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第三章 健診・発達相談等の実際

第三章 健診・発達相談等の実際

第1節 5歳児健康診査

ここでは地域の全ての5歳児を対象とした悉皆健診としての5歳児健康診査(5歳児健診)の実施法や体制について述べます。いくつかの実例を通じて5歳児健診の実際を紹介し、さまざまな工夫についても記します。

1.実施に向けた準備

新たに5歳児健診を始めるにあたっては、以下の準備が必要と考えられます。

保健師向けの講習会(目的、手順などの確認と共通理解)
医師の確保と医師向けの技術講習会
心理士、保育士、栄養士、歯科衛生士などの確保

医師の診察に決まった形式があるわけではありませんが、5歳児の認知行動特性を把握するには、胸腹部の視診や聴診、触診といった内科的な診察ではなく、会話の成立具合、手指の巧緻性、指示に従う様子、情緒の安定性などを診察する項目が必要になります。

チェック方式の診察所見シートも共通のものを使用しています(第四章参照)。これは、発達障害児を日常的に診療していない小児科医にも診察が実施しやすく、役立っています。

2.健診の実際

(1)健診年齢

鳥取県における5歳児健診の問診や診察は、標準的な5歳児がほぼ通過できる内容に設定しており、健診時年齢は5歳から5歳半を目安に行っているところが多いです。人口規模の少ない市町村では、健診回数が年に1-2回であるため、同じ時期に行いますと健診時年齢に1歳近い幅があることになります。この場合は、健診内容が年齢によっては簡単すぎたり、逆に難しい場合が出てきます。従って、年齢のばらつきを少なくするよう対象児の設定が必要です。

(2)健診の通知

健診日時等は個別に案内を郵送しています。また、保育園・幼稚園が受診を勧めることも多く、鳥取県の場合には受診率は各市町村とも90%以上であり、多くは95%を超えています。

(3)実施体制と方法

1回の健診(2−3時間)で診察する人数は20-25人を目安にしています。軽度発達障害の判断には集団での行動の観察が非常に重要ですので、保育園・幼稚園の情報が不可欠です。

ほとんどの5歳児健診には、担当保育士が同席し保育園・幼稚園の状況を教えていただきます。保育園や幼稚園で5歳児健診を行っている市町村もあり、子どもが落ち着いて健診を受けることができ、流れがスムーズで効率的です。また、規模の小さい町村では、対象人数も少なくて時間にゆとりがありますから、診察前に集団遊びを取り入れ、集団行動の観察を行っているところもあります。

5歳児健診の当日の構成は、医師(1人)、保健師(2-5人)看護師(1人)および歯科衛生士(1人)が基本となり、市町村により臨床心理士や保育士、小学校教諭、主任児童委員、眼科医、事務員などが加わっています(表3−1)。

表3-1 5歳児健診の構成員:10市町村の調査結果

構成員 採用市町村数 人数(市町村数)
医師 10 1人(10)
保健師 10 2人(1) 3人(4) 4人(3) 5人(2)
看護師 9 1人(9)
栄養士 10 1人(10)
歯科衛生士 6 1人(2) 2人(4)
臨床心理士 6 1人(4) 2人(2)
小学校教諭 3 1人(2) 2人(1)
眼科医 1 1人
主任児童委員 1 1人
ボランティア
(絵本読み聞かせ)
1 1-2人
事務員 6 1人(4) 2人(2)


表3-2 5歳児健診の当日の流れ

当日の流れ 主な担当者 待ち時間で行っていること (市町村ごとに異なる)
受付 保健師・事務員 ・絵本の読み聞かせ(ボランティア)
問診 保健師 ・就学に向けた講話(小学校教諭)
身体計測・視力検査 看護師・保健師 ・育児に関する講話(保育士)
診察 医師・保健師・担当保育士 ・集団遊び(保育士)
歯科相談(個別) 歯科衛生士 ・工作(保育士)
栄養相談(個別) 栄養士  
各種の個別相談 保健師・保育士・臨床心
理師・教諭(市長村ごとに異なる)
 
全体カンファレンス 健診後にスタッフで行う  

表3−2に当日の流れを例示します。受付、問診、身体計測、視力測定、診察、歯科相談、栄養相談、各種個別相談、終了後のカンファレンスという流れで進めています。問診は、あらかじめ郵送した問診用紙に保護者が記載した事項を確認します。発達に関するアンケートは保護者と保育士に同じものをつけていただいています。
問診票や診察手技は第四章で詳しく述べます。鳥取県の場合では、5歳児健診で視力測定をほぼ全ての市町村で実施しています。3歳児健診では視力測定が難しい場合があることに加え、3歳児健診で見つからなかった斜視・斜位による弱視がこの健診で見つかることがあります。斜視・斜位による弱視は早期に発見し治療することで予防可能です。

医師の診察時に注意すべきき点は、保護者の心配事に全てその場で答えようとすると時間がかかってしまいますので、子育てやしつけに関することは、保健師や保育士の個別相談に任せる等、分担をあらかじめ決めておくことが必要です。20人の健診でひとりの診察に10分かけても約3時間かかる計算になります。医学的な説明や発達障害を疑った場合の事後の説明など、医師として必要なことのみにとどめておくことが集団健診としては適当だと思われます。

有所見児に対する個別相談は、市町村ごとに工夫が見られ、保育士や保健師による育児相談や、臨床心理士による発達相談などが行われています。時間的制約や場所的制約があり、これらの相談が5歳児健診の枠内でスムーズにかつ有効にできない場合もあるようです。従って、一般的な相談内容などは、あらかじめ作成したリーフレットなどを手渡し説明するなどの工夫をするとよいでしょう。また、発達や就学に向けての個別の相談は後日、それぞれの専門員による事後相談(第五章参照)へつなげる方が、時間的にも精神的にもおちついて相談でき効果的かもしれません。

