第1回産業労働事情懇談会に係るヒアリング 議事概要 日 時 平成18年12月13日(水)15:00〜17:00 場 所 中央合同庁舎5号館2階 専用第10会議室 出席者 精密機械メーカー     厚生労働省側 政策統括官(労働担当)他 内 容 成果主義型賃金制度等人事労務管理の運用状況について ○ 企業の概要について  当社の2005年末における在籍人員は2万1,000人強です。また、海外まで含めた連 結ですと11万5,500人であり、国内・海外の比率は大体4対6です。  平均年令・勤続を見ますと、男女ほとんど変わらず、むしろ平均勤続年数は女性のほ うが長いのが特徴です。国内・海外とも出向者が約1,000人ずついます。この1,000人 ずつという数字は、ここ10数年変わっていません。海外出向は、以前は欧米が中心だ ったのですが、最近はアジアの製造会社や販売会社への出向が増えてきています。 ○ 経営方針について  1996年から5年ごとに中期計画として、グローバル優良企業グループ構想をPhaseI、 PhaseIIという形で実践してきました。最初の5年間(PhaseI)では、不採算部門の撤 退や、事業の選択と集中を行い、それと同時にキャッシュフロー経営や連結会計制度を 導入して、財務体質を強くしていきました。  そしてPhaseIから重なって、PhaseIIでは製品競争力の強化ということで、生産部 門や開発部門、ロジスティックス部門など経営のさまざまな分野において革新活動を行 い徹底的なコストダウンを図ってきました。こうした活動によって利益を拡大して、そ れを製品開発に再投資して売上げを上げていく、ということを基本戦略として行ってい ます。  本日お話をさせていただきます人事の革新も、このPhaseIIの中で2000年から計画 されています。重要なことは生産革新や開発革新といった動きのほうが、人事革新より も早く始まっております。ご存じのとおり革新というのはいろいろな意味で既得権を壊 して、新たに作り上げるということなので、生産にしても、開発にしても、いままで十 数年と同じやり方で物を作っていた人に、もうそのやり方では駄目だから、全く新しい やり方に変えさせることです。具体的にはベルトコンベアを全廃してセル生産方式に切 り替えました。開発の仕方も、それまで手で図面を引いていたものから、コンピュータ ーの画面上で立体的に、試作というものを行わないで仕上げていく、というような手法 に変えたわけです。そして2000年に、人事革新プロジェクトを作り、改革を始めたこ ろには他部門での革新の成果が、目に見える経営数字にあらわれ始めていました。本来、 給与などの人事制度については最もコンサバティブに考え、既得権の排除など考えられ ないわけですが、変えなければ厳しい企業間競争に打ち勝てないこと、逆に正しい方向 に変えれば結果が出るという気持ちが社員の中に少しずつ浸透していったのではないか、 また企業業績の良い時こそ人事制度を変える好期であったと考えます。  先ほどお話しました、人事革新を行っていく中で、制度を変えることはあくまでも手 段です。個人を強くして、組織を強くするというのが目的です。そのためには、経営哲 学に、人事制度が即した形になっていなければいけないと考えております。私どもでは、 経営哲学として三自の精神と、実力終身雇用、それから人間尊重主義の3つがあります。  三自の精神というのは、自発・自治・自覚です。何事も自ら進んで行うということと、 自分自身を管理し、自分の立場・状況・役割を認識して行動する。これに基づいて、一 人ひとりが企業活動を行っていく。これは、創業のときから脈々と続いている、DNA とでも言うべき精神です。  終身雇用と実力主義については、まず、経営者の最大の使命は雇用を守るということ であります。ただし、雇用は守られているけれども、社内は公平で公正な競争が行われ、 実力に応じた処遇を徹底的に行っていかなければいけない。逆に、処遇が年功であった りすると、終身雇用そのものが崩れてしまいかねませんので、実力終身雇用とは、終身 雇用を守るためにも実力主義でなければいけないという考え方であります。  