97/10/21 第75回人口問題審議会総会議事録 第75回人口問題審議会総会議事録 平成9年10月21日(火) 15時00分〜17時15分 共用第9会議室 宮澤会長 本日は、ご多用のところをご出席いただきましてありがとうございま     す。ただ今から、第75回人口問題審議会総会を開催いたしたいと思いま     す。     まず出席状況でございますが、ご欠席は、大石、大淵、岡沢、河野洋     太郎、小林、坂元、清家、袖井、坪井、水越各委員、並びに岡崎、木村     陽子、河野稠実専門委員、ご都合によりご欠席でございます。     では、これから本日の議題に入らせていただきます。本日の予定とい     たしましては、初めに、二つの道民・県民会議、9月27日に石川県金沢     市で、もう一つは10月2日に北海道札幌市で、また10月13日に広島県広     島市、これで行われました少子社会を考える県民・道民会議におきまし     てコーディネーターとして参加していただきました岩渕委員と宮武委員     から、それぞれまずご報告をいただきます。     続いて、起草委員においてとりまとめました少子化に関する基本的考     え方につきまして、この起草委員案についてご議論を進めていただきた     いと思います。      以上の順序で進めたいと思います。     初めに、石川県金沢市で開かれました少子社会を考える石川県民会議     につきまして、岩渕委員よりご報告をお願いいたします。 岩渕委員 9月27日、土曜日で雨でしたが、なんと 800人が参加されまして、一     連のシリーズの中で最も盛り上がりをみせた会議だったと思います。       参加したのは福祉関係者、自治体関係者が多かったのですが、富山、     福井両県からも参加者がございまして、石川県知事が「金沢から全国に     発信してほしい」というふうな非常に熱の入ったあいさつをされました。      そのあと、基調講演は、地元金沢出身の高橋部長が行いまして、「少     子化の現状と課題」と題して、男女関係の構造改革というようなかなり     強い調子の内容も含まれていたように思います。     パネルディスカッションでは木村治美委員が、女性の多くが人生の目     標を見出せずにあせりを感じているというような社会的状況、及び、女     性の多くが結婚を望んでいるのに実現しない原因として、男性の意識の     遅れ、もう一つ、子育ては大変だという風潮などを挙げられまして、子     育ては楽しい、といえる社会にしたいということで議論をリードなさい     ました。     地元の方では、実に7人の子どもをもたれた能面作家の方、これは男     の方ですが、同世代の人には、今どき何を考えているのかというふうに     大変に冷たい目でみられることが多いのですが、子育てを楽しんでいて、     子どもが育っていく中で、将来に向けた仕事があるかどうか、それによ     って日本の将来が決まっていくような、そういったことを楽しみにみて     いるというご指摘がありました。     それから、共働きの養護学校の女の先生は、2人目の育児休業明けの     職場復帰が想像以上に大変だったということです。通常、なかなか2人     目というのはわれわれの考えの中に入ってこないのですが、実に大変だ     ったということでした。ただ、彼女の場合はご主人とお母さんの協力が     非常に力になったということで、これからは放課後児童クラブ(学童保     育)の充実とか、職場や隣近所のちょっとした支えというのが非常に助     かるので、子どもを取り巻く環境の改善が大変重要であるという指摘を     なさいました。      次に新婚の女性、これは民間企業に勤めていらっしゃるのですが、子     育てと仕事を両立させたいと思っているけれども、子どもが病気の場合     の休みとか、育児休業をとりにくいといったような話を聞くにつけ、大     変に不安になるというお話がありました。      最後に、石川県父母の会会長が、国全体として思い切って国家的、国     民的、社会的に出産、育児を支援する政策を実施しないと、国の衰退が     進んで取り返しがつかなくなる。今程度の政策ではとても有効な改善は     期待できない、という強い意見をおっしゃいました。      会場の方からもこれまたいろいろな意見が出まして、少子社会になる     ことは過去にある程度予想されていたはずではないか。過去に行政が検     討したことがあるのか、というような鋭いご質問がありました。私から、     昭和40年代に人口審が報告書を出しましたが、第二次ベビーブームの時     代で忘れ去られたこと、それから戦前の産めよ増やせよの反動で行政も     マスコミもタブー視していたことなど、苦しい言い訳をしておわび申し     あげました。     さらに会場から、子どもに対する課題に対して、国家プロジェクトと     して取り組んでもらいたいという要望がございまして、これまた一時期、     事務次官クラスの連絡会議がありましたが、その後、一向に進展してい     ないということを申しあげて、おわび申しあげました。 宮澤会長 どうもそれは大変ご苦労さまでございました。ありがとうございまし     た。      続きまして、北海道札幌市で開催されました「少子社会を考える道民     会議」、広島県広島市で開催されました「少子社会を考える県民会議」     につきまして、宮武委員よりご報告をお願いいたします。 宮武委員 札幌も広島も、若いお母さんたちが来るために託児所を設けていまし     て、わりと多くの若い母親が参加をしてくださって、いい仕組みだろう     と思っております。      若干、主催者団体が動員をかけたこともあるかもしれませんが、福祉     系の専門学校を中心にしまして大変若い人たちが会場に目立ちまして、     若い母親とか若者たちといういわばこの問題の当事者が参加してくださ     ったことは、大変意義があったと思います。      札幌では阿藤委員に基調講演をしていただき、広島では岡崎専門委員     に基調講演をしていただきました。      両会場ともに目立ったことは、これは他の会場でもそうだと聞いてお     りますが、やはり女性のパネリストからは、自分の体験も踏まえて、保     育所をもっと使いやすいものにしてほしい、保育内容をもっと充実し、     しかも多様な形の保育をしてほしい、そして費用についてももっと手軽     に利用できる水準にしてほしい、こういう要望が多く出されました。ま     た大家族とか地域社会というのが姿を消すなかで、子育てしていくうえ     で若い女性たちが一つのネットワークをつくって、その中で相談し合っ     たり励まし合ったりする、そういう取り組みが大事であるということを、     実践している人も含めまして報告がありました。      第2点は、これもパネリストの中に自治体の首長さんが入っているわ     けですが、札幌も広島の場合も、わりあい小規模な1万人前後の首長さ     んたちは、今の少子化の現象とそれに伴う人口減少社会というのを、ま     さに自分のまちを通して体験をされているわけで、きわめて強い危機感     をもってこの問題を考えておられる。      第3点は、これもどこの会場にも通用するように思いますが、子ども     を社会の子どもと考えて、社会的に子どもをどうやって育てていけばい     いのか、そういう視点が大変色濃くどこの会場にも出ていたように思い     ます。      これは、会議に参加される方たちは意識の高い方であるし、あるいは     その種の仕事に携わっている方であるということはもちろんありますが、     それを割り引いても、全体的なトーンとして社会の子どもという形をと     ってものごとをとらえていこう、そういう傾向を強く感じました。      