第2回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日 時 平成18年12月20日(水)10:00〜12:00 場 所 中央合同庁舎第5号館5階 専用第12会議室 出席者 電気機器メーカー    (厚生労働省側)労働政策担当参事官 他 内 容 成果主義型賃金制度等人事労務管理の運用状況について ○ 経営改革と人的資源の活性化  処遇制度を中心とした人的活性化の施策について各種制度改訂を進めてきていますが、 その背景は経営改革に尽きます。具体的には、「バブルの崩壊」「低成長」「デフレの進行」 「グローバル化」「ITの推移」などの事業環境の変化に対応し、直近では大きく4つの経 営改革を進めてきています。  1番目は、経営ビジョンの策定で、改めて4項目を定めました。具体的には(1)「便利 で安心できる社会システム」を提供すること、(2)「知識企業」、知識による価値創造に 集中すること、(3)「お客様の視点」で考えること、(4)「信頼とスピード」をモットーと すること、の4つのビジョンを策定しました。  2番目は、コーポレートガバナンスの見直しで、グループ制を進めています。分社も そうであり、社内にも事業グループを設け、できるだけ事業グループに権限を移譲して います。  3番目として、連結経営体制の見直しということで、委員会等設置会社への移行と、 主要グループ会社への役員相互派遣など、連結経営のガバナンスを強化しています。  最後に、4番目としては、事業ポートフォリオの見直しで、事業グループの独立会社 化やグループ会社あるいは他社の事業との一体化、グルーブ会社の社内取り込みなど、 M&Aや分社化などの取込みを実施しています。  このような経営改革を、「ハード面の改革」と称し、それでは、「ソフト面」はどうした らいいのだろうかということで、従業員の意識改革を通じた企業風土の改革を実施して きました。その中で「Open」「Challenging」「Diversity」の3つをキーワードとし、会 社と個人との関係を、会社は個人に対し「場」と「報酬」を提供し、個人は会社に対して「成 果」「付加価値」を付けるという形に整理し、両者の共通価値基盤として10項目の 「VALUE」を設け、それぞれに対応する施策を展開してきています。   ○ 処遇制度改革の流れ  1995年以降、管理職層への部門業績評価、目標管理制度の導入、その後処遇制度全般 の見直しを実施し、2000年には管理職層の人事処遇制度の全面改訂、2004年には組合 員層の人事処遇制度の全面改訂を実施するなど、経営改革と業績の状況などに合わせて 制度の改訂を行ってきたところです。  遡って、もう少し細かく制度改訂について「人事処遇制度」、「人材育成、異動制度」、 「その他」に3区分し、時系列で整理すると次の通りになります。  「その他」区分としては、法制の見直しにも連動しながら勤務制度の見直しを行って います。具体的には、1988年にはフレックスタイム制度を導入し、1998年には裁量勤 務制度を導入しました。  「人材育成、異動制度」区分としては、1991年に社内公募制度、2003年には社内F A制度ということで、社内の異動にかかわる制度を展開しています。また、人材育成関 係としては、2000年に自発的能力開発サポートを導入しました。これは、会社からの一 方的な人材育成施策ではなく、自分の受講したい教育を自己申告し、上長の承認を得た 者については能力開発ができるような仕組みです。2001年には採用ジョブマッチング方 式ということで、大学卒の採用に当たって、「こういう仕事、勤務地で会社に入ってくだ さい」というところまで入社前に学生と話をして納得した上で入社していただく、とい う仕組みを取り入れています。2002年にはキャリア・デザイン・ワークショップという ことで、自分で自分のキャリアを考えるプログラムを導入しています。また、2003年に は管理職層を対象としている360度フィードバックプログラムを導入しています。   退職金・年金制度については1998年にポイント制への移行、2001年には確定拠出年 金を導入してきています。  