第3回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日 時 平成19年1月12日(金)10:00〜12:00 場 所 中央合同庁舎第5号館5階 専用第12会議室 出席者 総合化学メーカー    (厚生労働省側)政策評価審議官 他 内 容 成果主義型賃金制度等人事労務管理の運用状況について ○ 企業経営と人事労務管理について  当社は、総合化学に分類されており、連結業績は、この4年ほどで売上高は伸長して います。部門別の売上高構成は、いわゆる化学品のデパートのような状況であり、ガス 類、あるいは液類を中心とした基礎化学、プラスチックスの石油化学、化成品とか染料 とかの精密化学、カラーフィルターやIT産業向けの素材を供給している情報電子、農 薬をはじめ防疫薬、殺虫剤などの農業化学や医薬品部門など様々です。  従業員について、国内と海外子会社の従業員数は、つい2年ほど前までは大体拮抗し ていましたが、去年ぐらいから海外従業員のほうが多くなっています。グループ全体で みた労働の環境としては、国内子会社については大半が直接採用、いわゆるプロパー採 用をしており、15%弱は弊社からの出向者ですが、残る約85%は国内グループ会社が直 接雇用しています。  海外についても、大半は海外の現地法人なり、海外の合弁会社で採用しています。ま た、国内従業員の外数として、いわゆる派遣や嘱託、あるいは再雇用の要員については、 国内従業員との比率で言えば、およそ7対1という状況です。  企業経営と人事労務管理について、日本型雇用という点では、終身雇用の定義はいろ いろありますが、いわゆる長期安定的な雇用で、技能を蓄積したコアな社員の雇用をで きるだけ守って、能力をのばしていきながら雇用していくということは、基本的に継続 して行くべきものと考えています。  一方、年功型賃金については、後ほどもう少し詳しく申し上げますが、弊社の国内の 従業員のうち約45%が管理職であり、こちらのほうは既に年功型賃金を脱却しており、 本日の主題となっている、いわゆる成果主義型の賃金制度になっています。残る約55% の一般社員については、いわゆる職能資格制度となっており、職務と能力の両方を向き 合わせて処遇に反映しています。近々、変更しようかと考えていますが、現行では賃金 制度について管理職は成果主義型、一般社員は職能賃金と申し上げて差し支えないと思 っています。  企業と株主、従業員といった利害関係者間の利益配分については、会社の中長期的な 経営基盤の強弱、あるいは世間情勢等によって左右される要素が強く、弊社としての確 定した考え方を申しあげることは困難です。  一般的にどちらかに軍配を上げるような議論ではそもそもなく、企業はゴーイングコ ンサーンを目指す存在である以上、従業員、人材というものは最重要な経営資源、見方 によっては会社そのものであり、利益配分においても、従業員の勤務意欲やモチベーシ ョンに十分に配慮した対応を図るべきものと考えています。一時期喧伝されたような株 主をあまりに重視した対応は、バランスを失したものと考えます。したがって、株主へ の配慮ということについての努力と、従業員向けの努力というのは決して相反する行為 ではなく、両立していかないといけないというのが当分の考え方です。  なお、従業員への利益配分にあたっては、固定的なコストアップを避ける意味から、 基本的には賞与によるものと考えており、賃金への反映は、会社としての経営基盤がよ り強固なものとなったうえでのことと考えています。  総額人件費と労働分配率については、弊社は総額人件費という視点で労務費管理はし ておらず、また基準とすべき一定の労働分配率も有していません。そもそも総額人件費 あるいは労働分配率としてどの程度の水準がリーズナブルか確定することが極めて難し いなかで、そうした指標に拘泥するのは、事業を展開・推進していくうえでマイナスに 働く可能性があると考えられます。  例えば、退職給付債務が金融環境的に非常にマイナスになっていた時代には、売上高 の大体10%ぐらいを目処に総額人件費を管理していこうと考えていましたが、現在の金 融環境においては、退職給付債務が逆にプラスに転じているため、売上高の10%に目標 を押さえるということは、いまの時点でもあまり強く意識はしていません。  参考までに申し上げると、後ほどご説明する管理社員についてはポジションを管理し ており、いわゆる年功的、あるいは年次管理といったことは行っていません。例えば、 ある部署にいくつのチームが必要か、チームの長は何人か、その下は何人と箱を先に決 めて、その箱の仕事を評価した賃金をそれぞれ払っていくやり方です。基本的には箱以 上の人員も置かず、箱に求められている以上の賃金は払わない。そういうことを管理社 員の場合には特に厳しくやってきており、ある意味、それが総額人件費管理だと思って います。会社は、売上高や利益の増減があるため、労務費の総額でどうこうというより は、むしろ会社の組織・機構を分析し、それぞれのポジションに相応しい人材を配置す る。弊社では、適所が先にあって、適所適材、ライト・ポジション・ライト・パーソン と言っていますが、それで労務費をコントロールしていくことが現在の主題であるため、 世の中で多く言われる分配率の管理とか、総額人件費管理ということを現在はしており ません。 ○ 成果主義型賃金について  次に、成果主義型賃金ですが、冒頭に申したとおり組合員は職能主義のため、論点を 管理社員のほうに絞ってご説明します。