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滅菌消毒業務の委託に関する報告書



平成17年7月29日
滅菌消毒専門部会



滅菌消毒業務の委託に関する報告書


.はじめに
 我が国の医療を取り巻く環境は、急速な少子高齢化の進行、医療技術の進歩、国民の医療に関する知識の向上等大きく変化してきており、安全、安心でより質の高い効率的な医療サービスが求められている。
 このような状況の中で、多くの医療機関が、より良質な医療の提供や医業経営の合理化・効率化、患者サービスの質の向上を図るため、医療と密接に関連したサービスについて民間会社のサービスを活用している状況にあり、今後もさらに拡大していくものと思われる。
 一方、患者・国民の視点に立って医療サービスの質の向上・効率化などを推進していくために「医療分野における規制改革に関する検討会(平成16年1月)」の報告書においては、医療機関が委託する業務に基準を設ける範囲及び基準の見直しを含め、幅広く検討することが必要であると指摘されている。
 従来、滅菌消毒業務の委託は、医療機器又は手術衣等の繊維製品(以下「医療機器等」という。)を医療機関の外に持ち出して業務を行う委託の形態(以下「院外委託」という。)であったが、近年、当該医療機関の中で受託従事者が滅菌消毒業務を行う委託の形態(以下「院内委託」という。)も見られるようになってきている。
 しかしながら、現行基準は院外委託を前提としたものであって、院内委託を前提としたものとなっていない。
 このため、滅菌消毒専門部会では、医療サービスの向上のため院内委託を行うにあたっての基本的なルールの在り方について検討を行った。
 また、併せて、院外委託に関する現行基準の見直しについても検討を行った。

.基本的な考え方
 医療機関が医療機器等の滅菌消毒業務を院外委託する場合、一定の基準を設け業務委託の水準の確保を図ってきたところであるが、院内委託の場合、医療機関は院外基準を準用したとしても、万一の場合にはその管理者のみが責任をとらざるを得ないということを前提に業務が行われてきた。
 こうした状況の中、新たに院内委託の基準を設けることは、医療機関が滅菌消毒業務を委託する場合に安心して事業者の選定を行うことができるようになることや、患者の立場からみれば、より安全で良質な医療サービスの提供が受けられることとなり、また、受託者の立場から見ても事業に参入しやすい環境が整えられるものと考えられる。
 現行の院外委託の基準は、医療機器等の滅菌消毒業務を行う際に最低限確保すべきものであることから、院内委託についても同程度の水準を確保すべきものであり、その設定に当たり、基本的には現行の基準を院内に移行することが妥当であると考えられる。
 ただし、業務委託できる範囲、事業者の管理体制、滅菌消毒の質を確保するための業務の実施方法等について明確にしておくことが重要である。
 なお、医療機関が院内委託を導入する場合であっても患者に対するサービスの提供はあくまでも医療機関自身であり、最終的な責任は当該医療機関及びその管理者にあるという認識のもとに進める必要がある。

.委託できる医療機器等の範囲等
 現行基準においては、医療機関から受託者に医療機器等を引き渡す場合には、受託従事者が汚染された医療機器等から病原体に感染しないこと、また、感染症の病原体が拡散しないよう、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)第6条第2項から第6項までに規定する感染症の病原体により汚染された医療機器等(汚染されたおそれのある医療機器等を含む。)は、医療機関において、同法第29条の規定に基づいて定められた方法による消毒等を行った上で、又、これら以外の感染のおそれがある医療機器等は、医療機関内において感染予防のために必要な処理を行った上で委託することとされている。
 しかしながら、院内委託においては、受託者が行う業務内容を医療機関が容易に確認できること、また、医療機関が自ら院内で滅菌消毒を行う場合には、滅菌消毒業務の従事者に医療機器等を引き渡す前に、消毒等の処理を行う必要がないことなどから、同法29条の規定に基づいて定められた方法による消毒等又は感染予防のために必要な処理を行ったものでなくとも、委託してよいと考えられる。
 ただし、近年の感染管理・予防の考え方は、感染性が確認されているか否かにかかわらず、患者に使用した医療機器やリネン類は全て感染性があると考え、それらの取扱いについては十分な注意を払うべきであるとされている。
 このため、医療機関は、自らの責任において受託者に医療機器等を引き渡す場合は、感染の拡散の防止を図るため、運搬専用の密閉性、防水性及び耐貫通性の容器による運搬体制及び防護服の着用等の作業体制を確立することが必要である。

.受託者について
(1)管理体制
 現行基準においては、受託者が行う滅菌消毒施設は、滅菌消毒や感染に関する専門家の管理の下で業務が行われる必要があることから、受託者は受託業務を適切かつ円滑に遂行するため、滅菌消毒の業務に関し、原則として3年以上の実務経験を有する医師、歯科医師、看護師等の資格を有した受託責任者を常勤として配置し、管理体制の充実を図ることとされている。
 院内委託においても、同様に、受託業務が適切かつ円滑に遂行されるよう、滅菌消毒の知識・経験を有する受託責任者を配置し、管理体制の充実を図る必要があるが、受託者は医療機関から滅菌消毒業務の内容等について必要に応じ改善等を求められることが考えられる。
 このため、院内委託における受託責任者については、滅菌消毒業務、滅菌機器の保守管理、感染防止及び従事者の健康管理などに関する知識・技術を持ち、原則として3年以上の実務経験を有する者を、受託業務を行う場所に常勤として配置することとする。
 次に、現行基準においては、受託者は受託業務の指導及び助言を行う者として、滅菌消毒の方法、滅菌消毒の処理に使用する機器の管理方法などの知識を持ち、原則として3年以上の実務経験を有する医師等を選任していることとなっている。
 しかしながら、院内委託においては、医療機関の中で受託業務を行っていることを考えれば、受託者において指導及び助言を行う者を選任する必要はないと考えられる。

