第1回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日時 平成20年12月12日(金) 10:00〜12:00 場所 中央合同庁舎5号館13階 厚生労働省職業安定局第1会議室 内容 今後の望ましい賃金制度の在り方について 参加企業(業種):総合化学 ○企業の概要について  弊社の沿革ですが、石炭化学と石油化学の2社が1997年に合併してできた会社でござ います。その前段は、石炭化学と申しますか鉱山を母体にした化学会社で、肥料である とか染料などをつくり始めたのがルーツとなりますが、原料的に石炭化学の限界が来て いた中で石油化学に進出せざるを得なくなったという部分もあり、その中で石油化学を 中心としていた化学会社と統合されたということでございます。  企業理念ですが、地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質 の製品とサービスをお客様に提供し、もって広く社会に貢献します、としております。  会社概要ですが、2008年3月末で資本金は1,030億程度、関係会社は、連結で63社、持 分法で38社、従業員は、連結ベースで12,814名、単独で5,026名でございます。連結売 上高の推移でございますが、2003年は大体1兆円位だったのですが、2007年は約1兆 8,000億まで増えております。ただ、これは事業そのものが急拡大していったというよ りは、原料が上がったことによる製品価格の高騰ということで上がってきたということ だと思います。  92年以降の連結営業利益の推移でございますが、90年代から03年位まで大体500億前 後で推移してきておりましたが、ここしばらくは少し伸びてきております。ただ、ご存 じのように今の状況ですと急速に原料は下がっておりますが、それ以上に製品価格が下 がっていまして、やはり数量的にシュリンクしているということで、収益に対する圧力 がかかっているというのが現状でございます。  当社の目指す成長の方向ですが、98年、それぞれ合併後に中期経営計画ということで、 最初は3年ずつ、2004年からは4年ずつの中期計画を作成しています。98年は合併効果 の早期実現、それからその次の2001年の中期計画が当社グループのさらなる拡大と成長、 2004年から少し方向を変えまして、量的拡大から質的拡大への転換、そして現在は「絶 えず革新を追求し、化学のちからで夢をかたちにする企業グループ」ということで、現 在このような企業グループ像を目指して進んでいるということでございます。  組織でございますが、大きく、事業部門は3事業本部、機能材料、先端化学品、こち らがどちらかといいますと機能系の製品、それから基礎化学品事業本部、これがこれま での石油化学をベースにした基礎化学ということで、大きく分ければこの2グループに 分かれます。それを支える生産・技術本部、研究本部、コーポレートの各部門、販売の 支店、それから海外現地法人、このような組織を編成しております。  事業分野は、売上げベースだけでは分かりにくいですけれども、参考までにどのよう な比率かといいますと、基礎化学品の売上げが1兆1,000億で62%を占めております。 機能材料と先端を合わせますと約6,200億でございますので、売上比率としてはまだ基 礎化学、石油化学が上ですが、収益面ではほぼイーブンとなります。将来的には機能製 品の方を強化していくということです。なかなか売上げベースだけではつかまえ切れな い部分もございますが、このような構成になっております。  国内事業所でございます。生産拠点が5か所ございます。イソシアネート、それから 眼鏡レンズとか農薬を中心にした工場。PTA、繊維原料とかPET樹脂、ペットボト ル、触媒、機能樹脂などをつくる工場。石油化学コンビナートにはエチレンセンターが ございます。フィルムなど電子材料をつくる加工工場。石化センター、エチレンの中核 工場と機能材料の工場がございます。さらに、研究設備として研究開発センターがござ いまして、1,000名以上の研究員がここで仕事をしております。  本社は東京にございまして、販売拠点として国内に3支店を持っております。  海外でございますが、アジアではポリプロピレンの樹脂のコンパウンド、いわゆる自 動車のバンパーであるとかインパネとかに使われるもの、それからフェノール、ビス フェノールA、これはポリカーボネートの樹脂の原料になるものでございます。それか ら、繊維原料、PET樹脂、ウレタンなどかなり多岐にわたっておりまして、私どもの 海外への進出はどちらかといいますとアジアが主体になっております。また、ビス フェノールAの新プラント建設中で年末に立ち上がります。さらに、ポリプロピレンの コンパウンドの樹脂の工場を建設しております。これも年明けにはスタートということ でございます。  欧米も製品では似ておりますが、特殊なものではカラーフォーマーなどの電材の原料 などもやっております。規模としては、アジアと比べればまだ欧米というのは小さいで すが、ヨーロッパは3拠点、アメリカ、メキシコまで進出しております。  研究開発につきまして、基本的にはそれぞれの事業本部が直接研究部門を持っており まして、それぞれの事業の発展の方向に即した研究体制がとれるように、それを下支え する形で生産技術、例えば、マテリアルサイエンスとか触媒科学などの共通する部分は、 事業と切り離したところで集中して研究を進めるという体制をとっておりますので、ほ とんどの機能は研究開発センターに持っているということでございます。  私どもは、グランドデザインという形で経営ビジョンを持っております。その下支え になるのが、社員に対して示しております行動指針ということ、それから長期の経営目 標としては2015年あたりにどういう形にしたいかというイメージでございます。それと、 目指すべき企業グループ像として、先ほど少しご紹介したような「化学」「革新」「夢」 という目指すべき方向性を示してございます。  この2015年あたりの長期の経営目標ということで、計数的なところをご紹介いたしま す。利益目標としては1,500億、ROAで10%以上。また、経済的な部分だけではなく、 社会・環境との調和ということを打ち出しておりまして、GHG(温室効果ガス)の原 単位指数を下げ、それから産業廃棄物を少なくしていく。さらに、非化石原料活用技術 の開発ということで、石油資源に頼らないようなコースに持っていきたいということで ございます。事業ポートフォリオとしては、先ほどご紹介しましたように機能材、先端、 基礎化という3事業本部をそれぞれ機能させていくということでございます。  先ほどのグランドデザインのベースになっております行動指針ということで、社員に はこういったことを要求しています。3本で、「誠実な行動」「人と社会を大切に」「夢の あるものづくり」という3つが柱でございます。