平成12年11月
健やか親子21検討会
目次
第1章 基本的な考え方
第2章 主要課題
第3章 推進方策
「健やか親子21」検討会開催状況
「健やか親子21」検討会委員名簿
「健やか親子21」は、これまでの母子保健の取組の成果を踏まえ、残された課題と新たな課題を整理し、21世紀の母子保健の主要な取組を提示するビジョンであると同時に、それぞれの課題についての取組の目標を設定し、関係者、関係機関・団体が一体となって推進する国民運動計画である。
第1節 「健やか親子21」の性格
「健やか親子21」は、21世紀の母子保健の主要な取組を提示するビジョンであり、かつ関係者、関係機関・団体が一体となって推進する国民運動計画である。
第2節 「健やか親子21」の基本的視点
我が国の母子保健の様々な指標は、これまで関係者が努力を続けた成果として、20世紀中に既に世界最高水準に到達している。その成果を踏まえ、21世紀の母子保健の主要な取組を展望するに当たり、以下の4つの基本的視点に立脚した。
第3節 「健やか親子21」の課題設定
「健やか親子21」においては、前節の基本的視点を踏まえ、以下の4つを21世紀に取り組むべき主要な課題として設定した。
それぞれの課題ごとに「問題認識」、「取組の方向性」、「具体的な取組」について第2章において記述した。
第4節 「健やか親子21」の推進方策
1 基本理念
「健やか親子21」の国民運動の推進にあたり、その理念の基本をヘルスプロモーションにおいた。
2 「健やか親子21」の推進方策
「健やか親子21」で掲げた主要課題は、いずれもその達成に向けて国民をはじめ保健・医療・福祉・教育・労働等の関係者、関係機関・団体がそれぞれの立場から寄与することが不可欠な内容を有している。上述したヘルスプロモーションの基本理念に基づき「健やか親子21」が国民運動計画として展開していくために、以下の3つを主要な方策として位置付けた。
第3章に、国民、地方公共団体、国、専門団体、民間団体の寄与しうる内容を各課題ごとに記述した。これらの取組を効果的に調整・推進するために、関係者等の行動計画のとりまとめや進捗状況の報告を統括する「健やか親子21推進協議会」を中央に設置することも提言した。さらに、国民運動計画を推進するに当たり、計画期間と達成すべき具体的課題を明確にした目標を示した。
第1節 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進
1 問題認識
近年、思春期における性行動の活発化・低年齢化による人工妊娠中絶や性感染症の増加、薬物乱用、喫煙・飲酒、過剰なダイエットの増加等の傾向が見られており、これらの問題行動が思春期の男女の健康をむしばんでいることが指摘されている。併せて、心身症、不登校、引きこもり、思春期やせ症をはじめとした、思春期特有の心の問題も深刻化、社会問題化している。さらに、子どもの自殺、殺人、暴力といった問題も顕在化してきているが、これは生命の尊さを子どもに十分に伝えることのできない大人側の問題でもある。
2 取組の方向性
(1)思春期の健康と性の問題
思春期は大人と子どもの両面を持つ時期である。したがって、親をはじめ周囲の大人が、思春期の子どもに接する際に、まず、子どもっぽさへの不安や心もとなさを許容すると同時に、半ば大人の能力を獲得した存在として彼らの尊厳を保障し、その発言に耳を傾けていくことが必要である。
(2)思春期の心の問題
子どもの心の問題は、最初に身体上の異常など何らかのサインが発せられることが多く、初期に発せられるこのサインを見逃さないよう、親に対する学習の機会を提供することが必要である。また、乳幼児期からかかりつけ医を持つことにより、親の学習の機会を確保し、このようなサインを親が早期に発見し、適切な指導が受けられるようにすることも必要である。
3 具体的な取組
(1) 思春期の健康と性の問題
学校における思春期の相談体制の強化、養護教諭などの教職員の相談活動等や資質向上を目指した研修の実施、学校医活動の充実、スクール・カウンセラーの配置の促進、保健室の相談機能の充実(養護教諭の複数配置の充実を含む)、専門の相談室の整備等に取り組む。
イ 質的転換
(ア)学校における取組
学校での健康教育は、基本的な知識と、それを実践する能力・技術を身に付けるよう、以下のような取組を行う。
(イ)地域における取組
同世代から知識を得るピア・エデュケーション(仲間教育)の取組は、性教育、薬物乱用防止のためにも有効であり、今後、青少年の声を思春期保健活動に反映させるための会議の開催や、ピア(仲間)・カウンセラーの養成とピア(仲間)・カウンセリングの実施などの思春期の子ども自身が主体となる取組を地域において推進する。
ウ 関係者・機関の連携
学校、地域の関係機関が、相互に学習の場を提供したり、定期的に情報や意見の交換を実施する場を設置する。
(2) 思春期の心の問題
学校における心の問題に対応した教諭・養護教諭の相談活動強化のための研修や、健康相談における学校医の積極的な活動、スクール・カウンセラーの配置、保健室の相談活動のための機能の充実(養護教諭の複数配置の充実を含む)を重視する。
第2節 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援
1 問題認識
妊娠・出産・産褥期の女性は、短期間での大きな心身の変化に加えて、生まれてくる子どもに父親とともに愛情を注ぎ、育てるという長期にわたる責任を負うこととなるため、ライフスタイルの変化を要求される時期にある。そのため、長期的な視野を持って、この時期における母子と家族の健康を、社会的・精神的側面からも支え、守ることが、母子保健医療の社会的責任として求められている。また、この時期の支援は、良好な母子の愛着形成を促進していくものであり、子どもの心の安らかな発達の促進にも寄与しうるものであるという認識を持つ必要がある。
2 取組の方向性
(1)妊娠・出産の安全性と快適さの確保
妊娠・出産に関する安全性を確保しつつ快適さを追求するためには、医療・保健関係者が極めて大きな役割を担うが、特に分娩に関与する専門職の意識の変革、産科医療における診療所・助産所と病院及び病院間の連携、産科医と助産婦との連携、分娩・入院環境の改善、産科医と小児科医の連携、地域保健サービス内容の転換、産業医を含む職場における母性健康管理体制と産科医との連携の一層の推進等が求められる。
イ 妊産婦を取り巻く社会環境
妊婦に対して理解のある家庭環境や職場環境の実現、受動喫煙の防止、各種交通機関における優先的な席の確保等の社会システムづくりや国民各層、産業界への啓発がより一層求められる。特に、妊娠、出産後も働き続ける女性が増えていることから、働く女性の妊娠・出産が安全で快適なものとなるよう、職場における環境づくりも重要である。
(2)不妊への支援
誰もが希望に応じて不妊治療を受けられる社会環境の整備が望まれる。また、不妊相談をはじめとした情報提供体制の整備とカウンセリングを含む利用者の立場に立った治療方法の標準化が不可欠である。
3 具体的な取組
(1)妊娠・出産の安全性と快適さの確保
(ア)分娩の安全性の確保
診療所・助産所や病院においては、分娩に対する安全性の確保が最も重要であり、そのためにも産科医療機関の間における連携を推進するとともに、休日・夜間体制を整備し、正常分娩急変時に高次医療機関に搬送できる体制を整備する必要がある。このための基礎となるガイドラインを作成する。また、リスクに応じた分娩形態の採用や、助産婦が参画したチーム医療の採用、高次の病院のオープン化等に取り組む。
(イ)情報提供
妊娠、出産に関する医療サービスについて、利用者に対してそのサービスの内容等を情報提供することを推進する。特に、医療施設は、利用者が希望するサービスの内容を幅広く選択できるような取組を推進する。
(ウ)分娩のQOLの確保
病院・診療所・助産所において、正常分娩で自然な形態の分娩を希望する妊婦に対しては、そうしたサービスを提供できるように対応することが望まれる。正常分娩において助産婦が中心的な介助・ケアを提供し、必要がある場合に医師のコンサルテーションを受ける病院・診療所内バースセンター方式の導入は、安全性と快適性を調和させる有力なアプローチと考えられる。助産所においてサービスが提供される場合には、安全性の確保の観点から、異常分娩か否かの早期の判断と産科医療機関への搬送、出生した新生児に対しても異常を早期に発見し対処することが必須である。そのためにも異常を早期に発見できる判断力の向上と、産科や新生児科の医療施設との連携の構築が必要である。
(エ)心の問題への対応
妊婦の心の問題に対応した健康診査体制や出産形態の採用、専門職によるカウンセリングの強化等に取り組む。また、育児不安軽減のための取組としてプレネイタル・ビジット(出産前小児保健指導)を含む産科・小児科の連携による心のケアを推進する。慢性疾患や障害を持つ親の出産や周産期異常(流産・死産等)による母親の反応性障害については、産科、小児科と内科や精神科等との連携や心理職等による相談体制を整備する。また、社会的ハンデキャップを持った妊産婦についての社会的な支援も求められる。
(オ)基盤整備
安全性を確保しつつ、個々のニーズに対応するためには、施設面の整備と医師、助産婦などの確保や、特に増加している女性医師の勤務しやすい環境整備に努める(16ページ 3(2)ア参照)。
イ 地域保健・産業保健
(ア)地域保健
都道府県レベルでは、妊産婦死亡率等の改善を図るために、初期から三次医療を担当する産科医療機関の連携システムを構築する。
(イ)産業保健
働く女性の妊娠・出産が安全で快適なものになるような職場環境の実現を図る。職場における母性健康管理指導事項連絡カードの活用、産業医と産科医の連携、事業所内における健康管理部門と人事管理部門との連携等により、妊娠中及び出産後の女性労働者の状況に応じた配慮がなされる妊婦に優しい職場環境の実現を目指す。今後、働く男女が不妊治療を受けやすくなるよう配慮して、不妊治療のための休暇等を提供していくことも考えられる。
(2)不妊への支援
不妊治療に関する相談体制及び医療提供体制を整備する。
第3節 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備
1 問題認識
21世紀の少子・高齢社会において産まれた子どもが健やかに育つように支援することは、小児の保健と医療の主要な課題である。多くの疾患を克服し、高い小児保健医療水準を20世紀に達成した我が国においても、QOLの観点や健康な子どもの健全育成をも視野に入れ、小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備を、21世紀に取り組むべき主要な課題として位置付け重点的に進める必要がある。
2 取組の方向性
(1)地域保健
母子保健法に基づき地方公共団体が実施する体系的な母子保健サービスは、平成9年度から市町村と保健所との役割分担もなされ、市町村で策定された母子保健計画等に基づく施策が展開され、高水準が保たれてきている。しかし、その保健水準が一見良好であるが故に、介護保険や高齢者対策など他の施策に比べて、その重要性に見合った適切な資源投入が行われていない場合もみられ、事業の企画・実施にも、サービス提供のための人材投入においても他の施策に比べて等閑視される傾向がある。しかしながら、少子化に伴い、母子保健サービスの必要性はむしろ高まっており、多くの社会的な問題が生じつつある。
これまで培ってきた乳幼児期の健康診査システムは世界最高を維持し、健康診査の精度や事後措置などについて、質の維持・向上を図り、乳幼児期の疾患や障害の早期の発見と早期療育につなげるよう努力していく必要がある。
イ 事故等の予防