私どもの管理社員というのは、世間でいう係長 級以上は全員管理職です。一般的に他社は課長以上が管理職という所が多いですが、弊 社の場合は伝統的に係長から既に管理社員となります。全社員に占める管理職の割合が 多いと思われたかもしれないですが、そのような事情です。  賃金制度自体は2001年4月に大きく制度改正しており、その背景として、一番大き なウエイトを占めていたのは「グローバルな視点に立った人事戦略の推進」ということ でありました。先ほど業績状況を申し上げましたが、売上高の増加については、国内は ほとんど横ばいか若干の減少、伸長しているのは圧倒的に海外事業でした。したがって、 人事制度は海外従業員にも理解される、あるいは弊社の従業員が海外で活躍し処遇され る際に、それが、世界的にみても正しい評価のあり方であり、正しい処遇が得られると いう方向に持っていかないといけない。このように、目指す方向としては、世界的に普 遍性のある制度ということが一番に挙げられます。  その他としては、「国際競争力強化のため生産性の一層の向上」、「少子高齢化の進展」、 「知識労働のウエイト増大、従業員の価値観の変化への対応」、「雇用流動化への対応」、 「透明性、納得性の必要性」、「グループとしての人事管理の推進」などです。  成果主義型賃金制度の概要について、弊社の制度を一言で言えば「各人の成果の大き さに基づいて各人の給与・昇給額が決定するシステム」というものです。この「成果の 大きさ」は、従事するポジションの役割・責任の大きさである職務グレードと、その役 割、責任を当該年度においてどの程度達成したかをはかる業績目標達成度との両面で決 定され、それに応じ賃金を払っていくという制度となっています。  具体的には、管理職のグレードは、G、G3からG8まで、現状では7つに分かれて います。昨年4月にグレードの統合を行ったため、現時点で変則のナンバーリングにな っています。一番下のGグレードが、概ね係長から課長クラスまでのポジションです。 その上のG3、G4というのが課長級ですが、G4になると部長代理、部長補佐といわ れる領域に入る場合もあります。G5、G6が部長級です。弊社で事業部長というのは、 部署を複数束ねることをするということでG7グレードとなっています。なおG8グレ ードは、いまのところほとんどおらず、準役員のようなものです。そのようなグレード で、年次、年功によらず、例えば、それぞれの部署の事業部長ならG7、その下に普通 の部長だったらG5の部長が2人となっている、G5の部長の下に、それぞれ課長が1、 2人いるならG3のポジションというような構成となっています。  グレード内は目標の達成度で5段階評価があり、それに応じて成果の大きさが毎年変 動します。それに合わせて、昇給の位や賞与なども決まってくるというシステムです。 このシステムは、当社オリジナルでなく、いわゆるアメリカのスタンダードといわれる、 ヘイコンサルティング社のガイドチャート法に基づいて、各ポジションの職務の大きさ を計って決めていくというものです。  導入時の労使間の議論については、新制度は管理職を対象としていたため組合と議論 する必要はありませんでしたが、対象となる管理社員向けに丁寧に何度も説明を行いま した。また、管理職のラインを束ねているライン部長とは、当然意見交換を行っていま す。  成果主義型賃金制度の導入前後における従業員の満足度に関しては、定量的な調査は 実施していないので正確には把握できていませんが、いろいろな部門なり、各職場の責 任者から状況を聞き、現状を把握することは行っています。その結果、以前の制度と比 べ、やはり入社時の採用区分とか、特に大卒では年次とは関係なく、「若くても実力のあ る者が処遇されるようになった」という非常に肯定的な意見が全般に出てきています。  以前であれば、入社何年で部長代理、何年で部長にいちばん早い人がなる、その後遅 れる人は、よほどの例外者を除けば3、4年ぐらいの間に部長代理に追いつくというよ うにおおよそのことが言えましたが、現在は全くありません。たとえば、部長級である G6では入社年次で約15年程度差がある者が混在しており、年次は見た限りでは何の 意味も持っていないという状況となっています。  また、以前は能力評価と業績評価の両方をやっていましたが、現在は基本的に目標管 理一本でやっているため、それぞれの管理社員が「何を達成しないといけないのか」と いうことを強く意識するようになったことは確かで、そういう声が非常に大きかったの が肯定的な面です。  一方、否定的な意見としては、「特に研究において、長期にわたる研究テーマや、成果 の出にくい困難な研究テーマに従事することに躊躇する者が増えた」というものが挙げ られます。私ども総合化学では、特に、基礎的な化学研究をしている所では、1年です ぐに成果が出るものは極めて少ないため、一年で精算しろと言われてもやや難儀という 事情はあります。  そのほか一部ではありますが、「結果さえ出ればよいという結果主義的な風潮、あるい は自分さえ成果が上がればよいという個人主義的な風潮が強まった」といった声も存在 します。評価は個人ごとであり、また特にチーム評価とか組織評価はしていないことか ら周りと協調したり調整したりということより、とにかく自分で成し遂げなければいけ ないという風潮が以前より強まったのではないかとの声です。