、キャリアレビューと業績レビューの評価の両方を見た人事考課 を通じて月収を決め、業績レビューを通じて半期単位に賞与を決めることになっており ます。ただし、それらの場は、先に申し上げましたとおり、単に評価のためだけの場と いうわけではなく、上司と部下の両方向から人材マネジメントのPDCAを回す育成の 場であるとしており、社内では総じて2WAYマネジメントと呼んでおります。  それでは、次に報酬の制度についてご説明いたします。まず、月収の制度ですが、一 般社員は、2000年にプラクティス制度を導入する以前、賃金項目として本給と仕事資格 給という2つの項目があり、うち仕事資格給は、その基に仕事給制度と資格制度をもって、 その格付から単一に賃率を決めるという制度になっておりました。そのため、仕事の成 果や出来映えが良ければ仕事資格給が上がるというつながりはあるものの、資格制度自 体が年功を基本とした格付となっていたため、結果的には年功的、一律に上がりがちで、 賃金全体を見ると年功的な部分が一部残って、その部分に仕事の成果や出来映えが反映 されにくくなっているという課題意識がありました。また、成果中心の処遇を進めてい くためには、制度がわかりやすくなければならないとか、更なる納得性の向上も必要で はないかというような議論がありました。  そこでプラクティス制度を導入する際には、仕事資格給を廃止して月収を一本化する こととしたのですが、それにより一律増がなくなり、全ての昇給原資が評価により配分 されるようになり、年功的な要素が制度から一掃されることとなりました。  また、どのような行動をとり、能力を身につければ評価されるのかということをプラ クティスの形でメッセージとして出し、そのプラクティスの達成度を昇格の必要要件と することによって、今まで比較的硬直的であった昇進昇格管理が柔軟に運用されるよう になりました。  一本化した月収は、職群、等級別の月収バンドを設定し、それぞれの上限値を超えな いように管理をしており、バンドの下限に近い方に昇給額が多くなるように、また、A 職群の方がB〜Dの職群より、評価の良し悪しによる昇給額の格差が大きくなるように 昇給テーブルを設定しています。テーブルをそれぞれの役割の性格に応じて変え、仕事 の特性に合わせた設計をしているわけです。なお、管理職についても同様な考え方でグ レードごとに月収バンドを持って対応しております。  次に、賞与制度ですが、一般社員は基本賞与と個人別業績賞与という項目から構成さ れており、基本賞与は直近2半期の連結営業利益に連動して決まる率を職群等級別の定 額に乗じて決めておりますので、結果的に職群等級別に定額になります。一方、個人別 業績賞与は、1人当たりの原資を直近2半期の連結営業利益に連動して決め、その原資 を職場に配って金額による評価をしてもらうようにしております。つまり、連結営業利 益にリンクして、基本分を決める乗率と成績分が予め定まっており、業績結果が出ると ある意味オートマチックに一人ひとりの賞与原資が決まっていくという仕組みになって いるというわけです。  管理職は、基本賞与がなく、個人別業績賞与だけになっている点、また、賞与原資を 全般的な会社の業績や一般社員の賞与の動向を見ながら総合的に判断して決めている点 等に相違がありますが、そのほかの評価の仕方等については一般社員と同様で、職場で の金額評価によって決めております。  なお、全社業績により決まった原資を職場に配分するに当たり、直近半期のBU及び BU内部門のチャレンジ度評価という評価を用いて傾斜配分をする仕組みをとっていま す。チャレンジ度評価というのは、出荷高と営業損益予算がチャレンジングな予算かど うか、その予算が実際に達成できたかどうかということを評価する仕組みで、A〜Cま での3ランクの評価結果により、BUで±2.5%、BUの中の部門で更に±2.5%の傾斜 配分をすることとなっております。  以上が、現在の人事・報酬制度の概要になりますが、最後に最近の改定事例をご紹介 したいと思います。  まず、最初の事例は単一給から月収バンドへの転換です。先ほどご紹介しました役割 グレード制度は、導入時は単一給、つまりG1は幾ら、G2は幾らという定額月収制度 となっていました。それは、年功的な昇給を排除して年功制を払拭するとともに、若手 抜擢を進める時に上司と部下間での報酬の逆転を避けること、人件費管理が行いやすい ことといったねらいがあってのことでした。  しかしながら、上司から見ると、昇給がなく、短期業績中心の賞与の評価だけでは中 長期的な挑戦意欲を引き出しにくいとか、能力が上がっていることを反映させる手段が ないとか、異動するたびに役割が変わり、グレードが変わると賃金が変動するので異動 させにくいという話が出てきました。  