戻る

議論のためのたたき台

日本社会事業大学
中島 健一

1 介護福祉士の課題
絡み合っている課題
 資格の与え方の問題(国家試験のあり方)、質の問題(介護福祉士の専門性の定義と専門性の向上)、待遇の問題(社会的認知及び地位の向上、金銭的待遇の向上)の三者が「○○のためには○○の改善が必要」という形で相互に絡み合っている。このことについては、一つの改善は他にも影響を及ぼすととらえ、可能な部分から前向きに改善を図っていく必要がある。

質が問われる時代
 一方、介護福祉士を含むケアワーカーについては、数の確保を優先すべきという第I期(ゴールドプラン、新ゴールドプラン、介護保険創設期)から、35万人の介護福祉士が養成された現在、真に専門職と呼ぶことのできる高い質を確保することが課題である第II期に入ったという共通認識を持つことが必要である。

2 介護の定義について
業務内容と範囲の変化
 介護については、社会福祉士及び介護福祉士法 第二条第二項において、介護福祉士を「介護福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき入浴、排せつ、食事その他の介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者をいう」と定義している。これは、介護の内容として、いわゆる3大介護と呼ばれる「入浴、排泄、食事」を強調した記述である。
 介護福祉士の資格制度創設当時は、国家資格制度の創設自体に意義があり、身体介護を明確に業務に位置づけることに意義があったといえる。しかしながら、現在、高齢者介護の分野では寝たきりではない痴呆性高齢者への介護の位置づけが高まり、グループホーム、ユニットケア等、援助形態の変化とともに、全人的ケア、個別ケア、個人の尊厳、権利擁護、心理面へのケア等も、より強調されるようになってきた。さらには、医療依存度の高い障害者への介護、精神障害者への介護等、制度創設当時に比べて介護福祉士の業務範囲も広がりをみせている。

介護の定義の見直し
 このような状況の変化の中で、介護の定義も「入浴、排泄、食事」という生命の維持・管理に係る3大介護を中心とするものから、被援助者及びその家族の生活全体を見据えた定義に見直す時期が来ている。
 下図は、その一案である。

図1 介護(ケアワーク)の概念の見直し

ソーシャルワークについて
 図1に示すようなソーシャルワークの内容は、すでに痴呆性高齢者グループホームのケアワーカーは業務として実施を開始している。
 今日、特別養護老人ホーム等の大規模施設のケアワーカーであっても、もっとも身近な援助者であり利用者を理解・把握しているケアワーカーが、施設の相談員その他と連携しながらソーシャルワークの内容をケアワークに採り入れて本来業務とすべき時代である。

生活プランについて
 ケアワーカーは、「他者援助として提供するケア」に焦点づけたケアプランを作成するのではなく、生活環境や本人が自ら行っている生活行動等を含めた「生活全体」にかかるプランを構築あるいは構築することを支援すべきである。3大介護を中心とするケアプランはこのような生活プランの一部分に過ぎないという視点が大切である。
・生活環境:施設等建物内だけを生活環境とするのではなく、建物を中心とした地域全体を生活環境と考えて、アセスメントし、個別ケアの視点で生活環境を整える。
・生活内容:援助を受けつつも自立した生活の実現を念頭に、安心と尊厳を持って主体的・能動的に活動する生活内容を考える。生活内容については、どのような生活内容があるかというだけではなく、その連続的なかかわりの中で生活が構成されているという視点が重要と考える。
・生活体験:同じ生活内容(例えば「散歩に行く」等)であっても、個人によってその受け止め方・生じる感情は異なるという視点で、被援助者の内面を推察し、日々の介護を通してその推察のズレを確認・修正する。
 なお、生活については、生活には当然含まれると想定される下記のような感情が被援助者の生活に含まれるかどうかを検討する。このとき、持続時間の長い感情(基底に流れる気分)と短い感情があることに留意するとともに、負の感情についても必ずしも不要なものとは考えない。