終身雇用が日本企業の強みであるということは、ここにあります使命感、愛社精神、 自己規律、経営者と従業員の信頼関係、組織に長期的に貢献しようという意欲・意気込 み、それからノウハウの蓄積というものが、集団としての強みに繋がると考えているか らです。そこを、いかに活かしていくかということです。ここ数年問題とされている成 果主義では、短期の成果や個人の利益だけを考えるということになりがちなわけですが、 そもそも私どもの場合はそうではなく、この哲学の下で、個人も会社も成長できるよう に人事制度を考える、というのが命題であったということです。  繰り返しになりますが人事革新のビジョンは実力終身雇用の下で、グローバルな競争 に打ち勝てる自律した強い個人を育成し、会社を発展させるということです。これが目 的であり、制度を変えることは手段にすぎません。  当然ですけれども、総額人件費の削減ですとか、ましてやリストラといったことが目 的でもなければ手段でもないということは、いちばん最初に労働組合と議論を始める際 にしっかりと確認をして、その軸をぶらさずに経営者とも人事内部でも、労組とも議論 を進めていったわけです。  最も難しかったのは制度を変えて、どうすれば組織が強くなるのか、個人が強くなる のか、そして制度を変えることによって、意識・行動を変えるというところまでどうや って持っていくかという点だと思います。後ほど出てまいりますが、結果的には我々は 役割給と呼んでいますが、範囲職務給にしました。いままでは職能給でしたから社員の 意識は能力を高めるというところにあったわけです。しかし、ある意味では年を取れば 能力も上がるという前提で、賃金も上がっていきましたので、本当に能力を高めるとい う意識がどの程度であったか疑問でありました。それを職務給にすることで、自分で自 主的にキャリアというものを考え、当社の中でどうやってキャリアを積んで成果を出し、 より上位の職務を目指していくのかを意識させたかった。そして、それこそが組織をも 強くする自律した強い個人ではないか考えたわけです。  もう1つ重要なのは、制度を変え、こういう制度にしましたと説明し、運用しただけ で、果たして意識まで簡単に変わるかどうかというと、これはなかなか難しい問題があ ります。経営があって、人事があって、それから現場のラインがある。それぞれの部と か課といった組織があるわけです。その現場のマネジメントが、制度を変えた意義をし っかりと捉えて、それで部下と日常接していかない限り、一人ひとりの社員の意識が変 ったり、その社員が自律してくるとか、強い個人になるということはまずないわけです。  なおかつここに書いてある通り、仮に今度は一人ひとりが強くなったところで、それ をどうやって強い組織に変えていくか、というところがどうしても現場のマネジメント の力ということになってくるのではないかと思います。日本の場合は管理職のマネジメ ントが弱いというか、画一的な民族で、かつ非常に勤勉で比較的質の高い労働者が、こ うしてくれと言えばそれ以上のことを考えてやっていたということだったと思うのです。 逆に個人の質が高すぎているから、マネジメントが弱かったとも言えると思うのです。 職場の組織力をもう一段高めるために、人事制度を変えて個人を高めるだけではなく、 いかにマネジメントを高めていくか、というのがもう1つの課題であるといえます。こ の点についてはまだまだ途上なのですけれども、試行錯誤で研修などを実施している最 中です。 ○ 人事制度について  実際に、2000年にプロジェクトを発足して、2001年には管理職に対して、私どもで 役割給と呼んでいる賃金制度を導入しております。その間いろいろと細かい制度の改定 をしてきています。組合員(一般者)については4年後の2005年に、管理職と同じ役 割給制度の導入をしました。この4年間で、労働組合ともじっくりと議論をして、制度 内容・導入方法などを考えてきたということです。その間に評価制度などいろいろと変 更した制度はここにあるとおりです。  次に、人事革新の方向性です。目的は、自律した強い個人をつくるということですの で、それにそぐうか、そぐわないか、というフィルターで制度を改変してきました。役 職定年や早期退職といったものは、実力主義という考え方に合いませんので、私どもで は行っていません。