第3回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日 時 平成20年2月26日(火) 14:00〜16:00 場 所 中央合同庁舎5号館9階 厚生労働省議室 出席者 百貨店(A社)、小売業(B社)、総合スーパー(C社)     厚生労働省側 政策統括官(労働担当) 他 内 容 働きがいのある職場をつくるための取組 −その成果と今後の課題− ○百貨店(A社) ・企業の概要について  全体の流れとして、弊社の会社概要の説明、企業グループの10年ビジョン、「会社の 方針」、「人事制度の概要」、「従業員体系」といった人事制度の全体的な話をした後に、 キャリアとワークライフバランスの個別施策、そして最後に今後の方向性という枠組み で話をしていきたいと思います。  会社の概要ですが、創業1886年、資本金366億円、事業内容は百貨店業。現在7店 舗で営業をしています。  次に会社の方針ですが、弊社は2015年のあるべき姿のイメージを示した「10年ビジ ョン」を策定しています。2015年に向けて企業グループの強みであるお客さまの声を細 大漏らさず聞き取る能力と、お客さまのご要望にスピードをもって実現する能力を活か して、店頭にいる販売員一人ひとりがお客さまに提供する顧客満足を最大化するなど、 お客さまとの信頼関係を再構築し、強みと規模を活かした新たな顧客満足につなげる仕 組みづくりに力を入れています。  お客さまにとってのマイストアとなるべく不特定多数のお客さまとの接点は維持しな がら、特定多数のお客さまのニーズにお応えする。特定多数とは、不特定多数ではなく、 一定のグルーピングのお客さまという意味での特定多数ということです。特定多数のお 客さまのニーズにお応えし、モノのみならずコトも提供することで、ご満足いただくレ ベルから期待を上回る価値を提供することで感動していただき、お客さまの生活全般に わたってご相談いただけるようなトータルライフ・アテンダントになることを目指して います。その結果として、連結営業利益500億円を安定的に確保できる企業グループの 実現を目指すというのが会社の方針です。 ・人事制度の概要について  賃金制度については、2000年に、その当時の経営方針だった高い付加価値を創造する 企業を目指すために、職能資格制度から役割成果主義へ、人事賃金制度の基軸を大きく 変換しました。企業戦略の下に組織が作られ、具体的な役割を決定し、その役割を各自 が遂行することで成果を実現し、次の戦略につなげていくというサイクルを進めていま す。そのためには職能資格制度のように人基準ではなく、仕事基準の役割とその成果で 評価していくことが必要になってきます。ちなみに弊社では成果といっても最終の結果 のみではなく、プロセスも評価の対象としています。  もちろん人事制度の基軸が変化すれば、当然、求める人材も変化してきます。会社と 個人が上下の管理する関係ではなく左右対等のコミュニケーション型、言い換えれば会 社が用意したレールの上を進むのではなく、自らが積極的にキャリア開発をする。会社 は、その機会と手段と環境を用意し、個人と会社が一体となって市場性ある専門性と自 律性を併せ持つ人材を目指しています。この後お話するキャリア形成の個別施策は、こ の考えに基づき制定されたものです。  弊社の従業員体系ですが、社員、メイト社員という1年更新のフルタイム契約社員、 サムタイマー社員という1年更新の短時間契約社員の3つに大きく分けられます。人的 生産性の向上を図るために社員の採用を4大卒以上に絞りメイト社員の採用を戦略的に 進めてきた結果、ここ数年で従業員の要員構成が大きく変わりました。将来的には契約 社員の比率がますます増えていくと思われます。  このように要員数や均衡待遇の面からも、雇用形態ごとに担う役割の範囲を明確化す るとともに、それぞれの契約社員制度の充実を図り、契約社員から社員に転換する制度 を導入しています。 ・自律的キャリアに対する施策について  キャリア支援の全体像ですが、先ほど「求める人材像が変化して、市場性ある専門性 と自律性」という話をしましたが、会社は、個人がキャリアを高めるための機会と手段 と環境を提供することで、各人が持っているエンプロイアビリティの向上を支援してい ます。弊社では、労使でエンプロイアビティの向上に向けた労使共同宣言、自らの意思 と意欲を持ってキャリア開発にチャレンジする旨を従業員に向けて発信をしています。  次に具体的な制度の紹介です。チャレンジキャリア制度という、社内公募(求人型公 募)制度とチャレンジ申告制度の2つを2001年から導入しています。社内公募制度は、 新規プロジェクトなど、会社側の人材のニーズに基づいて能力と意欲ある社員を公募す るものです。チャレンジ申告制度は、いわゆるフリーエンジェント制です。両制度で、 毎年20名程度が申告をし、4割程度が異動しています。個人にとっては自らが希望する キャリアプランを実践できる機会であり、会社にとっても必要な人材の確保や意欲・期 待成果などが高い人材を配置できるという成果につながっています。  自己申告制度とCDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)は、人事部が 直接キャリアプランや異動希望を吸い上げる制度です。自己申告制度の対象は社員です が、同じようなものを契約社員にもアンケートという形で実施しています。上司とのコ ミュニケーション度合や職場の環境などについての生の声を拾い、会社の制度に活かし ています。CDPは、特に戦略的人材の育成につなげているため、対象者を入社1年目、 3年目、昇格後などに限定しています。  CLD研修(キャリア&ライフデザイン研修)は、2002年に導入され、「自己への気 づき」をテーマに外部講師を招いて、労働組合と共催で実施しています。  ネクストキャリア制度は、社内のキャリアではなく社外も含めたキャリア支援の制度 です。いわゆる早期退職制度ですが、人員削減という観点からではなく、引退(ハッピ ーリタイアメント)や社外を含めたキャリアアップなど多様化している個人のニーズに 合わせて、その選択肢を提供する目的でつくられました。多いときで40名程が手を挙 げていましたが、制度を導入して5年程経ちましたので、現在は毎年20名程度で推移 しています。  フルタイムの契約社員のキャリア支援制度は、2005年から社員登用制度を開始してい ます。再契約回数が5回以上で職場のリーダーを担っている方を対象としています。初 回は15名程度が応募し、そのうち半数が採用。2回目は50名程の資格者のうち応募し たのは25名、そのうち8名が採用されまたので、現在16名の方が社員に転換してチー ムのリーダーとして活躍をしています。ちなみに今年は40名程度が応募し、11名程度 が採用される予定です。中には、短時間契約社員からフルタイム契約社員になり、この キャリアパスを使って社員になった人もいます。今後の方向性としては、有資格者の増 加と新卒の社員採用難なども踏まえて、転換の人数を増やしていくことを検討していま す。  一方、時給制の短時間契約社員の制度ですが、こちらも月給制のフルタイム契約社員 への転換制度を用意しています。こちらは毎年50名以上が制度を利用してキャリアア ップを図っています。基本的に全員が受かるわけではなく、2倍位の倍率です。外部の 方が応募した場合は、10倍以上の倍率になっていますので、比較的採用率は高いと思わ れます。 ・ワークライフバランスについて  これまでは、働きがい=キャリアアップ、自分のスキルをどう発揮していくかという 面からの視点でした。次は、ワークライフバランス=仕事と個人の生活をどう両立して いくか、また、それを支援する仕組みとしてどのような制度があるかを紹介します。 ワークライフバランスで、まず思い浮べるのは育児、介護関連ですが、弊社では他社 に先駆けて昭和46年から育児休職制度、昭和57年に介護休暇そして平成元年に育児・ 介護の短時間勤務制度を導入してきました。そのため契約社員も含めますと、延べ人数 で育児休暇は1,300人、介護休職は50人、育児勤務は700人、介護勤務は100名と、 単純に合計するだけでも2,000名以上が制度を利用している計算になります。  また、小学校3年生までの子どもがいる場合に、早番・遅番などのシフトではなく、 早番の固定勤務を選択できる育児シフト勤務という制度があり、累計で100名程度が利 用しています。その他に看護休暇制度などもあります。  在籍する女性社員の約20%が育児休職の取得経験者であることからわかるように、弊 社では、育児関連の制度は浸透しています。2005年度からは契約社員にも休職制度を導 入しています。また、2008年4月から再雇用制度の充実、契約社員のフルタイムから パートタイムへの転換制度(サムタイマー社員一時転換制度)を導入します。今後も一 層の制度充実を図っていく予定です。  導入予定の再雇用制度ですが、これまでの再雇用制度にあまり実績がなかったため、 今回、具体的な退職事由や復職時の条件を設定し、わかりやすい制度構築を心掛けまし た。具体的には結婚、出産、育児、介護、配偶者の転勤等で退職をした者に対して、8 年以内であればメイト社員として再雇用をする制度です。通常、メイト社員から社員へ の転換は再契約5回以上が要件ですが、元社員がこの再雇用制度を利用した場合には、 1年経過した段階で社員の転換試験を受けることを可能としました。  サムタイマー社員一時転換制度は、育児・介護のためにフルタイム勤務が困難な契約 社員(メイト社員)が時間の制約の少ない短時間勤務のサムタイマー社員として勤務を 継続し、事由が解消された時点でフルタイムの契約社員として雇用を保証する制度です。 2008年の4月に導入を予定しており、転換期間内であれば元の処遇を保証する点が制 度のポイントとなっています。  その他の制度として、ストック有給休暇制度は、失効した年次有給休暇を積み立てて、 育児や介護能力開発に使用できる制度です。また、福利厚生の一環として、カフェテリ アプランのポイントを個人のニーズに合わせて使用することも可能になっています。 ・今後の課題について  今後の方向性としては、1つは当社のDNAを継承できる人材の育成・確保のために、 多様な働き方をどのように企業価値につなげていくかということ。また、そのための制 度の確立や、その制度を正しく運用し推進していくということ。もう1つは、現行の人 事制度の検証を今後も継続して行っていき、それに伴う見直しをしていくことです。具 体的には、社員や契約社員という身分ではなく、役割に応じた処遇の推進。魅力ある契 約社員制度の検討ということで、契約社員から社員への転換数の増加や業績連動賞与見 直しなどを考えています。 ○小売業(B社) ・企業の概要について  会社の概要です。資本金は約68億円。従業員数は、約4,000名の会社です。主な事 業は自社ブランドを中心とした商品の企画・開発、販売事業です。  自社ブランドのコンセプトということで、訳あって安いということで、素材の見直し、 工程の点検、包装の簡略化を行い、1980年に大手スーパーのプライベートブランドとし て、40アイテムでスタートしました。今では、いちばん大きな商品ということでは家も 販売していまして、7,500アイテムを扱っています。  過年度経営実績ですが、当社の製品のコンセプトが生まれたのは1980年で、その後 は大手スーパーの事業部として成長し、1990年に子会社化した段階では、200億円強の 売上げがあり、1999年まで、売上げは約4倍、計上利益では100倍以上となりました。 その後、2000年、2001年に売上げが落ち込んだことから、新体制により再成長をしよ うとしています。当社のコンセプトが生まれてからは、もう30年近く経つのですが、 会社になってからはまだ20年弱という若い会社です。 ・人事制度について  当社の人事制度について説明します。まず、契約区分と内容ですが、社内で「社員」 と呼んでいるのは、契約形態が無期契約、労働時間は1日8時間、給与制度が月例給の 本社員と、店舗によりセールスエキスパート社員と呼んでいる嘱託社員の2つの区分で す。また、有期契約、1年契約で1日8時間の月例給の社員という区分もあります。パ ートナー社員とアルバイトという契約区分では、パートナー社員は1日7.5時間の時給 制度、アルバイトでは週28時間未満として契約としています。  契約区分ごとの階層ですが、本社員については5つのグレードに分けた職務給になっ ています。グレードのいちばん上がG5で部長クラスになっています。東西店舗の基幹 店長が該当します。準ずるG4は大型店の店長などの課長クラスです。その下にD3、 D2の形で続きますが、新入社員はD1からスタートになります。また、店長代行や売場 責任者などが該当するSE社員については、現在1階層のみの職務給になっていますが、 SE社員の中でもかなり力量差が出てきていますので、2008年の上期中に3階層に改定 する予定です。  パートナー社員とアルバイトについては、基本的に週の労働時間により区分して、職 務レベルは平行にしています。A1、P1レベルからスタートしまして、パートナーの場 合ではSEの一歩手前になるのですが、いちばん上のレベル6では、売場づくりなどの 立案・変更の職務まで任せるようになっています。  契約区分別人員数については、当社の業質もありますが、パートナー社員とアルバイ トの比率が高くなっています。全社で見た場合、本社員比率は11.8%、嘱託社員が3.6%、 SE社員が9.1%で、残りについては全てパートナー社員とアルバイトで構成されていま す。  1店舗の平均人員をみますと、契約区分別の構成がよりはっきりしまして、1店舗平 均で本社員が1.5人、SE社員が2.0人、パートナー社員は10.0人、アルバイトが16.6 人となり、当社の人員構成には1つの特徴があります。  本社員と嘱託社員の男女別年齢区分ですが、平均年齢は全体で31.8歳、女性が29.9 歳、男性が34.1歳で、最多年齢は女性が29歳、男性が33歳です。35歳以下の社員が 約8割です。1つはまだ若い会社なので若い社員が多いということ。また、女性比率が 大変高く64%になっています。  本社員と管理職の区分ですが、本社員の男女構成比は、男性63%、女性.37%。平均 年齢は男性が36歳、女性が31歳、全体では34歳です。当社の店舗は250坪くらいの 小さな店舗が多いこともあり、店長の平均年齢は31歳です。いちばん若い店長は、大 卒1、2年目でなりますので、23、24歳という者もいます。また、女性管理職比率が高 く35%、小型店クラスの店長では約半数、標準店で4割、本部を含めた課長クラスで 18%、部長ですと少し落ちてしまいますが10%です。役員と部長の平均年齢は54歳、 46歳と平均的ですが、若い人も就任しています。