97/12/16 第77回人口問題審議会総会議事録 第77回人口問題審議会総会議事録 平成9年12月16日(金) 15時00分〜17時00分 厚生省特別第1会議室 宮澤会長  本日はご多用のところご出席いただきまして、ありがとうございました。ただいまか ら第77回の人口問題審議会総会を開催いたします。  最初に委員の出席状況をご報告申し上げますと、大石委員、大淵委員、岡沢委員、木 村治美委員、熊崎委員、河野栄子委員、清家委員、坪井委員、南委員、宮武委員、八代 委員、網野専門委員、山田専門委員、それぞれご都合によりご欠席でございます。若干 遅れてこられる委員もいらっしゃるようです。  議題に入ります前に、事務局から何か報告事項があれば、よろしくお願いいたしま す。 椋野室長  それでは、事務局から前回おまとめいただきました報告書の扱いについてご報告を申 し上げます。10月27日におまとめいただきました報告書につきましては、厚生大臣およ び総理大臣には当日、秘書官を通じてお渡しをいたしまして、29日に関係省庁幹事の連 絡会を開きまして、関係省庁の大臣には幹事を通じて報告書を提出させていただきまし た。  それから、国民に議論をしていただくために、この人口問題審議会の報告書をわかり やすいパンフレットにしておりまして、今日は間に合わなかったんですが年明け早々に できますので、またお手元にご送付をさせていただきたいと思います。  その他、報告書にいろいろとご意見を伺いました有識者ヒアリングの内容をわかりや すく書いたものを付けました本を準備しております。これも年明け早々に出る予定でご ざいます。  それから、厚生省の月刊広報誌で雑誌『厚生』というものがございますけれども、こ れの新年号の特集も少子化で組んでいただくことになりまして、併せて皆様方のお手元 にご送付させていただきたいと思っております。 宮澤会長  ありがとうございました。それでは本日の議題に入らせていただきますが、進め方の 順序といたしまして、そこに書いてございますように、まず最初に11月4日に開催され ました『少子社会を考える国民会議』、それからもう一つ、昨日開催されました『少子 化時代を考える』というテーマのセミナー、この両方につきましてまず阿藤委員よりご 報告いただきます。  引き続きましてイギリスのキャサリン・キアナン ロンドン経済大学講師とフランス のジャン・クロード・シェネ 国立人口研究所部長よりお話をいただきます。  それでは、まず阿藤委員から『少子社会を考える国民会議』と『少子化時代を考える セミナー』のご報告をお願いいたします。 阿藤委員  2つの会議について簡単にご紹介いたします。最初の『少子社会を考える国民会議』 は、この審議会、厚生省が中心的に関係して全国で行ってきた県民会議、市民会議の総 まとめという意味で11月4日にイイノホールで開かれました。一般公募の方を含めて672 名の多数の方が参加なさいました。山口厚生事務次官の挨拶に続きまして、私自身が 「少子社会の現状と課題」というテーマで基調講演を行いました。そのあと、いま申し ました全国8カ所で行われました市民会議、県民会議の論点を総括いたしまして、それ を人口審の岩渕委員がご報告されました。  ボニージャックスのアトラクションを挟みまして、そのあと討論会、いわゆるシンポ ジウムを行ったわけでございます。これは審議会の会長の宮澤健一先生が司会役でござ いまして、パネリストとして私、それから弁護士の福島瑞穂先生、それから同じく人口 審の委員の千葉一男先生、それから連合の野口敞也先生、それからプロデューサーでエ ッセイストの残間里江子先生、そして都立の母子保健院副院長の帆足英一先生という 方々でシンポジウムを行ったわけでございます。討論は非常に活発に行われまして、同 時に会場からも質問、あるいはコメントなどがございまして、非常に幅広い意見が出さ れたと思います。最後に原田厚生政務次官の挨拶で会議は滞りなく終了いたしました。  それから、2つ目がつい昨日行われました、これは私どもの研究所、国立社会保障・ 人口問題研究所が主催して年に1度行っております『厚生行政セミナー』というものの 第2回目がたまたまこの時期にあたりまして、これもたまたま『少子化時代を考える』 というタイトルで開かれました。国民会議と非常によく似たタイトルになってしまった のは、ほとんど偶然ということでございました。しかし、この問題の関心が高まってい る折に、こういうテーマで研究所としてもセミナーを開けたということは幸いであった と思っております。  このセミナーは、12月15日に経団連会館ホールで開かれましたが、これも一般公募の 方を含めて450名ほどの方に参加していただきました。  このセミナーでは私が冒頭、最近の出生率の低下の問題を日本ならびに先進諸国の動 向を含めて若干背景説明を行いまして、そのあと4人のパネリストの方に基調講演をし ていただきました。これは、お招きした4人の先生方には事前に論文をお願いしており まして、その論文を踏まえたうえでのご報告でございました。今日お招きしております イギリスのキャサリン・キアナン先生とフランスのジャン・クロード・シェネ先生、そ れに日本では東京大学の上野千鶴子先生、そして上智大学の八代尚宏先生と、4人の先 生に基調講演をお願いしまして、そのあと休憩を挟んでパネル討論、そしてフロアから の質問を受けるというかたちでセミナーを進めたわけでございます。  これにつきましても、特にイギリス、フランス、そしてヨーロッパ全体の動向という ものを非常に興味深く紹介していただき、そしてそれと比較して日本の問題を考えると いうことができて、研究的にも非常に面白かったのではないかなと自画自賛しているん でありますけれども、一部ではそういう評価もいただいております。  これにつきましては後ほど、私ども研究所の機関誌で『人口問題研究』というのと、 英文で『Review of population and social policy』という雑誌がございますが、そこ に4人の方の論文をそれぞれ和文と英文、両方で掲載する予定でおりますので、もしご 興味のある方はその論文をお読みいただければと思います。  以上でございます。 宮澤会長  ありがとうございました。ただいまのご報告につきまして、何かご質問ございますで しょうか。よろしゅうございましょうか。  