(2)回収・配送業務等の実施方法
 現行基準においては、医療機関で使用した医療機器等について院内で回収・配送を行う基準は規定されていない。
 しかしながら、院内委託においては、患者に使用した医療機器等が直接受託者に引き渡され、それを回収する業務も含めて委託される場合もあるため、受託従事者が感染しないようにゴム手袋、マスク及び帽子など適切な防護用具の装着を行うとともに、感染症の病原体が医療機関内に拡散しないよう、運搬専用の密閉性、防水性及び耐貫通性の容器による運搬体制を明確にする必要がある。
 なお、使用済みの医療機器等の回収ルートや滅菌消毒済みの医療機器等の配送ルート及びスケジュール等については、院内での交叉感染防止に配慮を行う必要がある。

(3)滅菌消毒済みの医療機器等の整理・保管
 現行基準においては、滅菌消毒業務を行う施設の中で滅菌消毒済みの医療機器等が汚染されないように保管室が確保され、室内の空気が直接外部及び他の区域からの空気により汚染されない構造とすることとされている。
 院内委託においても医療機関の中で滅菌消毒済みの医療機器等が汚染されないように、医療機関の構造・設備に応じた保管場所が必要である。

(4)標準作業書
 現行基準においては、滅菌消毒業務の質の維持を図り、業務担当者の作業手順を画一化するため、医療機器等を医療機関から受け取る際の確認事項などが記載された運搬に関する標準作業書、取り扱う医療機器等の品目ごとに、消毒、洗浄及び保管等の作業手順が記載された滅菌消毒の処理の方法に関する標準作業書、滅菌消毒の処理に使用する機器の保守点検、故障時の対応等が記載された保守点検に関する標準作業書を常備し、受託従事者に周知することとされている。
 院内委託においては、現行基準に加え、新たに使用済み及び滅菌消毒済みの医療機器等の回収及び配送業務の運搬方法、緊急時の運搬体制などの標準作業書が必要である。

.業務を行う施設の構造・設備
 現行基準においては、受託者が滅菌消毒業務を行う施設の滅菌消毒作業室、繊維製品の洗濯包装作業室等の各作業室及び高圧蒸気滅菌器など滅菌消毒業務に必要な機器及び装置等を整備することとなっている。
 しかしながら、院内委託においては、原則として、受託従事者が医療機関の中に入って医療機関が現に有する施設・設備を使用(受託者が持ち込む場合もある。)して業務を行うため、基準は設けない。

.代行保証の必要性
 現行基準には規定されていないが、震災、その他の事由によって業務ができなくなることは、直ちに委託側の医療機関が適切な医療サービスの提供を行い得ないこととなる。
 このため、あらかじめ非常事態を想定して、当該業務の遂行が困難となった場合の危険を回避するために、医療機関と受託者は事前に代行保証について契約書に規定することが必要である。

.契約書の締結
 現行基準においては、滅菌消毒業務が適切かつ円滑に実施されるように、医療機関と受託者との間で委託の対象物、経費負担、守秘義務等を明確にした契約書を締結することとされている。
 院内委託においては、受託従事者が医療機関の中に入って医療機関の滅菌消毒機器等を使用(受託者が持ち込む場合もある。)して業務を行うことから、現行基準に加え、新たに設備の賃借及び保守、何らかの事情により業務の遂行が困難となった場合の対応などを明確にしておく必要がある。

.その他

 医療機関以外の滅菌消毒施設で行う現行基準の見直しについては、次のとおり。

(1)運搬
 現行基準においては、受託従事者が使用済みの医療機器等から病原体に感染しないこと及び滅菌消毒済みの医療機器等が汚染されないように、運搬専用のふたつきで防水性の容器により運搬専用の車で運搬し、運搬車内は清潔に保つため月2回以上消毒を行うことなどとされている。
 しかしながら、運搬専用の密閉性、防水性及び耐貫通性の容器で運搬すれば感染防止として十分であり、運搬専用の車の使用まで義務づける必要はないものと考えられる。

(2)リコール
 現行基準には規定されていないが、医療機器等を委託先の医療機関に配送した後、当該医療機器等に滅菌不良等の恐れが発生した場合の対応方法について、標準作業書等に記載されていることが必要である。



滅菌消毒専門部会 委員名簿

【五十音順】

秋山   茂  北里大学医療衛生学部専任講師

岩沢 篤郎  昭和大学藤が丘病院組織培養室

坂本 史衣  聖路加国際病院インフェクション・コントロール・プラクティショナー

村上   元  日本滅菌業協議会会長

茂木 伸夫  東京都立駒込病院歯科口腔外科部長

雪下 國雄  社団法人日本医師会常任理事

吉澤 正文  武蔵野赤十字病院呼吸器科部長

計 7名
※ ○は座長



「滅菌消毒専門部会」検討経過


区分 年月日 検討事項
第1回 H17.1.20 ・滅菌消毒業務の現状について
・滅菌消毒業務の委託の在り方について
・滅菌消毒業務の実態調査について
第2回 H17.3.18 ・滅菌消毒業務の実態調査報告について
・滅菌消毒業務の委託の在り方について
第3回 H17.5.17 ・滅菌消毒業務の委託の在り方について
第4回 H17.6.23 ・滅菌消毒業務の委託に関する報告書
 (素案)について
第5回 H17.7.29 ・滅菌消毒業務の委託に関する報告書
 (案)について

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