子どもを取り巻く育児環境を考えると、本人だけではなく、周囲の人の喫煙や飲酒等も問題となる。特に20歳代、30歳代の男女の喫煙率が諸外国に比べ高い状況であり、妊婦及びその周囲の人の喫煙は早産や低出生体重児の出産につながったり、乳幼児突然死症候群(SIDS)、気管支炎、気管支喘息等へも影響している。また、子どものたばこの誤飲・誤食等も起こっている。これらの好ましくない育児法についての知識の普及を行い、女性本人の禁煙と周囲の人への分煙等を働きかける必要がある。
ウ 予防接種
小児の死亡の減少に貢献してきた予防接種の接種率を高く維持しておくことが大きな課題である。予防接種は、地域における接種率が概ね95パーセントを超えるとその地域における感染抑止効果が大きいとされる。
(2)小児医療
小児医療は、単に疾患の診断や治療だけでなく、乳幼児の発育発達の評価、育児上の問題に関する相談、予防接種を中心とした疾患の予防、家庭内や学校における健康上の問題の解決など、医療や保健の広い範囲の活動が求められている。今後、少子化が進行するにつれて、育児上の不安を覚える両親が増え、身近なところでそうした活動を含めた小児医療を受けたいとの要望はますます強まるものと推測され、このような要請にも応えていく必要がある。
小児救急医療については、従来からの初期、二次、三次といった体系的な救急医療体制が十分に機能しているとは言い難いとの指摘がなされている。患児の保護者の側から見れば夜間も診てくれる信頼できる小児科医が近くにおらず、医療提供側から見れば特定の医療機関に重症度にかかわらず患児が過度に集中し、小児科医の過重労働等の問題が生じているということである。この理由としては、共働き夫婦の増加により家庭で子どもの異常に気付くのが以前より遅い時間帯になっていること、核家族化に伴い子どもの健康に関する祖父母の経験と知識が生かされていないこと、保護者が小児専門の医師による診断・治療・説明を希望する傾向にあることなどがあげられる。これらの点に留意し、小児救急医療体制の整備を早急に行う必要がある。
イ 小児の入院環境・在宅医療
心身の発達・発育に障害を有する児童や長期にわたる治療が必要な児童のQOL向上のため、医療機関は、児童福祉、療育、特殊教育などの機関と連携し、小児の入院環境や在宅医療の整備に向けた総合的な取組を行う必要がある。
3 具体的な取組
(1)地域保健
妊娠・出産から乳幼児期にわたり保健サービスの提供や評価を行う母子保健業務は、極めて技術的でかつ専門性が高いことから、医師等の技術職を確保することや、母子保健の専門分野について関係職員の一層の研修の充実を図る。
乳幼児期の健康診査は、精度や事後措置などについて、住民のニーズを踏まえ、質の維持・向上を図っていく。また、健康診査等で早期に発見された障害児や注意欠陥多動性障害、学習障害、自閉症などを含め心身に関して諸問題を有しており、将来、精神・運動発達面等において障害を招来するおそれのある乳幼児・児童等への支援を充実する。そのために、障害等の早期発見体制の整備や親に対する適切なインフォームド・コンセントの実施、効果的な早期療育のプログラムの策定を行うとともに、地域の療育関係機関ネットワークを整備し、地域の療育機能の充実を図り、障害児と親へのコミュニティ・サポート機能の強化を図る。
イ 小児の事故等
小児の事故の大部分は予防可能であることから、小児の発達段階に応じた具体的な事故防止方法について、家庭や乳幼児・児童を扱う施設の関係者に対し、あらゆる機会を利用して情報提供、学習機会の提供を行う。家庭と地域における事故防止対策を浸透させるために、まず都道府県と市町村レベルに協議会を設け、地域における目標を設定し、事故防止対策の企画・立案、推進・評価を行う。
ウ 予防接種
予防接種の接種率を向上させる対策としては、予防接種への関係者の関心が高まるように情報提供の質的な転換が基本となる。具体的には、予防接種の持つ効果とリスクに関してバランスのとれた情報を幅広く提供し、乳幼児の健康診査の際にわかりやすく説明するなどにより親や関係者の理解を得る。
(2)小児医療
小児医療においては、疾患の診断・治療、育児上の問題点に関する相談、疾患の予防、家庭内や学校における健康上の問題点の解決などの幅広い要請にも十分に応えていく。
イ 小児救急医療
より良い小児救急医療体制を地域で構築するためには、まず、医療関係者と行政機関が、地域における小児救急は地域全体で支えていくという合意の下に取組を進めていくことが必要である。小児救急医療体制の整備は、都道府県が果たすべき重要な責務であることから、医療計画において計画性をもって行うことが基本である。
ウ 小児の入院環境と在宅医療
小児の入院については、成長・発達途上にある小児の特性を踏まえ生活環境の整備を行う。特に、病室内に親が付き添うためのスペースの確保や院内における患児の日常生活介助のための環境の整備、また、長期に入院する患児の心のケアのための心理職や院内保育士の確保、プレイルームの整備、院内学級の整備による教育機会の提供等の取組を行う。
第4節 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減
1 問題認識
近年、親と子の心の健康についての関心が高まってきているが、この問題については、予防を含めて保健医療分野の取組の必要性が大きくなっている。特に母子保健で親と子の心の健康に取り組むことは、思春期を含む子どもの心の問題の予防にもつながるものであり、意義が大きい。母子保健における心の健康は、(1)両親の育児不安・ストレスと子どもの心の関係、(2)児童虐待に代表される親子関係、といった2つの大きな問題が存在する。
一般に、母と子の心の関係の成り立ちは、(1)母の心の状態、(2)育児に関する親の知識や技術、(3)社会や先輩や仲間からの育児の伝承、(4)育児の負担や楽しみを夫婦間で分かち合う、(5)生活基盤の安定、などによって支えられ、形成され、発達し、確立すると言われている。しかしながら、少子化、核家族化、国際化、長時間労働が恒常的な職場環境、父親が育児参加しないことを是とするような社会風潮、地域の育児支援能力の低下等の社会環境は、これらの親子の健全な心の関係の確立の阻害要因となっている。そのために早急に有効な対策が取られなければ、育児への不安感や孤立感を持つ母親の数は今後増加していくことが予測され、その影響を受ける子どもの心の問題も増加し、深刻化すると考えられる。
(2)次世代にも引き継がれること
子ども時代に大人から十分な愛情を受ける機会なく育った親は、子どもの気持ちや要求を読みとりにくく子どもを愛する方法が分からないため、育児困難や虐待につながりやすいことが指摘されている。つまり親子関係の問題は、有効な対策が取られなければ、21世紀の次世代へ連鎖されるといえる。
(3)問題の大きさと原因・結果の因果関係が存在していること
児童虐待の研究から、虐待では、(1)多くの親は子ども時代に大人から愛情を受けていなかったこと、(2)生活にストレス(経済不安や夫婦不和や育児負担など)が積み重なって危機的状況にあること、(3)社会的に孤立化し、援助者がいないこと、(4)親にとって意に沿わない子(望まぬ妊娠・愛着形成阻害・育てにくい子など)であること、の4つの要素が揃っていることが指摘されている。
しかしながらこれまで母子保健を担ってきた地域保健や地域医療の関係者は、妊婦や母親の不安、子どもの心の問題、児童虐待を含めた親子関係の問題、育児を行う生活基盤の調整等に対して、必ずしも十分に対応してきていなかった。
2 取組の方向性
(1)子どもの心と育児不安対策
親と子の心の問題に対応するためには、まず、親を含めた関係者自らがこれらの学習を行うことが重要であり、そのための支援を行うことが必要である。
(2)児童虐待対策
児童虐待は、子どもの年齢によって発生する種類に違いがある。0〜3歳未満は、身体的虐待・ネグレクトがほとんどで死亡事例も少なくない。3歳〜就学前は、身体的虐待、ネグレクト・心理的虐待が多い。小学生は、就学前と同様であるが、心理的虐待が目立ってくる。中・高校生は、身体的虐待は減るが、心理的虐待・性的虐待が多く見られる。このように発生する虐待の種類を年齢ごとに踏まえて適切に対応する必要がある。特に、地域保健・地域医療での対応が児童虐待の予防と早期発見及び再発予防に極めて大きな役割を果たし得るということと、継続的観察・介入が可能だということを認識することが重要である。
3 具体的な取組
(1)子どもの心と育児不安対策
地域保健においては、これまで、ともすると疾病・障害の早期発見・早期療育など画一的な保健指導が行われていたとも指摘されており、育児支援の観点からこうした体制の見直しを行う。
イ 学校保健
少子化・核家族化等の影響により、乳幼児に接した経験が少なく、自分が親になったときに育児不安に陥りやすいこともあることから、市町村の母子保健活動や保育活動の機会を利用して生徒が乳幼児に触れ合う体験を推進する。また、異年齢の子ども同士の触れ合いや自然・動物との触れ合いの機会を提供する。
ウ 医療機関
(ア)周産期医療
産科では、出産の安全性や快適さに関わる事項に加え、妊産婦の育児への意識・不安のチェックとそれに基づく地域保健機関や小児科への紹介を行う。さらに、妊娠中又は出産直後から始める親と子の愛着関係を促進する支援策として、プレネイタル・ビジットや母子同室、母乳哺育の普及等を図る。
(イ)小児医療
小児科では、診察時の疾病の診断・治療に加え、親子関係や母親の心の様子、夫婦の協力関係、子どもの心の様子・発達への影響等を観察し、ケアやカウンセリングを行うよう努める。また、プレネイタル・ビジットの実施による産科との連携強化を図るとともに、必要なケースを発見した場合のために児童精神科や保健福祉機関との連携を密にする。
(2)児童虐待対策
乳幼児虐待は死亡も多く、乳幼児虐待を早期発見できる地域保健・地域医療の現場や保育所等での体制整備も急がれるところであり、保健所・市町村保健センター等では、これまで明確になっていなかった児童虐待対策を母子保健の主要事業の一つとして明確に位置づけ、積極的な活動を展開する。
第1節 「健やか親子21」の推進方策について
第2章で述べた「健やか親子21」の主要課題に対する取組については、いずれもその達成に向けて、一人一人の国民はもとより保健・医療・福祉・教育・労働などの関係者、関係機関・団体がそれぞれの立場から寄与することが不可欠な内容を有している。国や地方公共団体が単に補助事業や委託事業として予算化すればその成果が期待できるというものではない。
第2節 関係者、関係機関・団体の寄与しうる取組の内容の明確化
基本的な視点として大切なことは、ヘルスプロモーションの基本理念に沿って、国民が主体となった取組を第一義的なものとしていくことである。同時に、地方自治体が地域の実情に応じた取組を展開し、関係者、関係機関・団体がそれぞれに貢献できる取組を認識し、日常の活動に組み込んで展開していくことである。これらは、国が押しつけるのではなく関係者等の自主的な取組によるものでなければならない。
1 国民(住民)
国民(住民)は、各課題に関する認識を深める活動に積極的に参画し、自分たちが直面する健康上の諸問題に関して、自らの健康を自分で守る力(生きる力)を向上させる。また、これらの問題を地域のものとして受け止め、関係機関・団体と連携して、共同してその解決に向けて努力を重ねていく。
2 地方公共団体
地方公共団体は、地域特性を重視しながら、住民が各課題を地域の課題としてその解決に取り組めるよう積極的な支援を行うことが必要で、他の地方公共団体や関係部局等が連携して、住民参加のうえ地域における各課題の目標の設定と評価等を行うとともに、地域における関係者への研修や関係団体の活動等を支援していく。
3 国
国は、国民(住民)が、各課題を地域の課題として共同してその解決に取り組めるよう、また、地方公共団体や関係機関がそうした活動を積極的に支援できるよう、必要な情報の収集や調査研究等による科学的知見の集積及び健康教育・学習教材の開発・関係者への研修等に努める。また、国としての目標・方向を提示し、啓発普及・広報・情報提供や各種制度や基盤の整備等の取組を行うとともに、「健やか親子21」が国民運動として展開されるよう各関係団体の積極的な参加を促進する。