それでは続きましてキャサリン・キアナン ロンドン経済大学講師、並びにジャン・ クロード・シェネ 国立人口研究所部長よりお話をいただきますが、初めに阿藤委員か らお二人のご紹介をいただきまして、通訳を含め、それぞれ30分程度お話しいただきま して、最後に30分程度質疑の時間を設けたいと、かように存じております。  それでは阿藤委員、お願いいたします。 阿藤委員  今日お配りした『少子化時代を考える』という資料2の4ページ目に、お二人の略歴 が掲載されております。キャサリン・キアナン先生は現在ロンドンスクール・オブ・エ コノミクス、いわゆるLSEの社会政策学部のリーダーというお立場でございます。こ れはイギリスの独特のシステムですので、日本でいうと助教授ということになるでしょ うか。ロンドン大学で人口学の博士号を取られ、ロンドンスクールにいらっしゃる前は 家族政策研究センターの研究部長をなさっておられまして、家族の問題に非常にお詳し い先生でございます。95年から現職でいらっしゃいます。テーマとしては、もちろん人 口学でございますが、同時に家族の問題を含めた社会政策がご専門でいらっしゃいま す。ご著書は非常にたくさんあるんですが、主著として『家族変動と将来の政策』、そ れから『同性、婚外出産、社会政策』、『20世紀における母子家庭』と、やはり中心的 には家族をめぐる問題を扱ったご著書が多いようでございます。  それからもうお一方、フランスからお招きしましたジャン・クロード・シェネ先生で ございます。現在フランス国立人口研究所(INED)、我々の世界でよく「イネッド (INED)」と言ってますが、そのイネッドの上級研究員でございます。研究所のシステ ムがよく変わりますが、以前の組織ですと、部長クラスの先生でいらっしゃいます。パ リ大学で人口学の博士号を取られ、さらにはパリの政治学院で経済学の博士号を取って おられます。そういう意味でバックグラウンドが人口よりも広い社会経済の分野に非常 にお詳しい先生でいらっしゃいます。シェネ先生も大変多くの著書がございますが、主 著としては、いわゆる人口転換そのものですね、『Demographic transition』という、 そのものズバリのご著書が非常に有名でございます。それから『フランスの人口』、そ れから『西洋の凋落期−人口動向と政策』といったようなご著書がございます。つい先 だっても『ニューズウイーク』に「East meets West」という東西問題を扱った記事がご ざいましたが、その中で、いわゆる外国人の移民の問題についてシェネ先生がコメント している記事がけっこう長く載っていたことを記憶しております。  以上でございます。 宮澤会長  どうもありがとうございました。それではまずキャサリン・キアナン先生にお願いい たします。 キアナン氏  座長、どうもありがとうございました。会長、ありがとうございました。今日は皆様 にお話できて大変光栄に思います。私は今日は、主に英国の親業と、それから家族生活 についてお話をしたいと思いますが、イギリスとヨーロッパ諸国の比較などを行いたい と思います。皆様のお手元の資料の後ろのほうに“Kathleen Kiernan”という表がいく つかあると思いますけれども、その表をご覧になりながら聞いていただければ幸いで す。  1990年代の後半に入りましてから、英国の大半の男女は、自分の人生の何らかの段階 で親になるということは依然としてよくあることなんですけれども、しかし最近ますま す親になる時期を延ばしていて、そして親になる年齢の高齢化という現象が見られま す。また、より多くの人たちが婚姻関係外で子どもを持つという傾向も見られます。ま たもう一つの傾向として、非常に少数ではありますけれども、子どもをまったく持たな い男女というものも増えてきているわけで、それは英国に限ったことではなく、後ほど シェネ先生からも報告があると思います。  しかしながらヨーロッパ全体の中で見ますと、英国とフランスというのは合計特殊出 生率が最も高い国に属しておりまして、それは1970年代の半ばごろから過去20年間ずっ と続いております。まれに例外はありますけれども、だいたい1.7〜1.8という数字に収 まっております。これは表1に書いてあります。  例えばこの表にありますように、ヨーロッパの多くの国では合計特殊出生率が1.5のレ ベルを下回っておりまして、南欧諸国では1.2という低いレベルに落ちているところもあ ります。しかし英国ではこの数十年間、一番低かったのは1977年という、出生率が1.7を 下回ったその1年だけでした。  また、英国のもう一つの特徴として、他の国に見られるような大きな変動が英国では ありません。例えばスウェーデンは1980年が1.68、それが1990年には2.13に上って、そ してさらに96年の1.61に落ちております。  さて、なぜ英国が他の西欧諸国よりも出生率が高いのでしょうか。私の論文を読んで いただきますと、その論文では人口動態学的な説明、それから政策上、あるいは文化的 ないろいろな要素など、英国の比較的高い出生率を説明する要因などを分析しておりま す。まず、英国の比較的高いTPFR、合計特殊出生率の背景にある人口動態学的な要因に ついて検討してみたいと思います。  ヨーロッパの出生率のパターンの大きな特徴というのは、1980年代に入ってから20代 で子どもを出生する人々が減っているということと、30代の女性たちの出産、つまり出 産の高齢化という現象が見られているわけです。しかし、つい最近まで英国はヨーロッ パの他の国に比べて晩婚化への動きは非常に遅かったのであります。  こういった晩婚化、というか晩産化への動きが遅かったんですけれども、図1にあり ますように英国は西欧の中でも10代の出生率が一番高くなっております。それから1980 年代に入っても、その80年代を通してその率が下がらなかった国でもあるわけです。こ のように私どものTFR、TPFRが比較的高いというのは10代の出産ということと それから もう一つは、10代で出産する母親というのはより出産回数が多くなる傾向があり、そし て子どもの数が多いという傾向が高齢出産よりもあるわけです。  しかし、このように10代の出産率というものが英国の全体の出生率に寄与している一 方、こういった若い年齢で親業を開始するというのは、決していい方向とはいえませ ん。  