企業経営とポジティブ・アクションを考えるシンポジウム 議事録 パネルディスカッション  テーマ「ポジティブ・アクションの取組を成功させるために」 日時 平成21年10月28日(水)13:30〜15:00 場所 女性と仕事の未来館ホール コーディネーター   女性と仕事の未来館館長 渥美 雅子 氏 パネリスト   株式会社資生堂代表取締役執行役員副社長 岩田 喜美枝 氏   株式会社鹿児島銀行人事部長 郡山 明久 氏   株式会社キュービタス取締役・女性の活躍推進協議会委員 横井 千香子 氏 ○司会 まず初めに、本日のコーディネーターとパネリストをご紹介いたします。 コーディネーターの渥美雅子様は、弁護士活動の中でも、家族、相続、ドメスティックバイオレ ンス等の問題を中心に活躍しておられますとともに、女性少年問題審議会会長代理、労働 政策審議会委員等を歴任され、現在は女性と仕事の未来館の館長としてもご活躍されています。 ○渥美氏 よろしくお願いいたします。 ○司会 次にパネリストの岩田喜美枝様は、株式会社資生堂代表取締役執行役員副社長で いらっしゃいます。岩田様は、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長として、行政の立場から 働く女性を支援してこられ、その後資生堂でも、仕事と育児の両立支援策や、人材育成策の 強化を進めておられます。また、現在、仕事意欲に燃える女性と企業を応援する民間 運動「ワーキング・ウーマン・パワーアップ会議」の代表幹事としてもご活躍されています。 ○岩田氏 どうぞ、よろしくお願いいたします。 ○司会 同じく、パネリストの横井千香子様は、株式会社キュービタス取締役でいらっしゃいます。 横井様は、企業が自主的にポジティブ・アクションに取り組むことを促す仕組みとして、 厚生労働省と経営者団体が連携して開催しております女性の活躍推進協議会の 委員としてもご活躍いただいております。 ○横井氏 横井です。どうぞ、よろしくお願いいたします。 ○司会 同じく、パネリストの郡山明久様は、株式会社鹿児島銀行人事部長でいらっしゃ います。株式会社鹿児島銀行は、先ほど表彰式がありましたとおり、今年度の「均等・両立 推進企業表彰」均等推進企業部門厚生労働大臣優良賞を受賞されています。 ○郡山氏 よろしくお願いいたします。 ○司会 本日は、ただいまご紹介させていただきましたコーディネーター、パネリストの 皆様から有意義なお話がいただけるものと存じます。それでは、渥美様どうぞよろしく お願いいたします。 ○渥美氏 コーディネーターを務めさせていただきます渥美です。よろしくお願いいたします。 本日のパネルディスカッションの進め方を申し上げます。いまから一社ずつ、ポジティブ・ アクションにどういうきっかけで、どういうふうに取り組んでいらっしゃるのか、どういう効果が 上がっているのかということをパワーポイントでご説明いただきます。それが、お一人10分 ずつぐらいです。  その後、ポジティブ・アクションを進めるに当たって工夫した点、また大変だった点、 そして成功したポイントなどについて5分ずつお話を頂戴いたします。その後には今後の 課題、今後の展望などについて5分ずつぐらいお話を頂戴いたします。できれば、その後 フロアーの皆様からのご質問をいただいて、それぞれお答えをしていただくということで、 最後に私がまとめて大体3時ということを予定しております。もしかしたら流れが押して しまった場合には、予定している15分のご質問時間が少なくなってしまうかもしれません。 そういうことでご了解いただきたいと思います。  そもそも本日のテーマである、ポジティブ・アクションとはどういうものかということを お話申し上げます。これは、既に均等法ができて20年以上経っているわけですけれども、 1回目の均等法の改正が1997年にありました。このときに、ポジティブ・アクションという ことが均等法の中に入ってきました。そのときには、私も審議会の委員として一緒に勉強 させてもらいました。  どういうことがポジティブ・アクションかというと、本日、皆様のお手元にお配りいた しました「Do!ポジティブ・アクション」という資料をご覧いただきながら話をお聞きください。 表紙の下の緑色の囲みに「ポジティブ・アクションとは」と書いてあります。個々の企業 において、固定的な男女の役割分担意識や、過去の経緯から、営業職に女性がいないとか、 課長以上の管理職に女性がいない、少ないという差がある場合には、単に男女差別しない というだけではなくて、こういう差を是正するような仕組みを作ってください、そういう活動を してくださいとここに書いてあります。そのことが、均等法の中に盛り込まれています。  そして、そういうことに努力してくださる会社に対しては、国が相談にも応じますし、 援助を行いますということが書かれています。本日、鹿児島銀行さんが受賞されましたが、 この援助を行いますということの1つです。援助を行うと言いましても、そう大した援助 を行うわけではありませんなどと言うと語弊があるかもしれませんが、ノーベル賞のよう に大金をバサッと出すということではありませんけれども、とにかくさまざまな援助を行います ということが書かれております。  そのポジティブ・アクションをやる順序とすれば、まず我が社はどういう状況にあるか 状況分析をしてください。それを是正するにはどうしたらいいか、その是正の計画を作成 してください。そして、この計画で定められている措置を実施してください。その実施を するための体制の整備をしてください。そして、実施状況をオープンにしてください、と いう5項目が均等法に書かれております。  この先進的な取組をしている企業は随分増えてまいりましたが、それでもまだまだです。 例えば、募集・採用という時点で見てみますと、技術系の四大卒の新卒の採用については、 結果的に女性の採用はなし、男性のみという会社が半分ぐらい見られます。それから配置 でもそうです。営業職では、男性のみの職場があるとする企業が4割はあります。そんな こんながありまして、勤続年数も、男性の平均、女性の平均を比べてみますと、まだ4〜5 年の差があります。  「Do!ポジティブ・アクション」の4頁の上のほうに、女性管理職の比率はどうなってい るかが出ています。男性を100とした場合の比率ですが、課長、部長というふうにポスト が上がっていくとどんどん女性管理職の占めている割合が少なくなっていきます。大体 10%からどんどん下がっていって2%になっていってしまいます。このパーセンテージを、 次の下のグラフで諸外国と比べてみますと、我が国の女性管理職比率は大変低いです。ア メリカ、ドイツ、カナダ、イギリス、スウェーデン、オランダ、日本、韓国とありますが、 42.6%というアメリカなどと比べると、本当に情けなくなるぐらい低いです。  その下の日本の国際的評価、ジェンダー・エンパワーメント指数というのは、女性が 社会でどれだけ活躍しているかというのをマクロで見た場合のランク付けです。日本は 108カ国中58位になってしまいます。世界的に見た場合に、女性の活躍がまだまだ少ない、 まだまだ足りない、女性の地位が低いという現状があります。  最近、私は弁護士の仕事をしていて思うのですけれども、離婚するご夫婦に年金分割と いう制度ができました。普通は夫の年金の報酬比例部分を半分妻に分けてあげなさいとい う制度です。社会保険事務所で、年金分割に関する情報通知書を出してくれます。それで 見ると、夫の年金の対象額が、普通2億4,000万円から2億7,000万円ぐらいです。妻は というと、4,000〜5,000万円がいいところです。ずっと専業主婦をしているとゼロです。 