第4回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日 時 平成19年2月15日(木)10:00〜12:00 場 所 中央合同庁舎第5号館18階 専用第23会議室 出席者 自動車メーカー    (厚生労働省側)政策統括官(労働担当)他 内 容 成果主義型賃金制度等人事労務管理の運用状況について ○ 企業概要  私どもの会社の概要ですが、設立は1937年ですから、今年70周年を迎えます。  国内事業所の大部分は本社周辺に集中しております。事業内容は自動車を中心とした 製造販売。ここ10年ぐらいで、グローバル化は目覚しい勢いで進展しており、生産拠 点は、全世界で現在51拠点あります。また、今年の春からもう1カ所稼働を始める予 定ですので、27カ国52製造事業体ということです。  当社は2種類のブランドで製造・販売を行っていますが、合計の販売台数の推移を 1990年からみると、この時期が、私どもが国内で自動車を最も販売できた時期で、市場 全体が790万台ある中、約250万、全体の32%を売ることができました。そのとき、 15年位前は、日本と海外の販売は大体半分半分ぐらいの割合で売れていました。その後、 国内はバブルがはじけて低迷が続く中で、海外の方の販売はお蔭様で順調に増やすこと ができました。昨年2006年におきましては、国内販売は最盛期の1990年に比べて7割 弱ぐらいの水準にとどまっております。日本全体の市場も約570万台と、やはりその当 時の7割程度に縮小しており、軽自動車は好調を維持していますが、いわゆる登録車は 全体で372万台のうち、約161万台を売ることができました。ただ、ピークに比べて7 割弱ぐらいの水準です。その一方、海外は順調で各地域で販売見通しが623万台という ことで、販売する車792万台のうちの、もう8割が海外であるという状況です。  生産の推移ということでは、1990年におきましては488万台のうちの86%に当たる 421万台を日本で生産しています。海外は、当時はアメリカの一部を中心に67万台を 生産していましたが、海外販売が伸びるにしたがい生産台数も増加し、昨年は日本が419 万台、海外が390万台ということです。おそらく2007年には、日本と海外が逆転して、 生産台数の半数以上は海外でという状況になろうかと思います。日本も、実際には随分 伸びていまして、1990年代後半、この辺は300万台プラス若干というぐらいの水準で 推移しました。2001年以降もっと増えていまして、結局それで日本ではこれ以上車は作 れないだろうと。私どもの感じでいくと300万台ぐらい作れて、それが推移していくの ではないかと見ていたのですが、それが420万台ということで、4割近く増えたのです。 それで、今私どもは現場の方で30%強の期間従業員という有期契約の従業員が1万人強 おりますが、予測より生産が伸びたことが有期契約社員の増加に繋がっているという状 況です。  業績に関しては、お蔭様で販売台数は順調に拡大したものですから、売上げも増え、 利益も増えております。特に単独の方は、輸出を中心に、今の円安に支えられて相当利 益が上がっております。  当社の社員構成は、2006年9月時点で、連結ベースで29万8,000人、単独が6万8,000 人です。従業員が約8万名いる中で、社員6万8,000名のうち、1割強が基幹職、いわ ゆる管理職ですが、これが8,000名おります。組合員が6万人。そのうちいわゆるホワ イトカラーの事務・技術職は1万7,000人、技能職は4万8,000人という構成になって おります。社員以外の者としては、事務社員、嘱託、期間従業員、ということで、この 期間従業員のところは1万名強おります。  資格・職位体系は、事務・技術職と技能職に分かれていて、それぞれの基幹職1級、 2級、3級が、世間で言われている部長、次長、課長に相当するかと存じます。職位は、 資格と職位を分離しているものですから、イメージとしては、資格の階級が、上から基 幹職1級、2級、3級、その下が組合員層となり、職位は、それらの階級の中がマネー ジャー職と、あと専門的な仕事をしてもらうスタッフ職というふうに分かれています。 今のところ、事務・技術職のマネージャー職で、基幹職1級が部長、2級が室長、3級 がグループ長、技能職のマネージャー職、現場では1級から順に部長、次長、課長、と いう名称で呼んでおります。組合員層の資格は、事務・技術職は、上級専門職が係長、 その下に専門職、業務職というイメージになります。技能職の資格のうち、監督層とし て上からCX級、これは、チーフエキスパートの略、その下にSX級、シニアエキスパ ート、EX級はエキスパートということで、たぶん世間でいくと、CXというのは職長 とか作業長というところです。SXというのは、昔は組長と呼んでいました。EXが班 長というぐらいのところです。その下に中堅技能職、初級技能職、基礎技能職という資 格。技能職の方も、従来は資格と職位が大体1対1で対応していたのですが、資格が進 むため、技能職も事技職と同じようにマネージャー職とスタッフ職に分けています。 ○ 処遇制度の見直しについて  処遇制度の見直しということで、直近に行ったのは2004年4月で、それ以降3年間 見直しは基本的に行っておりません。そのことを中心にお話をしたいと思います。見直 しの背景は、経済環境の先行きが不透明であったこと、競合他社との競争の激化などで、 2002年から2005年まで、いわゆるベースアップゼロの時代が続きました。03年から は、組合の方からベア要求はなかったという時代です。そのような環境の中、しっかり 仕事をした人にはより報いていきたい、処遇にメリハリをつけたいということがあって、 改訂というよりも少し手直しに近い形で、納得性のある考課と、そのための「強み・弱 み」や「成果・頑張り」へのフィードバックを図ることの重要性が一層高まってきた状 況を踏まえて手直しをしました。  見直しまでの流れは、最終結論に至るまでには1年ぐらい組合と議論しました。議論 の中で、組合は職場の意見を聞きながら進めていきますので、そういう職場の意見を反 映しながら検討を重ねていくという段取りでやっております。最後のステップは周知徹 底で、時期は04年2月からですが、会社は職制ルートで、いろいろな機会を通じて制 度改定の趣旨を説明しますし、一方で組合は、約6万人の組合員のうち5,000人ぐらい 職場委員がおり、それらの者を通じて周知徹底を図るという形でやっています。  賃金制度の変遷について、考え方としては、頑張った者が報われるということ。あと は、組合と合意しながら進めていきますので、あまり極端なことはできませんし、極端 なことをすると組合員の理解が得られないということから、私どもの会社の賃金制度の 見直しは、修正できていますか、改善できていますか、という意味合いが強いというこ とです。  事技職については、1990年4月に、年齢給、職能給という賃金項目を入れております。 