当社は、パートナー社員とアルバイト の比率が高く、年齢構成が管理職も含めて全体的に若く、加えて女性の比率が高い会社 です。 ・働きがいの施策について  今回のテーマである「働きがい」についてですが、2007年度の人事の政策の柱として は、「強くて働きがいのある会社にしたい」ということで、弊社は何でもメール化するこ とで改善していこうと、メーカーに学びながらメール化を進めていました。従来から組 織化制度調査に加え、ちょうど2007年からGreat Place to Work Institute, JAPANの 主催に「働きがいのある会社」のリスティングがあるということで参加しました。これ はあくまでメール化したいということで参加したのですが、94社中25社以内で、先般 のビジネス誌にも名前が掲載されました。  この中で社員から上がった声として、統計を分析しますと、働きがいに対して重要の 相関が高くて、かつ、社員が当社にそれがあると認めてくれた項目なのですが、この調 査自体は56の質問と人事から出す資料に基づくものですが、その項目ごとに見ますと 「楽しく働ける会社である」、「私を単なる従業員としてでなく人として大接に扱ってく れる」、「この会社で働けることを胸を張って言える」、「地位や立場にかかわらず組織の 一員として扱われている」や「この会社は真面目に従業員の提案・意見を求め、それに 対応している」などのコメントがありました。  実際の施策としては、全社の方針として、人が育ち、かつ会社が厳しい競争に生き残 るために、個人のルールで仕事をする会社から業務を標準化し、業務基準書で仕事をす る会社になる。というテーマで進めています。これは仕事の進め方という意味です。具 体的には、業務の標準化と改善活動ですが、販売では、マニュアルを作っています。本 部では、昨年度に1年をかけて、管理系全部を含めた業務基準書、これもマニュアルな のですが、全ての業務についてあります。これにより業務をメール化して、仕事が属人 的にならないように、またメール化したものを常に改善し進化させたいということで進 めています。  店舗についても、改善活動とか、店舗で困ったことはないですか運動を行うことによ り、声を上げてもらうようにして、1週間以内にフィードバックしています。これは各 部門の役員が責任者になっているのですが、優秀な者については半期に一度、全社の店 長も含めた幹部集会で表彰しています。  業務標準化の一環として「毎日がノー残業」という取組を昨年の1月から始めていま す。本部も店舗なのですが、とにかく集中して仕事を片づけて、早く帰れるようにしよ うというものです。当社は、生活に関係する商品の企画をしていますので、毎日遅くま で残業していたら、いい仕事はできないということで、とにかく仕事の無駄をなくすと いうことに取り組んでいます。その一環として、業務基準書の整備も進めています。ま た、仕事の構造を見直して販管費を30%下げようという30%委員会や、店頭作業をな くすプロジェクトを進めています。少し学校のようですが、やることをきちんとやる風 土を作ろうということで、「挨拶運動」や、ごみ箱をきちんとして帰るなどということも 含めてやっています。仕事を仕組みでなくすということをメーカー発想でということが、 これまでトップが繰り返しいっていることです。  働きがいを上げるために関連していると思われる施策をご紹介すると、Great Place to Workの働きがいの定義では、大きく3つの柱と5つの要素に分けられることになっ ているのですが、その要素別に整理をしています。対象となっている社員区分も設けて います。  誇りについては、これは会社が何かしたというわけではないのですが、当社の場合、 自社ブランド商品のコンセプトが強く、それ自体が入社動機にもなっていて、そのもの がある意味働きがいの源泉になっているということがはっきりしています。これについ ては、会社としてはそれに甘えることなく、進化させていかなければいけないと、また そのDNAを維持するための教育や共有化を仕組みとしていこうと取り組んでいます。  信用については、業務標準化ということで、とにかく仕事を効率することにより、生 産性を上げて、それにより技術の移植も促進することです。配置転換により人を育てる ということがありますので、すぐに次の仕事に慣れるとか、専門性を上げて、仮に他社 でも負けないくらいのスキルを身につけようということで進めています。  公正については、年齢、性別、学歴に関係ない登用ということです。これは歴代のト ップがそういう意向もあったことと、業種の特徴もあり、性別、年齢等に関係なく、学 歴についても全く関係なく登用をしています。  信用ということでは、先ほどの「毎日がノー残業」や「開店30分以内帰宅」という ことで、社内ではあえてワークライフバランスと言っていないのですが、仕事の効率を 上げていき、人生もきちんと楽しもうということで、これはトップダウンで、例えば残 業をする場合には、全員メールで総務人事担当部長に申告をするのですが、会長や社長 も申告をすることになっています。  改善活動については先ほどのとおり、週に平均100件以上が、本部に上がってくるの で、1部門当たり多いと10〜20件近くの検討をしなければいけないのですが、毎週金 曜日に上がってきたものを翌週の金曜日には店舗に返答をすることを繰り返しやってい ます。  組織活性度調査については、店舗を対象に半期に一度しています。店舗の社員全員に、 その組織の状況を聞き出す16の質問をしています。記述式のものもあります。この中 で何か組織的に問題がありそうだということがあると、すぐに弊社の場合は内部の監査 室が動いて、また人事も入り必要な手を打つことを繰返しやっています。店舗からきち んと声が届いている、改善活動がどこで声が上がっているのかというフィードバックを 行います。  「匠の技」は販売部門で自主的に始められたものなのですが、店舗スタッフの販売技 術の競技会です。今年で7年目になり、半年に1回開催しています。9つある全国のエ リアから、フランチャイズも含めた代表店舗が選ばれ、本部の役員も審査員になり非常 に盛り上がります。表彰式には会長、社長も出まして、少し遊び的な要素もあるのです が、このような現場の声を吸い上げるということもしています。  予算達成インセンティブは、とりあえず予算を達成したら、アルバイトの方まで支給 するということをしています。加点のみの項目を追加した目標管理制度は、従前の目標 管理制度よりもっとチャレンジしていく風土を作りたいということで、目標を設定して できたら無条件で加点され、できなくても減点しないという施策を今年度から実施して います。  自己申告については、100%の社員が電子的に申告してくるのですが、弊社は人材委 員会を半期に一度行って、役員以上が全員集まって課長以上の次世代育成と将来有望な メンバーの育成について1日かけて討議をします。その中でも人材自己申告のデータを 見ながら話をします。例えば、今年の上期の異動では、異動の数の分母に対して80%は 何かの形で反映されるようになりました。  前後してしまったのですが、人材委員会の次世代育成は、会社としてどういう人材が 必要かということは、トップが変わったとしてもきちんと伝承され透明性を高めていき たいといことで進めています。その中では5ボックスによる人材分析と育成計画という ことで、人材を5つの区分において異動、育成の参考にしています。