この違いを見て愕然としました。これが老後の格差です。若いときの格差が、老後はもっ と格差が開いて、年金として現れてきます。女性は一生不利な状況に置かれてしまうのだ というのを日々痛感しています。  そこで、本日は是非そのポジティブ・アクションに取り組むにはどうしたらいいかということを、 皆様とご一緒に考えてまいりたいと思います。それでは、トップバッターとして、 資生堂の岩田喜美枝さんにお願いいたします。 ○岩田氏 資生堂の岩田です。本日はお招きいただきましてありがとうございます。まず、 ポジティブ・アクションをどのように考えているかということについて、お話をさせてい ただきます。女性の活躍のレベルは3つあると考えています。当社も、かつては子どもが できたら、女性は退職するのが当たり前という時代が長くありました。この時に、優秀な 女性社員を退職させてしまい、本当に惜しいことをしたと思っています。  1990年頃から、育児休業をはじめとして、子どもが小さい時期に、仕事と子育てが両立 できるようさまざまな手立てを講じてまいりました。不遜な言い方かもしれませんが、 考えつくものはすべてやってきたというぐらい努力をしてまいりました。お蔭さまでその結果、 結婚や出産や育児を理由として、女性が辞めることはまずなくなりました。  しかし、私はこれで満足しているわけではありません。次に目指したいと思っているの は第3段階です。これは、女性にとっては、子育てをしながらも、仕事がかろうじて続く という段階ではなく、しっかりキャリアアップができるという段階です。また男性から見ると、 男性も当たり前のこととして、育児に関わることができる、こういう段階を目指したい と思っています。  第2段階から第3段階に上がるためのハードルはとても高いと思うのですが、そのため にやらなければいけないことが大きく2つあります。1つは、子育て中の女性社員に限らず、 すべての男女の社員が、ワーク・ライフ・バランスを実現できるように、働き方の見直しを するということです。長時間労働、毎日遅くまで働くのが当たり前とか、辞令一本で どこへでも転勤するのが当たり前という働き方は、専業主婦の妻が支えてくれるからで きる働き方であって、通常の女性にはできません。特に子どもがいるとできないと思って います。ですから、このような男性型の働き方のスタンダードを根元から見直すということが、 ワーク・ライフ・バランス実現のための働き方の見直しだと思います。  そして、第2段階から第3段階に進むためにやらなければいけないもう1つのことは、 女性を育成・登用するための取組みだと思っています。第1段階、第2段階、第3段階を 通じて必要とされているのは、例えば管理職の意識改革ですとか、女性自身の意識の改革 を含めた社内の風土改革だと思います。当社は第3段階まで行くために、ここにあるような 課題を4つ掲げています。その4つの課題すべてを、広い意味でポジティブ・アクションと 言ってもいいかもしれません。本日は時間の関係もありますので、この第1ラウンドでは、 この中の女性の育成・登用について、当社の事例も交えて少しお話してみたいと思います。  まず、女性の育成・登用についての目標の決め方です。どういう状態になれば、女性の 育成・登用ができたと考えるのか。どういう状態の会社になることを目指すのかということ について、それをできる限り具体的に描くことが必要だと思います。女性の育成・登用 ができた段階というのは、管理職の数や比率が増えることだけではありませんが、私たち の会社は、女性管理職がどのぐらい増えるか、そしてそこへ向かってどのぐらい進捗して いるかということを測るバロメーターになると考えています。  ご覧いただいているのは、資生堂グループの、国内の事業所でのリーダーに占める女性 の割合です。社内でリーダーと言っておりますのは、ラインの、部下のいる管理職のことです。 2000年当時は5%ぐらいだった女性比率が、最近では19%、2割近くにまで上がって まいりました。これは、国内企業としては高い数字ではないかと思っています。  しかし、グローバルに見たらどうでしょう。当社は、全世界に事業所がありますが、海外の 事業所に限ってリーダーに占める女性比率を見ますと53%が女性です。女性のほうが 多いのです。これは、化粧品メーカーで、化粧品をつくって販売するという業界特性から も来ていると思います。私たちのそうした業界特性を踏まえて、そしてグローバルなスタ ンダードで考えたときに、この19%というのはまだまだ低い数字であると考えています。  これは政府の目標です。日本の政府は2020年までに、あらゆる分野で、指導的な地位に ある者の女性比率を30%以上にするということを掲げています。30%に辿り着くまでに、 特別な取組みが必要であると当社も考えました。30%以上になるには何をすればいいか、 そしてどのぐらい時間がかかるかということを検討いたしました。社内を見ますと、均等 法施行の前に入社した社員と、後に入社した社員では、育成のされ方が違っています。 均等法施行の後に入社した人といっても、もう先頭バッターは40代半ばになっていますが、 40代前半、30代、20代には非常に優秀な女性が大量にいます。ですから、放っておいて も女性のリーダーが増えるのは間違いないのです。やろうとしているのは、それを企業戦略 として、いかにスピードアップするかということです。いろいろ推計をして、一生懸命努力 すれば、2013年までには30%に持っていけるのではないかという目標をつくり、社内外に 公表しています。  数値目標は2種類あります。1つは、割当制、またはクオーターと言ったりしますが、 その数字の結果にコミットするという目標の立て方です。もし間に合わなければ、女性を 優遇してでも、約束をした人数や比率を達成するということにコミットしてやるやり方が クオーター、割当目標と言われるものです。この目標の作り方は、時間をかけずに思いき ってスピーディな変革をする、そのことを社内外に印象付けるという手法を採るときに 適していると思います。  当社の場合は、そういうクオーターではなく、2種類目の努力目標です。当社は比較的 女性の活躍支援の取組の歴史が長いということ、それから社内の意識として、女性を優遇 することは、男性自身が男性に対する差別だということで許容しませんし、女性自身も優遇 してほしくないということを非常に強く言っているためです。ですから、女性の優遇はしないと いうスタンスに立ち、一般的な対策を講じることにより、多少時間はかかるかもしれないけれど、 着実に女性の管理職を増やしていこう、その結果、30%になるのは2013年までかかる だろうという努力目標を掲げております。  この目標を達成するために、何をすべきか。ポジティブ・アクションには、形の上で2通りあり、 女性だけを対象とするものと、男女双方を対象とするものがあります。女性の活躍を 推進するための取組みが遅い企業が早く結果を出したいと思うときに、1番目の、 女性だけを対象とした対策を講じることがあります。例えば、女性だけのチームをつくって、 そこで商品開発をやらせるといったような取組みです。当社の場合は、比較的歴史が 長いと申し上げましたが、かつては管理職に登用する対象となる層、管理職直前の層の中 から、女性だけを選んで研修をした時代もありました。今日では、女性だけの対策は講じない、 男女双方を対象とする対策を進めることにしています。  ご覧いただいているのは、当社の男女共同参画推進のための行動計画です。女性の育成・ 登用に関係する部分はピンク色の部分です。2番に書いてあるのが、いまご説明いたしました、 女性リーダー育成・登用のための目標値をつくるというもので、ここだけは女性特有の アクションです。