これは良い面も悪い面も あり、ある意味コインの裏表のような関係であると認識しています。  なお、成果主義型賃金制度導入後の業績の状況としては、直接の原因であるかどうか はわからないですが、2001年度以降の業績は一時期を除いて右肩上がりとなっており、 とりわけここ数期は当初予想を上回る利益をあげることができています。 ○ 今後の課題  今後の課題については、先に説明した成果主義賃金制度に対する従業員の反応のうち、 否定的な声に関するものが中心であり、大きく分けて二つあります。  一つは、「研究者に対する制度運用の改訂」として、すでに昨年4月から一部見直しを しています。具体的には、(1)ポジション管理の緩和、(2)成績評価制度の運用の変更です。  (1)のポジション管理については、先に述べたとおりG3以上についてはそのポジショ ン数と内容は経営方針等からブレークダウンして決定されていますが、研究者はほかの 労働者とは少し違い、もともと持っている研究のノウハウとか専門性によって、与えら れるテーマが異なってくる面があるのではないかということで、後付的にテーマが決ま っていく面が否定できないのではないかという事情があります。そこで、研究所の管理 社員については、ポジションの管理は厳密には行わず、高い能力や専門性をもっている 研究者がより専門性を伸ばした、また、困難なテーマにチャレンジするという場合には、 ポジション数が純増することを認めるように改訂しました。  (2)の成績評価制度の運用の変更については、長期テーマに携わっている研究者につい て、研究ステージごとに評価するという方式に変更しました。長いテーマでも、2年目 までにここまでやろう、4年目までにここまでというマイルストーンが設定できるため、 基本的にそれで評価するとともに、1年間やったけれどもはっきりした成果が出ない年 も、長期のテーマについてだけは標準評価を用いることとしました。成果が出ないから 評価を下げるのではなく、長いテーマの部分のみ、ある1年では特に目立った成果がな い年は標準にみなそうという制度です。  もう一つは、これからやる部分ですが、管理職全体に目標管理の評価だけではなくて、 行動の評価を今年の4月から入れようということで、既にこれは決心をしています。こ れは、いわゆるコンピテンシーと呼ばれるもので、達成指向性、イニシアティブ、顧客 指向、対人インパクトというものが主要項目であり、コンピテンシーを毎年毎年各人ご とに計ることとしています。また、プロセスについても、部下をうまく使っているのか、 組織を活用しているのか、といった行動面に光を当て、コンピテンシーとプロセスを抱 き合わせて行動評価をすることとしました。  したがって、今年の4月以降は従来からやっていた目標管理と、新たに行動評価を加 え、バランスよく結果と行動を見ていくこととしました。ボーナスに影響するのは従来 どおり目標管理の業績評価だけですが、昇給、退職金の算定といった基本的な評価につ いては、目標管理と行動評価を抱き合わせてやろうと準備をしています。 ○ その他  その他の施策について、少子化対策については、世間の例に漏れず、育児休業期間の 延長、短時間促進、妊婦の健診休暇のほか、託児所の設置があります。託児所はできれ ば、来年4月から開設したいと思っています。  いま一つは、出産、育児が事由の退職者に対する再雇用です。現在も会社を退職して も再度採用されることは制度上は不可能ではないですが、制度を周知することで、女性 活用にとどまらず、男性であっても子どもを育てながら一方で仕事をという制度を充実 させていきたい。これらは近々労使交渉を実施し、妥結すれば一部を除いて本年4月よ り実施したいと考えています。  正規社員と非正規社員の問題については、弊社の場合は非正規社員は数としても多く なく、その大半が医師、看護師、臨床検査技師、大学の先生など特定技能者中心である ため、それらについて、個別に職務を見ながら賃金なり名称を管理しています。一般に 言われるような、正規とパートが同一労働なのに同一賃金でないという事例は私どもの 場合はありません。  最後に、本日の議題に対し3つポイントを申し上げます。  私どもは、先ほど申しあげた内容の成果主義を5年前に導入しましたが、その要諦の 一つ目は、振り子を1回極端に振ったという現実であります。それまでは年次が重視さ れていたような制度だったなかで、一度反対側に振り子を振らないといけないという時 に、能力評価、態度評価、情意評価という世界から一回出ないとなかなか人間の意識は 変わらないです。したがって、先ほど申し上げたポジション、会社が成長すればポジシ ョンが増えるけれど、会社が成長しなければより高いポジションは出ない。高いポジシ ョンがないのだったら極端に言えば誰も昇格できない仕組みにする。一度革命を起こさ なければいけないということで、5年前に振り子を振ったということです。  2つめは、今回、研究者の評価を改訂したことや、あるいは行動評価を入れたことに 関して言うと、一旦振り子を振ってかなり意識は変わりました。しかし、やはり企業は ゴーイングコンサーンであるので、従業員の育成であるとか一緒にチームで仕事をする、 あるいは成功体験の再現性やパターンを学ぶ事を大切にしていくことは重要です。そう した考え方の下、研究者に対する評価の改訂や、行動評価を入れていくということに現 在取り組んでいるところです。  