また、公募による 海外研修は、まだ規模は小さいのですが、手を挙げた社員にチャレンジさせるというこ とで、新しくオープンした海外の店舗の応援に行くなどしています。似たようなもので は店長の海外研修も行っています。  また、店長になる段階では内的動機を調査するものを基本的には全員受けさせ、その 人の持っている、本来どういったことをしたいのかを科学的に分析して、それもベース にしながら職務適性や指向を併せて結果的に本人にとって満足度が高い仕事ができるよ うにしています。 ・ステップアップについて  ステップアップについては、レベルが4、5、6のパートナー社員から、SE社員にな ることができます。また、評価がB以上のSE社員は、本社社員にチャレンジすること もできます。  SE社員から本社員への登用については、昨年も多く登用しまして、一時期は他社も 含めて研修が増えていたのですが、昨年度は潜在率を減らすことができました。パート ナー社員からSE社員への登用については、定期的に実施していまして、年間で100名 以上位が登用されています。教育・研修では、2007年に実験的に、自社ブランドのコン セプトを探求するという研修を行いました。  先ほどの人材委員会などの5つの区分のあり方ですが、現状でのパフォーマンスが高 いか、またその人の潜在能力があるかということを2つの軸にしまして、それが両方と も高い方が、1つのクラスターとし、リーダーで鍵となる人材となります。  次に大事だと思っているのは、ポテンシャルが高く、パフォーマンスでは合格の3と いう次世代に台頭する人材で、それぞれの区別ごとにきちんと育成するというプログラ ムに入り始めています。 ・今後の課題について  先ほど働きがいの良い項目を紹介しましたが、特に良いこととしては、総合評価で 70%が「働きがいある会社」と回答したことでした。特にコミュニケーションについて はまだ改善できるということで施策に取り組もうとしています。  最後に今後の取組みになります。社員区分に関わらず理念の共有、強化と、標準化で 生産性を向上していきたいということで、本社については人材育成体系の再効築、今も 女性社員には活躍していただいているのですが、最多年齢が29歳ということで、これ から結婚やお子様ができたりすると、弊社の仕組みではまだ十分ではないと思っていま す。女性社員がより働き続けられる制度とその風土づくりが大事だと思うので、進めて いきたいと思っています。また、長期在勤者や、管理職の方の働きがいの向上について は、トップとのコミュニケーションの改革でやっていきたい。SE社員については、成 果が報われる評価成果制度にしていこうということと、今まで評価から賃金改定まで時 間がかかったので、それを短期間にしようということ。パートナー社員の評価基準につ いては、もっとシンプル化していこうということ、いま以上に弊社で働くことにロイヤ リティを感じさせる組織風土をつくる施策をしていこうということです。また、これは 継続ですが、組織活性度調査を利用したスピードある現状把握をきちんとしていくこと を柱に進めようと思っています。 ○総合スーパー(C社) ・企業の概要について  弊社は1957年に設立しまして、今年で51年目を迎えます。事業内容は食品、衣料品、 生活用品の小売業です。従業員数は正社員で5,800名、パートタイマー、アルバイトで 3万8,000名、店舗数は209店舗となっています。全国に5つの販売本部を設け、それ ぞれ店舗を管轄しています。  店舗の標準的な組織としては、店長と2名の副店長、それぞれの売場ごとに責任者で ある課長を配置しています。課長以下が組合員です。  経営方針として「市場に即したビジネスモデルの確立」と、「消費の多様化に応える店 づくり」を掲げ、2007年度から3か年の新中期経営計画をスタートしています。 ・人事制度について  私どもの人事制度については2002年に改定し、「CAP」と命名しています。Contract of All Partnerの頭文字、また、あたかも帽子をかぶり変えるように契約区分を変更で きる制度ということで、そのような名称としています。  詳細についてですが、契約区分とはいわゆるパートタイマーのアクティブキャップ、 いわゆる契約社員のキャリアキャップ、いわゆる正社員のゼネラルキャップ、いわゆる 嘱託社員のプロフェッショナルキャップという4種類をそれぞれ仕事内容、勤務時間、 勤務地区分、契約時間等で区分をしているものです。  特徴の1つ目ですが、同一価値労働、同一賃金の考え方で賃金を設計しています。そ れぞれの契約区分内では試験、もしくは評価によって資格が上下します。例えばアクテ ィブキャップは、入社時資格は「A1」で、その後評価、試験等で「A5」まで昇格しま す。資格に応じて支払う資格給、課長もしくは課長代行といった役割に応じて支払う役 割給については、例えばゼネラルキャップの「G5」資格、キャリアキャップの「C5」 資格、アクティブキャップの「A5」資格で、ほぼ同水準となっています。  特徴の2つ目ですが、できる人、やりたい人を契約区分に関わらず、配置登用できる ように設計しています。それぞれの資格の高さ内で契約区分の変更が可能です。また、 アクティブキャップ、キャリアキャップでは、店舗で言う課長までの職位登用が可能に なっています。 ・人事戦略・人事施策について  人事戦略としては、「ビジネス戦略を支える人材供給を通じ、業績の向上につながる企 業風土の構築」を目的として、人材の確保、人材の戦力化、人材の活性化に取り組んで います。  具体的な施策についてご説明します。人材の確保という視点では、定着率のアップで す。店舗のパートタイマーの退職率については、平均で約40%となっており、店舗別に も9%から75%までと、ばらつきがあります。  定着率のアップのためには、慣れない仕事や仲間がいないといった新しく入られた方 の不安を解消することが重要と考え、入社時の受入れ教育を強化しました。従前も受入 れ教育カリキュラムがありましたが、より従業員の視点に立ったカリキュラムに変更し、 「ようこそトレーニング」として今回スタートすることになりました。内容は各店舗の 採用担当者によるテキスト教育、VTR教育がメインとなっています。  弊社は、全国の8か所にトレーニングセンターを設けています。トレーニングセンタ ーのうち5か所については、各売場のスペシャリストである「インストラクター」が常 駐しており、毎月習熟度合いに応じた講座を開講しています。例えば、魚売場の新人従 業員に対しては、衛生管理、魚の知識、包丁を使っての簡単な刺身の作り方、焼魚の作 り方等を3日間で教えています。このような講座が売場ごとに設定されています。  人材の戦力化という中では3点あります。人材マネジメントシステム、ゼネラルキャ ップ社内募集、社内公募というものです。人材マネジメントシステムというのは、今ま で別々に対応していた配置、育成、評価を連携させることにより、今まで以上に個人の 成長を目指すものです。  ゼネラルキャップの社内募集は、パートタイマーを対象にした正社員の登用試験です。 直近で約200名の応募があり、60名を登用しました。また、今回特に気をつけたのは、 登用を見送った方についても引き続き私どもの会社で勤務してもらいますので、単なる 合否通知だけではなくて、面接でどこが足りなかったのか、今後の成長のためにはどう いうことが課題なのかといった内容を面接官がフィードバックを行うという対応を行い ました。  