それを実現するために、3番から7番を今掲げて取組んでいます。 この3番から7番は、すべて男女双方を対象としたものです。私たちがやろうとしていることは、 男性、女性ということに関係なく、すべての社員一人ひとりに着目して、日ごろの仕事の 与え方、OJTをどうするか、研修をどうするか、育成型の異動ローテーションをどうするか、 そういう人材育成をいかに充実させ、スピードアップするかということです。  その結果人材育成が早まれば、中堅の層から若い層に行けば行くほど優秀な女性が たくさんおりますので、人材育成を急げば急ぐほど、女性のリーダーの登用に結び付くと考え ております。処遇も、年功的な制度からはとうに脱却しておりますが、ややもすると年功 的になりがちな運用についても、思いきって実力に応じて若手を抜擢すれば、結果として 女性の管理職登用を早めることができると思っております。  そろそろ時間になりますが、いま3つのことをお話しました。1つ目は、女性の活躍を 推進するための課題の全体像と、その中でのポジティブ・アクションの位置づけを見てい ただき、当社の場合は第3の段階で、男女共に子育てをしながらキャリアアップができる 段階に進むためとしてポジティブ・アクションを位置づけ、講じています。2つ目は、女性の 育成・登用のための数値目標には2つの種類があるということ、そして当社の場合は、 努力目標を掲げているということ。3つ目は、ポジティブ・アクションには女性だけを対象と した取組みと、男女双方を対象とする取組みがあり、当社の場合には、男女双方を対象と した取組みだけでいまやっているということ。以上3つについてご説明いたしました。 ○渥美氏 ありがとうございました。「一瞬も一生も美しく」と言われると、さすが資生堂さん だなという感じです。次に、キュービタスの横井さんお願いいたします。 ○横井氏 キュービタスの横井です。キュービタスといいましても、皆様にはお馴染みが ないと思いますので、簡単に当社のことをご説明いたします。キュービタスは、2007年10月1日に、 UCカードと、クレディセゾンのオペレーション部門を統合し、みずほ銀行の出資を得て設立された、 総合プロセシング会社です。クレディセゾンの連結子会社ですので、当社の人事制度等は、 ほぼクレディセゾンのプラットホームを利用しています。新しい会社で3年目を迎えるのです けれども、これまでのクレディセゾンの中で培ってきた、文化やDNA、そして人事制度が キュービタスに受け継がれています。その継続の中で少しお話をさせていただきます。  当社が、ポジティブ・アクションに取り組んだ特別なきっかけはありません。私どもは 金融業なのですが、業務の内容としてはカード発行の申込み・受付・審査などのオペレー ション業務や、お客様の対応をするコールセンターの業務等を受託している会社ですので、 自ずと女性が集まってきたということがあります。この業務に応募してくれた方は、特に 時間給のパートタイマーとか、主婦層といった女性の応募者が多く、そうした方々に活躍 していただくという位置づけの中で、ポジティブ・アクションの内容は、その言葉ではなくて 行ってきたという経過が「ポジティブ・アクション」と言えると思っています。  労務構造を見ますと、当社は男女の構成比が23.2:76.8となっていますが、628名が男性で、 2,078名が女性です。女性が多いという点については、右の雇用形態別構成比を見ますと、 22.0%という595名のところが無期雇用社員といいまして、世に言う正社員です。 次の契約型社員が23.4%で632名です。この中には、1年契約型の月給制の社員と、時給 制で働いているパート型契約社員があり、トータルとして632名おります。そして54.6% に当たる1,479名が派遣社員です。派遣社員は女性が多く、派遣社員の占める割合が高い ことで、全体の男女構成比で女性が高くなっております。  契約型社員の存在は、私たちの業務の事務系であり、内勤であるといった業務の特性も あり、応募者も辞めないでしっかりやってくれて、スキルを積んでいきます。そのように して採用された多くの女性を活用していく、また役職者登用に結び付けていけるような仕組みを、 1980年代に人事部で作っております。正社員の人事制度と同時に、契約社員型の 人事制度を20数年前に作っておりました。ですから、一口にパートタイマーと言いますけれども、 準正社員並みの働きをしていましたので、人事制度で評価システムをすべて作成いたしました。 そうした評価システムを作ったことが、パートタイマーで入ってきて契約型であっても評価される、 そして自分のスキルとか能力に応じてランクアップできるといった仕組み作りが、 既に24年前に、私がパートタイマーで入った時点でありました。  そういうことが、パートタイマーの方をやる気にさせ、準社員並みではありますけれど も任され、責任を持ってマネジメントするといった要素がしっかりと出来上がりました。 それは20数年前の、男女雇用均等法の前にできていたということは、キュービタスの前身 会社であるクレディセゾンのトップの先見性とか、21世紀に女性が活躍するにはどうするか、 ということをしっかりと評価システムに入れて、人事制度に落としたことが大きかったかと思います。  そのお蔭で、女性管理職比率を見ますと、スライドには入れていませんが5人の役員が いて、そのうちの1人が私ですから、5分の1で20%になります。部長は28名中4名が女性 ですから14.3%、課長職は63名中10名ですから15.9%、係長職は51名中30名ですから 58.8%です。リーダー職は68名中、女性が65名になっていますが、このリーダー職そのものが、 正社員の係長相当職で、事務のリーダーだったり、スーパーバイザーという形で コールセンターを仕切っています。このように、全国平均は平成18年度で係長以上が 6.5%ということから見ますと、全国平均より、当社のほうが全体を合わせても、係長以上が 51.9%ですのでかなり高い比率になっています。  この取り組んだ内容というのは、特にどうしようということではなくて、女性の就労ニーズが 多かったことと、業務の特性が、事務とか内勤にあったということで、女性が働き やすかったことかと思います。そこに加えて、経営陣からの評価制度をしっかり作るとい うことで、評価システムが出来上がって、能力評価システムで、リーダー職の登用を推進 してきたのです。すべて等級があり、試験等もいろいろありますので、感覚的な採用では なくて、年3回の評価があります。年1回の昇給・昇格と、夏と冬のボーナスといった形で 3度行われていますので、評価されたパートタイマーの方がリーダー職に登用されます。 自分の力を発揮できるということが自覚でき、自分の意識も高まり、刺激を受け、自分で 手を挙げ、または推薦され、そして試験を受けたり、勉強をするといった形で登用されて いき、結構安定した業務が回っているということになっています。  中でも女性が多かったことで、女性の活躍できる制度、とりわけ育児支援を推進したの です。女性が多い中で、主婦も多くその中には年代の高い方もおりますが、若い方も来て おりますので、育児支援に力を入れました。育児支援の導入は1992年に3歳までにしてい ましたが、法律上は1歳まででした。育児の短時間勤務は1997年に導入したのですが、法 律上は1歳までですが、当社では小学校入学時までにいたしました。現在では小学校4年 生の4月15日まで、学童保育が3年生までということなので長くしております。育児を支援し、 女性が結婚しても、結婚していなくても、また子どもが生まれても、生まれていなくても、 女性の母性的な形をしっかり見詰めて、働き方の多様性の中で、働き方を選択し ながら認め合って活躍してもらう。