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検討の視点(「働く者の生活と社会のあり方」を巡る現象面の変化)


1.経済成長率の低下と失業率の高止まり

(経済成長率の低下)
 我が国は、60年代から70年代前半にかけての高度経済成長期、オイルショック後90年頃までの4%台の成長期を経て、バブル崩壊後、平成不況に入り、90年代は平均1%台の成長に止まり、「失われた10年」とも形容された。
 また、90年代半ばからは、こうした経済低迷と並行して、物価が継続的に下落していくデフレーション現象が進行した。
 2000年代に入り、2000年は2.8%の成長だったものの、2001年、2002年と名目マイナス1%台、実質0%台〜マイナス0%台の成長に止まっており、最近、ようやく輸出を中心として、景気は持ち直しの動きが見られるようになった。
 今後、経済の本格的な回復のためには、不良債権や金融システムの問題、需要不足の問題、供給側の非効率性等の問題を解決していくことの必要性が指摘されている。とりわけ、需要面の成熟による頭打ちを取り払うイノベーションの役割は重要であり、財政が制約される中でいかに効果的に成長分野を創り出すかが鍵となるものと考えられる。
 しかしながら、中長期的に見ると、こうした諸課題の克服に成功したとしても、既に、我が国の経済は、キャッチアップ段階を終了し、基本的には豊かな長寿社会を迎え、少子高齢化が進展する等成熟段階に入っていると見られ、今後、大幅な経済成長を期待することはできないのではないか。
 また、ある程度の経済成長を実現することは、人々の厚生の増進を通じた寿命の伸長や雇用の維持・創出を図るために不可欠であるとしても、キャッチアップ段階のように、我が国社会の第一の目標として「経済成長」を掲げることは、もはやなじまない。これに替わる成熟社会に相応しい目標を考える必要があるのではないか。

(失業率の高止まりと完全雇用からの乖離)
 完全失業率は70年代後半から90年代半ばまで、ほぼ2〜3%、失業者数も概ね100万〜200万人の間で推移していたが、90年代後半から2002年にかけて急騰し、98年には4.1%・279万人、2002年には5.4%・359万人に達した。失業者に占める非自発的失業者の割合が急上昇していること、雇用者数自体が減少している等、雇用失業情勢は、失業率以外の面でも厳しい状況にある。
 この間、1999年には、空前の好景気を謳歌するアメリカの失業率が4.2%、日本の失業率が4.7%と、それまで予想もしなかった日米逆転が起きた。2002年の時点で、フランス、ドイツは、失業率が8%台、アメリカ、イギリスは5%台となっており、日本の5.4%は、先進国全体の中では、まだ低い方であるが、失業についても、欧米並みとなってきたと言えよう。
 こうした急激な雇用失業情勢の悪化は、経済の停滞を背景とした需要不足に加え、経済のグローバル化や情報通信技術の進展等に伴う産業・職業構造の急激な変化に求職者の能力が対応できないこと等によるミスマッチが大きな要因をなしている。
 また、これまで我が国の低失業率を支えてきた労働市場メカニズムも機能しなくなってきている。例えば、失業者を極力出さずに、経済情勢に応じて伸縮的に労働時間や賃金を調整する企業内のメカニズムも今般は限界に達した。
 現在、雇用失業情勢は、持ち直しの方向にあるものの、依然として完全失業率が5%台と厳しい状況が続いている。
 今後、中期的(5〜10年)な雇用失業情勢を考えるに当たっては、引き下げ要因として、生産年齢人口(15〜64歳)の減少が挙げられる一方、引き上げ要因としては、(1)経済の成熟化による成長率の低下による需要不足の懸念、(2)急激な技術革新等の影響による産業・職業構造や職務内容の変化によるミスマッチ拡大の可能性、(3)経済のグローバル化による、国内雇用機会の喪失の可能性が挙げられる。
 こうした諸事情を考えると、今後、経済情勢が回復しても、中期的に(10年程度)見て、失業率が90年代初めのような2%前後の完全雇用に近い水準に回復することは困難であり、少なくとも人口減少が本格化するまでは、失業率の高止まりは避けられないのではないか。
 また、失業率を年齢層別に見ると、90年代半ばから、特に若年層(15〜24歳)の失業率が急騰しており、2000年代に入って10%程度の水準に達している。いわゆるフリーターも200万人を超えており、若年層の雇用労働市場は氷河期とも言える事態を迎えている。経済のグローバル化や高度化・高付加価値化が進む中で、企業は即戦力志向やコスト要因によるパート志向に切り替えており、とりわけ高卒求人は激減し、学卒即採用という方式は当然ではなくなりつつある。こうした若年層の深刻な事態も、これまで我が国が経験しなかったことであり、欧米先進諸国と共通の問題を抱えるに至った。