逆にフレックスタイムなどは、いろいろ議論もありましたが、その 他の属人的な手当、寮・社宅などとともに廃止してきています。  賃金制度改定の目的というのは、総額人件費の抑制ではなく、配分を平等から公平に シフトすることだということです。はじめに、機会均等を踏まえた公正・公平な賃金体 系、賃金制度を硬直化させる定期昇給制度の改廃、アジアを中心とした国際的に競争力 があり理解される賃金制度という3つの命題を経営から提示され、いまの賃金制度は考 えてきました。  また、以前は人基準の職能資格制度、職能等級と、年齢でもって賃金が決まるという 制度でした。そのため、もともとあった問題として仕事と賃金のアンマッチが起こって いました。それで、ここに掲げているような3つの命題を解決するためにも、私どもで は役割給と呼んでいる仕事基準の職務給に変える以外にはないだろうということが今回 の基本的な考え方です。  当社で職務給と呼ばないで、役割給と呼んでいるのは、役割という言葉のほうが職務 よりも大きな概念を持っている。役割=職務+職責ということです。たとえば、私ども では職務記述書を作っているわけですが、その中では仕事の内容・範囲に加えて、どこ までの責任を持たされているのかということも記述しております。その両方をあわせて 役割と呼んでいます。  人と役割と成果のバランスを取り、処遇を決めていくことが重要と考えています。い ままでの職能給制度ですと、どうしても人の能力ですから、一度能力が高いということ である等級に就くと、ある時点で役割が低くなっても、給与をたくさん貰ったままにな ってしまうことになります。この3つのバランスをよく見て、それで賃金・処遇を決め るという制度を作りたかった、というのが今回の考え方です。  人・役割・成果の中に、人事アセスメント制度と、役割等級制度と、人事評価制度と 書いてありますが、それぞれ客観的に測る基準というものが必要だと考え、人を測るの が人事アセスメントで、試験制度や、面接等を通じてアセスメントをして、ある役割に 就けるのにふさわしいのかどうかということを見ていき、会社の経営戦略からくるさま ざまな組織、いろいろな役割がありますが、誰をその役割に就けるのが良いのかを決め ます。そして役割を遂行した結果、プロセスも含めてどんな成果を上げたか、というこ とを人事評価制度で測ります。  世の中で、成果主義と言われている会社が、本当に成果そのものだけで処遇されてい るのかどうかは、言葉の定義も含めてわからないのですけれども、少なくとも私どもで 成果主義と呼んでいないのは、結局この3つのバランスをしっかりと取っていきたいと いうことが目的としてあったからです。  職務と職責、役割の大きさに基づいて賃金を決めるということですが、職務評価とい う手法は、アメリカのコンサルティング会社の職務評価手法を採用しました。そのプロ セスは、まず、職務分析をして職務記述書を作成し、インタビューによる職務評価をし て、点数を付けて、等級を決定する。仕事で等級が決まるということです。  先ほど言いましたように、管理職は、制度を考えてから1年で実施し、一般者・組合 員はそれから4年かかりました。管理職のほうは組織ができています。人事部長とか、 経理課長という職務がもう決まっていたわけです。それで、いきなりこの職務評価に入 れたわけです。それで、1年ですぐできたのですが、一般者の仕事を決める、というの は一体どういうことなのかという議論に非常に長い時間をかけました。それで4年かか ったということです。  職務評価では、責任、人事管理、経験、知識、コミュニケーション、問題解決という 6項目それぞれについて、2つから3つの質問を行います。全部でこれだけの質問数が あります。即ち、責任に関する質問数が3つ、人事管理についてが3つということです。 コンサルティング会社の職務評価のプロと人事の担当者が、それぞれの組織の長にイン タビューをして、ここに点数を付けていく。それにウエイトをかけて総合点を出します。  その総合点の何点から何点までが、弊社でいうG1等級だとか、G2等級という様に 等級が決まっていく。そしてその仕事を担う人が、その等級の給与を貰うという制度に なっています。  