3つ目は、成果主義で社内が荒廃したとか、管理職の各個人が動揺したということは、 まず私どもにはありませんでした。今回、再度修正をかけようと思っている背景の一番 のポイントは海外との関係からです。弊社の海外展開は、他業種あるいは他社と比べま だまだこれからと思っていますが、3年ほど前から海外の会社の従業員構成は、半分ぐ らいは外国人、半分が日本人という状況です。それらの従業員ともいろいろ議論を尽く して、海外の主要なポジション、いわゆる本社の部長級に相当するような海外のポジシ ョンについては同じ評価制度にしたいという考えです。世界のどのポジションに就いて も同じ基軸の、軸のぶれない評価制度にしたいという話が数年前から出てきました。欧 米の方々と議論すると、総合的な評価が目標管理だけで決まるのはどうも馴染まない、 やはりコンピテンシーとか、会社のバリューへの貢献という部分がないと世界に通用す る評価制度とは言えないのではないかという話が非常に強く出てきました。成果主義の 弊害を修正するためだけではなく、どちらかというと世界共通の評価制度を作ろうとい うものです。グローバル企業としてやっていくときに、共通の評価軸、また軸をどこに 求めるのかという結果として、目標管理一本という制度、あるいはポジションを管理し ていくというところから少し修正をかけている、というのが今日の姿であります。 ○ 質疑応答 Q いまお話いただいた、グローバル企業を目指す中での流れというのはよく分かりま すが、一般的に成果主義の曲解のようなものの中には、短期的な、まさに目標管理一 本だけというイメージがあり、またそのようなやり方で失敗した他社の事例もあるの ではないかと思います。お話の中で、評価について外国の方との議論などもあったと のことですが、最初からコンピテンシーやバリュー貢献度など、そういうことを採り 入れたシステムはある程度は選択肢にあったのでしょうか。 A おっしゃるとおり、ヘイという会社にはもともとコンピテンシーというお勧め商品 もありますが、先ほど申し上げたように、意識を変えるために一旦振り子を振らない と駄目だったと言えます。コンピテンシーをその時に説明してしまうと、それまでの 能力評価と同じではないか、能力がコンピテンシーになっただけではないか、と思わ れます。そうなると意識は変わらないため、そのときの決断は成果一本でいこうとか、 目標管理一本で、まず革命を起こそうという考えに立っていました。  今はコンピテンシーも入れましたが、これまではどちらかというと「気づき」に使 っていました。気づきというのは、20数個の分析項目があり、この人は情報の使い方 がうまいとか、指導力の有無とか、そのように分析していき、それは上司、部下、同 僚にやってもらう。例えば、私は自分では指導力があると思っているのに、部下とか 上司から見ると全然ないとか、そのように自分の能力の棚卸しをしてもらう、という ことで3年前からやっており、実質的な評価には入れていませんでしたが、一応馴染 んではきています。今度は棚卸しではなく、評価本体に使いますよ、と変えた次第で す。一旦能力という世界から離れないと、「なんで年次できていたのに」、「なんで急に。 労務費を減らすためなのか」など、何が評価の軸なのかという点で、ちょっとでも能 力というとおかしくなります。一度ヘイシステムと目標管理オンリーで、シンプルに 改革を起こす。おそらくどの会社も一旦そういうことではないのかと思うのです。意 識改革の面では、やはり5年はかかると感じています。私どもは、ちょうどこれが5 年目の改正です。意識がだいぶ変わりました。 Q あらかじめ問題意識をもって、それで意識を変えてもらうのだという事を目標とし て、制度改正がうまく定着していけば、というお考えですか。 A そういう点では冷めた目で見ていて、5年前に入れたときも、革命を起こすために は、もうショック療法しかないけれど、内心はどこかで必ずまた育成のほうに戻さな ければいけない時期が来ると思っており、中途半端なタイミングで戻るとまた逆戻り してしまうことになるため、年次だとか、能力だとかという言葉が消えた頃にやって いかなければいけないとは予想していました。成果主義だから、グローバル企業だか らと宗教的にやってしまうとバランスが崩れるのではないかと思います。風土なり、 意識革命の面で使ったということです。 Q 御社の年齢構成について、例えば、いまのような制度を5年前に導入したとすると、 特に団塊の世代が多いと思われますが、その辺の反応はどうでしたか。 A 当然、入れるときにはいろいろ抵抗がありました。野球をやっていたのに、急にテ ニスになったような感じだなどという意見がありました。 Q 年齢を横軸にとって、給与を縦軸にとった場合、賃金カーブのイメージは、傾きは あまり変わらず、上下の散らばりが大きくなってくのか、それともその傾き自体がか なり寝る形になったのか、現在は管理職のみに導入されているとのことですが、そこ の部分を見た場合に、どのような形になってきているのですか。 A 大卒でいえば、32、33歳ぐらいまでは組合員なので、そこはほとんど変わりません。 そこからラッパ状に開くイメージで良いと思います。 Q その中心線というのはどうですか。変わらないで、上下に散らばっているのですか。 A そうです。労務費を削りたい、賃金ポリシーラインをせり下げたいという気持で導 入すると、これはおそらく従業員も管理職もすぐにわかってしまうと思います。