また、本人からも、例えば、課長の役割としては同じではあるものの、ベテランと新 任では経験に差があるので、少しは能力差を反映してもいいのではないかという意見や、 上に行けば行くほどポストが少ないので、早いうちから頭打ち感やでき上がり感という ものが芽生えていくということで、最初は良かったのですが、数年経つと次第に課題意 識が大きくなってきたという状況がありました。  更に、そのような職場意見の他にも、M&Aとか中途採用とか、グループ内外との人 事交流が増加する傾向が出てきまして、例えば、中途採用する際に、50万では採用でき るけれども51万では採用できないということでは、機動的な経営を進める上で支障にな る可能性が高くなってきたということもあり、月収バンド制に転換し、先に申し上げま したとおり、役割をベースにすることは変えないまま能力の評価によって昇給をするよ う改定したというわけです。ただ、上司、部下間の不合理な給与逆転を排除するために、 月収バンドはあまり重ならないようにつくっております。  次に、役割グレード制度の導入で昇格機会が少なくなったことに対する対応です。以 前の職能資格制度では50歳時点でみますと85%位の人が少なくとも1回は昇格を経験 し、また、同じ資格内でも毎年昇給があるということで、昇格と昇給の両方でモチベー トする機会があったのですが、役割グレード制度下では、50歳時点でも約半分の人は昇 格経験がなく、グレードが変わらなければ月収も変わらないということで、なかなかモ チベートする機会がないという事情が出てきました。  昇給については、単一給から月収バンドにして昇給をするようにしたのですが、もう 一つの昇格機会についても増やす工夫はできないかと考えました。役割の区分自体を増 やすと組織が重層化して異動が更にしにくくなる恐れがありましたので、結局、一つの 月収バンドの中に職能による等級を設定し、人事考課によって等級昇格を行うことで、 格が上がるというモチベーション機会を人事制度としてつけ加えることとしました。  3つ目は、役割定義書の公開に関する改定です。役割グレード制度では、ポジション ごとに組織長が役割定義書を作成して、それを全従業員に公開をしていました。これに は格付が適正に運用されるよう、また、組織内で役割が共有できるようにという意味合 いがあったのですが、一方で役割グレードの2とか3というものがみんなに見えますと、 それがその人の人物評価のように見えてしまい、風評等に繋がるという懸念が呈されま した。そこで、役割定義書の公開は続けるものの、このグレードの項目を外すよう変更 を行い、当初の目的に対しては、例えば、事業部長という役職はこれ位のグレードの幅 の中にいますというように、ゆるやかなつながりとして見せることにしました。  最後は、業績賞与についてです。当初、業績反映の反映率を、管理職ですとBUで± 15%、BU内部門で±10%と非常に大きな格差を設けるようにしておりました。格差が 大きいものですから、その際の評価も詳細な計数評価を中心に7ランクで評価するよう なものを経理と一緒に精緻に行っておりました。しかし、その評価が固定化する懸念、 つまり、悪いところはいつまでも悪くて、なかなかいい評価がとれないということがあ り、決してモチベーションにつながらないということがありました。また、金額差があ まり大きすぎますと、自分のところさえよければいいという部分最適が進んでしまい、 これも事業を運営しにくくする悪弊につながっていくのではないかという懸念や低めに 予算を出しておいて高く達成すると良い評価となるため、あらかじめ低めの予算を設定 しようとし、事業が伸びていかないというような懸念も呈されました。人事的に見ても、 BUの中には同じソリューション事業をやっているBUが複数あるのですが、その中で は頻繁に人の異動や改組が行われていますので、例えば、業績の良い部門から悪い部門 に立て直しのために人を送ったら、その人の賞与が下がってしまうことになる等、従業 員の公平感や納得感を阻害するという懸念が呈されました。こうした経営活動と人事制 度とをうまく整合させるために、色々な調整が必要となり、最終的には賞与を従来の部 門業績評価から切り離して、チャレンジ度評価に入れ替え、なおかつ反映率を相当縮小 した形に改定しております。  以上、4点ほど今の制度に至るまでの改定を紹介させていただきましたが、最後に、 当社で行っています従業員意識調査の中から能力成果主義に関する質問の回答について ご紹介したいと思います。