そのために、法律を上回るような制度を作りました。  さらに、再雇用制度と雇用区分変更制度があります。再雇用というのは、また戻ります という申請をしておきますと、3年以内であれば同じ部署に戻れます。パートタイム社員 から正社員へ、また正社員からパートタイム社員へという雇用の区分変更ができます。 これは、女性にとっては大変仕事に取り組みやすいということで、皆さんからの評価を得て います。そのことで、女性が働きやすいということで、評判が評判を呼んで、女性の応募 者が大変多いのです。  育児休業制を採っていますけれども、いま現在29名おります。対象女性社員は1,161名 おりますが、年代の高い方もおりますので多少は少ないですけれども、それでも若い方は かなり有効に活用しております。育児時間の短時間制度は、現在45名が使っておりますが、 皆さんにとてもよかったと思われております。  こういうことで、私たちは女性の環境の変化に対応した制度をしっかりと作っています。 このように、特別なきっかけがあってポジティブ・アクションということではなく、ポジティブ・ アクションという名前を出してはいないのですけれども、女性からのニーズにお応えできる 制度の導入がポジティブ・アクションといえます。また会社には多様な働き方、 いろいろな時間帯での雇用体系がたくさんあります。そうした中で、企業と個の関係性と いいますか、働き方の多様性を必要と感じ、それらに対応した人事制度を制定いたしました。  いちばん大きいのは、それに加えて労働組合が人事と一緒に制度を後押しをし、そうし た女性のニーズをヒアリングしながら、常に経営陣に、女性がいま求めているのはこうい う状況ですよ、このほうが働きやすいですよ、といった形で常に上のほうへ持っていって 働きかけてくれています。そうしたことで、女性が安心して働ける環境づくりをバックアップ してきたものですから、クレディセゾンには女性の役職者がしっかり働ける環境がある ということです。  キュービタスは、そうしたクレディセゾンの文化やDNAを一緒に引き継いで継承してい ますので、結婚していてもしていなくても、子どもがいてもいなくても、自分らしい働き 方を選択しながら働いて、元気で、そして役職も手を挙げればその意思を何らかの形で 登用しながら、女性が意識的にやれるような仕組み作りはもう一歩ですけれども、そういう ことで本当に女性が活躍できる形でいまやっています。そういうことで働き方の多様性を 認め、経営トップが、また組合、人事が一緒になって女性を支援してきました。私どもが いま言っていますのは、当社のポジティブ・アクションということでは出してこなかった のですが、先ほどの理由で、スライドのように『結果 ポジティブ・アクション』と呼んで、 「ポジティブ・アクション」を推進してきたと言えると思います。今後も益々スキルアップ といいますか、もうちょっと高度な仕組み作りにも向けていきたいと思っています。 ○渥美氏 横井さんご自身、専業主婦からパートで入社し、そしていまは役員になられた ということですが、いまは入社何年目になりますか。 ○横井氏 24年目です。24年前に、4時間のパートタイムで入ったのですが、その4時間 という時間が主婦にとってはとてもよかったです。9時から13時まででした。子供が大学 に入るまでそういう感じでマネジメントしてきました。ワーク・ライフ・バランスという ことがありますけれども、残業しないで、その時間内で1日の仕事をどうやってやるかと いうマネジメントの方法とか、数値の取り方とか、パートであっても、正社員と区別せず に学ぶ機会や上司が部下をきちんと指導するという仕組みがあったので、ここに至っております。 ○渥美氏 郡山さんお待たせいたしました。先ほどここの会場で表彰式があり、受賞され ました鹿児島銀行人事部長の郡山さんからお話をいただきます。 ○郡山氏 鹿児島銀行の郡山です。正直言いますと、先ほど表彰もいただきまして、この 場に座っておりますけれども、我が行のポジティブ・アクションはまだ緒に就いたばかり で、ここでお話するのは違和感がありますし、九州の本当にティピカルな地方銀行がここ でお話をして、何かお役に立つのかなという思いはありますけれども、背伸びをせずに、 やっていることを本日はご報告したいと思います。  鹿児島というと皆さんは何を思い浮かべられますでしょうか。桜島とか、西郷さんとか あるのですけれども、私ども九州人が北関東3県の位置をよくわからないのと一緒で、 九州のどこに鹿児島があるのだろうと思っている方もおられるかもしれません。九州の最南 端です。鹿児島という所は以前は非常に保守的な土地柄と言われていました。ご年配の方 は過去に聞いたことがあるかもしれませんが、何事も男性が先、女性が後。洗濯を干す物 干しも男性用と女性用があります。それからお風呂も、男性が使ってから必ず女性が使う。 本家に集まりますと、男衆は表の間でお膳でご飯を食べています。最近はそういうことは ないのですけれども、つい50年ぐらい前までは、そんなところが少し残っていたような所です。  そういう所でなぜポジティブ・アクションかという話を少しさせていただきます。昨年は、 NHKの大河ドラマで「篤姫」というのが1年間ありましたので、観光についてはプラス 効果がありました。篤姫のような、凜として、どちらかというと少し鼻っ柱が強いような 女性、そういうところは、良い意味の伝統として少し残っているのではないかと思っています。  弊社の概要ですが、明治12年の創業ですので、今年の10月に130周年を迎えました。 随分永いことやっています。地方銀行というのは、全国に64行ありまして、預金量でいう と弊社はちょうど半分ぐらいのところです。そういう意味でも、普通の地方銀行です。総 労働者数は3,950名です。これはパートも含めてですけれども、その中の6割が女性です。 正社員ベースに直しますと4割が女性ということで、まさに女性で成り立っていると言っ ても過言ではない、女性の力を使わなければやっていけない企業ということです。  当社の売りといいますと、外部の格付会社の格付が意外と高くて、それはこれまで堅実 に健全性を第一にやってきたということです。そういうものをバックボーンに、そういう 保守的な部分と、先見的に未来を見ていく部分、そういうものを併せてやっていこうとい うのが当社の考え方です。  ポジティブ・アクションについては、1960年ごろから四大卒の女性の採用を徐々に増加 させてきました。平成7年に採用の選考基準を男女同一にしました。この辺は、均等法と か、改正均等法を若干なりとも先取りする形で前倒しでやっていこう、努力義務にはすぐ に取りかかろうという形で進めてきました。いまのように活発化いたしましたのは、いまの 頭取が、平成18年に女性の活用推進を内外に向けて明言していますので、その辺かなと 思っております。男女均等の長期雇用に向けて、行内の環境整備を進めるとともに、地場 経済を支える地銀として、同様の動きを県内全体にも波及させる。後段はちょっと大きく 出ていますけれども、地域ですとそこの地方銀行がリーダーシップを取るという部分がど うしてもあります。地域にも同様の動きを波及させるために、先頭を切ってやっていこう ということをここで明言したということです。  その背景ということなのですが、一つ目は地方銀行全体の問題でもありますけれども、 業界を取り巻く環境の変化だと思います。随分遡りますけれども、戦後の復興期には国内 産業の育成のために、産業金融という形で、そのころは護送船団方式と言われましたけれ ども、銀行の働きは家計部門から預金を集めて、その預金を事業先、法人先に融資として 金融の仲介をし、その利鞘で銀行は収益を上げていました。  