第2回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日 時 平成19年12月26日(水) 10:00〜12:00 場 所 中央合同庁舎5号館13階 厚生労働省職業安定局第1会議室 出席者 医薬品メーカー(A社)、化学工業メーカー(B社)、印刷業(C社)     厚生労働省側 政策統括官(労働担当) 他 内 容 働きがいのある職場をつくるための取組 −その成果と今後の課題− ○医薬品メーカー(A社) ・企業の概要について  事業としては、医療用医薬品に特化しています。以前はOTCという、薬店で販売す る医薬品も扱っておりましたが、現在は医科向けというか、ドクターが処方される医薬 品100%の会社になっています。  事業拠点としては、東京に本社を置き、日本、北米、欧州、アジアに拠点を有してい ます。従業員数は連結で約14,000人で、このうち国内が7,000人位、海外が7,000人 と、大体半々位の比率になっています。  計数面では、中期的には1兆円規模を目標に掲げています。収益的には以下の状況で すが、特徴的には海外の売上高比率が年々高まっていて、今回の中間期決算でも50%を 超えてきおり、グローバル化が事業としても非常に課題になってきています。  ご承知のとおり、医薬品に効果のある疾患は、何も日本人固有のものではなく、当然 世界にも同様の疾患で有用な薬を持たれている方々がいらっしゃるわけですから、事業 としてもグローバルに展開していくことが重要です。また、人事面でも、このような事 業展開に対応できる、グローバルな人材マネジメントの構築が大きな課題になっていま す。 ・主な人事施策について  今日の議題としては専門職制度といただいていますが、弊社の場合は合併会社である ことから、社員の方々には個別の施策の説明だけでなく、なぜそういう人事政策が必要 なのかといった、人事ビジョンやポリシーを明確に示し、それらを社員に理解して頂い た上で、個別の人事制度の運営をしています。  具体的な人事ビジョンとしては、特にビジョンを達成するために社員に求める要件と して、「スピード」「変革力」「専門力」「ネットワーク力」という4つの観点から期待す る人材像を示しています。また、当然、人が集まると組織になりますが、目指す組織と しては、常に最適な組織構造を持って、要員やスパンの面でも筋肉質の組織になってい ること、そして、健全な組織体質を持ち続けていくことを強く求めています。  弊社の企業のビジョンの中で、先ほど申し上げたグローバルで事業を展開していく姿 を描いています。その姿を実現するにあたり、経営資源である人・物・金の中で、特に 人材を最重要な経営資源と捉えており、今後も会社として人材の充実に意欲的な取り組 みと積極的な投資をしていきたいと考えています。そのような経営方針のもと、人事の 主要機能である、「採用・配置」「成長・キャリア」「評価・処遇」、そして「職場環境」 という4つの切り口で、それぞれのポリシーをまず掲げて、制度の具体化をしています。  その内容ですが、「採用・配置」の面では、人種・国籍・性別・年齢に関係なく、実力 主義に基づく適所・適材を実現すること。「成長・キャリア」では、高い成果を発揮し続 ける能力・意欲のある人材に対しては、(これは少し尖った表現になっていますが)最高 水準の能力開発の機会やキャリア形成の機会を提供していくこと。そして「評価・処遇」 では、役割と成果に基づく公正で納得性の高い評価・処遇を行うと共に、会社業績を反 映しながらもグローバル企業に相応しい市場競争力のある報酬水準を実現することです。 医薬品業界では人材の流動化がかなり進んでおり、報酬面でも社外との公正感や納得感 を持たないと、優秀な人材の確保が難しくなっていることも背景にあります。  これら人事ポリシーを持ちながら様々な制度構築をしてきましたが、合併会社である ことから、特に人事制度を運用する立場のマネージャーに暗黙知の共有が少ないという 状況もあり、人事ポリシーを具体化した時にどういうものになるのかを示すため、昨年、 人事ビジョンブックを作成しました。20数枚の冊子になっていますが、その中で、人事 ポリシーを具体化したときに、どういう姿になるのかを全社員に公開し、社員に理解と 共感いただけるように努力しています。  ポリシーを具体化する為の諸施策として、採用・配置の面では、特にマネージャー・ ポジションについて、後継者も含めて実力主義で適所・適材になっていくことが必要で しょうし、あるいは優秀な人材を採用していくことも継続的にやらなければならないと 思います。もう1つ、非常に重要な課題として認識しているのが、ダイバーシティの推 進です。女性や障害者の活躍の推進、外国人の雇用も非常に大きな課題です。  成長・キャリアでは、人材開発の支援をより充実し効果的なものにしていくと共に、 「ジョブチャレンジ制度」と呼んでいますが、社内のリクルートと社内のフリーエージ ェントというネット上で展開できる仕組みを活用しながら、できるだけ本人意思に基づ く配置ができるよう取り組んでいます。  職場環境では、労働時間短縮、過重労働の防止、セクハラやパワハラ、そういったも のは当然やらなくてはならない課題です。  評価・処遇では、賃金制度としては、基本的には職務給制度としています。また退職 金についても役割と成果に基づくポイント制です。一方、本人が持つ高い専門性をもと に継続的な成果を上げることを期待される職種では、職務給制度では適切な評価・処遇 が難しいことから、職務給制度を補う形で、MR(営業職)や研究職に専門職制度を導 入しています。  ただし、この専門職制度においても、全社一律の職務グレードや賃金体系の中で、カ スタマイズすることには限界があることから、職種別に特性にあった人事制度の構築に ついて労使との協議も含めて検討を始めています。  人事ビジョンブックの中では、これらの取り組みの結果として弊社が2015年あた りに人材マネジメントで実現したい具体的な姿についても描いています。ただし、描い たのはいいのですが、現状から考えると非常にチャレンジングな姿であり、実現への強 いプレッシャーを感じています。 ・評価・処遇制度について  評価・処遇のポリシーを実現するため、成果を評価する上での2つの要素を基本的な 概念として評価・処遇制度の構築をしています。一つには、各人が担っている職務・役 割の大きさを職務評価し、主に職務給として処遇に反映していくPay for Jobの部分、 もう一点は、各期の目標の達成度を成果評価し、主に賞与の支給に処遇として反映して いくPay for Performanceです。  全体の報酬体系として、月額部分については、手当を除くと職務給一本の体系で、職 務評価によって職務グレードが決まれば、それに応じて支払っていくことになりますが、 定額ではなく範囲給であり、各人の成果に応じて昇給していく仕組みとしています。一 方、賞与については、各期の成果とは関係なく安定的に支払われる基本賞与と、各期の 成果に応じて増減して支給する成果賞与の2本立てになっています。また、もう1つ、 会社の業績に連動する会社業績連動賞与の仕組みも構築しています。  職務給の範囲給では、想定される相応しい水準を中心ゾーンとして、そこから下のと ころについては積極的に昇給していく。そこから上回ってくる部分では、期待以上の成 果の場合に昇給するような、各人の賃金がどの水準にあるかということを見ながら昇給 させていく仕組みとしています。  次に、職務評価の具体化ですが、経営基幹職と一般職とでは異なる評価の仕方を採用 しています。まず、特に管理監督者のような高いグレードになりますと、各人が担って いるポジションの成果責任がかなり明確であり、これらを整理して、ヘイの評価基準を 用いて職務評価を行い、グレード付けをしています。ただスペシャリストのところにつ いては、ヘイだけではなかなか議論が尽くせないことがありますので、専門職制度を別 途構えています。一方、一般職では、ポジションという考え方が馴染まない部分もあり ますので職務評価基準書という文章で表現した基準書をもとに職務評価を行っています。  職務グレードの決定プロセスとしては、実際の職務評価では上位のポジションから評 価をするやり方をしています。本部長クラス、部長クラス、課長クラスというように上 から評価を決めていってグレード付けをしていきます。もう1つ留意しているのは、職 務評価会議を開催し、階層ごとにきっちりと他面的な議論を積み上げて評価をして、全 体の整合性をとる取り組みをしています。 ・研究職の専門制度について  研究職の専門職制度についてご紹介します。職務グレード体系のイメージですが、設 定したグレードにより一般職と管理職のレベルを分けていまして、グレード15までが 一般職のレベルになっています。グレード15までは職務評価基準書で評価するという ことになり、各研究所ごとにそれぞれ基準書を整備をして、実際にマネージャーの評価 によりグレード付けをしています。  一方、グレード16以上の管理職については、専門職制度の審査を経て、グレード付 けをしていくという形を取っています。Research FellowやSr. Research Fellowという タイトル名を付けております。  認定要素としては、専門職となると当然専門性のレベルが重要ですのでテクニカルス キルを評価する部分。それと当然知っているだけというか、専門性が高いだけで処遇す るわけにはいきませんので、業績を見ていく部分。もう1つ、研究員が成果を出してい くは行動面も非常に重要になってくることが分かってきましたので、各研究所ごとにフ ァンクショナルなコンピテンシーを決めて、これも審査をするようにしています。  認定のプロセスとしては、専門性や業績の確認として「研究業績評価シート」を各人 ごとにつくっていただいております。コンピテンシーの部分は、実際のアセスメントと して面接を通じて確認するようにしています。実際の業績棚卸しシートのイメージです が、属性や学歴、主要テーマ経歴、それと学位や論文、専門領域といったものを各人が レジュメ的につくっています。当然各人がつくったものは、上司も実際そうであること を確認した上で、審査の材料にしています。  ただ、これだけでやっていてもなかなか難しいことが出ていまして、先ほどご紹介し た通り職種別の人事制度を検討しています。この背景・目的としては、職務給ですから 当然職種を意識しているわけですが、期待される役割・成果等には営業職や研究職など の職種ごとに明らかな違いが存在しているのだろうということ、また医薬品業界はかな り人材の流動化が進展していますので、評価・処遇についても社内的な公正感や序列感 だけではどうしても限界があるということで、社外との競争力や公正感も非常に重要に なっています。現行は、全社統一の職務グレードや処遇体系の中で専門職制度を運用し ていますが、職種特性の対応が十分とは言えないことから、その職種の特性に合った形 でつくり上げていくことが重要ではないかという課題意識で検討しています。  職種別人事制度の視点・範囲ですが、制度の基本的な構成自体を全く違うものに変え ていく考えは持っていませんが、例えば職務グレード体系では何も全職種で全社統一の ものではなくてもいいのではないか。営業職であればもう少しグレードを括っていくと か、研究職に相応しい制度はどうかということを、その職種切り口で考えていってはど うか、という議論をしています。  職種特性の違いを、先ほど申し上げた成果の概念ということでみた場合に、営業職で いうと達成度のところは比較的わかりやすいが、各人ごとの役割という面では、そんな に違いはないだろうとか。一方、スタッフや研究所では、達成度は営業職ほど明確では ないかもしれないが、それぞれのジョブというか、役割はかなり明確になりやすいので はないかとか。それぞれの職種で成果の概念で整理をしていくとどうなるかといった検 討をしています。  一方、目標管理の成果をとらえる期間で言うと、現行は全職種ともに半期でやってい ますが、必ずしも半期でなくても良いのでないか。研究やスタッフであれば1年、場合 によっては1年以上のサイクルで見ていく議論もしています。  また、報酬体系についても、職種によってはグレードの区切りを束ねたグレードにす ると共に、より成果を重視した報酬体系に切り替えていくことを検討しております。  日本の企業については、過去の年功的な賃金、職能資格制度の流れから、どうしても 全社一律の評価・処遇体系を構えて運用してきたのですが、翻って海外を見ていきます と、かなり職種を意識した評価、賃金制度が導入されています。全職種で別々の制度を つくるわけではありませんが、職種特性には明らかな違いがありますので、それら特性 によりフィットした職種別の人事制度を整備していくための検討をしています。 ○化学工業メーカー(B社) ・企業の概要について  会社の概況ですが、創業は明治20年ですので、ちょうど120年になります。社員数 については、単体ですと5,600人で、海外を含めての連結では32,000人です。  国内の事業ですが、石鹸や洗剤、シャンプー等の家庭用製品、あるいは化粧品などが あります。また、弊社ではこうした製品を作るための原料も自社で生産しているという ことで、化学製品を生産しております。その一部を社外にも販売している事業もありま す。連結の売上高としては、12,000億円です。 ・人事制度について  当社では「組織と個人の目標達成への努力を統合する環境づくり」を日常目指して仕 事をしています。メーカーですので、当然「よきモノづくり」のための組織が会社の中 に備わっています。研究から始まり生産、販売、物流といった機能ですので、これらを 有機的に高度に効率的につないでいくことが重要ということで、会社全体では非常にチ ームワークを重視しています。また、それを支える個人の能力の向上を重視しています。  従来の年功賃金制度を払拭するために役割と成果に基づく人事制度改革を実施してい ますが、あくまで人材開発を人事の基本政策の中心に据えて行っています。  先ほど申し上げましたとおり、研究や生産あるいは販売にはそれぞれ機能があるわけ ですが、それは一律的な人事制度でずっと取り扱ってはきたのですが、なかなか各部門 のニーズにきめ細かく対応できないので、まずは各部門の人材を伸ばしていくことが責 任であるということで、キャリア・コーディネーターという名称をつけまして、各部門 ごとに人事担当者を置くことから始めました。  評価制度についてですが、目標管理制度を導入して目標に向かって実績を上げていく ことを中心にやっているのですが、それだけではなくコンピテンシー、プロセス評価と も言えるかと思いますが、そういったものを導入しています。その内容につきましても、 各部門で職種に応じて相応しいものを考えて、設定して運用をしています。また、役割 に基づく資格等級制度や賃金レンジ、これも各部門がニーズに合わせて設定しています。 人事制度についての基本的なところは以上ですが、一方では社員意識調査やイコール・ パートナーシップ活動など、個を尊重した制度の導入、あるいは全社的な風土改革活動 に取り組んでいます。  先ほど従業員数は5,600人と申しましたが、実はそのうち組合員は900名ほどで、一 部の人間だけが労働組合に属しているという状況です。このほかに販売会社にも大体同 じ程度の人数がおりまして、それと合わせて考えると組織率10%以下という状況ですの で、会社、あるいは人材開発部門が意識的に社員の声を汲み取ることをやっていかない と、なかなかモチベーションが上がらないこともありますので、そういった観点からも こういった制度を導入して回しています。  人事制度の変遷についてですが、当社は、職能資格等級制度を1961年とかなり古く から導入しています。導入の経緯といたしましては、戦前には1つであった会社が、戦 後に分割されて再び合併したため、分かれている間に各社の人事制度が変化してしまい、 いろいろな処遇の部長、課長が存在していたため、合併の際の共通の尺度として考案し たことがきっかけになっています。  このような経緯から、能力に応じた評価・処遇をしていくことも古くから行われてお りまして、役職手当などもありませんでしたので、フレキシブルに役割に付ける、ある いは外すことができる会社ではありました。とはいえだんだん社員が増えてくるとそれ を公平に扱わなければいけないことになりますと、どうしても学歴や年次、あるいは男 性か女性かが評価の尺度として徐々に入ってきますので、運用が非常に硬直化してきた ことがあります。それを何とか払拭したいということで、90年代後半から人事制度の改 革に取り組み続けまして、現在では職務と成果に基づく人事制度という形で変化してき ています。  それまでの年功制から離れて職務主義の人事制度に転換した経緯ですが、弊社ではか つて多角化の道を選択して、その一部から撤退したことがありました。