従来は、基本給と生産手当で、基本給が40%と生産手当60%という構成です。これは、 すごくシンプルでよかったのですが、基本給というのは資格ごとに積み上げていけるも ので、例えば、係長層だと、成績や業績によって多少の差はありますが、今年は5,000 円であるとか、毎年積み上げていました。生産手当というのは集団能力給で、基本給に、 一定の生産手当支給率と呼んでおり、一定の支給係数を掛けたものです。これは昭和20 年代に導入したもので、みんなで生産性を上げれば、それが賃金にはね返ってくるとい うものです。その生産性は何をもってやっているかというと、基本的には現場の生産性 です。現場の生産性が上がれば、現場の人の賃金も上がるし、それに比例する形で、事 技職の賃金にも反映するという性格のものでした。90年4月の改正は、この2つに加え て年齢給、職能給を入れたものです。とりわけ職能給については、基本給は積上給であ るけれども、職能給はテーブル給で、頑張れば翌年良くなるとか、頑張らなければ翌年 下がるという制度を入れたということです。1993年4月にこの生産手当を事技職の方は 廃止しまして、1990年に導入した年齢給を20%、職能給を40%の割合に高めました。 1999年10月には年齢給を廃止し、いわば年齢に応じて自動的に上がっていくのは、い わゆるホワイトカラーにとっておかしいのではないかということから、職能個人給と職 能基準給をそれぞれ50%という形に改訂しました。事技職の賃金項目はこれが最新の制 度です。積上給であるところの職能個人給、資格に応じたテーブル給であるところの職 能基準給、この二本立てでやっております。1999年10月のときに、職能基準給につい ては期間考課を外して、例えば、係長なら10万円、その下の資格は8万円というよう に、資格に応じてこれを定額にしました。従来からの期間考課、すなわち、1年間この 人は頑張ったということについては、賃金ではなくて賞与の方で見るようにしたという ことです。職能個人給については、基本給の積上給、これはその人の持つポテンシャル(保 有能力)を重視した賃金構造となっています。  技能職ですが、1990年4月の段階では事技職と全く一緒で、同じように年齢給と職能 給を導入しています。1993年4月に、生産手当を生産性給と名称を変えて、その構成比 を40%から20%に減らしました。その分、年齢給と職能給に10%ずつ振り分けたとい うことです。次の1999年のときには、基本給を職能個人給と名称を変え、積み上げて きたところの比率を10ポイント上げて30%、職能給を職能基準給として30%に変更と、 現場の方でも、資格が上がれば賃金が上がる。資格が上がらないと賃金は変わらずとい う形にしました。2004年4月には、年齢給というのをなくしました。年を1つ重ねると 自動的に上がるということをなくし、後ほどご説明いたしますけれども、この20%の構 成を役割給・習熟給というように変えたわけです。生産性給も、その支給の仕方を見直 しました。  見直しの範囲としては、このときに併せて賃金と賞与と退職金の3つそれぞれに手直 しをしました。賃金については、先ほどご説明したとおり技能職のみの見直しです。賞 与については加算額、成果によって加点評価をするのですが、このウエイトを少し高め ました。あと退職金については、従来は退職金の基礎ということで、この資格に応じて 毎年積み上げていくと、逆に勤続年数が高まるほど支給係数が高まるということです。 これも昭和20年代の初めに作った制度をそのまま維持していたのですが、長く勤めれ ば勤めるほど賃金が積み上がって、しかも支給係数が上がっていくという、要は長期雇 用、終身雇用を前提として、これを奨励するような退職金制度だったと思っています。 ただ、勤続が同じ40年の場合、勤続で支給係数が決まるので、これは組合員層であっ ても管理職であっても一緒なのです。ただ、積み上げのところが、資格に応じて積み上 がっていきますが、あまり差はないです。制度改定の前提としては、やはり資格が高ま っているほど会社に対する貢献度が高いということから、これを反映した退職金制度に 変えたところです。  それぞれの見直しに関する考え方については、賃金のうち、旧制度の全体の2割を構 成していた年齢給は、ちょうど富士山のような形で、加齢に応じて自動的に昇給してい って50代がピークで後は少し下がるというように、生計費を考慮したカーブになって います。問題は、年齢が1つ上がると自動的に上がっていたということで、年功的色彩 が強く、貢献度の反映が不十分でした。そして、年功的な部分を極力排除し、習熟・役 割に応じて処遇するために、習熟給、役割給を導入しました。習熟給のカーブは、年齢 給とあまり変わっていませんが、要は年齢ではなくて勤続にしたということです。勤続 1年目、勤続2年目、勤続3年目ということで、30歳で途中入社してくる人、18歳で 入ってくる人、これは勤続が一緒ですから金額も一緒なのです。従来でいくと、30歳で 入ると、30歳の年齢給が貰えたのだけれども、30歳でも18歳でも、1年経ったときに 習熟度合は基本的に一緒だろうということです。これを、勤続20年までと、勤続20年 から30年まで、それ以降とによって、カーブが少し変わって行きます。勤続20年から は、それ以前より少しなだらかになって、30年で上限に到達し、横ばいというカーブで す。役割給は、SX級以上が対象となり、資格毎に期待される役割に応じて支給されま す。資格内は、仕事のレベルに応じて2区分になっていて、2本の線が横に引かれた形、 更に上の資格は、それより高い位置に線が2本引かれているイメージです。シニアエキ スパート(SX)であるとかチーフエキスパート(CX)という資格は組長、職長とい うことですが、早ければ20年程度でSXには到達します。ですから、ここでSXに昇 格した人は、習熟給から、この役割級のSXの方に行ってしまいます。さらに30年前 後になるとCXに昇格します。そうすると、その位置の線に移行するわけです。大体S X以上に昇格するのは半分程度です。要は、SXとCXは監督者ですから、ちょっと辛 いところがあります。2本あるのは、その同じSXの中でも、グループリーダーとして みんなをまとめていくのは大変であろうことから、資格は一緒でも、仕事のレベルに応 じて少し差を付けているということです。  同じく賃金で生産性給ですが、昔は6割を占めていたものを2割まで落としました。 これは現場の生産能力ということで、能率の評価制度となっていて、毎月毎月その課毎 の能率を見ています。現場では、課内に200人いたら100人が二交替でシフトしていま す。1週間ごとにシフトを組みますが、早番、遅番など、その単位毎に能率を競争させ ていました。これは、今もやっています。その能率が上がれば、生産性給支給率は上が りますが、毎月毎月、今月は能率が上がったとか下がったとか、一喜一憂していたとか ということを、何十年もやってきていました。