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第五章 事後相談体制

第五章 事後相談体制

第1節 事後相談体制

5歳児健診で所見があった児については、医療機関や療育機関の受診をすすめる以外に、保健所などで行われている発達クリニックなどを紹介すると言う方法もあります。しかし、地域によっては発達クリニックが廃止されているところがありますので、市町村独自に事後相談を設けるなどの対応も求められます。

事後相談としては、[1]子育て相談、[2]心理発達相談、[3]教育相談などが挙げられるでしょう。5歳児健診には、発達に心配のある子どもだけが受診してくるわけではありません。子育て一般の悩みも相談事として多く出てきています。鳥取県の5歳児健診で、相談したいことがあると問診票に記載した保護者は37.8%にものぼっています。「箸の持ち方」、「おねしょの心配」、「兄弟げんかの相談」、「約束を守らない」など、多くは子育て上の相談でした。幼児なりの人づきあいや社会を持ち始めた我が子に対して、どこまで躾として介入すべきか、どこから本人に任せるべきか、といった加減の判断に困るという悩みも5歳児健診に特有のものであろうと思われます。これに対応するには子育てに詳しい保育士や保健師等による個別の相談ができるとよいと思われます。

さらに発達障害が背景にあると疑われる児に対しては、心理発達相談を、就学前に学校と事前に相談する必要がある児に対しては教育相談を、それぞれ個別に行うことが望ましいと考えます。教育相談に関しては、特別支援教育の充実に伴って、教育委員会が幼児期からの教育相談を推進している地域もありますので、積極的に活用することをお薦めします。

[1]子育て相談

広く子育て一般の悩みに対応します。5歳児健診の場ですぐに解決するような悩みではない、あるいは別に時間を取ってじっくりと話を聞いた方がいいと思われるような悩みのある場合に、この子育て相談を活用するとよいでしょう。担当者は障害児保育に関わった経験のある保育士が望ましく、常に虐待のリスクはないかという視点を忘れずに対応して頂きたいと思います。子育ての悩みが、児自身の素因によるところが大きいと思われる場合には、担当者により医療機関への紹介や(2)の心理発達相談の場へとつなぐようにします。

[2]心理発達相談

5歳児健診後に子ども側の状態を把握しておいた方がよいと思われる場合に活用する相談です。上記の子育て相談から継続して紹介されることも想定しましょう。担当者としては発達の分かる心理士が望まれます。ここでは、子どもの全般的な発達、行動や社会性の評価を行い、アドバイスを行うとともに、必要があれば担当者により医療機関への紹介も行われるとよいでしょう。

[3]教育相談

就学するに当たり、就学に必要な教育制度などの情報提供を行ったり、保護者の希望を聞き、学校との意見調整を行います。上記の(1)、(2)からの紹介や、医療機関からの紹介も受けることを想定します。市町村の教育委員会の担当者や就学予定の小学校の特殊学級担当者あるいは特別支援教育で配置することが薦められている巡回相談担当教員などが適格であろうと思われます。

以上の3つの事後相談は、原則として個別相談で予約制とし、プライバシーの保護や時間の確保に配慮しましょう。相談は健診を行った市町村の保健センターなどが良いと思われます。保育所や幼稚園との連携協力が必要な場合は、保護者の同意の上で相談の場に担当者が同席をすることもお薦めです。日常の生活の場である保育所や幼稚園で支援して頂きたいこと、配慮して頂きたいことなどを伝えることは、子どもの状態の改善にとても効果的です。


第2節 学校との連携

1)保育所、幼稚園と学校の連携の現状

(1)乳幼児健診と就学

現在、図5−1のようなシステムで乳幼児健診が行われていますが、3歳健診以後、就学まで健診等が行われず、軽度の発達の問題を持つ子どもたちが、その問題に気付かれないままに就学し、「多動のために通常の学級で席について授業を受けることが出来ない」、「ちょっとしたことで興奮し他の児童へ暴力を振るう」、などの問題が小学校入学後に生じています。 これらの多くは、就学前に保育所、幼稚園でも問題とされていたことです。就学前に問題を発見し、適切な対応をすることで、就学後に問題が発生することを未然に防ぐことができます。そのためには、3歳以後、就学までの間に健診を行い、問題点を早期に発見し対応を開始すること、健診で得られた情報を、就学先の学校へ伝え、就学後にも適切な対応ができるようにすることが重要となります。