2.ポスト工業化と社会の成熟化

(産業構造・職業構造の変化)
 産業構造の変化をGDP及び就業者数に占める産業別割合で見ると、製造業はグローバル化の影響等により、90年代に入ってから、いずれにおいても、その割合を低下させているのに対し、第三次産業、特にサービス業は、70年代以来、一貫してその割合を高めている。
 サービス業は、極めて多様であるが、このうち、90年代に入ってから雇用者の増加している主な業種(中分類)として、娯楽業(パチンコ、カラオケボックス等)、情報サービス・調査業(ソフトウェア業)、専門サービス業(フィットネスクラブなどの個人教授所)、その他の事業サービス(建物サービス、警備など)、廃棄物処理業、医療業、社会保険・社会福祉(保育所、老人福祉事業など)等が挙げられる。
 これらの業種において、雇用が増加している背景として、概ね次のような要因が考えられる。
(イ)  環境問題への対応や高齢化の進展などの社会の動きに対し、新たなビジネスの形態をつくり出し、その成長によって、雇用が生み出されたもの(廃棄物処理、社会保険、社会福祉など)
(ロ)  技術革新に伴い、新たな事業分野が生まれたり拡大したりすることによって、雇用が生み出されたもの(ソフトウェア業など)。
(ハ)  所得の向上に伴い、選択的で質の高い消費のニーズが生まれ、それに対し提供される製品やサービスの拡大によって、雇用が生み出されたもの(生活関連サービス、娯楽業、フィットネスなど)。
(二)  特定分野に特化したサービスを効率よく提供することを通じて、他の企業が社内で行っていた仕事を受注することによって、雇用が生み出されたもの(建物サービス、警備など)。
 今後とも、技術革新の更なる進展(ユビキタス、ブロードバンド等の情報通信関連、ナノテク、バイオ、環境関連技術等)による新たな事業分野の創出に加え、高齢化の進展に伴う高齢者の生活支援関連分野(介護・福祉、医療、健康関連)や環境問題への対応に関連する分野(環境情報・相談、省エネ関連など)などが、雇用・就業の大きな受け皿として期待される。このほか、対事業所サービスとして、金融・情報、リーガルサービス、労働者派遣などの専門的な支援や対個人サービスとして、生活上の様々な情報、選択肢を提供するコンシェルジェサービス、社会人向け教育などが有望視されており、これらのサービス分野を中心に産業構造は、更なる変化を遂げるものと考えられる。
 こうした産業構造の変化に対応して、職業構造についても、製造業関連の技能工・生産工程従事者や管理的職業従事者が軒並み減少している一方、情報処理技術者、土木・測量技術者等の技術者や医療・福祉関係従事者などが大幅に増加している。