「年収 が下がってきたな」とか、「会社の狙いは労務費削減だったのか」ということになるの で、決してそれはやらないようにして、ポリシーラインは賃金カーブをむしろ立てる。 幸い業績が良かったので、特にボーナスのほうを上げていきながら、年収が少しずつ 上がるようにする。以前よりもポジションが立つようにやっています。 Q 最後の外国の方との議論の話が非常に興味深かったのですが、例えば、アメリカと ヨーロッパでは違う部分があるのですか。日本の状況というのはどのような感じだっ たのかということで。 A 総じて、アメリカはこういう意見、ヨーロッパはこういう意見という感じではなか ったです。大半が先ほど申し上げたように、インセンティブボーナスに対する評価は 目標管理でいいけれども、基本的な評価のほうは逆にコンピテンシーみたいなものが あるほうがわかりやすいというのが大半でした。本などを読むと、ドイツの企業とイ ギリスの企業とは違うし、ドイツのほうが少し保守的であるとか、アメリカは全部目 標管理だけなのかなというイメージがありました。しかしながら、実際に議論してみ ると、そういう感じではなかったです。意外に思ったのは、アメリカの取引先企業数 社、いわゆる大企業に聞いてみたところ、むしろ、いま申し上げたようなことよりも もっと進んでいて、一人ひとりのコンピテンシーを、どの事象のこの人を、というこ とを幹部が長い間議論してやっているのです。アメリカの企業はドライで、結果が出 なかったらどうのこうのとか、結果だけで昇給させているとかでは決してないという 感じがします。 Q 現場で働いている組合員の方は、今は対象ではないですが、今後このような制度を 導入するとなると、今まで以上に評価に手間暇がかかると思われます。メリット、デ メリットはあると思いますが、現場レベルの人に対して今後どのようにやっていきま すか。あるいは、世界的に見てもグローバルな企業としての人事管理の問題として、 ヨーロッパやアメリカなど世界各国にネットワークがあるわけで、そこのバランスが あまり違うとおかしくなるのではないでしょうか。管理職ということでは同じでない といけないということはあるとは思いますが、この辺りはいかがかですか。 A 先ほどお話したアメリカの取引先企業にも聞いてみましたが、驚いたのは経営幹部 なり会社のラインの長などが人事管理のために使っている時間は、たぶん当社の3倍 から4倍位ではないかという感じがしました。当社もわりと細かくやっている方であ ると思っていましたが、聞いてみると、事業部長クラスが年に何回も評価会議をやっ たり、部下と面談をしたり、人材育成委員会のようなものをやっていたり、日本企業 より数段時間をかけているというのが実感でした。私どもは、今まで目標管理のみで あれば比較的業務の管理と一緒で、それぞれについて1年毎に、スタートして途中で どこまでできたとチェックするのが目標管理であるので、いわば日ごろの仕事の管理 と一貫した部分があります。そのため、管理職の目標管理制度については、それほど 手間をかけてきた感じはないのだろうと思っています。行動評価については、これは 能力評価ではないわけで、どのような行動を取ったかという事実のため、ご指摘のと おり、目標管理に加えてやると結構な時間がかかると思います。特に、その場合目線 が難しく、1年後にここまでこれをやれというのは評価者と被評価者で比較的合意し やすいけれど、こういう行動を1年以内にするというのは非常に合意しにくく、ター ゲットを設定しにくい。したがって、評価の軸も非常に難しかったです。そこで、専 門家を7、8人、人事部に配属し、彼らが部長級のところを回って歩いて3時間位ヒ アリングをする。事前に1年間の行動を書かせておき、人事部の専門家と面談をして コンピテンシーを計るという第三者評価を行っています。あるいは、先ほど少しばか り紹介した360度評価として、部下や同僚からの評価を参考にしてもらうなど、いろ いろな手段を使って客観的な見方をしてもらいます。努力も必要であるし、評価者自 身によく理念を勉強させなければいけないため、これからも毎月評価訓練をやらなけ ればいけない。そういう手間はかなりかかってくると思います。  基本的には、結局個々人がどういう評価を受けるかが一番の課題になるので、皆の 関心は制度の成り立ちよりも自分の評価が正しく行われるのかということであるので、 自ずとそれに対応して評価の手間と労力は増えていくのではないでしょうか。 Q そこにばかりエネルギーを割くのも困難でしょうし、業務の中で、時間の配分など 大変ではないですか。 A 先ほどご説明した目標管理は比較的よいですが、ご指摘のように、行動評価を見る には相当なエネルギーが必要であるため、忙しいのに何時間も面談したり、行動評価 の複雑なことはできません。そのため、評価項目は以前は24個あったものを4項目ぐ らいに絞ってシンプルなものにしようとはしています。 Q 現場、工場レベルのいわゆる組合員の労働者に対してはいかがかですか。 A 現在は、一言で言うと職能資格制度ですが、これも基本的に管理職と似たような制 度にしようと考えています。 Q そうしないと、やはり年功的になりすぎるのでしょうか。 A 年功はいい面も悪い面もあり、技能蓄積もありますが、組合員の中でもいわゆるオ ペレーショナルな仕事をしている人と管理者層を目指すような学卒を見ると、職能制 度はまどろっこしい制度で、何年か経たないと階段が上がれないです。  例えば、10年前後で管理職になるにしても、階段は3階段ぐらい上らないといけな い。