規制金利の時代は、そういうことをきちんとやっていればよかったのです。男性は営業 のスキルを身に付け、あるいは貸出をするための審査ノウハウを身に付けて収益を稼ぐ。 一方で、女性はそこできちんとした事務を、堅確な事務をする。ですから、あまり高いス キルは求めないのだけれども、とにかくきちんと事務をしてください。勤続年数は短くて も構いません、あるいはどんどん新陳代謝があっても構いません。そういうことで、非常 にシンプルな棲み分けができていました。  それが、金融の自由化という流れが起こって、そういうビジネスモデルが壊れてしまい ました。個人金融を含む総合金融サービスの世界に入ってきて、そこで女性もセールスを しなければいけなくなりました。逆に言うと、男性も法人向けのセールスのスキルを上げ て、いろいろな提案型のセールスをやらなければいけなくなったので、個人の部分を中心 に、どうしても営業の一部を女性に担ってもらわないといけないようになりました。そう いう環境の流れがあります。  そうなったときに、新たにセールスマインドを持ってもらって、セールススキルを付け て育成をしてということになると、それに非常に時間がかかることに気づいたのです。 そこまで行くのに時間がかかるのであれば、それは先行して取り組んだほうが先行メリット を享受できる。そういうことでもポジティブ・アクションに取り組んだということがあります。  2つ目は、地方銀行対メガバンクとか、全国銀行に比べての地方銀行の特性なのですが、 どうしても営業地域が限定されていますので、メガバンクの営業スタイルを、あえて狩猟 型と言うならば、地方銀行の営業スタイルは農耕型ということになります。限られた マーケットを深く耕していくということです。そうすると、そこにリレーションシップを大事 にするマーケティングであるとか、お客様とのつながりを大事にするリテンションのマー ケティングが必要になってきます。  もともと私どものお客様の半数は女性ですし、個人の分野で営業をやろうとすると、 むしろ家計を管理しているのは女性のほうが多いわけですから、そういうリレーションシッ プバンキングとか、リテンションバンキングをやるとなると、はるかに女性のほうが能力 を発揮するということもありました。こういうことを背景に、ポジティブ・アクションに は取り組まないといけない。ある意味必然性があって取り組んだということだと思います。  実際にどういうことをやってきたかということです。新しいところでは、昨年4月に、 新人事制度をスタートさせています。総合職、専門職、専門職というのはマーケット部門 であったり、システム部門なのですけれども、それと特定総合職というコースを新しく作 りました。この辺は一般の会社ですと、一般職という言い方をしたり、エリア営業職とい う言い方をしたりするのかもしれませんが、そこが少し混ざったような形の制度です。 従来は、一般職は事務職的な要素が大きかったわけですけれども、特定総合職という形で、 基本的には転居は伴わないのだけれども、そこで将来は支店長を目指してくださいという コースを作りました。営業もしてもらう代わりに、やる気があれば支店長まで登用します という制度です。  特定総合職というのは、基本的には転居を伴わない、勤務地を限定した制度ですが、 例えば、結婚してご主人が異動になりますといった場合には、その勤務地を変更してもいい ですという制度も一緒に作りました。始めたばかりですけれども、既に9名の方が実績と してこれを使っています。また、この3つのコースについては、それぞれコース転換でき る制度も作りました。  それから、女性役席者の増加ということです。役席者という言い方は、もしかすると業 界用語なのかもしれません。一般の会社でいうと係長みたいなものだと思っていただけれ ばいいと思います。総体の役席者に占める割合を20%にしようということでいま数値目標 を掲げてやっています。当初は、せいぜい7〜8人とか10人だったのですけれども、平成 19年1月には99名になりました。平成21年1月時点では146名で、現時点では150名を 超えていると思いますけれども、比率でいうと、12〜13%まで増えてきています。これを 20%にしようという取組をスタートさせました。  それから、マネーアドバイザーを認定する制度です。これは先ほどお話をしたのですけ れども、地方銀行も投資信託とか、いろいろな金融商品を売らなければいけないというこ とになり、個人の資産運用部門の営業の専担者を制定いたしました。これは、自己啓発を 行ってもらうための手当てを付けたり、いろいろな休日セミナー、勉強会を準備したりし て、会社からの後押しと一緒に、個人の自己啓発を援助することで、この制度を定着させ ようということです。いまは160名ぐらいになりましたけれども、これは必ずしも女性だ けとは限らないのですが、現実としては大半が女性で運用している制度です。最近はだい ぶスキルが上がってきたのかなと考えておりまして、この効果がいまから楽しみなところです。  それから、業務チーフの認定制度です。これは、この前のところでお話をいたしました、 役席者、係長クラスになる手前の層です。これは一般の社員と言えば一般の社員なのです けれども、その中で一定のスキルがある人たちに、一部の権限を移譲しまして、例えば異 例な取扱いであるとか、一時的に処理された書類の承認の権限を与えて、次のステップへ 上がるための助走期間を作った制度です。これは、それぞれの支店の支店長の推薦で、そ ういうチーフに任命できるという制度ですので、それぞれの支店でうまく運用してくださ いということでやっています。  これについては、事務の部門での役席者が足りない所の一部補充的なこともやっていま すけれども、本人がステップアップしていくためには非常に有用な制度かと思っています。  ここからは、両立を支援するための制度の拡充です。どこの会社もやっていることだと は思いますけれども、例えば育児休業制度についても、法律で求められているものよりは 若干頑張ってやってみようというスタンスです。この中に、男性の育児休業の取得率を上 げようということで、100%を目指しますなどと書いてあります。男性の育児休業を100% と言っているのですけれども、これは少し考え方が違うところがあります。奥さんが子ど もを産んで、子どもが生まれたら、2日でも3日でも4日でもいいから、とにかく必ず休 めと言っています。そういうことが当たり前の風景になるようにするために少し無理をし て、本来の育児のために長く休むという休暇とは違うかもしれませんけれども、この制度 を必ず使ってくれということを、例えば人事部から上司のほうにお願いする。あるいは本 人にはおめでとうメールを流すということをやって、とにかく100%取ってくれと言って います。いまのところは100日運動みたいな感じですけれども、100%を切らないように必 ず休んでもらっています。  それから、育児のための勤務時間の短縮制度、子の看護休暇、エンゼル休暇、配偶者の 出産の休暇というものも、今般の育休法の改正がありますけれども、これは現行の制度で すけれども、そういう改正がある際には、できるだけちょっと先を行けるようにまた努力 をしてみようかと思っております。  取組の効果としては、冒頭に申し上げましたとおり、まだスタートしたばかりなのです けれども、マネーアドバイザーという制度、こういうもので銀行の収益への貢献とか、あ るいは事務部門の女性のモチベーションのアップといったものは出てきているのかと思い ます。当行では、定期的に従業員満足度調査をやっております。従業員のモチベーション、 年代別ですとか、男女別ですとか、管理職・非管理職別に調査をしています。