以上でございます。 宮澤会長 ありがとうございました。お二方のご報告につきまして、何か質問そ     の他ございませんでしょうか……。よろしゅうございましょうか。どう     もありがとうございました。      引き続きまして、起草委員においてとりまとめました「少子化に関す る基本的考え方について」、この報告書につきまして議論を進めたいと     思います。最初に、事務局から起草委員案を読み上げていただきまして、     次いで、併せて補足説明があればお願いするということで進めたいと思     います。それでは、お願いいたします。 事 務 局 朗読させていただきます。資料4と書いてこざいます。      少子化に関する基本的考え方について(起草委員案)      サブタイトル案、複数書いてございますが、省略させていただきます。      下の枠囲みの中も省略させていただきます。      1枚めくっていただきまして、目次につきましても省略させていただ      きます。      さらに1枚めくっていただきまして、1ページでございます。     I.はじめに      近年、わが国の合計特殊出生率は急速に低下し、平成2年(1990年)     にはいわゆる1.57ショックという言葉を生んだ。その後、さらに出生率     は低下し、人口を長期的に維持するために必要な水準を大幅に下回る状     況となっている。このことは、低い出生率のもとで子どもの数が減ると     いう少子化が進行するなかで、生産年齢人口が減少し、次いで総人口ま     でが減少し続ける社会になることを意味しており、人口減少社会の到来     は現実のものとなりつつある。     また、少子化の進行と平均寿命との伸長とが相まって急速に人口の高     齢化が進んでおり、わが国は未だ人類が経験したことのない少子高齢社     会、若年者と高齢者の人口構成割合が従来とは極端に異なった社会を迎     えようとしている。     少子化と高齢化の進行は、将来のわが国の社会・経済のあり方にさま     ざまな深刻な影響を与えると懸念されるが、少子化はわが国社会のあり     方に深くかかわっており、今後の社会への警鐘を鳴らしていると受けと     めるべきである。     このような認識に立って、将来のわが国のあり方としてどのような社     会を望ましいと、考え、それを後世に残すのかという展望を明らかにし、     そのためにいかに対応していくのかを国民全体の問題として明らかにす     る必要がある。このことは、今を生きるわれわれの世代の未来の世代に     対する責務でもある。     人口減少社会の姿としては、今までに比べ、相当厳しい状況が予測さ     れる。したがって、現在進行中の諸般の構造改革を初めとする改革を思     い切って断行していかなければならない。しかし、これらの構造改革を     断行するとしても、なお人口減少社会の姿は楽観できるものではない。     このため、固定的な男女の役割分業意識や雇用慣行など、社会全体の     あり方に深く関連する少子化の背景を幅広い視点に立って見極めながら、     これらの構造改革と併せて、さらに男女の自立と自己実現がはかられる     ような、男女共同参画社会を目指すなど、社会全体のあり方にかかわる     改革に取り組んでいく必要に迫られている。     当審議会は、こうした問題意識から、本年2月以降、各界有識者から     の意見聴取、全国各地で開催された「少子社会を考える市民・道府県民     会議」への参加等を行った。それらを踏まえつつ、広く国民全体で議論     していただくことを目的として、少子化と人口減少社会への対応に関す     る基本的考え方をとりまとめたものを、ここに報告する。     II.少子化の現状と将来の見通し      近年、わが国の出生率は急激に低下し、昭和40年代 (1970年前後) に     はほぼ 2.1程度で安定していた合計特殊出生率は、平成七年 (1995年)     には、現在の人口を将来も維持するのに必要な水準 (人口置換水準) で     ある2.08を大きく下回る1.42となっている。     こうした出生率の低下により、昭和40年代後半 (1970年代前半) には      200万人を超えていた出生数は、平成七年 (1995年) には約 120万人と、     6割程度の水準まで減少している。持続的な出生数の減少は、昭和50年     代後半 (1980年代前半) から、将来を担う15歳未満の子どもの数の減少     をもたらした。当時、2700万人を超え人口の24%を占めていた15歳未満     の子ども数は、平成七年 (1995年) には約2000万人と、人口の16%を占     めるにすぎない状況になっている。     同時に、わが国では諸外国に類をみない速度で高齢化も進行しており、     近年、人口構成は大きく変化してきた。     注が書いてございます。合計特殊出生率につきまして、15歳から49歳     までの女子の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が仮にその年     次の年齢別出生率で一生のあいだに子どもを生むとした場合の平均子ど     も数、したがって、一般に結婚年齢が上昇し、第一子出産年齢が上昇し     続けている場合には大きく低下。やがて結婚年齢が安定し、第一子出産     年齢も安定した場合には、ある程度回復、といった性格があることに留     意する必要がある。合計出生率ともいう。      平成9年(1997年)1月に発表された「日本の将来推計人口(国立社     会保障・人口問題研究所)」の中位推計によれば、出生率は現在の水準     に比べ、ある程度回復するものの、人口置換水準まで向上することは見     込まれず、このような低い出生率水準のもとで子ども数が減るという少     子化が進行するなかで、生産年齢人口が減少し、総人口が持続的に減少     していくことが予測されている。      具体的には、わが国の生産年齢人口は、1995年を頂点に既に減少して     おり、引き続き総人口も2007年を頂点に減少に転じ、その後も減少し続     ける。そして2050年には総人口は約1億人と、現在の約1億2600万人に     対し2割程度の減となり、一方、65歳以上人口割合は、平均寿命の伸長     と相まって3割を超えると見込まれている。      生産年齢人口に関しての注が書いてございます。ここでいう生産年齢     人口は、従来の慣行にしたがって15歳から64歳までを人口としてとらえ     ている。ただしこのとらえ方については、わが国社会の実態に合わない     ものとして、20歳から64歳までを人口としてとらえることが適当である、     との意見がある。     なお、生産年齢人口をこのようにとらえた場合の頂点は1998年と見込     まれているが、いずれにせよ、総人口の減少が始まる前に減少に転ずる。     また、今後、出生率が現在の水準に比べ、相当程度向上するとの高位     推計のもとでも、少子化の進行は避けられない見込みとなっている。出     生率が現在の水準でさえも維持することができないという低位推計の場     合には、2050年の総人口は9200万人と1億人を割るまでに減少し、現在     の人口に比べ、3割近い減となると見込まれている。      当審議会においては、こうした将来の見通し−すなわち、少子化の進     行は避けられないこと−を議論の前提として、少子化の影響、少子化の     要因とその背景、少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方等に     ついて考え方を整理した。     III.