(1) +の感情
自分のものといった占有感・所有感、成功感・達成感、満足感、有能感、信頼感、自己存在感、他者からの認められ感、自尊心、してやった感、優越感、動かした感(効能感)、一体感・集団への帰属感、仲間感、充実感、好奇心、期待感、愛・愛着感、守られ感、高揚感、安心感、正義感、リラックス感、満腹感 等
(2) −の感情
奪われ感・喪失感、失敗感、劣等感、屈辱感、無力感、不信感、不全感、してもらった感(負い目)、疎外感・孤独感・孤立感、敵対感、鬱・精神的疲労感、肉体的疲労感、飽きた感・倦怠感、無気力感、嫌悪感、失望感、絶望感、不安感、罪悪感、焦燥感、怒り、悲しみ、哀愁、緊張感、疑い感・猜疑心、空腹感 等

地域ケアの推進
 地域ケアは、地域にあるケアの専門機関やボランティアが連携してケアを実施することのみではなく、地域にある社会資源すべてを活用して被援助者の「地域生活」を構築することである。その対象は、在宅生活者のみと考えるべきではなく、さまざまな事情から施設を利用している施設生活者も、居住場所が施設であるだけと考えて地域ケアの対象に含め、飲食店、衣類・雑貨・書籍等の商店、公園・博物館等公共施設、交通機関、趣味のサークル・団体、祭等のイベントなど地域の社会資源すべての活用を推進して地域を生活の場所とするように支援すべきである。
 施設生活者の地域ケアは、イベント的外出や特定の場所に限定した外出だけではなく、日常生活の必然性に基づく随時の外出支援体制の構築が不可欠である。そのためには、外出の必然性が生じるようなケアの実施とともに、外出支援能力を高めたボランティアの養成プログラムの開発あるいは留守番をボランティアに任せることを可能とするためにフロアにおける居心地がよく利用者が安定する居場所作り等が必要である。また、介護保険制度下においては、従来の最も低いレベルに合わせた公平・平等の発想から脱却し、本人が希望すれば自己負担で娯楽に出かけること等を支援しうる体制を構築すべきである。さらに、たとえ施設に入所しても本人が持っている友人との交友関係や家族との関係が維持・発展するような支援体制を構築する必要がある。

行動の自由等人権の保障
 現在、虐待に関しては、下記のような視点・基準が用いられている。

(1)身体的暴力による虐待(physical abuse)
 他人から殴られたり・蹴られたり・つねられたり・押さえつけられたり等の暴力を受け、身体に外傷・内出血(アザ)・うちみ・ねんざ・骨折・やけど等の傷跡が見受けられる場合。また、意志に反して身体を拘禁された場合。
(2)性的暴力による虐待(sexual abuse)
 高齢者が性的暴力または性的いたずらを受けたと見受けられる場合。
(3)心理的障害を与える虐待(psychological or emotional abuse)
 主として介護者側等から言葉による暴力(侮辱・強迫等)や家族内での無視等によって心理的に不安定状態または心理的孤立に陥り、日常生活の遂行に支障をきたすおびえなどの精神状態が見受けられる場合。
(4)経済的虐待(economic abuse)
 高齢者へ年金等の現金を渡さない、または取り上げて使用する、高齢者所有の不動産が無断で処分されるなど、過度の経済的不安感を与えたと見受けられる場合。
(5)介護等の日常生活上の世話の放棄、拒否、怠慢による虐待(neglect)
 日常の介護拒否・健康状態を損なうような放置(治療を受けさせない・適切な食事が準備されていない等)・日常生活上の制限(火気器具等の使用制限)や戸外に閉め出すなどによって、高齢者の健康維持・日常生活への援助がなされていないと見受けられる場合。

 しかしながら、救貧施設の名残としてこれまで特別養護老人ホーム等の入所生活では当たり前のこととされていた「金銭の使用機会が与えられない」「自由に外出できない(閉じこめ、あるいは支援体制の不備)」「週2日しか入浴の機会がない」「プライバシーを確保できるトイレがない」等も、介護保険制度下では、人権を侵害する虐待あるいは類虐待ととらえ、改善を図っていく必要がある。