社内公募につきましては、通常の人事異動というものは戦略的最適配置ということで 会社が決定しますが、従業員のキャリア自立促進、モチベーションの向上を目的に行い ました。これについても先ほどの正社員登用試験と同様、マッチングしなかった方につ いては、そのマッチングをしなかった理由についてきっちりフィードバックをしていま す。ちなみに直近では、57名の募集枠に82名の応募がありまして、28名がマッチング しています。  ワークライフバランスについては、「従業員がイキイキと働くことができる環境づく り」を目的に取り組んでまいりました。本社の課長以上、店長、グループ各社の社長を 対象としたグループ総会でのワークライフバランス宣言を皮切りに、管理職を対象とし た有識者による勉強会、web、社内誌、社内ポスター等を使っての啓発活動などを行っ ています。働き方の変革、健康、育児・介護、意識改革の視点で、今後も継続してまい ります。  店舗に対する人事全般の窓口として7名の人事SV(supervisor)を配置しています。 個別店舗の課題解決をサポートすることにより、店舗の従業員と向き合える体制を強化 しております。  その他の取り組みについて紹介します。1つ目はA&C(Appraisal and Counseling) という仕組みです。本人の業務に対する満足度、今後やってみたい仕事、その他の要望 等を、本人と上司が共有して今後の配置・育成に活かすというものです。  2つ目は、Fair(Feedback and Interview Report)という仕組みです。きちんとした 評価のフィードバックというのは、本人のモチベーション向上にとても重要です。その ため、被評価者に対してアンケートを行い、そのフィードバックがきちんと行えている か等の状況を把握し、対策を講じました。当初はフィードバックを3分で終わらせてい るといった事例もありましたが、現在では改善されています。  3つ目の表彰制度ですが、ベストチャレンジ賞は弊社の会長、ベストCS賞は弊社の 副会長、業績貢献賞は弊社の社長が決定し、グループ総会で表彰します。表彰すること で、「褒めあう」「認めあう」「讃えあう」という風土を醸成し、従業員のモチベーション アップを図ることで人材の活性化を通じた業績の改善を目的としています。  最後に、当社が新中期計画をスタートさせてから、約1年を迎えようとしています。 今後の会社の施策を従業員が一丸となって遂行していくことが重要だと考えております。 ○意見交換 Q1  B社にお伺いします。1990年代に非常に成長し、1990年代の末に売上げが低下し、ま た2000年代に入って順調に業績を上げたとのことですが、このような背景を捉えられて、 どういう経営戦略の転換があったのですか。先ほどの説明に、人事制度もいろいろな取 組みをされているとのことでしたが、経営戦略の見直しの中で、人事制度の改正をその 時期にかなり大幅に、ドラスティックに見直されたのか。経営戦略と人事制度の見直し の相互関連のようなものも含めて教えていただきたい。 A1(B社)  社内で分析しているのは、1990年代の順調な成長については、もともと自社ブランド のコンセプトが非常に強く、それが時代性にも合ったと考えています。それが維持でき なかった理由は、社内が完全にそれに甘えてしまって、かつ慢心というか油断してしま ったということかと思います。ある時期は店を出し、商品を置けば必ず売れるという時 期もありました。コンセプト自体は変わっていないのですが、そこでブランドを磨かず、 時代に合わせて変更するという検討をきちんとしなかったので、仕事についても属人的 になっていたのです。ある意味うまくいってしまっていたので、誰もがそれでいいと思 っていました。この時期は、拡大戦略も進め、店も大型化し、500坪を超えるような当 社では大きい店舗をどんどん出したり、品揃えも急激に増やしたりしたのですが、結果 的に生産性が著しく下がって、在庫は溜まる、不採算店も出てくるという状態になって しまいました。そのため、最初にした応急処置としては、不採算店の閉鎖、在庫の処分 が外科的な治療でした。ただ大事なのは、社内については完全に仕事の見える化してい くということ。業務標準化はその次のステップに来ているのですけれども、仕事につい ては、各部署でいろいろなやり方をしていたので、帳票を統一化するなど、システム的 にきちんと表し、共有化する。とにかく、第三者のマネジメントが見ても、担当者が何 をやっているかわかり、他の部署が何をやっているかわかる仕組みをつくるようにしま した。 また、コンセプトが希釈化していたので、アドバイザリーボードという外部のクリエイ ティブの方とブランドについて再度確認したり、コミュニケーション・キャンペーン等 を打ったりしました。ものづくりについても、自分たちの思い込みを打破し、世界中の トップクラスのデザイナーを、商社ではなく自分たちで探しに行くというように、もう 一回原点に返って取り組みました。  人事制度については、2000年に職能資格制度から成果主義に基づく制度に職務給的な 転換をしました。ちょうどリバンプさせなければいけない時期でしたので、2002年度に はストックオプション制度をSE社員も含めて導入し、2005年以降実行しました。2003 年には成果主義が行きすぎないよう、評価制度に行動評価というプロセスも評価を含め ました。また、人材委員会も運営を始め、人事の透明性を高めました。2005年には、360 度評価や組織活性度調査も始めています。 Q2  B社にお伺いします。業務標準化を進めて、毎日がノー残業ということで、非常に高 い評価をされているようですが、結果から言えば、生産性が非常に上がったと評価され ているのではないかと思います。生産性が上がっているというのは、業務標準化がなさ れているからノー残業が可能になったのでしょうか。これまでは、時間的にある程度の 残業をしなければならないような雰囲気、風土のようなものがあったのか。それをある 時間で区切ったことにより生産性向上が可能になったのか。普通に考えると、ダラダラ と残業をやっているということではなく、働いている方は一生懸命やっているのでしょ うから、それを短くすることにより、逆に業務の質が低下するなどの問題は何か生じて いないのか。もしあれば教えていただきたい。 A2(B社)  当社の場合、まずトップが風土を変えたいということで、業務標準化もその一部とし て進めてきました。生産性が向上したのは、標準化したからというよりは、標準化とノ ー残業の両方を風土にしていき、仕事の見える化をさらに完全に進め、管理系や商品部 などの形式的化するのは難しいと思われたことも含め、できるだけ形式的化する。それ を組織で共有することにより委嘱しやすくする、ということを徹底的にやろうというこ とです。  あとは、時間内にとにかく終わらせる。会長がよく言っていたのは、例えばうちには 育児時短を取っている社員がたくさんいるので見なさいと。彼女たちは5時にお子さん を迎えに行かなければいけないので、そのときにピタッと上がるだろう。仕事もきちん とやっている。むしろ、向こうのほうが良いだろう。あなた自身が受験勉強をしたとき にどうだった。締切りが決められていたほうが良い仕事ができるのだ。だから、やるべ きこと、やらないことをはっきりさせる。これまでの会議も、書類が多いほうが良いみ たいな文化がありました。