しかし、能率を上げようすると、やはり 設備を入れた方が能率は上がります。人手ではなかなか能率は上がりにくい。例えば、 この倍の仕事をしろと言っても、簡単にはできないです。よほど頑張ってももたないが、 ある設備を入れて、1時間に300個できていたものが1時間に600個できるというと、 それで2倍になります。そのような環境で、たぶん単位は300から400あるのですが、 これを毎月競わせるのはいいけれども、その結果、能率を賃金にそのまま反映させるの はやり過ぎではないか。それこそ設備を使っている部署の方の能率が高いわけです。し かし、組立てや、エンジンの組付けなどをやっている所は人が頼りです。しかも人の入 れ替えが激しいですから、どうしても職場の努力が短期的な成果には繋がりにくい場合 もある。そのようなこともあって、毎月やっていたのを、年間で一本にしました。また、 課単位でやっていたのを、全社一本にした。賃金に反映するところは、能率評価制度と いうことで従来と同じようにやっていますけれども、毎月ではなく、年間でやる、課単 位ではなくて全社単位でやる、というように直したのが生産性給です。これは、能力給 とは別の概念で、不満もいろいろあったものですから手直しをしたというところです。  賞与の見直しの視点ですが、加算額、加点部分の原資を少し増やしました。従来は、 0点、1点、2点と、加点の一人当たり平均が1点だったため、2点の人を増やそうとす ると0点の人を増やさなければいけなくなり、心情的にも難しく、メリハリがつきませ んでした。これを、0点、1点、2点、3点と、1.5点平均にして、成績の所のメリハ リを付けようということです。また、いくら加算があったかというのを、事技職にも、 技能職の監督者層にも、辞令に表記することにしました。結果をオープンにすることで、 上司もしっかり説明して、本人もそれを受けて次回に向けて頑張る、ということです。 また、賞与については、加算額が何点であろうと資格昇格なので、毎年春の資格替えの 時にしか変わらないです。上の資格に上がるルートは、年1回の賃金の考課だけです。  退職金ですが、これも先ほど申し上げたとおりですが、従来は、積み上がっていくも のに支給係数を掛けてやっていました。やはり年功要素が強くて、なかなか個人が30 年、40年と会社に対して果たした貢献を反映しにくいため、ポイント制退職金を導入し ました。 退職金は退職後の生活原資として、ある意味安定感が必要ですから、勤続の ポイントを2、資格のポイントを1、毎年毎年の春の賃金の考課のポイントを1、とい う配分です。当社らしいところは、勤続のポイントをまだ残していることで、勤続ポイ ントに比べ、資格と考課のポイントの比率が低いですが、やはり、地道に頑張っていた だいた人に対しても貢献しなくてはいけないということで、勤続ポイントを残している。 また、こういう事が、私どもの見直しの考え方となっているということです。このよう にポイントを積み上げていって、退職するまでに、例えば1,500ポイント溜まったとか、 2,000ポイント溜まった、それに単価を掛けて退職金を支払います。この見直しにより、 年々の賃金の結果というのは反映されませんので、退職金は退職金で独立した形になり ました。退職金の基礎というのは、毎年の賃金の引上げの何割かを基礎にしていたため、 賃上げが多い時代と、賃金の引上げが少ない時代とでは、年代によって不公平感がでる ということも解消されると思います。 ○ 少子化対策の取組状況  少子化について、説明させていただきます。  全社員のうち女性社員は約9%ほどです。女性の内訳は、専門職、業務職、技能職、 医務職ということで、専門職は旧総合職に相当します。業務職というのは旧一般職に相 当し、現場の技能職、医務職というのは、自前の病院等を持っていますので、看護師、 保健師、薬剤師といった人たちです。既婚の女性社員の割合は32%で、子供を持つ女性 社員の割合は18%です。ちなみに平均年齢は、28.9歳です。  これまでの少子化対策の取組としては、大きく3つのフェーズがあり、まず、2002 年に「ダイバーシティ・プロジェクト2002」として、2002年の秋に、これからダイバ ーシティ(多様性)尊重の観点から女性に着目した取組をしっかりやっていかなければ いけないということで、一部制度面の見直しをして、要はこれがスタートとなって進め ていったということです。育児休職制度の改定、柔軟な勤務制度の導入、事業所内託児 所の設置といったインフラの整備から入っていきました。  2番目のフェーズは、「次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画の推進」として、 2005年度から06年度までです。これは、主に技能職を対象とした取組で、いま現場に、 ラインで働く3万人のうちの1,000人が女性ですが、定着率が悪く、二交替のライン作 業ですから、妊娠したときにかなり負担がかかってしまいます。会社はいてほしいけれ ど、本人が辞める、職場に迷惑をかけてしまうと考えるようです。そこで、妊娠期休職 制度として、妊娠が判ったあと、本人がちょっと辛い、働けないというときに、申出に よって休職することができます。また、職場の上司の方も心配します。妊娠した人がラ イン作業で、しかも大変な仕事をしていると、これは評判がいいです。また、今託児所 が3カ所あります。3カ所目を、去年の4月に工場の厚生施設の所に新設しました。地 元出身の人もいますが、他の地方の出身の場合は、自分のお父さん、お母さんに助けて もらうとかいうことが難しくなります。それなら工場に託児所をつくって、子供が生ま れた後にも勤務してもらう。これが次世代法で、特に目玉としてやっております。  2007年1月からは、3番目のフェーズとして、総務・人事本部長直下、女性の活躍推 進施策を担当する専任組織として「BRキャリア・ライフデザイン室の設置」をしまし た。BRはビジネス・リフォームの略です。これは、今年課長に上がった女性を室長に して、総勢5人で女性の視点からこのダイバーシティであるとか、少子化対策を進めて いこうというものです。いわゆる旧総合職の女性については、今、課長になる層が初め て出てきたので、これから女性の課長がどんどん生まれてくるという時代になります。 そういう層が頑張ってやってきていますから、これからどんどん上に上がっていきます。 しかし、今年課長になった人を見ると、見本となる先輩、モデルとなる人がいない。こ れからは、そこがいちばん大事だろうということで、女性については、これからキャリ ア形成というか、キャリアを磨いていく中で、モデルを作っていかなければいけない。 相談する場所を作っていかなくてはいけない、ということを集中的にやっていきます。  では、それらの具体的な取組状況を申し上げます。  ダイバーシティ・プロジェクト2002について、直近の数字ですが、育児休職制度を 2005年度に取ったのが202名、そのうち男性が4人でした。