そういうも のを取り出してみたところ、7年前の調査時点と今年を比較してみると、事務に携わって いる女性のモチベーションは上がりましたという効果も出ております。そういうものを見ながら、 今後も施策を打っていきたいと考えております。  それから、わずかずつではあるのですけれども、やっとロールモデルになる女性もなん とかつくれてきているのかなと。係長層の150人ぐらいの女性の中から、もっともっと、 どんどん管理職の登用ができていければと思っています。 ○渥美氏 女性の家計を預かる感覚を活かして、狩猟型の金融ビジネスから、農耕型の金 融ビジネスに転換していこうというお話を伺っていて、私は一昨年ノーベル平和賞を受賞 した、アメリカのグラミン銀行の例を思い出しました。グラミン銀行の頭取はユヌスさん という方ですが、銀行とユヌスさん個人が、どちらもノーベル平和賞を受賞されました。 そのやり方というのは、バングラデシュの貧しい女性たちに1ドルずつ貸し出したのです。 貸し付けを受けたほうはどうするかというと、その1ドルで糸を買って民芸品を作って消 費者に売り出して、それでバングラデシュの女性達の自立につなげていったということで ノーベル平和賞を受賞されたようですが、ちょっと似ているのかなと。まさに掘り起こし、 耕していく農耕型ですよね。こういう視点がこれからの金融ビジネスには必要になってく るのかという気がしてきました。  やはり時間が押してきました。打合せとはちょっと違いますが、ポジティブ・アクション で大変だったところ、工夫したところ、成功したところをお話いただくことと同時に、 今後の展望についても一緒にお話をしていただきます。また岩田さんからお願いいたします。 ○岩田氏 工夫した点というのか、王道はないと思うのです。ですから、取組んでいるこ とも、非常にオーソドックスなことばかりです。もし、これまで成功していると評価して いただけるとすると、良かったことは3つあると思います。1つは、特別な体制をつくって いるということです。女性の活躍を進めるというテーマに限りませんが、全社的な変革、 改革を進めるときには特別な推進体制をつくる必要があります。PDCをしっかり回す、 プランニングをする、それが進捗するのをウォッチし、定期的に評価をして、また次の行動 計画をつくるその責任の部署を、なるべく経営のトップに近い所につくることが大事だと 思います。  多くの会社で、男女共同参画室や、女性活躍支援室をつくられていますが、当社の場合 は委員会方式でやっています。取締役会という、会社の中でいちばん高い物事を議決する 組織の直轄委員会として、CSR委員会を設置しています。私がCSR委員会の委員長をして いるのですが、そこで男女共同参画、女性活躍支援の問題も扱っています。ここで行動計 画をつくり、進捗状況をフォローアップしています。  単に、人事部に人事施策として任せるのではなく、部門横断的な課題をトップに近い所 でやるということはもちろんなのですが、それと同時に、できれば先進的な取組み、そして 資生堂らしい取組みをすることにより、社外のステークホルダーの方に評価をしていた だき、それが企業価値の向上の一助になるという活動をしたいという思いも込めて、CSR 委員会という組織で運営しています。  全社的な変革、改革を進めるときに必要なことの2つ目は、行動計画をつくるというこ とです。先ほど、いまの項目を見ていただきましたが、2000年にジェンダーフリー活動の 計画をつくり実施しました。これが、当社の第1フェーズです。2005年度から第2フェーズに 入っていて、第1次行動計画アクション20という来年度以降の行動計画をどうするか、 いま社内で検討中です。両立支援策はずっと続けていきますが、管理職女性比率30%が 手に届けば、女性の管理職を増やすための特別な行動計画は、次で終わりにしたいと思って います。  このように、計画をつくるというのは、先ほど数値目標のお話をいたしましたが、何を 目指すのか、そこに向かって何をやるのかということを体系的に決めていなければ、どれ だけ努力ができたのか、どれだけ効果があったのかということについて評価のしようがあ りません。やっただけ、またはやれただけということになりかねませんので、できる限り 具体的な目標と、それに向かって、何をいつまでにやるかという行動計画をつくるという のは他のテーマについても同じだと思います。  3つ目は、先ほどの鹿児島銀行様のお話にもありましたけれども、やはりトップのコミ ットメントと発信です。私だけがいくら社内で言っても、「また岩田さんが言っている」と いうことになってしまいますが、社長がそれをしっかり言ってくれることがとても大事です。 例えば、1年に1回、翌年度の経営方針を社内で発表する大きな会議があります。毎年 ではないのですが、そのときどきに女性の活躍を支援することの必要性、それに取組む ために何をやるかという決意を、グローバルな責任者が海外の事業所からも集まってくる 会議の場で社長が自ら語ることがあります。また、社内LANに社長のホームページがあり、 そこでも折々女性の活躍の問題について触れたり、お蔭さまでマスコミから取材をいただ くこともあります。私は広報も担当しておりますが、そういう取材はできるだけ社長に対応 してもらうようにしていて、外に発信するだけではなく、ブーメランになってまた社内 に戻ってきて、社員のモチベーションが上がることに繋がっています。ですから、体制づ くりと、行動計画と、トップのコミットメント、これは本当にオーソドックスなやり方な のですが、これらをやっていることがよかったかと思います。  今後の展望について。先ほどは時間の都合でお話できませんでしたが、お見せした3つ の段階の第3段階に進むためには、ワーク・ライフ・バランスの実現があります。これは 私自身の体験からも来ているのですが、女性が長く働き続けて、キャリアアップをすると いうことの最大の障害は、長時間労働と転勤問題です。この2つをどうしたらいいかとい うことで、長時間労働について、本社では部門長、本社以外では事業所の責任者が、 「魅力ある人づくり・職場づくり」行動計画というものをすべての事業所単位、部門単位に つくり、社長に提出してもらっています。  この中に、働き方の見直しの目標と、具体的なアクションを盛り込んでいます。リーダー、 ラインの管理職の業績評価の10%を、働き方の見直しに当てています。このように進 めていますが、これはまだ道半ばです。子どもが小さいときの両立支援はしっかり効果が 出ているのですが、全社員の働き方の見直しについては、まだ道半ばと言わざるを得ません。  次に、転勤の問題です。これは08年度からやり始めたばかりで、まだ評価できるところ まではいっていません。かつては女性の転勤について、非常に大きな配慮をしてきた会社 だと思います。その結果どうなっているかというと、本社に配置された女性は、ほとんど 本社から動いていないという現状があります。これは一見配慮のようにも見えますが、 それが女性のキャリアの形成にマイナスになっていると思います。  その証拠に、それぞれの地域に販売の組織があり支社や支店があるのですが、女性の 支社長はゼロです。女性の支店長は何人かおりますが、非常に少数です。このような結果に なっているのです。  いま、大卒採用の5割、あるいはそれ以上が女性になっていますので、女性が転勤せず、 男性だけでは人事のローテーションが回せないということにもなっています。それと、 人材育成のために必要な異動と、育児などとの両立をどうするかということで、私は女性優 遇にはしたくないと思い、男女共通のルールをつくってもらいました。