5歳児健診は、通常の健診よりも診察に時間がかかります。従って、待ち時間が長くなることが多く、最後の方のこどもは疲れてしまい、診察に乗ってこない場合も出てきます。この問題を解決する方法として、1回の健診で診察する人数を多くしないこと以外に、受付時間をずらすなどの工夫をしています。また、待ち時間を利用して集団遊びや工作、絵本の読み聞かせを取り入れている市町村もあります。さらに、5歳児健診を育児支援や就学に向けての準備として位置づけ、ベテランの保育士や教育委員会に依頼して講話をして頂くところもあり好評のようです。

(4)健診後のカンファレンス

健診後、スタッフで気になった子どもたちについてカンファレンスをすることは、問題点の整理と今後の方向性を決める上で重要です。特に軽度発達障害児は個別の診察の場面で気づかない場合も多いので、集団での行動の問題や保育園・幼稚園での様子などを含めて総合的に判断することが大切です。

3.役割分担

(1)保健師

やはり健診では保健師の役割が非常に重要になります。健診日程や健診に関わるスタッフの確保、有所見児のその後の調整など、やるべき事柄は多義に及びます。健診を保育所や幼稚園単位で実施する町村もあります。その場合には、保育所や幼稚園とも日程の調整が必要になります。

(2)保育士、幼稚園教師

保育所や幼稚園単位で実施し、保育士・幼稚園教師が健診に参加するという形式を取っている町村では、診察時に医師に保育所や幼稚園での普段の様子などを伝えることができて非常に役に立ちます。保育所や幼稚園の先生は、担当児童の様子を簡潔にまとめておくと良いでしょう。

(3)医師の役割

5歳児健診の最大の目的は、「保護者が発達障害に気づく」ことにあります。この気づきから、こどもへの適切な対応や就学に向けての準備へとつながります。5歳児健診は診断の場ではありませんので、発達障害の病名告知や細かな指導をその場でしないことが重要です(もちろん、状況によっては説明する場合もあります)。発達障害を疑った場合、その地域の療育や相談システムに乗せるように方向付けすることが大切です。保護者の受け入れがよい場合は、療育施設への紹介や教育機関への橋渡しが可能ですが、保護者が気づいていない場合や納得していない状況で療育施設等に紹介しても、不安や不満を与える結果になることがよくあります。この様な場合は、無理に説得しようとせずに、利用しやすい地域の育児相談や療育相談などがあればそちらを紹介する方がよいでしょう。また、後で心配になった時に相談できるように、相談事業の連絡先の書かれたパンフレット等を渡しておくことも良いでしょう。

4.5歳児健診の実績

平成16年度に行われた5歳児健診では、鳥取県内24町村の1069名のうち1015名(94.5%)が受診しました。有所見児のうち助言指導を除いた149名分のデータを解析した結果、注意欠陥多動性障害(疑いを含む)3.6%、広汎性発達障害(疑いを含む)1.9%、学習障害(疑いを含む)0.1%であり、いわゆる軽度発達障害児の頻度は5.6%であることが判明しました。さらに知的発達が境界域あるいは軽度精神遅滞が疑われる児(3.6%)が把握されており、以上をあわせると9.3%という出現頻度となりました。

これら軽度発達障害児(疑いを含む)が3歳児健診においてどのように評価されていたかをみたところ、発達障害の種類によって多少の違いはあるものの、半数以上の児では3歳児健診で何の問題も指摘されていないことが判明しました。また、3歳児健診で発達上の問題が指摘された児であっても、その内容はほとんどが言語発達の遅れに関するものでした。

以上より、5歳児健診は軽度発達障害の発見に有用であること、一方、3歳児健診で軽度発達障害児の問題点に気づくことには限界があり、しかも疾患に特異的な問題点を指摘することが困難であることが示されています。

5.まとめ

5歳児健診で多くの軽度発達障害児や軽度精神遅滞児を就学前に発見できる可能性があります。発見された発達障害をご家族へどのように伝えるか、就学までどのように過ごすか(指導するか)、どのように教育機関へ橋渡しをしてゆくかが、5歳児健診を意味あるものとできるかどうかの鍵です。それを実現する上で、地域ごとに健診後の事後システム作りが重要となります。


第2節 5歳児発達相談

軽度発達障害児への気づきには、悉皆の健診が重要であることは第1節に記しました。しかし、悉皆の健診が困難であるという場合も少なくありません。とくに人口の多い自治体では健診にかかる費用あるいは医師などの専門職の確保など未解決の問題が多く存在します。

そこで、悉皆の健診が困難な場合には、とくに希望者だけを対象とした5歳児発達相談という方法もありますので、実例を挙げながらポイントを示します。

1.実施に向けた準備

5歳児健診と同様に実施主体の保健師に向けた講習のほかに、発達障害の診断が的確にできる経験豊富な医師の協力が必要になります。発達相談では、ほぼ診察室と同等の診察技術と判断力が求められることが多いからです。

また、受診希望者を募る準備が必要になります。この場合に保護者が進んで受診を希望されることもありますが、保育所や幼稚園の先生が保護者に受診を勧めたことがきっかけとなって受診するということも少なくありません。後者では発達相談のお知らせを定期的に市報等で行うとともに、別途、チラシなどを作成して、どのような幼児が対象の発達相談なのか、受診すると子どもにどのようなメリットがあるのかなどを保育所や幼稚園に明確にお知らせする必要があります。

例えば「注意欠陥多動性障害」といった疾患名を出すのではなく、行動特性の例を挙げて、小児科医などの医師による相談であることを明記したチラシを定期的に保育所や幼稚園を通じて保護者に配布してもらうなどの手立てがあります。

鳥取市が行っている5歳児発達相談を例にあげますと、保護者が自ら受診を希望される割合は3割を越えています。保育所や幼稚園の先生から受診を勧められた場合でも、それは一つのきっかけであって、受診時には保護者自身に受診に対する明確な意志が存在することも分かっています。