柔軟な勤務時間制度の利 用実績は、130名で、そのうち男性は3人。事業所内託児施設は、3カ所で定員が140 人のところ、今は100人ぐらいが利用しているような状況です。当社は、夏休み、冬休 み、ゴールデンウィーク。大きな3つの長期休暇がありますが、祝日も稼働しています。 世間では、やはり祝日は休みですから、託児施設が祝日に開園しているのは使い勝手が いい、職場に近いという安心感もあります。次のフェーズ、第1回次世代行動計画での 取組事例は、先ほど申し上げた技能職の両立支援です。また、キャリアデザインサポー トということで、目玉は、配偶者の転勤・介護による退職者再雇用制度の導入です。こ れは、従業員の声からこういう制度を作りました。例えば、結婚して、夫が3年間海外 出向するなどの時、夫婦で一緒に行くことになり、妻の方が辞めてしまう。そうすると、 折角キャリアを積みつつある人が、家族の転勤、別の理由では、介護などでも会社を辞 めなければいけない。これは、大変ご本人としても不幸ですし、我々としても大変もっ たいない話です。そういう意味で、転勤と介護というように理由を2つにしていますが、 例えば、夫について行くときは一旦辞める。3年後に帰ってきたときに、また勤めるこ とができる制度です。私の部下にも、夫についてヨーロッパに行った者がいました。と ても優秀な女性で、帰ってきてもらえるとありがたいと思います。このような制度を作 りまして、現在6名が制度を利用しています。職場の風土・意識改革ですが、これは先 ほど申し上げました、キャリア形成をどうしていくかということと同時に、妊娠・育児 期の女性に対してのサポートのあり方について、職場の風土をどうつくっていくか、と いう辺りが課題です。   ○ 仕事と家庭の調和に向けた取組状況について  仕事と家庭との調和ということで、労働時間についてご説明します。  「負荷の適正化」ということで、仕事の効率化を通じて、残業時間を減らしていこう という取組を推進しました。その結果05年は1人年間平均で250時間、大体月に20時 間ぐらいです。06年度も大体同じくらいになります。長時間労働の是正という中で、02 年度から04年度に、残業時間を減らしていきましょうという取組をやった結果です。  年休の取得日数ということで、「3Days Vacation(3日連続の年次有給休暇)の取得」 の推進をしました。会社側は、計画的な年休を取りましょうという取組ですが、労働組 合の側では「年休カットゼロ運動」というものをやっています。2005年度平均の年休取 得日数は19.2日です。毎年付与される年休は20日で、それは2年繰越しできますので、 年間で最大60日持てますが、1年分の付与日数の20日に相当近いところまで消化して います。 3Days Vacationの取得率は、05年で約63%、06年は大体68%ということです。  これらの取組の結果、総労働時間は減少しました。05年度で1,971時間です。これは、 自動車業界では低い方になります。大体この程度でいければ、「仕事と家庭の調和がより 一層図りやすい環境を実現」することができるのではないかと思っています。 ○ 質疑応答 Q 御社は国内の工場は何カ所ぐらい展開されているのですか。 A 12工場です。 Q 九州にエンジンの工場を作ったという記事を見ましたが。 A それは、100%子会社の工場です。同じような会社が、東北、北海道にもあり、ち ょうど1990年、1991年の設立です。当時まだ国内の生産が増えるだろうということ で、本社周辺だけでは人が来られないということがあり、九州に作りました。それで、 東北、北海道には部品工場をつくりました。九州に作ったエンジン工場は、従来の工 場では手一杯になったものですからつくりました。 Q それは関係会社ということで連結の対象にはなっているのですか。 A なっています。 Q 若い、特に技能職の採用に関して、御社の場合は人は集まってくるだろうとは思い ますが、本社のある県内だけでは難しいと思うのです。いろいろな地方から来られて いるのだろうと思いますが、その辺の地域別の割合はどのようになっていますか。 A 例えば高卒の技能職は、現在700人ぐらいを毎年採っています。あとは学園、企業 内の学校がありまして、中学校を出た人が今120人ぐらい、これは3年コースです。 あと、高卒の1年コースが大体120人で、大体1,000人弱の採用数です。これらの技 能職のところは、中心はやはり近隣県からで、あとは九州です。 Q 高卒の方は主に工業高校ですか。普通高校の方もいるのですか。 A 今は工業高校が多いです。700人ぐらいのうち、7割が昔から採用実績のある工業 高校からです。あとは学園の、高校卒業で1年間のコースの120人、これは100%工 業高校の出身者です。超エリートといえますね。普通高校の出身者もいます。地方は、 近隣県、九州を中心に、あと近畿、中国地方ということで、西日本です。昔は、技能 職でいちばん多いときには2,000人ぐらい入りました。そのときは、本当に全国、北 海道も東北からも来ていました。今はそういうことが無いわけではありませんが、数 は少ないです。学園の120人の方は、7、8割が地元からです。  今は、700人を採るのも随分厳しくなってきている状況で、今、次年度の採用計画 を作っていますが、これを100人ぐらい増やしたいとは思っています。  工業高校を出たからといって、それが現場でどこまで通用するかということもあり ます。学園の120人は主に電子関係のことを集中的に勉強して、設備の方面とか、意 外と配属先も限られます。ただ、工業高校の経験は生かせるのだと思うのです。 Q もちろん工業高校を出たからといって、入社後に研修をうけたり、オリエンテーシ ョンをやったりして、仕事をしながら育っていくということでしょうが、工業高校の 卒業生について、採用する側から見て、この10年、20年の間で少し変化がでてきた とか、レベルの面では概ね良いとか、またはその逆とか、レベルについてどのように お考えなのか、その辺の評価はいかがでしょうか。 A 例えば、学業成績という面では、今は相当いいレベルになります。 Q 要するに、工業高校の中で間違いなく上位にいる人を採用できているということで すね。 A はい。とりわけ学園の高卒1年コースは、工業高校のトップクラスが来ます。その 試験に落ちた人が技能職の採用にまわる。一番レベルが高いのが、この高卒1年コー スの120人で、入るのが難しい。各地域でトップクラスの人たちです。そういう意味 ではポテンシャルが高い人がたくさん来ています。あと、今は辞めないのです。定着 はすごくいい。 Q それは、かつてに比べてよくなったということですか。 A かつて、1980年代は、当時は高卒の人を1,000〜2,000人ぐらい採っていたときで すけど、入社して1年目で15%ぐらい減ってしまって、そして3年経つと半分ぐらい に減ってしまったという傾向がありました。