しかしながら出生のタイミングというものは、英国の比較的高い出生率を説明する1 つの要因にすぎないと思います。我が国では子どもを2人持つというのが大変好まれて おります。表2に「EU諸国における理想子ども数」という表がありますけれども、この ヨーロッパ全体の調査の結果、英国人は理想的には1家族が子ども2人だと。他の多く のヨーロッパ諸国に比べて一人っ子というのは好まれておりません。  英国のカップルは子どもは2人ほしいという好みを表明しているだけではなく、実際 にそれを達成している、その理想を実現している人も多いわけです。表3をご覧いただ きますと、「イングランドウェールズ地方における出生コーホート別の女子の年齢別出 生子ども数」というのがありますけれども、それを見ますとずっと子どもをつくらない 女性の数というものは、最近生まれた若いコーホートの中で増えてきていますけれど も、しかし一人っ子しか生まない女性の割合というものは1940年代からずっと一律で同 じであります。一番よく見られるのが子どもが2人、そしてさらに3人目、あるいは4 人目を生む人が多いわけです。  英国の母親で第1子を生んだものはだいたい8割ぐらいが第2子を生みまして、これ は1960年代のベビーブームのときも、その後のベビーバストと言われている出生率が著 しく低下した時代にも見られる傾向であります。英国では子どもを1人生んだカップル は2人目を生むというのが非常によく見られるパターンなんですけど、なぜ子どもは2 人ほしいのかという、そういった強い好みの理由は説明されておりません。  したがって、英国の比較的高い出生率の人口動態学的な説明としては、まず低い出生 年齢と、それから子ども2人という親の好みに見られると思います。  さて次は、英国の親業の社会的、経済的、政策上の問題点について検討してみたいと 思います。  労働市場という公の面から見ますと、それから家庭生活というプライベートな面から 見ますと、親になるということは男性にとって、また女性にとって異なるということは 皆様ご承知のとおりであります。英国でも結婚してから働く女性というのは1950年代か ら1つの規範として定着していますけれども、しかし出産後に働くというのはつい最近 の出来事でありますし、特に子どもが非常に小さいときに、幼児のときに働くというの は1990年代というより最近の現象であります。  英国では労働市場にますます多くの女性が参加しております。結婚してからも働き、 そして第1子を生んでからもその雇用に戻るという傾向が見られますので、夫は外で働 いて妻は家庭に残るという伝統的なモデルはもう衰退してきているのであります。図2 をご覧いただきますと、英国の家庭の労働パターンの一番大きな変化というのは、夫の 収入のみで生活している家族数が減っているということと、そして共働き夫婦の家族数 が増えているということであります。  英国の労働市場の構造的な最も基本的な変化というのは、やはりこの数十年間の女性 の労働市場への参入でありまして、特に強調したいのはパートタイムの労働の重要性で あります。  英国の女性の雇用パターンというものは子どもの年齢によって説明できると思いま す。5歳未満の子どもを持つ母親は有給の労働に就く確率が非常に低く、そして5歳以 上の子どもを持つ母親のほうが働く確率が高いと言われております。しかし末っ子がだ んだん育っていきますと、特に英国の義務教育の修学年齢である5歳に達しますと、母 親はますます仕事に戻るという傾向が見られ、そしてフルタイムの労働に戻るという傾 向も強いのであります。しかし逆に未就学組、つまり5歳以下の子どもを持っている母 親はフルタイムの、そして有給の労働に就く確率が非常に低いわけです。しかし、この グループにおいて最も労働市場への参加の成長率が高く見られたのであります。過去10 年間で5歳以下の子どもを持っている母親の労働市場への参加が一番伸びております。  そして英国の母親たちは、昔よりも子どもが生まれてから早く仕事に戻るという傾向 が図3などでよく見られます。子どもが生まれてから出産後の1年以内に仕事に戻ると いう女性のほとんどは同じ会社、あるいは同じ雇用者のところに戻るわけです。そして 2人のうち1人、つまり50%は経済的理由のために職場復帰すると言っていますけれど も、しかし経済だけの問題ではありません。4人のうちの1人、つまり4分の1は自分 自身の自己実現のためとか、自分の満足のため、あるいは自分のキャリアをさらに追求 するために仕事に戻ると答えております。  5歳以下の子どもを持っている母親たちが仕事に戻るとすれば、何らかの託児サービ スが必要とされるのであります。スカンジナビアなどの福祉国家と言われているような 地域に比べて、英国ではさまざまなサービスが混合したかたちで提供されております。  この託児サービス、チャイルドケアの9割ぐらいが補助金なしで行われております。 例えば親は民間の託児所にお金を払ってあずけるとか、あるいは雇用者から何らかの援 助を受けるとか。それは大変少数なんですけれども。それから一番よく見られるのは親 戚とか家族の人に頼るということなんですが、あるいは必ず親の1人が家にいるような 労働時間を選ぶという、労働時間の調整が行われます。そしてたいてい家に残るのは母 親になるのです。  表7にありますように、1994年には働く母親はほとんど家族に頼っておりました。配 偶者を頼ったり、あるいは実家の両親などに子どもをあずけるという方法をとっており ました。未就学児の場合は69%がそのように答えております。それから他のチャイルド ケア、託児設備の使用としては末っ子の年齢によって異なります。未就学児の場合に は、ほとんど英国ではチャイルドマインダーとか、あるいは他の国ではデイケアという ふうに言われていますけれども、若い母親、あるいは小さな子どもを持っている母親が 自分の家で他の人の子どもの世話をするという、そういうかたちを取っております。こ のように自分の家で他の人の子どもをあずかるという母親というのは地方自治体に登録 をしなければなりませんし、いくつかの法定要件を満たさなければなりません。例えば 家の面積とか設備の有無とか。そして就学児童を持っている母親の場合には家族に面倒 をみてもらうというのが一番多かったんですけれども、2番目にあったのは学校の時間 に自分自身の労働時間を合わせるという答えでした。  