4 専門団体
専門団体は、その専門性を活用し、各課題に関する相談、治療、情報提供、調査研究、啓発普及、人材の育成等に積極的に関わる。また、住民の積極的な支援を行うとともに国又は地方公共団体の施策に協力する。
表1 専門団体の例 (順不同)
はじめに
「健やか親子21」は、安心して子どもを産み、健やかに育てることの基礎となる少子化対策としての意義に加え、少子・高齢社会において、国民が健康で明るく元気に生活できる社会の実現を図るための国民の健康づくり運動(健康日本21)の一環となるものである。
平成12年2月に関係専門家等による検討会を設置し、母子保健に関する主要課題として、(1)思春期の保健対策の強化と健康教育の推進、(2)妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援、(3)小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備、(4)子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減、の4課題を設定し、約9か月にわたり9回の検討会を開催し議論を進めてきたが、今般、その報告書をとりまとめた。
今後、この報告書を踏まえ、住民一人一人が自らの決定に基づいて、健康増進や疾病の予防、さらに障害や慢性疾患をコントロールする能力を高めること及び健康を支援する環境づくりを柱とする公衆衛生戦略であるヘルスプロモーションの基本理念に基づき、国民をはじめ地方公共団体、国、専門団体、民間団体等が連携し、21世紀における「健やかな親子像」を目指した国民的な運動が展開されることを期待する。
第1章 基本的な考え方
同時に、安心して子どもを産み、ゆとりを持って健やかに育てるための家庭や地域の環境づくりという少子化対策としての意義と、少子・高齢社会において国民が健康で元気に生活できる社会の実現を図るための国民健康づくり運動である「健康日本21」の一翼を担うという意義を有している。
名称については、主として母子保健が対象となるものの、目指すものが、父親や広く祖父母も含め、親と子が健やかに暮らせる社会づくりであるので、本運動計画のそうした意義を踏まえて「健やか親子21」とした。
この国民運動計画の対象期間は2001年(平成13年)から2010年(平成22年)までの10年間とし、中間の年となる2005年(平成17年)に実施状況を評価し、必要な見直しを行うこととしている。
(2) 20世紀中に達成しきれなかった課題を早期に克服する(乳幼児の事故死亡率、妊産婦死亡率等の世界最高水準の達成等)
(3) 20世紀終盤に顕在化し21世紀にさらに深刻化することが予想される新たな課題に対応する(思春期保健、育児不安と子どもの心の発達の問題、児童虐待等の取組の強化等)
(4) 新たな価値尺度や国際的な動向を踏まえた斬新な発想や手法により取り組むべき課題を探求する(ヘルスプロモーションの理念・方法の活用、根拠に基づいた医療(EBM)の推進、生活の質(QOL)の観点からの慢性疾患児・障害児の療育環境の整備や妊娠から出産に至る環境の整備、保健・医療・福祉・教育・労働施策の連携等)
(2) 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援
(3) 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備
(4) 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減
「問題認識」では、現状に対する見解と主要課題として選定した理由等を示し、「取組の方向性」では、取組に当たっての基本的な方向性や枠組みを提示した。これを受けて「具体的な取組」では可能な限り具体的な形での方策を提言しているが、実施可能性を必ずしも厳密に担保したものではなく、各課題の解決に寄与すると期待されうる方策を厳選した。各課題の性格・内容の相違により必ずしも均一な記述ではないが、上述の趣旨に沿い、実践面を重視し記述した。この提言を参考として関係者等が可能な範囲で自主的な取組を行い、課題解決に貢献していくことが期待される。
留意すべきは、この4課題に含まれないものが重要でないということではなく、主要課題の選定に当たっては総花的な取組を避け、国民運動として集中的に取り組むべき課題を精選したということである。したがって、小児の歯科保健や栄養の分野は、「健康日本21」における生活習慣病予防に関わる部分に譲り、また、アトピーなどの個別疾患対策も対象としていない。これら「健やか親子21」に掲げた主要課題に含まれないが重要なものについても、従来に引き続いて着実に取り組んでいくことが期待される。
ヘルスプロモーションは、1986年にオタワで開催されたWHO国際会議において提唱されたもので、(1)住民一人一人が自らの決定に基づいて、健康増進や疾病の予防、さらに障害や慢性疾患をコントロールする能力を高めること、(2)健康を支援する環境づくりを行うこと、を2本の柱として展開する公衆衛生戦略である。
従来の健康教育が、「健康」を最終的な目標にして考える傾向が強かったのに対して、ヘルスプロモーションは、「QOLの向上」を最終的な目標に据え、健康は「より良い生活のための資源の一つ」として位置付けていることが特徴である。
図に母子保健分野における従来の健康教育とヘルスプロモーションの考え方の違いを示した。従来の健康教育は「安全な妊娠・出産と正しい育児」を目指して、専門家が母親に対して手とり足とり指導をしていた関わりが中心であったが、ヘルスプロモーションは、妊娠・出産や育児を通じて人間として成長しながら、親子が「豊かな人生」を送れるように、子どもの育ちに関して個々の親子を支援するとともに、地域・社会の構成員が一緒に「子どもの育ち」の玉を押せるように支援し、更に坂道の傾斜を緩やかにしようというものである。「子どもの育ち」の玉を押す力を強くすることは、ヘルスプロモーションの柱の一つである「住民一人一人が自らの決定に基づいて、健康増進や疾病の予防、さらに障害や慢性疾患をコントロールする能力を高めること」にあたり、坂道の傾斜を緩やかにする取組は、もう一つの柱である「健康を支援する環境づくりを行うこと」にあたる。
(2) 各団体の活動の連絡調整等を行う中央レベルの「健やか親子21推進協議会」を設置すること
(3) 計画期間と達成すべき具体的課題を明確にした目標を設定すること
第2章 主要課題
このような事態の拡がりは我が国の社会環境の変化を反映したものであり、現代の特徴が強く刻印された今日的な問題でもある。これらは解決が極めて困難ではあるが、改善に向けての努力を強化していく必要があり、21世紀に取り組むべき主要な課題として位置付け、集中的に取り組まねばならない。
また、思春期保健の問題は、幼少期の発達過程と深い関連を有しており、特に乳幼児期の発達体験の影響を強く受けていることを認識する必要がある。我が国では、このような思春期の心の問題に対応する児童精神科医師数や児童精神科医療提供体制は、諸外国と比較して極めて貧弱な状況にあり、その改善を急ぐ必要がある。
また、思春期における問題行動は、本人の現在の問題に留まらず、生涯にわたる健康障害や、時には次世代への悪影響をも及ぼしかねない問題であり、それを当事者に理解させ、問題行動の是正を図ることが必要である。
そのために、家庭、学校、地域等の連携による教育・啓発普及・相談等を通じて、問題の理解と情報の提供を目指すことになるが、これまでの同種の試みが十分な成果をあげられていないことに鑑み、十分な量的拡大と質的転換を図っていくことが不可欠である。
量的拡大に関しては、地域保健、医療、児童福祉、学校保健をはじめとした各分野での取組の強化と、青少年の非行防止、薬物対策等の啓発キャンペーンの強化が求められる。また、民間団体やボランティア団体の活動やマスメディアの協力も不可欠である。
質的転換に関しては、まず教育・啓発に当たってより明確なメッセージをできる限り効果的に提供する教材、媒体、教育手法の開発を急ぎ、思春期の性の逸脱行動や薬物乱用などの行動が望ましくないことを理解させ、行動変容につなげることが必要である。特に、性教育については、男女の関係や相互理解の必要性を説明するとともに、避妊方法等も含めた説明も避けることなく行うべきである。また、生命の尊さや自分たちが将来、子育ての当事者になることの自覚を促すことも必要である。
性と生殖に関しては、自ら判断し、決定し、相互に尊重するということが特に重要である。このため、自分や相手の身体について正確な情報を入手し、自分で判断し、自ら健康管理できるように、学校や地域における性教育や健康教育を一層充実させるよう努める必要がある。性教育は、青少年の性行動が低年齢化・活発化し、また性情報に触れる機会が増大したという現実を踏まえ、思春期の子どもの置かれたストレスの多い複雑な状況の実態をよく理解して充実することが必要である。
地域における母子保健対策、性感染症対策、薬物乱用対策等の各種対策は、十分な連携のもとに推進される必要がある。特に厚生労働省と文部科学省が連携し、取組の方向性に関して、明確なメッセージを示し、地域における保健、医療、福祉、教育等の連携を促進することが必要である。
近年、思春期の女子に増加している思春期やせ症(神経性食欲不振症)は早期発見と予防を急務とする問題の一つである。特に、十代の発症は、思春期の成長・発達のスパート期に体重減少と多臓器障害が生じ、深刻な心身両面の発達障害が生じる。また、大人になり妊娠、出産、育児でつまずきやすく、特に、我が子を可愛がれない、離乳食を食べさせられないなどの育児障害により次の世代の心の発達に悪影響を及ぼす場合もあることが知られており、早期の発見に向けた体制の整備が求められる。
不登校対策については、不登校を心の成長の助走期と捉え、学校内外の専門家の協力を得た補充指導や不登校の子どものための野外体験活動等の実施など、ゆとりを持った対応を推進していくことが求められる。
親への教育・支援を含めた心の問題を有する者へのケアの充実が具体的成果を実現しうる有力な方法である。そのための関係者・機関の連携の強化が重要であるが、特に、学校保健と地域保健・医療・児童福祉との連携をシステム化して相互に日常的な活動として位置付けることが重要である。多大な労力を要することから組織的対応と管理者・関係者の理解が必要である。
心の問題の取組を支えるためには人材の確保が必要である。特に思春期の精神保健問題の初期治療に当たるかかりつけ医に加えて、発達障害や情緒障害、行為障害などの疾患・障害の二次あるいは三次のケアの専門家である児童精神科医や相談業務に従事するカウンセラー等の専門職を確保することが重要である。さらに、児童精神科医療の提供体制の整備は大きな課題である。また思春期保健に関係するその他の職種についても、それぞれの役割に応じた知識の習得とカウンセリング技術の修得等が求められる。
地域における相談体制を一層強化する。特に、地域における保健福祉機関(保健所・市町村保健センター・精神保健福祉センター・児童相談所・福祉事務所等)における本人や家族の相談体制の整備、民間団体による思春期の悩み相談機能を強化する。
思春期の健康問題について関係機関からのパンフレット、ポスター等による啓発普及活動に加え、テレビやラジオ、雑誌、インターネットなどの若者の興味を引きつけるメディアを通じた広報啓発活動を強化する。特に避妊や性感染症の予防、薬物乱用防止等を重点に広報啓発活動を実施する。
乳幼児期から思春期を対象とした書籍や雑誌における思春期に関する正確な情報を提供する一方、思春期の子どもを持つ親を対象とした情報雑誌、マスメディアを通じて思春期の健康問題に関するキャンペーンやテレビでの教育番組等による学習機会の提供等を行う。
