ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 子ども・子育て > 子ども・子育て支援 > 母子保健関係 > 軽度発達障害児に対する気づきと支援のマニュアル > 第四章 健康診査ツール

第四章 健康診査ツール

第四章 健康診査ツール

第1節 健康診査問診票

鳥取県の5歳児健康診査で使用している保護者用と保育士用の問診用紙を資料4−1、4−2に示します。それぞれ、右に番号を付けているのは、問題点のある項目をチェックするためであり、診察時に分かりやすくするためです。

保護者用の問診(資料4−1)の1-20は、家族構成と予防接種歴、既往歴、妊娠・周産期歴、発育・発達歴、既往症、家族歴、日常生活の様子など一般的なことを聞いています。

21は視力についての質問ですが、斜視・斜位による弱視が3歳児健康診査以後に気づかれることがあります。22の聴力については、片側の難聴や軽度―中等度難聴は3歳児健診で気づかれないことがありますので、これらを意識する必要があります。

24の「子育ては楽しいですか」は、鳥取県では1歳6ヶ月児および3歳児健康診査でも同じアンケートを行っています。1歳6ヶ月児および3歳児健康診査ともに、「楽しくない」と答えた保護者の場合に、子どもの発達問診項目に不通過が多いという結果が出ていますので、子どもの発達を含めて家族に何らかの問題があることを念頭においた方が良いでしょう。

26は発達に関するアンケートです。これは同じものを保育士用にも入れています(項目11)。平成16年度の集計では、[8]以外の項目はいずれも良好な通過率でした(表4−1)。今の社会情勢から「家族に言って遊びに行く」ということはさせにくい状況が通過率の低さに影響していると考えられます。



表4−1 発達項目の問診通過率(全体)
  保護者 保育士
[1]スキップができる 87% 79%
[2]ブランコがこげる 82% 85%
[3]片足でケンケンができる 99% 99%
[4]お手本を見て四角が書ける 94% 96%
[5]大便が一人でできる 98% 95%
[6]ボタンのかけはずしができる 99% 99%
[7]集団で遊べる 98% 98%
[8]家族に言って遊びに行ける 71% 41%
[9]ジャンケンの勝敗がわかる 95% 93%
[10]自分の名前が読める 90% 91%
[11]発音がはっきりしている 94% 94%
[12]自分の左右がわかる 85% 71%
不明は不通過とした

発達障害が疑われた児の問診通過率(平成16年度)を表4−2に示します。ADHD疑い児(11例)では、スキップの項目が保護者・保育士とも低く、左右の理解は保護者で低いという結果でした。広汎性発達障害疑い児(3例)は、スキップ、集団遊び、ジャンケンの通過率が低いという結果でした。軽度精神遅滞疑い児(7例)の場合は、保護者と保育士とも、どの項目も全般的に通過率が低いという結果でした。まだ症例数は少ないものの、問診での不通過の項目に発達障害それぞれに一定の傾向をもっている印象を受けます。



表4−2 発達障害児の問診通過率(%)
  注意欠陥/多動性障害 広汎性発達障害 軽度精神遅滞
  保護者/保育士 保護者のみ 保護者/保育士
[1]スキップができる 34.6/62.5 66.7 42.9/33.3
[2]ブランコがこげる 81.8/75.0 100 57.1/33.3
[3]片足でケンケンができる 100/100 100 71.4/83.3
[4]お手本を見て四角が書ける 100/87.5 100 42.9/50.0
[5]大便が一人でできる 100/100  100 71.4/66.7
[6]ボタンのかけはずしができる 90/100 100 85.7/83.3
[7]集団で遊べる 90.9/87.5 66.7 85.7/83.3
[8]家族に言って遊びに行ける 81.8/62.5 66.7 57.1/0
[9]ジャンケンの勝敗がわかる 100/100 66.7 42.9/66.7
[10]自分の名前が読める 72.7/100  100 28.6/16.7
[11]発音がはっきりしている 90.9/87.5 100 57.1/50.0
[12]自分の左右がわかる 27.3/87.5 100 42.9/16.7
不明は不通過とした