その具体的なものとして、それぞれの 項目をつくっておりまして、これを我々が守るべきベースにしているということでござ います。  同様に3つの柱に沿って、人材マネジメント方針というものを具体化して各社員に示 しております。これは理念的なものでございますので、どう守らせるかという課題もあ ります。これからどのように評価などに反映させていくかということで、評価に反映で きるような形に切り換えてきておりますし、就業規則ともリンクさせてあまり概念的な ものに終わらないようにすることを心がけております。  経営基盤強化の方向ということですが、先ほどのとおり、私どもは3軸と呼んでおり ますが、経済軸だけに偏らない、環境・社会のバランスをとった形で企業活動を進めて いくことをベースに置いております。ですから、このようなCSRを踏まえた経営基盤 強化の策として文化面に経済・環境・社会3軸での業績評価ということで、例えば、環 境軸であれば、GHGガスや産廃の削減をどれだけやったか、といった視点をあるレベ ル以上の管理社員には評価項目として織り込むということを求めております。社会軸も 同様です。この3軸でバランスのとれた企業になっていくという方針を、評価面でも取 り込むという形をとっています。先ほど少し触れましたけれども、行動指針を具体化す ることにより人材マネジメント方針として守るべきものを示しておりまして、これも評 価につなげていくということでございます。端的に言うと、経済一辺倒ではなく、環境 面、社会面を含めた3軸のバランスのとれた経営を目指しているということでございま す。 ○人事・賃金制度の内容と見直しの経緯について  次の資料は合併後より、私ども人事・労制の各テーマから見たときに、それぞれの主 要テーマを中期計画という形で進めてきているものにつきまして要点を整理したもので ございまして、どのようなことをしてきたかということを総括したものでございます。 ポイントだけご説明いたしますと、賃金制度のところでは、97年に合併したと申し上げ ましたが、実際に両社の人事制度・賃金制度を統合いたしましたのは99年の4月、合併 から1年半後でございます。ですから、実質的に人事・賃金制度がスタートしたのはこ の時点ということになります。  実態としては、両社の賃金ベースがかなり離れておりましたので、そこから水準調整 が始まったということでございます。端的に言うと、賃金水準の高い方に合わせていった ということで、間をとるような政策はとらなかったというのが非常に特徴的なことだと 思っております。  2004年4月に、職能資格制度を職務ベースにいたしました。ですから、人事・賃金制 度としてはかなり大幅な転換を図ったということで、ここが一番の転換点だったのでは ないかと思っております。それから、先ほどのとおり社会・環境を含めた3軸を評価に 導入し、新たに行動指針に基づく行動評価を評価に織り込んでいくというような形を とったということでございます。  評価・報酬や労使関係について行ってきたことと、課題について整理してございます。 人事・賃金制度につきましては、管理社員について、職能資格から職務ベースにという 大きな転換を04年に行いました。それに伴って単価上昇抑制というのが結果として起 こってきたのですが、職能資格の年功的な昇格システムがなくなったということで、自 分のポジション(成果責任)が上がっていかない限り給与はそう大きくは変わらないと いう、これまでの流れとは変わったものになりました。それから業績評価の3軸目標、 行動評価を導入したことも大きなポイントだと思っております。課題としましては、3軸 評価導入を踏まえた職務グレードの見直しということで、職務ベース制度は当然のこと ながらキーとなる職務グレードが変わらない限りは給与がほとんど変わらないことにな ります。評価により若干のバンドの中での変動移動はございますけれども、大きくは変 わらないということですから、このグレードをどう位置づけるかというのが全体に大き なウェイトを占めることになります。それから、人件費単価の継続ウオッチということ で、合併時点では高い方に合わせたという意識もあり、相対的な位置づけとしては化学 業界では高いということで、競争力と人材の確保という面のバランスをどうとっていく かという視点が必要だということです。  労使関係で見ますと、賞与について業績連動型のフォーミュラを導入したということ で、個別の交渉はしないという形をとっております。それから、我々は現場を抱えてお りますので、福利厚生の中での住宅施策等が大きなウェイトを占めております。これも 社宅定年制であるとか、いわゆる社宅・寮使用料を上げていくようなシステムで基本的 な考え方を転換していきたいということです。賃上げ問題ということでは、ここ数年は 賃金改定はやっておりませんので、今後どうなっていくのかということと、企業年金、 厚生年金の制度の運用が厳しくなっていることが大きな問題になっているところだと 思っております。  先ほど来のご説明になりますが、97年に合併いたしまして、実際に統合できたのは 99年の4月となります。旧両社とも職能資格制度ということで、この制度自体は似 通ったものでございましたので、この時点で統合するということはそれほど難しい作業 ではなかったのですが、ただ水準が違っていたため、その水準調整をどうするかという ことの問題は大きかったのではないかという感じがしています。そこには職能資格の限 界という問題が常にございまして、昇格しても降格制度がないということは、外部出向 などをしたときに降格できないため高い負担を強いられ、企業として大きな問題、矛盾 を抱えていたということで、04年に職務ベースに移行したということでございます。 07年には、評価制度等、マイナーチェンジということでございますので、ここは根幹に 関わる大きな改定は行っておりません。大きな部分は04年の職務ベースを運用していま すが、マイナーチェンジはまだ必要性があると考えております。  報酬及び報酬水準の考え方は少し総論的になりますが、事業コストの点で十分競争力 ある報酬水準を目指すということは当然のことで、このバランスをどうとるかというこ とが全てでございます。意欲と能力を有する人材を確保する点で、十分競争力ある報酬 水準を目指しますという、相反することでございますけれども、これをどこに折り合い をつけていくかというのが賃金水準という目から見たときに、我々が目指すべき方向だ ろうと思っております。  報酬制度・水準の考え方として、次の満たす要件ですが、社員の意欲を高め、当社グ ループの成長を促進する。併せて、コスト競争力を確保するということでございます。  人事・賃金制度の見直しの経緯を整理して横軸で見たものですが、合併後の99年に人 事制度を統合しまして、合併効果の早期実現、旧両社制度の統合ということを果たしま した。一番の転換点ということでは、04年4月に新人事制度で職務ベースに移行したこ とで、年齢・年功要素の緩和が大きなトレンドになっているということでございます。  