厚生労働省
I | 生活保護に関する問題提起 |
1 | 生活保護業務における国と地方の役割分担
|
(1) | 憲法第25条と生活保護制度における国の役割について 憲法第25条は、第1項において「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」、第2項において「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定している。 憲法第25条の規定の趣旨に基づく、生活保護制度を含む様々な社会福祉・社会保障制度においては、国が直接実施する年金制度や、自治事務として運営される国民健康保険制度・介護保険制度など、国と地方が制度の目的や実施上の効率性等を踏まえて役割を分担しているところ。 生活保護制度については、昭和25年の法制定当初から、国が生活保護基準や処理基準等制度の枠組みを定める一方で、保護の認定や保護費の支給など具体的な保護の実施については地域住民に直接接する地方自治体にお願いし、国と地方が協力して実施してきたもの。地方分権の推進など、時代の変化等を踏まえて、生活保護制度における国と地方の具体的な役割分担を見直すことも、憲法第25条の趣旨に反するものではない。 |
(2) | 生活保護における地方自治体の役割 |
(1) | 生活保護の適正実施 生活保護は、稼働能力や資産の活用を保護の実施の要件とし、また、親族による扶養及び他法他施策が優先する制度であり、保護の認定や保護費の支給等、具体的な保護の適正な実施のためには、被保護者の資産や収入、健康状態、稼働状況、家族構成等を的確に把握する必要がある。 しかし、これらは時間の経過や、自立に向けた取組の状況等により、常に変化し得るものであることから、生活保護の適正実施のためには、保護申請時の調査のみならず、被保護世帯の実態を常に的確に把握するための被保護世帯との継続的な接触や関与が不可欠。申請時に要件を確認すれば給付額が一律に決定され、その後の要件の確認や支給額の変更がほとんどない年金給付等とは異なる。 |
||||||||||||
(2) | 他法他施策の活用と自立・就労支援の推進 生活保護においては、以下のような他法他施策を優先して活用することが生活保護適用に当たっての要件となっており、また、自立・就労支援においても、他法他施策の活用が重要である。
なお、他法他施策の優先が生活保護の原則であるが、国民健康保険制度においては被保護者が適用除外とされていることから、生活保護において10割負担を行っている現状。 |
2 | 地方分権の流れと生活保護業務
|
(1) | 平成12年の地方分権改革 |
○ | 機関委任事務制度は、地方自治体を国の機関として取り扱い、国に包括的な指揮監督権を認めて地方自治体に国の事務を執行させる仕組みであったが、国と地方自治体との関係を対等・協力なものとするため、機関委任事務制度を廃止し、「国民の利便性又は事務処理の効率性の観点から地方自治体が処理するもの」として法定受託事務を創設。 | ||||||
○ | 地方自治体の事務の処理に関する国の関与についても、次のように一定範囲に制限。
|
(2) | 地方分権改革における生活保護業務の見直し |
(1) | 生活保護の実施に係る事務については、「国民の利便性又は事務処理の効率性の観点から地方自治体が処理するもの」と整理することがふさわしいことから、機関委任事務から法定受託事務に移行 |
(2) | 法定受託事務への移行に伴い、厚生労働大臣の包括的な指揮監督権を廃止 |
(3) | 新たに自治事務として要保護者の自立助長のための相談及び助言の事務を創設 |
(4) | 社会福祉法の改正により、現業員の配置を法定数から標準数に変更 |
3 | 問題提起
|
(1) | 生活保護事務実施に当たっての地方自治体間の較差 保護の認定や保護費の支給など、地方自治体が行う具体的な生活保護事務については、地方分権改革の趣旨を踏まえて地方自治体の事務の処理に関する国の関与を制限する地方自治法の規定に基づき、国が一般的・包括的な処理基準を定めている。 この処理基準の下においても、被保護世帯の状況や地域の実状を踏まえ、各地方自治体の判断に委ねられる部分も少なくないことから、地方自治体の生活保護事務の実施状況には相当の幅が生じている状況にあるが、こうした地方自治体の事務実施の裁量性についてどう考えるか。 |
(2) | 今後の生活保護業務における国と地方の役割分担 三位一体改革においては、地方分権の流れの中で「地方の裁量度を高め自主性を大幅に拡大する改革を実施する」こととされており、生活保護業務においても、地方自治体において地域の実状に応じた業務運営を行うことができるよう、引き続き地方自治体の裁量を拡大する方向が考えられる。 例えば、次のような事項につき、地方自治体の裁量をさらに拡充することについて、どのように考えるか。 |
(1) | 地域別の生活保護基準の在り方 地域別の生活保護基準の設定について、地方自治体の裁量を高めていくことは可能か。 |
※ | 現在、生活扶助基準は全国を6つの級地に分け、級地ごとに厚生労働大臣が設定。 住宅扶助は、都道府県、指定都市、中核市ごとに厚生労働大臣が特別基準を設定し、その範囲内の実費を支給。 |
(2) | 自立・就労支援の在り方 地域の社会資源や他法他施策の活用による自立支援プログラムの充実について、地方自治体の裁量をどのように拡充していくか。 |
(3) | 地方自治体の裁量の拡大に伴う生活保護費国庫負担金の在り方の見直し 三位一体改革においては、地方自治体の裁量の拡大と税源移譲による国庫負担の見直しを合わせて行うこととされているが、生活保護制度においても、上記のような地方自治体の裁量の拡大に伴い、生活保護費国庫負担金の在り方を見直すことについてどう考えるか。 |
II | 児童扶養手当に関する問題提起 |
1 | 母子家庭対策については、国と地方自治体とが協力しながら実施していくことが不可欠。
母子家庭対策については、平成14年の母子及び寡婦福祉法の改正を機に、「児童扶養手当中心の支援」から、「就業・自立に向けた総合的な支援」へと転換を図ったところである。 母子家庭の自立支援策は、(1)子育て・生活支援、(2)就業支援、(3)養育費の確保、(4)経済的支援等が重要であるが、これらの施策は個々の母子家庭の状況に応じ、地域資源の有機的な連携のもとに行われる必要があり、その意味で地方自治体でなければ有効に展開できないもの。このため、母子家庭の就業・自立に力点を置いた母子家庭対策の展開にあたっては国と地方自治体が協力して事業を実施していくことが、離婚等により母子家庭が増加する中で、ますます重要となっている。 |
2 | 就業・自立支援施策の取組状況の地域格差
平成15年度より母子家庭等就業・自立支援センター事業を始め、様々な就業支援事業が制度としては開始されているが、地方自治体の取組みについては精粗が見られる。 母子家庭等就業・自立支援センター事業、各種給付金事業ともに平成15年度から16年度にかけて地方自治体の実施率は向上しているものの、未だその実施率は低く、とりわけ一般市等での取り組みが低調である。例えば、母子家庭の母が教育訓練講座を受講し、修了した場合、当該母子家庭の母に対し経費の4割(20万円を上限)を支給する自立支援教育訓練給付金については、一般市等では、6割以上のところで予算化されておらず、活用できない状況。また、こうした取組を通じた具体的な就業状況についても、相当な実績をあげている地域がある一方、全く効果が上がっていない地域も多い。 |
|
3 | 問題提起
|
|