自分の転勤のとき、 育児や介護の負担の重い人は、短時間勤務制度を採っています。現在全国で800人程の社 員が短時間勤務をしていますが、これは小学校3年生まで使える制度です。こういった短 時間勤務が必要な時期には、異動を免除するようにもしました。  もう1つ、配偶者の転勤との関係で、配偶者はよその会社の方が多いですから、よその 会社の人事の都合で当社の社員が辞めるなどというのはとんでもないことです。そう思い、 いま鹿児島銀行様もおっしゃいましたように、配偶者の同行制度をつくりました。それか ら、配偶者が海外転勤になった際の休職制度と、それでも仕事が続かなかったと社員のた めの再雇用制度を08年度につくりました。長時間労働をなんとかしたい、転勤問題と、女 性のキャリアの調和を図りたいということで仕組みだけは作ったのですが、これがうまく 回って本当に効果が出るかどうかは、これからの課題だと思っています。 ○渥美氏 ポジティブ・アクションを進めていく中で、また新しい課題が発生して、それ を解決していくというステージに差しかかっているようです。それでは横井さんお願いい たします。 ○横井氏 当社のポジティブ・アクションを通じて工夫した点ですけれども、先ほど法を 上回るような育児支援制度というのがありましたけれども、そういうものがクレディセゾン においては、非常に女性の活躍を推進してきました。その中でそれを工夫して、制度化 して、教育プログラムを策定して実施したことが大変よかったと思います。  大変だった点というのは、キュービタスはまだ新しいのでまだそこまでいっていないの ですけれども、クレディセゾンのときに、デパートなどいろいろな小売店に配属されました。 そのときに、小さな店舗では女性が3、4人しかいない中でローテーションを組む中で 短時間制度を取り入れると、マネージャーに負担が行ってしまいます。その中で同性のマ ネージャーに、結婚した人や子どもを持った人とのチームでの組み合わせを理解し納得し ていただくのにちょっと苦労がありました。いまは、比較的そうしたローテーションなど をきちんと見極めながら進めておりますけれども、女性が多いだけに偏るときもあります。 同時に結婚、出産が続くときもあるので、そういうときにはちょっと苦労しました。  成功のポイントということでは、クレディセゾンの話になりますけれども、一般職と総 合職を分けて採用しておりませんので、女性自身が、私は一般職だから、私は総合職だか ら、と言って仕事の枠組みをつけず、自発的に能力開発をしていけるような仕組みになっ たことです。女性が自分から仕事の枠を付けなかったことがよかったと思っています。  あとは、先ほどから出ていましたけれども、クレディセゾンの社長は、女尊男卑を公言 しています。資生堂さんと鹿児島銀行さんから出ましたけれども、当社も配偶者の転勤の ときに、女性が同じ地域になるように配慮するというのをもともとやっていましたので、 そういう意味でも女性に配慮した転勤などをしておりました。経営トップが常にそういう ことを明言していて、役員会とか会議体とか委員会とかすべてに女性を入れることを全役 員、全部門に伝えておりますので、すべての部門に女性がおります。そういうところがよ かったと思います。  もう1点私がいつも思うことは、労働組合が人事と一緒になってサポートしているとい うことです。働いている女性全員が加入しているわけではありませんが、97%ぐらいが労 働組合に加入しています。加入していない人に対しても同じように対応してくれますし、 正社員だけでなく、雇用形態に関係なく働く女性をしっかりとサポートしているというこ とがすごく大きいです。  それから、女性の役職者への登用制度や育児休業・短時間勤務制度などすべての制度に 対して取得することを推進しています。そういうことを全社的に後押ししながらやってお りますので、そういうことを社内外に取り上げていただいたお蔭で、会社自身もきちんと 推進しているという評判でいろいろな女性の方、それとは関係なく男性も入ってきて、 それなりに活動するということが、女性の働きやすい土壌をつくり、それが良い効果を上げ ていると思っています。ちなみに2010年度の新卒採用にはかなり多くの方が見えまして、 98名の大卒の新卒を採用しました。男性もいたのですけれども、採用の段階で女尊男卑と いうのを明言していますので、女性だけになってしまいましたけれども、それは大きな成 果だと思っています。  今後の課題としては、資生堂さんからも出ていますけれども、ワーク・ライフ・バランス の推進ということです。いまもかなり推進していると思うのですが、それを部門の政策 の中に明言して、残業削減目標とかいろいろな形で、また男性の育児休業を推進するため にも、そういう形でやれるように意識改革と目標を掲げております。具体的な数値はそれ ぞれですけれども、一応そういう形です。  また、どの部門にも女性は配置されているのですが、営業部門、企画、人事では上のほ うの役職者がまだおりませんので、どの部門でも役職者に登用されるような仕組みづくり と、女性が手を挙げて、私もこれをやってみる、今だけではなくて将来もずっと上に行っ てみたい、どの部門にでもそういう女性が出るような仕組みづくりをいま模索しています。  いちばん大きな目標は、人事部長などと話し合って、当社は女性が8割なので、偏るか もしれませんが、女性と男性の比率に応じた役職者を目指して頑張っていきたいと思って おります。 ○渥美氏 それでは、郡山さんお願いいたします。 ○郡山氏 取組に当たって苦労したという点よりも、考え方として3つほどあります。 1つ目は経営トップがそのように明言してくれたということがありますので、それで進め やすくなったということ。2つ目は、女性の登用を考えるときに、男性と女性で同じぐらい の力量の人物がいたときに、どちらを使うか。そのときには、女性を少し先行させるよう な気持があります。これは平等に取り扱わないといけないのですけれども、気持としては、 力量が同等であれば、むしろシンボリックに女性を少し登用していくということを意識し てやっています。それでなければ、なかなかキャッチアップしていかないというのが1つ の考え方です。3つ目は、そういう形で登用したら放ったらかしにしないということです。 その後のコミュニケーションを密に取ることが必要だろうと考えています。  私自身も4年ぐらい前に、こんな経験をしました。鹿児島県内の鹿児島市以外の地方の 支店長をしていたときに、当時の人事の担当役員から「今度、お前の所の隣の支店の支店 長を女性の○○さんにするからよろしく頼む」という電話があったのです。それまでの女性 の支店長というのは、鹿児島市内の個人の営業を中心にやるような支店の支店長が多か ったのですけれども、地方の単独店の支店長となると、対お客様、対事業主のお客様、 あるいは地域のコミュニティとか、商工会とか、いろいろな付合いが出てきます。初めての ケースだったので少し不安もありました。  3つぐらい不安がある中で、1つ目はお客様がどう見るだろうか。自分の所のメインバン クの支店長が女性なのかと、年配の方には思われてしまうのではないか。2つ目は、業務 知識として大丈夫なのか。3つ目は、部下を率いていくということについてのマネジメン トです。こんなことが心配になったのですが、結果としてお客様には意外とすんなり受け 入れていただきました。それは、その女性支店長の個性、タレント、能力も当然あっての ことですが、現代版篤姫みたいな女性でしたからすんなり受け入れてもらえました。業務 知識も、支店長に登用されるぐらいですから十分ありました。やはり最初に苦労したのは、 部下のマネジメントかと思います。