トップの会議では、会議資料は最大でも両面1枚、これは多 くの会社でやっていると思います。やらなくていいことはとにかくやるな。100点でな くてもいい、60点、70点位でもいいから、合格点を超えればいいからということで、ト ップの方からとにかく業務の見直しを進めてきました。  実際にわたしの所属している部署は6時が終業なのですが、7時の段階で全館をもう 一回見回ります。そのときに電気を消して回ったりしながら、徹底的に早く帰らせる。 社員から、終業後に飲みに行ったらうたた寝をしてしまったという話を聞きました。昔 はそんなことはなかったので考えてみると、とにかく昼間はその時間に終わらせなけれ ばと思ってやるようになったので、疲れてしまうほど集中しているということだそうで す。とにかく時間内に終わらせる風土にしていこうとしています。  業務標準化は、部門を超えた部分の改善も進めています。弊社では、監査室が普通の 監査室以上に業務へ入り込み、業務基準書がつくられているか、それが運用されている かを半期に1回全部監査します。課長クラスにヒアリングをして、その中で、その部門 の中での改善点や、部門をまたいで見ているので無駄があるかを見つけられるので、そ の中でだいぶ改善が進められています。その両方だと思います。 Q3  B社にお伺いします。長期勤続の方とか管理者の方からの働きがいの評価に関して、 もう少しこうしてほしいとか、もっと自分の経験を評価してほしいということなど、ど の辺に起因しているのか教えていただきたい。 A3(B社)  弊社では年齢が若くてもポストに登用されますし、男女も関係ありません。それはあ る意味でいいことなのですが、職務給になっていますので、年齢がいくら上になったと しても、年功的な要素は全くないので、40歳を過ぎても会社でいうG2という、新入社 員の一歩上のクラスでしたら、その分の給料しか貰えません。組織ですので、どうして もポストの数は限られているため、そういう層も出てきています。成果主義なので、組 織の動きは他社に比べると激しいところがあったと思います。特に、以前はリバンプし ていく中で、将来のキャリアのことが心配になっているところも多少はあったのかもし れません。  そこでトップが言っていたのは、会社というのは業績をきちんと上げるため、仕事の 仕組みをきちんとして、一人ひとりの生産を上げることを進めてきました。当然その中 では、年齢が上がったら給料が上がるという構造はありませんでした。年下の部下に就 くケースもたくさんあります。日本全体がそういう流れに変わっていると思うのですが、 その部分の意識が追いついていないと、個人によりネガティブに出ることもあるのかと 思います。  答えになっているかわかりませんが、単にトップの意向をきちんと伝えきれなかった のではないかという話もあります。例えば、30%委員会という、組織的に構造を変えて 販管費率を下げたいというのも、一歩間違えると、単なるコストカットというふうに社 員は見てしまいます。単純に電気を消して回るのではなく、仕事の仕方を変えて強い会 社にして、その結果社員も幸せになるという、仕事の仕方を徹底的に変えることの意図 の伝え方を、もっと工夫すべきだったのかということがあります。今後はそれを改善し ていきたいと思っています。 Q4  社内公募制についてお尋ねします。最近、社内公募制を導入している企業があるとい うことを雑誌などで読むことがあります。その中で、優秀な社員は上司が抱え込みたが る、引き抜かれると組織としてもダメージが大きいので、他の人もやる気をなくすなど、 なかなか難しいところがある。また、応募したことがわかって、それが叶えられなかっ たときに人間関係がうまくいかなくなるところがある、という弊害を読んだことがあり ます。  これは、日本の文化を考えると、かなりデメリットとして効いてくるのかと思うので す。そういうデメリットをどのように克服し、工夫して運営しているのか。また、それ を含めた運営についてどのように感じているかを教えてください。 A4(A社)  社内公募については、求人型(ハローワーク型)の公募も、フリーエージェント制の 公募も上司に報告、許可なしに手を挙げることが可能になっています。ですから、上司 は、部下が手を挙げたかどうかはわかりません。基本的に応募したからといって、その 後職場の中の雰囲気が悪くなることはないと思います。  しかし、本人にとっては、手を挙げたのに異動できなかったということはあると思い ますが、その点はフィードバックで対応します。社内公募は、対象者をマネージャー以 上・全社員など、またこのようなスキルの方を望むなど、ある程度細かく条件等を記入 した案件提示をしておりますので、本人も選択しやすいのではないかと思います。現状 逃避型の応募者は面接をしていくうちにわかりますので、この方々にはまた違った意味 でのフォローをしていきます。  求人型の公募制度や社内公募は、新規プロジェクトや業務の拡大時に行っており、前 向きなキャリアアップ、キャリアの転換を望む人を対象にしています。 A4(B社)  社内公募については、きちんとした制度としては現状ありません。ただ、部門をまた いだ異動の場合、各部門のロジックで動かないようにということで人材委員会が機能し ています。そこには全部隊を管掌している責任者が出ていますので、主な異動について は全者最適の視点で動かすことにしています。それにより、例えば販売部のエース級の 人材を2名イギリスへ駐在で送り込んだりしています。これまでは考えられないことだ ったのですが、育成的な視点でということで行っています。また、2007年度には、社員 がもっとチャレンジするようにということで、完全な公募制でアメリカの出店の応援を させています。それについては応募するときに、戻るときには現業に戻すという条件を 付けたのですが、結果的には大変活躍してくれたので、そのまま海外部門に残すことに なりました。社員からすると、こういうチャンスに手を挙げたいな、挙げようかなとい う空気は出てきたと思っています。 A4(C社)  優秀な人材を抱え込む傾向はあると思いますが、社内公募では、従業員個人が自らの 意志で手を挙げられます。当社でも応募の段階では上司の承認を取る必要はありません。 ただ、面接のときには仕事を休むことになりますので、その時点では応募の事実は明ら かになります。但し、積極的にチャレンジしていく風土づくりを目指しておりますので、 職場の雰囲気が悪くなるといったことはないと思います。  また、当社では合格・不合格ではなくて、マッチングするか・しないかという表現を しています。募集している部署に対し、その個人が合っているのか合っていないのかを 審査しています。  審査手順としては、1つのテーマを設けて論文を書いてもらいます。次にその部署の 管理職との面接です。また、応募者にその部署の業務、雰囲気をしっかりと理解して頂 くために、その部署の若手社員や管理職が複数名入ってグループディスカッションを行 っています。 Q5  育児休業や介護休業など、様々な勤務時間の工夫を重ねてきたということですが、い ろいろな制度を導入すればするほど、支え手が少なくなってくる。例えば、先ほどお聞 きした育児シフト勤務では、早番のほうに人気があるのではないかと思いますが、そう すると、理由のない人は遅番に回されてしまうというように、支える側と支えられる側 のバランスで、支えられる側が少ないときはその辺の軋轢も起こらないと思います。