学校においては教職員が一体となって、教育活動全般を通じて学校保健を推進することが大切である。教科指導及び特別活動等においては、担任や教科担当の教諭だけでなく養護教諭、あるいは、学校医、学校歯科医、学校薬剤師といった専門性を有する教職員の参加・協力を得て、思春期の健康に関する指導を一層推進する。
特に、教科「体育・保健体育」における健康教育を、養護教諭の参加・協力を得て推進する。また、性教育や薬物乱用防止教育などについては、学校外の専門家(医師、薬剤師、助産婦、保健婦・士、警察職員、麻薬取締官OB等)などの協力を得つつ推進する。
地域レベルでの実情に応じた避妊具の無料提供プログラムを含む、避妊方法の学習機会も提供する。 各種の事情で学校に通っていない思春期の問題行動に対するアプローチとして親に対するカウンセリングや助言等の実施や、学校へ復帰するための支援対策の実施、さらに妊娠・出産により教育を受ける機会が妨げられることのないよう取組の推進を行う。
子どもの心に影響を与える有害情報の問題も看過できず、特にマスメディアなどに対して、性をもてあそぶ考え方のような有害情報への対策をとるよう働きかけを行う。また、メディアを選択し、主体的に読み解き、自己発信する能力(メディア・リテラシー)を向上させるための支援を積極的に行う。さらに、普及が著しいインターネットなどを通じた思春期に関する情報提供を推進する。
個別の問題事例が発生した場合に、関係者や関係機関による検討を行い、最適なサービスの提供に向けた取組を行う場を設ける。
また、学校における学校保健委員会の充実を図るとともに、地域にある幼稚園や小・中・高等学校の学校保健委員会が連携して、地域の子どもたちの健康問題の協議等を行う地域学校保健委員会の設置を促進する。
保健所による学校保健との連携強化のため、性・性感染症・薬物等の専門職の派遣を推進し、さらに、学校保健委員会・地域学校保健委員会への参加推進を図る。PTA組織と連携し、親を対象とした家庭における思春期学習を実施する。
地域での相談機関(保健所・市町村保健センター・精神保健福祉センター・児童相談所等)や医療体制(思春期外来・思春期病棟)の整備を促進する。
自殺の予防対策として、匿名の思春期の電話相談を充実する。さらに、関係者に対する自殺願望のある生徒への早期の対応方法等の講習を行う。
また、思春期の心の健康づくり対策として、精神保健福祉センターと児童相談所が中心となり、地域ネットワークづくりを行うとともに、医療機関・保健所・教育委員会などの関係機関による事例検討や援助活動の推進を図る。
児童精神医療提供体制を整備するためには、診療報酬面での改善、医学系大学における講座の開設、医療法上の標榜の課題、思春期の心の問題に対応できる医師や児童精神科医及びその他の医療スタッフの育成、児童精神科医の児童相談所や情緒障害児短期治療施設への配置、学校教育における活用等を検討する。
これまでの周産期医療や母子保健を中心とする活動の結果、我が国の母子保健水準は世界のトップクラスとなっているが、妊産婦死亡率は更に改善する余地が残されている等、一層の安全性の追求が求められる。
妊娠・出産に関するQOLの向上を目指すことは時代の要請であり、妊娠期間中の種々の苦痛や不快感を解消・軽減するための社会的支援が求められている。
また、不妊治療については、現在、約28万5千人が受けているものと推定されており、このような治療を求める夫婦に対して、医学進歩の成果を享受できるように、生殖補助医療技術を含む適正な技術が、広く普遍的に適用される体制が整備される必要がある。
さらに、国際的動向としての「性と生殖に関する健康・権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」への対応、少子化対策としての「安全で安心して出産できる環境の実現」についての関心が強まっており、これらに応えるべく、本分野を21世紀の主要な取り組み課題として位置付ける必要がある。
妊産婦死亡率が他の周産期指標の中でやや高い理由については、産科医療の夜間や休日における救急システム等の問題も一部で指摘されているが、今後も引き続きハイリスク妊産婦を中心に、妊娠・出産における母体・胎児の安全を最大限に追求していく必要がある。併せて、正常分娩から緊急処置を要する状態への急変に的確に対応できる体制整備も死亡率改善には不可欠である。
一方、妊娠・出産に関しては、その治療等に伴う処置、検査等に関するインフォームド・コンセントの充実、母子の希望する支援環境と退院後のフォローアップ等に関する情報提供が求められており、今後はこれらの動きに積極的に応えていく必要がある。特に、利用者と医療・保健関係者との信頼と協力関係が不可欠であり、今後、利用者が求めるケアを利用できるようにするための必要な情報の公開、利用者が医療・保健関係者を選択できる環境の整備など利用者の声が反映されるようにするための取組の推進が必要である。
また、最近では、ともすると画一的になりがちな安全第一の分娩よりも、自然かつ家族が希望する形態で分娩をしたいという要望や、妊産婦が自らの責任に基づいて分娩方法を決めるために情報提供を求める場合がある。これらの要望に対して、利点や欠点についての十分な説明がなされ、合意が得られた場合には、安全性を確保しつつ、これに応えていくことが求められる。
また、妊娠・出産・産褥期については、慢性疾患や障害を持つ親や社会的ハンデキャップを持つ親に対しての支援や妊産婦の不安などの心の問題にも対応したきめ細やかな対策を推進し、母と子の愛着形成を推進するためのソフト・ハード面の体制の整備を図る必要がある。
なお、我が国では、不妊治療に伴って生じる多胎に対する減数手術の是非等の倫理的な問題や、第三者の配偶子を使用した体外受精や代理母等への対応、親子関係の確定の問題等についての法制度をはじめとした体制が必ずしも十分に整っておらず、今後、こうした体制の整備が求められる。さらに、これらの技術の存在のために、却って混乱や不安を生じることのないよう対策が求められる。
緊急を要する母体・胎児に対しては、各都道府県ごとにそうした母体・患児の受け入れや搬送が可能な三次医療を担当する総合周産期母子医療センターを整備し、これを中心として、地域ごとに二次医療を担う地域周産期母子医療センターや初期医療を担う一般産科病院・診療所・助産所を含めた周産期ネットワークシステムを構築し、母体・新生児の搬送体制の確保、周産期医療に関する情報提供、医療従事者の研修等を推進する。
また、QOLの確保と有効な医療を追求する観点から、日常の分娩に関わる処置の適用のあり方やその他の産科技術について、リスクに応じた適用の検討やEBMによる見直しを行う。
さらに、医療機関等において参加型の出産準備教育や個々のニーズに対応する継続的なケアとカウンセリングも重要で、例えば、母乳のみで哺育できるような出産前からの教育や支援、子どもとの愛着形成を支援できるような体制を整備する。但し、十分な母乳哺育ができない母親に対し、母乳哺育がすべてであるような重圧をかけてはならない。また、家族の立ち会い分娩や母子同室、居住型の分娩施設を利用したいという希望にも対応する。
二次医療圏においては、医療機関、助産所、保健所、市町村保健センター等の連携推進を図るとともに、保健所・市町村保健センター等が中心となった母子保健情報の提供や、母子保健に関する学習機会の提供や両親教育の実施、育児サークルの育成等を積極的に行う必要がある。特に、赤ちゃんを見るのも抱くのも初めてという親が増えている状況の中、指導型の「両親教育」から体験や仲間づくりの場への転換を図る。
市町村においては、妊娠・出産の安全性を確保するために、母子健康手帳交付時や訪問指導等の機会を通じて、妊娠期間中の健康診査の重要性や医師又は助産婦が介助しない自宅等の分娩の危険性についての周知を図る。さらに、妊婦の出産・育児の不安を軽減するために、母子健康手帳交付時からのハイリスク者のケアを実施する。また、妊産婦の負担を解消するため、産褥期のホームヘルプサービスの提供などの取組も行う。
妊娠初期の妊婦に対する社会的配慮を喚起するための方策として、妊婦バッチの普及の試みも意味がある。
相談体制については、各都道府県に不妊専門相談センターを整備する。
医療提供体制については、安全性の確保のための治療の標準化や相談体制等に関するガイドラインを作成する。さらに、治療への不安や子どもができないことによる家族や社会からの精神的圧迫などに対する十分な心のケアを提供する。また、不妊治療に伴う処置、検査、予後等について適切な情報提供がなされた上で治療方法の選択・決定ができ、治療中の不安に対しても十分に対応できる相談体制を整備する(21ページ 3(1)ウ(ア)参照)。
保健医療水準の向上に向けては、母体の胎内で発達を遂げながら出生の時を待つ胎児期から手厚く支援することが必要である。このため、周産期医療・小児医療体制の整備等を通じた更なる努力が必要である。また、新生児医療の進歩により救命された低出生体重児等が健やかに育つための継続的ケア体制の整備も必要である。さらに、諸外国と比べて乳幼児の事故死が多いなどの克服すべき課題への対応も求められる。
一方、地方公共団体においては、本庁レベルで母子保健の技術職の担当が減少したところもあること、専門的・技術的機能が強化された保健所の母子保健業務において広域的な連絡調整機能が低下したこと、市町村の介護保険部門等への業務の重点の移行に伴い、母子保健の活動が低下したこと等が指摘されており、地域保健における母子保健サービスの水準の維持が問題となっている。
また、小児医療においては、小児医療の不採算に伴う小児病棟の縮小・閉鎖による小児医療水準の低下、小児救急医療レベルの低下、小児科医師志望者の減少等の問題が生じている。特に新生児医療、小児救急医療等の分野や細分化された専門分野の小児科医師の不足が懸念されているが、研修体制の確保等、一朝一夕では解決できない問題を抱えており、これを放置するならば小児医療体制の崩壊につながりかねない危険性を有している。
このように、これまで我が国が達成した世界最高レベルの小児保健医療水準や地域保健サービスのレベルを低下させかねない事態も出現しており、その維持のための対策も極めて重要である。
我が国の乳幼児期の健康診査のシステムは世界でも最も整備され、受診率も高いが、健康診査の精度や事後措置などについて地域間の格差が大きいことや、心身障害児や慢性疾患児のQOL向上のためのこれまでの対応は十分とは言えず、ともすると個々の機関・施設又は個人の努力に委ねられてきたこと等が指摘されている。また、児童福祉や学校保健との連携も課題となっており、心身の発達に関して諸問題を有している子どもの問題なども新たな課題として指摘されている。
さらに、広く子どものいる家族が生活しやすい社会環境の実現に向けた取組が求められる。特に、子どもが病気になった時のため、家庭や医療機関等で親が看病しやすい体制や入院が長期にわたる場合の入院環境や在宅医療を支援する体制の整備なども求められる。
医師や保健婦・士をはじめとする人材の本分野に関する専門性・経験や、母子保健・小児医療・児童福祉をはじめとする関係機関との連携システムは、一旦、失われると、その回復・再構築は長きにわたる時間が必要となる。こうしたことから地方公共団体の責任者をはじめ関係者の理解を得て、その予防のための体制の確保を図る必要がある。
また、健康診査の場を利用し、親子の心の問題への対応や育児支援を推進していく必要がある(20ページ 3(1)ア参照)。
さらに、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、自閉症(特に知的障害を伴わないもの)など従来の保健、医療、福祉、教育等の施策で必ずしも十分な対応がなされていない子どもの問題についても今後、調査研究をはじめ、積極的な取組が必要である。
また、妊娠中の習慣的な飲酒は、死産や低出生体重児等の出産の可能性が高まることから、妊娠中の飲酒を控えるよう指導する必要がある。
