第5回「中国残留邦人への支援に関する有識者会議」

日時:平成19年6月12日(火)16:00〜
場所:厚生労働省「共用第8会議室」


議 事 次 第

1. 開 会

2. 報告書(案)について

3. その他

4. 閉 会

(照会先)社会・援護局援護企画課
中国孤児等対策室 電話03-5253-1111(内線3416/3417)


中国残留邦人への支援に関する有識者会議資料
平成19年6月12日 資料

中国残留邦人に対する支援の在り方について(案)

平成19年6月12日

中国残留邦人への支援に関する有識者会議


先の大戦の終結に伴い、海外にいた約630万人の在外邦人は、本邦への引揚げを余儀なくされたが、そのほとんどは昭和20年代前半までに引揚げを終えた。

これに対し、旧満州地域(中国東北地区)に開拓団などで居住していた者は、昭和20年8月のソ連軍の対日参戦により、多くの者が家族と死別し、あるいは離別するなどして中国にとどまることを余儀なくされ、戦後も中国との国交正常化までに長期間を要したことに加えて、その後の引揚げも必ずしも順調ではなく、帰国の時期が大幅に遅れた人が多く、このため、これらの人々は、帰国前のみならず、帰国後も、他の引揚者とは比較できない多くの困難を経験することとなった。これが、中国残留邦人の問題である。

内閣総理大臣からの「法律問題や裁判の結果は別として、中国残留邦人への支援の在り方について、その置かれている特殊な事情を考慮して、与党ともよく相談しながら、誠意を持って対応するように」との指示を受け、厚生労働大臣から、当会議に対し、検討の要請があった。

当会議は、これを受けて、平成19年5月17日以来5回にわたり、中国残留邦人が「日本に帰ってよかった」と思えるように、また、「日本人として尊厳を持てる生活」を確保するという観点から、検討を重ね、中国残留邦人に対する支援の在り方について、以下のとおり取りまとめた。

当会議としては、国民の皆様に、先に述べた中国残留邦人問題が生じた経緯と、その後遭遇した困難な状況を十分理解し、中国残留邦人が尊厳を持って我が国社会で暮らしていけるよう、支援していくことが何よりも重要であることを強く訴えたい。

また、国に対しては、国民の理解を深めるために率先して努力するとともに、本提言を踏まえ、具体的な支援策を早急に策定することを強く求めたい。

1 中国残留邦人問題についての基本的考え方

○ 中国残留邦人は、長期にわたって帰国がかなわず、帰国後も生活が困難な状況にあり、現在は高齢に達している。このような中国残留邦人の現状をみるとき、中国残留邦人が老後の生活の安定を求めていることは、十分理解できる。

○ 中国残留邦人に対して何らかの新たな生活の支援が早急に必要であると考えるが、その支援は、どのような考え方に基づいて行われるべきものであろうか。

○ 中国残留邦人は、自己の責任によらない事情により帰国後も困難を抱えている。しかしながら、戦争被害への補償という観点で考えた場合、他の様々な戦争被害者との均衡の問題が生じるので、別の観点から検討すべきである。

○ 改めて中国残留邦人の状況について考察すると、中国残留邦人は、

(1) 一般の引揚げより帰国が遅れ、長期にわたって中国に残留を余儀なくされたため、日本人としての義務教育を受けるチャンスがないまま、帰国後の生活を始めざるを得なかった。そのこともあって、多くの人が今日においても日本語が不自由な状態にある、

(2) 帰国が遅れたために、他の引揚者と異なり、戦後日本が体験した高度経済成長の恩恵を享受することができず、老後の生活への備えができないまま、現在既に高齢に達している

ところに、その状況の特別性があるのではないかと考える。

○ 中国残留邦人への支援については、これまで様々な対策が行われてきたところであるが、結果からみると、これまでの対策は十分ではなかったと言わざるを得ない。その理由は、中国残留邦人が置かれてきた特別な事情に的確に対応してこなかったことにあろう。国においては、その反省に立って、今後の中国残留邦人への支援に当たる必要があると考える。

○ したがって、今後は、中国残留邦人が置かれてきた特別な事情に由来する不利な状況について、埋め合わせを行い、いわば原状を回復するという観点から、新たな支援策を講ずるべきであり、そのことについては、十分国民の納得が得られるのではないかと考える。

○ 一方、中国残留邦人が望む「老後の生活の安定」については、国民も同様に自らの老後の生活の安定を望み、国民それぞれがそれに向けて努力をしているところであり、中国残留邦人への支援を行うに当たっては、一般国民が享受している様々な給付とそのために自ら必要な負担をしていることについて留意し、施策の均衡に十分配慮することも必要である。

2 中国残留邦人への支援の方法

(公的年金制度における支援)

○ 中国残留邦人の老後の生活の安定のためどのような支援ができるかを考える場合、我が国においては公的年金制度が老後の所得保障の基本であることからすれば、まず公的年金制度の活用が中国残留邦人に対してどのような役割を果たせるのかが検討されるべきである。