それで、当時私どものいちばん大きな仕 事は定着対策で、いかに現場で入った人に最後までやってもらうのかと。今は、たぶ ん1年目で辞めるのは1%ぐらいですね。 Q それについてはどのように分析されているのですか。 A やはり景気が悪かったということと、お蔭様で当社、自動車業界は、割と給料も高 いですから、ここで頑張れば相応のお金ももらえるし、それなりに現場でもいいポジ ションまで行ける。そういう将来像が描きやすいということもあるのではないでしょ うか。 Q 高卒で、こういう形で入ってきた人というのは、今おっしゃったように定着率もい いということですが、自分の将来の行く末に対してどんなイメージを描かれているの ですか。先ほども賃金制度のお話の中にありましたが、勤続20年ぐらいで、SXとい うのですか、ある程度そういった辺りまでは大体行けるのではないかとか、どのよう なイメージを持ちながら仕事をしているのですか。先ほどの話だと2分の1ぐらいだ というようなお話ですが、半分といえば、確率的にはそんなに低くはないですね。 A それなりに高いといえます。その下のEXというところになると9割ぐらいはなっ ているのです。それで、頑張った人はEXまでは大体行くと。しかも、もうちょっと 頑張ればSXに行くのではないかと。 Q 実はここの点が聞きたいところなのですが、世の中ブルーカラー、ホワイトカラー という仕切りがあります。大卒で事務系で入ってきた人たちは、ずっとホワイトカラ ーでいくのでしょうが、このブルーカラー、技能系で入ってきた人たちが、いろいろ な職位を上がっていくと、技能職の中でも部長、課長という方もおられるようですが、 こういったところに、可能性としては行けうるということですか。 A 正確に数字を申し上げますと、技能職は今4万3,000人おりますが、そのうちの課 長以上に上がった人、これは大体340〜350人、部長クラスは4人います。 Q 基礎技能職、そこから始まって上まで行った人が現在4人ということですか。 A そうです。4人おります。あとはその下の次長、これは40人ぐらい、課長までが 300人ぐらいです。 Q 部長、次長、課長というのは、さっきのブルーカラー、ホワイトカラーで言えばホ ワイトカラーになると思いますが、この下の、職長さんとかそのクラスの人というの は、あえて分類すると、どういうことになりますか。仕事のイメージが湧かないもの で。 A 基本的な現場の単位、作業者をまとめるのはSX級であるグループリーダーになる わけですが、それが一応現場での単位になります。この単位は、職種によってばらつ きがありますが、大体20〜30人ぐらい部下がいます。そして、その上に職長と呼ん でいたCX級のチーフリーダーがいまして、これは3つか4つのグループを束ねてい ます。 Q そういう、専ら束ねている人たちは、現場での仕事についていろいろマネジメント したりというような仕事があるわけですか。 A 日常的なことは、基本はグループリーダーがやっていますが、グループ間の育成計 画を立てるとか、それはチーフリーダーです。CX級のスタッフ職で、チーフエキス パートというのがありますが、これはむしろ特命的な業務です。これは、現場の製造 課長付きで、「あなたは安全のところをしっかりやってくれ」とか、「あなたは品質向 上のところをやってくれ」とか、「原価下げるためのことをいろいろ考えてくれ」など、 わりと具体的な仕事を課長から言われてやる。チーフリーダーの方は、グループリー ダーをいくつか束ねた上にいますから、それはもう少し広い意味での人事管理といい ますか、職場管理みたいなことをやっている人間です。結構レベルは高いと思います。 Q これから、ものづくり分野はどんどん重要になりますが、一般的には普通高校へ行 って、大学へ行って、それでホワイトカラーとして就職する、そういうモデルが多い だろうと思うのです。ただ、実際に産業界で求められているものということになると、 ものづくりの現場で本当に頑張ってもらえる、こういう高いレベルの人が入ってこな いと支えられないです。例えば、4年制の大学を出た人がここに入るというルートに もなっていないし、例としても少ないと思うので、会社の中に入ったときに、自分が 工業高校を出てこういう会社へ入って、先々は人の上に立って仕事ができるのだとか、 給料でもこのぐらいもらえるだとかということで自分の先が見えると。下手をすると、 ホワイトカラーで入る場合より、この方が確実なコースなのだ、あるいは、頑張れる コースがここにあるのだということを、これから示していかなければいけないのでは ないかという気がします。御社の場合は、そういう意味では展望が立ちやすい会社な のだろうと思いますけれども、頑張ればこのぐらいまでいけるということは、働く方 にとっては大きいのではないかと思うのですが。 A それはあると思います。頑張ればそれなりに資格、職位が上がっていくし、また給 料も、現場を大事にしていますから、いい水準をもらえます。地方というか、例えば 社員が自分の郷里の水準と比べても、給料だけではなく、むしろボーナスなどもいい と思います。別の話をしますと、今期間従業員は1万人ぐらい当社にはいるのですが、 そのうち950人を社員にしました。期間従業員の中から見所のある人を社員にすると いうことで950人。高卒は700人ですから、新卒よりは多いのです。今年は更にちょ っと増やそうということで、いま議論しています。そのうちの15〜20%ぐらいは学卒 です。それ以外の人の前職は、学校の先生をやっていたとか、営業をやっていました とか、そういう人もいます。 Q 何歳ぐらいの方なのですか。 A 25から35歳ぐらいの間になります。当社の期間従業員の平均年齢は大体25歳く らいですから、それよりは高いですね。ときどき、いわゆる有名私立大を出ましたと か、国立大の大学院を出ましたという人がいますが、そういう人は、営業とか事務を やったけれども、自分は体を使って仕事する方が向いているのだとか。そういうこと はあると思います。当社に入ったら、まじめに勤め上げれば失業することもなく、安 定した生活がおくれるのではないかと。だから、社員の子弟が期間従業員から社員に 登用されるというケースも結構あります。  逆な見方も持っていまして、アメリカの現場のように、学歴に関係なくどんどん入 ってくるような制度ですから、問題意識が高い人が入ってくるのではないかと。  うちの場合、現場へ入って、相対的なレベルは高くなると申し上げましたが、精神 的に弱い人も中にはいます。勉強が出来るとか、英語がしゃべれるかということより、 へこたれない人というのが重要です。 Q これはかなり脱線しますが、学校教育に対して何かご意見のようなものはあります か。つまり、今おっしゃっていましたが、根性の据わっている方が向いているという ような話は確かにあると思うのです。抜群の秀才よりも精神的にタフな人間の方がい いでしょう、とか。こういう事例に基づいた意見というのでしょうか、こういう基礎 的な教育を受けた人たちが欲しいのだという発信みたいなものが。