保育士用の問診には、対人関係(2-4)や偏食(5)、忘れ物(9)、こだわり(10)などを追加していますので、資料4−2を参照してください。


第2節 医師の診察

子どもの社会性の発達や認知発達、行動評価を取り入れた5歳児健診は、本邦においてほとんど実施されていません。そこで、以下に5歳児を診るポイントと手順を記載します。

1) 5歳児診察項目

診察はおもに会話と指示した所作に対する評価を行います。胸腹部への聴診や触診、視診は必須ではありません。むしろ、会話することで言語発達や社会性の発達、共感性などを診たり、指示に従って所作を行うことができるか、またその所作の適切性や質的なレベルなどを評価することによって、社会性の発達や認知発達、行動統制力などを診ることができるからです。

以下に診察項目例を挙げました。これは鳥取県の5歳児健診や5歳児発達相談で取り入れられているものです。

[1]会話をする

名前、所属の保育所・幼稚園、その組の名称、担任教諭や保育士の名前を尋ねる。
保育所・幼稚園の給食で一番おいしいを尋ねる。
母親の料理で何が一番おいしいと思っているかを尋ね。
その料理について、保育所のものと母親のものとどちらがおいしいか尋ねる。
(もっと具体的に「カレー」はおいしいか?という尋ね方にすると、より答えやすくなります)
保育所・幼稚園で誰とよく遊ぶか、その遊びはどんなものであるかを尋ねる。

以上により診察項目の「オリエンテーション」、「追想能力」、「言語理解力」、「共感性」「発音」、「会話自体の成立」を知ることができます。知的発達が遅い子や相手の気持ちを忖度することが苦手な子では会話がかみ合わないことがよく見られます。

[2]動作模倣

先生の真似をしてね、と伝えて以下の所作をさせます。
模倣;手を横に挙げる、手を挙げる、手を前に挙げる
バランス;閉眼起立、片足立ち(左右)
指のタッピング(母指と示指)
前腕の回内、回外運動
左右手の交互開閉(グーとパーを交互に行わせる)

以上により診察項目の「動作模倣」、「協調運動」、「指示の入りやすさ」を知ることができます。とくに大人に対する従順さを見たり、指示を無視して自分流の流れを作りやすいかなどが大切な所見となります。

[3]物の用途をきく(靴、帽子、お箸、本、時計)

靴ってなにするものかな?
帽子ってなにするものかな?
お箸ってなにするものかな?
本ってなにするものかな?
時計ってなにするものかな?

以上により単語の理解度を推し量ることができ、「言語理解」、「知的発達」の程度を知ることができます。「時計」の質問以外は。他に比べてやや難しい課題です。3つ以上の正答で正常と判断します。

[4]比較概念を聴く

お父さん(お母さん)は大きい、赤ちゃんは?
お湯は熱い、氷は?
夏は暑い、冬は?
石は固い、タオルは?

この項目は、比較概念を見るもので、基本的には4歳台の幼児を対象としています。前項の「物の用途」が不充分である場合に行うようにします。「石」の質問の通過率がやや悪いようです。

[5]左右の確認

右手をあげてください。
左手をあげてください。

[6]左右を使った構文の理解

右手で右目を隠してください。
左手で左耳をつまんでください。
右手で左目を隠してください。
左手で右耳をつまんでください。

上記2つの項目は左右弁別と非日常的な構文の理解度を推し量る項目となっています。とくに構文の質問は基準年齢が6歳以上なので、とくに必須の診察項目ではありません。

地域によっては5歳児健診に5歳11か月児が受診することもありますので、参考用として記載しました。おもに言語理解力、とくに構文の理解力を見る項目です。あわせて、短期記憶や集中力を見るのにも参考となります。

[7]安静閉眼

手をひざに置かせて、よーいはじめの号令にて眼を閉じさせる。
指示例「手はおひざにポン。先生の眼をよく見て。これから先生がいいよ というまで目を開けちゃあダメだよ。がんばれるかな? じゃあ、よーい はじめ」

たいていの5歳児は20秒間、閉眼が可能です。途中で目を開けてしまったり、手をもぞもぞ、動かしたり、体を揺すったり、という自己刺激行動が目立つ場合には、「行動統制力」が弱いと判断します。落ち着きのない子や情緒的に不安定な子では、20秒間の安静閉眼ができませんので、診断やアドバイスの参考にしてください。