その際に、会社 が倒れてしまうのではないかという危機を全社員が感じたことから、年功の意識を払拭 する方向に変化していきました。  人事の基本、フレーム枠としては、役割・成果・人材の3つをPosition・Performance・ Personを3Pと呼んでいます。会社として存在している以上、社会に貢献する等の目的 があるわけですが、それに沿った形で組織が作られます。そして、組織の中には、当然 いくつかの役割が次々と作られていくことになるため、まず役割の中身を明確にしよう ということで、海外のコンサルタント会社の職務分析を導入して、職務の大きさあるい は基本的な使命等を明らかにしました。当然そこには人材が付かなければいけないとい うことで、その職務に求められる人材要件、あるいは専門性、知識、経験等を明らかに して、個人の能力開発の目標にしてもらうという作業をしました。また、職務には、年々 求められる成果、目標がありますので、それについても明らかにするということで、経 営的な数値、業務改善、あるいは顧客へのサービス、組織・人材の育成といった4つの 視点で、きちんと目標を立ててその成果を測っていこうと評定制度を改善しています。  人的投資の考え方ですが、全社員に対して共通となるベース的な教育、あるいは年金、 健康保険、共済組合などについては、全社員が働くための基礎として公平に整備すると いうこと、仕事についてはそれぞれ大きさや責任が違うということで、職務特性に応じ て配分を行います。それらをベースに、実際の成果は個人や組織で違ってくるので、イ ンセンティブについては変動をさせる形を取っています。さらに組織全体を引っ張って いく次世代のリーダーといった人材については、選抜を行った上でストックオプション、 あるいは選抜型の研修の機会を与えるなどのプライオリティを付けた人的な投資を行っ ています。  管理職については職務評価をしています。職務価値の基準として、マーサー社を使っ ていて、7つの基本ファクターと16のサブファクターとしています。この基本ファクタ ーから受ける印象としては組織の大きさ、あるいは持っているメンバーの数が非常に重 視されるのではないかというのが社員にも心理的にはありますが、これについては生産 部門などの大きな階層がある組織に対応した仕組みになっているためであり、新しいバ ージョンへの切替えを考えています。もっとシンプル化したもので、かつ専門性につい ても重視されたファクターに切り替えようと、作業に取りかかっています。  等級体系についてですが、従来の職能等級制度では、能力の高さに応じて6等級で、 これ以前には8等級あった時代もありますが、担当層、基幹層、上級層と下から順番に 能力の高さに応じて格付けをして処遇することを行っていましたが、学歴、年数といっ たもので順次繰り上がることが行われていましたので、これを思い切って職務に基づく 客観的な制度にしようということで、1999年に管理職層から検討をはじめました。  職務分析の手法に従って、各職務の大きさを測って、それを5つのクラスに分けて、 ポジション5から1までの再格付けを行いました。実際に管理職として扱われていたも のの中には、こういった職務分析で測り直すとそれに該当しないものも出ていまして、 それについては、1年間の猶予期間を持って見直した格付けを行うなどの整備を行いま した。  それ以下の層については、生産、研究、販売のそれぞれの仕事のやり方や求められる ものが非常に違っていますので、これを機会に全社一律の評定制度、あるいは一律の評 価期間をもっと自由に組めるようにしようということで、部門別の人事制度を導入しま した。もちろん職種別ということも最初は念頭にはあったわけですが、例えば研究の中 でも人事や経理が必要ですので、1つの部門の中にもいくつかの職種があるのですが、 各部門にいきなり細かく分けて管理させるのは難しいということで、まずざっくりと14 部門に分けて等級制度を再整備していきました。また、リーダー・主任層、基幹層、担 当層の一般の社員層につきましては、職務評価の代わりに各部門の職場の中の組織図を 作って、どのような役割で人材が配置されているのかを見て、その役割の大きさの順に リーダー・主任層、基幹層、担当層と分けて運用を行っています。  そもそもこのような人事制度の改革を狙ったのは、先ほどの説明のような年功序列の 意識の払拭もあるのですが、もう1つには、日本では雇用の流動化がさらに進んでいき、 職種によっては賃金が上がっていく可能性があるということへの準備ということもあり ました。いちばんやりたかったことは、一つひとつの職群に求められる責任や求められ る成果行動、あるいはスキル、専門知識を明らかにして、各社員が目指すところは何な のかをわかるようにすることでした。そして、その人材育成を進めることが必要である ということで、この改革に取り組みました。  報酬の体系につきましては、各人が担当する仕事の大きさによっての役割給がベース となります。かつてはこれを職能給と呼んでいましたが、能力ではなく役割に応じて決 まっている形で、外部の市場の賃金と比較した上で決定しています。  賞与の部分については、3つに区分しています。基本となる部分は、役割給掛ける2 か月という形で決めています。それと個人の実績、会社の業績によって変動する部分で 分けています。管理職層については、会社への業績や個人の実績が非常に重要だという ことで、それぞれ10%の配分を行って、基本部分は80%です。リーダー・主任層、基 幹層、あるいは担当層では、会社の業績に対して大きな責任、反映はそれほど要らない だろうということで、基本的な個人の部分を厚くする形で設定しています。ここにおけ る課題としては、相変わらず管理職層についても基本となる部分が80%もあるので、変 動部分がまだまだ低いのではないかというところがあります。  当社の人事制度は、職務ベースに変えてきてはいるのですが、目指すところとしては 一人ひとりが非常に高い数値的な成果を出すこと以上に、高いレベルの達成プロセス、 仕事の仕組みを各部門で構築していくことが非常に大事かなと考えています。それを日 常的な活動に埋め込んで、チームとしての高い成果を持続的に達成していくことが非常 に重要であると考えています。それを実現するためには、もちろん個々の能力を上げて いかなければいけないこともありますので研修も必要ですが、適材適所に人を配置する キャリアパスを進めていくことが非常に重要だと考えています。先ほど少し申し上げま したが、各部門に人事担当を置き、キャリア・コーディネーターとして一人ひとりの育 成を何年もかけて進めていくところを重視しています。 ・社員意識調査について  社員意識調査“FIND”について説明します。人事制度はこれまでの説明したような 狙いでやっているのですが、なかなかそれを持続していくことが難しいので、人事制度 だけではなく、ほかにも組織としての狙いを達成していくための仕掛けが必要だと考え ています。その1つとして社員意識調査があります。  もともと経営の目標として「強くて良い会社」を目指そうというのがありました。強 い会社については、例えばコア事業の集中ということで売上利益の目標を掲げる、ある いは海外事業の比率をもっと上げる、あるいはEVAで表すような企業価値を上げると いうこと。もう1つは、良い会社という目標としては、経営の革新や人的資源の活性化 や企業の社会的価値の向上がありましたが、なかなか数値化が難しく、具体的には何を 取り組んだらいいのかが分からないので、それを明らかにする何かを考えるために導入 されたのが社員意識調査です。様々な課題や社員の声がそこから上がってくるというこ とで、それをベースに具体的に何に取り組んだらいいのかを考え、それを各組織で実行 していきます。意識調査はスタートポイントにすぎないので、改善活動を繰り返し行っ ていくことが活動のポイントだと思っています。  社員意識調査は、1つには管理職層の評定とリンクさせています。先ほども少し申し 上げましたが、管理職層については4つの視点で評価することをやっていまして、経営 の数値、カスタマーの視点、業務プロセス、人材と組織の視点です。一方で、年1回の 管理職の評価と2年に1度の社員意識調査により、アクションプランや改善活動の目標 を、それぞれの部門の長、あるいはマネージャーの目標にも組み込んでいくことで、立 てたアクションプランについてはなかなか1年だけで解決できることでもないので、複 数年に分けて管理職の目標にも取り入れていきます。  