(知識社会の到来)
 上述のようにサービス産業の拡大は、技術革新に伴う新たな事業分野の展開に伴うものや消費者の多様で質の高いニーズに対応するもののほか、高齢化の進展や工業化の後始末の環境問題への対応に係るもの等が中心であり、いわば「ポスト工業化」社会の産業構造の特徴を示していると言えよう。
 こうしたサービス産業の発展や職業のホワイトカラー化の進展の現象の背後に、本質的変化として、サービスや商品について差別化の決め手となる付加価値やアイデアが重要となり、これを生み出す人の問題発見・解決能力や知恵と創意工夫、変化への適応能力等が重視される状況があると考えられる。こうした状況は、サービス業だけでなく、製造業においても、大量規格製品の生産から、次第に、デザインや品質が重視され、消費者ニーズの多様化、個別化が進んでいることにも現れている。
 上記のように、知識や情報を駆使して新しいアイデアやデザイン等を考え、商品やサービスの付加価値をつくり出すことが経済活動の中心となる社会を「知識社会」と呼ぶことができよう。こうした「知識社会」という切り口で社会を捉えることにより、「工業社会」との対比において、今後の経済社会の方向性が見えてくるのではないか。
 すなわち、これまでの「工業社会」においては、製造業が社会の牽引役となり、総じて大量の規格製品をつくり出すことに主眼が置かれ、そのためにヒエラルヒーのはっきりしたピラミッド型の組織の下、巨大な機械・設備を備え、一律かつ集団的な方法により労働を提供する傾向が強かった。
 これに対し、「知識社会」においては、総じて消費者の多様かつ個別化されたニーズに応じた商品やサービスを提供するため、知識やノウハウを持った自律性の高い者(雇用者に限らない)が企業の内外を通じて連携し合いながら、それぞれの知識・ノウハウを提供することによって付加価値を生み出し、ニーズに応える形に変わっていくものと考えられる。
 こうした「知識社会」の働き方の特徴として、労働の内容が労働力の提供から、知識やノウハウの提供へと変わること、契約関係も、雇用契約に限らず、アウトソーシングサービス、フランチャイズ契約、労働者派遣など様々な契約形態がとられるようになり、働く場も、事務所、工場のみならず、自宅、サテライトオフィスなど多様化し、働き方は、たとえ雇用関係にあっても、より裁量的、自律的な組織に拘束されない形態になること等が挙げられよう。
 なお、このような従来とは異なる環境で働く中にあって、働き過ぎの防止や精神面の健康確保を図ることが、ますます重要となろう。
 また、「工業社会」においては、比較的均質の労働者が必要とされたが、「知識社会」においては、新たな価値をつくり出す高度な知識や技術・技能を持つ労働者が求められる一方、形式化された部分については、マニュアル化された労働となる等、労働の二極分化の可能性が強まってくるのではないか。
 さらに、技術革新の進展や高度かつ多様な顧客ニーズへの対応から商品やサービスの質・内容は常に更新され、働く者は、こうした変化に対応して職業能力を向上させることやキャリアを自ら磨いていくことが求められよう。こうした意味合いにおいて、「知識社会」においては、教育や職業能力開発が決定的に重要な役割を担うのではないか。
 加えて、「知識社会」で求められる新しいアイデアやデザインは、仕事をする上での経験に限らず、仕事以外の場面での様々な経験をもとに作り出されるものであることから、生涯の中で、そうした様々な経験をする機会や時間を確保することが重要となる。こうした意味で、今後の働き方においては、「仕事と生活の調和」といった視点が重要性を増してくるのではないか。

(少子高齢化の進展)
 社会の成熟化は、同時に社会の高齢化でもある。65歳以上人口は、2003年には19%になり、すでに本格的な高齢化社会に入る一方、少子化の進行も顕著であり、合計特殊出生率が2002年には1.32となった。
 また、生産年齢人口(15〜64歳人口)は、1995年以降減少傾向になっており、就業者と失業者を合計した労働力人口も、雇用情勢の悪化による非労働力化の動きが影響し、1999年から減少しているが、今後、少子高齢化の影響により、本格的な減少局面に入るものと見込まれる。
 人口に占める高齢者の割合の増加は、当然年金・医療・介護などの財政・社会保障負担を増大させる。これに対しては、持続可能な制度のあり方を検討することが重要であるが、働き方や社会との関係を持った活動のあり方によっても変わってこよう。
 現在、我が国の平均寿命は、男性78歳、女性85歳、健康寿命も男性72歳、女性78歳であり、ともに世界一である。しかも、高齢者の働く意欲は高い。こうした実態からして、人生80年時代において、65歳以上を高齢者と呼ぶことが適切かという問題も生ずる。また、高齢者になるほど、人によって能力、気力、体力も異なり、一律の処遇にはなじまない。こうしたことを考えると、高齢者の働き方については、意欲と能力に応じ、引退年齢を選択できる仕組みづくりが今後の課題となる。
 また、本格的な雇用労働という形をとらなくとも、高齢者が何らかの形で社会と関わりを持った活動をすることは、本人の生活の充実や健康寿命という面はもちろん、社会全体にとっても、地域の活性化や負担の軽減にもつながるところであり、こうした地域での受け皿づくりも重要な課題である。
 少子高齢化の進展による人口の減少は、一方で消費人口の減少による個人消費の減少と労働力人口の減少による生産の減少という需給両面で縮小し、経済成長を抑制すると考えられる。他方、人口減少下では、ゼロ成長であっても、国民一人当たりの所得は伸びる計算となり、国全体のGDPの減少は、必ずしも深刻な問題ではないのではないか。
 また、今後、人口減少により、労働力人口も減少する。特に、2010年代前半には団塊の世代が労働市場から引退していく年齢となり、大幅な労働力人口の減少が見込まれる。
 労働力人口の減少への対応については、長期的視点に立ち、少子化の進行を緩和していく必要がある。このため、長時間労働を抑制し、生活と調和のとれた多様な働き方を実現することにより、働く者が子どもを生み、育てる時間を確保するとともに、地域における子育て支援など次世代育成支援を進めていかなければならない。
 さらに、労働力人口の減少への対応として、若年者の育成、女性や高齢者の働きやすい職場環境づくりを進めていくことが重要である。また、労働力人口の減少過程において、分野によっては労働力不足が顕著となった場合には、外国人労働力の導入問題の検討が求められよう。
 他方、個人消費の面では、人口が減少しても、豊かな消費文化を背景として、新しいライフスタイル、需要分野を創り出すことができれば、新たな可能性が広がるのではないか。
 実際、歴史的にも人口減少期には文化の爛熟が見られるところであり、現在の我が国についても、アニメ、キャラクター商品、マンガ、Jポップ、東京ファッション等の大衆文化のレベルは世界に突出し、圧倒的な影響を与えているとの外国人記者の指摘もある。