このような中で、「人事・処遇制度」区分については先述の通りであり、1998年に人 事処遇制度全般の見直しとして、資格等級制度の格付方法の見直しと賃金体系の大括り 化を行いました。その前後の1997年には、管理職層に目標管理制度を導入し、それら を受けて、2000年に管理職層の新評価制度、賃金制度を設けました。同じく2000年に は、主任・係長クラスに対する目標管理制度を導入しました。更に2004年には、組合 員層の処遇制度改訂を行っています。  1990年代前半位から15年程度をかけて、制度全体を大きく見直しをしています。こ れからの課題としては、その出来上がったものをどう定着させていくのかということだ と思っています。  改革を実施したときの背景には、先に説明したように、事業を取り巻く経営環境の変 化がありますが、併せて、従来の処遇制度の抱える問題点として、年功的性格というこ とが従業員、組合から指摘されました。そうした中で、会社が存続し発展していくため には、社員一人一人が、それぞれの役割の中で「価値創造」に貢献することが重要であ るため、仕事を通じた価値創造が大きい者をより高く評価し、処遇するような仕組みを 明確にし、社員一人ひとりのやる気・能力を最大限引き出すことを目的として、制度改 革を実施しています。  改革の前段で、2002年から従業員を対象とした年1回の意識調査を実施しました。そ の結果は、「実力成果で処遇に差を付けていくべきかどうか」の質問に対し、「そう思う」、 「比較的そう思う」が合わせて約7割、「評価内容が本人に分かることについてどう思う か」の質問に対しては、9割近くが「分かるほうがよい」、「ある程度本人に分かるほう がよい」でした。処遇決定要素についての質問には、「賃金に反映されるべきだと思うも の」は「仕事の成果」「業務遂行能力」であるとの回答が多く、一方、「現時点で反映さ れていると思うもの」は「年功」という回答が多くありました。  このような意識調査や改革の背景を踏まえた基本的な枠組みとして、「仕事を通じた価 値の創造を高めること」「従業員の意識に応じた制度にすること」そして「分権化に沿った ものにすること」を目標に、「より公正・透明に評価する仕組みの整備」、「評価結果に基 づいた処遇の決定」、「社内におけるグループ事業部門への権限の移譲」の3つを中心に 制度改革を進めたところです。 ○ 処遇制度改革の概要 ・組合員層の処遇制度改革の進め方  2004年の組合員層の処遇制度改革の推進の流れは大きく4つのステージに分かれま す。第1のステージは、2002年9月から2003年3月までの「研究と検討」であり、具 体的には労使委員会、資格賃金制度研究会、処遇制度検討委員会の3本立てで、研究、 検討を開始しました。  第2のステージとしては、2003年度の4月から6月にかけての「基本論議」であり、 上記の委員会などの場で組合の骨格論議を行い職場にも展開するという作業と、並行し て処遇制度検討委員会にて具体的な内容の検討を進めました。  第3のステージは「詳細論議」ということで、2003年7月から12月に組合との詳細 案の議論、その後職場討議にかけ、組合員全員が知る機会を設けました。その他、積み 残し課題の議論と、改革の方向性についての「社長メッセージ」を、ニュース・リリー スとして公表しました。  第4のステージは、「周知徹底」で、2004年1月から3月にかけて、春季労使交渉と 合わせて労使の接渉、退職金・年金の専門委員会を開いて具体的な制度づくりをしまし た。また、職種別の能力定義書の周知徹底、制度内容の周知徹底、評価者教育を実施し ました。  約1年半をかけて現行の制度を作ってきましたが、ポイントは、改革の必要性から議 論を展開し、議論を2ステップに分割したということと、制度設計中から従業員に情報 を開示したということの2点です。 ・評価  次に具体的な評価の仕組みについてご説明します。  管理職層の評価は「VALUE発揮度評価」と「個人業績評価」と大きく2つに分かれ ています。