それは、女性支店長のせいということばかりではなく て、仕えるほうも女性の管理職、女性の支店長にどう仕えていいかとか、その辺で戸惑い がありました。それがなんとか軌道に乗るのに、隣の店から見ていて1年ぐらいかかった ような気がします。でも、それはちゃんとハードルを乗り越えてきました。  私は「頼むぞ」と言われて、その間に何かできたかというとそんなにできたわけではな いです。基本的には愚痴を聞いたり、こんなふうなのだけれどもという話を聞くぐらいし かできませんでした。それでも、コミュニケーションが取れるだけでも、やはり前へ進ん でいくことはできるのではないかと思っています。登用して任命したら、放ったらかしに しないということが大事なのかと思います。  今後の目標ですけれども、先ほど数値目標的なことはあると申し上げました。いまはス タートさせたばかりですが、これはもう後戻りできないので、いろいろ制度の整備をやっ ています。働きやすい職場をつくることは当然必要なのですけれども、たぶんそれだけで は駄目で、働きやすい職場から、女性が働きがいを本当に感じられる職場へ持っていく、 このステップがもう1つ要ると考えています。その辺について、従業員満足度調査も定点 観測的にやってはいますけれども、本当に働きがいを持ってやってもらえるところまで感 じてもらえるようになって、初めてポジティブ・アクションかなと思っています。  本日はどちらかというと、企業経営者側に立った立場の話をたくさんしてしまったよう な気がしています。やはり女性を活用するということは、会社としての経営戦略の1つな のですけれども、一方でその女性に生き生きと働いてもらうということが、もう1つの対 極にある大きな目標ですので、やはり経営者、企業と女性労働者がWin-Winの関係を形づ くっていけるところまで頑張っていかなければいけないかと思っています。  今年、当行は新しい経営戦略計画をスタートさせました。その中でワーク・ライフ・バ ランスは、経営戦略そのものだということで、戦略の大きな柱に入れています。当行は今 年で130周年ということだったのですけれども、いまいる人たちの責務として、最低あと 130年は頑張れる会社にしたいという思いがあります。そのためにも女性の活用は避けて 通れないものだと認識していますので、そういう経営戦略の中でもしっかり位置づけなが ら、一方で働く女性の働きがいをしっかりつくっていけるような取組をやっていきたいと 考えています。 ○渥美氏 パネラーからも、ポジティブ・アクションの取組み方についていろいろなご提 言をいただきました。「Do!ポジティブ・アクション」の5〜12頁に、どのように取り組ん でいったらいいかということがかなり具体的に書かれていますので、後でお目通しくださ い。まずは、経営トップが決断し、宣言すること。それから、全社一丸となって実施して いくこと。このようなことがとても丁寧に書かれています。  それから、ポジティブ・アクションの効果はどうなのか。ともするとコスト高になって しまうのではないかという不安を感じられる向きがあるかと思いますが、決してそうでは ないと。これは結構収益も上がるし、社内のモチベーションが上がって、プラス効果のほ うが多い、という結果が出ております。それがこの冊子の2〜3頁辺りに出ております。職 場環境もよくなった、従業員意識も向上した、業績が上がって収益が上がってきた。同業 他社と比較しても、我が社のほうが儲かっているということが、現にポジティブ・アクシ ョンを実施している企業の方がこの効果を評価して答えています。  ここで、ノルウェーの例を1つ挙げておきます。北欧の国というのは、どの国も男女平 等が大変進んでいます。企業の中でも、政治の中でも女性が活躍しております。その上に こういう法律ができたと言って、しばらく前にノルウェーの大使がここにおいでになって、 「いやー、もうノルウェーの会社では、どうやってこのポジティブ・アクションを実施し たものか悩んでいますよ」とおっしゃっていたことにこういうことがあります。2004年に 会社法が変わりました。その会社法によると、取締役会に出る役員の40%は女性でなけれ ばいけない。これは、どちらの性も40%以下であってはいけないという決まりのようです。 役員で40%をクリアする、女性がそれをクリアするというのは、やはりノルウェーでも大 変なことのようです。それで、一生懸命女性の役員登用に熱心になってきたわけです。そ の期限が2008年の終わりまででした。  2008年までに女性役員が4割に達すればよし、達しないとどうなるか。4週間の猶予を 与えられて、それでも駄目なら企業名を公表されるのだそうです。それでもまだ達しない とどうなるかというと、ノルウェーというのはすごいですね。裁判所が、その企業を解散 する権限を有しているのだそうです。裁判所が会社を潰してしまうのです。そんなことま でやって、ノルウェーはクオーター制を用いて、女性を登用していこうという方針を実施 している。世界の中にはそういう国もあります。  日本でもいろいろな試みをしております。いま、お三方に先進的な取組を発表していた だきましたけれども、ともすると「大企業ならそれはできるさ、俺たち中小の企業がそん なことをやっていられるか」という向きがないわけではない。確かに大企業の取組はかな り進んでいます。中小企業はポジティブ・アクションの取組が遅れています。それでもや ればできるという例を1つご紹介いたします。  岩手県の運輸業というと、大きな観光バスの会社を連想されるかもしれませんが、従業 員数24名のかわいらしい会社です。何をやっているかというと、最上川の船下りです。そ して、ポジティブ・アクションとして何をしたかというと、女性の船頭を出したのです。 社内で、なりたい人は手を挙げてくださいと言って、5名いた女性社員のうち1人が手を 挙げたので、この人を社内で一丸となって船頭として育てたのです。そうすると、マスコ ミはこれが珍しいから飛び付いてくる。観光客も、女性の船頭さんの船に乗って最上川を 下ろうではないかということで、観光収入にもつながったということで注目されておりま す。このようにして、小さい会社でもやればできる、頭の使い方ひとつということです。  また、静岡の小さい会社で、女性の文系の学部を卒業した人だけでカーペンターチーム をつくりました。そのプロジェクトは女性の力だけで家を1軒建てるノウハウを開発して いきました。それを社内に広めていって、女性も男性も一緒になって、大変効率的に住み やすい家を建てるノウハウを新しく開発したということです。ですから、そんなに大きな 会社でなくても、中小でも十分できます。  これからは、頭の使い方ひとつだと思いますが、女性をどうやって活用するかは、21世 紀の埋蔵金といいますか、社内に埋蔵している活力を上手に掘り出して資源化していく、 エネルギー化していくというのが経営者のセンスであり、社内全体の力の見せ所と思いま す。こうした頭の使い方ができるか、こうしたことを実施できるかどうかというのは、 経営者として、会社としてのセンスが問われる。会社全体が21世紀に生き残れる試金石 ではないかという気もいたします。  パネリストからいろいろなポジティブ・アクションの例をお話いただきましたので、 本日お集まりの皆様も、お持ち帰りになって、皆様の会社経営、あるいは人事管理、労務管 理、ご自分の働き方に是非活かしていただきたいと思います。これでこのセミナーは終わ らせていただきます。皆様ご協力いただきましてありがとうございました。 ○司会 渥美様、どうもありがとうございました。以上をもちまして、「企業経営とポジテ ィブ・アクションを考えるシンポジウム」、第1部のパネルディスカッションを終了させて いただきます。