この従業員意識調査はオピニオンサーベイといって、1989年 から始め、徐々に拡大をし、今は毎年、全従業員を対象にウェブを使って行っています。  最初は、「個人の報酬水準や昇進昇格には何が最も反映されていると思いますか。」と いう設問に対する回答を経年でグラフにしたものです。業績と答える層がだんだん増え、 大体7割前後。一方、年功はずっと落ちて、6割位だったものがこの10年で2、3割に なっており、確かに従業員にとってみると、業績により決まることが浸透してきている 状況が見て取れます。  もう一つは、「現在より能力や実績に応じた差をつけられる制度にした方がいいか。」 という設問に対する回答です。10年位前には格差は拡大すべきとする方が多かったので すが、それがだんだんと少なくなり、2003年の時点では、これ位でいいのではないかと いうのが半分位になりました。これはプラクティス制度や役割制度が入った少し後の時 期になりますが、大体この位が適当と考えられていると理解している次第です。以上で す。 ○意見交換 Q この制度の見直しに伴う、労働組合サイドの意見、考え方、対応はいかがでしたか。 A 一般社員の制度の改定の部分でご説明をしたいと思います。まず給与制度では仕事 給制度を入れたのが昭和40年代なのですが、これは要するに職務給ですので、仕事ご とに賃率を決めており、その格付が変わらない限り賃金は全く上がらないという問題 がありました。そのため、組合サイドから資格制度のようなものを入れてほしいとい う要望が出されたことを受け、仕事給のウェイトを落として資格制度のウェイトを最 終的には月収の20%近くまで上げるような修正を行いました。その頃は、ブルーカ ラーも多くおり、時代背景でいいますと、大きな物価上昇のあった時期でしたので、 その対応も含めて対処をとってきたということになります。  そこから今の制度へ改定するのですが、組合の要求も入れて導入した資格制度は一 部年功的な要素を持つものでした。要求の趣旨からそのようになるのは当然のことで すが、時代背景も変わってきてホワイトカラー中心の会社になるに従い必ずしも意味 を持たないものになってきておりました。また、世の中全体の流れとして成果主義の ようなものもあり、更に、退職金制度、年金制度の見直しの動きも大きなうねりと なってきており、私どもでいいますと本給は退職金、年金の基礎給になっておりまし たので、本給の意味合いを見直さなければならないというニーズもありました。新制 度では、要するに月収を一本化し、昇給制度で全て原資を配ることにしたわけですが、 組合の対応でいいますと、組合員のホワイトカラー化についての理解が進んだこと、 あるいは年金、退職金の制度的な問題がクローズアップされてきたということで理解 が得られたことから、比較的スムーズにできたのではないかと思います。 Q プラクティス制度の評価自体をどのような方がされるのかという評価の主体を教え ていただきたいことと、また、プラクティス制度以前から賃金制度が変わってきてい ますけれども、その制度に応じて従業員のモラルが上がってきているのか、それとも 全体的に見て実はあまり変わっていないのではないかというモラルの問題について、 創意工夫をしようとする気持ちが賃金制度によって変わるものなのかを知りたいので すが。  個々の労働者で高く評価された人は多分上がるのでしょうけれども、組織全体とし て上がった感じが賃金制度の変更によって見られるのかをお伺いしたい。 A 部門ごと・職種ごとにプラクティスを決めるという原則になっており、組織として はBUの一段下になります事業本部においてプラクティスをつくることとしています。 改定するとなると事業本部ごとに改定案をつくって組合と協議する形になります。  モラルということですと、先ほどのモラルサーベイは、いろいろな質問を用意して 多面的な評価をしております。それを見る限りにおいてあまり大きな変化はございま せん。これは会社の文化というようなことも一朝一夕に変わるものではないというこ となのかもしれませんし、あるいは変えるべきものでもないということなのかもしれ ませんし、それが賃金制度の影響によるものかどうかもわかりません。 Q プラクティスの個々人の労働者への当てはめについて、上司の評価はどのような人 がどのように評価するのかということと、その評価にどの程度手間がかかるかという ことを具体的に教えていただけますでしょうか。 A 事業本部の下に事業部という組織があり、一般社員ですと事業部長が最終的に評価 を決めることになります。また、格付の責任は事業部長が負っているということに なっています。  どれ位の手間をかけているかですが、本当に運用は大変です。