もう1つ、社員意識調査については、企業理念の浸透活動にも結び付けています。企 業理念については、以前から口頭ベースでは社内で伝承されてきたことなのですが、き ちん書かれたものを形で示す必要があるだろうということに加え、海外の社員にもわか るようにするために、基本理念を再構成したものを2004年に設けて、この浸透を図っ ているところです。  まずは、企業理念についてきちんと知ってもらうということで、パンフレットやポス ターをつくるなどの様々なツールにより、社員に見えるようにしました。次に、各社員 が自分たちの解釈に従って、仕事の中でそれをやってみることで企業理念の実践し、職 場ごとに集まりワークショップ研修を開いて、自分たちのやってきたことを相互に話し 合い、さらに理解を深めることにより、新たに入ってくる次の世代に対して各社員が伝 承していくようなサイクルを回していきます。  さらに社員意識調査においては、企業理念がどれほど実践されているかを洗い出して、 各職場で新たなアクションプラン、目標を作って回していくことでリンクさせています。 そういった企業理念を実践する活動を通じて組織力を高め、社員もともに成長していく ことで働きがいを持てる会社をつくっていこうということです。  実際に社員意識調査をどのような形で課題を実行していくのかですが、まず取り組む べきものとして、実行していかなければならないものと、重要であるがしばし観察とい うか、注視していこうというものに分けています。次に、改善しなければいけない重要 な課題や社員が何を強みとして考えているのかといういい点も出てきます。そのいい点 については会社が持続していくための原動力となっていますので、それを組織風土に関 する事項に照らし合わせると、例えば改革や挑戦の意欲や消費者指向、あるいはコンプ ライアンスの徹底といったことについてさらにどう続けていくかということで、具体的 には企業理念のワークショップ研修で取り上げてやっていこうという領域にもつながり、 また、会社へのロイヤリティに関する事項に照らし合わせると、例えば働きがいや製品 への誇りなどについては、直接何かをすることはできませんので、その場合には、組織 風土に関する事項を実行することによって、付随して改善されていくということになり ます。  具体的な課題については、1つは経営に関してグローバル経営の展開、ミドルマネジ メントに関するミドルの管理能力のレベルアップ、職場環境に関するワークライフバラ ンスの促進などを区分して、全社的な方向を示し、それに従うことにより、各部門なり の課題の検討を進めています。 ○印刷業(C社) ・企業の概要について  当社は明治9年に創業して、昨年130周年を迎えました。創業当時は経営理念を「文 明の営業」と言っており、まさに印刷は、西国立志編から明治、大正と、日本の文明開 化に寄与するということで、創業者はこの経営理念を掲げて、ビジネスをやってきまし た。125周年を迎えた時が21世紀を迎えた時期だったので、「21世紀ビジョン」をつく りました。そのときに21世紀の創発的社会に貢献することを新たな経営理念とし、創 発的社会に貢献するためにどのように貢献するのかという視点で、事業ビジョンとして は「P&Iソリューション」を掲げました。  P&IのPというのはPrinting TechnologyのPなのです。IはInformation Technology のIです。要するに印刷技術とITをうまく融合させて、取引先の課題解決を図ってい くというP&Iソリューションを掲げています。P&Iソリューションを実現するために は、組織や人はどうあるべきなのかということで人事制度を考えております。  組織の構成要素というと、組織の構成員、組織を引っ張っていくリーダー、そして組 織が持っている組織風土です。この3つが大きな要素と思っています。組織を構成する 構成員については、他の会社も大体共通していると思いますが、まず専門性ということ を非常に期待しています。一時期は「プロ人材」という言葉を使っていたのですが、プ ロ人材というのも少し平板なので最近はあまり使われなくなったのですが、いわゆる専 門性の高い社員になってほしいとうたっています。  組織風土については、創発的社会に貢献するには自分の会社、個々の組織も創発的な 組織風土を持っていないと創発的社会に貢献はできないので、創発的な組織風土をいか にしてつくっていくかを、人事施策の中で大きな要素となっています。  今日は働きがいのある職場という話ですが、21世紀ビジョンを掲げたことを機に、い かに働きがいのある職場ができるかということで人事部も考えてきています。人事施策 では、賃金などいろいろありますが、行き着くところ、いかに社員が自己実現を図れる 職場なのかということではないかと考えています。 ・主な人事制度について  当社の人事諸制度ですが、まず、目標管理評価制度があげられます。また、自己申告 制度や社内留学制度は、専門性の高い社員が創発的社会に貢献するためにと考えた制度 です。  前後しますが、創発という言葉について、我々は社内でいろいろな定義づけをしてい ます。結局自立した個がワイワイガヤガヤやっていると、何となく予期せぬことが生ま れてくるのを、創発だろうと言っています。そうすると、ワイワイガヤガヤと何にも専 門性を持っていない人で、人の言うことばかり聞いてあまり自分の意見を言わないよう な自立していない人が一緒にいても創発はしないので、自立した専門性を持った個がワ イワイガヤガヤやることが重要かと。自立した社員が、自分自身のキャリアを自分で考 えて自己実現を図っていく制度の会社にしていきたいと考えています。  そして、自己申告制度や社内留学制度は、自分自身で自分のキャリアを考えている専 門性の高い社員に応えていく制度であり、資格取得奨励制度、マイスター制度、専門職 制度の3つは、どちらかというと専門性を高めなさいという会社の求めに対し、専門性 を高めたら何かご褒美をあげましょうとか、専門性の高い人にはこういう処遇をします という制度です。  そういった自立した人や専門性の高い人たちに受け入れられるような評価制度という と、正当で公正な評価制度でなければいけないだろうということです。弊社の場合は、 いまのところ目標管理評価制度がいちばん合っているのではないかということです。最 近、目標管理評価制度は成果主義の悪者あるいは成果主義の終焉のような形で言われる こともありますが、やりようによっては良い制度であり、さらに実効性を高めるにはど うしたらいいかということで、弊社の場合はかたくなに目標管理評価制度を進めている ところです。  自己申告制度や社内留学制度等について、制度の概要については、人事制度との絡み で多少段階があります。まず、自己申告制度は、自分がこうしたい、ああしたいという のを1年に1回会社に申告できる制度です。これは各社類似の制度を持っていると思い ますが、それは申告できるということで、申告したからといって100%かなうわけでは ありません。チャンスはあるけれども、自己実現度は比較的低いというものです。  社内留学制度は、いろいろなことを経験してみたいけれど、人事で異動になると、い つ元の職場に戻れるかわからない、保証がない、それは少し不安だという方たちのため に、原籍はそのままにしておく代わりに、一定期間いろいろなことを勉強してきなさい ということで、まさに社内で留学するというものです。  社内人材公募制度はもう少し進んで、社内にこんな新しい仕事がある、こんなことを 考えているのだけれども誰か応募する人はいないかなどということを、グループ・全社 員に公募します。それに対して各自が手を挙げて面接をして、合格すれば100%、年に 2回の定期人事で動けるというものです。だから、自分はこうしたいという職種がうま く見つかれば、それに手を挙げて、合格するという要件はありますが、100%動けると いう意味では確実に自己実現が図れるという制度です。  さらに進んで、自己実現を図れるような公募職種はない、これは自分で考えたほうが 早い、自分は日頃こんなことをやりたい、社内で何か新しいビジネスを立ち上げたい、 という人たちに何かそういう機会を提供しようというのが社内ベンチャー制度です。こ れは会社が51%、本人が49%出資して、まさに企業の社長になってやっていくという ものです。これはあくまでもグループ内ということで多少の枠はかかっていますが、自 分でやりたいことができるということでは、自己実現度を一歩進めた制度かと思います。  