全体の経営システムの中でいわゆる全体の人事制度、それから報酬制度がどういう関 連にあるかということをお示ししたものでは、ベースの経営ビジョン、それを具現化す るための中期経営計画、中計と呼ばれるものでございます。それに対応する組織・ポジ ションをどう設計するかですが、職務ベースは組織・ポジションが前提にありますので、 その組織・ポジション設計が重要な要素になります。これに個別の職務評価、そのポジ ションにどれ位の価値があるかが、そのポジションの成果責任に応じた評価ということ になりますので、今までの属人的なものであった職能資格制度というものがポジション 主義に変わるという大きな転換を図ったということでございます。  業績評価制度ということでは、いわゆる成果主義、業績をベースにした評価に切り換 えたということでございます。それまでは、行動態度評価といいますか情意やプロセス の評価が半分を占めていたのですが、職務ベース給に移行する時点で評価制度も大きく 変えたというのが特徴だろうと思います。  簡単に職能資格制度と職務ベースとの違いを比較したものですが、合併後の99年に導 入した職能資格等級は、職務遂行能力に応じてP4からSP1までを昇格していきダウ ンはないというかなり年功型の運用で、このダウンはないということが一番のネックに なっていたと思います。  現在の職務グレードはG1からG8までの8グレードで、一般的に言うと少し多いと いうように評価しています。これはポジション(成果責任)主義でございますので、ポ ジションが変わったときには上がる場合もあれば下がる場合もある。もちろん変わらな い場合もあるということでございます。昇降給といいますか、グレードが上下するとい うことで、そのような意味では全く概念が違ってきております。それが職能資格から職 務ベースに移行する最大の違いだと思います。まとめますと、企業業績への貢献度に即 した処遇、それから、年齢・年次にこだわらない登用と処遇が可能になったということ です。例えば、職能資格制度の場合には、比較的若い層が下の職能等級についている場 合に、いきなり部長職のポストに登用しても、処遇がそこについていかないというネック がございました。ただし、職務グレードではこういう下のグレードから一挙に上がると いうことも理論的には可能でございまして、実際に私どもの運用の中では2〜3グレー ド位を変わるケースが出てきております。最初の運用には抵抗感がありましたが、それ が職務ベースの最大の特徴であるから、それを消すようなことをしてはこの制度の特徴 が活かされないということで、処遇面ではドラスティックになりますけれども、最初強 かった抵抗感も徐々に薄れてきている状況にあります。  職能資格から職務ベースへの移行のときにどういった形で行われたかということでご ざいます。職務グレードに移行したときの全体の配分でございますが、下のグレード G1からG4までに約90%、G5以上というのは少ない構成になっております。それは 先ほど申しましたようなポスト主義ですから厳しいポスト評価を行いますので、当然こ ういうことが起こるということでございます。逆に、それぞれ持っていた職能資格の方 がどのようなグレードに移行したかという分布になりますが、かなり分布が広がってい るということがお分かりいただけると思います。職能資格でSP1というのは最高の職 能資格でしたが、その方がG2、G3とか、低いグレードになってしまうことも起こった ということでございます。中心点はあるのですが、それはあくまでも40〜50%という程 度であって、それ以外では幅広い振れ方をしたこともあり、この移行時には社員にとって ショッキングな部分もかなりあったということでございます。もちろん、若くして高グ レードに行くケースも見られましたけれども、概して高職能資格から低いグレードに行 く確率というのが高かったということでございます。  新旧両制度の年収カーブ比較ということで、象徴的に表しておりますが、移行する直 前の03年の実績ベースで年収がどうだったかというのをこちらの折れ線で表しており ます。新制度案ということで、これはあるバンドの中間点で給与を決めていくというシ ステムでございます。あくまでもイメージでございます。標準者のイメージでございま すが、こういったことでむしろ給与カーブは立つということですが、上のグレードにな ると対象者が少ないということで、総原資でいいますと抑制が働くというのが一つの特 徴だったように思っております。  一方、これはほとんど管理職の制度でございまして、一般社員というのはどうだった かということでございます。成長に向けた人材の確保・育成、成長に向けた経営・組織 風土の強化ということで、一般社員は完全に職能資格制度だったのですが、そこから完 全に職務だけに切り換えるのは一般社員の場合には無理があるということで、職務概念 を一部導入するという形をとっております。従事職務段階別に能力伸長度合いに応じた 職能等級を設定して、職能資格の整理の部分を、年齢、年功要素を「極力」排除し、職 務内容と業績成果を反映するということで、部分的にどのような職務についているかと いう評価要素を入れる形をとったということでございます。  今、ご説明しましたのは、04年4月に職務ベースに移行したときのもので、現在の制 度のほとんどがここで固まったのですが、07年4月に一部見直しをしております。これ は主に評価制度のところでございますが、行動指針、人材マネジメント方針を制度に反 映するということでは、3軸の目標管理、「行動評価」を導入いたしました。また、制度 運用上の不具合の是正ということでは、実際の評価表が細部に入り込み過ぎたり、過度 に点数化して評価したりという不具合を是正するため、制度・手続の簡素化をいたしま した。  全体をお示ししますと、評価のところでございますが、経済・環境・社会3軸での目 標設定、業績評価。部長クラス以上は3軸で目標設定評価を行っています。職務グレー ドでいうとG5以上です。G5以上のラインはこの3軸での目標設定をマストにしてお ります。ただ、それ以下についても、上司の評価ベースを色濃く反映するような目標設 定が求められておりますので、上司がこの3軸で目標項目を定めた場合には、その部下 も当然それを受けた要素を評価要素とせざるを得ない枠組みになっております。成果主 義、業績評価のみというのは、のみというだけではなかったのですが、かなりそれが強 かったので、そこに対する反動といいますか、評価者側がどういう業績目標でやるかと いうところで苦労していました。それをクリアした場合にはいい評価をつけざるを得な いといういわゆる評価者側からの問題点というのを厳しく指摘されました。極力計数化 を避け、プロセス評価を重視するということで行動評価の組み入れ、プロセスといいま すか、結果は出なかったけれどもこういう点で頑張ったとか、逆に結果は出たけれども 偶然だったので下ろしていいとかいう、いわゆるプロセスの部分を入れて欲しいという 要望が強かったことから、行動態度と行動指針をベースにした項目を評価に組み入れた ということでございます。   ○人事・賃金制度の課題  最後にまとめということで、課題も整理させていただきたいと思うのですが、当社は 97年の合併以降、合併効果の早期実現に向けて、旧両社制度の統合を人事・賃金制度上 の最初の課題といたしました。続いて、04年4月に、企業業績への貢献度に即した処遇、 年齢・年次にこだわらない登用と処遇をねらいとして職能資格制度から職務ベースシス テムへと移行しました。ここが最大の転換点と位置づけております。それから、先ほど ご説明したように、07年にグランドデザイン、長期経営目標の設定に伴って、経済・環 境・社会3軸での目標設定と業績評価、先ほどのプロセス評価の導入ということで「行 動評価」の導入、これを特徴とする業績評価制度に改定しました。  現在、課題として考えておりますのは、2010年4月を目途にしておりますが、コスト 競争力維持の観点から仕事と業績成果をより反映した制度の導入ということで、この評 価項目や内容で環境・社会の軸を具体的な評価につなげていくのはかなり難しいことも あり、それをより定量化できるようにしていかなければいけない。それから、自分たち がどういう水準にあるかをあまりわかっていない者もおりますので、相対的な位置の認 識による高い報酬水準の認識徹底と生産性向上に向けた取組加速を基軸として、人事・ 賃金制度について次回の見直しに向けた検討を進めています。細かいことですが、付随 的な手当類で、家族手当や住宅手当につきましては、極力ウェイトを下げていくのが今 の賃金制度の方向性だと思っておりますが、まだ若干そこを引きずっておりますので、 そういったものをどう取り込んでいくかということも課題だと思っています。また、地 域手当の問題としては、基本的には全国一律の賃金を実態として地域の格差を設けてい ないため、地域の賃金相場とか格差がある現場の社員にとってはメリットが多いのです が、逆に都会地区で働く者との格差みたいなものがあるというところも将来の検討課題 と思っております。 ○意見交換 Q 御社を取り巻く環境ですが、鉄の関係では世界的な各企業の動きが新聞などでいろ いろ報道されて、合併による大規模な競争相手が出たりしていて、激しい動きに日本 の企業もいつ買収されるか分からない状況がございましたけれど、化学産業の場合に はどのような状況になっておりますでしょうか。 A 私どもも他の化学会社と合併しようという動きがありましたのも、そのようなもの を見据えての話だったわけですけれども、残念ながらそれができなかったと。ただ、 一般論で言われているのは、日本の化学は個別規模から見ても、国内にエチレンセン ターがまだ10も残っているような状態というのは競争力の面からいかがなものかと いうことが言われております。残れるのは3つ位ではないかということでございまし て、既に直近では、2社のエチレンセンターを統合して一つにしようということが出 されておりますので、これが公式にどうなるかは別にしましても、そのような動きは 実態として起きております。 Q 世界的な動きとして、企業がM&Aを企業戦略にするような流れはあるのですか。 A ヨーロッパ内では結構動きが盛んでございまして、総合化学というあらゆる分野に ということではなく、強みのある事業に特化し、弱みのある事業は外に出すような、 逆のところを目指すとか、特化した動きに既に入っているということです。あと、や はり大きいのは中東勢、巨大化学会社は豊富な資金力を使って買収により規模を拡大 しているという動きが出てきております。ただ、日本国内に対して外資がいきなりM &Aを仕掛けてきているという段階では今はないと思います。ただ、今後は十分起こ り得るということだろうと思っております。 Q アジアに随分進出されているようですが、アジアの国々はそれぞれ労働慣行も違い ますのでいろいろ大変かもしれませんが、アジアで事業所を展開する上で何かありま すでしょうか。また、これは子会社なのですか。 A 海外の事業所は、ジョイベンもございますし、100%子会社もございます。  各国別にかなり様子が違っておりまして、労働力の確保という部分で見ますと、例 えば、インドネシアで中東勢が我々の事業所の5倍位の賃金を提示してベテランのオ ペレーターを引き抜いていくとかいうことが起こっております。また、各国に共通し ているのは、ジョブホップが盛んであるということで、これはお国柄とその思想が違 いますので、なかなかそれを止めるというのは難しい問題ではございますけれども、 私どもは今なるべく本体に取り込む形で、日本で昇格していくチャンスもあるという 制度に切り換えつつあるところでございます。それがそのジョブホップを止める有効 な手段になるかどうかは別にして、そのようなプロモーションの動機づけのようなこ とを今考えているところでございます。 Q 海外で労使紛争に巻き込まれた経験はございませんか。 A 一部の海外関係会社で賃金の制度をめぐって、労使紛争というよりは、整理、説明 の不具合は起こったことが若干ございますので、そのときには本社から少しフォロー したという経緯はございますけれども、大きな労使紛争というようなところまではあ りません。 Q 職務ベースということで、職務という言葉が出てきたのですけれども、職務給と いった場合に一番典型的なアメリカ型のもので言えばヘイシステムのようなものがあ りますが、職務分析をしまして明確に職務分野を切り分けますが、化学ですと化学分 析員ですとか、あるいは検査員ですとか、オペレーターというのも出てきましたけれ ども、それに賃金を張りつけるというのが基本的な職務給設計の基本思想かと思いま すが、御社における職務の概念というのはどのようなものでしょうか。 A 私どものベースは完全にヘイでございまして、ヘイをコンサルに使っていますので 思想は完全にヘイでございます。ただ、社内で実態に合わせて若干アレンジしたとい うことでございますが、ポストと申しましたのは、いわゆる職務評価を個別にやると いうことがベースでございますので、それに合わせて職務グレードを設定していくと いうヘイの思想は何ら変えておりません。ですから、ただそれを横串ではなくて全部 個別にしたということで、例えば、A事業部長という職務はG8であるという、経済・ 環境・社会3軸の面で職務評価しているということでございますが、それは固定でご ざいませんので、環境が変わってそのポジションに求められる成果責任が変われば当 然グレードを見直していくという作業をしております。そのような意味では、全くヘ イの思想と変わるところはございません。  本社の部長クラスでもかなりグレードの差が出ておりまして、G6からG8位まで の振れが出ますので、本社部長ということでは横並びで幾つという話にはなりません。 