2.健診の実際

(1)対象年齢

厳密に月齢まで限定する必要はありませんが、「5歳台の幼児を対象とする」というだけでは、子どもの誕生日によっては就学直前の幼児までが対象に含まれてしまいます。できれば就学の1年以上前に実施できることが望ましいので、前項のチラシの配布を保育所や幼稚園の4歳児クラス(年中組)としておくとよいでしょう。

(2)実施体制と方法

年に2、3回の開催、隔月あるいは毎月の開催など、自治体の人口にあわせて設定することになります。5歳児健診とは違って「何らかの主訴」があって発達相談を受診されるわけですから、一人あたりの時間は健診に比べて格段に長く確保しておく必要があります。一回の発達相談が3時間として場合、数名くらいにとどめておくとよいでしょう。一回あたりの人数が多いと受診者の満足度も下がることが予想されます。

また、病院の受診ではありませんが、発達相談は主訴のある保護者が医師の診察を求めて受診するわけですから、相談を受ける場所は機密性が確保されるなどの配慮も大切です。

診察に関しては5歳児健診と基本的には同じですが、落ち着きがない、会話にズレが生じる、独特のこだわりがあるなどの所見が得られた場合には、それらを問診にて確認することをお勧めします。問診のガイドとして、ADHD-RSやASQの日本語訳版(文部科学省が学校調査で使用したもの)を使うとよいでしょう(資料3−1、3−2)。これらの評価尺度では5歳という年齢は適応年齢となっていませんので、あくまでも問診のガイドとして限定的に活用すべきでしょう。

3.役割分担

(1)保健師

基本的な役割は5歳児健診と同じですが、保育所や幼稚園に5歳児発達相談の案内を行い、その問い合わせに応じるという業務が加わることになります。受診希望が多いときには、あらかじめ受診者を選定するといったことも実際にはあります。この場合には、保育所や幼稚園を訪れて、担当の先生方と相談したり、保護者に会って希望をきいたりして、調整役としての機能も大切になります。

(2)保育士、幼稚園教師

保健センターから配布された発達相談のチラシを保護者に配布し、保護者から問い合わせがあったときには、大まかな相談内容の説明ができるとよいと思われます。

また、多動や集団行動が取れないといった行動は、保育所や幼稚園側が気づいていても、保護者にその認識がないことも少なくありません。保育所としては受診を勧めたいが、どのようにして保護者に話をすればよいのか、ということが大きなテーマとなります。

「これで解決」という妙手はなかなか見つかりませんが、まずは日頃から信頼関係を築いておくこと、日頃から子どもの様子を保護者へ返しておくとともにアドバイスもしておくこと、など日常的な関わりが何よりも大切であろうと思われます。また、保育所や幼稚園での問題行動を指摘するだけでなく、保護者が家庭での行動で思い当たることがあるような例を挙げるなど、共感できるような伝え方を工夫すると良いでしょう。大きな保育所や幼稚園であれば、幼児の発達や発達障害の知識と技能を持った担当者を養成して配置することも一つのアイデアであろうと思います。

学校教育で養成している特別支援教育に強い巡回相談教員のような役割をする幼児版ということになります。

(3)医師の役割

5歳児健診の最大の目的は、「保護者がわが子の発達障害に気づく」ことですが、発達相談では、保護者にある程度の気づきがあることが多いので、医師としての所見を明確に伝えた方がよいと思われます。ただ、疾患に該当する相談例であっても、疾患名まで伝えることは発達相談としては不向きでしょう。認知行動特性を診察する場合に注意すべきことは、時と場所によって所見が違うことがあるということです。発達相談の診察で疾患に該当するという所見が得られた場合には、医療機関や療育機関の外来を案内するなど、次に取るべき行動を明確に伝えるとよいでしょう。

保護者によっては、保護者には気づきがなくて保育所や幼稚園の先生に勧められたので相談に来たという方もおられます。「落ち着きがない」、「独特なこだわりがある」などの医師としての所見を伝えると、「心外である」という反応をされることがあります。このような場合でも、時と場所を変えて診察しましょう、あるいは別の医師による診察を受けましょう、という具合に次につなげる対応方法を伝えるとよいでしょう。大切なことは「気づきの灯」を消してしまわないことだと考えます。

4.保護者へ返すアドバイスの例

発達相談では、保護者に何らかの心配事があることが多いので、診察をしてその所見を伝え、次に取るべき行動を明確に伝えるだけでなく、何らかの対応策をアドバイスすることが求められます。いくつかの例を挙げます。研究班で実施した予後調査アンケート結果より、保護者が困っている代表的な問題行動は[1]落ち着きがない、[2]かんしゃくが多い、[3]指示が入りにくい、の3つでした。これらについてアドバイスを例示します。

[1]落ち着きがない

家庭内で映像や音声刺激の多い環境があれば改善してもらいます。テレビをつけっぱなしにしていたり、好きなだけビデオを繰り返し見るのも好ましくありません。
言葉の発達が軽く遅れがちの子どもにも落ち着きのなさが多く認められます。就寝前に絵本の読み聞かせをすると、大人の言葉に耳を傾ける習慣が身につき、また、言葉の力も伸びてきて落ち着きが出てくることがあります。

[2]かんしゃくが多い

幼児が自己主張する力は3歳過ぎから急速に発達しますが、自己抑制する力は3歳過ぎより7歳頃までゆっくりと発達するようです。両者のギャップが4、5歳頃に大きいため、こうした年齢の幼児でとくにかんしゃくが多いと感じられるようです。まずは経過を見るようにすることも大切なことでしょう。
「いまはできないけれど、繰り返しやっているうちにできるようになる」ことが分かるとかんしゃくは軽くなっていくことが多いようです。こうした見通しを持つ力のことを時間的布置と呼びます。5歳半を過ぎると布置する力が身についてきます。布置の力が身につくように、見通しを持たせるような教示や指導を行うとよいでしょう。