英国では扶養状態にある子どもを持っている女性の雇用というものは、政府の援助な しで自然に起こってきたと言っても、それは言い過ぎではありません。ヨーロッパ諸 国、EUの諸国はほとんど何らかの政策目標を持っていて、そして公的資金による託児所 などがありますけれども、英国ではそういうものがまったくありません。英国政府の補 助によって行われているチャイルドケアは2%以下という大変低いものでありまして、 そしてほとんどが恵まれない家庭のためのサービスとして提供されております。比較的 恵まれている家庭の親は、自分自身のプライベートな責任として託児サービスを求めな ければなりません。  英国の男女の定年の年齢以下のほとんどのものは労働市場に参入していまして、そし て家庭の収入に貢献をしているんですけれども、ただ依然として夫のほうの収入に頼る べきだという考え方が比較的強いと思われます。特に表10で女子の就労を奨励するもの の割合というものを分析しました。結婚後子どもなし、就学前の子どもあり、そして末 っ子の就学後、子どもの巣立ち後というふうに分けて聞きました。そしてそういう期間 に女性がフルタイム、パートタイムに働くべきなのか、それとも家に残るべきなのかと いうことを聞きました。  表10の答えでもわかるように、親になる前、あるいは子どもが巣立ちしたあとは女性 はフルタイムに働くべきだと男女ともに答えていますけれども、しかし子どもが修学年 齢の場合には5分の1、子どもが就学前の場合にはほとんどの人たちがフルタイムで働 くべきではないと答えています。  結論を申し上げますと、英国では国の援助がない状態であるにも関わらず、多くの母 親が労働市場に参加しております。しかし子どもが非常に小さいときには労働市場を離 れて家に残り、そしてパートタイマーとして戻る傾向があります。そして子どものチャ イルドケアのために何らかの調整をしているわけです。ほとんどが、例えば夫が家にい るときに自分が働きに出るとか、祖父母を利用するといった、その家庭の中で問題を解 決するという方法をとっております。  このように英国の家庭は、自分たち自身で労働と家庭生活を組み合わせる現実的な解 決策を求めて、そして実現しております。そしてパートタイムに対する好みが非常に強 いといえます。これはフルタイムの労働と子育て、特に小さい子どもの世話ということ を組み合わせることによるストレスを避けたいということが見られると思います。英国 では、これは一般的に言ってですけれども、女性はまず第一に母親であって第2に労働 者であると。それが私どもの出生率の比較的高いレベルを維持している要因ではないか と思います。  ありがとうございました。 宮澤会長  どうもありがとうございました。それでは引き続きましてジャン・クロード・シェネ 先生にお話をお願いしたいと思います。 シェネ氏  ありがとうございます。私はEUにおける少子化の原因とその影響などについてお話を したいと思います。その次に政策問題についてお話をしますが、私の表にタイプミスが あったことをご指摘したいと思います。  私の論文ではまずヨーロッパの現在の人口学的な特徴と現状というものを分析して、 そして私がここで申し上げているのは、これからの人口の不均衡というものは多分恒久 的なものであろうということ。したがって、従来の人口移行論という理論を完全に考え 直さなければならないと思われる。この人口学的な移行というものが行われた後には、 人口全体が緩やかに低下して、今度大幅に低下していく時代に入ると考えます。  私が申し上げたいのは少子化、つまり人口置換以下の出生率というものは決して新し い現象ではなくて、フランスではナポレオンの時代からありますし、それから英国、ド イツでは1920年代から存在している問題です。  ここで4つの要素についてお話をしたいと思います。1つは出生数、2番目にはEU諸 国内における少子化の問題、3番目にはその出生数の経済的な意味や経済的な影響、4 番目にはなぜEUといった1つの共同の地域の中でこれだけ出生率の違う国が存在するか という理由について検討したいと思います。  ヨーロッパ全体としては1910年から出生数というのが40%も落ちておりまして、現在 は出生数よりも死亡数のほうが増えてきているのであります。もし国の人口が増えてい るとすれば、それは移民によってのみであります。  2番目の事実としては、出生数なんですけれどもEUの15カ国、つまり西欧のEU諸国内 では、出生数というのが人口置換には達さないものであって、これを出生の不足と言っ ていますが、実際には200万の不足となっております。現在は400万ですけれども、それ が600万にならなければ人口の置換レベルに達することができません。  3番目は経済的な影響なんですけれども、出生数というのは経済的に大きな影響を持 つものであります。そしてこの出生数は政策決定者、企業のマネージャーなどにとって 大変重要な要素だと思います。出生数がそのすべての需要の裏にある要因になるわけ で、例えば学校とか教師の数とか労働人口におけるいろいろな装置や設備などの需要、 それはすべて出生の変動によって影響されます。  出生数の低下というのがドイツ、スペインなどでは40〜50%ぐらいになっていまし て、子どもの数が40%も低下するということは、それに対応するいろいろなものの需要 がそれだけ減ることになります。そしていくつかの産業がいま景気後退の状態にありま して、人口の後退によって経済的にどうしても後退する産業が出てきます。  次に国際的な差異なんですけれども、EU諸国における合計特殊出生率は全体として1. 4、つまり日本と同じレベルなんですが、しかしEU 諸国内でも非常に大きなバラツキが あります。ある国は1.4よりもっと低い国もあれば、置き換えレベルに近い出生率の高い 国もあります。一般的に私どもが予想する傾向とまったく違う逆の傾向が出ておりまし て、つまり出生率が低いと予想されるような北欧諸国では高く、そして南欧諸国では低 いという現象が起こっております。  ヨーロッパの中では昔からあったようなカトリック教徒の出生率というものは、もう ありません。いまはカトリックの人口はプロテスタントの人口よりももっと出生率が低 くなっております。これは従来のパターンの逆転と見られます。こういった人口学的な 変化の原因と、そしてその影響について論じてみたいと思います。  