さらに、乳幼児が家庭の風呂場で溺死する事故や児童生徒の交通事故による死亡も多く発生しており、家庭と学校、地域が一体となって小児期の事故防止対策を進める必要がある。
予防接種は、対象となる疾患の病像が十分に知られていないこと、予防接種に伴う副反応に関する情報の氾濫による安全性への不安が強いことなどから、関係者等の接種への理解が十分でないことが指摘されている。予防医学の効果が最も期待できる分野において、効果とリスクを冷静に判断し最前の注意を払った上で、その成果が生かされるように関係者に理解を求めていく必要がある。
なお、風しんの予防接種については接種率が低い年齢がある。風しんの予防接種は、平成6年までは中学生の女子に接種していたが、平成6年に接種時期を乳幼児期に変更した。この際、平成6年時点において、乳幼児期以降の者で中学生に達していない者が風しんの予防接種を受けられるよう経過措置が設けられたが、この経過措置の対象者の接種率は約50パーセントとなっており、今後、風しんの予防接種を受けていない成人女子が増加することによる先天性風しん症候群の児の出生の増加が懸念され、対策の必要性が指摘されている。また、麻しんについてみると、平成元年からの10年間の死亡者数は230人で、うち10歳未満が約80パーセントを占め、依然として解決すべき小児の重要な疾患の一つである。近年、成人の麻しんが国際的にも問題となっており、小児期において適切に予防接種を受けることの重要性が指摘されている。
一方、小児医療の不採算性から、小児病棟を縮小・閉鎖する病院の増加が危惧されている。また、小児科医について、採算性の問題や、他科と比較して当直が多く勤務体制が激務であること、少子化により患者数の増加が見込めないことなどから、小児科医を志望する医学生が減少していることが指摘されている。
このような小児医療の特殊性を踏まえ、他科と比較して遜色なく小児医療が確保できるよう、診療報酬の改善を図る等の医療経済面を含む制度的なアプローチが不可欠であるとともに、医療関係者の努力も必要である。
小児の入院については、成長・発達途上にある小児の特性を踏まえた生活環境の整備を行う必要がある。また、長期に入院する患児の心のケアのため対策や、患児の家族の支援体制の整備を推進する必要がある。さらに、子どもが病気になった時に、子どもを家庭や医療機関等で看病できるよう、親が周囲に気兼ねなく休めるような社会環境を実現していく必要がある。
また、新生児集中治療管理室(NICU)に長期に入院する患児や急性期を乗り切ったハイリスク児、長期慢性疾患児等について在宅医療を推進するための体制を整備する必要がある。
また、世界でも最高の水準にあると言われる我が国の母子保健の水準を今後も維持していくために、住民に身近なサービスを提供する市町村においては、保健相談・保健指導・訪問指導・健康診査等の母子保健のサービスを低下させないよう、雇い上げによる助産婦等の関係専門職種の活用も含め人的体制を確保していく。
保健所等に事故防止センターを設置し、家庭や乳幼児・児童を扱う施設の関係者に対し、事故事例の紹介、具体的な事故防止方法の教育の実施、乳幼児の模型を用いた心肺蘇生術等の応急手当の学習機会の提供等を行う。地域で生じた小児事故事例について医療機関等から定期的に把握し、原因の分析等を行うとともに、関係者に対しその情報提供を行う。また、事故は家屋や施設の構造上に問題があるなど物理的な環境で生じることも多いことから、物理的環境の改善を進める等の取組も考えられる。併せて、マスメディアを通じた広報も活用していく。
SIDS予防対策は、関係者が常に子どもの動静に関心を持つように情報提供を行うとともに、欧米諸国と同様に、(1)仰向け寝の推進、(2)母乳栄養の推進、(3)両親の禁煙の3つの標語をもとに、11月のSIDS対策強化月間を含めた全国的なキャンペーンを継続する。今後は、マスメディアの協力も得て広報活動を量的に拡大していく。
これまでの医学的な情報中心の広報の方法を転換し、疾患の病像や予防接種の意義について理解を深めるような若者向けの漫画やアニメを使ったわかりやすいパンフレットの作成、インターネット等の電子媒体を利用した広報等の取組を行う。また、学校においても予防接種に関する健康教育を推進する。
併せて、地域における感染症対策の主体である都道府県が感染症対策を的確に行い、乳幼児の感染症を減少させることも重要である。感染症の集団発生に際して迅速で的確な対応を行うことにより、保護者等の信頼感を増していくことが必要である。今後も、感染症発生動向等の利用による地域における感染症の発生動向や乳幼児の健康診査の機会を利用して接種率等を定期的に把握し、必要な情報提供を行うとともに効果的な予防対策を推進していく。
小児の病床確保については、都道府県において、地域の実情を踏まえ、適切な小児医療提供体制を確保する観点から関係者の理解を得つつ対策を進める。
小児科医の確保対策については、即効性のある対策はないが、中長期的な課題として、小児医療に魅力を覚えるような報酬面を含む環境整備のための方策を関係者間で検討する。中でも、勤務が過重にならないよう小児科の定員枠の確保は必須である。また、医学教育においては、小児科に魅力・生きがいを見出せるような教育の実施やそうした教育を行うための研修指導に係る教育スタッフの充実を図る。
今後、小児科医における女性医師の割合は増加すると予想される。しかしながら、離職者も多く、対策が急務である。特に、女性医師が育児と仕事の両立ができる体制を整備することが重要である。今後、産休・育休期間の代替要員の確保、病院内の保育所や病後児保育施設の整備、ベビーシッターの利用の便宜、また育児休業後の円滑な職場復帰が可能な環境づくりを行う。
具体的には、初期救急医療体制については、休日・夜間急患センターにおいて、小児科医を広域的に確保し外来機能を強化することが考えられる。人材確保に関しては在宅当番医制等を活用することが考えられる。二次救急医療体制については病院小児科の輪番制の充実が急務である。しかしながら、輪番制のみでは重篤な病状には対応が困難なことも想定されるため、三次救急医療体制として、小児科医を重点的に確保した概ね人口100万人につき1ヶ所の拠点となる医療機関を医療計画において明確に位置付け整備することが考えられる。
上記の施設及び設備を整備し人材を確保するために、地域医師会、大学医学部、関係病院による支援体制を確立することが重要である。このようなシステムを地域で構築するにあたって消防機関等の関係者を交えた小児救急医療に特化した協議会等を設置し、地域の実情に応じた多様な形態での対策を検討していくことが必要である。利用者の立場に立ったシステムとするためには、地域の小児救急医療体制を評価し、地域住民に公開するといった評価事業も重要である。
また、運営などの財政面の対応を確立することは不可欠であり、診療報酬面での改善、国による運営等の助成も当分の間必要である。
また、患児の家族のために医療機関併設の宿泊施設の整備や、長期入院する患児の家族が持つ悩み等を気軽に相談できる体制を整備する。さらに、子どもが病気になった時に、親が周囲に気兼ねなく休める社会環境を実現していく。
NICUに長期に入院する患児や急性期を乗り切ったハイリスク児、長期慢性疾患児等について在宅医療を推進するための体制を整備する。また、地域における児童福祉施設や養護学校などの教育施設とのコーディネート機能の強化や、訪問看護ステーションや患児を一時的に預かるショートステイなどの在宅医療を支援する体制の整備を図る。
乳幼児期の子どもの心の発達は、一番身近な養育者(多くは母親のため、以下は母親と記す。)の心の状態と密接に関係があり、また、母親の心の状態は父親の態度や生活状態に大きく影響される。乳幼児期の子どもの心の健康のためには、母親が育児を楽しめるよう育児環境を整備することが不可欠である。
現代の母親の多くは、以前に比べ妊娠期、出産、産褥期、その後の育児に至るまで間断なく不安にさいなまれ、悩み続けている。また、産後うつ病の発生頻度も高く、全ての母親が何らかの不安を抱えているといっても過言ではない。また、我が国では父親の育児参加も少ないため、父親も育児に自信がなく、母親を支え難くなっている。
我が国の育児について、社会問題化している母親の育児不安の問題に関して、以下の点が指摘されている。
このため、虐待を防止し、予防する方法としては、これらの4要素が揃わないよう働きかけることが効果的と考えられる。例えば、援助者が虐待する親の相談相手になることは、虐待者の社会的孤立を無くすことになり、その時から虐待は軽減される。そしてあらゆる社会資源を導入して生活のストレスを軽減し、もし、子どもの健康問題がある場合には、親の負担をかけることなく改善し、再発を防止する。このような育児支援を、出生直後から、親に対して行うことにより、虐待の予防につながると言われている。
今後、妊娠・出産・育児に関する母親の不安を軽減し、のびのびと安心して育児を楽しみ、子どもに愛情を注げるよう、また子どもの豊かな心の成長を育むための取組を全国的に総合的に講じることは、21世紀の母子保健上極めて重要な対策であるといえる。
子育ては日常的なことであり、育児不安は、ほんの些細なことから出現する。このような目先のちょっとした不安を解決、納得させ、育児を楽しみに転換させていくことが基本である。例えば食事について考えると、適正な栄養の供給という役割と併せて、親子が一緒に食事をとることを通じて、その絆が深まることや子どもの心の成長の促進に役立つことが指摘されており、様々な工夫を行うことにより、子どもの心の安らかな発達への効果が期待される。しかしながら、育児の方法は千差万別で、マニュアル等による画一的な支援を行うことは困難である。また、個々人の経済的・文化的な環境への介入には限界があることを認識した上で、最善の方策を探ることが基本である。
一方、子どものことについてよく知らない親の出現も指摘されているが、子育てについての知識や技術や体験する機会の提供等が必要である。特に、親が自分自身の子育てに対する気持ちをしっかりと持つことが重要で、そのための支援策を、できるだけ早期に学校教育から行うことが必要である。また、母性・父性の涵養を目指す乳幼児との触れ合い体験のような理解を促進するアプローチも重要である。
育児不安には、子育ての中で起こる一般的な不安、他人と比較されることに対する不安、第三者から言われたことに対する不安、子どものことを知らないで自分の思うように育たないことによる不安、子どもの持っている障害による不安など様々なものがあり、これら各種の不安に適切に対応し、親が自信を持って子育てを楽しむようにすることが本来の支援といえる。
また、母親が育児で孤立化することを防ぐため、父親や家庭や地域の育児能力を高めることや、育児を支援する能力を高めることが必要である。また、子育てをしやすい社会状況の促進や、母親のみならず父親も積極的に育児休暇が取りやすい企業風土を育成するなどの取組も進める必要がある。
このようなことから、妊娠―出産―産褥―育児期にかけて、育児に焦点を当てた心の問題の観点からのケアシステムを構築し、一人の人間を最適な環境で見守っていくことが必要となる。それには、母子健康手帳の交付から始まる地域保健での母子保健の流れと妊産婦健康診査より始まる地域医療の流れの融合と、出産前のケアと出産後のケアの連続性の担保が不可欠である。特に、親子の心の問題に対応するためには、地域保健・医療機関においては、従来の疾病発見・スクリーニングを中心としたルーチン業務の形態を、常に心の問題を意識して対応するものに変えていく必要がある。また、その推進に当たっては、必要な施設整備費・人件費・運営費等の補助や診療報酬上の対応を検討することも必要である。
親子に直接触れる機会の多い、身近な医師、助産婦、保健婦・士、保育士等の人間的な心のぬくもりが重要で、これらの専門職のほんの一言が親を勇気づけ、子育てを楽にしていくことが指摘されている。子育て支援の原点は、まさにこの触れ合いの時にあることを銘記すべきである。