管理職は別として、組合員に関してはっきりと仕事を決められるのかというと、日本 の場合はそう簡単に、職務記述書どおりの仕事だけやっていればいいとはならないわけ です。そこで私どもは、職務記述書は職務記述書で作成しましたが、その他、年初に役 割シートを使って、ここにあるとおり上位の職務の仕事や、下位の職務の仕事も含めて その年に行ってもらう内容を確認しています。  また、職務記述書は、全部Webで公開されています。自分が次に目指す職務というの はどういう内容なのかというのを全員がわかるようになっています。それと同時に、役 割シートでもって、確かに私は1つ上の仕事をこれとこれについてはやっているとか、 1つ下の仕事もこれについては後輩が入ってこないのでやっている、というようなこと をわかるような形にしています。  なかなかきっちり職務記述書どおりの仕事をやっている人はいないので、このように 上をやったり、下をやったりしながら、もっと言えば上の仕事をだんだんやりながら、 上位等級にプロモーションしていくという考え方を持っています。重要なのは、モチベ ーションを高めるためにも上位の等級はどういう仕事をやっているのかがわかるように 公開しているということです。  ここにあるのが役職等級制度の全体像です。新入社員がTという育成等級から入って きて、最初にやる仕事によってG1とG2に分かれる。G1からG4までが組合員で、 M1からM5までが管理職という形で9等級、つまり仕事が9つの等級に分かれていま す。  今では社員全員が役割等級に移行したわけですが、これまでの職能等級に比べて役割 等級が低い場合は本来ならば年収が下がるということになります。しかしながら、移行 措置として、賞与が下がる場合は、当初2年間は5%ずつを限度とし、月例賃金につい ては当初2年間は下げずに凍結し、2年後から労使協議を経て調整を行っていくことに しました。  また、いままでの職能等級制度では能力はずっと伸びる一方ですから、等級が下がる ということはありませんでしたが、今度の役割等級制度ではそのときそのときの役割に 応じて等級が決まりますから、当然下がることもあるわけです。つまり、人事部長をや っていた人が、経理課長になるかもしれません。そうすると、たとえばM3がM2にな ることもあり得るわけです。左下に行くことが起こり得る、というのが今度の制度の特 徴です。  実際にどれぐらいそれが起こっているのかといいますと、一般者で下がるというのは ほんの数人です。これは、社内公募や本人の希望もありますし、ワーク・ライフ・バラ ンス、例えば家族が病気だということでそんなに責任のある仕事ができないというとき には、その期間だけ軽い仕事に移る。そして問題が解決したら、また元の等級なり、あ るいはそれ以上の等級に仕事を変わって戻ればいいわけです。実際にそうした理由で、 一般者のほうは少しずつこうしたことが起こっています。育児だとか介護という理由の 人もいます。  管理職のほうはもっと厳しくて、部長をやらせてみたけれども駄目だったというよう なことが起こるわけです。管理職は導入してから6年になりますが、毎年300人ぐらい が上がって、150人ぐらいが下がっています。これは人事が決めたルールがあるわけで はなく、あくまでも職場での任用の結果であります。 ○ 賃金体系について  年収は月例の賃金と賞与に分かれています。いままでは、月例の基本給の他に属人的 な手当がありました。しかし、今は月例賃金は役割等級のみで決まります。G3だった ら、いくらからいくらまでという等級ごとの月例賃金レンジを持っています。そのレン ジの中で、毎年の評価によって昇給額が決まる。評価によっては昇給のない人もいます。 そして同じ等級価値の仕事をしている限りは、レンジの上限以上には昇給しません。  賞与は、以前は基本給掛ける月数ということで、この月数の交渉を毎年春闘でやって いました。あとは、それに人事評価分がプラスされていたのですが、それをやめて月数 によらず、等級別で決まっている基本額に、人事評価によって決まる個人業績部分、会 社の業績によって変わる会社業績部分と、この3つで賞与が決まります。  属人的な手当を廃止したときは、全部基本給の中に繰り入れました。