その要因というのは2つに分類できると思いますけれども、私が思うにはまったく不 可逆的な変えることのできない要因と、もう一方ではより柔軟な戦略的な要因というも のがありまして、より柔軟な可逆的な要因のほうに公共、あるいは民間で何らかの努力 をする余裕があると思います。  私どもの何らかの政策の余地のない要因としては、まず早期の死亡率、そして避妊方 法の技術の変化、都市化等人口過密、そして女性の地位向上であります。  可逆的な要因として挙げられるのは、少なくとも2つあるんですけれども、1つは心 理的な環境の変化というものが挙げられると思います。つまり価値観が変わるとか、将 来に対して私どもがより自信を持つということで、2番目は社会的あるいは機関的な枠 組みであって、例えば男女の親業のコスト、あるいはその負担の共有とか、社会の中で みんなで助け合うような連体感とか、そういった社会的な要因であります。出生、ある いは出生率というものは絶対的なものではありません。国民が、一般の人たちが選択を して変えることはできます。  では次に、人口学的な変動の影響について話してみたいと思います。特に超高齢化現 象についてです。  私どもは高齢化という現象だけではなく、年齢のピラミッドが完全に逆転するという 新しい現象に直面しています。ますます子どもは減り、そして年寄りが増えてきます。  高齢化の最後の影響、その衝撃というものは数学の問題であり、そしてよく検討され ている問題であります。そういった問題だけではなく、私たちは他の間接的な影響、よ り微妙な深い、そしてより広く潜行しているような国際的な心理的な要素、精神的な要 素ということを考えなければならないかもしれません。  そして高齢化の影響として次のような大きな問題が起こってくるわけですけれども。 社会、国が国際社会の中で、あるいは国際市場の中で競合性を持ち続けることができる のかということです。まず急速な高齢化の現象によって内需が縮小してしまう。それか ら高齢者を支えるためのコストが高くなり、そして労働の費用がだんだん高くなると。 そして資本の価値が下がって、そして脱人口過密化現象が起こります。  そこでそういった労働市場が非常に高く、そして市場全体が縮小していくという国 は、外資、投資などを誘致する魅力的な誘致先になり得るのか。利潤のためのマージン がどんどん減っていく中で、その国は市場として魅力を持ち続けることができるのかと いうのが大きな問題だと思います。  私の結論というのは、若い人の不足、そして労働力不足を解決するために、移民とい うのは解決策にならないということであります。もし人口動態学的な、あるいは人口学 的な解決策として移民ということを考えるのだとすれば、年齢のピラミッドの一番欠け ているところを埋めなければならないことになりますし、ということは子どもを移民と して迎えなければならないことになります。それも親ではなくて子どもだけを移民とし て迎えなければならない。それは親のない状態で子どもを輸入するのか養子にするの か。そういうことは現実的ではありません。  次に政策の問題について話してみたいと思います。国家が家族計画に関して奨励策を 採るということが可能だとすれば、逆に出生率を上げることにおいて政策を採ることも 十分に可能なのであり、家族計画において政策が効果的だとすれば、大家族を奨励す る、つまり出生率を上げるという政策を採ることも効果的になり得ると私は考えます。  よく、国はそういった家族の選択に介入すべきではないと議論する人がいますけれど も、つまり多元的な民主主義国家はそういった家族の選択に介入する権利はないと言い ます。特に過去においては独裁政権下でそういった出生率を上げるような政策が採られ たということがよく言われます。しかし、フランスとかスウェーデンといったような民 主国家も出生率を上げる奨励策を採ったということは忘れられてしまうのであります。 私は国家がそういった政策を採ることを正当化する4つの議論が成り立つと思います。  その第1の議論というのは、家族を育て、家族をつくっていくための支援、あるいは 援助というものを国民が望んでいるという、そういう潜在的な需要があるということで あります。先ほどキアナン先生が指摘されたヨーロッパの世論調査では、ヨーロッパの ほとんどのカップルは子どもは2人ほしいと、これが第1の選択でした。第2の選択 は、子どもが3人ほしいということでした。つまり、実際にはみんな子どもを2人とか 3人ほしいわけなんですけれども、現実の出生はもっと低くなる。 ということは、本 人たちの希望と現実の間に大きな格差があるわけです。そしてすべての人々が自分の希 望どおりの生活ができるように補助、援助するのが国の義務ではないかと私は思いま す。  第2の理由というのは、個人の自由と個人の選択の権利に関するものであります。自 由に選択する権利というものは子どもを持たない権利というふうに解釈されますけれど も、子どもを持つという選択もあり得るわけであります。子どもは持ちたくないという Noという選択は大変簡単です。例えば避妊に関しても自由ですし、そして無料だったり する場合もありますし、中絶手術も簡単ですし、避妊手術あるいは不妊手術というもの も簡単にできるわけです。しかし我が国では子どもを持つということにYesという選択を すると大変お金がかかってしまうわけです。 だいたい生まれてから20歳まで、いまで は1人当たり20万ドル相当もかかると言われていますし、第2子、第3子になるとさら にもっとお金がかかるわけですから、自由選択というものは子どもを2人目、3人目が ほしいという人に特別なサポートを提供するということを意味するのではないかと私は 考えます。  3番目の議論は平等であります。つまり国民の平等性の保護です。例えば生活水準が 平等であるとか。各世帯の生活水準のレベルを見ますと、これはあくまでも我が国の例 なんですけれども、人が貧困になる第1の理由は失業であります。もちろん仕事がなけ ればお金もないし貧しい、これは当たり前のことであります。しかし第2の要因は大家 族なんです。 つまり、子どもの数が多ければ自動的に社会的に排除される、つまり下 層階級に入ってしまうことになります。  