[3] 指示が入りにくい

指示が入りにくいという行動が見られるときには、まず言語理解が充分に発達しているかどうかについて見ておく必要があります。意味理解が不充分であれば指示が入らないのではなく、指示が分かっていないということになりますので、分かりやすい指示を出す工夫が求められます。
「巻き込み」と称される行動を取るために指示が入りにくいことがあります。巻き込みとは、良くない行動を子どもが行ったときに、大人が「あらあら、だめだめ」と反応させられてしまうことを言います。ちょっとだけ良くない行動だと、「仕方がないわねえ」という気持ちとともに「だめだめ」という言葉が表出されます。これが子どもにとっては面白くてたまらないということになります。この場合、子どもが見たいのはそうした大人の反応なのです。子どもが行ったことに「いちいち反応してしまって」、見事に報酬系が成立し、子どもの術中にはまってしまっているということなのです。「ちょっとだけ」良くない行動なので、半ば許す気持ちを持ちつつ、禁止の言葉である「だめだめ」を言っていると、「だめだめ」は「よしよし」になってしまうのです。このように良くない行動に対する叱責が報酬として成立している場合には、良くない行動に対して無視すること、反応しないことがもっとも効果的です。「叱らない」と同じことではないので注意してください。声をかけること、顔をしかめること、ときには目を合わせてにらむことすら、報酬となってしまいます。ですから、「わざと良くない行動を取っているな」と感じたら、その場をさっと切り上げて別のところへ移動する、別な話に切り替える、目線をはずすなど、切り替えをうまく行うことをお勧めします。子どもが幼いのであれば、やっても良い行動にすり替えを行うといっそう効果的です。

5.5歳児発達相談の実績

鳥取市が実施している5歳児発達相談では、軽度MR児は38.8%、ADHD児が25.4%、HFPDD児が10.4%、LD疑い児が1.5%でした。

これらのうち、3歳児健診にて発達上の問題が指摘されず、5歳児発達相談で初めて気づかれたのは、軽度MR児の38.5%、ADHD児の58.9%、PDD児の42.9%、LD疑い児の100%でした。3歳児健診にて発達上の問題が指摘されたものであっても、ほとんどが言語発達上の問題であることも判明しました。

5歳児発達相談においても、本研究で対象としている軽度発達障害児(疑いを含む)が受診しており、その数は鳥取市の出生数から換算しておおよそ1%であると推計されます。5歳児発達相談は軽度発達障害児の発見に確実に寄与していますが、その割合はおおよそ1/6程度と推測されます。そしてこれらの約半数は現行の3歳児健診で何の問題点の指摘もされていませんでした。

6.まとめ

5歳児発達相談には、軽度発達障害と診断されるあるいは疑いの児童が高率に受診してきますので、も度発達障害児に対する気づきは可能です。しかし、悉皆でおこなう5歳児健診で見いだされる軽度発達障害児のおおよそ1/6程度の子どもに気づいてやれる程度に留まります。したがいまして発達相談よりは悉皆の健診が実施できる体制が望ましいと思われます。


第3節保育所・幼稚園での健診

1.保育所・幼稚園での健診の意義

5歳児健診を軽度発達障害児への気づきの場として位置づけるとしたとき、こうした発達障害児の行動特性に気づくためは、集団行動の観察が重要になります。「幼稚園、保育所に相談担当者が出向き、そこで、事前に保護者に記入していただいた問診票を参考に、5歳児(年中児)の教室で子どもたちの行動を実際に観察し、発達状況を確認し、その後、保護者や園の先生方と話し合いを行い、事後の対応を考えていく」という形式の訪問型健診システム(図3−1)では、子どもの集団行動場面の様子を観察することが可能となり、ひとつの重要な健診スタイルであるといえるでしょう。表3−3にその利点をまとめてみました。


健診チーム
・医師
・保健師
・心理士
・その他
矢印 幼稚園・保育所へ出向き行動観察

・子ども
・幼稚園教師、保育士
・保護者
 図3−1 訪問型健診

表3−3 保育所・幼稚園での健診の利点
・子どもたちの集団行動の場面を観察できる
・保育所、幼稚園の先生方と直接相談できる
・子どもの様子を他の子どもと比較しながら観察できる

2.実施に向けた準備

保育所・幼稚園での健診を実施する際に、問題となることは、表3−4に挙げた3点です。健診担当者、とくに保健師が、市町村の母子保健行政と児童福祉行政の連携の鍵となります。訪問型健診を行う場合、従来の集団健診に比べ健診回数が多く、専門スタッフの確保が大きな問題となります。とくに人口の多い都市の場合、保育所・幼稚園の数も多く、実施に当たっては、多くの工夫と努力が必要となるでしょう。栃木県大田原市の場合は、市内の医療福祉系大学内にあるリハビリテーションセンターと言語聴覚センターの小児科医師、大学教員の協力、以前、児童相談所に勤務し地域の事情に詳しい心理士の協力が健診を実施することが出来た大きな要因となりました。5歳児健診は、3歳健診までに発達の問題を指摘されなかった軽度の発達の遅れ、偏り、対人関係の問題を明らかにすることが目的となりますし、就学も控えていますので、問題を指摘された子どもの保護者の気持ちを支え、子どもの発達を具体的に支援する地域のネットワークが必要となります。



表3−4 保育所・幼稚園で5歳児健診を実施するための必要事項
[1] 健診担当者は、精神運動面、情緒発達面における5歳児の正常発達を十分理解し、また発達障害に関する知識があり、保育所・幼稚園の現状を知っていること。
[2] 健診に協力できる医師、臨床心理士、言語聴覚士などの専門職が確保できること。
[3] 地域に健診後の子ども、保護者を支援するネットワークがあること。