少子化の影響      仮に、現行の諸制度を改革せず、現在までの傾向が続き、少子化が進     行した場合、その影響の主なものとして、以下のような点が予測され、     あるいは指摘されている。      1.経済面の影響     1)労働力人口の減少と経済成長への影響      少子化の進行は、とりわけ生産年齢人口の減少をもたらし、労働力人     口の減少につながる。      平成9年 (1997年) 6月に労働省が行った将来の労働力人口の推計に     よれば、現在約6700万人の労働力人口は、2005年以降減少に転じ、2025     年には約6300万人まで減少するとみこけまれている。また、現在約13%     である労働力人口全体に占める60歳以上の労働者の割合は、高齢者雇用     を促進する現行諸施策による効果を見込んだうえで、2025年には約21%     に達し、労働力人口の年齢構成も大きく変化する。      この労働力人口の年齢構成の変化は、高齢者の場合には、個人差はあ     るものの、短時間勤務を希望する割合が高いことを勘案すれば、実労働     時間数を考慮した場合における労働力の供給の一層の減少をもたらすこ     とが懸念される。こうした状況のもとで、たとえば介護や看護等、高齢     化に伴い、今後ますます需要が増大する分野における労働力の確保への     影響も懸念される。     労働力の制約は、一般に貯蓄を取り崩すと考えられる退職者の割合の     増加に伴う貯蓄率の低下と相まって投資を抑制し、労働生産性の上昇を     抑制する要因になる。     労働力供給の減少と労働生産性の伸び悩みが現実のものとなれば、今     後、経済成長率は傾向的に低下する可能性がある。    2)国民の生活水準への影響     1)に述べたような労働力供給の減少と労働生産性の伸び悩みによる経     済成長の鈍化と、高齢化の進展にともない避けることができないと見込     まれる社会保障費の負担の増大は、国民の生活水準に大きな影響を及ぼ     す。    (1)高齢化の進展に伴う現役世代の負担の増大      少子化の進行は、平均寿命の伸長と相まって、人口に占める高齢者の     割合を高め、少子・高齢社会をもたらすことになる。この結果、年金、     医療、福祉等の社会保障の分野において現役世代の負担が増大し、世代     間の所得移転を拡大させる大きな要因となる。     厚生省が平成9年 (1997年) 9月に行った社会保障にかかる給付と負     担の将来推計によれば、65兆円 (1995年度) の社会保障給付費が、2025     年度には名目価格で 216兆円〜 274兆円となる見通しであり、国民所得     に占める社会保障給付にかかる負担の割合は、18.5%から29.5%〜35.5     %まで上昇することが予測される。     仮に、社会保障給付以外の支出にかかる公費負担の対国民所得比が、     現在の水準 (約20%) のまま推移したとしても、現行制度のまま推移し     た場合の将来の国民所得に占める公的負担 (租税負担及び社会保障負担)     の割合、すなわちいわゆる国民負担率は、約50%〜56%と50%を超える     水準に至る。また、平成7年度対国民所得比で 8.8%の国及び地方政府     の赤字 (累積額で 400兆円、対国内総生産(GDP)比90%) は、将来     の公的負担の増加を意味しており、これを含めたいわゆる潜在的な国民     負担率はさらに高まる。   (2)現役世代の手取り所得の低迷     現在、課題となっている諸般の構造改革に取り組まず、現状のまま推     移した場合には、人口1人当たり所得の伸びの低下といわゆる国民負担     率の上昇によって、現役世代の税・社会保険料を差し引いた手取り所得     は減少に転じるという厳しく予測もある。      現役世代にとって、働くことが生活水準の向上に結びびつかないよう     な社会では、生産・消費の両面で、経済・社会の活力が阻害される危険     性が大きいという深刻な状況になる。     2.社会面の影響     1)家族の変容      単身者や子どものいない世帯が増加し、少子化が進行する中で、社会     の基礎的単位である家族の形態も大きく変化することともに、多様化す     る。とりわけ単身者の増加は、家族をそもそも形成しない者の増加を意     味しており、「家族」という概念そのものの意味を根本から変えていく     可能性さえある。また、単身高齢者の増加は、介護その他の社会的扶養     の必要性を高める。子どものいない世帯の増加は、家系の断絶、無縁墓     地の増加などを招き、先祖に対する意識も薄れていく。     2)子どもの健全な成長に対する懸念      子ども数の減少による子ども同士、特に異年齢の子ども同士の交流の     機会の減少、過保護化などにより、子どもの社会性が育まれにくくなる     など、子ども自身のすこやかな成長への影響が懸念される。     3)地域社会の変容      少子化の進行による人口の自然減により、現在においても人口減少が     始まっている地域は少なくなく、この傾向はさらに広がりをみせ、人口     の減少は特定地域の現象ではなく、全国的に進行すると見込まれる。過     疎化も、その中でさらに進行することとなろう。その結果、2025年には、     ほとんどの都道府県で65歳以上人口割合が3割前後となるなど、これま     で急速に過疎化・高齢化が進んできた農山漁村のみならず、広い地域で     過疎化・高齢化が進行すると予想される。       このため、現行の地方行政の体制のままでは、たとえば社会保障の制     度運営にも支障をきたすなど、市町村によっては住民に対する基礎的な     サービスの提供が困難になると懸念される。     また今後、大都市部においても急速な高齢化が見込まれることから、     それに伴う諸問題が顕在化することが予想される。     このように、少子化の影響としては、家族の変容などに関しては意見     が分かれるものの、上記のようなおおむねマイナス面の影響と考える指     摘が多い。      ただし、たとえば生活面では、環境負荷の低減、大都市部等での住宅     ・土地問題や交通混雑等、過密に伴う諸問題の改善など、ゆとりある生     活環境の形成、1人当たりの社会資本の量の増加、教育面では、密度の     濃い教育の実現や受験競争の緩和など、プラス面の影響を指摘する意見     があることに留意する必要がある。      こうした指摘に対しては、あくまで短期的な影響であって、経済成長     の低下は生活水準の低下をもたらす以上、やはり生活にゆとりはなくな     るという意見、人口減少に伴い、教育サービスの供給も制約され、密度     の濃い教育にはつながらないとする意見がある。      いずれにせよ、少子化が社会全体のさまざまな局面においてはかりし     れない大きな影響を与えることは間違いない。     IV. 少子化の要因とその背景      少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方を検討する前提とし     て、少子化の要因とその背景を分析しておく必要がある。     1.少子化の要因        1)未婚率の上昇(晩婚化の進行と生涯未婚率の上昇)      少子化をもたらしている近年の出生率低下の主な要因としては、晩婚     化の進行が挙げられる。なお、生涯未婚率の上昇が近年の出生率低下に     与えている影響はそれほど大きくないが、将来の出生率低下の大きな要     因になり得る。     (1)未婚率上昇の現状      年齢別に未婚率の推移をみると、男女とも上昇傾向にあり、晩婚化が     進行している。