例えば、工業高校 でこういうことをやってほしい、こういうことができる人をできれば優先的に採りた いというメッセージが企業側から出ます。そうすると、工業高校に入るその前の段階 で、そういう道もあるなと。こういうことをトレーニングしていけば日本の自動車産 業で働けるかもしれないという辺りの、産業界から教育界へのメッセージというもの がどうも弱いのではないかという話が、ごく最近、一部で話題になっているのです。 先ほどおっしゃったように、国立大学の大学院を出て、結局自分に合わない仕事を大 分やってきて、転職して御社でというようなこともある。そういうことでも最終的に 行きつけばいいのですが、そこが非常に噛み合っていない。教育についても、親の方 も、学校に上げるときに何とはなしに普通高校へ行って、大学でも受けたらと。そし て、その後は何かいい会社があるかもしれないと、そういうサイクルで動いていて、 その一方で、人口が減ってくる中で、貴重な人材を日本の企業ができるだけ優秀な人 たちを使ってやっていきたいという話が全然噛み合っていないということが、これか ら大きな問題になるのではないかというのがあるのです。 A 採用の現場から話を聞いて、その部分はまとめさせていただきます。今のお話から、 直感的に思っているのは2つあります。1つは、特に自動車産業はチームワークが必 要な仕事です。1人が何かをやっているということではなく、20人なら20人が1つ のグループを構成して、それこそ、誰かがちょっと遅れそうになれば他の人が飛んで いく。あるいは、隣の工程の所はまだ新人さんだから、ちょっと助けてやるとか。自 動車産業ではそういう人を頼りにしていますから、そういうチームワークを育むよう な教育。あとは、私どもには出直し期というのがあって、これは、例えば1分間のあ る作業者の動きを見て、どこに無駄があるか、あるいは何か品質で不良が出たら一体 何が問題なのかということを徹底的に追求するというものです。原因ではなくて「真 因」という言い方をしていますが、なぜ、なぜと「なぜ」を5回繰り返せと。何でだ と。そういう思考方法というのですか、ある事象だけを捉えて、こうでしたと言うの ではなくて、本当にそこを詰めて考える。こういう高い考察力というか思考力という か、そういうのが必要になります。 Q 製造業の現場というか、チームワークのようなことは、自動車産業だけではないの かもしれません。鉄鋼業界の方からもそういう話を聞いたことがあります。電気産業 も、ある企業の会長が、そういうことをいつもおっしゃっています。チームワークが 非常に大事だということで。 A それとは相反するかもしれませんが、当社は、創意工夫、提案制度とかQC活動と か、改善活動とか。要は、これが正しいとか、これはこうすべきだということをボト ムアップで積み上げていく会社でもあるのです。だから、そういうことが、ものが言 えるというか、そういう制度が必要です。 Q 社内の風土も大切ですね。 A そうです。風土も大切だし、そういうことが言える人材というのも大切です。よく 上司が、これはこうだろうと言ったら「はい、わかりました」と言って引き下がる人 もいますが、納得しない場合は、「それはこうではないですか」とちゃんと言えること が大事です。考えなしでものを言うのではなく、考えていることがある場合は、きち んと言うべきです。 Q 賃金制度の改定のお話を伺って、根本的な部分を大切にするというか、ものづくり の現場に共通かもしれませんが、基本的に長期雇用ということで、あまり奇抜な形と いうか考え方は入れていないような感じだと思います。バブルの崩壊の後、日本の多 くの企業は職能給で生計費と連動していたのを維持できなくなって、いわゆる成果主 義を入れる所が増えたのだろうと思うのですが、御社の場合は行きすぎたところがな いように思います。長期雇用的な要素を大事にしないと現場はおかしくなる。基本的 にはそういう捉え方でいいでしょうか。 A 世間を批判するわけではないですが、成果型賃金を入れましたという会社の中で、 一部は人減らしのためにやりましたというところもあったと思いますが、それを現実 に言われると、もし、そういうことをやろうとすると、評価する方が能力を問われる と思います。評価能力もないのに制度を導入して、自分の好き嫌いとか、ちょっとこ こが良かったとか、それだけの理由では。やはり、人間誰しも自分は良くやっている とか、自分の力を、何割か増しに見ていると思います。要は、そういう人たちを、あ る一定以上の力のある人全体を引き上げていかないと、企業として力がなくなります。 それで私どもがやってきたのは、やはり年功的なものが強すぎたところがありますの で、頑張った人が、もう少し手当に反映されてもいいのではないか。反映しないこと が逆に不公平感がありますから、頑張ったことがそれなりにきちんと報われていると 思えるような制度にしたかったということです。 Q 海外にもたくさん拠点があって、製造や、売上げも伸びているということですが、 従業員の方も外国に行く、幹部層の方が海外に行ったり、また、現地の方が半分以上 ということもあるのではないかと思います。そうすると、人事自体もグローバル的に 考えないといけない状況になる。そういったときに、例えばアメリカなりヨーロッパ なりの人が見ても公平な人事制度だと思われるような形にしないといけないと思うの ですが、海外の工場なり事業所の人事制度と日本の人事制度というのは違うのでしょ うか。 A 海外の人材でも一定の基準以上のポスト、例えばある製造会社の部長なり取締役に なっている層をグレードづけして、これは本社で一元管理をしています。そうした結 果、今うちで、外国人の常務役員が4人か5人出ています。だから、上のところは日 本人も外国人も含めて一元管理しています。今やっているのは、それだけです。その 下については、それぞれの地域の事情もありますし、そこは現地に任せて、現地の日 本人トップとローカルのトップに任せてやっています。逆に、その地域の相場に合わ せた報酬を出さないと人は集められないし、グローバルで全く同じような方法、同じ 方式でやるというのは、ちょっと原始的ではないかと思います。だから、いまのとこ ろ幹部層についてだけ、本社の人材管理をするところが仕切りましょうということで す。 Q 色々見直しをされたと思いますが、企画業務型の裁量労働制を最近入れられたので すか。 A 企画業務型の裁量労働制は、2007年4月から、東京本社の十数名を対象に、試行的 に1年間導入します。管理者が制度を十分に理解していれば、我々としては、このよ うな企画型の裁量労働制を入れていきたいという考えはあります。従来も、わりと仕 事単位で見てきたということもあり、出来るのではないかと。 Q 近年、企業の賃金制度は、一人ひとりを評価して、そして賃金に反映するという仕 組みに動いていて、それがこの10年ぐらいの賃金の相場になっていますが、御社の場 合、職能基準給とか考課の部分も落ちていますので、あまり個々のという形で賃金制 度が動いているわけではなさそうに思えます。