3.企業のあり方、日本的雇用慣行の変化

(日本型企業システムの変容)
 バブル崩壊後の景気の低迷、地価、物価の下落等のデフレ経済の進行や不良債権を多数抱える金融機関の貸し渋り等により、企業経営は極めて厳しい状況に置かれている。加えて、構造的な要因として、IT化、市場化の浸透によるグローバル市場における競争の激化、技術革新の進展による商品サイクルや納期の短縮、さらには、多様な顧客ニーズへの素早い対応の必要性等により、企業は、目先の生き残り競争に追われ、大企業といえども先行きの予測のつかない不透明な時代を迎えている。
 こうした状況の中で、工業社会において効果的に機能してきた協調的な日本型企業システムも大きく変容しつつある。
 これまでの日本型企業システムは、概ね、
(1)  正社員の長期安定的な雇用と年功に応じた収入を保証する終身雇用システムと安定的な企業内労使関係
(2)  特定ないし少数の銀行と、株式の持ち合いや借入などの取引関係を長期的に結び、支援を受けるメインバンクシステム
(3)  外部の企業と長期的な取引関係を結んで企業グループを形成する企業系列システム
を柱として成り立ってきた。
 こうした日本型企業システムは、ピラミッド型の人口構成と工業中心のキャッチアップ型経済の下では、国のバックアップ施策と併せ、集団的な仕組みとして効果的に機能してきた。しかしながら、人口構成の少子高齢化が進むとともに、経済が成熟化し、右肩上がりが期待できなくなる一方、企業自体がグローバル化に伴い、情報開示と透明性が求められ、財務や利益率等を基準に市場の評価にさらされるようになり、大きな変容を余儀なくされている。
 例えば、機関投資家や海外株主の増加や企業会計における時価評価制度及び連結会計制度の導入は、株式の持ち合い解消の動きを推し進めるとともに、企業の資金調達についても、間接金融から、株式や債券等、市場を通じた直接金融へと切り替わりつつあり、メインバンクシステムは、企業を支える中心的なシステムではなくなってきた。
 また、IT化の進展やグローバル市場における競争の激化が進む中で、企業は、経営目標を市場におけるシェア争いから、資本利益率を重視する方向へ転換してきており、企業内の業務についてのコア分野への「選択と集中」が進むとともに、企業グループについても、コスト・効率性の観点から選別がなされ、従前のような企業系列は崩壊しつつある。

(日本的雇用慣行の変容)
 このように、メインバンクシステムや企業系列システムが崩壊しつつある中で、企業と従業員との関係についても、従来の年功序列型賃金、終身雇用制度、企業内労使関係が大きく変わりつつある。
 まず、年功序列制度は、若年層が厚いピラミッド型の人口構成と右肩上がりの企業の成長を前提としていたが、こうした前提が崩れ、すでにポスト不足が顕在化するとともに、50歳前半をピークとして賃金カーブはフラットになっている。特に、最近は、企業の学卒一括採用方式も限定的となり、即戦力志向の中途採用が増えるとともに、正規従業員について早期選抜や成果主義的処遇がなされる一方、パート、派遣労働者、契約社員等の活用、さらには、アウトソーシングが盛んになっている。
 また、経済不況の下で転職した場合の雇用機会が極めて限定されていることもあり、かえって勤続期間は長期化している。他方、若年層を中心に、従業員意識は、一社長期勤続志向から、専門職志向、キャリアを活かした転職志向が強まっており、景気が回復すれば、自発的な移動が増え、流動性が高まる可能性が高い。
 このほか、企業内労使関係について見ると、経済の停滞とデフレの下、企業収益は低迷し、雇用の維持・確保が組合の重要課題となり、賃金引上げが難しい中で、就業形態や就業意識の多様化・個別化を背景に、個々の働く者の生活上の問題や、契約上の問題等、個別的な労使関係上の問題の解決が重要なテーマとなってきた。また、組合の組織率が20%を下回っており、パート、派遣労働者、契約社員が増加する中で、正規従業員中心の企業内組合の代表性にも問題が生じており、企業内労使関係のあり方が問われている。