3.健診の実際

保育所・幼稚園での健診の内容は、[1]問診票の確認、[2]保育場面の観察、[3]保護者との個別相談、[4]処遇検討、[5]保護者への結果説明から構成されています。実際の健診の流れは図3−2に示しました。また、健診のお知らせチラシや問診票や結果のお知らせといった資料(3−3、3−4、3−5)を載せていますので参考にしてください。



図3−2 保育所・幼稚園での健診の流れ図

市町村保健センター保健師
保護者への5歳児健診実施についての周知
(対象:年度内に5歳になる幼児全員)
下
保育士・幼稚園教師
説明用紙・相談票を保護者へ配布
下
保護者
相談票を記入
下
保育士・教師が相談票を回収し、保健師が内容を確認
し、要観察児をリストアップ
下
健診日
保護者:保育場面観察、医師・保健師等と面接
保育士・教師:情報提供、保育の実践
医師、保健師、心理判定員等:相談票の内容確認、保育場面
観察、保護者と面接
下
カンファレンス(処遇検討)
保育園・幼稚園での支援についての助言・指導
振り分け(今回のみ指導、経過観察、相談機関・医療機関へ紹介)
下
保健師による保護者への結果説明
下
保護者による相談機関・医療機関への相談

4.役割分担

(1)市町村保健師

[1]健診前日まで
5歳児健診の事業内容を保護者、保育所・幼稚園に周知します(市町村の広報で周知、保育所・幼稚園で年中組に進級したときに連絡、健診票と合わせて説明文書を配布するなど)。
保育所・幼稚園、健診担当者と相談し日程を調整します。
相談票を作成し、保育所・幼稚園に保護者への配布を依頼します。
相談票を保育所・幼稚園から回収し、内容を確認する。過去の健診データ等の情報を確認します。
[2]健診日
担当者の役割分担、観察ポイント等を確認します。
集団活動場面を観察します。
健診後に保育士・教師、健診担当者と児の振り分けをします。
「相談機関・医療機関紹介児」に対して、保護者の同意を得た上で、医師、心理等と相談し紹介状を作成します。
「要観察児」、「相談機関・医療機関紹介児」の住所が、幼稚園・保育所所在地と異なる場合、保護者の同意を得た上で、居住する市町村の保健師へ情報を提供します。
[3]健診後
健診後に、保護者へ健診結果を説明する。(保護者全員に対して、文書で結果を返し、「要観察児」、「相談機関・医療機関紹介児」に対しては保育所・幼稚園と協力し直接、保護者へ説明します。)
健診後、健診担当者と協力し、保育所・幼稚園へ事後指導を行います。
相談票を保管します。
健診結果をまとめ、関係者会議で公表し、健診への協力を求めます。

(2)保育士・幼稚園教師

[1]健診前日まで
相談票を保護者へ配布します。
相談票を保護者から回収します。
相談票の内容を確認し、保育者・教師から見た児の状況を再チェックします。
相談票を保健師へ渡します。
気になる保護者に健診への同席を呼びかけます。
[2]健診日
健診担当者へ要観察児の状況、同席する保護者を報告します。
児への集団活動を指導します。
健診後に、健診担当者と健診結果を相談します。
[3]健診後
健診後に、保護者への健診結果の説明を行います(保護者全員に対して、保健師の作成した文書で結果を返し、「要観察児」、「相談機関・医療機関紹介児」に対しては保健師と協力し直接、保護者へ説明します)。
健診後に、健診結果を参考に、園児への指導を行います。
関係者会議に出席する(関係者会議へは園長など責任者が出席するのが良いでしょう)。

(3)健診医師、心理判定員、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など健診担当者

[1]健診前日までに
市町村保健師と健診日を打ち合わせます。
[2]健診日
保育士・教師、保健師から要観察児の状況を聞き、役割分担を確認します。
集団活動場面を観察します。
必要により個別に問診、診察、観察を行います。
健診時に、保護者と面接を行います。(図4)
健診後に、保育士・教師、健診担当者と児の振り分けを行います。
「相談機関・医療機関紹介児」に対して、保護者の同意を得た上で、保健師医師と相談し紹介状を作成します。
[3]健診後
関係者会議へ出席します。

5.保育所・幼稚園での健診の工夫

集団行動を観察するための工夫を以下のようにまとめました。

行動観察の前に、園の担当保育士、教師から(教室を抜けられない場合は、園長や主任の先生から)、健診対象児童(年中児全員)の名簿をいただき、様子を聞いて、メモをとっておくとよいでしょう。軽度発達障害のある児童の発見のためには、健診の場面ばかりではなく、事前に子どもたちに日常の様子をよく知っている保育士や教師と充分な意見交換を行っておくことが必要となります。
子どもの顔と名前が一致するように、園にお願いして、子どもたちに名札を付けてもらう、行動観察の間に名前を呼んでもらうなどの工夫をするとよいでしょう。集団での行動観察では、名簿に服装、体格などをメモして個人識別を正確に行うことが必須です。
健診担当者はそれぞれが、クリップボードに健診対象児の名簿を挟んで、行動観察で気になった子どもの気になった内容を記入していくとよいでしょう。
行動観察の時は、クラス全体で身体を動かす活動と、机上で座って行う製作課題の両方が含まれると子どもの様子がよくわかります。
行動観察は、園庭での行動より、教室内での行動のほうが観察しやすくお奨めです。運動会の練習などを活用して集団観察を行うということも考えられますが、子どもの数が多くなりすぎてわかりにくくなりますので、避けた方がよいでしょう。
なるべく普段の行動の様子がわかるように、健診担当者は、行動観察中、子どもたちの活動の邪魔にならないようにしましょう。
行動観察後、健診担当者、園の担当保育士、教師(教室を抜けられない場合は、園長や主任の先生から)と、観察した内容を話し合うとよいでしょう。メモした名簿は、担当保健師がまとめて保管するようにします。集団観察を実施したからといって、必ず行動特性を特定できるわけではありません。特定の集団保育の時間の観察のために、必ずしも子どもの問題行動を明らかに出来ないこともあります。
他市町の保育所・幼稚園への通園児や在宅の児は、後日、健診日を決めて保健センター等で集団健診を行うとよいでしょう。