従来の乳幼児健康診査は母親の育児力の形成や、生活改善につながっていないという指摘もなされている。このため、健康診査が母親自身が育児力を持つための学習の場としての役割を果たし、母親自身が子どもの発達の過程を認識し、自らが育児方法を生み出せる力をつけられるような機能を果たすように健康診査のあり方を見直す。
乳幼児の集団健康診査は、疾患や障害の発見だけでなく親子関係、親子の心の状態の把握ができるように、そして育児の交流の場として、話を聞いてもらえる安心の場として活用するように健康診査のあり方を見直す。また、共働き夫婦や父親が参加しやすいよう休日に健康診査を受けられるような体制の整備を図る。
育児不安や子どもの心の問題がある場合の身近な相談の場として小児科医や心理職による個別相談の実施や、親同士や親子等のグループ活動に対する支援を保健所や市町村において行う。
さらに保健所が中心となり、二次医療圏において医療機関と連携し、ハイリスク集団に対する周産期から退院後に向けてケアシステムの構築を行う。
各種の育児支援を行うに当たっては、保育所、乳児院、児童相談所、児童館等の福祉分野との連携と自主的な民間の育児グループ等の育成を行う。特に、多胎児、極低出生体重児、慢性疾患児、自閉症児等の多様な課題を持つ育児グループに対して積極的な育成を図る。
また、これらの連携・調整や組織化に地域保健関係者は力を注ぐとともにその技術を身につけるよう努める。
また、心の問題の発生することの多い出産後について、マタニティブルーや産後うつ病等の精神機能障害の予防・早期発見・治療の取組を推進する。
高度の周産期医療の対象となるハイリスク妊産婦・極低出生体重児等は退院後も長期に子どもの健康・発達や母親の健康や愛着形成・養育などの点で問題が持続することが多いことから、二次医療圏レベルでの医療機関と保健所を中心とした地域保健とで連携したフォロー体制を整える。
不妊治療への対応として、各種の情報提供を行うとともに、治療中の不安や妊娠の受容や出産後の育児不安への対応を図る。特に、不妊治療を受ける女性は高齢のことも多く、不妊治療に伴い多胎児や低出生体重児を出産することもある。不妊治療を受けていない妊婦に比べ不安を生じることが多いと考えられることから、これらの不安に十分に対応する体制を整備する。
小児科外来に多くの心の問題を抱える小児が受診している実態を考えると、専門家(児童精神科医、小児心身症の専門家、心理職など)だけでこれらに対応できるとは考え難く、小児保健に携わる者は、子どもの心の問題に対応できる体制の整備を推進する。
特に、医師、保健婦・士、助産婦、看護婦・士、育児支援者等については、心の問題の早期発見や問題の受け皿、通常の相談・診療場面での担い手として、その養成、確保・研修を図っていく。
中でも、臨床における子どもの心の問題に対応するために、小児科医のみならず、小児科医以外の医師や看護婦・士、理学療法士、言語療法士などの小児医療に関連する職種についても、子どもの心の問題に関する研修システムの確立を図る。
一次予防としては、特にハイリスク母子に対して保健婦・士、助産婦等の周産期からの家庭訪問等による育児サポートが重要で、地域保健においては、(1)子どもの発達に関する知識を提供すること、(2)育児支援ネットワークをつくること、(3)公的なサービスにつなげることの3つを基本とした取組を推進する。
乳幼児健康診査の場における母親の育児不安や親子関係の状況の把握に努めるとともに、乳幼児健康診査の未受診児の家庭について保健婦による訪問指導等を行うなど対応を強化する。
また、医療機関と地域保健とが協力して被虐待児の発見、救出した後の保護、再発防止、子どもの心身の治療、親子関係の修復、長期のフォローアップについての取組を進める。
これらの活動にあたっては、児童相談所、情緒障害児短期治療施設をはじめとした福祉関係機関や警察、民間団体等との連携を積極的に図る。
この分野におけるカウンセリングは特に重要であることから、専門家の電話による育児不安や虐待防止のカウンセリングを無料で24時間、365日提供できるような体制を整備する。これらの体制には、民間団体の役割が期待される。
また、母親の心と身体に大きな影響をもたらす女性に対する暴力(ドメスティック・バイオレンス)についても、これまで実施してきた地域におけるアルコール対策等との連携も考慮しつつ、地域における取組を進める。
第3章 推進方策
「健やか親子21」が、ヘルスプロモーションの基本理念に基づき国民運動計画として展開されていくための推進方策として、次の3点も重要な柱とした。
(2)「健やか親子21推進協議会」の設置
(3) 目標の設定
子どもの健康が重視され、思春期の子どもに対する適切な応援や妊産婦や不妊の夫婦に対する優しい配慮がなされ、健康な子どもと障害や疾病を持つ子どもの育ちやその親を支援できる地域社会の実現のための取組を国民一人一人が行えるようにすることが重要であり、このような取組がなされるよう、関係者、関係機関・団体として国民、地方公共団体、国、専門団体、民間団体の順にその寄与しうる取組内容を各課題ごとに記述した。これらは、基本的に第2章に掲げた各課題についての「問題認識」、「取組の方向性」、「具体的な取組」の記述を基に整理したものである。
住民に最も身近な市町村においては、地域住民のニーズに応じた母子保健サービスを提供していく。今後、母子保健計画の見直し等を行う場合には、「健やか親子21」の趣旨を踏まえ、住民参加のもと、関係機関・団体の協力を得つつ進めていく。
都道府県においては、都道府県として独自に推進していく取組内容を明確にするとともに、市町村が各種の取組を進めやすいよう、広域的な連絡調整や情報提供等の必要な支援を行うことが求められる。この分野における保健所の役割は重要である。
「健やか親子21」の各課題に関連があると考えられる専門団体の例を表1に示した。
日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会・日本看護協会・日本栄養士会 日本PTA全国協議会・日本産科婦人科学会・日本不妊学会・日本母性保護産婦人科医会 日本周産期学会・日本助産婦会・日本母性衛生学会・日本小児総合医療施設協議会 日本小児科学会・日本小児保健協会・日本小児科医会・日本新生児学会 日本学校保健学会・日本思春期学会・日本小児心身医学会・日本小児精神神経学会 日本児童青年精神医学会・日本心理臨床学会・日本臨床心理士会・日本心理学会 日本保育園保健協議会・日本子どもの虐待防止研究会・日本公衆衛生学会 日本産業衛生学会・日本救急医学会・日本看護科学学会・日本助産学会 日本小児救急医学会・全国衛生部長会・全国保健所長会・全国保健婦長会 全国児童相談所長会・全国消防長会・全国児童相談所心理判定員協議会 全国養護教諭連絡協議会・全国情緒障害児短期治療施設連絡協議会・日本家族看護学会 等 |
5 民間団体
NPO(非営利組織)等の民間団体は、国民(住民)、地方公共団体、国、専門団体間のコミュニケーションを円滑にするなど公益的視点から組織的に活動を行うことにより、大きな役割を果たすことから、自主的・積極的にその活動を行う。
「健やか親子21」の各課題に関連があると考えられる民間団体の例を表2に示した。
表2 民間団体の例 (順不同)
母子保健推進会議・全国市町村保健活動協議会・日本家族計画協会・母子衛生研究会 子ども未来財団・全国保健センター連合会・国民健康保険中央会・日本学校保健会 全国社会福祉協議会・全国保育協議会・日本保育協会・日本赤十字社 全国ベビーシッター協会・母子愛育会・日本ユネスコ協会 予防接種リサーチセンター・日本PTA全国協議会 日本中毒センター・日本放送協会・日本民間放送連盟・日本雑誌協会・日本新聞協会 公共広告機構・難病の子ども支援全国ネットワーク・日本母乳の会・SIDS家族の会 児童虐待に関するネットワーク・子どもの虐待防止センター・住宅生産団体連合 麻薬・覚せい剤乱用防止センター・交通安全協会・女性労働協会・日本公衆衛生協会 食生活改善協会・日本食生活協会・健康・体力づくり事業財団・こどもエコクラブ 等 |
国民(住民)、地方公共団体、国、専門団体、民間団体の寄与しうる取組として考えられる事項の例を表3〜表6に整理した。
表3 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進
国民 (住民) |
− 思春期の子どもに対する応援が適切にできるよう努力 − 思春期の身体的・心理的な発達状況を理解し、思春期の子どもの行動を発達 課題として受け止める地域づくりのために努力 |
地方公共団体 |
− 学校保健推進体制の充実 ・学校保健委員会の充実 ・保健主事の資質の向上 ・教諭、養護教諭、学校栄養職員、学校医、学校歯科医、学校薬剤師の学校 保健に関する資質の向上 ・地域の他の機関との連携強化(学校保健委員会・地域学校保健委員会等) − 学校における教育内容の充実・強化 ・学校内連携による健康教育の推進体制の整備 ・性教育の推進(生命尊重、妊娠出産・避妊、性感染症等) ・喫煙・飲酒防止教育を含む薬物乱用防止教育の推進 ・性教育・薬物乱用防止教育についての学校内外の専門職の活用の推進 − 学校医、学校歯科医、学校薬剤師の活動の充実 − 学校の相談機能の強化 ・教職員の相談活動の充実 ・スクール・カウンセラーの配置の推進 ・保健室等の相談活動の機能の充実(養護教諭の複数配置の充実を含む) − 不登校対策等の推進 − 地域保健福祉(市町村・保健所・精神保健福祉センター・児童相談所等)と 学校保健との連携強化 ・専門職の派遣の推進(性・感染症・薬物等) ・学校保健委員会等への参加推進 ・PTA等と連携した家庭における思春期学習の推進 ・思春期の問題に関する本人や家族の相談体制の充実・強化 ・ボランティア体験学習等の受け入れ − 子どもに悪影響を与える有害情報の問題への取組の推進 |
国 |
− 厚生労働省と文部科学省の連携の強化により地方公共団体が活動しやすい体 制づくりの推進 − 性教育・薬物乱用防止教育、心の問題等への対策マニュアルの作成 − 国立成育医療センター(仮称)における児童・思春期精神科の充実 |
専門団体 |
− 思春期専門の外来・病棟等の整備 − 児童精神科医師の確保・養成 − 思春期の心身の保健に関する市民講座への協力 − 産婦人科医や小児科医が日常診療において、思春期の心の問題に着目した対 応の推進 |
民間団体 |
− 思春期の問題への相談体制整備や情報提供の推進 − 若者委員会の開催 − ピア(仲間)カウンセラーの育成や、ピア(仲間)カウンセリングの実施 − マスメディアの良識に基づく有害情報の自制の促進 |
表4 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援
国民 (住民) |
− 妊産婦や不妊の夫婦に優しい社会の実現を図るために努力 − 働きながら出産でき、再就職が可能な社会の構築、父親が育児に気軽に参加 できる企業風土の育成に努力 − ひとり親、若年妊婦、病気や障害を持った人の妊娠・出産に対しての支援に むけて努力 |
地方公共団体 |
− 保健所・市町村保健センターと医療機関との連携強化 ・医師・助産婦と保健婦・士との定期的なカンファレンスによる情報交換の 推進 − 妊産婦に優しい環境づくりの推進 ・職場や公共施設等の取組の推進、妊娠バッチの利用の検討 − 都道府県における周産期医療ネットワークの整備 − 都道府県における不妊専門相談センターの整備 − 産褥期のホームヘルプサービスの提供の推進 − 慢性疾患や障害を持つ親や社会的ハンデキャップを持つ親の出産に関する支 援 |
国 |