当然基本給の中 に繰り入れますと、基本給掛ける何カ月という形でボーナスを出していると、その分ボ ーナスも増えてしまうわけです。先ほど言ったようにボーナスはテーブルを決めて絶対 額に変えましたので、すなわち基本給によらない形に変えましたので、全部繰り入れて も何の問題もなかったということです。  賞与の会社業績加算部分は会社全体の経常利益の金額で決まってきます。部門ごとの 業績ではありません。賞与全体の原資を、経常利益がいくらだったら原資いくら、とい う方程式を労使で決めています。 ○ 評価制度について  役割達成度と、行動評価の2つの軸で評価しております。行動評価というのは、「当事 者意識」や「進取の気性」、「役割認識」、「向上心」、「論理性」、「変革への対応」という 仕事をする個人としての評価のほかに、組織人としての行動、それにプラスして、我々 は社会人としての行動も人事評価の評価要素の中に加えています。言葉遣い、挨拶、服 装なども評価要素として入っています。  どのように評価をするかというと、まず年初に役割シートで役割を確認し、結果にも とづいて役割達成度を評価します。この中にはプロセスも含まれます。まず役割達成度 を5段階に分けて、それに先ほどの行動を3段階に分けて、マトリックス枠の15マス のどこかに、自分の部下の名前を全部入れていただきます。それにもとづいて評価組織 の上司が集まり、E1からB2までの評価ランクを相対評価で決めてもらいます。当然 この15のマスのうちの右上に名前の入った人から順番にE1になっていきます。それ で、E1に10人枠があるとしたら、右上に入った人から順番に、次は真ん中のいちば ん上と、いちばん右の上から2番目とどっちが良いか、というところで議論していただ いて、定員になるところまで順番にE1、E2、A1、A2というふうに埋めていって いただきます。  次に本人への評価のフィードバックを行っています。その際にはこの15のマスのう ちのどこに入っていると上司は考えているか、またその理由を説明します。特に、行動 評価に関しては、こういうところが足りないから、先ほどの社会人としてのマナーもそ うなのですけれども、そこを直してくださいというようなフィードバックをまずします。 その上で評価ランクのフィードバックも行います。  以前から、評価ランクはフィードバックしていたのですけれども、この評価ランクの AだとかBというのは相対評価ですから、本当はフィードバックしようがないというか、 上司にとってみると説明のしようがないのです。つまり、上位何人に入ったからAです よということしか言えなくて、なぜ上位何人に入ったかというのは、ここが成果主義の いちばんおかしなところだと思うのですが、みんなそれぞれが目標を立てますが、目標 を立てて、それをやったかやらないかで評価しますよと言っていて、みんながやったの に、どうして私はAで、あの人はEなのですかという話に絶対になるわけです。そのと きに、この人のほうが、同じやったでもこれだけ違うからということは、実際には説明 が付かないと考えているわけです。そうなると、何がそういうところで差が出るのかと いうと、プロセスや行動の部分で、ほかの人の分まで手伝ったかとか、組織にどれぐら い貢献したかというところで差を付けていたというのが実際のところだったと思うので す。  それが制度としてないがために、上司はいくら言おうと思っても、そういうことは言 えなかったのです。我々はいろいろな現場と話をしながら考えて、それでこの役割達成 度と行動という2軸を思いついて、それをフィードバックすれば初めて理由が付けられ ると考えたわけです。  趣旨の徹底、意識改革、行動変革のために、研修を毎年ずっと続けてきています。特 にMAP研修というものを2003年と2005年に実施しました。これは、被評価者教育と もいえるもので、それまでは管理職に対して評価者教育をやってきたのですが、逆に評 価を受ける側の教育。つまり、評価が悪いとかおかしいと文句ばかり言っていないで、 実際にどういうふうに評価を受けるべきなのかというか、上司が正しく自分のことを評 価できるように自分自身も何かアピールしたり、ちゃんと正しい行動をしているかどう かということを、評価される側のほうの研修をしているのが、このMAP教育というも のです。