さらに進めて、当社グループの中には自己実現を図れるようなものはないという人は、 グループを出てもいいではないかということで、各社でやっている早期退職優遇制度と は少し違うのですが、セカンドキャリア支援制度と呼ばれるものがあります。あくまで も自分で、グループ外でセカンドキャリアを歩みたいという方には、それなりの教育期 間が必要でしょうし、独立するにもある程度の資金が必要でしょうから、そのようなこ とも含めて支援するという制度もつくっています。これは究極の制度ではないかと思い ますが、グループ外で自己実現を図る人にも何らかの支援をということで行っているも のです。  また、資格取得奨励制度、マイスター制度、専門職制度の3つは専門性を高めるため の施策です。資格取得制度は、いろいろな資格を取ったら奨励金を支給するというのは ある程度各社でやられているかと思います。マイスター制度については、いま日本の復 権ということがいわれていますが、これは現業職、つまり、ものづくりの現場で巧みの 技のようなものを持っている人の技を何とか後世に伝えていくために、そういう人を処 遇していきたいということで設けたものです。  最後に専門職制度ですが、これは今日のメインの話になるかと思いますが、どちらか というと技術研究職の人たちに対して、本当の専門性を評価して処遇していくという制 度です。この制度は一度改定をしておりまして、以前は専門職制度、専任職制度と言っ たほうがいいのでしょうか、どちらかというと処遇に重きが置かれているものでした。 弊社で管理職に就くような人たちは、処遇面でも資格面でもトントンと上がっていく傾 向にありましたので、管理職に就けないのだけれども、何となく処遇しておかないとモ ラルダウンしてしまう、というような人を専門職という形で任用していたことがありま した。しかし、処遇だけで専門職と言うのはよくないということで、本当に「これは」 という人、この会社にAさんありというような人を処遇していこうということで専門職 制度を改定いたしました。 ・専門職制度について  まず、専門職制度の背景です。これは社員全体が「自立した個として他者と協働でき る人材」を目指す中で、特により高いレベルの優れた専門性を有し、社外的にも社内的 にも高く評価されている技術開発者や企画担当者を特別に処遇するために制定した、こ れが目的です。  では、どういったところがあるかと言うと、以前の専門職制度では非常に多くの専門 職のレベルをつくっておりました。課長になれない専門職の人は○○研究員と呼ぼうと か、部長になれない人は○○研究員と呼ぼうとかいう形で、それぞれのレベルに応じた 研究職をつくっていたのですが、それは本当の意味で専門性が高いというよりは、処遇 のための専門職であり一部弊害が見えてきたということで、今回はレベルを二段階に絞 って、本当に専門性のある方だけに専門職に就いていただくことにいたしました。1つ が主席研究員、もしくは主席企画員と呼ばれるレベルです。もう1つがフェローと呼ば れているレベルで、これは主席研究員、もしくは主席企画員の中から選ばれるわけです。  当社の場合、開発職には研究開発職、技術開発職、企画開発職と3つの職群がござい ます。研究開発職と技術開発職の方が専門職になる場合には主席研究員と言われます。 それから、企画開発職の方が専門職になる場合には主席企画員となるのです。当社はも ともと印刷という受注産業でしたが、そこから一歩進んで自分で仕事を企画して、こう いうことをやったらいかがですかとお客様に提案できるような方を企画開発職と位置づ けております。これはもともと技術系の方もいれば営業系の方もいるという、当社なら ではの職群かと思うのですが、そういった方も専門職制度で処遇をしたいと考えており ます。  こういった方のレベルを主席研究員ないしは主席企画員と言っているのですが、その 中で本当に優れた人格を持ち、社会的に権威ある賞を受賞した者あるいは著しい成績を 上げた者を、特にフェローという形で認定するという二段階になっています。  もう1つ特徴的なのは、管理職をやりながら主席研究員とかフェローになれるという 制度です。管理職でありながら専門性を発揮するという方も実際にいらっしゃるという ことで、管理職になったら外れるとかというものではないという制度です。かつては管 理職になれない人を処遇的に専門職にしたということがあったのですが、今回はそうで はなく、管理職であっても専門性が高い人は専門職として認定するということを特徴と しております。  ではどのようにして認定をするかについて説明いたします。まず、主席研究員と主席 企画員について。応募は、上長からの推薦、同僚の推薦、あるいは後輩の推薦でも構い ませんし、自薦も認めております。自分で応募用紙を書くわけですが、「専門職評価書」 というフォーマットをつくっているので、そこに、私はこういうことをやりましたとか、 こういうことができますということを記入します。また、それに対する点数が何点です ということも加えた形のものを「専門職審査委員会」に提出します。そこで専門職評価 書に基づいて審査し、認定を行うという形で認定を行っております。  一方、フェローに関しましては、主席研究員や主席企画員の中から、その研究開発部 門の担当役員あるいは企画部門の担当役員と人事担当役員とが人選をする。人選した人 間に対して取締役会で審査を行って認定をするという手順を踏んでおります。  先ほど、主席研究員と主席企画員は専門職評価書を書くと申し上げたのですが、実際 にどんなことを書くのかというところを説明させていただきます。まず、認定基準とし て、成果、社外評価、社内評価、コンピテンシー、この4つの評価項目が一定の基準に 達した者を認定するとしています。  細かくいいますと、持ち点1,000点とコンピテンシーの評価軸で評価を行っています。 まず「成果」で400点、「社外での評価」が300点、「社内での評価」が300点。さらに、 これが細かく分かれていて、例えば「成果」の軸のところではさらに10項目に分かれ ております。満点が40点で10項目からなる質問表のようなものがあって、それに対し て自分はこうであるというようなのを書き入れ、それに対して点数を入れる。さらにそ れを審査会で、自己採点はこうであるが、審査会で点数を付け直すと何点になるという ような形で点数化をしております。  「成果」でいいますと、「現象を解明し、体系化し、理論を確立している」が40点、 20点、0点のうちで何点になっているかというような質問項目が10項目並んでいるわ けです。「社外での評価」につきましても「学会・業界団体において委員や主査などの役 員を担いリードしている」とかそういうことについて質問形式で点数をつけて、できる だけ客観的な指標になるような形の運営を行っております。  では、専門職の認定をされると、どのような待遇になるかですが、主席研究員と主席 企画員については月額10万円の専門職手当を支給することになります。当社の場合、 通常の給与関係につきましては、研究職、技術職だからといって特別なものがあるわけ ではなく、他の社員と同列で評価されます。専門職制度では、そこに対して手当が付く という処遇を行っています。ちなみに、月額10万円というのは、当社でいうと、事業 部長としての管理職手当と同額です。当社は事業部制を敷いており、事業部長は従業員 の中で最高位の管理職になりますので、それに相当する役割を担っている、あるいは期 待をされているということです。さらにフェローになりますと取締役に準じた処遇で、 一段と高い処遇あるいは期待感を持っているということです。  結局、どれぐらいの人間が実際に専門職になっているかということですが、この制度 が2004年から出来ており、毎年1回の選定を行っていまして、2004年から2007年で 4回選定があり、その累計は主席研究員が15名、主席企画員が1名です。  私どもは事業分野を情報コミュニケーション分野、生活・産業系、エレクトロニクス 系と3事業部に分け、さらに研究開発部門がありますので、この4つで分類いたします と、ほぼ半分が研究開発部門から選出されています。あとは情報コミュニケーション系 です。これは従来の出版印刷や商業印刷を行う部門です。クレジットカードをつくる事 業も情報コミュニケーション系に分類しております。そして生活・産業系、これは包装・ パッケージングや建築材料の部門です。建築材料も最近、印刷物から出来ているのです。 その生活・産業系の事業部門から2名。エレクトロニクス系から1名。