しかし賞与のところについては、成果 的なものというか、一人ひとりのものを評価するということですね。その場合に、将 来に反映させるためにどういう手だて、どういう手順で一人ひとりの仕事を把握した り成果を把握したり、どのような方法でそれをフィードバックさせているのか。その 辺のことをお聞かせいただけますか。 A 事技系の場合は2WAYコミュニケーション・シート、そして技能職は話合い制度 というのがあります。何かというと、年度の始めに、この1年間で私はこの仕事とこ の仕事を、こういう目標に従ってやっていきます、という目標を立てるのです。いわ ば自分自身の方針管理みたいなものですね。年初にそれを立てて、上司と話合いをし て、君はこの仕事を具体的にやってくれということで、決定します。それを、目標を 立てたとき、あとは夏の賞与をもらうとき、冬の賞与をもらうとき、そして年度末、 年3回ないし4回、一人30分程度の面談をします。その後、自分自身で、これはでき たとか、できていないとかという評価をして、それを見て上司が、これはもっとでき ているとか、これはあまりできなかったという評価をします。その目標の達成具合に よって賞与も決まるし、一方でそれに加えてその人の成長度とか、この人はこんな感 じでやってきた、できてきたというのを職能考課で年間に審査をします。それは事技 職だけではなく、現場もそうです。ただし、現場はもう少し簡便的にやっています。 現場の半数以上はこういう事を全部やりました。それによって個々人の能力や適性、 パフォーマンスを計るようにしています。その評価が賃金に反映する、そういうふう にやっています。 Q それは主に賞与のところに入ってくるわけですか。個々の能力は職能の方に入って、 処遇の方に跳ね返ってくる、そういうイメージでお聞きしましたが。 A そうです。賃金は、やったことというよりも、むしろその人がこんな力をつけてき たとか、保有能力というところを見ます。あと、資格があると賃金は随分上がるので す。資格間のメリハリをつけるようにしているので、頑張って資格を上げないと給料 があまり上がらないという仕組みにしています。管理職も職能給と資格給というのが あります。資格給というのは、部長ならいくら、課長ならいくらと決まっていて、そ れは役職に応じて誰でも支払われるものです。職能給というのは考課がありまして、 S、A、B、Cというランクがあったら、Aであれば例えば50万円とか、Sだと55 万円であるとか。考課が1つ上がると、数万円上がるけれど、悪ければ下がるという ことになっています。これは積上げではないので、上に行くほど幅は高くしています。 安定感をみるために職能個人給という積上げ的な部分を残していますが、職能基準と 言うときには、資格が上がらない限りずっと下ということになります。 Q 2WAYコミュニケーションのお話がありましたが、一般的には論点が2つあって、 1つは、労働者は達成しやすい目標を設定するとか、自分の都合に応じた目標を掲げ て、組織の目標達成という点との関連はどうなるのかとかいう話。もう1つは、評価 する側の方は、管理者の好みとか、恣意性みたいなものを除きながらやっていくこと の難しさがあると思いますが、この辺はいかがですか。 A 1点目は、下の人が全部◎で自分の評価を書いたら、上司はそれに対して△とか○ とかをつける場合、その理由を説明しないといけないのです。そこで折衝して、ちゃ んと向こうが説明責任を果たさないと下は納得しない。だから、評価者は結構大変で す。あまり好き嫌いで云々というのはないと思います。本当に大変ですから。2点目 ですが、下の方の資格は職場に任せていますが、ただ、課長に上がるだとか、次長と か部長に上がるだとかについては、全てそれは人事が見たり、よその職場の人から意 見を聞いたり、そういう多面的な評価をすることによって、その人の持つ能力や発揮 した力の客観的な評価を、みんなで話し合って評価しています。上の資格に行けば行 くほど、そこは随分慎重にやっています。また、私どもの場合は、仕事の成果もそう ですが、仕事の過程を見るようにしているのです。その人がどういう努力をしたとか、 こういうふうにみんなと協力したとか、その成果を達成するためにどんな苦労をして きたかとか、ただ成果だけでその人を計るのではなくて、そういうものも一応加味し て考課を行います。 Q 御社の若い人はチャレンジングな目標を掲げていらっしゃる感じですか。 A 大体その目標は、最初にすり合わせをしますので、やはり、その人はちょっと頑張 れば出来るというところを目標にしないと駄目だと思いますので、それなりの修正は されていると思います。部の方針とか、室の方針とかグループの方針というのが、会 社方針から持ってこられるものですから、自分のポジショニングから考えて、「これは やらなくてはいけない」とか、設定についてはあまり甘えて自分で決められない状況 です。だから、自分のポジションとかけ離れた目標はあまりないと思います。 Q 先ほどの話と関連するのですが、期間従業員のからの中途採用の数が多くなってい るということの要因ですが、それは仕事が増えたことが大きいのか、それとも新卒で 一定数以上の人を確保しようとすると、このぐらいが上限で、それ以上採ろうとする と質の面での問題とか、要するに給源側の要因が大きいのかどうかということです。 世の中的には大学全入時代ということで、工業高校へ行く人が減っていく。そういう ことが企業の現場にどういう影響を与えているのかという点が我々としても疑問です。 御社は人員を確保できていると思うのですが、例えば御社の下請のような所でいうと、 そのような供給側の市場の変化がかなり影響を与え始めているのかどうか、その辺の ところをお聞かせいただけますか。 A 先ほど、950人ぐらい採用していて、新卒の700人よりも多い数字だという話を申 し上げたのですが、大雑把に言うと、今私どもの現場のラインで働いている社員は約 4万人、そのうちの1万人が期間従業員ということで、これは冒頭にも少し説明しま したが、やはり、国内の生産が300万台プラスアルファぐらいしかもう造れなくなる のではないかという見通しを10年ぐらい前にして、採用についても抑制的にしていま した。しかし、2001年ぐらいから、それこそ毎年数十万台ずつ増えていって、去年は、 300万台はおろか420万台、大体4割増です。そういう構えでやってきたので、現場 に占める応援者の率が、今は約3分の1、33%になっています。そうした社員以外の 応援者であるとか、不慣れな人でやれる割合はというと、やはり3割程度ということ になります。それは、ラインの安定という意味もありますし、  一方で、これから現場を支えていく人たちをつくっていかなければいけないという 問題もあります。有期雇用の人だと入れ替わってしまいますから。そうすると、やは りもっと人を採らなければいけないということで、ここ2、3年頑張って採っている ところです。