− 母子同室や居住型分娩施設等の快適な妊娠・出産を支援する基盤の整備 − 職場における働く女性の母性保護活動の推進 ・母性健康管理指導事項連絡カードの普及 − 妊娠・出産・生殖補助医療に関する調査・研究の推進 − 国立成育医療センター(仮称)における生殖補助医療技術を使用した医療体 制の整備 |
専門団体 |
【産婦人科関係専門団体】 − 産婦人科医師の確保 − 女性医師が働きやすい環境の整備 − 施設のクオリティ・コントロールとEBMに基づく産科医療の推進 − 分娩のQOLの向上 − 産後うつ病を含む産科医療における心のケアの推進 − ガイドラインの作成(正常分娩対応、不妊治療) 【看護関係専門団体】 − 助産婦、保健婦・士の確保 − 嘱託医療機関との連携による母体搬送システム並びに新生児搬送の確立 − 助産婦活動のためのガイドラインの作成 − 妊娠・分娩・産褥におけるメンタルヘルスケアを行う看護職の育成 |
民間団体 | − 妊娠・出産・産褥・不妊に関する相談・カウンセリング等の支援の推進 |
表5 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備
国民 (住民) |
− 事故防止対策、予防接種を家庭や地域において推進するよう努力 − 小児の疾病と健康診査及び治療についての理解を深め、適切な小児医療機関 の利用に努力 − 障害や疾病を持つ子どもに優しい社会の構築に努力 |
地方公共団体 |
− 保健所・市町村保健センターにおけるSIDS予防・事故防止対策の推進 − 乳幼児健康支援一時預かり事業の推進 − 予防接種センターの整備 − 自治体立の臨床研修指定病院における小児科・新生児科の研修の推進 − 地域における小児科医師確保対策の推進 − 初期、二次、三次の小児救急医療体制の整備 − 小児の三次救急医療拠点の整備 − 慢性疾患児に対する取組の推進(院内学級・院内保育士の配置、学校の取組 強化) − 地域母子保健事業水準の量・質のわたる維持向上 − 障害児の早期発見と療育体制の整備 − 小児医療・小児救急医療体制整備のための支援 − 診療報酬における小児医療体制の充実 − 医学部の卒前教育における小児科教育の充実 − 予防接種に関する啓発普及・パンフレット等の作成 − 事故防止ガイドラインの作成 − 国立成育医療センター(仮称)における小児医療体制の整備 |
国 |
− 障害児の早期発見と療育体制の整備 − 小児医療・小児救急医療体制整備のための支援 − 診療報酬における小児医療体制の充実 − 医学部の卒前教育における小児科教育の充実 − 予防接種に関する啓発普及・パンフレット等の作成 − 事故防止ガイドラインの作成 − 国立成育医療センター(仮称)における小児医療体制の整備 |
専門団体 |
【小児科・新生児科関係専門団体】 − 小児科医師の確保 − 女性医師が働きやすい環境の整備 − 新生児管理の向上 − 施設のクオリティ・コントロールとEBMに基づく小児医療の推進 − 保育所嘱託医・幼稚園医・学校医としての協力強化 − 保護者への小児医療受診マニュアルの作成 − 小児保健(乳幼児健康診査、予防接種、乳幼児健康支援一時預かり事業等) に対する協力強化 【看護関係専門団体】 − 看護職への小児に関する専門的な教育の推進 − 小児に対応した訪問看護ステーションの設置促進 |
民間団体 |
− 慢性疾患を持つ子どもの家族の支援 − 慢性疾患患児の家族の宿泊する施設の整備 − サマーキャンプ等による在宅患児の集団指導の推進 − 病気相談・カウンセリングの推進 − 事故防止の啓発の推進 − 事故防止のための家屋づくりの推進 |
表6 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減
国民 (住民) |
− 子育てする親に優しい社会の実現、親を孤立させず親の育児負担を分担しあ う地域の実現のために努力 − 父親が育児に参画でき、母親が働きながら育児できる社会構築のために努力 |
地方公共団体 |
− 母子健康手帳等の活用を通じて体系的な育児支援情報を提供 − 専門職(児童精神科医師・助産婦・カウンセラー等の雇いあげ)による育児 不安対策の推進 − 育児支援につながる心の問題に留意した妊産婦健康診査・乳幼児健康診査の 実施 − ハイリスク集団に対する周産期から退院後のケアシステムの構築 − 子どもの心の問題に取り組むための関係機関・民間団体との連携の推進 − 地域における母子保健活動での子ども虐待予防対策の展開 ・市町村事業(健診等)や都道府県事業(精神保健・アルコール対策等)と 育児不安や虐待問題等をリンクした活動の推進 − 育児に関する相談窓口の設置とサポートネットワークの構築 |
国 |
− 健康診査におけるスクリーニング手法の開発(育児不安・子どもの心の問題・ 産褥期のうつ病) − マニュアルの作成(母子保健における子ども虐待の予防・早期発見・虐待事 例への対処法) − 育児支援を目的としたガイドブックの作成 − 国立成育医療センター(仮称)における子どもや周産期のメンタルヘルスへ の対応 − 産科・小児科医師の親子の心の問題に対応できるためのカウンセリング機能 の向上 − プレネイタル・ビジットによる産科医と小児科医の連携の促進 − 小児科医の他機関との連携による育児不安の軽減と支援 − 母子保健関係者(保健婦・士、助産婦、看護婦、養護教諭、保育士、教員等) への母子の精神保健や虐待についての学習機会の提供 − 「孤立した親子」を作らないための地域での取組 − 児童虐待防止の活動の推進 − 育児不安の相談・カウンセリングの推進 |
専門団体 |
− 産科・小児科医師の親子の心の問題に対応できるためのカウンセリング機能 の向上 − プレネイタル・ビジットによる産科医と小児科医の連携の促進 − 小児科医の他機関との連携による育児不安の軽減と支援 − 母子保健関係者(保健婦・士、助産婦、看護婦、養護教諭、保育士、教員等 への母子の精神保健や虐待についての学習機会の提供 − 「孤立した親子」を作らないための地域での取組 − 児童虐待防止の活動の推進 − 育児不安の相談・カウンセリングの推進 |
民間団体 |
− 「孤立した親子」を作らないための地域での取組 − 児童虐待防止の活動の推進 − 育児不安の相談・カウンセリングの推進 |
第3節 「健やか親子21推進協議会」の設置
1 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進 | ||
指 標 | 現状(ベースライン) | 2010年の目標 |
【保健水準の指標】 1-1 十代の自殺率 |
*1('99)(人口10万人対) 5〜 9才 0 10〜14才 1.1 15〜19才 7.1 |
減少傾向へ |
1-2 十代の人工妊娠中絶実施率 | *2('99) 10.6(人口千対) | 減少傾向へ |
1-3 十代の性感染症罹患率 | *3('01)調査 | 減少傾向へ |
1-4 15歳の女性の思春期やせ症(神経 性食欲不振症)の発生頻度 |
*3('01)調査 | 減少傾向へ |
【住民自らの行動の指標】 1-5 薬物乱用の有害性について正確に 知っている小・中・高校生の割合 |
*3('01)調査 小学6年 % 中学3年 % 高校3年 % |
100% |
1-6 十代の喫煙率 |
*4('96) 中学1年男子 7.5% 女子 3.8% 高校3年男子 36.9% 女子 15.6% |
なくす |
1-7 十代の飲酒率 |
*5('96) 中学3年男子 25.4% 女子 17.2% 高校3年男子 51.5% 女子 35.9% |
なくす |
1-8 避妊法を正確に知っている 18歳の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
1-9 性感染症を正確に知っている 高校生の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
【行政・関係機関等の取組の指標】 1-10 学校保健委員会を開催している 学校の割合 |
*3('01)調査 |
100% |
1-11 外部機関と連携した薬物乱用防止教 育等を実施している中学校・高校の 割合 |
*3('01)調査 | 100% |
1-12 スクール・カウンセラーを配置して いる中学校(一定の規模以上)の割 合 |
*3('01)調査 | 100% |
1-13 思春期外来(精神保健福祉センター の窓口を含む)の数 |
*3('01)調査 | 増加傾向へ |
2 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援 | ||
指 標 | 現状(ベースライン) | 2010年の目標 |
【保健水準の指標】 2-1 妊産婦死亡率 |
*1('99) 6.1(出生10万人対) |
半減 |
2-2 妊娠・出産について満足している 者の割合 |
('00)幼児健康度調査 | 100% |
2-3 産後うつ病の発生率 | *3('01) 調査 | 減少傾向へ |
【住民自らの行動の指標】 2-4 妊娠11週以下での妊娠の届出率 |
*6('96)62.6% |
100% |
2-5 母性健康管理指導事項連絡カードを 知っている妊婦の割合 |
*3('01) 調査 | 100% |
【行政・関係機関等の取組の指標】 2-6 周産期医療ネットワークの整備 |
*7('99) 10都府県 |
('05)全都道府県 |
2-7 正常分娩緊急時対応のためのガイド ライン(仮称)の作成 |
_ | 作成する |
2-8 妊産婦人口に対する産婦人科医・助 産婦の割合 |
*3('01)調査 産婦人科医 助産婦 |
増加傾向へ |
2-9 不妊専門相談センターの整備 | *7('99) 24カ所 | ('05)全都道府県 |
2-10 不妊治療を受ける際に、患者が専門 家によるカウンセリングが受けられ る割合 |
*3('01)調査 | 100% |
2-11 不妊治療における生殖補助医療技術 の適応に関するガイドライン(仮称) の作成 |
_ | 作成する |
3 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備 | ||
指 標 | 現状(ベースライン) | 2010年の目標 |
【保健水準の指標】 3-1 周産期死亡率 |
*1('99) 6.0(出産千対) *1('99) 4.0(出生千対) |
世界最高を維持 |
3-2 全出生数中の極低出生体重児の割合 全出生数中の低出生体重児の割合 |
*1('99) 0.7% *1('99) 8.4% |
減少傾向へ |
3-3 新生児死亡率 乳児(1才未満)死亡率 |
*1('99) 1.8(出生千対) *1('99) 3.4(出生千対) |
世界最高を維持 |
3-4 乳児のSIDS死亡率 | *1('99)31.0(人口10万対) | 半減 |
3-5 幼児(1〜4歳)死亡率 | *1('99)33.0(人口10万対) | 半減 |
3-6 不慮の事故死亡率 | *1('99) (人口10万対) 0才 18.3 1才〜 4才 7.4 5才〜 9才 4.6 10才〜14才 3.2 15才〜19才 15.2 |
半減 |
【住民自らの行動の指標】 3-7 妊娠中の喫煙率 育児期間中の両親の自宅での喫煙率 |
('00)乳幼児身体発育調査 *3('01)調査 |
なくす |
3-8 妊娠中の飲酒率 | ('00)乳幼児身体発育調査 | なくす |
3-9 かかりつけの小児科医を持つ親の 割合 |
*3('01)調査 | 100% |
3-10 休日・夜間の小児救急医療機関を知 っている親の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
3-11 事故防止対策を実施している家庭の 割合 |
*3('01)調査 | 100% |
3-12 乳幼児のいる家庭で、風呂場のドア を乳幼児が自分で開けることができ ないよう工夫した家庭の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