(社会的経営責任)
 なお、このように我が国において、これまでの企業システムが市場機能を通じて、その収益力と競争力を高める観点から変容を余儀なくされている反面、市場での競争が行き過ぎた結果主義や株主利益至上主義に陥らず、持続可能な発展を遂げるよう、環境や地域社会への配慮や、株主、取引先、従業員等のステークホルダーに対する説明責任を果たすことを内容とする企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)の考え方が最近、急速に広まっている。こうした議論を通じて、今後、企業の存在価値や市場のあり方を巡って、根本的な問い直しがなされようとしている。

4.働き方の多様化・自律化と生活の変化

(就業形態の多様化と二極分化の可能性)
 働く者の就業形態を見ると、雇用者の割合が増加する一方(約5300万人、84%)、高齢化や後継ぎ不足により、自営業者や家族従業者の割合が、年々減少(約1000万人弱、16%)している。また、雇用者の就業形態は、正規従業員以外に、パート・アルバイト(約1050万人、17%弱)、契約社員・嘱託(約230万人、3%強)、派遣労働者(約40万人、1%弱)等多様化が進んでいる。
 また、最近では、情報通信ネットワークを活用して、時間と場所に制約されることなく仕事をするテレワークが増加している(テレワーカーは雇用者で約300万人、5%、非雇用者で約100万人、2%弱)ほか、NPO等における自らの意思に基づく働き方も広がっている。
 こうした多様な働き方が拡大することは、働く者の就業意識やライフスタイルに応じた選択肢の拡大につながる可能性がある。しかしながら、実際には、働き方の多様化は、企業側のコスト要因により、人事労務管理の多様化により進んでいる側面があり、パートと正社員の賃金格差は拡大傾向が見られ、パート等非正規労働者の満足度も低い等働く者にとって望ましい選択肢の拡大につながっていない。
 また、近年、企業の経営方針は、厳しい市場競争に生き残るため、競争力のあるコア事業への選択と集中を図り、高度化・高付加価値化を進める一方、それ以外の業務については、アウトソーシングやコスト削減を進める等の合理化を図る傾向が強い。このため、コスト削減により、パートや契約社員等が増える一方、正規従業員についても早期に選抜を行い、中核人材の絞り込みを行う等、二極分化の傾向が見て取れる。今後とも、本格的知識社会の到来や更なる市場競争の激化により、この傾向が強まれば、所得や資産の格差が拡大し、中流層が厚い我が国の特色が失われる懸念がある。

(組織依存から自律性を持った職業生活への転換)
 これまでの雇用者の職業生活は、概ね、教育段階から退職するまで、組織中心に展開されてきた。すなわち、教育段階では、安定性が高く、処遇条件の良い大企業への「就社」が目標とされ、本人の適性・能力より、成績や勤怠度により、大企業中心の序列の中での切り分けがなされてきた。
 企業に入職して後は、OJTや教育訓練を受け、職業上必要な知識・技術を修得し、以後、大企業においては、長期の比較的安定した雇用が保障される中で、能力開発、配置転換・異動、昇進・昇格等の職業キャリアの展開は、基本的に企業任せであり、組織に忠実に勤めれば、定年まで大過なく職業生活を送ることが可能であった。
 しかしながら、市場における競争の激化等、企業を取り巻く環境が激変し、長期安定的な日本型企業慣行が崩れる中で、大企業といえども、先行き見通しのきかない不透明な時代となり、働く者個人も、職業キャリアを組織任せでは済まなくなり、自らのキャリア展開のあり方を考える自律した姿勢が求められるようになってきた。
 また、働き方やキャリア展開について自律性が求められる一方、働く者の意識の面では、経済の低迷や将来の見通しの立たないことによる雇用面での不安や収入・収益の減少による生活不安、少子高齢化が進む中での定年後の生活についての不安が高まっている。また、企業のリストラが進む中で、働く者の企業への帰属意識が大きく後退し、自らの依って立つアイデンティティーの喪失といった現象さえ見られる。