6.事後指導

健診で、「要経過観察」、「相談機関・医療機関紹介」となった子どもたちについては、健診当日あるいは後日、保護者へ直接、あるいは文書で丁寧に説明します。
後日、保健師等は、園を再度訪問し、子どもたちや保護者の様子を確認し、保育士、教師と相談します。大田原市では、保健師と心理職員が一緒に再度訪問し、園に対するアドバイスを行っています。
効果的な健診、事後指導を可能にするためには、地域の子どもの発達を専門的に相談、診察可能な相談機関、医療機関についての情報、また療育指導を受けることができる施設の情報を保健師など健診担当者が十分に把握しておくことが必要です。

7.保育所・幼稚園での健診の問題点

 訪問型健診では、前述したように多くの利点がありますが、一方では今後、いっそうの工夫が必要となる問題点もいくつか挙げられます。
5歳児健診の保育所・幼稚園での実施について十分周知されていない。
健診の場に保護者が不在の場合は、要経過観察児の問題点が保護者に伝えにくい。
健診で問題が明らかになるのを、就学を心配して慎重になる保護者がいる。
健診後の幼稚園・保育園での対応に対する支援が不十分な場合がある。
健診、その後の保護者との連絡など担当する保健師の負担が大きい。
人口が少なく、園の数も少ない場合には、このシステムで健診を行うことが可能だが、人口が多い市で実施することは専門スタッフの確保ができなくなる懸念がある。また、保健師の仕事量が増える。

第4節 地域特性を生かした健診

5歳児健診は基本的に市町村が実施主体となって行われるとよいのですが、地域によっては療育体制に歴史的な経緯が存在するところもありましょうし、市町村よりも広域圏で行われている地域特有のシステムなどもあるとおもわれます。そこでそうした既存のものを活用して軽度発達障害児に対する気づきを高めるという方法も一手ではないかと思われます。

ここでは、山口県における「療育相談会」の活用と福岡県久留米市保健所にける「気になるお子様相談」の活用例を紹介します。

1.療育相談会の活用

(1)はじめに

山口県には障害児療育の核となる総合療育センターがないため、障害児の早期発見や早期療育への助言・導入についての公的なシステムは、非常勤の専門職により月に1度(事務局単位で、市町村レベルでは2ヶ月〜6ヶ月に1回程度)開催される山口県心身障害児総合寮育機能推進事業(通称は総合療育システム)の中で実施される療育相談会が中心となっています。心身障害児の発見支援事業として県内各市町村を網羅している「療育相談会」を応用して、軽度発達障害の発見支援機関として占める役割について記します。

(2)総合療育機能推進事業

山口県では、昭和56年度から心身障害乳幼児の早期発見、早期療育を目的とした総合療育機能推進事業(通称;総合療育システム)が開始されました。総合療育システムにより保健・医療・福祉・教育などの関係機関のネットワークによるシステムを構築してきました。平成3年度には山口県下全域をカバーする機能を備えました。今後は関係機関の連携強化による相談指導体制の確立や関係事業の充実を図ることが課題と言われています。

事業内容としては、療育相談会と処遇を検討するシステム会議から構成されていますが、現実には相談会当日に事例検討を行い、処遇方針を決定しています。担当部局は山口県障害福祉課で、事務局は県内4つの児童相談所(山口中央、下関、周南、萩)が行っています。

(3)宇部・小野田地区療育相談会の実情

[1]処理能力

「宇部・小野田地区療育相談会」を例に療育相談会について詳しく解説します。「宇部・小野田地区療育相談会」の概要を表3−5に示しました。「宇部・小野田地区療育相談会」が対象とする地域は宇部市、小野田市、美祢市、阿知須町、楠町、山陽町、美東町、秋芳町であり、対象地域の背景人口285,576 人(平成16年8月1日現在)です。平成16年度の開催頻度と処理件数は図3−3に示しました。18万人の背景人口を持ち、年間5回の相談会を開催している宇部市でも年間処理件数は44件で、新規相談は26件しか対応できていません。これは5歳健診の対象年齢の0.41%しか扱えていないことになります。



表3−5 宇部・小野田地区療育相談会の概要
対象地域
宇部市、小野田市、美祢市、阿知須町、楠町、山陽町、美東町,秋芳町
 対象地域の背景人口;285,576人(平成16年8月1日現在)
開催頻度(/年) 回数  受付(新規)
宇部(宇部市・阿知須町:181,224人)
小野田(小野田市:44,677人)
厚狭(山陽町・楠町:29,393人)
美祢(美祢市・美東町・秋芳町:30,282人)
5回   44件(26件)
3回   19件(9件)
2回   10件(5件)
2回    8件(4件)


[2]サービス内容

療育相談会の流れを図3−3に示しました。宇部・小野田地区療育相談会の担当者は小児科医、精神科医、整形外科医、理学療法士、ことばの教室担当教諭、保健師(県、市町村)、児童相談所心理判定員、障害児(者)地域療育等支援事業コーディネーター、市福祉事務所・社会福祉事務所職員です。相談会は市町村の保健センターを会場とし、担当者は現地に集合して、相談会に参加するという形をとっています。相談会終了後に、事例検討会を行い、処遇先を検討するという手順となっています。



図3−3 宇部・小野田地区療育相談会の流れ図
図3−3 宇部・小野田地区療育相談会の流れ図

(4)療育相談会の軽度発達障害の発見支援機関としての機能

[1]相談の契機、発見機関

療育相談会への参加は基本的には、希望者があれば利用可能です。相談の契機、発見機関を図3−4に示します。現状は相談時の年齢別にみると3歳代は3歳健診が多く4歳以降では幼稚園・保護者が中心となっていました。