図5−1 現在の乳幼児健診・就学時健診システム
図5−1 現在の乳幼児健診・就学時健診システム

(2)連携の問題点

市町村では、就学前の子どもの問題は母子保健関係課、保育所入所などは児童福祉課で取り扱い、就学後の子どもの問題は教育委員会が担当しているため、お互いの連携が十分行われていないと、保育所、幼稚園などから学校に就学前の情報が伝わらず、また家族から子どもの発達の問題について学校への相談が無い場合、学校に入り問題行動が顕在化してから発達障害に気付くことになります。しかし、子どもの発達障害の有無は個人情報であり、保育所・幼稚園と学校の連携方法は十分な検討が必要です。

保育所、幼稚園と学校が、共通の場で子どもの情報を交換する機会は極めて限られています。図5−2のように就学前に関わり家族との信頼関係が出来ている相談機関、医療機関が、保護者の依頼を受け、あるいは了解を得て、就学先の学校へ発達上の問題点に関する情報を文書で情報を伝えることは良い方法です。

図5−2 情報の流れ方
図5−2 情報の流れ方

(3)対応の難しい保護者

5歳児健診の事後指導に拒否的、幼稚園、保育所から教育委員会あるいは就学先の学校へ情報を提供することを拒否する、統合教育の考え方から特別支援教育を拒否する、子どもの教育に無関心で保育所、幼稚園あるいは学校の指導を拒否するような保護者の場合は、就学時の指導が難しくなります。保護者に対して、就学前に、いくつかの特別支援学級、特別支援学校を見学することを勧めます。また就学前から指導助言を行ってきた相談機関、医療機関では、その子どもの能力を客観的に判断し、評価に基づいて適切な学校、学級を勧めるようにします。子どもの教育に無関心な場合は、身体的虐待ばかりではなく、養育の怠慢(ネグレクト)、心理的虐待を含め子どもへの虐待の有無に注意し、虐待が疑われる場合は、児童相談所の協力も得ながら対応します。特別支援学級では、通常学級より丁寧に指導を受けることができるので、子どもの教育に適切であるばかりでなく、担当の先生との1対1のつながりが子どもの気持ちの安定にもつながります。

2)今後の保育園・幼稚園と学校との連携のあり方


(1)子どもの情報の管理

[1]保護者が主体

保護者が主体となり、子どもの情報を管理する場合、個人情報保護の問題は少なくなりますが、保護者が適切に情報を管理できるか、その情報を学校が利用できるかが問題となります。実際の管理方法としては、保護者が子どもの療育ファイルを作成し、乳幼児期からの相談機関、医療機関、幼稚園・保育所の情報をファイルしていく方法があります(表5−1)。今後は、電子ツールによる管理方法も利用されるようになるでしょう。

表5−1 療育ファイルの情報

乳幼児期の記録 子どもの生育歴 保護者記入
乳幼児健診の結果 保健師等記入
幼稚園・保育園の記録 保育士・教師記入 保護者記入
医療機関の受診記録 医療機関記入
相談機関、療育機関の記録 担当者記入
保護者の記録 保護者記入
学校の記録 就学後の記録 教師、保護者記入
[2]行政が主体

行政がデータベースにより子どもの情報を管理する方法は、乳幼児期の子どもに関わる母子保健及び児童福祉領域と学校教育領域の連携が十分取れていることが前提となりますが、情報は適切な形で学校へ伝えられます。個人情報の取り扱いになるので、どのように情報を保護するかが問題となります。パスワードで特定の人のみが閲覧できるようにするなどの工夫が必要になります。

(2)連携の方法

[1]文書による方法(表5−2)