特に男子の25歳〜34歳、女子の20歳〜29歳で著しい。こ     れに伴い、平均初婚年齢は男女ともに上昇している。また、生涯未婚率      (50歳のときの未婚率) も上昇傾向にある。      わが国の婚外出生割合は1%程度で、5割前後のスウェーデン、デン     マーク、3割強のイギリス、フランスなどの諸外国と比べきわめて低く、     わが国では出産が結婚と結びついている。また、女性の妊よう性は35歳     前後を境として低下するとともに、出産できる年齢には一定の限界があ     る。こうしたことを考慮すると、晩婚化の進行が近年の出生率の低下を     招いている主たる要因になっているとともに、生涯未婚率の上昇傾向が     続けば、将来の出生率低下の大きな要因になり得る。     (2)未婚率上昇の要因      女性の晩婚化の原因や子どもに対する価値観に関する世論調査の結果     などから、未婚率上昇の要因の主なものとして、以下のようなことが指     摘されている。      1. 育児に対する負担感、家事・育児と仕事との両立に対する負担感に     よるもの。    ア) 雇用安定を支えてきた終身雇用制のもとで、長時間労働、遠隔地へ     の転勤等を当然とし、家庭よりも仕事を優先させることを求める固定的     な雇用慣行と企業風土が維持される一方で、女性の社会進出が進み、働     く女性が自らが望む仕事を続けるためには、独身のほうが都合がよいと     考えること。     イ) 男性は仕事のみを行っていればよく、家事・育児は女性が行うのが     当然という根強い固定的な男女の役割分業意識や、国際的にみて夫の家     事・育児への参加時間がきわそて少ないという男性の家事・育児への参     画が進まない実態が、結婚生活に対する女性の負担感を大きくしている     こと。      また、今後増大が見込まれている介護負担が、家庭においては現在、     ほとんど女性によって担われていることが、女性の将来的な負担感を高     めている側面があること。      2. 主として個人の結婚観、価値観の変化によるもの     ア) 女性の家庭外就労が進み、女性の経済力が向上した結果、女性が生     活のために結婚する必要を従来ほど感じなくなってきたこと。また、女     性が仕事に生きがいを感じるようになってきたこと。     イ) 性の自由化、家事サービスの外部化により、男性の側にも結婚を必     要とする意識が薄れてきたこと。     ウ) 年金制度の充実、老親扶養に対する意識の変化等により、子どもを     家の跡継ぎであるとか、老後生活の支えとして考える意識が薄れ、老後     生活を支える存在として子どもをもつ意義が低下し、その前提として結     婚する必要性が低くなってきたこと。     エ) 結婚に対する世間のこだわりが少なくなり、特に都心を中心に、結     婚をしない、結婚を急がない生き方を選択しやすくなったこと。     また、社会の結婚圧力が弱まり、見合いなども減少している一方で、     たとえば「異性の友だちがいない」若者が4割も存在するなど、異性と     のつき合いが苦手な若者が多いこと。     オ) さまざまな生活面のサービス普及による利便性の向上や若者文化の     隆盛が、独身生活の魅力を高め、独身の自由を求めるようになったこと。      3. 親から自立して結婚生活を営むことへのためらいによるもの      結婚して一人前とか、結婚するのが当たり前といったような社会的な     圧力が弱まるとともに、結婚が家や親のためでもない個人中心的なもの     へ変化する中で、結婚の自由度が高まっている。一方、自らの結婚に関     しては、未婚の男女いずれもその約9割が「いずれ結婚するつもり」で     あるとし、また国際的に比較して男女ともに「女性の結婚」に対して肯     定的にとらえる傾向が高いにもかかわらず、未婚率が上昇している。      独身の理由をみると、「適当な相手とめぐり合わない」が男女とも最     も多い。「適当な相手」についてはさまざまな要素があると思われるが、     現在の若者の置かれた以下のような生活環境が、未婚率上昇の要因とし     て考えられるのではないか。      ア)資産や経済力をもった親と同居し続けることによって、自ら収入     を得ていても、親から経済的援助を受け、あるいは生活費の支出を免れ     ていたり、食事や洗濯など、親に身の周りの世話をしてもらっていたり     しつつ、個室をもち、親からの干渉は受けない。このような自由かつ快     適な生活環境が、一部に親から自立して結婚生活を営むことをためらわ     せる風潮となっているのではないか。      イ)女性が重視する結婚相手の条件として、人柄に次いで経済力が挙     げられている。ア)のような状況のもとで、特に専業主婦を望む女性に     とって、結婚しても生活水準を低下させたくないためには、男性が相当     高収入である必要があり、結婚の条件を高める要因の一つとなっている     のではないか。     4.その他      ア)女性主導の確実な避妊法が普及していないため、妊娠についての     自己決定権が十分保障されていない。このことが家族計画を困難にし、     女性の生涯にわたる健康とともに、主体的な生活設計に対する不安とな     り、結婚への敷居を高くしているのではないか。      イ)過疎農山村部において家業を継ぐ男性にとって、結婚を望んでも     配偶者を得にくい状況があること。     2)夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数との開き     (1)夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数の現状      夫婦の理想子ども数は、意識調査では平均 2.6人であるのに対し、平     均出生児数は 2.2人なっており、格差が存在している。      なおこの格差は、夫婦の平均出生児数及び平均理想子ども数ともに、     昭和50年代前半以降、ほぼ同水準で推移していることから、厳密には近     年の出生率の低下を招いている直接的な要因とはいえないが、人口減少     社会への対応のあり方を検討する際に考慮すべき事項として、分析を加     えることとした。     (2)夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数との開きの要因      理想の子ども数をもとうとしない理由に関する意識調査の結果などか     ら、平均出生児数と平均理想子ども数との開きの要因の主なものとして、     以下のようなことが指摘されている。     1.経済的負担感によるもの      ア) 子育てに関する直接的費用が増加していること。とりわけ子ども     を家の跡継ぎであるとか老後の支えとする考え方が薄れ、子どもは生き     がいであるとか、家庭を明るく楽しくしてくれる存在であるといった意     識が強くなっており、教育を初めとして子どもに手をかけ、お金をかけ     ること自体が意味をもつようになっていることが、一層子育ての直接的     費用の増加を招いていること。      イ) 子どもによりよい生活をさせたいと願う親にとって、教育にお金     をかけたり不動産を相続させるためには、子ども数が少ないほうがよい     と考えること。     2.育児に対する負担感、家事・育児と仕事との両立に対する負担感に     よるもの      ア) さきに述べたような根強い固定的な男女の役割分業意識や、その     実態、仕事優先を求める固定的な雇用慣行と企業風土が男性の育児参加     を妨げ、女性のみに育児の負担がかかっていること。