図3−4 新規相談児の年齢と発見機関との関係
図3−4 新規相談児の年齢と発見機関との関係
[2]相談の内容

相談内容は、3歳代では多動を主訴とするものが多いのですが4歳以降になると多動以外の行動面の問題とこだわりが多くなっています。言語はすべての年齢で気づきのきっかけになっていました。

[3]イージーアクセス

利用者にとっては、相談会は居住地の保健センターで開催されるので、アクセスが容易でかつ、病院とは異なり敷居が低く利用しやすいようです。

[4]専門性

開催地により出入りはあるが、小児科医、精神科医、整形外科医、理学療法士、ことばの教室教諭、保健師(県、市町村)、児童相談所心理判定員、障害児(者)地域療育等支援事業コーディネーター、市福祉事務所・社会福祉事務所職員を専門職として動員できており、軽度発達障害の診断支援に必要な専門性は十分に確保できているといえます。

[5]対象児の診断・判断

平成17年度の実施結果より、新規利用者の障害診断を図3−5に示します。広汎性発達障害(PDD)が過半数を占め、PDDが最も多く、高機能広汎性発達障害(HFPDD)、特定不能の広汎性発達障害(HFPDD)と続いています。4歳以上の新規利用者9人中、小児科相談にまわった7人のうち、PDD群(PDD1人、HFPDD1人、PDDNOS1人)は3人(42.8%)、知的障害3人、学習障害1人でした。広汎性発達障害児が多く相談にきていることがわかります。



図3−5 新規相談者の診断・判断
図3−5 新規相談者の診断・判断
[6]処遇

処遇療育機関としては低年齢では知的障害通園施設への母子通園が療育の中心ですが、対象児の年齢が3歳代後半からほとんどの例で保育園や幼稚園を利用しており、ことばの教室やデイ・ケア事業での指導が処遇の中心となっています。

[7]地域との連携

原則として地域に存在する保健・医療・福祉・教育の各領域の人材を登用するため、地域の特性や実情に併せた情報提供と支援が可能になり、地域密着型の支援ができていると考えられます。とくに障害児(者)地域療育支援事業によるコーディネーターはほとんどのケースで関与しており、保育園や幼稚園と専門指導機関との連携や就学支援のキーパーソンになっていました。

[8]経済性

既存の施設・機関を利用するため、新規投資がかからず、医師を含む専門職も非常勤雇用・兼務で実施するため、財政負担が少ないという利点があります。

(5)現状の課題と問題点

[1]恒常性と人材確保

既存の施設や組織を使いますので、本来の業務を圧迫する心配があります。また利用者への対応も開催頻度が数ヶ月に1回となるため、人的にも時間的にも十分な対応がととれないことや、専門職の非常勤雇用も経済効率は良いが、実際に専門職(特に医師)確保が困難なことなど、現実的に多くの問題点が挙がってきます。

[2]処理能力

総相談件数は対象就学前人口の0.32%で、新規相談件数は0.18%でした。4〜5歳児に着目すると対象人口の0.41%しかカバーしていないことになり、新規相談件数は対象人口の0.26%でした。2003年に示された軽度発達障害の頻度6.3%から考えて、実際に存在するであろう軽度発達障害児の約5%に対応できているに過ぎないことになります。

[3]診断について

総合療育システムの特色はイージーアクセスにありますが、利用しやすい反面、医療機関ではないため、利用者に診断つまり障害告知を受け止めるだけの準備状態が無いことがほとんどでして、疾病や障害の診断をしようとした際には、「相談」にきた相談者と認識の違いから、診断の受容が円滑にいかないことも多くあります。

(6)対象児特性からみた療育相談会の役割

処理件数は少ないが、保護者の気づきを支援につなげる場として、療育相談会は充分な機能をもっていることが明らかになりました。とくに対象児の7割弱が初回相談で広汎性発達障害の診断がついていることから、療育相談会は処遇の困難なケース、とくに保護者の認識と幼稚園・保育園の認識が一致せず、具体的の日々の環境適応が困難なケースが相談に上がってくる可能性が高いと考えられます。処理件数に限界があり療育相談会は軽度発達障害児のスクリーニングとしての機能を果たすことは困難だが、障害判断が困難だったり、保護者の認識と幼稚園・保育園の認識が一致しなかったりするような単一の専門職だけの対応では処遇の困難なケースの支援機関として有効に機能していることがわかります。

(7)まとめと今後の課題

総合療育機能推進事業(総合療育システム)は3歳児健診以降の障害の発見支援機関として機能を果たしており、4歳以降の軽度発達障害の気づきと支援の場として機能していることが明らかになりました。療育相談会での示された方針により、地域の療育資源を有効に利用しながら、軽度発達障害児の就学支援を行うことが可能であると考えられます(図3−6)。しかし、現状の総合療育機能推進事業(総合療育システム)では処理できる相談件数に限界があることがもっとも大きな問題点であろうと思われます。現状の療育相談会では軽度発達障害児の約5%にしか対応できていませんので、療育相談会だけで全ての軽度発達障害児の就学支援を行うことになると、現状の20倍の労力が必要になります。今後の方向性として療育相談会を20倍の規模にするのは財政的に人的資源の上でも困難であるため、これからは療育相談会を支援の複雑はケースに対する療育支援の3次機関と位置づけ、診断精度の確保や具体的支援プログラムの作成にはこだわらずに、スクリーニング機能に特化した健診事業を立ち上げ、療育相談会をはじめとする既存の相談事業との連携を模索していくことが必要だと考えます。