そうすると、経験者が即戦力で入ってくる状況もあり、能力の幅も広がっている ので、できる人はどんどん上に行きたいと考えています。特に欧米の大学から帰国子 女などを採用するにしても、必ず10年程度かからないと管理職になれないような制度 では人材確保は難しく、処遇もできないと思います。一方、オペレーショナルな業務 をしている人のほうは、年功の前向きなよさもあり、こつこつ頑張って現場を熟知し てもらうという面があります。これらの人をどう調和させて、グレーディングの中に 落とし込むのか、今ちょうど考えているところです。  高度成長期は毎年大量の人員をどんどん採用して、人事管理も何がポイントかとい うと、マスということでした。できるだけシンプルに管理するということであり、つ まり、ただ年次で管理するとか、あるいはオペレーターはオペレーターで年功序列と か、そういうほうがやりやすかった。しかし、バブルが崩壊したあと個々人の能力な り性格もバラバラになってきたため、年次でも学歴でも管理できない状態になると、 結局個別の対応で個別の評価をとなり、一人ひとりに焦点を当ててやっていく方向に、 手間がかかる方向へと変わっていかざるを得ないという感じがします。もちろん少子 化で、高度成長期と比べて数的に少ないため、入社したら精いっぱい能力を発揮して もらえるように、一律でない柔軟な制度をいかに工夫できるかという知恵比べみたい になってきている気がします。 Q 先ほど、革命を起こしたかったというお話があり、その最初の契機、その起こし方 について興味を持ちました。「各ポジションの職務グレードは、ヘイコンサルティング 社の手法を測定し、グレーディングした」とのことですが、これは革命の出発として 非常に重要だったと思いますが、大変難しいのではないでしょうか。そこで、具体的 にどのようにやられたのか、どういうご苦労があってどのように論点を整理して進め ていかれたのかというところに非常に興味があります。 A これは、正直に言って意識を変えるのは本当に難しかったです。とにかく、グロー バルな視点に立った人事管理をしていかなくてはいけないと繰返し説明する中で、何 とか全員に、ヘイのやり方としてポジションごとに職務記述書を書いてもらうところ からスタートしましたが、それを書いてもらうこと、それは徹底して頑張りました。 それでも、なかなかすぐには意識は変わらなかったので、継続して、節目ごとに何度 も事業所や工場を回って説明をしてきました。ただ、それをやっても、最初は意見で あるとか問い合わせなどが後を絶たず、それなりの軋轢があったのは確かです。何年 かやっていくうちに、こういうものだという意識ができていって、どのような職能主 義、成果主義制度にしていくかということが何とか定着していった、そんなイメージ です。 Q ヘイシステムは、職務分野ごとにグレードが示されているノウハウだと思いますが、 職種で切らずに、それぞれの職務を機能的に分析したわけですか。 A ヘイを簡略に解説したものは職務分野ごとにグレードが示されていますが、本来の ヘイガイドチャートプロファイル法というのは、どんな仕事でも同じ視点で計るとい うやり方なので、弊社の中では職種を区別せずに、全職種に対して、そのヘイの方法 で点数をつけていくというやり方を実行しました。ヘイの手法というのは、そのポジ ションに求められる成果を達成するために必要なノウハウ、テクニカルノウハウ、マ ネジメント上の必要なノウハウや、最終的には権限の大きさなどまで計っていくため、 基本的には職種には関係なく計ることができる手法にはなっています。 Q そうすると、その理解を従業員の人に進めて、職務を言葉で明確にして、曖昧だっ た部分を職務分析表に書かせたという流れですか。 A そうです。また、書いたものは全管理者に公開しています。そのポジションに行き たいと思っていたら、どうぞ見てくださいという仕組みにしました。そのかわり、こ ういうノウハウ、知識、資格が要るというプロファイルも公開しています。  先ほどもお話したとおり、軋轢もありましたが、幸いだったのは、その後会社が成 長したことです。会社が成長すると、同じ製品を扱っている営業部長でも、世界市場 が増えて売上げが増えるとインパクトも大きくなるため、グレーディングが上がりま す。大方この5年間右肩上がりだったので、それほど危機感が出なかったことが幸い だったと思います。それが、もし右下がりで会社が少しずつ調子が悪くなったら、揺 り戻しがきたかもしれません。 Q それぞれの部署、それぞれの人に作成させ、そこで納得を得ながらヘイシステムを 導入した事は価値のあることだと感じますが。 A 批判も多く、どこからどこまでがテリトリーなのだという意見もありました。よく 言われたのは、野球で言ったらショートとかセカンドはどこからどこまでがあなたの ポジションなのか、そのようなことにはなってないだろうと。センター前に抜けそう な場合には、能力のあるセカンドがカバーするし、能力のない人の場合はショートが 行くというやり方が日本的な仕事のやり方ではないのかということです。  このように指摘、批判はありましたが、やはり意識を1回変える。そうしないと、 若い人もどこまでやっていいのかわからない。会社の組織や仕事の配分の仕方をある 意味一度組みなおそうということを繰り返し説明してきました。 Q 成果主義賃金導入の背景のご説明で、グローバル化が最も大きな背景であったとの ことですが、雇用流動化への対応や透明性、納得性の必要性とか、その辺りは現実問 題として重要だと思います。