第3章 ものづくり労働者の確保等に関する事項 第1節 失業の予防その他雇用の安定 1 雇用創出に対する支援 新分野進出等を行う中小企業に対する支援を通じた雇用機会の創出を図るこ とは、ものづくり労働者の雇用の安定のためにも重要な課題となっているが、 それら中小企業にあっては雇用管理についての知識・ノウハウの蓄積に欠けて いる場合も多いため、雇用管理改善に取り組む企業に対する助成金等の各種支 援措置のほか、創業に必要な能力の習得を付与する機会を提供することなどに より、新分野進出等を支援する。また、官民の各機関・団体による連携の場の 構築、ベンチャー企業等に対する相談援助等や起業家に対する情報提供を推進 する。 2 失業なき労働移動の支援 ものづくり労働者にとっても、いったん離職すると直ちに再就職することに 困難が伴う中で、できるだけ失業を経ずに新たな就業機会を得ることが必要で あることから、雇用調整を余儀なくされている事業所から出向・再就職のあっ せんにより労働者を受け入れる事業主や労働移動前後の教育訓練を行う事業主 に対する助成を行うことなどにより、産業間・企業間の失業なき労働移動を支 援する。 3 景気循環に対応した雇用の維持・安定対策 ものづくり労働者の雇用の維持を図ることは、労働者の雇用の安定のみなら ず、ものづくり基盤産業の維持・発展、ものづくり労働者の職業能力の有効発 揮の観点からも重要な課題である。 このため、景気の変動、産業構造の変化等に伴い事業活動の縮小を余儀なく され、休業、教育訓練又は出向を行う事業主を対象とする雇用調整助成金につ いて、その機動的、弾力的運用を図るなど、企業の雇用維持努力に対する支援 に努める。 4 労働力需給調整機能の強化 ものづくり労働者にとっても、労働力需給のミスマッチを解消し、失業期間 の短縮が図られるようにすることが必要であることから、公共職業安定機関の 情報提供機能の強化等を図るほか、公共職業安定機関と民間職業紹介事業者等 がそれぞれ特性を十分に活かしつつ需給調整の役割を果たすようにするなど労 働市場全体の需給調整機能の強化を図る。 5 技能を活用した地域雇用開発等の推進 特に、製造業が集積している地域においては、生産拠点の海外移転等の経済 上の理由により雇用状況の悪化が懸念されるが、その一方で、我が国のものづ くりの基盤となる技能が集積しており、これらの技能を活用した雇用開発が緊 急の課題となっている。 このため、このような地域における技能の継承・発展やそれらの技能を活か した新事業展開による雇用機会の創出、人材育成の取組等を推進し、ものづく り労働者の雇用の安定を図る。 6 若年者に対する職業意識の啓発等 新規学卒者の早期離職等により若年者の完全失業率が上昇し、また、若年者 のものづくり離れが言われる中で、ものづくり労働者となる若年者に対しても、 ものづくりの重要性を含め職業意識の啓発を図るとともに、自己の適性にあっ た適切な職業選択を支援することが重要である。 このため、在学中からセミナーや職場見学を実施するほか、インターンシッ プの導入等を促進する。 また、職業の変化・多様化が進む中で、職業や技能の重要性等に対する理解 を深めるため、様々な職業に関する体験機会や職業情報の提供を充実する。 さらに、大学等の新規学卒者等の就職支援を推進すると同時に、就職先が決 まらないまま卒業した者について早期就職を支援するほか、卒業後早期の離転 職者に対する相談機能を強化する。 7 65歳までの雇用・就業機会の確保等 急速な高齢化が進展する中で、高齢者の雇用・就業を促進することは、もの づくり労働者の確保の観点からも重要な課題である。 このため、向こう10年程度の間においては、65歳定年制の普及を目指し つつも、少なくとも意欲と能力のある高年齢者が再雇用又は他企業への再就職 などを含め何らかの形で65歳まで働き続けられるようにしていくこととし、 65歳までの雇用機会その他の多様な就業機会の確保等を図る。 第2節 職業能力の開発及び向上 1 産学官の連携による人材育成の推進 今後、我が国経済を新生させ、社会を活力あるものとするためには、新たな フロンティアを切り拓き、個性と創造性に富んだ人材の育成を図ることが重要 となっている。 このため、今後の我が国経済社会において必要とする人材の効果的な育成を 図るため、地域の特性等に応じた産学官の連携による人材育成システムを構築 するとともに、必要な教育訓練機会の開発・整備、人材ニーズに応じた最適な 教育訓練機会の提供等を推進し、これらを通じてものづくり労働者の職業能力 の開発及び向上を図る。 2 公共職業訓練の推進 今後、経済・産業構造の転換や技術革新等が一層進展することが見込まれる 中で、これらの変化に的確に対応し、個々の労働者がその有する能力を最大限 に発揮できるようにすることが重要となっている。 