ただ、これらの課題の解消はなかなかむずかしいということはあります。 でも、我々としては応援者の比率は、一応3割を上限に、できれば25%から30%ぐ らいの間でやっていきたいと考えています。そういう意味で人を増やさざるを得ない。 期間従業員の約1万人がいて、最長3年間ですが、3年間一緒にやっていく中で、そ の人の力だとか、良さだとかが分かるわけです。そこで、そういう人をできるだけ社 員にしていきます。採用率は、今は希望する人の3割ぐらいですね。残りの7割の人 は、やっぱり社員になれなかった。3年間のうちに年1回、社員になれる試験のチャ ンスが3回あります。それを通過しても、希望者のうちの3割ぐらいしか社員になれ なかったのです。ただ、それで、今1,000人前後を採用していますが、この比率を上 げると、質の面でちょっと心配が出ます。そういう意味で、今の950人というのがマ ックスに近いという感じにはなってくると思います。また、高校卒は、冒頭に申し上 げたように、700人ぐらいが今の採用能力のある人。質を取ったらということで、そ れが、ぎりぎりになると思います。 Q それはやはりかつてより低いですか。 A かつては1,500〜2,000人おりましたが、3年のうちに半分辞めてしまった。あと、 自動車産業は4Kの仕事ということであまり定着も良くなかったのですが、やはり、 世間が軒並み調子が悪い中で、当社は業績を伸ばしましたので、働くことの良さとい うのは生かしてもらえたのではないかと、現状はそういうところです。  また、関連会社についてですが、一部はまだ良いのですが、本当に人手不足なとこ ろもあります。本当に大変な状況です。そこで、当社が考えたのは、この4月から、 先ほどの7割の人、社員になれなかった7割の人を紹介する制度を考えているのです。 仕入れ先の会社に求人情報を出してもらって、そうした7割の人に求人情報を見せて いく。当社で3年間頑張ったら、それなりに実績が出来ますから、そういう人と仕入 れ先のメーカーにお見合いをしてもらう。我々が、それらの会社に出した条件は社員 として採用してくださいということです。これがうまくいけば、年間数百人のレベル で仕入れ先に就職していく。そうすると、本人も社員になれる、仕入れ先は多少でも 人手不足を解消できて、我々は我々で、3年間頑張れば当社でなくても仕入れ先の社 員になれますということで、みんな、うれしいですね。そのスキームを、4月の終わ りぐらいからやっていきます。これは、3年有期雇用に対応して作っていますから、 この4月末、5月以降に、毎月毎月そういう人が出てくる。隣の県から来た人は、そ の県にある会社を紹介したい。また、うまくいけば報告します。 Q なかなか期待できる仕組みですね。 A 去年の暮れにプレスリリースしまして、お互いに意見を出しあいました。それぐら いしないと、もう仕入れ先は人を採れないです。業界全体の人の使い方の問題として も、私どももそういうことをしていかないといけないということです。 Q かなり実労働時間が減ってきていますが、それはどうやって可能になるのですか。 A 04年度、05年度にかけて、業務を適正なものでいくということをやりました。労 働組合の方からも04年度春の労使交渉のときに要求があり、組合員一人当たりの年間 残業時間は360時間以内になるように対策をしてくという回答をしました。それに向 けて努力をしていこうということで、各職場では、これを機会に業務を見直すことに しました。会議の必要性により、開催回数や、出席者数の見直し、また、廃止にする など。あとは、例えば部下に仕事をさせるときに、いきなり仕事をさせるのではなく、 最初に上司と部下が話をして、これぐらいのイメージの書類をこれぐらいの納期で、 これぐらいの品質でやってくれ、と最初に打合せをする。そうすると、結構無駄な時 間がなくなります。それぞれの職場ごとに、残業時間を減らすための業務効率化プロ グラムみたいなものを相談して、それでやっていったらこの結果になりました。  一方で意識の問題もあって、やはり、強く言わないとみんなダラダラ仕事をしてい るのです。だから、まず、自分は今月何時間で仕事をします、今日は何時までに帰り ますという一人ひとりの意識を高めていく、それはやりました。そのために何をやっ ているかというと、昼礼というのをやっています。例えば、昼1時に、事務所で大体 10人ぐらいが1つのグループですが、そこで10分ぐらいミーティングをします。そ こで、今日の仕事は今どうなっているか、どれぐらいの時間かと、現場ではそのとき に、何時に帰れるかとか、週に1回、早帰りの日を設けて、今日はみんな帰れるかと 上司が確認するわけです。それで顔色を見て困っていそうな人がいたら、「どうしたん だ」という感じで。10分といっても結構時間がありますからそういうことができます。 それは仕組みということでは大きかったですし、それがコミュニケーションにもなっ ているかと思います。  また、そこで日々誰がどんな仕事をしているかということを、従来は上司も自分の ことで精いっぱいなので、あまり知らなかったのです。そうではなくて、上司も部下 の状況を見ましょうと。3年ぐらいかかりましたが、今は大体ホワイトカラーの職場 では週一でみんなが話し合っています。そういうことをいろいろ組み合わせながら意 識を高めて行きました。  組合も相当頑張っていて、残業時間が360時間を超えそうなとき、あるいは月間の 45時間を超えそうなとき、とりわけ360時間を超えそうなときは、すぐに職場と組合 の職場役員が話合いをします。いくつか条件があって、その条件に合致しないと360 時間ないし、45時間を超えないわけですが、その条件づけもしっかり決めたというこ ともあります。よほどきちんとした理由がないと360時間を超えないようにしていま すので、逆に、それが管理者の意識の高まりにつながっている。無駄な仕事はしない ように、当社の現場は1分1秒を大事にした職場ですから、時間管理を大切にしてい るというのは、時間の中で精いっぱい働いているといえます。 Q 割増賃金の引き上げの話で、使用者側の方は割増率を上げると、むしろ長時間残業 が増えるのではないかというようなことを言われたりするのですが、いかがでしょう か。 A それはないと思います。むしろ、時間管理されている中で効率的に仕事をやってい る人が給料が安くて、効率的にやらない人の方が実際の給料が高い、それは不公平で ある、それはあるのではないでしょうか。効率的にやって多少成績が良かったとして も、基礎賃金が安かったとしても、実質の手取りで残業時間が長い人の方が高いとい うのは変な話ですので。 Q 昨年あたりから、労働組合の方は賃上げでやってきていますが、出すものはきちん と一時金で出すという方針でしょうか。 A 私どもも利益は上がっていますが、今は自動車業界も世界的に難しいところです。 やはり、業績が上がれば賞与を出していくという考え方です。