○ 中国残留邦人については、現在、帰国前の公的年金制度に加入できなかった期間については満額の3分の1の老齢基礎年金(国庫負担相当分)を保障する等の特例措置が行われている。中国残留邦人の帰国前の公的年金制度に加入できなかった期間の平均は、25年間となっており、この期間について残る「3分の2の部分」の老齢基礎年金を得るためには、この期間について保険料を追納しなければならず、さらに40年分に相当する満額の老齢基礎年金を得るためには、帰国後の期間についても保険料を納付する必要がある。しかし、中国残留邦人は、日本語が不自由であることなどにより帰国後も十分就労できない状況にあったことから、帰国前の期間の保険料を追納できないばかりか、帰国後の期間についても保険料を十分納めることができなかったため、その年金額は十分なものとは言い難い水準である。

○ したがって、公的年金制度を中国残留邦人に対して機能させるため、

(1) 過去の期間についての保険料の追納を特例的に認め、追納を認める期間は、中国残留邦人の帰国前の公的年金制度に加入できなかった期間だけでなく、帰国後の期間も含めることとし、

(2) このような保険料の追納のためには、満額の老齢基礎年金を受給するために必要な、最大で過去40年分の保険料すべての負担が必要になるが、中国残留邦人の多くは追納保険料を負担することができないと考えられるため、必要な額は国において負担することとすれば、

満額の老齢基礎年金を実現することができるものであり、それが有効な方法と考えられる。

○ この特例措置の対象者については、帰国時期が遅れたこと、我が国の高度経済成長の時期や公的年金制度の開始時期を考慮し、昭和36年の国民年金制度発足時以後に帰国した者を対象とすることが考えられる。なお、特例措置の実施に当たっては、既に保険料を自ら拠出した者の取扱いをどうするかについて、検討が必要である。

○ このような老齢基礎年金についての特例措置は、帰国後の期間についても国が保険料を負担するという点で、北朝鮮拉致被害者やその他に対して行われている老齢基礎年金についての特例措置よりも手厚い措置であるが、全国民共通の給付である老齢基礎年金の仕組みを最大限活用して行うものであるという点で、一般国民との均衡上許される最大限の措置と言えよう。

(公的年金制度による対応を補完する生活支援)

○ 一般国民は、自らの老後の生活への備えや老後の生活の基礎的な部分に対応する給付である老齢基礎年金などによって、老後の生活を送ることが想定されているが、それでもなお生活に困窮する場合には、生活保護制度がセーフティーネットとして機能することとなっている。

○ 中国残留邦人についても、これまでその年金額が十分ではないことや、老後の生活への備えができなかったことから、かなりの中国残留邦人が生活保護制度の適用を受けているのが現状である。今般、中国残留邦人について老齢基礎年金を満額支給する措置を講ずることとしても、老後の生活の安定に十分ではない場合が出てくることが想定される。

○ したがって、老齢基礎年金が満額支給されても老後の生活の安定に十分ではない場合には、何らかの仕組みによって補完すべきであると考える。その際、一般に多くの国民が、老後の生活保障の中核である老齢基礎年金に加え、現役時代に形成した資産の活用や、被用者だった者は厚生年金を受給していることも考慮すべきであろう。

○ 中国残留邦人の生活実態をみると、衣食等の生活費に加え、住居費や医療費、介護費用なども必要となっているが、それらを賄う一定額の給付金とするには、相当程度高額の給付金を支給することが必要となると考えられる。他方、一般国民については、公的年金制度以外には生活保護制度しかなく、25年以上保険料を拠出した上で受給できる公的年金の水準などを考慮すれば、中国残留邦人であるからとして一律に相当程度の高い水準の給付金制度を創設することは、著しく均衡を欠くこととなると考える。

○ このため、新たな仕組みは、我が国の社会保障制度における普遍的かつ基本的な制度として位置付けられている生活保護制度に準拠・活用しつつ、できる限り中国残留邦人が置かれてきた特別な事情に配慮したものとすることが必要である。

○ 生活保護制度においては、補足性の原理により収入認定があり、一般国民の場合、公的年金を受給していれば、全額が収入認定され、保護基準の額からその公的年金の受給額を控除した額が保護費として支給されている。中国残留邦人に満額支給することとされる老齢基礎年金についてこのルールを適用すれば、全額が収入認定されることとなるが、今回、老齢基礎年金を満額支給する特例措置を講ずることとしたことを考慮すれば、この収入認定の仕方について一定の配慮をする必要がある。