(年齢別・性別の働き方の変化)
 年齢別の働き方の状況を見ると、近年、若年層と高年齢層で失業率が高くなっており、反面、30〜40代の働き盛りは、失業率は比較的低いものの、中高年層のリストラや若年層の入職抑制のシワ寄せの影響もあり、労働時間は長くなる傾向にあり、加えて労働者一人あたりの業務の負荷が大きくなるなど、働き方についての世代間のアンバランスが目立っている。
 まず、若年層については、無業者、失業者、フリーターの増加やそれによる技術・技能修得機会の喪失が、社会問題となっている。若年問題の背景には、需要不足等による求人の大幅な減少と、求人のパート・アルバイト化及び高度化の二極分化により、高卒向けの仕事が喪失しているという事情が大きく影響している。また、社会が複雑化し、職住分離している上に、教育段階での職業情報や職業体験の機会が乏しい現状では、学生や若年者が自らの職業やキャリアのイメージを描くことは難しい。教育段階からの実践とキャリア意識の涵養、能力や適性を考慮した就職システムや学卒即就職以外の複線的な若年労働市場の形成等の抜本的な改革が求められている。
 さらに、市場における企業間競争が激化し、商品サイクルや納期が短縮される状況で、30〜40代の働き盛りを中心として、単に労働時間が長いだけでなく、1人あたりの業務の負荷も大きくなり、ストレスの増大、精神障害、過労死、さらには自殺の増加等の問題が懸念されている。また、知識社会の本格的到来にもかかわらず、働き盛りの世代が、目先の仕事に追われ、自らに投資する時間や創造力を養うゆとりすらないことは、本人はもちろん企業や社会全体にとっても大きな問題となりかねない。
 なお、性別に働き方の変化を見ると、近年、経済の停滞を背景に男性の雇用者数が減少傾向(3100万人強)にあるのに対し、女性の雇用者数は、やや増加(2200万人弱)している。しかし、雇用者数の増加は主として、パート・臨時雇用の増加によるものであり、生活上の必要によるものが多い。また、年齢別労働力率を見ると、未だに30代が落ち込むM字型カーブの形状を示しており、30代の潜在的労働力率との乖離はなお大きい。

(地域コミュニティー、家庭の機能の崩壊)
 高度成長期から成熟社会に入る過程において、各地域に存在していたコミュニティーは次第に崩壊し、地域における住民の共同意識は薄れ、コミュニティーを基盤とする様々な行事や活動も衰退しつつある。
 こうしたコミュニティーは、これまで一面で知恵や経験のある高齢者の活躍の場でもあり、他方で、若年者が地域活動への参加を通じて一人前となるために必要なコミュニケーション能力や社会性を身につける教育の場でもあった。また、コミュニティーの活動は、地域における住民の様々な厚生や福利にも寄与するものであった。
 現在、無業者・失業者・フリーターが急増し、若年問題が深刻化する中で、学校教育にすべてを委ねることには限界があり、地域の様々な団体による教育機能の重要性が見直されようとしている。また、高齢化が本格化する中で、定年退職後の余生が極めて長く、この間、生き甲斐をもって社会参加のできる地域の受け皿づくりという点でも、地域のコミュニティーに関わる活動分野の育成は、今後の重要な課題である。
 このほか、こうしたコミュニティーの崩壊と同時に、家庭の機能も、核家族化や単身世帯の増加、さらには、長時間労働等による団欒の消失により弱まっている。子供が社会生活に最低限必要なコミュニケーション能力や規律・躾を身につける第一歩は、家庭であり、今後、こうした家庭機能を復活させることができるのか、あるいは、社会化する方向で考えていくのか問われるところである。

(仕事と生活の調和の重要性)
 働き方の多様化・自律化や生活の変化に対応して、働く者の意識についても確実な変化が起こっており、例えば、仕事と生活のいずれを重視したいかということについては、全体として生活重視にシフトしつつも、双方をバランスよく充実させたいと考える者が増加している。
 仕事と生活の調和を図ることは、地域活動や家庭機能の復活、生涯にわたる意欲や能力の発揮、次代の社会を支える人材の健全育成などにとっても重要であり、こうした観点から、雇用管理の在り方が問われることになるのではないか。


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