評価について、でき るだけ評価を透明に公平にということから、予め評価基準を細かいところまで決めて しまい、それを部下に公開をして自分で結果を分かるようにしている職場もあります。 そうしたことに比較的なじむ仕事、例えば営業のような職場がそうしていますが、な かなか正解がない評価という行為において、納得感を得るための一つの方法かと思い ます。 Q 役割定義書は異動ごとにつくられるということでしたが、あるポジションについた ときの役割というのは、初めからそのポジションで決まっているのではなく、人ごと に決め直しているのでしょうか。 A 全くの後任人事であればつくりません。但し、組織をよく変えるものですから、新 設のポジションというのも結構あり、そういう場合はつくることとなります。 Q 先ほど従業員の意識調査の結果を報告していただいた際に、年功的な点あるいは業 績が重視されているかについて、業績が高くなって年功が下がってきていることにつ いて、従業員の方が理解されてきているということだったのですが、この調査の項目 は業績と年功ということだったのでしょうが、これに能力という項目を入れた場合に、 年功と業績との兼ね合いで、御社の場合に能力はどの辺に入ってくるのかというとこ ろを教えていただきたい。 A 先ほどの調査結果では、話の筋からこの2本の線だけを取り出して強調しています が、実際のオピニオンサーベイでは10個位の項目を立てて、その中で何が最も反映さ れると思うかについて2つまで選んでくださいという質問の形をとっています。  その中には能力、努力、時間、仕事の難易度といった項目があり、業績と年功は少 し目立った動きをしていますが、その他の項目は全て概ね10%から20%のところで、 この10年間ずっと変わっておりません。 Q 会社にとって成果を上げられる能力を分析した結果をベストプラクティスという形 で社員に示して、具体的な文書で書かれているそのポジションにその能力のある人が つくことができるというのは、制度として極めて論理的でリーズナブルだと思います。  もう一方で、運用をしている立場から見ると、このような形で社員に示せば適用さ れた結果に伴う納得性もでますし差をつけることもできますが、極端に大きな差をつ けるわけではないということでしたので、求められる能力が明確に示されたという意 味では、会社にとっての大きなシンボルになる柱のようなものということでしょうか。 A それが一つのねらいです。例えば、ITのところで新しいビジネスをやろうとしま すと、覚えなければならないことがたくさんあり、日々新しいことを勉強していかな ければ勝負にならないという意味で、細かく資格要件を規定していて、これが納得感 を高めることにつながっていると思います。 Q 資格については、業種での外の世界にもいろいろとあるかと思いますが、社内独自 の資格制度のようなものはつくられていますでしょうか。 A ございます。社内のものと社外のものがあり、それを昇格要件への組み込むことも しています。組み込むときには、必須ということで組み込むときもあれば、推奨とい う形で組み込むこともあります。  そのようなものをきちっと定めていかないと勝負にならない世界が厳然としてあり ます。特に、情報処理の世界では、外部資格を取らないと昇格できないということが はっきりと書いてあるものもありますし、社内の情報処理関係の資格制度、試験制度 を昇格要件に絡めていくことも当然あります。 Q 最近のはやりとして何人かが評価をしていくといいますが、場合によっては下の人 から上を評価することをしているところもあるようですけれども、資格要件をはっき りさせておくと、評価をする人がたくさんいる必要がないような印象を持ちますけれ ども、人格とか指導力の部分で多面評価のようなことはしておられますか。 A SEやソフト開発の比較的上位のところについては、いろいろな資格要件を入れる ほか、例えば、大学の先生のような外部の方も入れて昇格の判断をするということも しております。 Q プラクティス制度は、自己啓発といいますか、能力を社員が高めていくという観点 で、社員が自分の能力を高めるインセンティブとして、成功したというように評価で きますでしょうか。また、具体的な分析結果はありますでしょうか。 A 我々としては、ある程度効果があったのではないかと思っています。先ほどの従業 員意識調査も一つの成果だと思っております。業績によって勝負が決まっているとか、 格差はこの程度でよいということが、従業員からの評価のあらわれではないかと 思っています。 