Q ポジションごとにされますと、複合的な職務を柔軟に取り込むことができるという ことで、ヘイのかなりきっちりした職務分けよりいいのではないかと思いますが、御 社なりに横断的な職務分野を柔軟に扱えるようにされているのでしょうか。 A 異動に伴うグレード変更というのは職務ベースの一つの特徴でもありますし、弱点 でもあると思っていまして、今までの概念で異動に伴う降格というのは受ける側に殆 どなかったものですから未だに抵抗感はございますが、それはある部分割り切ってや らないとこの制度は生きないと思います。そこを柔軟にやるということはマイナスと 考えております。 Q 降格者も出てくる以上は、ポジションが職務の成果責任に応じたものということを 言わないと社員に対して説得性がないので、ここは厳格になるのでしょうか。 A 先ほど申しましたように、今まで3グレード位変わるケースというのが何回も出て きておりますが、もっと極端になり過ぎるとやはりそれはいかがなものかという部分 もございまして、そこは属人的な部分も若干織り込んでいかざるを得ないというのも 現実論だと思っておりますので、余りそこをリジッドにやっても、かえって運用が難 しくなるという部分もございます。 Q 何か具体的な職務の職名とか職務内容を挙げて教えていただけますでしょうか。例 えば、職務グレードの1なり2ですと、どのような職務で実際にどういう職能を発揮 されているとかをお伺いしたいのですが。 A 管理社員は完全な職務給ですので、G1からG8までという振り分けをしておりま す。例えば、同じ工場の課長と申しましてもグレードに差がつきますので、個別評価 をしているものがベースにあります。ただ、概念的に言いますと、G1なりG2とい うのは、工場ですと係長クラスということは言えると思います。それから、課長クラ スというのが大体G3からG4になります。工場の部長クラスというのがG5から G6という、大体その2グレードの割り振りになります。本社の部長、事業部長クラ スになりますとG7からG8になり、そのような区分の中で個別の評価をします。た だし、本社の部長クラスになりますと個別評価の色彩の方が強く、G6からG8超と いうところまでつくっていて、4区分位のイメージになるかと思っております。普通 は余り大きく変えずにG7、G8のどちらかにするのですが、実際には同じ部長クラ スといっても、役割の範囲であるとか、責任の大きさとかが明らかに違うと、それを 明確にしようということで、あえて個別評価で振り分けを厳しくしているというイ メージでございます。 Q 職務分析をして、レベルの高い、力が求められる部長とそうでない部長というのを 厳格にして、グレードに合わせた形で職務ベース表をつくられるようにしたというこ とでしょうか。また、そうした以上、降格させることも大きな意味としてあったので、 柔軟な運用はできるだけ排さなければならなかったということでしょうか。 A 先ほど職務と人の部分についてのお話がありましたので、一つだけこのようなイ メージでお話させていただこうかと思います。例えば、スタッフ職で工場の生産技術 担当というグレードがG2の職務があるといたしまして、人がAさんからBさんとい う人に替わったとしますと、Bさんが生産技術担当という仕事をするのですが、その Bさんは成長しつつある人材で、もう少し新しい仕事を負荷できる場合には、同じポ ジションですけれども、企画担当という仕事をするようにしますと、生産技術兼企画 担当ということになりますので、グレードはG2ではなくてG3にしようという柔軟 な運用を現実的に行っています。したがって、リジッドな職務主義ではなくて、当社 流に少しアレンジしていると考えております。 Q ポジションを兼ね合わせるというような形で、職務表の資格と地位を合わせるとい うことでしょうか。 A ラインの方は比較的リジッドにせざるを得ないというところがございまして、工場 でも各部長とか課長とか係長というラインをあいまいな運用にすると、その持ってい る価値をゆがめることになります。一方で、スタッフのところはもともと職務評価の 難しさというのがつきまとっております。また、研究職はさらにポジション毎の職務 評価が難しい部分もあり、これは宿命的に背負っているところだろうと思っておりま す。 Q 運用面についてお話を伺いたいのですが、最初に合併した際の格付を後からどのよ うに上げていくのかとか下げていくのかということで、職務ベースになったことによ りダウンする人が出てきたわけですが、かつての制度と比べて徐々に上げていきます というのと、上げ下げがありますという制度については、どのようにお考えになりま すでしょうか。 A 実際にグレードというのは給与の幅を持つバンドですが、先ほどの格づけのパーセ ンテージで申し上げますと、例えば、SP1というかなり高い地位の方が職務ベース に移行するときにG1に格付されたとしますと、このバンドをはるかに飛び越えたラ インに位置づけられるということです。ですから、その場合には、一挙に落とすので はなくて、段階的に調整していきますといういわゆる緩和策はとりましたので、一挙 に移行することによる給与調整をしたということではございません。逆に、下の職能 資格から上のグレードについた場合には、このバンドの下につく場合もございます。 これも一挙に上げるのではなく、少し時間をとってバンドの中に吸収させていくとい うように、実態の給与の処遇面ではそのように行ったということでございます。 Q 現状と、15年前、20年前のものと比較していただいて、昔であれば徐々に上がって いく賃金体系と、この上がり下がりのある賃金システムになったものとで、そこにお ける良さというのはどういうものかお聞かせいただきたい。 A 職能資格に馴染んだといいますか、年功的な賃金体系に馴染んだ者からすると、上 がり下がりのある賃金システムに移行するというのは概念が全く変わるということだ と思います。実際の運用では、標準のポリシーラインというものをつくっておりまし て、そこから上に行くと評価をとらない限りは給与が上がらないので、むしろ標準評 価では下がってしまうことも起こり得るという、賃金の漸増という部分から見ると硬 直的になるわけです。そこは職能資格の年功に馴染んだ者にとって、かなり抵抗感が あるのではないかという気はします。ただ、企業としてみますと、この昇格管理をや りながら年功型で上げていくということが、総額人件費の漸増傾向を抑制できないと いうことがございますので、これはとり得ない施策という気がいたします。  現実に職務ベースに移行した以降は、ほぼ人数見合いで総額人件費が動くというこ とに変わってきておりますので、そのような意味では管理はしやすくなっていると思 います。 Q 2004年度以降の新制度の下での人件費は、ブレーキを踏んでいるような推移で しょうか。 A 職能資格制度をとっておりましたときは、年次から見たときの1人当たりの労務費 単価の推移の漸増傾向は止まりませんでしたが、職務ベースに移行してからは、1人 当たりの単価の上昇はほぼ止まっておりますので、総額人件費も人数にリンクして動 いているということでございます。