「VALUE発揮度評価」というのは、行動・プロセスを評価するもので、会社 と個人の共通価値基盤である「VALUE」に基づく行動ができているかどうかを評価する ものです。「個人業績評価」については目標管理制度の中で、ビジネスプランに基づいた 組織目標・個人目標と、それに対する成果についてそれぞれ評価するものです。この2 つを合わせ「人材総合評価」を行い、資格格付、月俸改訂、人材配置に活用しています。 「個人業績評価」については賞与に反映させています。また、これら評価の全体を育成 に結びつけています。  組合員層については、「能力評価」と「行動・プロセス評価」、「成果評価」の3つで評 価しています。「能力評価」というのは管理職層にはない評価ですが、職種別能力定義書 (職能定義書)を作り、その定義に基づいて評価をしています。「行動・プロセス評価」 は、管理職層の「VALUE発揮度評価」に類似していますが、もう少し簡素化したもの です。「成果評価」については個人目標に対する成果です。これらの評価の活用としては、 「行動・プロセス評価」と「成果評価」を合わせて「行動・成果評価」としており、本 給の改訂及び、「能力評価」部分と合わせて、資格格付に反映させています。「成果評価」 は賞与にも反映させます。また、評価の仕組み全体を能力開発や人材育成へ活かすこと としています。組合員層の評価制度の仕組みのポイントは、(1)評価の視点を「仕事を通 じた価値創造の大きさ」として、「能力」、「行動・プロセス」、「成果」の3要素で評価す ること、(2)それぞれの評価要素について評価基準・評価方法・評価の反映先を整理し、 明確化すること、(3)評価に関するフィードバックを実施し、透明性の向上、成長・能力 開発を促進すること、の3点です。 ・資格  次に資格体系ですが、現行の資格体系は、大きく総合職と専任職とに分けています。 総合職は8区分で、その下に入社して2年目程度までの者を総合職研修員としています。 専任職は5区分になります。管理職層は、総合職の4級以上という位置付けとなってい ます。  資格制度のポイントは、2区分に再編した各職群の等級を大括り化したことで、専任 職の部分は従来の半分程度の等級数となっています。もう1点は、毎年1回、評価結果 に基づき、ふさわしい等級に格付けを見直す仕組みとすることで、評価結果以外の要素 による一律的な取扱いを排除し、併せてとび級や降格もあり得る制度にしています。  資格格付は職能定義書による能力評価と行動・成果評価に基づいて決定しており、勤 続や年齢等による格付目安は設定していません。降格が適当と判断した者については、 今年行動が改善しないと来年は降格するという予告期間を設け、次年度に再度降格が適 当と評価した場合には降格を実施するという仕組みにしています。   ・賃金  賃金体系については、管理職層は月俸の1区分とし、組合員層は本給と、工師/主事 という「現場の神様」と呼んでいる社員に対する加算のプレミアムを設けています。それ 以外は水準調整的な給付や家族手当、特殊作業手当などで簡略化した形になっています。  具体的には、資格ごとのレンジ制で、資格に編入されると最初は初任に格付けされ、 その中で昇給していくイメージです。各レンジの最高に辿り着いた場合には昇格しない 限り昇給しないという仕組みで、レンジは基本的には重ならないようになっています。  賃金改訂の仕組みは、行動・成果評価を5区分に分け、昇給ゼロ、降給もあり得る制 度となっています。行動・成果評価は絶対評価で分布目安を設けない評価をしています。  同一等級内での賃金改訂は、レンジの中を上位、下位に分け、下位ゾーンの場合は、 本給改訂額を通常の改訂額で行っていますが、上位ゾーンはその半分にする取扱いをし ています。評価に応じた賃金の高さに向けて改訂するという趣旨です。レンジの中央値 がその資格の辿り着くべき水準であり、そこに辿り着くまでは100%昇給するけれど、 それを超えた場合は半分にする、というような枠組みを作っています。  家族手当については、従来は配偶者に厚い手当としていましたが、それを扶養家族1 人につき定額という形に見直しました。 ○ 今後の課題 ・評価に関する状況  初年度の評価に関するフィードバックについての反応は、導入前には評価者の負担が 増えるという声もありましたが、実際は概ね好意的な反応でした。プラス面としては、 「時間はかかるが部下ときちんと向かい合うことができた」、あるいは「相互理解ができ た、業務に対する部下の姿勢が好転した」などの反応でした。一方マイナス面の反応は、 「昇給なしとか降給という評価に対する面談が非常に難しい」、「評価を伝えるだけでな く、能力開発や育成といった観点を踏まえたフィードバックのやり方がわからない」な どでした。  また、従業員意識調査の結果を、処遇制度改訂直後の2004年と2006年を比べると、 「あなたは自分の評価に関して理由や根拠の説明を上長からきちんと受けましたか」の 問に、2004年当時も現状でも約8割の者が「受けている」としていますが、2割は「受 けていない」としています。説明者側である管理職層は、もう少し高い割合できちんと 理由や根拠を説明しているというヒアリング結果もありますが、受け手のほうが受け止 めきれていない場合があり、このような結果になっているのではないかと思っています。 また、「あなたは自分に対する上長の評価を納得できるものだと思いますか」の問は、 2006年では「そう思う」、「比較的そう思う」が6割弱、「納得しない者」、「そう思わな い」が1割強あり、「どちらとも言えない」は約3割という結果となっています。この 「どちらとも言えない」層を何とか納得する方向に引き上げていきたいと思っています。 「評価内容説明の有無」と「評価納得度」の関連をみると、説明を受けた層は、納得で きる割合が約7割、納得できないというのは約1割という状況です。一方、説明を受け ていない層は、「納得できる」は2割弱、「納得できない」が3割強ということで、説明 をきちんと受けると納得性は増すという結果がはっきりと出ています。納得性を高める ためには、説明をきちんとやることが必要ということと理解しています。   ・今後の課題について  これらの状況を踏まえ、今後の課題を挙げると、1番目は、定点観測している意識調 査結果に基づいた処遇制度の定着、浸透に向けた施策を展開し、モチベーション向上に 向けて取り組むことです。2番目は、一人ひとりのやる気と能力の最大化に向けた制度 運用の徹底です。従来人事部門としては対象層を大きく捉えて、その層を活性化してい けば良いのではないかということで各種施策を行ってきましたが、現状の処遇制度を踏 まえると、一つひとつ、個人個人を高めていく努力をしていかないと全体が高まらない と認識しており、教育・研修等を通じた当社の精神・魂の伝承をしていきたいと考えて います。また、評価者の意識改革に留まらず、被評価者に対しても意識改革を促す仕組 みとして「キャリア開発面談」を導入し、現行の目標管理面談と同じタイミングで、「自 分はどういうキャリアを積んでいきたいのか」ということを上長、部下で話をするよう な機会を今年から実施する枠組みに変えています。「人にこだわり、人の心を大切にして、 人作りで競争優位を築いていく」という取組により、究極的には人で世界に勝つ企業文 化の確立を目指していきたいと考えています。 ○ 意見交換 Q 実力・成果主義制度について、その制度は前と今とでどこがいちばん変わったのか をもう少し詳しく教えていただきたいです。また、実際の運用で、降給なり降格、賃 金が上がらないというグループは、実際にはどの位いるのですか。 A 制度面でインパクトが大きかったのは、1つは処遇上の評価を本人に伝達するとい うことではないかと思います。2つ目は年功的な要素を払拭し、その時々の評価に基 づいた賃金の評価、資格格付の評価を行うことです。評価そのものが絶対評価に変わ ったというのも大きな違いです。従前は、本人には評価が伝ってはいませんでした。 個人個人の評価は上長がきちんと行っていましたが、相対評価であり、誰かを上げる と誰かが下がるという評価でした。しかし、例えば100点を基点としてどういう人が 102点で、どういう人が96点なのかという基準がなく、どうしたら102点となるの かが従業員に対して示せるような制度ではなかったのです。