また、男性も自ら     育児負担をしてまで、さらに子どもをもとうとはしないこと。      イ)核家族化・都市化の進展により、育児に親族や近隣の支援も受け     にくくなっていることが、ア)のような状況とも相まって、母親の孤独     感や閉塞感を増大させ、特に手のかかる乳幼児期を中心に、育児の心理     的、肉体的負担を過重なものとしていること。      また学童期にあっても、地域は従来のように安心して子どもが遊べる     場でなくなりつつあり、地域の人間関係が希薄になっている中で、親の     負担や不安感を大きくさせていること。      ウ)都市化・被用者化の進展により、長時間通勤を要し、就業時間に     裁量がきかないなどの勤務形態が、育児負担を重くしていること。      エ) ウ)のような勤務形態のもとで、延長保育、夜間保育、病児保     育サービスや学童保育などが十分でないことが、正規職員としての就業     を困難にさせ、あるいは二重保育による諸々の負担を重くさせているこ     と。      オ)乳児保育の受け入れ枠が十分でないため、出産しても乳児保育サ     ービスを受けて就業継続できるかどうか不安が大きいことが、出産をた     めらわせていること。      カ)上記のような現状のもとで、女性の平均賃金上昇と相まって、子     育てを選択することによって継続就業を断念した結果、失うこととなる     利益(子育てにかかる機会費用)が上昇していることが、出産・育児を     ためらわせていること。     3.その他      ア)子どもをもちたい意思があるにもかかわらず、不妊が原因で子ど     もができない場合があること。      イ)同棲や婚外子に対する社会的許容度が低いことが、婚外出産を少     なくさせているのではないか。      ウ)高齢出産に対する不安感があること。      エ)過激な競争によるストレスの増大や性の自由化に伴い、リビドー     (性的衝動の基になるエネルギー)が低下しているのではないか。      なお、以上に掲げた少子化の要因を考えるに際しては、女性の就労意     欲は高まっているものの、現状の男女の役割分業の中で、妻は家庭にあ     って家計をとり仕切ることができるという日本の習慣のもとで、依然、     専業主婦を希望する者も少なくないこと、また就労する場合にも、家事     ・育児との両立をはかろうとする者は増加してきているものの、厳しい     現行の雇用環境のもとでは、継続就業型の就業を目指す女性は多数派と     はいえない、ということにも留意する必要がある。     2.少子化の要因の背景      これまでにみた少子化の要因の分析を踏まえると、その背景には、以     下に述べるように、経済社会の成長の過程でどの国においてもみられる     ような個人の多様な生き方のあらわれという側面がある一方、家庭や企     業活動における固定的な男女の役割分業のもとで、物質的な生産と消費     の拡大を志向し、それを享受してきたわが国社会全体の状況が深く関連     していると考えられる。     (1)社会の成熟化に伴う個人の多様な生き方のあらわれ      経済が成長し社会が成熟する過程で個人が多様な生き方を目指すのは、     先進諸国にほぼ共通してみられ、未婚率上昇はそのあらわれともいえる。     (2)女性の社会進出とそれを阻む固定的な男女の役割分業意識と雇用慣行、     それを支える企業風土の存在      出生率の低下は、(1)に述べたような状況のもとで、個人の多様な生き     方が是とされ、女性の社会進出が進行してきた過程において、結婚や育     児がその大きな障害となっていることによりもたらされている側面が強     い。      しかし、それは女性の社会進出自体を問題とするのではなく、女性の     多様な生き方が実現されるべきであるにもかかわらず、男性は仕事のみ     を行い、家事・育児は女性が担うのが当然という固定的な男女の役割分     業意識やその実態、家庭よりも仕事優先を求める固定的な雇用慣行や企     業風土などが依然として根強いために、結婚や育児が女性を中心に個人     の自由を束縛し、多様な生き方を阻んでおり、このことが結婚や育児に     対する負担感や不安感につながっていることに問題があると整理すべき     である。      またこのことは、これまでの終身雇用制度を中心とする多様な就業形     態を認めない固定的な雇用慣行のあり方そのものの見直しを問いかけて     いると考えられる。     (3)快適な生活環境のもとでの自立に対するためらい      また、上記に指摘したように、親との同居によって快適な生活を享受     しているような場合、いずれは結婚し、子どもをもちたい気持ちはあっ     ても、なかなかそういう気持ちになれず、成人しても親離れできない状     況(子離れできない親側の状況も考えられる)がある。      このような状況に象徴されるように、少子化は、社会が豊かになる過     程において、快適な生活への欲求あるいは新たに独立した家庭生活を営     むことに対する漠然とした不安感などから、経済的にも精神的にも自立     を選択しようとしないという生き方や、それを許容する風潮がもたらし     ている一面があるともみることができるのではないか。また、傷つくこ     とをおそれ、他人と深くかかわることを避けようとする若者が増えてい     ることにも起因しているのではないか、という見方もある。      こうした生き方や風潮に対しては、成人すればだれもが社会人として     親から独立し、自らの責任により子どもを育て、家庭を営むという、従     来、当然と受けとめられてきた生き方や社会のあり方をゆるがすものと     して、懸念を示す向きもある。      一方、こうした現象は、結婚に対する自由度が高まる中で、結婚を急     がず、じっくりとよりよい結婚相手を選ぶことが可能になったことのあ     らわれであり、否定的にのみとられられるべきではない、との見方もあ     る。     (4)現在、そして将来の社会に対する不安感      このほか、近年の出生率の低下は、日本全体を覆う閉塞感、年金や介     護など、老後に対する不安感、あるいはいじめ問題や地域の治安の悪化     などをもたらしているストレス社会に対する漠然とした不安感を反映し     ているのではないか、という指摘がある。     V.少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方      予想される人口減少社会の姿をどのように考えるかについては、多様     な意見があり、また、計量的な予測については一定の仮定を置いて行っ     たものであることに留意する必要はある。      しかし、さきに述べたように、少子化が社会全体のさまざまな局面に     おいてはかりしれない影響を及ぼすことは間違いなく、2025年時点にお     ける社会の見通しは、現在、取り組んでいる各般の構造改革を相当思い     切って実施したとしても、予測としては楽観視できるものではない。ま     してや、その後、さらに少子化と高齢化が進行すると見込まれている21     世紀半ばには、相当深刻な状況となることが予想される。     もとより、人口が持続的に減少し続けるとともに、高齢化が進展する     というこれまで経験したことのない社会を迎えることが確実に見込まれ     る以上、人口減少社会に対する展望を示していくことは、将来世代に対     する責任でもあり、少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方に     ついて、少子化の影響への対応、少子化の要因への対応の両面からの検     討を急がなければならない。      