会社規模があるレベルになりますと、職能資格制 度を採った場合、労務費単価の漸増傾向が企業としてコントロールできないというこ とで、人数を減らしてもなかなか労務費総額が減らないといったことが起こってきま す。今は人員に見合って総額人件費が動くということが、企業にとって最大のポイン トだと思っております。 Q 職能資格制度の最大のメリットは、年齢給については職能評価により差をつけて総 額人件費の抑制ができることだと思いますが、現在の職務ベースの制度を導入されて きたのはどのようなことだったのでしょうか。 A 職能資格制度のベースは、昇格管理をどこまでシビアにできるかということにか かっていたはずです。職能資格制度は、昇格をさせれば確実に給与がある水準になって いました。それを人事部門として抑制し切れなかったということです。職能資格制度 が破綻したといいますか、理想どおりにいかなくなった最大の要件は、上司が部下の 管理をするときの年功的な、年次管理にあります。例えば、今年は最高位のSP1に 上がるのは何年入社だというと、そこでトップで上がれる人はごくわずかです。とこ ろが、2年、3年たってくると、2年遅れ、3年遅れということになり、昇格の枠管 理をやや考慮せざるを得なかったということです。ただ、心情的に言うとよく分かる わけですが、このまま張りついて永遠に上げませんということは、職能資格の評価が あいまいであるだけに難しく、どうしてもトップ線から何年遅れという概念を消し切 れなかったため、それがあらゆる層で昇格管理がどんどん甘くなっていき、最後には SP1までは行かないけれども、ある年数が経つとSP2まではみんな行くような発 想になりました。ところが、ポストの用意ができない、仕事の内容と処遇があわない、 外部出向をさせなければいけないなどの矛盾が起き上がってきて、今度は若手のモラ ルが維持できなくなったというところで、職能資格制度の限界に当たったということ が、運用しているときの実感でございます。  それから、理屈どおりに昇格を管理して厳しく抑え切れれば、そうした問題は発生 しないわけで、理屈として職能資格制度が陳腐化したとかいうことではなく、運用の ところでそのような問題が起こりやすいということだろうと思っています。 Q 職能資格制度の運用の限界が管理社員(非組合員)のところから出てきたのであれ ば、一般社員(組合員)の職務遂行能力について考えるということの現代的な意義は 必ずしも失われていないということでしょうか。 A それは失われていないと思います。ただ、先ほど申し上げましたように、全面的に 職能資格というのは年功給が強く出過ぎますので、そこを抑制する意味で職務概念を 導入したということです。 Q 一般社員(組合員)と管理社員(非組合員)は連続していますので、上の方を直し ているのに下の方は直しませんというわけにはいきませんから、職能給のいわば運用 のつまずきは管理職のところから生じてきて、それを是正しつつ組合員の方も若干の 運用をしていかないといけないということは、課題として起こっているということで しょうか。 A 私どもはそのような認識によりまして。それが一般論として定着しているかという と、一般社員も全面職務給に切り換えられているところも結構ございますので、一般 論として言い切ることまではできません。 Q 職能資格制度の問題は、運用面を改善すれば職務遂行能力ということで生かしてい くという面はまだ残っているということかと思うのですが、その文脈の中で、行動評 価という言葉がありますけれども、行動評価をするということは、かつての職務遂行 能力を測るということと少し関係しているのでしょうか。 A 私どもがとっています行動評価は社員が取らなければならない基本的な行動指針に 関する部分でございますので、直接その職務遂行能力を測るという部分と直結してい るということはウェイトからしますと少し違うような気がいたします。もちろん、管 理職の上のクラスのところは、リーダーシップ論であるとか、そういった要素は多く なってくるわけなのですけれども、必ずしもその職務遂行能力を図るという部分の評 価ではないと私どもは位置づけております。 Q 評価という観点でいきますと、そのリーダーシップの発揮もありますし、きちんと 公正・公平に扱うとか、透明性を持った経営をするということで、行動指針の、誠実 な行動、公平・公正、技能伝承、チームワークとかは、能力を測るということではな いのでしょうか。 A 能力と言えるかどうかですが、業績発揮をするためにどういうスタンスで当人が望 んでいるかという、いわゆるスタンスを問う部分ですので、少しイメージが違うかも しれません。我々の行動指針自体がそのスタンスを問う部分でございますので、必ず しも能力という位置づけにはしていないつもりでございます。おっしゃるような能力 の部分というのは、リーダーシップ論であるとか、そういった部分で少し取り込んで はおります。 Q 職能資格をベースにしながら、新しい要素を付け加えて新しい賃金制度を改革して いるということになるのでしょうか。 A 行動指針をベースにした行動態度評価というのは、どうしてもあいまいさが残り、 定量評価につながりにくいという、これは相反した話なので、行ったり来たりするの はやむを得ないと思っていますけれども、今度は被評価者側からしますと、何でそん な評価を受けたのかという部分が分かりにくいということも起こってきますので、揺 り戻しが来るのは覚悟しながらやらざるを得ないということだと思います。だから、 評価の部分というのはかなりトレードオフの部分でございますので、あいまいさを排 除するために定量的な成果主義、業績評価に絞っていくと、今度はどういう目標設定 をするのかが全てになってしまい、クリアしたらそれを評価せざるを得ないという逆 の要素が出てきます。評価者側と被評価者側の相反したところで、どこまで行っても 理想の評価制度とはなかなか難しいのではないかと、我々が常々悩みながらやってい る部分でございます。 Q 評価の仕組みが複雑であるとか、プロセスの評価を織り込まないとうまくいかない ということが現場から出てきた場合に応じて、制度の手直しなどはされているので しょうか。 A これもなかなか難しくて、ある部分で連続性というのがどうしても必要になります ので、微調整とはいえ余り細かく変えますと評価者の負担にもつながるという部分も ございます。例えば、3年なら3年はじっと見た中で不具合を微調整していくことを しないと、毎年手直しをしているとお互いの負担感につながるとかいう部分もござい ますので、見直すというのもなかなか微妙な部分があり、連続性と反映するスピード というこの相反する部分があるという気はします。 Q 御社の場合ですと、いわゆる工場の作業をされている方もいますし、本社でいろい ろな基本戦略を練るセクションもありますし、研究職もあると思います。