こころのケア
 こころのケアについては、「心理的な安定と活性化のための支援」と定義される。本人が自分で行うケアの支援のほか、当然ながらすべての日常的ケアはこころのケアの視点に基づいて行われるべきであり、例えば、鼻をつまんで無理矢理食べ物を口に押し込むような介護行為は生命の維持の観点からは問題がなくてもこころのケアの観点からは大いに問題のある介護行為ということができる。
 また、介護の対象者は不安定あるいは不活性な心理状態になりやすい状態にある人が多く、これからのケアワーカーは、その専門性の一つとして、「ボランティア・家族以上、精神科医・臨床心理士未満」のセラピューティックなこころのケア技術(例えば、動作法、音楽療法、回想法等の心理療法的アクティビティ技術)を身につけておく必要がある。

3 資格体系の見直し
 介護の高い質を確保することが課題である第II期に入った今日、雇用形態を問わず、介護福祉士をケアワーカーの基礎資格とすることを検討すべきである。
 また、提供される介護の質を確保するためには、「ホームヘルパー1〜3級と介護福祉士との関係の整理」も検討されるべきである。
 下図は、その一案である。

上乗せの協会認定資格

※上乗せの協会認定資格
・介護福祉士の養成教育は、ジェネラルな(一般的な)ケアワーカー養成の課程とする。
・その上に、痴呆性高齢者への援助技術等、図に例示したような現場・援助対象者に応じて求められるスペシィフィックな(特別な、対象限定的な)知識と技術を修得するための養成課程を設ける。
・数日間の研修で済む内容のものは現任研修と位置づけ、実習を含む1年程度の追加教育が必要な内容のものは協会認定の資格化を検討する。
・追加教育の資格認定協会は、たとえば日本介護福祉士会と日本介護福祉士養成施設協会が合同で設置する等、一本化することが大切である。

※ケアワーカー入門研修
・介護業務に従事する常勤職員あるいは常勤的非常勤職員は介護福祉士であることが求められる今日ではあるが、勤務日数が少ない補助的な介護業務従事予定者等を対象に想定した入門研修を設置する必要性はある。
・ただし、あくまで介護福祉士へのステップアップを前提とした第一次的研修である必要があり、たとえば有効期限を5年程度に設定し、その間に介護福祉士養成教育の受講、介護福祉士国家試験の受験を誘導することが必要である。
・在宅介護の知識・技術は施設で行われる介護に応用することができることから、この入門研修の内容は現ホームヘルパー2級研修並びのものとする。
・ホームヘルパー3級、2級研修は廃止し、すべての介護業務従事者は基礎資格としての介護福祉士取得をめざすものとする。
・ホームヘルパー1級研修は、介護福祉士の上乗せとしての在宅介護(サービス提供責任者)協会認定資格課程に切り替える。

4 国家資格の取得方法の見直し
 将来的には、介護福祉士国家資格取得者の質的向上と社会的認知の向上を念頭に置いた取得方法(コース)の再検討が必要である。
 以下は、その一案である。
※全員の国家試験受験
 全員が国家試験を受験し、資格を取得するものとする。
※全員の養成課程受講・修了
 全員が養成課程を受講し、その修了を国家試験受験の要件とする。
 養成課程のカリキュラムは、1つとすることが望ましい。ただし、実務経験者に対する実習等の一部免除規定や社会福祉士等の関連資格保持者に対する科目免除規定を設けることは検討する。
 なお、十分な時間数の介護技術実技講習は養成課程カリキュラムの中に含まれるものとし、これに関する免除規定は設けない。
※養成課程受講機会の拡大
 養成課程は、有職者の受講に配慮した夜間開講、通信課程の普及・拡大を図る。ただし、通信課程に関してはスクーリングを強化する必要がある。
※国家試験について
 以上を整備した後、介護福祉士国家試験は筆記試験のみとする。


トップへ
戻る