第4は将来のための準備、つまり人的資源を確保する、あるいはその人的資源をより よい状態で支援するというのが国の義務だと考えますので、将来のより質の高い人的資 源、人的資本というものを確保するために、私たちは母子の地位を高めなければならな いと考えています。  最後に効率の問題に入ります。人口政策はお金ばかりかかって、その結果は疑わしい という人がいますけれども、歴史的に見ますと、十分に検討された、そしていい政策で あり、国民の希望とか期待、理想などに合ったもの、しかも経済的に健全なものであれ ば十分に見返りが得られるものだと私は考えます。3つの例を申し上げます。  その第1の例は人口学者の間で有名な例でありますけれども、第2次世界大戦後のフ ランスであります。フランスは1900年から1930年代まで、世界で最低の出生率を持って いました。ところが第2次世界大戦後は世界で最も高い出生率になったのです。これは なぜかというと、他にいろいろな要因を考えても相関を見られる要因というのは家族政 策以外にまったくありません。というのは、私たちはドイツとの戦争に、直接ドイツに 対して私たちは戦争を仕掛けたわけではありませんし、そして私どもの社会政策の核を なしていたのが家族政策だったのです。社会的な予算の45%が若い家族に当てられてお りました。  第2の例は東西ドイツであります。東ドイツは出生率が低下していたので家族政策を 積極的に取り入れました。そうすると出生率が上がったんです。ところが再統一後に東 ドイツの家族政策というものが廃止されましたので、その廃止後たった2年間で出生率 が半減しました。  最後の例はスカンジナビア、特にスウェーデンとイタリア、スペインとの比較です。 スウェーデンでは社会的な予算の6分の1が児童保護に当てられております。OECD諸国 の中でも最も子どもに当てられている予算の高い国です。そしてその反対の極にイタリ アとスペインがあります。イタリアでは国の予算の3%、スペインでは2%が子どもに 当てられております。これは出生率と相関があると私は考えています。つまり、出生率 が高い低いとか、そしてこの予算の高さと低さは偶然ではありません。  結論を申し上げます。先進国では自分が望んでいるよりも数少ない子どもを夫婦は持 っているということと、理想の家族サイズと現実の家族サイズの格差というのは国の政 策によって決まるものだと思います。その格差というのはイタリア、スペインでは一番 高くて、自分が望んでいる子どもの数と実際に生む子どもの数の間の数字というのが1 なんですけれども、北欧ではその数が0.2、あるいは0.3です。これこそ家族の支援、家 族のためのサポートの潜在的な隠れた需要ということを意味しているのであります。  私の最後の点についてお話をしたいと思います。子どもを育てることの一番大きなコ ストを払っているのが母親であります。そこでここにフェミニズムの大きなパラドクス があると思います。女性が非常に優遇されているスカンジナビアのフェミニスト国が子 どもの数が多い。そして男性が優位のマチズモの南欧の国が子どもの数が少ないと。  以上です。どうもありがとうございました。 宮澤会長  どうもありがとうございました。それではお二方のご報告につきましてご質問など、 どうぞお願いいたします。 河野専門委員  どなたもなければ質問します。まずキアナン先生にお聞きしますけども。たくさんあ りますけど、時間がありませんからあれですけど。  人口政策のないイギリスのほうが、例えばいろいろな国、ジャン・クロード・シェネ さんのページ23に合計特殊出生率が出ていますけれども、人口政策のないイギリスのほ うが人口政策のあるフランスよりも合計特殊出生率が高いと。非常にパラドキシカルと いうか、非常に興味があるところですけれども。そこでお聞きするんですけれども、仮 にイギリスは今度人口政策をやれば、さらに合計特殊出生率が上がるのかということで す。  一番最後にキアナン先生が言われたマザーズファーストワークセカンドといいます か、母親がファーストでワークセカンドというのは非常に面白いと思いますが、という と例えばフィリップ・アリエスなんかは子どもは王様の時代が去って、いまは大人の時 代になったと言っているんですけども、イギリスはまだ良妻賢母とはいかないけれど も、そういうような考え方が残っているかどうか。 キアナン氏  質問ありがとうございます。フランスは明らかに出生を奨励するというプロナタリス トという政策を採っているんですけれども、英国は公にはしていませんけれども、家族 政策というものはしっかり持っております。これは第2次世界大戦後のいわゆる福祉国 家の樹立の中にしっかりと入っているもので、これは私たちは家族政策というふうには 言っていませんけれども、明らかに非常に強い家族政策を持った福祉国家をずっと目指 してまいりました。ですから家族政策はあります。  それから2番目に、英国の母親が、第1に母親であって第2に労働者であるというこ とを申し上げたんですけれども、それは子どもが王様という、そういう考え方ではない んですが、まず自分自身が雇用が必要であると。しかし母親でもありたいという、そう いうジレンマをうまく自分たちなりに両立させているということを申し上げたかったの で、大変現実的な実用的な対応だと思います。  しかしその背景には、やはり英国の福祉制度というものがありまして、福祉国家の制 度は、まず子どもが16歳になるまで母親は働かなくていいという大前提でつくられた福 祉制度なんです。それが1997年までずっと続いておりまして、家族がいろいろな信用と か補助とか国の助成とか、そういうものが受けられるような制度でありました。したが って、自分は子育てを終えるまでは雇用に戻らなくてもいいというふうに多くの英国の 女性がいままでは考えていたわけです。  ところが労働党政権になってからはそれが大きく変わってきておりまして、ますます 多くの女性たちが労働市場に入ってきているわけです。 これはなぜかといいますと、 母子家庭とか父子家庭とかの片親の家庭が非常に多くて、その片親の家庭の8割が貧困 に陥っていると言われています。そうすると全世帯数の20%が子どもがいるがために貧 困であるということは、それはどうしても是正しなければいけない大きな問題なので、 女性の労働というかたちでこれを解決しなければならないという、そういう事態にいま 英国が陥っているのであります。 阿藤委員  シェネ先生にお聞きしたいんですが。