このため、事業主団体等と連携し、情報技術化への対応をも図りながらもの づくり労働者の技能の向上を図るための職業訓練や今後のものづくりを担おう とする者を養成するための職業訓練を、訓練ニーズに応じて公共職業能力開発 施設で積極的に推進する。 また、職業転換を図ろうとする者が必要とする職業能力を習得するための職 業訓練について、専修学校等の民間教育訓練機関の効果的な活用を含めその推 進を図る。 3 事業主が行う職業能力開発の推進 ものづくり労働者の技能の向上を図るためには、事業主がこれらの労働者に 対して職業能力の開発及び向上を推進することが重要である。 このため、事業主が行う職業能力開発が効果的に推進されるよう、必要な情 報提供、相談援助等の充実に努めるとともに、中小企業事業主を中心に必要な 助成を行う。 特に、事業主等が行う職業訓練のうち訓練内容等が一定の基準に適合する認 定職業訓練については、その運営に対し補助を行う等の支援を行う。 4 労働者の自発的な職業能力開発のための環境整備 産業構造の変化が進み、労働移動が増加する中で、ものづくり労働者につい ても自発的な職業能力の開発及び向上に取り組むことが重要となっている。 このため、教育訓練給付を効果的に活用することによりその取組を促進する とともに、自発的な職業能力の開発及び向上のための時間の確保等の環境整備 を図る。 5 ものづくり人材育成のための大学の設立の取組への支援 産業界の現場で役立つ技術・技能双方に通じた人材育成等を基本理念として 掲げ設立準備をしている「ものつくり大学」(仮称)の取組を支援するととも に、その人材育成機能の積極的活用を図ることとする。 第3節 ものづくりに関する能力の適正な評価、職場環境の整備改善等 1 職業能力評価制度の整備 ものづくり労働者の職業能力の開発及び向上を図るためには、その職業能力 を評価できる制度の整備を図る必要がある。 このため、ものづくり労働者の職業能力の公正な評価に資するよう、技能検 定制度を適正に運用するとともに、民間において行われる職業能力検定につい て、ものづくり労働者の職業能力を公正に評価するために適当と認められるも のを基準に基づき認定する制度を整備する等の支援を行う。 2 技能の尊重気運の醸成 ものづくり基盤産業の発展を担う優れた技能が維持・継承されるためには、 広く国民がものづくり労働者の有する技能の必要性、重要性について理解を深 め、技能や熟練技能者が尊重される社会を形成することが必要である。 このため、卓越した技能を有する者の表彰等により、その社会的評価の向上 に努めるとともに、技能競技大会や技能展等の積極的な開催により、技能者に 努力目標を与えるとともに、広く国民一般が優れた技能に身近に触れる機会を 提供するなど、技能や熟練技能者が尊重され、適切に処遇されるための気運の 醸成の推進に努める。また、教育現場等においても、ものづくりの楽しさ、素 晴らしさと同時に大切さについて次世代を担う若年者等に認識してもらうため の施策の推進に努める。 3 熟練ものづくり労働者の活用等 若年者を中心としたものづくり離れ、更には熟練技能者の高齢化等により、 我が国の経済発展を担う優れた熟練技能の継承が困難になりつつある。 このため、高度な技能を駆使して高精度・高品質の製品を作りだすこと等が できる高度熟練技能者を選定し、その協力を得て、高度な熟練技能の内容、技 能習得のプロセス等の情報を収集し、広く提供する。さらに、実技指導等の場 を確保し、高度熟練技能者の積極的な活用を図る。また、熟練ものづくり労働 者の製作した製品について、製作したものづくり労働者の名を明記することに ついて、企業が取り組むよう働きかける。 4 職場環境の改善その他福祉の増進 労働者がその生活時間の多くを過ごす職場について、疲労やストレスを感じ ることの少ない快適な職場づくりを推進することは、労働災害の防止、健康障 害の防止のみならず、ものづくり労働者が能力を十分に発揮できる環境の整備 やものづくり労働者のモラールの向上を通じて、職場の活性化に資するもので ある。 このため、快適な職場づくりについての調査研究活動、事業者に対する相談 ・情報の提供等の支援を行うとともに、事業者の策定した快適職場推進計画に ついて認定を行うことにより、事業者による継続的かつ計画的な快適職場づく りを促進する。 また、ものづくり労働者が安心して生活し、ゆとりと豊かさを実感できる社 会を作るため、労働時間の短縮のための施策を推進するとともに、勤労者財産 形成促進制度の充実、中小企業退職金共済制度の普及等勤労者福祉対策の推進 を図る。