決まった形式の文書を教育委員会等が作成し、それに従って情報を伝えるようにします。保育所、幼稚園で、個別指導プログラム(IEP)を作成している場合は、非常に有用な情報になります。

表5−2 保育所・幼稚園の記録(案)
氏名(      ) 平成  年  月  日生まれ 性別(男、女)
明らかな障害がある
場合(手帳等の所持)
 
病院等への受診歴
服薬している薬
 
発達・生活の様子
出席 ほとんど休まない、休みが多い(理由:           )
運動 問題なし、問題あり(                   )
言葉 言葉の遅れなし、言葉の遅れあり(           )
生活(身辺自立) 食事:自立、介助必要(                  )
排泄:自立、介助必要(                  )
更衣:自立、介助必要(                  )
友達関係 問題なし、気になること(                 )
遊び 問題なし、気になること(                 )
行動 問題なし、気になること(                 )
問題点

保育所・幼稚園で
特別に配慮していること

その他  
(    )には、自由記述としなるべく、具体的に書いていただく。
[2]連携の会議

保育所、幼稚園の園長、担当者と学校の特別支援教育コーディネーター、来年度の新入学児担当教師が参加した連携会議ができることが最も望ましい形になります。事前に保育所、幼稚園の内部で伝えるべき情報について十分に検討することが大切です。5歳児健診の関係者会議に教育委員会の関係者が出席すると、保育所、幼稚園での問題を具体的に知ることができ、就学に備えることができます。

(3)連携のための具体例

[1]栃木県鹿沼市の教育研究所(図5−3)

保育所、幼稚園と学校の連携を図るために、行政的なシステムとして教育研究所(多くは市町村教育委員会の関係機関として位置付けられています)や発達支援室を設け、その役割を果たしている市町村があります。栃木県鹿沼市では、図3の教育研究所を組織しています。この教育研究所には学校教育課指導係の指導主事4名と非常勤の相談員6名(そのうち臨床心理士が3名)が勤務しています。

図5−3 栃木県鹿沼市の教育研究所の組織図
図5−3 栃木県鹿沼市の教育研究所の組織図
(現場に役立つ特別支援教育ハンドブック 6 地域支援システム(教育研究所による支援)−栃木県鹿沼市における実践、274−277、2005を一部改変)
[2]滋賀県湖南市の市ぐるみの支援体制(図5−4)

滋賀県湖南市では、必要な支援が必要なときに継続して受けられるための発達支援システムに取り組み始めました。それは、教育・福祉・保健・医療・就労の関係機関の「横の連携」と、個別の事例ごとの就学前から学齢期までの「個別の指導計画:IEP」とさらには就労に至るまでの「個別の移行計画:ITP」の「縦の連携」によるサービスの提供を部局横断型で行うシステムです。また「湖南市個別指導計画に関する要綱」を策定し、保幼小・小中連絡会等の全体的な引き継ぎのほかに、校・園の特別支援教育コーディネーターが窓口になって個別の引き継ぎの機会を確保しています。保育所・幼稚園で取り組んでいる個別の指導計画による内容を踏まえ、教育的ニーズに応じた継続した支援の内容や実現可能な支援の場が議論され、就学後の継続した個別の指導計画の作成が答申され、翌年の就学指導委員会で答申の実施状況について各校からの報告を受けています。

(4)学校内、学校間の連携

学校現場では、特殊教育に変わり、特別支援教育が始まりました。特別支援教育では、従来以上に、特別支援学級と普通学級の交流を図り、また特殊教育の対象ではなかった軽度発達障害児に対しても、特別支援教育の対象として個々の指導内容に配慮が求められています。具体的には、必要な児童全員に対して個別指導教育計画(IEP)を作成し、その計画を実行し、実行内容を評価していくことが必要です(Plan-Do-See)。また、養護学校も特別支援学校として、地域の特別支援教育の中心として積極的に普通学校へ出かけていき、養護学校で蓄積された発達障害児への指導技術を、個別指導教育計画の作成に当たり、また実際の教育場面で伝えていくことが望まれています。普通学級、特別支援学級、特別支援学校の連携が今まで以上に必要となってきました。

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