そして情報コミ ュニケーション系から1名の主席企画員が出ています。フェローは、エレクトロニクス 系から唯一認められる1名の方が今年の春就任されているという状況です。  このような運用実績でございますが、約半数が研究部門から出ているということで、 研究開発部門の非常に高い専門性を持った方を処遇するという目的に対しては、狙いど おりの結果ではあるのですが、一方で、事業分野のほうは、現実問題として社外的な活 動をやりづらいということもあって、人数的に若干少ないかなという感じがしておりま す。そういう意味で、今後の運用として、事業分野系の方にも頑張っていただけるよう な制度も考えていきたいと思っております。 ○意見交換 Q1  総論的な質問ですが、従業員、組織の構成員の働きがいや自己実現というものを尊重 していろいろな取組をされるという方向性と、企業である以上、実際に営業利益をきち んと上げていかなくてはいけないということ、後者は短期的にも成果を求められるもの かもしれませんが、企業としては、そのような相克を一体どのように考えていますか。 この質問は、人事だけではないのかもしれませんが、組織管理という点についての現状、 あるいは、これからの方向性をお聞かせいただきたい。これら両方をうまく調和できれ ば企業として最善の結果なのでしょうが、短期的に見ると調和はなかなか難しいのでは ないかと考えています。また、企業ですから、ある局面では利益を上げるというところ を優先していくことになるのだろうと思いますが、そのような局面でどのように対応す るかなど、各社それぞれのお考えをお聞かせいただきたい。質問の問題意識としては、 一時、組織管理の見直しの議論で、アングロサクソン的な組織管理がいいのだという風 潮がかなりあったと思いますが、最近は、人事制度の見直しも含め、長期的な視点も入 れながら目標管理制度を見直していくなどいろいろ取組をされているのであろうと考え ており、実態をお聞きしたいというものです。 A1(A社)  医薬品事業ということでお話します。業績を短期的な見方でというのを受けるとすれ ば、例えば薬価制度です。それから、医薬品ですから副作用の問題で受けるということ はあります。概ね、売上げというのは短期的に見えますが、長期的に見ますと、薬の開 発には10年以上かかります。化合物を発見して製品として市場に出るまでに10年位は かかると考えてください。今行っている研究への投資が非常に先に反映されるというこ とで、私どもの業界は非常に特殊な業界だと思っております。極端な例を言えば、良い 薬を持っていれば誰が経営しても大丈夫だと言われるほどです。  ただ、逆に言うと、研究開発への投資が一般業界に比べて著しく高く、売上げの15% と程度です。我々としては、研究から結果を出していこうということを非常に重要なこ とだと考え、そういうビジョンをつくっています。自分たちの持っている領域に継続し て結果や成果が出ていくような体制を組んでいるのですが、実際、今やっていることが 本当に実になるかというのは、10年先でないと分からないので、そういう意味ではハイ リスク・ハイリターンの業界です。目先のことよりは将来に対してどういうふうにやっ ていくかが非常に重要だと考えています。  もう1つは先ほどの説明にもありましたが、研究者というのは30代半ば位がいちばん いいのです。そこで成果が出ないと、ほぼ将来にわたっても出てこないものです。それ は何故かと、私が研究者に聞くと、要は確率が非常に低い。1つの化合物で当たるとい うのは非常に少ない。経験は、失敗による蓄積なのです。年をとると、過去にその近く の化合物はやったけれど薬にならなかったということで、だんだん挑戦意欲がなくなっ てしまいます。しかし、若手はそんなことを考えていません。とにかく薬を出して自分 の夢を実現したいというところがあります。そこで、この若手にどうやって意欲を持っ て働いてもらうかというのが製薬企業のいちばんの苦労です。  我々の所にも年輩の研究者がいますが、制度としては30代の研究者がチャレンジでき るような人事制度をつくっていかないと、彼らの意欲が上がってこないのです。これは 私の偏見かもしれませんが、研究者というのは普通の人と違うところがあり、報酬が多 いからとか処遇がいいからいたいというのではなく、自分のやりたい研究をさせてくれ る環境に魅力を感じて会社に志望してくる人がいます。だから、そういう人たちにとっ て夢のあるような職場環境をつくるということが報酬以上に大事だと思っています。 我々も一律的な人事制度では限界があるので、研究職に合った人事制度なり評価制度を つくっていかなければいけないと思っています。 A1(B社)  研究員ということでいいますと、5,600人の社員の中で2,000人近くが研究員で、大 きな割合を占めています。彼らのモチベーションと自己実現、それと会社の目標を一致 させるというのは重要かつ難しいことなのです。  これだけ研究員がいますと、テーマも600とか700あって、全部が物になるわけでは ありません。この研究はもう打ち切るというようなことがあちらこちらで発生して、そ の際どうするのかということがあるかと思います。完全に一致させていくことは無理な のですが、定期的に、研究の方向はこれでいいのかといったコミュニケーションの機会 をどれだけ設けられるかというところがポイントです。上司による面談はもちろんやる わけですが、それはどこの会社でもあります。しかし3年目、7年目といった節目ごと に、上司だけではなく、その上の室長とか所長あるいは研究部門の人事担当も同席した 上で、一人ひとりが自分のやりたいことや今取り組んでいるテーマについての進捗状況 を発表してアドバイスを受ける、ということを仕組みとして持っています。  また、研究発表会を社内で行う、当然どこでもそういったことはやられていると思う のですが、研究部門のトップあるいは会社の経営陣も同席したところで、自分のやって いることを表明して励ましをもらう、方向性の修正をしてもらうということはあります。 ただ、どうしてもこの研究は打切りで、自分はそれを続けたいという場合には、他社に 行っていただくとか、大学に戻るとかということもあります。  若い人に対してこのような支援はしていないのですが、40代半ばを過ぎてくると、や はり支援も必要だということで、早期自由定年制度として、45歳以上の者については退 職金にかなり上増しをします。それが50代後半になりますと、かなり小さな額になって しまいます。このような制度で転身に対しても配慮をしています。  一人ひとりを個別にきちんと管理する。育成、方向づけをすることが大事ですから、 キャリア・コーディネーターという人が個人の申告等をつぶさに見て、配置について配 慮していくというようなことをやっています。他部門にもキャリア・コーディネーター が何人もいるわけで、彼らは、例えば隣の研究部門の人材が何を考えているかというよ うな情報をコンピュータから見ていいことになっています。例えば、うちの研究の経験 を活かして、品質保証、商品の開発、あるいは技術広報という仕事もありますので、そ ういった部署に異動しないかというようなことを打診してみるなどの配慮をしています。  会社全体としては消費者に奉仕しようという考えがありますので、その目標に賛同し ている社員については、仕事が変わっても続けたいと思ってくれますので、そういった 育成、異動に配慮しているというところです。 A1(C社)  私どもの人事制度を先ほどの説明の中でいくつか挙げておりますが、いろいろな制度 の中に「組織」と「個」ということを必ず考えています。例えば、目標管理評価制度で いえば研究開発部門は比較的長期的なテーマを研究している人が多いので、当然、目標 も長期的な目標を挙げて、半年とか、短期には成果が出ないような目標を挙げて日夜研 究に頑張っているという人がいます。  ところが、業績が悪くなってくると、上のほうから、研究開発部門は何をやっている のか、早く、すぐに儲かるような技術研究の成果を出せと言われてプレッシャーがかか ってきます。研究をしている本人は、確かにそうかもしれないけれど、長期的なテーマ なので、そんなにすぐ成果と言われても、そんなものではないといいます。実際に評価 をするときに、「あいつはいつも何か研究しているのだけれども、なかなか成果が上がら ない」と言う発言もあり、どうしても業績がちらついてくると、そういうやり取りが出 てきます。  