この制度を導入したことにより、例えば、外部の人材も 前に比べて導入するようになってきたとか、その数的な面、処遇に関する面について、 納得性はどうなっているのですか。 A 1990年代と比べて、最近は、経験者採用は数的にはとても増えており、現在は、そ れらの人材の処遇は極めてやりやすくなりました。労働条件を説明する際にも、何年 次と扱いが一緒とは言わずに、グレーディングはこういうポジションですと、必要だ ったらポジションプロファイルも見せて、職務記述書も見せて、こういうポジション ですと言える状況となりました。また、相手の方が、「今の年収はいくらなので、それ は下がらないようにお願いしたい」と希望すると、範囲給なので、該当するグレード の中で柔軟に決めることができ、また、仕事がそのグレードの中に入っているため、 雇入賃金は設定しやすく、経験者の採用も非常に楽になりました。評価のほうも、会 社がブラックボックスで評価するのではなく、目標管理ということで、できたかでき ないかはっきりしている状態です。 Q 経験者の中途採用について、格付けの面、評価について、年代別に特徴はあります か。 A 特に差はないです。しかし、社内の労務構成を考えると30代が手薄いため、結果 的にはそこに多く入れるケースが多いですが、グレーディングなので、それほど関係 ないと思われます。会社が比較的新しい仕事をしたり成長していく場合、課長の一歩 手前位の第一線部隊の人間が必要になるのですが、結局それがG3、ちょうど手薄だ った30代の人というニーズが強かったということです。 Q 賃金と職務グレードのイメージをみると重なりがありますが、どのような理由です か。 A 範囲給のいい所と言ってはおかしいですが、重なりがあるので、グレードが下に落 ちても重なりがあるから給与を下げなくて済みます。例えば、G3であっても、かな り上のほうに行けばG5とも重なっているため、G3クラスにいながら部長級の給料 をもらうことも可能だということで、いわゆる職務主義のドラスティックさをこうい う形で緩和しているということです。 Q 適所適材ということですが、ポストに応じて、このポストはこのグレードというの は決まっているのですか。一つのポストについて、グレードの中で昇給していくとい うイメージですか。 A そうです。そこの仕事の中身が変わらない限り、ここのポジションはG3である、 ここはG4である、ということになっています。同じグレード内では、範囲級の中を 目標管理の成績に基づいて昇給していくということです。 Q 目標管理に基づいた評価をした結果というのは、相手に説明しているのですか。 A 目標管理の業績評価は期末に面談を行います。それをもってフィードバックとして います。評価の元となった要素についても、ある製品がこれだけのウエイトで何%昇 給だということを表でオープンにしており、その結果、自分はこういう評価で今回こ れだけの昇給ということがガラス張りになっています。  賃金の重なりがあるほうが、それほど頻繁ではないですが、グレードダウンすると きに抵抗感が薄いです。ボーナスの方でグレードアップのインセンティブをつけ、グ レードダウンした場合の賃金はオブラートに多少包んだ形になっています。 Q 実際に降格というのはあるのですか。 A 降格はありますが、ものすごく行っているわけではないです。幸い、先ほど申し上 げたように、5年間売上げが増加しているので、ポストがどんどんできてくるという 状況もあります。ただ、一例として、研究所に勤務していてノウハウがあり高いグレ ードにいた者が、できればそういう事例は避けたいと思っていますが、それが営業に 異動になった場合などは、通常のグレーディングとなるため、少し下がるケースはあ ります。 Q 託児所も作られるということですが、女性社員の比率はどうですか。 A 化学工業のため、連続プラントの操業を一昼夜兼行で運転しており、もちろん女性 も若干いますが、どうしても結果的には応募者も男性のほうが多くなります。そのた め、全体的な比率は、製造部門などでは女性が非常に少ないです。ただ、いわゆる事 務系の大卒、定期採用している幹部候補生のような枠については特に男女を分けては いないため、大体毎年約4割が女性となっています。以前はかなり少なかったのです が、最近は増えてきています。  技術系は、もともと大学の化学の分析をやっているのは男性が多いため、結果的に それと相似形のような格好になります。薬学部などは女性の方も多く、そういう意味 で、結果的には研究所には女性が非常に多くなっています。これからは女性の活用は 重要課題であると考えています。総合化学の中では託児所を作るのは当社が初めてだ と思います。 Q いわゆる非正規はほとんど使われていないのですか。 A そうです。人数が一番必要となるのは先ほど申し上げた交代勤務のところですが、 大きなプラントを10人位で回すときに、例えばそこの中に正社員が5人でパートが5 人ということではいざというときに困ります。基本的には10人のオペレーターが均質 な能力を持っていないと、緊急事態に対応したり、いろいろな仕事の配分がおかしく なります。ましてや、そこに同一労働なのに同一賃金ではない労働者が何人か入って、 毎日同じチームで交代勤務をさせることはできる話ではないです。どちらかというと、 非正規労働者は事務系職種の間接部門に採用しています。