[8]ジャンケン勝負、しりとり

 ジャンケンの勝ち負けは、5歳児の90%が可能です。しりとりは約70%の5歳児が可能です。両方ともできない場合は、発達の遅れがあることを念頭に置くとよいでしょう。とくにしりとりは音韻の操作能力を見ていますので、文字の習得と大きな関連があります。

[9]読字

2文字平仮名単語を3つ読ませます。5歳児では読めなければならないと言うことではありません。しりとり遊びのような音声言語の発達と読字といった文字言語の発達の関係に、大きな意味があります。

通常では、しりとり遊びができてから文字が読めるようになります。逆の場合もありますが、時期的な差はあまり大きくありません。しかし、高機能広汎性発達障害児では読字はできるのに、しりとり遊びがまったくできないという所見が認められることがあります。

また、読字以外の所見ではまったく問題がないのに、読字だけができない、そして文字にまったく興味がないといった場合には、学習障害のdyslexiaを念頭に置きながら、「就学後にも文字の習得が遅ければ早期に教師に相談するとよい」、といったアドバイスを保護者に返すとよいでしょう。

なお、医師の診察方法や手順については「5歳児健診 −医師用インストラクションビデオ−」と題したDVDを作成し、全国都道府県及び政令指定都市の乳幼児健診管轄部署と保健所に配布済みです。

以下に診察項目と異常所見、診察項目の意味づけの表を載せておきます。



表4−3 診察項目と所見および意味づけ
項 目 異常 所見 意味づけ
[1]会話 会話が成立しにくい(答えがずれる) 言語発達 対人性の発達
  追想能力 時間のオリエンテーションができていない 
概論的な答えができない(具体的な答えをしすぎる)
言語理解力
時系列の意識
状況判断力
対人性
発音 構音の不明瞭さがある(聞き返しが必要な程度) 構音障害
物の用途(5歳児) 答えられない、間違う。 言語理解力
比較概念(4〜5歳児) 大小、冷熱、寒暖、硬軟といった比較概念が
言語として理解できない。(物の用途成績が不良な場合に行う)
言語理解力(概念)
左右のシンタックス(6歳以上) 非日常的な構文の理解ができない 文章構成力・理解力
集中力
[2]動作模倣 動作自体ができない、指示が入りにくい 診察への協力性
模倣行動
  手を挙げる 上肢の運動機能に異常がある。模倣しない  
手指のタッピング ミラーの出現 器用さ
前腕の回内回外 全く動きができない 器用さ
手の交互開閉 グー、パーを同時に開く事ができない 運動企画力
[3]バランス   巧緻運動発達
  立位 動いてしまう 小脳の発達
閉眼立位 体幹の動揺が著しい
片足立ち 体幹の動揺が著しく、3秒不可能
[4]閉眼 20秒できない、もしくは自己刺激行動が著しい 情緒の安定さ
[5]知的機能    
  ジャンケン勝負 勝ち負けが不正確 知能の発達
しりとり遊び しりとりができない(3往復くらい) 音韻の意識
[6]読字 二文字単語が読めない(いぬ、さる、うし) 読字の能力

 


上記の診察において、会話のズレや共感性の乏しさ、指示の入りにくさ、落ち着きのなさといった所見が得られたときには、次に挙げたような質問による問診を行うとよいでしょう。

[8] 母親に対して、「変わったくせ」がないか、「思いつくとやらずにはいられないか」などを尋ねる。
  例えば
a) テレビの場面やコマーシャルを極端に怖がったり、あるいは逆に極端に好んだりする。(例;天気予報が大好きで一日に何回も見るなど)
b) 狭いところでブツブツいいながら一人あそびを好む。
c) 数字や平仮名が、とても早い時期から読める。
(「しりとり」ができるよりも相当早くから)
d) 親に対してもとても丁寧な言葉を使う。
e) 方言を使うことが少ない。
f) 目の前にいる相手の気にしていることを平気で指摘したりする。
g) 初めてあった大人でも、ものおじせず話しかける。
h) 目の前にあるものに触らずにはいられない、といったことがよくある。
i) 食事の時などじっと座っていられない。
j) 思いつくとしゃべらずにはいられない、といった感じがある。
k) 遊びであっても根気が続かないと思うことがある。
l) 公園や大きなお店で迷子になったことがある。

a)〜g)までは対人関係に問題がある幼児によく認められる事柄であり、h)〜l)までは多動な幼児によく見られる行動です。

「行動に関する問診」として、予め保護者や保育所、幼稚園担任にチェックしてもらっておくと、診察時間の短縮が期待できます。ただし、これらの項目で該当するものが多いからといってただちに何らかの発達障害があると判断するのではなく、あくまで診察の参考とするにとどめておくようにしましょう。