社内人材公募制度でも、業績が悪くなった部門や、日々業績確保に追われる営業など にいると、仕事に対する面白さもさることながら、日常業績に追われ、その職場からち ょっと離れたいという気持ちになります。そういうときに、たまたま魅力的な職種が人 材公募で出てきて、そこに応募して仮に受かったとします。先ほど言ったように、それ は有無を言わせず動かせる制度ですから、忙しい部署で大量に優秀な人が他の職種に合 格して抜かれてしまうということがあります。このような時に人材を抜かれた部署では、 うちはどうしてくれるのだ、いま得意先にこんなテーマで忙しいのに、人を抜かれてし まってはいくら制度でも困る、そういう議論も出ています。  先ほど言ったセカンドキャリア支援制度みたいなものは、つくったときには非常に崇 高な理念でつくったはずの制度ですが、業績が悪くなってくると、この業績が悪い中で 会社を飛び出ていく人に、手切金ではないけれど、そんなにたくさん金を渡して支援し ていいのかとか、残っている人に出すならともかく、辞めていく人に何でそんなに出さ なければいけないのかという話もでます。  正直に言って、企業ですから、優秀な人はいつまでも残ってくれるのがいちばんいい わけです。優秀でない人と言うと言葉が悪いのですが、そういう人はどこか他に転職し てもらう、一企業としてはよいのでしょうが、CSR的な観点でいけば、雇用をしている という意味での社会的な貢献はあるのでしょう。また、利潤を追求するという意味では、 いつまでも優秀な人にいてほしい、優秀な人がほかに出ていくのにこの制度を利用した ときに、制度があるのだから認めなければいけないという両面が頭をよぎります。制度 を最初につくったときの目的と、業績が悪くなってきたときの制度の受け止め方の違い というのは必ず出てきます。 Q2  B社に伺います。先ほどの話の中でも、人的投資を経営上の大きな目標に掲げている とのことでした。また、職務ガイドに関わる説明の中で、社員が目指すものを明確化す ることを人材育成に結びつけることが最大の目標であるといった趣旨の話も承りました。 人事制度全体がそこを目的・目標にしているということは総論として大変よく理解でき ました。その上で人的投資、個々の従業員、経営資源としての人材の能力アップの具体 的な仕掛けや仕組みとして、選抜型の研修とか、それに相当すると思われるような説明 があったのですが、特に特徴的な、あるいは経営上、特に効果が出ていると思われる人 材育成の仕組み、ツールについて、もし追加的に伺える部分があればお願いいたします。 A2(B社)  各部門ごとにキャリア・コーディネーターといわれる人材育成責任者を置いていると いうところがポイントだと思っております。また、キャリア・コーディネーターといわ れる人達が各部門において部門人事委員会を開催して、部門長だけでなく、部間を支え ている幹部たちを集め、その部門における研修、人の配置、採用等を考える、更に、時 には処遇についても考えることとなっておいます。それを積み上げて全社の人事委員会 につなげています。  もともとは本社人事部がすべて決め、統一的な評価制度はこれでいいのだろうという ことで、処遇も一本。教育も、全般的にはこういうことが大事ではないかということで、 誰にでも通用するような研修を行うということを繰り返しやってきました。各部門にし てみれば、人事は人事部がやるものだ、育成責任は人事部にあるのだという形になって いたわけですが、そういったところを払拭できたのかというところです。  部門ごとの人事制度をつくるというのも、人事部だけでできたかというとそうではな く、部門ごとの責任者が、人を育成するのも、処遇するのも、評定をするのも自分たち の部門のためで、自分たちの責任であるという意識がもともと強かったがゆえに、今の ような形でできたのかと思っています。  「職務ガイド」について、1つは人事部のもの、もう1つは普通の事業部門のものが あります。人事部がつくると教科書的なものが出来上がって、それを見本に各部門でつ くってくださいということになります。各部門に任せると、自分たちにとって相応しい もの、人事部だけでは考えられないようなものをきちんとつくってくれます。そして、 つくった以上は、それに沿って自分の部門の人材を導いていこう、育てていこうという ようになってきます。これも1回つくってその後にどう持続するか、更新していくかと いうことは非常に難しい、といいますか重要なところです。  長くなってしまいましたが、結論的に言いますと、部門に育成責任、人事責任があり、 責任権限を委譲し、明確にしたというところが良かったのではないかと思っています。 Q3  C社に伺います。先ほどの質疑の中で、社内人材公募制度、社内ベンチャー等々の仕 組みについても、私どもが直接所管している人材育成という観点からも大変注目してい ます。仕組みについての、抵抗、矛盾、問題点についてはいまの説明でわかったのです が、実績としてどの位出てきているのかということ、それから、実際に人材公募あるい は社内ベンチャーに応募して実現した当の方々から、どのような声が上がっているのか についてお伺いします。 A3(C社)  社内人材公募制度と社内ベンチャー制度の利用実績と、実際にそれを利用した者がど ういう思いがあるかについてお話します。  社内人材公募制度は、既に約10年位やっています。これは年に2回やっており、今 までに約350名位の方が合格して、実際に人事異動で動いています。  我々は、10年経ったので、その人たちを採った職場でそれが活きているのかどうか、 また、動いた本人も制度による異動で自己実現が図れているのかどうかということを、 フォローしなければいけないと話しているところです。個々の人から細かくヒアリング はしてないのですが、人事から見て、あそこにいる彼は社内公募で動いた人だというの は分かります。見ていると、中には、自分はこう思って行ったのだが違っていたという ことで、その後別のところに動いた人も若干います。しかし、大部分の人は異動したと ころでまだ勤務しています。そういう意味では、異動してから何らかの形で自己実現が 図られていると思っています。このことについては分析が済んだ時に、どこかでご紹介 できる機会があるかと思います。  社内ベンチャー制度のほうは、今までに5人合格をして、実際に会社をつくっていま す。実際に合格するのはその倍位の人数がいるのですが、まず社内研修が用意されてい て、外部のコンサルが入った起業化の研修のようなものがあり、事業計画書はどうつく るのだというような研修があります。研修会には自分のビジネス・アイディアだけを持 って参加するのですが、研修を通して事業計画をつくり上げて、成果発表会があります。 その中で、面白そうだという評価で残るのが毎回2名位います。そこで残ると、業務か ら離れてインキュベーションをするような部署がありますので、そこに移って半年間、 まさにプレマーケティングをやって、それで本当にいけそうだということになれば会社 をつくります。そうして出来た5社については、規模は大きな会社ではないですが、全 社黒字ですので、うまくやっているのかと思っています。  個人的な話ですが、私は人事部長の前に社内の新規事業を開発するセクションにいま したが、社内ベンチャー制度を活用した5人のうちの3名は、私が前にいた同じ事業部 の人間です。うち1名は私の元部下です。私のところにいるときに、こんなことをやり たい、あんなことをやりたいとよく言っていたのですが、なかなか実現できなくて、「ど うしてもやりたいのなら、辞めてやるしかないんじゃないのか」などという会話もして いた人です。彼に、こういう制度が出来たから応募してみたらということで紹介し、応 募したら受かってしまって、元部下が今は社長をしています。彼らとは今でも会って話 をする機会があるのですが、バリバリやっています。こういう制度がなかったら、本当 に辞めて、どこかで起業しないと自己実現は図れなかったというケースかと思っていま す。  社内ベンチャー制度の実績は5人ですが、まさに会社の社長です。我々人事部は、結 構頻繁に彼らとのコンタクトがありますが、非常に自己実現が図れていると思います。 Q4  B社に伺います。説明の中で、選抜型研修というのがありましたが、全体の社員構成 の中で何割あるいは何パーセント位の方がその選抜にかかるのか。また、部門別の人事 制度という説明がありましたが、基本的には部門間異動はないのですか。異動する場合 はどのように調整されているのかということを聞きたいと思います。 