いまは基準を明確にした ので、「こういう行動ができれば行動・プロセス評価は高く付くのだよ」というような ことが言えるような仕組みに変わったことが、いちばん大きな違いなのではないかと 思っています。  実際の運用状況について、降格は、管理職層、組合員層ともに僅かです。2年かけ ないと降格を実施しないため、2005年度から降格者が出始めているところです。制度 が定着すると少し違った結果となるのではないかと思っています。昇給ゼロがどのぐ らいいるのかということですが、数%であり、それほど多いということではありませ ん。  また、レンジ制を敷いており、上限レンジもあるため、評価は普通であるにもかか わらず、上限に張り付くということが起こり得る処遇制度になっています。新制度へ の移行時には減給はせず、現行水準を保障したため、水準がレンジを超えた場合は保 障されていますが、それ以降は資格昇格がない限り昇給しないことになります。組合 員層では昇給しない者が数%いますが、この層については、制度移行時のイレギュラ ーな状況と認識しています。制度が完全に理想的に運営されれば、通常の場合はきち んとそのレンジに収まって次の資格に昇格していくようにしています。 Q 賃金体系というのは、移行前はどういうイメージだったのでしょうか。 A 移行前は賃金カーブを線で引くと右肩上がりで上がっていくというイメージです。 組合とは専任職相当層の資格昇格を速い者、遅い者、普通の者というように、3区分 に分かれる協定を結んでおり、誰でもこの中に収まっているというようなことを行っ ていました。 Q 移行前にも等級はあったのですか。 A 等級はありましたが、意味付けがされていませんでした。例えば技能職5級と4級 があれば、4級は5級の上、3級は4級の上に位置づけられているに過ぎず、何歳に なれば、必ず4級に格付けするというような目安年齢をそれぞれの等級ごとに組合と 協定で結んでいました。 Q 年齢とリンクしていたのですか。 A 目安であり個別具体的にはリンクしていませんが、資格ごとにその年齢が決まって いました。何歳になったら必ずそこには上げるという運用を行っていました。 Q 現行は、それぞれの等級には何歳以上でないとなれないということはないですか。 A ありません。但し、社員に求める定義を定めたので、そうなるように本人も努力し て、会社も努力することとしています。その結果として資格格付を行っていくし、本 給改訂も行います。一方で、組合とは従来同様40歳まで最低賃金を協定し、40歳以 上は40歳の水準を使うこととしています。 Q 制度を作る段階の討議の中で、どんな課題なり懸念が指摘をされて、それらの問題 についてどのように解決したのか、その辺のプロセスの議論を事例としてお教えいた だけないでしょうか。 A 当時、経営が置かれている状況については、労使共にある程度共通に認識できてい たと思われます。電機業界ということでは、円高で1ドル79円台になるようなこと も起こり、輸出競争力が低下し海外へ出ていく中で、組合とは雇用の確保をどうして いくのか、また、競争力を高めていくためにどうしたらいいのかということを議論し てきました。一方で世の中の流れということで、雇用形態の多様化というような労働 環境の変化についても、当然組合も会社も意識している状況でした。1999年の組合の 機関紙の中で、「21世紀初頭を見据えて総合点検する」ということを組合が提言しま した。その中の賃金関係、あるいは処遇関係でいくと、「雇用形態の多様化とか流動化 に対応した生活スタイルを築けないか」、「新しい労働スタイルの創造と、それに合致 した公平、公正、透明、魅力ある処遇の確立をしていきたい」ということを組合はそ の当時から提言していました。その後、経営の状況に対し、組合から会社に対して提 言がなされる中で、人材を活性化させるための提言として、「透明で公平、公正な評価 の実現などをきちんとやってほしい」、「多様な人材を活かす働き方を追求するという ようなことを進めてもらいたい」という提言もあり、それらを受け、2002年9月に処 遇制度改革をスタートしました。  