つまり公平公正な評価を上司・部下がお互いに作りあう事を目的としました。  ですから人数を見ていただくと、1万2,000人とか1万4,000人と、組合員全員を対 象としました、したがってそれぞれ年間400回と380回実施しました。400回と言うと、 毎日どこかで2クラスずつ開催している計算になると思います。要するにこの辺のとこ ろが、先ほども話しましたように制度を入れることは決して目的ではなくて、どこまで 徹底するかというところが重要で、そうなるように考えながら実施してきています。  また、目標管理制度ですけれども、管理職は目標管理を続けていますが、一般社員の 目標管理をこの制度の導入とともに2年前からやめました。これは先ほど言ったように、 目標として書いたことができたとしても、それだけで高い評価をもらうのはおかしいと いうこと、もっと重要なルーチンの仕事があるはずです。毎年、2つも3つも新しいこ とを考えて目標にして実行しようとすると、何年か経つと大概は無駄なことを、しかも お金をかけてやっているわけです。本当に必要なことというのは、そんなにいくつも新 しいことなんかあるわけないのです。目標管理制度は本来職場で仕事を管理するための マネージメントツールであって、評価制度になじむものではなく、それよりも職務記述 書と役割シートを徹底すれば達成度の評価はより公正にできると考えました。 ○ ワーク・ライフ・バランス等少子化施策について  次世代育成支援対策は、方針に添っていくつか実施してきていますけれども、そうし た対策のほかにこの役割給制度もワーク・ライフ・バランスに寄与すると考えています。 今までの職能資格制度というのはどちらかというと積上げ型、一度バスを降りたらもう 1回乗れないというか、もう出世コースから外れて定年まで浮かばれない、簡単に言う とそういう感じの部分もあったと思います。それに対して役割給はその時点その時点の 役割に基づいて賃金を決めますから、家庭の事情でいつ休んでも、あるいは一時軽い役 割に移っても、いつでもまた戻れるという意味で、この賃金制度そのものはワーク・ラ イフ・バランスに適応しているのではないか。そういうことも組合との機論の中で話し てきています。  あとは、次世代育成支援法に関しては数値目標を挙げたり、あるいは休業者の支援の プログラムやWebによる情報提供、休業中に能力を維持・育成するためのe-ラーニン グといった制度を導入してきています。  少子化対策については一企業でできることに限界はありますが、育児支援制度の拡充 とあわせて来年4月に向けて制度を検討中です。まず出生の支援に関しては、不妊治療 に対する補助を出そうとしています。健康保険が利かない部分に対して、100万円を限 度として50%の補助という形です。またその不妊治療のときの休暇や出生の支援になり ますが、母性の保護休暇ということで、妊娠が判明したときから産前までの間の休暇、 その間の短時間勤務の選択などを実施しようとしています。  また、育児の支援や第2子出生支援という観点で、育児休業期間を1歳半から3歳ま でにします。短時間勤務も小学校3年生まで延ばそう考えています。特にこの不妊治療 の補助というのは、おそらく今までどこの会社も実施していないと思います。 ○ 意見交換 Q キーポイントというか、この制度だと職務分析をきっちりして、職責と併せて役割 をはっきり示すということだと思いますが、それは年が経つにつれて変化していきま す。ですから、その変化の対応というか、それはどういうふうにされているのでしょ うか。 A 管理職層に関しては、年に2回大きな組織変更があるのですが、そのたびに変わっ た組織について、この職務評価を実施しています。これには人事に5人の専門部隊が いて、それが組織変更の度に職務評価を行っています。一般者の職務はまず職務記述 書の変更という形で出していただき、それを見て職務評価が必要かどうか判断して実 施しています。この申請は不定期ですが、他の仕事との兼務で2〜3人でチェックして います。  最初に導入した時に職務がいくつあったかというと8,100ありました。