だ んだんと制度が充実してくると、中での公平感が少し問題になるということを聞いたこ とがあります。いろいろと配慮をすべき時期に応じ、行われるべき制度をいろいろ持っ ていると思うのですが、組織全体としてうまく運営するための工夫がありましたらお伺 いしたい。 A5(A社)  育児・介護については確かに難しいところがあります。先ほどのB社の説明にもあり ましたが、実際に勤務できる時間が決まっていると、限られた時間の中でいかに仕事を 進めていくかを考えるためで逆に生産性が高いのではないかという意見もあります。  弊社の場合は、女性の20%が育児休職を取得しているなど制度を取得しやすい雰囲気 もあり、お互い支え合いという感じでしょうか。人それぞれその感じ方、職場の環境が 違いますので一概には言えませんが、若い人たちも、自分もこれから子供を産んで短時 間勤務を取るかもしれないという思いでいますので、そういう声は大きくなっていない のかもしれません。  また、要員カウントの仕組みとして、短時間勤務者は各店舗の売り場(担当)に配属 ではなく、上位階層の部に配属されます。部付で各担当に勤務する形ですので、各担当 では1人プラスで配置されている計算になります。そういう意味で、プラスで1名来た のだという雰囲気で対応できる仕組みがあります。 A5(B社)  育児関係についてですが、弊社の場合は女性社員に聞いても、男女ということでは全 く差別されないというポジティブなコメントがありました。私は、昨年の5月から11 月位まで、他社の方とダイバーシティ・マネジメントの研究をしました。その中でのイ ンタビューでもそういう声が出ました。本部については、当たり前に育児時短は全く問 題なくできるような風土になっていると思います。私のチームでも、子供の関係で6時 に上がらなければならない方がいるのですが、SOX法の関係でものすごく業務負荷は多 いのですが、すごく良い仕事をしてくれているので、他の模範になっていると思います。  ただ、本部では当たり前になっておりますが、大多数を含む店舗についてはまだ難し い状況です。実際にチャイルドケアを取っている店長もいるのですが、現場からすると 自身に子供がいなかったり、若い男性社員には大変さもわからないので、現場での負担 感が正直いってあります。ただ、これについては風土などで意識づけしていくとか、成 功例をつくって行くことで変えていかなければいけないかと思います。 A5(C社)  短時間勤務については、本人の意識に加え、同僚の方々の理解も必要であり、いろい ろと課題はあると認識しています。但し、最近では、ワークライフバランスやダイバー シティという社会的な流れがいろいろな形で報道され、社内でも積極的にアプローチを していく中でかなり浸透してきたと感じています。そういった中で、一つひとつの課題 を解決していくことが重要だと考えます。 Q6  労働経済の分析では、これからは働きがいのようなものを意識してデータを解釈すべ きとの問題意識があり、本日の企画でお願いしました。内閣府の国民生活選好度調査と いう、働きがいといいますか仕事の満足度を調査している統計があります。その調査結 果では、1990年代を通じて満足度がずっと低下しています。更に、2000年に入って景気 が回復してもなかなか満足度が上がってこないので、この問題について考え、解釈の材 料を集めています。  皆さんの職場をご覧になったとき、長期的に見た満足度の低下は感じられますか。も しかしたら調査の動きと違うのかもしれませんが、どちらかといいますと、そんなこと はないという答えを期待しています。もし、満足度が低下しているということであれば、 どのような取組みが有効に機能して働きがいを高めたのかを、日本社会全体の働きがい が低下してきているという問題と絡めて主観的なものになろうかと思いますが、ご意見 をお聞きしたいと思います。 A6(A社)  長期的に見た満足度の低下については、社内で毎年、従業員満足度調査をしておりま す。長期といいましても、2005年位からやっていますので、過去とは比較できないので すが、特に大きな変化は見られません。  弊社の人事の考え方として、雇用は必ず守る、ということを経営が明言しています。 業績が悪くても雇用は守る、ということを言っておりますので、それが年齢の高い層に とっては満足度につながりますが、若い層にとっては本当にそれでいいのだろうかとい う形で、満足度は変わってしまいます。数字として満足度は特に変化はないのですが、 もう少し深掘りをして年齢別に見ると、満足度は変わっているのかもしれません。  2000年以降、職能資格から役割成果主義へ基軸を大きく変えました。それによって、 若くても責任ある仕事を任されれば、仕事に応じた報酬・評価を受ける。逆に、年功序 列で上がってきた人に任された仕事・役割が低ければそれ相応の収入になります。この 基軸の転換ができる人の満足度は高いと思うのです。この切り換えがうまくいかない場 合には満足度が低くなっていくのではないかと思います。  また、弊社は役割成果導入時と足並みを揃えて業績が良くなるという好循環でしたの で、今のところそれほど大きな問題は出ていません。今後、業績が悪くなった場合に、 その満足度は下がっていくことも考えられるとは思います。 A6(B社)  弊社で2003年位から特に注目して社員の退社率を追っていました。業績的には2003 年位から右肩上がりではきていました。これは、日本全体に通じるところかもしれませ んけれど、業務的には1人当たりの負荷は増えますし、ターゲットも高くなり、厳しい 状態の中にあったのかと思います。2005年には悪化しましたが、2006年以降は、経営の ほうから社員に対するメッセージも強めたりしていたので、ここにきて急激に働きがい については元に戻ったというか、まだ改善基調にあるのではないかと思っています。  鍵になるのは、会社に対する信頼関係というかコミュニケーションというか、これは 全区分について言えると思うのです。組織活性度調査、改善活動、現場の声が役員レベ ルまできちんとフィードバックされるといったことがキーなのか。あとは、業績が良く ないといけないので、その両輪かと思います。 A6(C社)  以前、リストラクチャリングの一環で希望退職を実施したこともあり、従業員満足度 が低かったこともありました。しかし、そのリストラ局面から脱却し、新しい中期経営 計画を実行するにあたり、特に心がけたのは、「ESなくしてCSなし」ということでした。 当社は小売業ですので、お客様満足ということを追求していかなければいけない。従業 員個人が仕事に満足していない中で、お客様に対して明るい笑顔で挨拶ができるかとい うと、なかなかそうではないと思っています。  例えば、大卒の配属についてですが、以前は自分の希望も聞かれることなく、全国の 店舗に一方的に配属されました。今は内定者に対して配属希望をヒアリングする面談を 行っています。面談の中では配属希望の売場と共に、仕事に対する思い、不安に思って いること等を個別に聞き、内定者にしっかりと向き合います。 従業員満足の向上には大変な労力を要しますが、従業員満足の向上が顧客満足の向上に つながり、結果として業績の向上にもつながると考えています。 Q7  正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトという働き方については、各社いろ いろな名前で区分されていますが、同じ労働条件でも、満足する所とそうでない所があ り、賃金指向型の方、労働時間指向型の方もいるかと思います。