いまの質問とも関連があるんですけれども。フ ランスが本当に戦後一貫して出生促進主義といいますか、あるいは言い換えれば強力な 家族政策を推進してきたといいながら、現実にはその家族政策のレベルといいますか強 度といいますか、これがいまどんどん下がっている。例えば予算に占める家族政策の費 用、予算というもののシェアがどんどん下がってきているということを聞いています。 そこで、強力なイデオロギーを持ちながら、しかし現実的にはどんどん政策が弱まって いるあたりの理由をお聞かせ願えればということが1つ。  それから関連でもしご存知ならば教えていただきたいのは、イタリアやスペインがこ れほどまでの低出生率であるにも関わらず、先ほどご紹介があったように家族政策が非 常に弱いと。それを強める方向に動いているかどうか、よく存じないんですが、それだ け低ければ、例えば日本でもそうであるように、かなり強いイニシアチブが行政とか財 界とか政治の世界とかに出てきそうなものなんですが、そのへんの動きはその両国につ いてあるんでしょうか。 シェネ氏  フランスは過去においてはプロナタリスト、出生促進政策というのを採っていたんで すけれども、その理由というのは政治的なショックというか、私たちは3回もドイツに 侵攻されました。そして非常に悲劇的なあの悲惨な戦争に巻き込まれたわけです。我々 はこのままだと国として完全に死に絶えてしまうと感じて、ドイツの植民地にならない ように私たちは強い国家にならなければいけない、そしてもっと子どもを大切にして国 を再建しなければならないということで、そのときは1940年代後半の福祉政策の核心に なっていたのが家族だったんです。  ところがいまはそうではありません。いまは社会政策の端のほうに家族というのが追 いやられてしまいまして、第1が年金、第2が健康と医療、第3が失業率の問題で、第 4が家族なんです。そして以前のプロナタリストの時代では、つまり40年代の終わりに は社会予算の45%が若い家庭に当てられていましたけれども、いまは10%にすぎませ ん。ですから、フランスは出生を促進しているといっているのは、それは現在は政策決 定者たちの単なるレトリックにすぎません。  スペインではまた政策決定者たちが大変近視眼的であって、しかも数年間の任期と か、数年間でいろいろ問題を解決しなければならないという問題があるために、野党の 人と個人的に話をすると、人口は一番大きな問題であって、今後の財政とか将来の国家 としてのいろいろなことを考えるともっと家族政策を大切にしなければいけないと言う んですけれども、彼らは一旦与党になると、もっと短期的な問題を解決しなければなら ないとか、矛盾するいろいろなロビー活動の間の仲介をしなければいけないということ で、あまり家族政策をつくっていません。 河野専門委員  実は先ほどシェネさんにも質問しようと思って。ジャン・クロード・シェネさんにお 伺いします。  シラク大統領は非常に人口問題に関心のある方だと聞きまして、非常にある意味じゃ フランスの人口問題を憂えていると聞くんですけれども。 例えばこのままいきます と、国連の推計によればフランスも西暦2030年ごろ人口がピークに達して、あとだんだ ん下がっていくと。そしてブルジョア・プシャの推計によると、西暦3000年までには終 わってしまうと。人口はゼロになるというようなあれがありますけれども。シラク大統 領はそれでは何にか特別の政策的なことを考えられているかと、そういうことなんで す。  2番目は、フランスがあれだけ政策をやられても合計特殊出生率がいま1.70に下がっ ているというのは、やはり価値の転換というか、バンデカーの言ったようなセカンドデ モグラフィックトランジションというか、第2の人口転換というか、そういうような価 値の転換というのは非常にフランスにおいて起きているんでしょうか。 シェネ氏  河野先生、質問どうもありがとうございます。フランス人人口がいなくなってしまう のか、フランス人口がいなくなってしまうのか、これはまったく違うことでありまし て。というのはフランスというのは昔から移民国でありまして、移民をたくさん受け入 れている国でありまして、ユーラシアからアフリカに門を常に開いていますので、大変 移民の強い多い国であります。それから、フランスの人口はこの15年間上昇しています けれども、これは主に高齢者人口が増えているのでありまして、50歳以下の人口はいま は減っています。人口全体が上がっているのは、高齢者がいま2倍も増えていて、若い 人口が減っている。これは西洋諸国はどこでも同じだと思います。  大災害とか、大きな天災とか、そういうものが起こらなければ、フランスの人口が完 全に消失するということはないと思うんですけれども、さっき申し上げたように大量に 移民を迎え入れている国ですし、それから移民を抑制する政策を採っていても不法移民 が常に入ってくるわけです。世界第一の観光目的地ですから、観光客としてそのまま居 座ってしまうという人も大勢いるわけです。  それからシラク大統領に関しては、シラクは大統領になる前に私も何回も会いまし て、ドゴール派はみんな同じことを言うんですけれども、人口学こそ将来の最も重要な 課題である。フランスの国の将来をかたちづくる重要な課題だと。そしてフランスの今 後の栄光という話をよくしていたんですが、ところが一旦政権につくと政治家というの はすべてそうでありまして、例外なく自分が野党にいるときにはそういうことを言いま すけれども、一旦力の地位に就きますと、職に就きますと今度は長期的な政策に当てる 時間はもう1秒もない。いつも急いでいる。目の前のものにしかとらわれていないとい うのが、どの時代でもどの国でも言えることであります。先ほど申し上げた植民地にな るんじゃないかというショックとか、そういった何らかの圧力とかショックとか外圧が なければ、目前の問題の解決以外にはまったく時間を割いてくれないのであります。  それからTFRがなぜ1.7に下がってきているのかというのは、これはさっきも申し上げ たように、以前は家族政策が強かったのがいまは弱くなっているので、これは家族政策 の弱さの結果だと私は思います。ですから、家族政策がずっと維持されていれば、ある いは予算がちゃんと当てられていれば、1.8か1.9になっていたと私は思っています。 岡崎専門委員  私はお二人に質問したいんですけれども。