また、管理職層について2000年に制度改訂を行いましたが、その制度も念頭に置 いた議論となる状況だったのではないかと思っています。 Q 資本市場が国際化した状況がありますが、配当施策と従業員の処遇・雇用との関係 をお教え下さい。 A 現時点では、その2つがトレードオフのような関係であるという状況だとは思って いません。それぞれのステークホルダーにはそれぞれきちんと説明できる内容でやる ということが必要だと思います。 Q 目標管理制度について、その目標の設定というのはどのように行われているのです か。 A 半年ごとの目標を3項目程度設定することとしています。通常の場合、所属部門と しての組織の目標があり、それに基づいてより小さい組織の目標があって、それを個 人目標に落とし込んでいきます。自己申告で「私は今期こういうことをやります」と いう目標とそれぞれの難易度を出してもらい、目標の是非と難易度のすり合わせを行 います。その上で、半年後にその目標毎に、達成度はどうかというやり取りをします。 目標以外にもアピールしたいポイントが出てくる場合は、その他の項目を起こして、 当初の項目に加え、そこについても話し合います。最後に、その目標なり、追加項目 を加えたものの全体を踏まえて成果評価の5段階に落とし込むということを行ってい ます。 Q それは、ポストではなく、個人ごとに決めているものなのですか。 A そうです。現在、目標管理制度は総合職層にやっていますが、全社員中概ね75%が 実施している状況です。 Q 個人ごとの目標を作るにしても、例えば職務に応じた何らかの職務分析のようなも のに基づく目標があり、それと連動させることはありますか。 A 資格任用については、一部職位を強く意識しているところがあります。例えば、こ の資格等級であれば、課長の代理・代行ができる層、それらより上の資格等級は課長 相当職で、その上は部長相当職というように、ある程度職位のイメージを持っていま す。従って、目標を設定する際に資格ごとに難易度達成度の見方を変えるような意識 をして見るというやり方をとっています。主任層だから「こういう目標」を設定するよ うな形にはなっていません。 Q 人事担当部門等間接部門における個人の目標というのは、どのような目標を設定す るのですか。 A 弊社は比較的エンジニアが多い会社ですが、エンジニアは、この1カ月でここまで 開発するとか、比較的マイルストーンが置けて、目標が設定しやすいのだと思います。 一方、管理部門は必ずしも半年、半年で成果が出るような仕事ばかりをしているわけ ではなく、例えば労使交渉などについても、春季労使交渉の対応が終われば終了とい うことではありません。ただ数値目標をできるだけ立てるようにしています。例えば、 「面談の実施結果何%以上」、というような目標を設定しています。この期に何を中心 にやるのかを数値目標に出来なくても、上司と部下で決める仕組みにすることが成果 に繋がると思っています。個別具体的な目標に対して評価しているかということを本 人にフィードバックするほうが評価が明確でやりやすい点もあります。補足ですが、 意識調査の結果では、全般的な社風に関する問に対して、「実力主義」、「自由闊達」、 「チャレンジ」という項目が年々増加しています。一方、「減点主義」、「建前」という 項目は減少しており、処遇制度の結果だけではないと思いますが、意識改革という点 では成果が出てきているのではないかと思っています。 Q 人的資源の活性化のところで、改革のキーワードがOpen、Challenging、Diversity とありましたが、そのダイバシティの観点で何か効果があったのか、あるいはそうい う観点で制度改正はありましたか。 A 年功的なもの、あえて言えば学歴的なものや性別的なものを払拭していこうという ことでやってきています。処遇制度という面では、その観点を反映させています。  また、女性の活性化という点では、2000年からジェンダーフリー・アンド・ファミ リーフレンドリープラン(F.F.プラン)という施策を5年間取り組んできており、2006 年からはF.F.