3-13 心肺蘇生法を知っている親の割合 | *3('01)調査 | 100% |
3-14 乳児期にうつぶせ寝をさせている親 の割合 |
*3('01)調査 | なくす |
3-15 1歳までにBCG接種を終了して いる者の割合 |
('00)幼児健康度調査 | 95% |
3-16 1歳6か月までに三種混合・麻疹の 予防接種を終了している者の割合 |
('00)幼児健康度調査 | 95% |
【行政・関係機関等の取組の指標】 3-17 初期、二次、三次の小児救急医療体 制が整備されている都道府県の割合 |
*3('01)調査 |
100% |
3-18 事故防止対策を実施している市町村 の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
3-19 小児人口に対する小児科医・新生児 科医師・児童精神科医師の割合 |
*3('01)調査 小児科医 新生児科医 児童精神科医 |
増加傾向へ |
3-20 院内学級・遊戯室を持つ小児病棟の 割合 |
*3('01)調査 | 100% |
3-21 慢性疾患児等の在宅医療の支援体制 が整備されている市町村の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
4 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減 | ||
指 標 | 現状(ベースライン) | 2010年の目標 |
【保健水準の指標】 4-1 虐待による死亡数 |
*3('01)調査 |
減少傾向へ |
4-2 法に基づき児童相談所等に報告が あった被虐待児数 |
*8('01)報告 | 増加を経て減少へ |
4-3 子育てに自信が持てない母親の割合 | ('00)幼児健康度調査 | 減少傾向へ |
4-4 子どもを虐待していると思う親の 割合 |
('00)幼児健康度調査 | 減少傾向へ |
4-5 ゆったりとした気分で子どもと過ご せる時間がある母親の割合 |
('00)幼児健康度調査 | 増加傾向へ |
【住民自らの行動の指標】 4-6 育児について相談相手のいる母親の 割合 |
('00)幼児健康度調査 |
増加傾向へ |
4-7 育児に参加する父親の割合 | ('00)幼児健康度調査 | 増加傾向へ |
4-8 子どもと一緒に遊ぶ父親の割合 | ('00)幼児健康度調査 | 増加傾向へ |
4-9 出産後1か月時の母乳育児の割合 | ('00)乳幼児身体発育調査 | 増加傾向へ |
【行政・関係機関等の取組の指標】 4-10 周産期医療施設から退院したハイリ スク児へのフォロー体制が確立して いる二次医療圏の割合 |
*3('01)調査 |
100% |
4-11 乳幼児の健康診査に満足している者 の割合 |
*3('01)調査 | 増加傾向へ |
4-12 育児支援に重点をおいた乳幼児健康 診査を行っている自治体の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
4-13 常勤の児童精神科医がいる児童相談 所の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
4-14 情緒障害児短期治療施設数 | 17施設 | 全都道府県 |
4-15 育児不安・虐待親のグループの活動 の支援を実施している保健所の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
4-16 親子の心の問題に対応できる技術 を持った小児科医の割合 |
*3('01)調査 | 100% |
健やか親子21検討会は、31人の委員で構成され、21世紀の母子保健のビジョンに関して幅広く検討してきた。2月3日の第1回の会議以来、4つの主要課題について、9回にわたり議論を行った。
会議に当たっては、4つの主要課題について、特に制約を設けず、自由、かつ濃密な検討を行った。会議の検討方法は、あらかじめ委員より提出された意見や資料をもとに事務局でたたき台を取りまとめ、検討会で修正するという作業を繰り返した。これらの意見や資料は、6分冊、約3000ページの資料集として別にまとめている。
報告書をまとめるに当たっては、抽象的な表現をなるべく避け、母子保健の観点から具体的なものとなるよう心がけたが、4つの主要課題に焦点をしぼって検討を行ったため、各委員から出された母子保健に関連した貴重な意見を割愛せざるを得なかったところもある。また、具体的な取組については、すぐに実施できないものについても母子保健分野の資源や環境を10年の間に整備していくという観点から、努力目標として幅広く取り入れた。
検討会は公開としたが、その議事録については、厚生省のホームページに掲載されているので、本報告書とともに参考にしていただければ幸いである。
健やかな親子は、単にそれぞれの家庭の希望ではなく、社会全体の希望である。本報告書に基づき、子どもの健康が重視され、思春期の子どもに対する適切な応援や妊産婦や不妊の夫婦に対する優しい配慮がなされ、健康な子どもと障害や疾病を持つ子どもの育ちやその親を支援できる地域社会の実現に向けた国民運動が展開されるよう希望するとともに、本報告書に関わる全ての個人・団体・機関の本報告書へのご理解とご協力を心からお願いしたい。
(参考資料) 運動展開の手法
「健やか親子21」の国民運動推進に当たり、核となる基本理念であるヘルスプロモーションの考え方を明確にし、その展開に有効な手法を活用することも重要である。
本検討会において具体的に検討された手法としては、プレシード・プロシード(PRECEDE-PRPCEED)モデルや地域づくり型保健活動、ソーシャルマーケティングがあるが、その概要を参考として示した。
ヘルスプロモーションの理念については、「健やか親子21」の推進の基本となるものであるが、本文に示した各々の展開のための手法選択は、関係者がその適用に当たって、個別状況に即して判断されるべきものである。
1 プレシード・プロシードモデル
ヘルスプロモーションの理念のもとに具体的な方法論としてL.W.Greenが開発したヘルスプロモーションの実践のための展開モデルで、欧米を中心に適用されている。このモデルは、事前評価(アセスメント)から計画策定のプロセスであるPRECEDE部分と、実施から事後評価のプロセスであるPROCEED部分の2つに分けられる(図1)。この2つは、実施を折り返し点にちょうど対称であり、第1段階から第5段階の事前評価のプロセスで用いられている指標は、そのまま事後評価のプロセスの評価指標になる
2 地域づくり型保健活動
ヘルスプロモーションの基本理念に基づき、ナドラーらが提唱したブレイクスルー思考を加えて、我が国の保健所や市町村の日々の実践活動の中でまとめられてきたモデルとして「地域づくり型保健活動」がある。
このモデルは、住民、行政担当者、専門家を含めた関係者が、自分たちの地域での将来の健康な実現に向けた計画のための話し合いを行い、そこで作成された計画に基づいて活動を実施し、評価、再検討することによって、さらに次の段階へと向かう展開方法である。このモデルは、準備期、活動方針検討期、展開期、評価・再検討期の4期で構成される(図2)。活動方針検討期においては、ワークショップを開催し、その参加者が、自分たちの地域での将来の健康な地域の姿やそれを実現するための条件を話し合い計画書を作成する参加型目標描写法が用いられる。
3 ソーシャルマーケティング
ソーシャルマーケティングとは、もともと経済学の分野で形成・発展されてきた商品開発や販売、消費者との関係づくりに関する応用科学であるが、1970年代から社会的分野や行政機関などの非営利組織の活用により発展をとげてきている。
最近では、教育や医療、公衆衛生などのサービス分野でも導入が図られている。特に、利用者のニーズに沿ったサービスの開発や改善などに使用され、消費者としてみた住民や利用者のサービスの開発に有益である。地域レベルにおける小児医療や母子保健のサービス等の開発や改善などへの利用が考えられる。
回 数 | 開催年月日 | 議 題 |
第1回 | 平成12. 2. 3 | ・「健やか親子21」の趣旨 |
第2回 | 平成12. 3.30 | ・子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安 の軽減 |
第3回 | 平成12. 5.24 | ・子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安 の軽減 ・思春期の保健対策の強化と健康教育の推進 |
第4回 | 平成12. 6.28 |
・思春期の保健対策の強化と健康教育の推進 ・妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と 不妊への支援 |
第5回 | 平成12. 7.23 | ・妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と 不妊への支援 ・小児保健医療水準を維持・向上させるための 環境整備 |
第6回 | 平成12. 8.21 | ・妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と 不妊への支援 ・小児保健医療水準を維持・向上させるための 環境整備 ・中間取りまとめ(問題認識・取組の方向性・ 具体的取組)に向けた検討 ・運動展開の理念と手法 ・目標の設定 |
第7回 | 平成12. 9.21 | ・中間取りまとめ(問題認識・取組の方向性・ 具体的取組) ・国民・地方公共団体・国・専門団体・民間団 体の寄与しうる取組 ・目標の設定 |
第8回 | 平成12.10.12 | ・国民・地方公共団体・国・専門団体・民間団 体の寄与しうる取組 ・目標の設定 ・最終報告に向けた検討 |
第9回 | 平成12.10.25 | ・最終報告書とりまとめ |
安達 知子 | 東京女子医大学産婦人科助教授 |
岩永 俊博 | 国立公衆衛生院公衆衛生行政室長 |
岡本 喜代子 | (社)日本助産婦会事務局長 |
小野 光子 | (社)日本看護協会常任理事 |
神谷 齊 | 国立療養所三重病院院長 |
北村 邦夫 | (社)日本家族計画協会クリニック所長 |
熊谷 勝子 | 飯田女子短期大学専攻科非常勤講師 |
巷野 悟郎 | 日本保育園保健協議会会長 |
古平 金次郎 | 日本小児科医会理事 |
小林 美智子 | 大阪府立母子保健総合医療センター成長発達科部長 |
澤 節子 | 東京都豊島区池袋保健所所長 |
清水 將之 | 三重県立小児心療センターあすなろ学園園長 |
新家 薫 | (社)日本母性保護産婦人科医会副会長 |
多田 裕 | 東邦大学医学部新生児科教授 |
田中 哲郎 | 国立公衆衛生院母子保健学部長 |
田中 昌子 | 埼玉県鴻巣市立鴻巣中学校校長 |
藤内 修二 | 大分県佐伯保健所所長 |
徳永 雅子 | 東京都世田谷区世田谷保健所健康企画課保健婦 |
戸田 律子 | バースエデュケーター |
中野 仁雄 | 九州大学医学部産科婦人科教授・病院長 |
長井 聡里 | 松下電工(株)本社健康管理室長 |
樋口 美佐子 | 東京都児童相談センター相談処遇課心理指導第一係長 |
櫃本 真聿 | 愛媛県保健福祉部健康増進課長 | ○平山 宗宏 | 母子愛育会日本こども家庭総合研究所所長 |
前川 喜平 | 東京慈恵会医大学名誉教授 |
美濃輪せい子 | 横浜市立新田中学校養護教諭 |
矢内原 巧 | 昭和大学名誉教授 |
柳澤 正義 | 国立大蔵病院院長 |
山縣 然太朗 | 山梨医科大学保健学II講座教授 |
雪下 國雄 | (社)日本医師会常任理事 |
渡辺 久子 | 慶応大学医学部小児科専任講師 |