8,100の職 務を組織ごとに管理職に集まってもらい全部で134回の職務評価を行いすべての職務 の等級を決めました。今は8,700くらいに増えていると思います。  職務評価のやり方を最初に考えたときに、例えば複写機の開発センターとカメラの 開発センターとありますね。同じ開発だから、どっちかでやればいいかとも考えたわ けです。いろいろ会社の特徴もあると思いますが、複写機で実施して、それをそのま まカメラに当てはめると言ったらたぶん「自分たちは違う」という反論が出るとおも います。そこの調整や、あるいは変えるための労力、説得する労力を考えると、両方 で別々に実施してしまったほうがいいと考えました。従ってすべての組織のすべての 管理職が、この職務評価に係わったことになります。その結果、職務の数も多くなり ましたが、その代わりに自分が決めたことですから部下に対しても責任を持って等級 を通知できていると思います。そういう意味では、すべての組織で実施して正解であ ったと考えています。いまも変更する度に実施しなければならないのでかなり労力は 使います。管理職は組織変更のたびに200ポジションぐらいの職務評価を実施してい るのではないかと思います。 Q いろいろと評価要素に単なる成果だけではなく行動要素とか、社会人としていろい ろ加えられたり、広げた評価でされたり、あるいはそれぞれ一般従業員の方にもMA P研修という形で、この制度をよく理解してもらう形でやられている。個人の不満は かなり抑える努力というか、そういう仕組みにはなっていると思いますが、それでも こういう制度をやると、個々人に不満が生じることが必ず出てくると思います。それ は今までだったら、よくわかりませんけど従来の仕組みだったら、例えば組合に駆け 込むとかいろいろルートがあったと思います。その個々人の不満の持って行く先とか は何か考えているのですか。 A 1つは労働組合があります。もちろん労働組合は個人個人の不満を直接受け付ける ということはしませんが、人事の制度が正しく運用・機能しているかどうかをチェッ クしています。例えば先ほどの年初に行なう役割確認面接や役割シートを作成がしっ かり行われているか、年末の評価面接が実施されているか、その実施率調査や面接・ 評価に対する納得度調査を毎年行っています。面接の実施率はようやく98.9%までき ましたので、ほぼ100%といって良いと思います。また、評価の納得度は76%ぐらい まできていますので、少しずつ成果は出ているかと考えています。  もう1つは4年前に評価に対する不満も含めて、キャリア相談、メンタルヘルス、 セクハラ、パワハラへの対応などを行う組織としてヒューマン・リレーションズセン ターを新設しました。この組織にはキャリア・カウンセラーの資格を持っている者も 6人おります。  キャリア・カウンセリングの実績は昨年1年間で約200件でした。それを今年から 本社以外の事業所にも広げましたので、上期だけで200件になっています。 Q ここで職務記述書の範囲だけでなく、その上下をやってもらうと。ただ、基本的に こういうときには上の仕事の範囲の部分をやれば、その後の評価にもつながるから、 どちらかというと個々人からすれば上のほうはやりたがるでしょうが、下のほうはや っても、おそらくあまりいい事がないのではないかと思ったりするでしょうし、ただ、 それは誰かやらないと仕事が埋らないことも起こり得ます。そのあたりというのは、 いかがですか。 A たしかにそう考える人もいるかもしれませんが、下をやったこともちゃんと評価す ると言っています。これもまた言い方によっては難しいのですが、まずは自分の等級 の仕事があくまでも大部分を占めているはずですから、それがどれだけできているか を評価のメインに置きます。その上で加点的な要素として、上下の仕事を見ていきま す。もし、自分の等級部分では同じような成果で、下の仕事がきっちりできている人 と、上の仕事ができなかった人がいたとしたら、どちらの評価を良くするべきか総合 的に見て決めることになると思います。もう1つ、行動評価でもその点を補えると思 います。組織人としての行動では、チームワークや組織内での協力という点を強調し ていますので、下の仕事について手を抜くというのは実際にはないと思います。