Q 生計費の面から最近の動向やお考えをお聞きしたいのですが、今まで賃金は潜在的 な能力で払うとか、顕在化された成果で払うという議論を日本の社会はしてきたわけ ですけれども、最近の生計費の推移はだいぶ上がってきていまして、壮年層を見ます と教育費も相当上がってきていますし、これは私立学校に上げるご家庭が増えている せいかと思いますけれども、あるいは老人介護で医療費が増えてきていることで、会 社の成果の配分という観点だけでしたら、潜在的能力とか顕在化した成果とかという 議論で済むと思うのですが、労働側の金銭面のニーズもだんだん上がっているように 見えますので、そのような論点は、賃金を決めていく賃金形成という観点からどのよ うに織り込まれているかについて教えていただきたい。 A 生計費についてということでは、当然組合が春闘のときに物価が上がったから云々 と言いますが、今時点で見れば物価はあまり変わっていないこともありますし、当社 の水準は世間水準から見ても、それなりに達していますので、当社の個別労使の中で は生計費の直接的な議論にはあまりなっておりません。 Q 御社の場合、正社員の賃金の水準があり、ホワイトカラー労働者が多いと思います けれども、そのような人たちのやりがいという観点から、能力か成果か、戦略的に賃 金を形成していくことが基本であり、引き続き賃金形成の中心的な議論になるとしま すと、上部組合の要求で物価の上昇分による賃金への反映を掲げていますが、個別の レベルでの労使交渉としては像を結ばないということでしょうか。 A ここ数年はあまり議論をしないで済んだということではないかと思います。また物 価が大きく上がってくれば話は別だと思います。 Q 今回の物価上昇の原因のほとんどがガソリンでしたので、これから物価はまた下が ります。ただ、価格指標の推移を10年位の数字で見てみますと、確かに医療費も上 がっているし、教育費とかも上がっていますので、中年層のところとか、老人を抱え ている世帯では具体的な問題としてあると思うのですが、労働組合の中で具体的に提 案されるなどで、手当や他の制度での対応などがありましたら教えていただきたいと 思います。 A 物価、あるいは社会保障、健康保険の従業員負担分が上がったとかいうことは言わ れますけれども、結果としてそれを詰めていくことにはなっていません。  ただ、そのようなことから答を出したわけではないのですが、結果として、この何 年かは1,000円とか500円を定昇相当分に加えて支給をしているということはありま す。 Q 正社員の世界ではそれが相場感と思いますので、生計費をめぐる議論は非正規労働 者のことになるのでしょうか。 A 標準生計費が幾らで、最低生計費が幾らなのかということが、なかなかできないと 思いますので、生計費との関係で議論するのは難しいという気はします。 Q 非正規労働者については社会的問題と思いますが、組合との交渉事項ではないとい うことは、非正社員の賃金形成について総合的に考えているところがあまりないとい うことなのでしょうか。 A 考えているところがないといいますのは、労使という舞台においてということで、 会社としては大きな問題意識を感じています。  水準の話もさることながら、私どもの事業では生産変動がものすごく大きく、変動 対応力がとれないといけませんので、非正規社員の体系を私どもの従業員の体系にそ のまま持ってくるのは難しいと思います。 Q 今、雇用状況が相当悪化して、これから正社員についても影響が出ると言われてい ますけれども、景況が悪化したときの雇用対策の1つとして、雇用維持というものが 日本の特徴で、製造業ではオイルショックのときを含めて雇用維持をしていただいて きたのですが、今回の経済不況に当たり、雇用調整助成金の活用も含め、このような 仕組みがあれば少しでも雇用の維持ができるというようなことが何かありますで しょうか。 A 助成金はいくつかの関係会社で活用させていただいていると思いますが、いろいろ と緩和をしていただく動きにもなっていると聞いておりますので、引き続きやってい ただければと思います。あとは、緊急対策にはなりませんが、私ども労使の問題でも あるとも思っていますけれども、非正規従業員の問題がここまでクローズアップされ てきている原因を真正面から受け入れるときが近づいてきたのではないかという気が しています。 Q 最近、ワークシェアリングが話題になっていますが、この実現可能性についてはど うでしょうか。 A 当社は9割以上がホワイトカラーですので、今まで取り入れたことはありませんが、 一部の製造部門では検討できるかもしれません。  むしろ緊急避難型に近いような、いわゆる賃下げの手段としてワークシェアを使う という考え方はないわけではありません。