プランIIという名称で再立ち上げを行いました。第1期は制度の設計・ 制定とその運用が中心だったのですが、第2期では、第1期で制定・推進した各種施 策を活かしながら一層の意識改革を進めていくため、運用面的なところを中心に進め ているところです。女性の管理職層を全員集めて情報交換をしたりする機会を設けて います。 Q 女性も育児休暇などを取って、そのままキャリアを積んでいく方が増えてきていま すか。 A 増えてきています。出産するほとんどの女性は育児休業を取っているのではないで しょうか。直近1年の状況ですが、全取得者に占める男性の割合も3%超であり、男 性もようやくそういう社員が増えてきています。 Q 辞める方はいないのですか。 A 一人ひとりの仕事に対する意識が従来より強まっているため、退職は少ないと思わ れます。育児・介護を理由に退職する従業員に対する再雇用制度もあるので、それも 合わせて活用を進めています。 Q 新制度を導入して、いまのところ降格、昇給ゼロというのは非常に少ない状況です が、年功的な要素を払拭していこうという趣旨があると考えたときに、いわゆる賃金 カーブは寝ていって、さらにその散らばりが増えてというイメージを持ちますが、実 際はどのようになるのですか。 A 予測も含めた状況ですが、以前の賃金カーブとそれほど変わらないのではないかと 思っています。多少変化が出そうなところは、若い層で早目に昇格していく例がでる のではないかと思っています。  全体としては旧制度から賃金水準を移行しているため、それほど大きな賃金カーブ の変化はないという印象を持っています。本当にアウトプットが出てこないで降給・ 降格になる人が出る可能性はありますが、これはあくまでイレギュラーなケースであ り、賃金カーブとは関係のない話だと思っています。 Q 現行の賃金体系の本給水準のところで、級と級のレンジの重なりを付けていないと いう理由はなぜですか。 A 資格毎の職能定義書に記載している内容はその資格で発揮する能力の高さであり、 その発揮する能力の高さと賃金水準をリンクさせ、より高い能力を発揮している人は より高い賃金を支払う仕組みにしています。低い資格/発揮能力で、高い資格の人よ りも高い賃金を貰うのはいかがなものかという発想で、このようなレンジ構成になっ ています。 Q 重なっている企業が多いので、逆に言うと、それを重ねないというのが御社の人事 制度の考え方に基づいているということですか。 A そういうことです。 Q いろいろな人事諸施策の中で、2001年に採用ジョブマッチング方式を導入していま すが、御社のような業種、規模であれば、一度入社すれば離職するような例は多くな いと思いますが、このような制度を導入するのは、採用した人間の資質と職場をマッ チングさせて、入社当時からより一層能力を発揮させるべく導入されたのか、それと も離職する若い層が多いからやっているのですか。もし後者であれば、残存率という のはこれで向上するものなのですか。 A 職場で「こういう人材」を、「こういう仕事」をする為に増やしていきたいというニー ズがあって、新規採用の社員をそこに配属するわけで、その配属に当たっては、その 仕事を希望する人に来てもらうほうが、配属後の本人の意欲が高まり、結果的にはア ウトプットも高まるのではないかということです。  また、当社は地域性もあるため、仕事を希望したときに、「その仕事はこの事業所で すよ」ということになるため、そのことについて入社前に本人にきちんと説明し、納 得してもらうほうが、会社としても最初の戸惑いを本人に与えることもなく、本人と しても決心しやすいとうことです。  入社される方は修士が大部分で非常に専門性が高まっているため、仕事や勤務地に は拘らずに採用することは通用しません。そのような理由から、ジョブマッチングを 行っています。事務系については、仕事を限定して採用しているわけではなく、仕事 内容を説明して、「こういうことがある」、「こういうことをしたい」ということで入社 を決めていただいて、最後は配属のときにもう一回希望聞くということを実施してい ます。