図3−6 総合療育システムを利用した軽度発達障害の発見・支援体制
図3−6 総合療育システムを利用した軽度発達障害の発見・支援体制

2.保健所を利用した軽度発達障害児の早期発見システム

(1)「就学前の気になるお子様の相談」スタートの背景

福岡県久留米市では、1歳半、3歳児集団健診が久留米保健所(現久留米保健福祉環境事務所)で行われていた時代がありましたが、現在は開業医による個別健診で行われています。3歳児健診が終了して就学にいたるまでの間に、保育園・幼稚園あるいは保護者が「子どもが気になる」と久留米市幼児教育研究所や久留米大学病院を訪れるケースが多数あることを実感していました。しかしながら、大学病院を受診することは、保護者にとって敷居が高く、また予約が殺到していて初診まで数か月かかるという状況の中、不安の中で過ごす保護者も多かったことと思います。そこで、従来から行っていた久留米保健福祉環境事務所の「ことばの相談」(スピーチ専門の耳鼻科医が担当)とは別に、平成12年に「就学前の気になるお子様の相談」をスタートしました。

まず、年度初めに保育園・幼稚園、乳幼児健康診査担当医師に気になる子どもの具体的症状について記載したチラシ(資料3−6)を配布して広報してもらい相談を呼びかけました。相談は、年に4回(平成16年度から隔月開催)、本相談の特徴は、(1)可能な限り保護者と園関係者一緒に来所してもらうこと、(2)保健師、小児神経科医、心理士(平成15年までは作業療法士も参加)それぞれが相談にかかわること、(3)診断をつけるのが目的ではなく、困っている問題に対する対応をアドバイスし、今後の見通しをつけることにあります。事後処置としては、電話フォロー、継続相談、医療・療育機関紹介などが可能です。

平成15年度の4回の相談での新規相談件数は16名でした。年齢分布は、4.4〜5.5歳(平均年齢は5歳)が70%を占めます。紹介元は、保育園・幼稚園からが7名(44%)、開業医から4名、同じ保健福祉環境事務所の「ことばの相談」から3名、保護者から直接が1名、他市町からの紹介1名でした。最も多かった主訴は、「多動」で9名、次に「全体的な発達の遅れ」3名、「対人関係の乏しさ」2名、「集団参加ができない」2名の順番でした。相談を受けた子どもの最終診断は、ADHD、精神遅滞を伴う自閉症、アスペルガー症候群、言語性LDなどでありました。平成16年度も年齢や主訴は、ほぼ同じで、「就学前の気になるお子様の相談」にみえる子どもに、軽度発達障害の子どもが多数存在することがわかりました。年間25名程度の子どもの相談にあたっています。

(2)5歳児健診システムの導入

平成17年度からは、「軽度発達障害児の発見と対応システムおよびそのマニュアル開発に関する研究」班で小枝らが開発した5歳児健診の問診フォームや医師診察法を導入することにより、統一した客観的な方法で相談と診察を行うことができるようになりました。平成17年6月から11月の相談者11名中、年齢が5歳前後の8名(年齢:4歳5か月〜6歳5か月)に5歳児健診の方法で健診を行ったところ、8例とも診察あるいは問診項目を通過できず、軽度発達障害が疑われました。「就学前の気になるお子様の相談」で現在行っている相談・健診の流れを示します。

[1]電話による相談申し込み(保健師が対応):主に相談したい事を確認します。
[2]相談当日、問診フォームを用いて保健師がさらに発達歴等を聴取、保育士も同伴していることが多いので、保育園での問題点も確認できます。
[3]問診中、子どもは母親が見えるところで、別の保健師や他の子どもと遊びます:医師も行動観察が可能(特別な行動観察フォームは使用していませんが、気になった行動をカルテに記録します)
[4]医師診察(保育士も同伴)。4歳半〜6歳の子どもは5歳健診の診察法で診察
[5]心理士による相談:必要に応じて発達検査(田中ビネー知能検査)
医師は、問診、診察、行動観察、保育士からの情報をもとに問題点を明らかにし、家庭や保育園・幼稚園での対応についてアドバイスをします。心理士は、保護者の悩みについて相談にのり、発達評価を行います。ほとんどの子どもは、発達障害が疑われる子であるので、発達検査はほぼ全例に行っています。心理士は、発達障害の診療に慣れているベテランであり、子どもの発達特性に応じたアドバイスが可能です。
[6]それぞれの相談終了後、保健師、心理士、医師がカンファランスを開き、今後の対応、事後処置について話し合います。母親への育児支援継続が必要な場合、主に保健師がフォローします。
具体的症例については、第六章で提示します。

(3)「就学前の気になるお子様の相談」の利点、欠点

「就学前の気になるお子様の相談」の利点としては、無料で相談しやすい、多職種の専門家が相談にあたる、保育士と保護者間で問題の気づきに差がある場合にうまく調整が可能(ほとんどは保護者に気づきが乏しい場合が多いですが、逆の場合も経験あります)、気づく保育士を育てる場でもある、育児支援のため保健師によるフォローが可能なことなどである。欠点としては、半日の相談で1日に3〜4名しか相談にのれないこと(年間25名程度)、教育関係のスタッフがいないため、教育相談には十分対応できないことです(実際は、医師が教育相談にのっています)。なお、久留米市のもう一つの重要な相談機関かつ療育も行っている久留米市幼児教育研究所は、スタッフに特別支援教育に詳しい教諭がいるため、教育相談にも対応可能です(無料、医療相談もあり)。

(4)サポートブック「にじいろノート」(巻末資料)

久留米市幼児教育研究所では、就学前の成長・発達や療育の記録を「サポートブックにじいろノート」にまとめ、就学へつなげるようにしています。就学前の貴重な発達・成長、療育の情報が小学校にうまく伝わらないという保護者の意見から出たアイデアです。保護者の承諾のもと、保護者と療育スタッフの協働作業で作成され、保護者が保管し、保護者が学校関係者に「にじいろノート」を見せて、情報を共有します。この情報は、個別の教育支援計画を立てる上で大いに役立ちます。巻末に「にじいろノート」の雛形を掲載します。ファイルブックに保存すると、ファイルの追加、写真や心理・発達検査の結果コピーを保管することも可能です。

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