1. 少子化の影響への対応      人口減少社会への対応を議論するにあたっては、まず、少子化のマイ     ナス面の影響を最小限にするため、各般の対応を確実に実行しなければ     ならない。      以下は、少子化の影響への対応という観点から考えられる主な対策の     柱とその基本的な考え方を示したものであるが、これらについては、必     ずしも少子化の影響への対応という観点のみから論じるのは適当でない     と考えられる。     したがって、現在進行中の各般の構造改革を推進することを始めとし     て、今後、各専門の関係審議会等において、少子化の影響への対応とい     う視点を踏まえながら、さらに検討が進められ、その検討結果に基づく     適切な対応がなされるべきである、と考える。     1)経済面の影響への対応     (1)就労意欲をもつあらゆる者が就業できる雇用環境の整備      人口減少社会が活力あるものとなるよう、労働人口減少の緩和が必要     である。労働力供給の減少は、女性や高齢者などの労働力に対する需要     を喚起する。このため、これまで就労意欲があっても、その意欲と能力     が必ずしも生かされていたとはいいがたい高齢者や障害者が生き生きと     就業できるとともに、女性が円滑に就業できる環境を整備することが重     要である。また、就労意欲をもつあらゆる者が、個人の選択に応じた多     様な働き方で就業できるような雇用環境を整備することが今後の方向で     あり、年齢や性別による垣根を取り払う新たな雇用環境をつくり出すこ     とが求められる。女性の就業環境の整備に際しては、女性の就業が一層     の出生率の低下につながることのないよう、仕事と育児の両立を可能と     する支援策の充実をはかることが特に重要である。      人口の高齢化を考えると、とりわけ高齢者雇用のあり方はきわめて重     要な課題である。高齢者の就労意欲は高まってきているのにもかかわら     ず、終身雇用制度・年功序列型賃金体系と一体となった採用時の年齢制     限や定年制が、結果として高齢者の就業を阻んできており、多様な就業     形態を認めないこのような固定的な雇用慣行のあり方を見直すべき時期     にきている。     このような雇用慣行を見直す中で、今後は、健康であり、本人が希望     する限り、高齢者がその意欲と能力に応じて働き続け、自己実現と社会     貢献ができるような社会をつくっていくことが求められる。      さらに、こうした対応や能力開発、職業情報の提供などを通じて、労     働力人口の年齢構成の変化に伴い、今後拡大が懸念される労働力需給の     不適合の解消をはかり、効率性が発揮される社会としていく必要がある。     (2)企業の活力・競争力、個人の活力の維持      今後、わが国の経済活力を維持していくためには、労働生産性の一層     の向上が必要である。このため、上記(1)に述べた労働力人口減少の緩和     への対応を進めるとともに、技術革新、人材育成を進め、高付加価値型     の新規産業分野の創出をはかることが必要である。      また、国際的な大競争が本格化し、企業が国を選ぶ時代の中で、物流、     エネルギー、情報通信等の抜本的な規制緩和などによる高費用構造の是     正、企業の経営資源の最適活用をはかるための企業組織制度の見直し、     良質な雇用機会の創出、競争制限的な取引慣行の是正等を推進すること     により、国際的に魅力ある事業環境を創出することが重要である。      さらに、少子・高齢化の進展により、いわゆる国民負担率の上昇は避     けられないが、個人や企業の活力や意欲が損なわれることのないよう、     公的負担を国民経済全体の中で一定の範囲内にとどめることが必要であ     る。      また、将来の世代に不合理な財政負担を残さぬよう、財政収支の健全     化に取り組むとともに、硬直化した歳出構造を見直し、少子・高齢社会     にふさわしい財政構造を実現する必要がある。     (3)公平かつ安定的な社会保障制度の確立      少子・高齢化の進展に伴い、社会保障にかかる負担の増大は避けられ     ないが、介護に対する不安等、新たな課題に着実に対応しつつ、現役世     代と将来世代の給付と負担の公平がはかられるよう、年金制度、老人保     健制度を含む医療保険制度を中心に給付と負担の適正化をはかることが     必要である。特に公的年金制度については、人口構成の変化により、将     来世代の負担が過重にならない安定的なものとする視点が重要である。      将来に向けて、介護や年金についての国民の不安を解消することは、     次の世代を安心して産み育てられるようにするという観点からも重要な     ことである。      また、健康づくりの推進、予防医学の重視やリハビリテーションの充     実、食生活などの生活習慣の改善に取り組むことによって、できる限り     疾病や要介護状態になるのを避け、医療費や介護費用負担そのものの軽     減をはかることも必要である。     2)社会面の影響への対応     (1)地方行政体制の整備、地域の活性化      住民に対する基礎的なサービスの提供水準を維持する観点から、たと     えば市町村合併の推進や広域行政の推進をはかるなど、円滑に住民サー     ビスを提供するという観点に立って、地方行政体制の整備を行っていく     必要がある。      また、基本的にほとんどの地域で人口が減少する中で、いかに地域を     活性化するかという観点からも、住民の多様な要請にこたえ、質の高い     自律的な地域社会を形成していくため、地域連携の推進等、既存の行政     単位の枠を超えた広域的な対応が求められる。     (2)子どもの独創性と社会性を養う教育と健全育成      学校教育においては、知識の一方的な教え込みに偏りがちな教育を改     め、子どもたちが自ら学び、自ら考える力を身につけることができるよ     うな教育、体験的な学習や個性を尊重する教育の充実など、教育内容・     方法などの改善をはかる必要がある。このような教育は、独創性のある     人材の育成にも資することが期待される。      また、家庭や地域社会の人びと、さまざまな関係機関や団体などが互     いに理解し、協力し合いながら、子どもの豊かな体験の場や機会を提供     するとともに、子ども同士の集団形成を支援し、子どもの社会性を養う     機能を社会的に支える仕組みづくりを進める必要がある。このことは、     地域の治安状態に対する親の不安の解消にもつながる。     2.少子化の要因への対応     1)少子化の要因への対応の是非      人口減少社会への対応に関しては、少子化の影響への対応にとどめる     べきであって、少子化の要因への対応はすべきでないとする以下のよう     な考え方がある。      (1)結婚する・しない、産む・産まないは個人が決めるべき問題である。      (2)地球規模では人口は増加していることを考えると、日本の少子化は     むしろ望ましい。      (3)結婚や出産という個人的な問題への対応の効果はあまり期待できな     い。      これらのうち、(2)及び(3)の考え方については、それぞれ以下のよう な反論がある。      ○地球規模では人口は増加していても、日本が人口の増加までを目指     すのではなく、著しい人口減少社会になるのを避けようとすることは、     現在の主権国家を前提とする以上、批判されるべきことではない。      ○個人が望む結婚や出産を妨げる要因への対応をはかり、それを取り     除くことができれば、その結果としての出生率の回復への効果は一定程     度期待できるはずである。