こちらは、現行派遣法であ るので、派遣の方にやっていただく仕事は、基本的に3年で人が替わっていい仕事と いうことです。4、5年以上経験が必要なものは全部社員が対応するということで割 り切っています。 Q 会社に入ってからの、仕事の幅についてお聞きします。たとえば、能力形成からみ て、人事部門ならその中でずっと生え抜きのように生きていくのか、それともたまに は営業に行って、また戻ってきてということがあるのか。職務が明確になっていくと、 管理職になってからではあまり動かないというイメージをもちますが、今後若い人を 入れた場合、いまは経理だけれど営業がやりたいとなったとき、職務記述書は明確に なっているわけであり、私はこれはできると思いますと言われたとき、果たしてどの ような育成の仕方をするのかということをお聞かせいただきたいです。 A 今現在は、一般社員は職能資格制度ということで部署が替わっても基本的に能力が 落ちるという評価にはならないため、今はやりやすいという前提で申し上げます。意 識してやっているのは、通常の場合12年目位で管理職に到達するので、その間に3回 部署を変えるようにしています。例えば、最初人事に入ったら4年間人事部、次は営 業に行く、次に経理部といった風です。3つやったら大体どれが一番向いているか会 社も本人も分かります。その後、話し合いの上、12年目からは基本的に人事部なり、 営業なりでやっていく、というやり方をしています。管理職になるときに、この道で プロになってくださいというようにしています。ただ、それは最近のことで、以前は、 若い人はどちらかというと1つの物事を深くやるという形が多かったのですが、特に 事務系の人は、もう少し経験を積むことで視野が広がるようにとの趣旨でした。  グレーディングの問題も、一般社員の場合は管理職よりは大括りになるので問題な いと思っています。例えば、人事で4年やって、5年目に経理に替われと言われたと きに、人事ではそこそこのレベルとなっているけれど、経理に替わると1から出直し のため、本当は入社時と同じぐらいの能力レベルに戻ってしまう。理屈上はそうなっ てしまい、頻繁にローテーションをかけにくい状況はあります。そのため、組合員に ついてはあまり細かく分けず、できれば3つぐらいのグレードにして、最初の実務的 な仕事と企画を行う社員の駆け出し7、8年、その上に上級の企画を行う社員位にし て大きく括れば、人事から経理に替わってもこのグレーディングの中でいけるように と考えています。あまり細かく切ると、いまの例で言うと、3グレードまでやっと行 ったのに、経理に行ったら1グレードでとか、そういうことは人材活用上阻害される ので、できるだけ避けたいと考えます。  基本的に職種採用をせずに、総合職というような採用であり、いろいろな所を経験 してOJTで育成してくという人事管理であれば、本当は職能主義のほうがやりやす いかもしれませんが、欧米的に人事であるとか、営業であるとか、最初から一筋でい くのなら、グレーディング1、2、3のほうが簡単です。 Q これまでの日本型雇用慣行の終身雇用は、ある意味大切ですが、それと表裏一体だ った賃金制度が直って職務制度になっていくと、まさにこの能力開発のところに弱み が出やすくなり、会社として人材育成をどのように考えるのかというのが疑問です。 A 当社も、去年の10月から独立組織として人事の中に研修チームのようなもの、そ のような制度を作りました。今の議論の、能力開発に弱みが出るという方向へ変わっ ていく可能性もあるため、能力は自分で磨け、勉強は自分でしろという世界ではなく、 会社も必要な能力を伸ばすコースとか、支援とか、それを充実させていくというのを セットでやらなければいけないと考えます。  参考として申し上げますが、その関係で言うと公募制もあります。手を挙げればど こへでも行けるということで、いま一部運営しているところですが、これはなかなか 難しいです。アメリカのように職種横断的な労働者が入ってくる、人事課長募集とい ったら人事課長が入ってくるような労働市場が形成されていれば、公募制は比較的い いと思います。終身雇用を守りながら、バランスよく処遇していくやり方ということ では、公募制は広範にはできません。結果的にやっているのは、今は海外のポジショ ンのみです。海外の場合は、個人ごとに家族の問題、人生観などもあるため、海外で こういうアグレッシブなポジションがあるので手を挙げる人はいませんか、というこ とはやっています。国内で人事課長の募集などをやるのは不可能に近いです。そこは 職務主義を徹底すればできなければいけないはずですが、労働市場がそのような市場 形成になっているかというとそうではなく、それができると、一方の終身雇用は当然 崩れてくるという二律背反の問題があり、悩ましいところであります。  日本人の職業観が、学生時代にどの職種でいきたいという職能が形成されるように なれば別なのかもしれません。アメリカのように工学修士とか経営学修士とかいうも のになっていけば変わるのではないかと考えています。最近でも私どもも事務系大卒 で修士を採っており、修士の方はやはり深く勉強しているので、並べて面接して、な るほどよくものを考えているなという人は、全員ではないですが、修士の場合が多い です。結果的には、何のこだわりもなく事務系にも修士を採用しており、応募者でも 修士が増えている状況です。日々採用していると、日本も変わってきたなという印象 を持っています。