1つはイギリスの方ですけれども。非常に 関心したのはイギリスでは女性は母親が第1で仕事は第2だという考え方がいまでもあ るそうですけど、それは依然として非常に強い考え方なのかどうか。日本ではちょうど 逆になっておりまして、女性も仕事が先、母親は後。こういうふうに日本ではなってい るんですが、イギリスがそれとは違うということが非常に印象的だったので、これが1 つ。  それからシェネさんにお伺いしたんですが、大変悲観的な人口政策論を言っておられ るんですけれども、私たちはトータルファティリティレートが2以上になりたいと考え ているんですが、その政策は日本について可能と思われますか。フランスについてさえ 難しいと言っておられるんですから、日本についてはなおさらと思われますけど、合計 特殊出生率を2以上に保つ秘策があれば教えていただきたいと思います。 キアナン氏  先ほど英国の女性はまず母親が第1で労働者が2というふうに申し上げて、皆様に大 きな印象を与えてしまったようなんですけれども。先ほど河野教授の最初のご質問にお 答えするときに申し上げたように、伝統的な福祉国家の中ではそういった仕組みになっ ていて、そのまま続いているということを申し上げたかったんですけれども。  私の論文に詳しく説明してありますが、まず母親になってからということを強調した かったのであって、一旦子どもを生むとその子どもを中心に自分の生活を全部調整す る、つまりしばらく仕事を休むとかパートタイムに切り換えるとか、そういうふうに子 ども中心なるんですが、ただ母親になる前ですね。子どもが生まれる前は英国は日本と まったく同じようにキャリアを第1に考えて、母親になることを逆に伸ばすという、そ ういう傾向が見られます。  ただ面白いことにエリートといいましょうか、高学歴層、そしてこの高学歴層という のはますます伸びている層なんですけれども、2つのパターンが見られまして、まった く子どもを持たないグループと、それから3〜4人も生むグループというのがあるんで す。そしてその3〜4人生むグループというのは、高学歴・高所得ですから民間の託児 所とかに子どもをあずける余裕が十分にあるグループなんですね。それで中間の中所得 層になっては、先ほど私が申し上げたようなパターンに入ると思います。 シェネ氏  ありがとうございます。私は岡崎先生以上の知恵があるはずがありませんので、日本 のための施策などは考えられないんですけれども。ただ何か申し上げられることがある とすれば、政治的な意識というものがあっても、実際に実行をする用意、あるいはその 意思というものは違うものであって、みんなが問題は意識しているけれども、果たして その問題を解決するための政策を採る用意、あるいはその意思というものがあるのかと いうことが問題になると思います。  実際に実行するとすれば、他の予算を切らなければならないとか、あるいはそれに反 対するようないろいろな利害とかいろいろな利益に対して対抗しなければならない。つ まり戦わなければ出生率を上げるような、そういう政策は採れないものであります。  もし私が何か提案があるとすれば、1つの可能性として日本のは年々下がっているわ けで、今年が1.4か1.4以下だと考えていますけれども、これは絶望的なものではないと 思うんです。例えばキアナン先生がおっしゃったように、女性は母親になるまではキャ リア第一であって、母親になってからは母親ということを優先させるということを考慮 しますと、日本の女性というのは世界で最も学力が高い層、女性たちの中では世界で最 も学力が高いグループに属するわけで、男女の進学率というものもほとんど等しいとこ ろにきていますので、それだけ進学率も学力も高ければキャリアに対する期待も高いは ずですから、そうすると本人たちが母親になるということのための特別な調整とかそう いうことができるように、しやすいように労働市場のほうで、あるいは民間企業のほう でそれに対応する用意がなければいけないと思います。  例えば、日本の制度がどうなっているかわかりませんけれども、第1子から産休とか 育児休暇というものが十分に取れるようにするとか、それから第2子以降も本格的に育 児休暇が取れるようにするとか。それも一定期間、以前にもらっていた賃金の4分の3 ぐらいがもらえるようにするとか。例えばスウェーデンの家族政策などを見ますと、確 か第1子から75〜80%の給料をもらいながら15カ月ぐらいの休暇が取れるというふうに なっていますので、そうすると私がいつも言っている機会費用、つまり自分が仕事を離 れて家庭に入ることによって失われた機会というものを考えると、マイナスの費用とい うものがすべての働く女性の負担になるわけですね。そうすると、本人が仕事を休むこ とによって負担しなければならない失われた収入という機会費用というものが削減され て、そして労働市場の中で自分のキャリアをまた追求することができるといった、そう いう方策が考えられなければいけないと思います。  第2は年金に関してなんですけれども。例えば女性の場合には素晴らしいキャリアを 持って、そして年金制度にずっとお金を支払っていて、自分が最大の年金を給付される というふうに選択するか、あるいはその逆のチョイスとして、子どもを3人育てるけれ ども自分が年金を取る段になると、自分はお金を全然入れてなかったら何ももらえな い、あるいは微々たるものしか給付されないというのはフェアじゃないと思います。  その3人の子どもというのは将来の納税者、将来の労働者、社会的な将来の構成員にな るわけですから、それに対して何らかの報酬というものが得られるようにするべきでは ないかと思います。 宮澤会長  ありがとうございました。だいぶ時間を超過してしまいましたが、ぜひ聞いておきた いということはございましょうか。まだおそらく質問がたくさんあると思いますけれど も。時間がこれでまいってしまいました。大変貴重なお話をどうもありがとうございま した。  それではこれで会を終了させていただきたいと思います。事務局のほうで何かご連絡 事項、ございましょうか。事務局からは特にございませんようです。どうも今日はあり がとうございました。 問い合わせ先  厚生省大臣官房政策課  担当 山内(内2250)、斎藤(内2931)  電話(代)03−3503−1711    (直)03−3595−2159