○ 加えて、中国残留邦人が日本語が不自由であるなどの特別な事情があり、これに配慮した制度運用が強く求められていることからすれば、この際、

(1) 公的年金制度による対応を補完する生活支援の仕組みとしては、生活保護制度とは別途の給付金制度とし、

(2) その給付金については、満額支給される老齢基礎年金と合わせ、受給者の実質的な収入の増加につながるよう、必要な措置をとるとともに、

(3) 制度の運用や実施体制において、極力制約があると感じられることがないような配慮をしていくこと

が必要ではないか。

○ このようにすれば、老齢基礎年金とこれを補完する新たな給付金制度とを的確に組み合わせて生活を支援することが可能となり、その上で更に家賃、医療費、介護費用などの支援を必要とする場合には、その個別のニーズに応じて、住宅扶助、医療扶助、介護扶助などに相当する給付を行うことができる仕組みとすれば、中国残留邦人の老後の生活の安定が図られ、かつ、一般国民への施策との均衡も図られるものとなると考えられる。

3 地域社会への受入れのためになすべきこと

(国民の理解と協力)

○ 中国残留邦人問題の解決に当たっては、冒頭にも述べたように、この問題への国民の理解と協力が不可欠であるが、中国残留邦人が帰国までの間に経験した労苦や、帰国後祖国に定着するために直面した困難について、国民は必ずしも理解と共感を持ち、地域社会に温かく迎え入れているとは限らない。

○ このことが、中国残留邦人の心を傷つけ、この問題を更に深刻なものとしている。当会議としては、国民一人一人が中国残留邦人について関心を持ち、理解に努めるとともに、地域社会においては、中国残留邦人のよき隣人として、また、同じ地域に暮らす住民として、中国残留邦人に対し、祖国に帰ってきてよかったと思えるように温かく接することを望みたい。また、地域社会における様々な活動の担い手であるNPO、ボランティアによる、中国残留邦人への理解や支援に期待したい。

○ 行政においても、改めて中国残留邦人問題への国民の理解と協力を得るための努力を率先して行うべきである。また、そのための取組は、国民の理解と協力が今後も継続的に得られるよう、中国残留邦人の声に耳を傾けながら、継続して行われるべきである。

(地域社会における支援)

○ 中国残留邦人の生活の実態は様々であり、また、中国残留邦人は全国約800の市区町村に分散して生活し、地域性も一律ではなく、中国残留邦人がそれぞれの地域の中で個々に抱えている事情は異なるが、言葉の問題から自分の意図がうまく伝わらないなどの「孤独感」が共通する大きな問題であり、中国残留邦人が地域社会で疎外されないようにしていくことが必要である。また、中国残留邦人の地域社会での生活を考える場合、本人のみならず、配偶者や子、孫などの同居家族の問題も併せて考える必要がある。

○ 中国残留邦人に対する支援として求められる事項として、日本語の習得、二世・三世の就労支援、住宅対策などがあるが、これらの課題は、中国残留邦人ができる限りその地域社会で生活しながら解決していくことが必要である。

○ このため、今後は、中国残留邦人が地域社会に参加し、他のさまざまな地域住民と交流しながら、地域社会の一員として普通の暮らしを送ることができるようにすることを施策の基本とすべきである。また、NPO、ボランティアなどに、このために必要な協力を求めるべきである。

○ 一方で、中国残留邦人が既に高齢化していることを踏まえると、中国残留邦人が集い、中国残留邦人同士が交流する中で安らぎを得ていくという、多文化共生の観点からの方策も含め、幅広く対応を考えていくことも必要である。

○ さらに、中国残留邦人を単に支援の対象としてのみ捉えるのではなく、例えば、中国語の能力を社会において活かすなど、中国残留邦人が持つ能力を発揮する機会をつくることも必要である。

○ 以上にみてきたように、これからの取組は、地域福祉の視点を基本に据え、中国残留邦人の様々なニーズを十分に踏まえながら、より柔軟に、かつ、きめ細かく対応していくことが求められる。

○ また、これらの取組は、一過性のものとせず、中国残留邦人を終身見守るという覚悟をもって行い、中国残留邦人の痛みを理解しながら、同胞として対応していくことが必要である。


中国残留邦人への支援に関する有識者会議名簿

猪口  孝 (中央大学教授)

(座長)貝塚 啓明 (京都産業大学客員教授)

金平 輝子 (日本司法支援センター理事長)

岸  洋人 (読売新聞東京本社北陸支社長)

堀田  力 (さわやか福祉財団理事長)

森田  朗 (東京大学教授・公共政策大学院院長)

山崎 泰彦 (神奈川県立保健福祉大学教授)

(敬称略・五十音順)


中国残留邦人への支援に関する有識者会議開催経緯

第1回  平成19年5月17日(木)
○ 中国残留邦人の現状説明と意見交換

第2回  平成19年5月21日(月)
○ 中国残留邦人及び研究者からのヒアリング

第3回  平成19年5月30日(水)
○ 意見交換

第4回  平成19年6月 7日(木)
○ 論点整理

第5回  平成19年6月12日(火)
○ 報告書とりまとめ


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