それは、たとえば北欧諸国など、男女の共同     参画の進んだ諸外国における最近の出生率は、1980年代に比べ高い水準     となっていることからもうかがえる。      一方、(1)の考え方については、基本的には「個人が子どもをもつこと     を望んでいるのにもかわらず、もつことを妨げている要因を除去するこ     と」の必要性までを否定するものではないと考えられる。また、さきに     述べた通り、少子化の影響への対応を相当思い切ってはかるとしてもな     お、21世紀半ばまでを視野に入れると、人口減少社会の姿は相当深刻な     状況となることが予想される。      したがって、個人が望む結婚や出産を妨げる要因を取り除くことがで     きれば、それは個人にとっては当然望ましいし、その結果、著しい人口     減少社会になることを避けることが期待されるという意味で、社会にと     っても望ましいとの観点から、少子化の影響への対応とともに、少子化     の要因への対応についてもはかっていくべきである、というのが、当審     議会の基本的な考え方である。      この場合、戦前・戦中の人口増加政策を意図するものでは毛頭なく、     妊娠、出産に関する個人の自己決定権を制約してはならないことはもと     より、男女を問わず、個人の生き方の多様性を損ねるような対応はとら     れるべきではない、ということが基本的な前提である。      以上のような考え方は、結果的には少子化の要因への対応はすべきで     ないとする(1)の考え方とそれほど大差はないものと考えられる。      併せて、少子化の要因への対応の在り方に関し、以下のような強い意     見がある。      ○子どもは、次代の社会の担い手となるという意味で社会的な存在で     あることを認識し、また、高齢者の扶養が公的年制度により社会化され、     介護については公的介護保険制度の導入により社会的な支援を深めよう     としている状況も踏まえなければ、子どもを育てることを私的な責任     (家族の責任)としてだけとらえるのではなく、子どもを扶養することは     社会的な責任である、との考え方をより深めるべきである。      この意見をどう考えるかは、家族観にもかかわる問題であり、また、     少子化の要因への対応において、わが国社会として今後「子どもの扶 養」に対してどれだけ公的に関与していくか、といった問題に深くかか わる重要な視点である。したがって今後、国民的な議論とともに、さら なる検討を進めていく必要がある。      また、少子化の要因への対応にかかわる政策を論ずるに際しては、下     記のような指摘があることに留意する必要がある。      (1)子どもをもつ意思のない者、子どもを産みたくても産めない者を心     理的に追い詰めるようなことがあってはならないこと。      (2)国民のあらゆる層によって論じられるべきであること。      (3)文化的社会的性別(ジェンダー)による偏りについての正確な認識     に立ち、そのような偏向が生じないようにすること。たとえば、女性は     当然家庭にいるべき存在、といった認識に立たないこと。      (4)優生学的見地に立って人口を論じてはならないこと。      なお、少子化の要因への対応を論ずるにあたっては、労働力人口の減     少等、少子化の影響への対応としての外国人の受け入れの是非について     の方針を、まず明確化すべきではないか、とする意見がある。      しかしがら、少子化の影響への対応としての外国人の受け入れを考慮     するとしても、出生率の低下を補完できるほどの急速かつ大規模な外国     人の受け入れは現実的ではないのみならず、わが国の一方的な事情によ     り、外国人の受け入れを所与の前提として政策を論じることは適当では     なく、その方針のいかんにかかわらず、少子化の要因への対応をはかっ     ていく必要がある、と考える。     2)少子化の要因への対応の在り方      少子化の要因への対応のあり方を論ずるにあたっては、繰り返しにな     るが、妊娠・出産に関する個人の自己決定権を制約してはならないこと     はもとより、男女を問わず、個人の生き方の多様性を損ねるような対応     はとられるべきではない。      したがって、少子化の要因への対応としては、以下に述べるように、     これまでのわが国社会全体のあり方を問い直す中で、すべての個人が自     ら結婚や出産を望んだ場合には、それが妨げられることのないよう、結     婚や出産の妨げとなっている社会の意識、慣行、制度を是正していくと     ともに、子育てを支援するための諸方策の総合的かつ効果的な推進をは     かることが重要である。     (1)ゆとりと潤いのある心豊かな社会の構築      ○少子化の要因への対応としては、まず、現状においてとりわけ女性     がその自由な意思で個人の生き方を選択することを妨げている固定的な     男女の役割分業意識やその実態、家庭よりも仕事を優先することを求め     る固定的な雇用慣行や企業風土のあり方を問い直し、これを是正するこ     とに取り組むべきである。そして、このことを通して個人(男女)が自     立し、自己実現と他者への貢献が両立するような男女共同参画社会の実     現を目指し、男女がともに育児に責任をもつとともに、その喜びも分か     ちあえるような新しい家族像、子育てを支えあえるような新しい地域社     会、仕事と家事・育児、さらには介護とを両立しつつ、その意欲や能力     が生かされるような新しい企業風土を形成し、次世代育成への社会的な     連帯をはかる、という形で、わが国社会の新たな枠組みの構築を目指す     べきである。      このようにして実現される社会は、仕事と育児の両立に配慮が払われ、     女性などの能力が最大限に生かされるような、人口減少社会に対応した     新たな効率性が発揮される社会である。また、出生率の回復への期待と     ともに、結婚や子育てに希望がもて、子育てのもつ本来的な楽しさや喜     びを夫婦ともに実感できる、ゆとりと潤いのある心ゆかたな社会である     といえよう。      ○固定的な男女の役割分業意識や雇用慣行を変えようとする場合、夫     は仕事・妻は家庭という生き方や仕事一筋の生き方の選択自体は個人の     自由であって、直接関与すべきではない。あるいは、家庭に入るか・仕     事をするかといった生き方の選択によって、租税負担や社会保険料負担     に不公平が生ずることのないよう、中立的な制度に改めるにとどめるべ     き、との意見がある。      一方において、これらの意識や慣行は社会の中で長いあいだに培われ、     相当根強いものがあると考えられ、制度の是正のみですみやかにその実     現をはかることは、現実的には困難であることも想像できる。      また、男女の役割分業や仕事一筋の生き方を選択することは個人の自     由であることはたしかだが、そういう生き方が習慣となって、それとは     違った生き方を選択しようとする者の妨げになっている以上、それはも     はや単に個人の生き方だけの問題として片づけるわけにはいかない。      したがって、これらの意識や慣行を支えている制度の是正をはかるだ     けではなくて、固定的な男女の役割分業の実態や雇用慣行、及びこれら     を支えている国民の意識や企業風土そのものを問い直し、企業、個人が     これまでの仕事を至上とする生き方を見直すという方向性を、当審議会     としてははっきり提示することも必要と考える。      ○今後、検討が必要な課題として、たとえば以下に掲げるような課題     が指摘されている。      