2)保育所、幼稚園の参加

5歳児健診の実施時には、保育所や幼稚園の担任等に同席していただくと、診察室以外での情報を得ることができます。個別の診察場面では、集団における行動や指示の入りにくさなどは見落としてしまうことになりますので、保育所・幼稚園からの情報はとくに重要です。健診の前に、とくに留意して診るとよい子どもがいれば、あらかじめ保育所や幼稚園から心配な点を連絡してもらうとよいでしょう。

保育所や幼稚園の担任等職員が同席すると、保護者へのアドバイスとともに、園側へのアドバイスもできますので喜ばれます。詳細な指導が必要な子どもの時は、医師の診察場面だけでは対応ができません。そうした子どもへの対応のために、心理指導担当者の参加が望ましいでしょう。


第3節 行動評価法

1)子育てSDQ

就学前の軽度発達障害児を簡単に診断・鑑別できるような質問紙はなかなかありません。平成15年4月から平成17年3月の間に、久留米大学小児科神経・発達外来を初診した4〜6歳の就学前児30名の保護者と保育士に行った質問紙の結果を最終診断名(ADHD、自閉症、精神遅滞)別に検討しました。用いた質問紙は、AD/HD評価尺度(DSM-IVベース、18項目)、 アスペルガー症候群尺度(ASQ、27項目)、SDQ (Strength and Difficulties Questionnaire、25項目)、子どもの行動チエックリスト(CBCL: Child Behavior Checklist、113項目)の4つです。全体的に見るとAD/HD児の多動性や攻撃性の高さは、ほとんどの質問紙で表れていましたが、質問紙のみで鑑別は困難でした。

この中で、SDQ (Strength and Difficulties Questionnaire) は、保護者や保育士が5分でチェックすることが可能な行動スクリーニング質問紙で、子どもの特性が比較的とらえられやすい印象を得ましたので紹介します。SDQは、英国を中心に北欧やドイツなどヨーロッパで広く用いられており、子どもの困難さ(difficulty)のみならず、強み(strength)も評価できる点が他の質問紙とは異なります。質問項目は、攻撃的行為、多動、情緒、仲間関係、社会性の5分野、計25項目からなります。CBCLとの相関も高く、CBCLよりもはるかに質問項目が少ないです。英国の研究では、SDQはCBCLよりも不注意と多動の検出は有意に優れているという報告があります。健診の場で保育士や保護者がチェックし、子育て相談に役立てるには有用なツールと思われます。適応年齢は4歳から16歳ですが、3−4歳用もあるようです。

評価・採点方法

お子様に関して、全ての項目について、「あてはまる」「ややあてはまる」「あてはまらない」の3段階で評価してもらいます。各項目について0,1,2点をつけていきますが、逆転項目があるため、「あてはまる」と「あてはまらない」が0点または2点、「ややあてはまる」が1点となります(資料4−3にある採点表を参照)。

5つのサブスケール(向社会性、多動性、情緒面、行為面、仲間関係)がありますので、それぞれのサブスケールの合計得点を出し、その領域における支援の必要性が「low need:ほとんどない」「Some need:ややある」「High need:おおいにある」の3つに分けます。さらに「多動性、情緒面、行為面、仲間関係」の4サブスケールの合計でTDS(Total Difficulties Score)を算出し、全体的な支援の必要度を把握するという構造になっています。

なお、このカットオフ値(保護者評価による)は、英国規準をもとにしているもので、日本で標準化されたものではありません。標準化については、今後の課題です。

ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 子ども・子育て > 子ども・子育て支援 > 母子保健関係 > 軽度発達障害児に対する気づきと支援のマニュアル > 第四章 健康診査ツール

ページの先頭へ戻る