A4(B社)  人材の選抜については、大雑把にいえば全社員の1割程度です。階層を4つに分けて いて、すぐにでも執行役員の候補になれる人、将来の部門長候補、マネージャーへの候 補、あとは、将来どうなるかは分からないが非常に優秀であるという若手ということで 4段階の候補に分けて、毎年リセットするという前提を置きながら繰り返し行っており ます。それぞれに相応しい研修というものを設けて、現在の社長もこのような研修を受 けて今に至っています。いちばん上の方の段階については他流試合というか、他社とも 組んだ研修制度を行っていますが、それ以下のところについては社内研修でやっており ます。  サクセションプランという言葉が先ほど他社の説明にもありましたが、当社でもサク セションプランを毎年やっています。全役職について、次は誰、その後は誰ということ を3段階位能力や時間軸によって選抜していますが、更にその中から将来上に行けるよ うな人をプロセスの中で選抜しています。  話が変わりますが、部門別に人事制度や処遇が違うというところで、部門間の異動は どうなっているのかということです。ある部門は3等級、ある部門は4〜5等級もあって ということなので、異動するに当たっては、本人に対して不利益がないように、ここで は実際にいくら給料をもらっているのか、その給料が当てはまる等級にまず異動させる ということを行っています。異動した直後は、評定については一定期間を設けて、最低 保障的なことをするというようなバックアップをしています。  実は、こういう制度をやりますと、バックアップの仕組みの辺がいちばんのネックに なります。昇格する年次が違うということが実際にはあって、本当は年次はなくしたは ずですが、同期入社というのはいますので、あの部門では大体みんな上がったけれども、 うちの部門はまだであるとか、逆に1年早く行ってしまうというようなことが実際には 起こっています。  ただ、これから先は流動化がどんどん進むのではないか、そして労働市場、賃金とい ったものが出来上がるのかと思って取組をしましたが、現実にはデフレやその後の社会 動向からベアゼロが何年も続いている状況です。もともとは同一の賃金レンジしかなく て、それをいくつにも分けたものの、その後ベアがないことから全然動いてないため、 いちばん下の新入社員のところから管理職一歩手前のいちばん上のところまでの幅が、 14部門あってもどれも同じで、その中での区分けが多少違っている程度であるというの が実態です。  ですから、これから先に流動化がもっと進めば対応できる状況はつくっています。現 実には給料がそんなに分かれていません。大きく違うのは評価の期間です。研究員とし ては1年以上欲しいというところですが、営業は半年でどんどんやってほしいといいま す。営業の方は数値目標の評価割合を高めてほしいといい、研究はもっと違うところを 見たいといいます。理想としては、それらに応じた評定制度を分けることだと思います。 Q5  A社に伺います。人事ビジョンの中で「変革力」とありますが、その中で「変化を先 取りし必要なリスクをとって主体的に変革し続ける」とあります。これは確かに素晴ら しいビジョンですが、具体的にこれを社員の方にやっていただくためのインセンティブ というか、仕掛けみたいなものがあるかをお聞きします。 A5(A社)  「変革力」ということは非常に重視しています。1つには部門長のコンピテンシーに も入っていますし、執行役員のアセスメントを今決めていますが、その中で「変革のリ ーダーシップ」というのはコンピテンシーの中の非常に高い位置に位置づけています。  インセンティブについては、研究では発明報償制度、開発では開発報償制度がありま す。これは製品が市場に出されてから、10名位を対象とした委員会を設けて評価をして います。チーム的なところもあり、個人にはなかなかいかないのですが、対象となった 人たちに、一定の売上げの率を掛けて報酬として出しています。  動機づけですと、研究本部で若手研究者の発表の機会を設けています。営業部門では、 ベストノウハウといい、成功事例を発表するというコンテストのようなことを行うこと で、インセンティブのようなものを与えています。 Q6  A社に伺います。研究者は30代半ばでいちばん生産性が上がるということでしたが、 ある程度年を重ねて会社としては生産性的に見込みがないという段階に差し掛かった研 究者のその後の処遇、あるいは職種転換の工夫のようなものはありますか。 A6(A社)  先ほど、30代半ばがいちばん研究の生産性が高いといいました。40代になると、マネ ージャーに進んでいくという方もいますが、中には研究から職種転換で開発部門やスタ ッフ部門に行くといったことがあります。それから、弊社にもジョブチャレンジ制度と いって、社内リクルートとかフリーエージェントというようなものがあります。  研究者は、40歳位になると、いろいろなことを考え始めます。ずっと研究所に残りた いという人と、自分は研究者としてはこれ以上望めるところがないとすれば、新しい仕 事に、例えば、海外に研究所がありますから、そういった所でベンチャービジネス、要 はビジネスデベロップの仕事をしたいとかという希望が出てきます。社の対応としては、 不十分だと思いますので、その辺の窓口をこれから広げていきたいと思っています。多 くはいないのですが、確かに、マネージャーには向いていないが、研究をさせたら最高 レベルの技術なり専門性を持っているという方がいますので、そういった方については、 上席研究員のようなもので処遇をしていきたいと考えています。 Q7  B社に伺います。別会社と一緒になったということですが、そのことで今日お話いた だいたような人事評価制度の中で課題なり、これから考えていかなければならないよう なことが生じましたか。 A7(B社)  別会社との絡みですが、ご承知のとおり、別会社は非常に強い独自のブランドを持っ ていますので、その独自性を優先するということが大前提として全体的にあります。い くつかある国内外の関係会社については、管理職層を対象にグローバルに人事制度を統 一するということをやっている最中です。もともとは当社が能力等級制度というか、年 功で積み上げていくような制度だったのですが、1999年から2000年にかけてそれを見 直し職務の大きさをまず測るというような人事制度に変えたことによって、海外の会社 に対しても人事制度を入れ替えていくことができるようになりました。また、市場と比 べて競争力ある賃金を設定できるということにもなってきました。  現在、別会社については管理職層にこのような人事制度は入っていないので、人材を グローバルにグループ内で活用していくため、まず共通語を増やす、あるいは制度や仕 組み、ツールをできるだけ共通化していかなければいけないということがあり、管理職 層の人事制度からやっているところです。 Q8  C社に伺います。専門職の数が非常に限られていて、イメージとしての専門職という よりも、本当にトップ層という感じがしたのですが、専門職予備軍のような層がどの位 いるのか、またその育成については、どのように対応しているのかお伺いしたい。 A8(C社)  弊社の専門職予備軍ということですが、正直に言って、ある専門職の予備軍みたいな ものがあって、その中から専門職が出てくるというイメージはありません。あえて言う と、技術研究職に就いている方、あるいは企画職に就いている方は、みんなその候補で はあるかもしれません。弊社の専門職制度というのは、極端に言うと、年齢的には入社 した翌年からでも成果、社内外の評価、コンピテンシーが1,000点満点で一定の合格点 を取れば合格します。手当的には、管理職でいうと事業部長クラスの手当ですが、年齢 に関係なく専門職になれますので、そういう意味では、ある層をイメージしているとい うことはありません。  手元の評価結果のデータでは、結果的に、いちばん若い人は40歳位、上は57位まで ですから、結構年次が要るのかなと。項目の中で、社外での評価も300点の要素を持っ ていますので、学会活動等である程度社外で認められるとなると、大学を出てきて非常 に専門性が高くても、「この会社にAさんあり」という社外的な評価を得るまでにはそこ そこの年次が要るかと思います。これを始めて3年位なので、まだその辺が分かりませ んが、そういうところはあるかもしれません。ただ、制度としては、年齢は全く関わら ない。我々には役割等級で上級職と一般職とあるのですが、一般職であっても構わない ということで運用しています。