それぞれの働き方の区 分によって違うということもあろうかと思います。この満足の問題を、各社の中のそれ ぞれのグループごとに、その相互関係、違いなどを踏まえつつ教えていただきたい。 A7(A社)  契約社員と交えてということですが、弊社の場合は社員と月給制のフルタイムの契約 社員、時給制の短時間契約社員がいます。さらに、時給制契約社員であるサムタイマー 社員を2つに分けています。具体的には、サムタイマー社員G1という週20時間未満で 扶養の範囲内で働く方と、サムタイマー社員G2として週35時間以内で働き、キャリア を指向する方がいます。扶養の範囲内で働く方は、どちらかというと職場の環境が仕事 の満足度につながっています。キャリアを指向している方は、どちらかというと評価や 責任ある仕事を任されることに満足度を感じているというアンケート結果が出ています。  一方、メイト社員といわれる月給制の契約社員は、短大・大卒の新卒の方がメインで すが、仕事の環境や仕事をある程度任されているということが満足度に影響していると いう結果が出ています。 A7(B社)  契約区分別については、本社員に比べると、アルバイト、パートナー社員では時給の ことが大切ですので、昨年末に時給改定と条件改定を行いました。それまでの募集に比 べてレスポンスと面白い位変わり、いまはブレーキをかけなければ採りすぎる位のとこ ろまで応募が増えています。その点で満足度は増えているのかと思います。  ステップアップということで、パートナー社員、アルバイトであればSE社員、SE社 員であれば本社員というところも定期的にきちんとして、門戸も広げましたので、そう いう意味でも満足度は上がっているのかと思います。おっしゃるとおり、社員区分によ り、それぞれどこが大事かは違いますが、共通しているのはコミュニケーションの部分 とそれぞれに応じた施策が必要で、いまそれを行っています。今回の働きがいの調査で も、現場の若い方のレスポンスがよかったというのは、そこの部分は的確に反映されて きたのかと感じています。 A7(C社)  パートタイマーの方々はワークライフバランスができていると思っています。育児や 介護もしながら、仕事もきっちりするというのはワークライフバランスのモデルだと思 いますので、その方々がきっちり自分のワークとライフをバランスよくできるように、 いろいろな制度面でバックアップしています。  当社では特に教育に重点を置いています。例えばレジ業務ですが、レジ操作というの は極めて複雑であり、しっかり操作を学んでからでないと売場での業務はできません。 操作手順が不確かな状態で業務を行なうと、お客様からクレームを頂くこととなり、従 業員は自信を喪失し、退職してしまうことも想定されます。  新しく入ってこられた方については、「おもてなしの心」をもって、マインドの教育、 テクニカルな教育をきっちり行って送り出しています。そういう意味では、パートタイ マーの皆さんに対しこのような施策を数年来行っていますので、満足度が高いのではな いかと認識しています。 Q8  長期的な計画の中で1つ伺います。正社員化の資格試験があると思いますが、採用目 標というようなもの、例えば毎年20名を目標といったような制度を設けているのかどう か。 また、採用目標を立てることとは別に、正社員化の試験を受けて駄目だった場合 のアドバイスをすることにより、その人のやる気を促すという話を伺いましたが、試験 を受けることに関わらず、正社員化のための教育訓練といった取組みをしていれば教え ていただきたい。 A8(A社)  社員採用数についてですが、正社員は管理職のポスト数から逆算して新卒の採用人数 を決めています。具体的には、管理職は基本的に200人、40歳位から管理職になるとし て各年10人位。昇格率や退職率を加味すると、少なくとも50人は採らないと、将来管 理職を担う人材がいなくなってしまう。このようなスタンスで1994年頃からは、毎年 50名は定期的に採り続けています。  月給制契約社員(メイト社員)については、人的生産性の向上という面から戦略的に メイト社員を増やしていく方針のもと、退職社員の補充に加え、売り場のチームの要員 充足数などから逆算して算出しています。  時給制契約社員(サムタイマー社員)については、基本的に補佐業務がメインになっ ており、退職した分を補充しています。  社員化に向けた具体的な教育をしているかということですが、弊社の場合は職務別の 教育と、領域別の教育、あとは雇用形態別の教育をしています。職務別ですと、売り場 のリーダークラス又はサブリーダークラスであれば社員・契約社員であるかは関係なく、 全員が同じ教育を受けています。  同じように領域別についても、婦人領域、紳士領域、服飾雑貨領域に配属になった者 は、必ずその領域ごとの教育を受ける。これも社員であるか契約社員であるかは関係な く教育をしています。  ただ、社員になるための何か特別な教育をしているかというと、特にしておりません。 日々の業務で、日々の業務でいかにリーダーとして発揮していくかが重要。コーチング やビジネススキルなど、個人が自主的に手を挙げて参加できる教育も用意しています。 A8(B社)  弊社の場合、本社員は基本的に事業計画に基づいて、いちばん大きなドライバーは出 店数です。あとは多角化などもしていますので、そこをベースにしながら大体の計画を 立てます。ここ数年は、平均して40〜50人位を採用しています。SE社員とパートナー 社員、アルバイトについては、基本的には店舗がその人数を決めるドライバーになりま す。  SE社員が本社員になるときに、予定よりも出店数が増えて、店長は本社員でなければ ならないので、SE社員を何人位欲しいというような、どちらかというと需要があってと いう形が続いていました。昨年からはテストの基準を決めて、それをパスした場合には 本社員に上げておこうと。事業としては全般的にそのニーズがありますので、そのよう に動き始めています。  アルバイトからパートナー社員についても、店舗の数がドライバーになりますが、今 は基準に合わせてという形にしつつあります。受けるほうからしても、どういう形にな ればなれるのかという意味での見通しがあったほうがいいということで、そのように変 え始めています。  落ちた場合のフォローについては、受けるときには筆記試験、適性、面接があります ので、特に面接のときに気づいたこと、テストの結果を見ればどこが弱いかわかります ので、そのコメントも面接官がフィードバックします。具体的には各エリアに課長クラ スのエリアマネージャーがいますので、そこが中心になって再チャレンジできるように しています。再チャレンジの教育訓練は、全般的には、店舗独自のマニュアルを使った 教育を柱としてOJTという形でしています。 A8(C社)  正社員数については、平均の退職率と新店オープン、既存店の改造などによって要員 計画を立てています。ちなみに来年度については、約100名の大卒の正社員を採用しよ うと考えています。  各店舗のパートタイマーの採用については、店長がすべての決裁権限を持っています。 退職をされた方の後任採用や、売場拡大に基づく採用が主になっています。  社員になるための教育については、特に設けていません。どちらかというと、能力の ある者を社員にするというよりは、仕事に対するやる気や思いを重視しています。