日本のメー カーで、技術系の方々の場合に高く給料を出すことが難しい状況が現場作業員とのバ ランスであるようですが、分野別に、現場、本社、研究職の価値の置き方を、抽象的 な話でかまいませんので、どのような価値づけで整理をされているのでしょうか。 A 分野別に価値が高い低いと言うことはむしろ危険かなというように思っておりまし て、例えば、研究分野は相対的に低くて損をする、工場の現場は相対的に低くて損を するとかいうことになりますと配置のゆがみが出ますので、その分野の中での責任範 囲にウェイトを置くように補正するようにしておりますし、そのような声をなるべく 我々も聞くようにしておりますので、分野別に大きくということはありません。 Q 研究セクションの一番上のグレードはどの辺になるのでしょうか。 A それぞれの部門の責任者で言いますと、研究所長も本社の部長クラスも大体G8か らG7です。工場長は、トータル管理、総合管理、安全管理などの責任がございます ので、どちらかというとG8のウェイトの方が高くなります。研究所長も同様です。 ですから、どこかが極端に偏っているとか、そのようなことはありません。最初にグ レードを決めるときには抵抗感といいますかいろいろな意見が出ましたが、トップが 決まりますとその下の階層なども決まっていきますので、余りそこにばらつきはない と思っております。 Q 研究だけを見ても、どの研究が高い評価を得られるかというのは難しいですが、会 社にとってどれが一番重要かという価値観との絡みが出てくることはありますで しょうか。 A 最後のところはもう経営トップが価値観を定めていくということをしないと収まり がつかないです。我々が各部門の責任者と調整しようとすると、何でそこを低い評価 にするのかとか、そんな議論を抑え切れない部分がございます。ヘイの尺度を客観的 な評価尺度として点数化しますけれども、それもある思いでの評価というのはござい ますので、完全な客観評価になり切れない部分もございます。例えば、売上高とか定 量的なところはかなり沿ってできるのですが、経営上のインパクトなどの非定量的な 部分もございますので、総合的な判断は難しいところもあります。 Q 最後の価値づけとか評価づけを組織として主体的にやり切れるかやり切れないかと いうのは会社によって違いますので、業績の部門の利益とか市場価値と連動させた形 でやったというのは結構あるのですが、結果的にはそのような形で出てくるというこ とでしょうか。 A 事業部門はそれで計れるのですが、そうではないところがたくさんございますので、 そこも併せたところで見ていくということになりますと、なかなか一定の尺度で切り 分けていくというのは難しい部分もございます。 Q どのような評価をそのポストでしていくかということは、そこが勝負なのでしょう が、会社の経済体力を落とすこともあり難しいかと思います。市場価値での評価づけ を長期的に考えますと、その分野の人材の育成に弊害が出ることもあるでしょうか。 A 利益レベルで事業部門などを切り分けていこうとすると、この変動の大きさをどう 反映させていくとか、今は利益が出ていないけれど事業の柱に将来していくような部 分では、なかなか織り込みにくい部分も出てきますので、その辺をどのようなウェイ トにするかという、そこに尽きるのではないかという気がします。 Q これだけ経済の動きが激しくなると、5年、10年前、利益の上がっていた部門がむ しろ足を引っ張る状況が出てくる可能性もあり、逆に全く想定しない分野が将来のか ぎになる場合もあり得ると思いますが、そのような意味での価値づけをする場合の見 直しは毎年行っているのでしょうか。 A 毎年やっております。いろいろな変動要素があったり、組織を見直したりするケー スもございますので、毎年見直す必要があるのではないかという感じがしております。 Q 海外の方の人事制度についても、この考え方を導入されているのですか。また、ロー カルスタッフについてはどうなのでしょうか。 A 当社の所管のところで当社が管理する社については、全く同様のグレードを導入し ています。ローカルスタッフは別でございます。これは国でも制度が違いますし、各 社ごとに違います。ローカルスタッフのところは同じ思想では運用できないと思って おります。 Q 制度改定から6年程経ったと思いますけれども、この人事制度の改定に伴う従業員 の皆さん方の評価はどのようになっていますか。 A 受け止める側はまだ相当厳しく見ていると思います。先ほど申しました、年功的な イメージを引きずっている部分もございますが、ポストが変わらなければ賃金がほと んど動かないという、何年かたてば昇格というモチベーションが得られるという年功 型のイメージがなくなってきてはいます。それと、異動に伴う降格が起こり得る、起 こっているところに対する抵抗感はそれなりにはあると思いますが、一方で、会社が そのような制度切換えをしていかざるを得なくなったという背景も理解していると思 います。ただ、必ずしもこれが前の職能資格制度から改善されたという評価にはつな がっていないのではないかというのが率直な私どものとらえ方でございます。 Q 労働組合と随分話し合いをしながら来たと思いますが、最終的には労働組合として もこの考え方はやむを得ないという流れだったのでしょうか。 A 組合員のところは、基本が職能資格の制度を骨格にしていまして、そこに一部職務 の内容に応じてという形にしていますから、そこは組合も合意を、納得して導入して おります。また、管理職ほどドラスティックには変えていない折衷的な案でございま すので、そこに対してはそんなに抵抗感はないと思っております。 Q 職務給、職務ベースの給与がリジッドに決まっているわけではなく、人に応じて柔 軟に決めているという話が先ほどあったと思いますが、職務を構成している個々の業 務については、かなりリジッドなものになっているというように考えてよろしいで しょうか。 A 先ほど申しましたように、ラインについてはかなりはっきりしておりますが、ス タッフについては環境の変化で若干その業務自体が変わりますし、個人の持てるポテ ンシャルによっても変わるという性質を持っておりますので、スタッフはリジッドに 決め切れないという部分があると思います。これは職務ベースの宿命だろうと思って おります。 Q これまでの日本の雇用の仕組みというのが必ずしも職務が明確ではなく、普段と異 なるような業務が発生した場合でも、自主的に取り組むとか協調的に取り組むという のが日本の雇用システムのメリットだと、いろいろな本などを読むと書いてあるので すが、例えば、職務ベースの給与システムですと、責任が必ずしも明確にならないな どの問題でうまく働きにくくなった部分はありますでしょうか。 A そこの部分は評価制度の影響が大きいのではないかという気がしております。プロ セスとかそういったものと申し上げているのは、自分の役割から少しはみ出している ような姿勢をどのように評価するか、仕切れるかという部分につながるのではないか と思っております。そこで定量的なところだけで評価しますと、おっしゃるような懸 念というのは強まるかと思います。一時期にうちも決められたこと以外をやりたがら ないとか、狭めてしまうとかいう風潮が出始めましたので、プロセスのところで見る ような評価の運用でうまくクリアしているということです。 Q 評価に関して何を基準にするかを考えた場合に、個人の成果であるとか、部単位の 成果であるとか、会社全体の業績であるとか、いろいろあると思いますが、直観的な 話かもしれませんけれど、どの位のウェイトづけがそれぞれになされているので しょうか。 A ラインの場合は特に事業部門は責任範囲がかなり明確になりますので、それが色濃 く反映されています。ただ、それ以外の管理部門などは、定量的な評価だけでは難し い部分がございますので、そこは個々人のミッションがある分、なるべく明確に個々 人の成果が反映できるように評価目標をつくるような指導はしております。例えば、 人事・労制部であれば全体部門での評価という分も色濃く出ますので、これは業務の 性格上どうしてもチームでのウェイトの方が高いとかいうこともございます。一概に は申し上げにくいですが、なるべく個々人の成果範囲はできるようにというのは気を つけています。 Q 賞与がフォーミュラ化されているという話がありましたけれども、これまでは会社 の業績に応じて賞与をかなり柔軟に変えていけたのではないかと思うのですが、 フォーミュラ化されたことで賞与を通じて業績の調整が難しくなってきていることは ないのでしょうか。 A フォーミュラというのはベースを決めるのがフォーミュラであって、個々人はそれ に評価が出ますので、ベースはやむを得ないと思っております。業績が上がれば全体 を底上げする、下がれば落とすというように、そこだけをはっきりさせる意味ではあ るべき姿かと思います。ただ、反映度合いをどうするかという運用の部分はございま すけれども、今までもフォーミュラとは言わないまでも、流れとしては業績連動で交 渉しながら決めていたので、それを完全なルールにしたという部分でございます。 Q 賞与はやはり業績の連動で決まってくるような形になっているのでしょうか。 A 賞与というのはそのような性格だろうという、これは労使もそう割り切っている部 分がございまして、昔は賞与も生活給的な役割もありましたが、それは業績見合いで 変動してしかるべきものということで、その度合いが一般社員と管理社員では違うと いう認識でございます。 Q 今、非正規の問題が雇用問題としても出てきますし、政治課題になってきておりま すが、御社の場合、非正規の方々の状況というのはどのような割合になっております でしょうか。具体的には請負とか派遣、再雇用の活用などで嘱託とかパートなどの。 A 本社地区などでは、女性の派遣社員のウェイトがだんだん大きくなっていたという 部分がございます。ただ、今の流れの中では、どのような職務に就いているかにより 分けた方がいいのではないかということで、定常的なルーチンで人が替わってもほと んど影響を受けないような職務は派遣社員のまま継続しますが、それ以外の社員に近 い職務に就いている場合はなるべく社員化していくという流れをつくっているところ でございます。派遣社員の社員化をするように今年から大きく舵を切りまして、30名 弱の社員が派遣から転換いたしました。今年は本社だけしかしておりませんが、これ を支店であるとか工場であるとかいうところに広げていく必要があるというのが基本 的なところでございます。  また、工場サイドで若干の派遣のところとか、いわゆる違法派遣のようなところも 若干あったのも事実でございますので、整理して切り分けたところで、社員化すべき ところはして、それ以外のところは協力会社さんに完全に委託するような切り分けは 一応終わったと認識しております。 Q 正社員の就業規則が適用されない、いわゆるパートはどのくらいいらっしゃいます か。 A 再雇用制度導入後、再雇用制度の中にフルタイムとパートタイムということで選択 できるようになっておりますが、ほとんどの方がフルタイムを選択されていますので パートタイムはあまり多くないと思います。業態的にパートという業務が少ないのか もしれません。関係会社で歯科材料とかを生産しているような特殊な業務をやってい るところではパートを使っているケースがございますが、本体関係ではパートの ウェイトというのは少ないと思います。 Q 今の動きとして、よくコンピテンシーという言葉が言われますが、このコンピテン シーをどう考えるのかというのも重要なことかと思っています。今日のお話にあった 行動評価を加味してということは、いわゆるこのコンピテンシーの流れなのでしょう か。 A コンピテンシーを導入しようということで準備にかかった部分もございますけれど も、これを実態で個別に管理していくのはかなり難しいので、代表的なもので幾つか サンプルをつくり、それを指標にしている部分はございますが、行動評価とは少し違 うと思います。 Q 行動評価とかコンピテンシーは大体同じもので、職能資格についても職能評価とい うことにした場合、職能資格制度が思いどおりにいかなくなったことは、職能資格制 度というものを我々が十分育てていくことができなかったと捉える考えをどのように 思いますか。 A コンピテンシーという概念も解釈によっていろいろありますが、発揮能力で見たと きに、個別の人間の能力に焦点を当てて評価していくというのは大事なことですが、 それを個別にどこまでやり切れるかという面でヘジテイトしているというところがご ざいますので、うまく使っておられる会社さんもあるようですので理想形という気は します。ただ正直、その労力とか負担感とかがつきまといますので、我々が導入し切 れるかどうかというのは申し上げ切れない部分もございますけれども、理屈としては 正しいと思っております。  職能資格制度そのものが陳腐化したわけでも何でもないし、あるきちっとした設計 に合った運用をできれば決して、これは相対的に職務の方が進化しているとかそのよ うなことでは全くない、概念の違い、整理の違いです。そのような昇格のところの管 理、評価ができて、それを運用の中で抑え切れるといいますか、言い方は変ですけれ ども、それができれば問題もない制度だと思っております。ただ、それが具体化でき なかったところに我々が忸怩たる思いを持っているということだと思います。だから、 今でも職能資格で立派に運用されている会社さんもございまして、決して近代企業に とって古い制度という問題では全くなく、考え方の問題、管理の問題と思っておりま すし、職能資格制度は昇格管理に尽きると思っています。その評価を何らかの評価軸 できちっと皆が納得できるようにできれば何の問題もなかったのだろうと思いますが、 それができない限界があったということだと思っております。