枠の中、制度、慣行について今後検討すべき課題(例)が挙げられて     おりますが、省略させていただきます。     (2)子育てを支援するための諸施策の総合的かつ効果的な推進      ○また、ゆとりと潤いのある心豊かな新たな社会の構築への取り組み     と子育て支援の取り組みとは表裏一体の関係にあり、(1)に述べたような     取り組みとともに、子育て支援のための諸施策の総合的かつ効果的な推     進をはかることが重要である。その具体策としては、現在、以下のよう     な項目を重点施策(いわゆるエンゼルプラン)として施策が展開されて     いるところである。      1番から7番までエンゼルプランが挙げられておりますが、省略させ     ていただきます。      〇具体的な子育て施策の一つとして、意識調査などにおいては、子育     てに伴う経済的負担の大きさが理想の子ども数をもたない理由の一つと     なっており、児童手当の充実や租税負担の軽減など、子育て世代の経済     的負担軽減措置について、さらに具体的な対応を検討する必要があるの     ではないか、との意見がある。      出生率回復への期待という面では、子どもに手をかけ、お金をかける     こと自体が親にとって意味をもつようになっている現状を踏まえれば、     子育て世代の経済的負担軽減措置よりも、子育てに関するサービスのほ     うが効果的ではないかという意見がある。子どもをもつ世帯ともたない     世帯とのあいだの公平性という面では、被扶養の子に着目した経済的負     担軽減措置は一定の役割を果たしているという意見もある。税制につい     ては、課税最低限は既に諸外国に比べて高い水準にあることにも留意し     つつ、子育てに伴う経済的負担については、今後さらに検討すべきであ     る。      ○一方、子育てを選択することによって継続就業を断念した結果、失     うこととなる利益(子育てにかかる機会費用)が上昇していることを考     慮すると、企業が今後のわが国における社会的責任を果たすべく、勤務     時間制の弾力化、勤務形態の多様化、中途採用の促進等、柔軟な雇用環     境の改善に取り組む必要がある。また、公的な関与のもとで多様な保育     サービスを提供するなど、働く男女の仕事と育児の両立を支援するため     の諸施策や家庭における子育ての精神的・肉体的負担の軽減をはかるた     めの諸施策の効果的な推進につき、さらなる検討を急ぐべきである。      ○今後検討が必要な課題として、たとえば以下に掲げるような課題が     指摘されている。      なお、その際、雇用環境の改善に関しては、その結果、企業が仕事と     育児の両立を望む者の採用そのものを手控えることにつながらないよう     にする、という視点が重要である。      枠の中、子育て支援策として今後検討すべき課題の例が挙げられてお     ります。省略させていただきます。      ○なお、仕事と育児の両立を望むのは、一部の継続就業志向の女性に     限られるので、その支援方策を講じても、その効果は一部における限定     的なものとなるのではないか、との指摘がある。      しかし、各種の意識調査では、継続就業を望ましいと考える女性の割     合は着実に増加する傾向にあり、また、仮に出産や育児の際の休業制度     や保育制度が整っていれば、継続就業を望む女性の割合は相当増加する、     といった結果がみられる。      また、少子化の影響への対応として、労働力人口の減少という局面に     おいて、女性の就労の拡大が時代の要請となることを考え併せれば、仕     事と育児を両立させるための支援方策は着実に推進していかなければな     らない。      ○以上に述べたような観点を踏まえ、今後、さらに子育て支援に関す     る現行施策の効果の分析と検討を進め、それに基づく現行施策の適切な     見直しを行う必要がある。そして、仕事と育児の両立のための雇用環境     の整備、多様な保育サービスの充実を中心に、子育て支援施策の効果的     な推進をはかり、子どもを産み育てたいのに産みにくい、育てにくい社     会環境を改善していくことは、まさに緊急の課題である。      ○一方、仕事と育児の両立の困難さ、大変さが強調されるあまり、子     どもを育てることは大変なことである、という意識が浸透し、子育ての     もつ本来的な楽しみや喜びといったものが忘れさられるような風潮を懸     念する意見がある。また、これまでの仕事一筋の生き方の中で、父親は     子育ての楽しみや喜びを体験する貴重な機会を失っている、という指摘     もある。      したがって、男女ともに子育てのもつ楽しみや喜びということを再確     認することも必要であろう。      ○なお、子どもの健全な発達という観点から、乳幼児期においては母     親は育児に専念すべきであり、したがって少なくとも乳幼児期の子ども     をもつ女性の就労を支援することは好ましくない、とする意見もある。      しかし、父親はもとより、さまざまな保育サービス、地域社会サービ     スなどが一体となって母親とともに育児を支えることができれば、母親     のみに育児される場合より、さまざまな人たちの愛情の中ではぐくまれ、     むしろ子どもの健全な発達にとって望ましいともいえるし、また歴史的     にみて、たとえば大家族制のもとで農業が主流あった時代は母親も生産     労働に従事していたように、母親がひとりで育児に専念し、その負担が     重くなったのは、ここ最近のことである、との指摘もある。      こうしたことに鑑みれば、乳幼児期における女性の就労支援方策を講     ずることは否定されるべきものではないと考える。むろん、子どもの福     祉に最大限の配慮が払われ、これが確保されるべきは当然である。     (3)今後、さらに議論が深められるべき課題      ○子どもをもちたいのに、不妊が原因で子どもができない男女は、相     当数存在していると考えられる。人口授(受)精など、生命倫理にかか     わる面もあり、その点については慎重な議論が必要であり、また、子ど     もを産みたくても産めない者を心理的に追い詰めるようなことがないよ     う十分留意しつつ、不妊治療の研究の推進など、政策的な対応を検討し     ていくことが必要である。      ○頻繁な妊娠中絶による健康破壊や、女性主導の避妊法の普及してい     ないことなどの状況を踏まえ、女性が生涯にわたり主体的に健康を維持     できるような支援のあり方を検討する必要がある。      ○選択的夫婦別姓や同棲など、多様な形態の家族のあり方についての     社会的な寛容度を高めることが、婚姻率、ひいては出生率の回復につな     がる可能性についても議論を深める必要がある。      ○婚外子の問題については、わが国の民法が法律婚主義を採用してい     ることなどを踏まえつつ、今後、国民的な議論を進めていくとともに、     制度における婚外子であるがゆえの不利益的取り扱いの是正や、婚外子     に対する社会的偏見の解消をはかっていく必要があるのではないか。      ○なお、外国人の受け入れについて、なし崩し的に行われることによ     り、わが国経済社会に大きな問題が生じることが懸念されることから、     そのあり方については、関係の場で正面から十分に議論すべきである。     VI.おわりに      以上、少子化の影響、要因と、それらを踏まえた人口減少社会への対     応について考察を加えてきた。      少子化がわが国社会全体に及ぼすさまざまなはかりしれない影響に鑑     みれば、「はじめに」にも述べたとおり、少子化の背景を幅広い視点に     立って見極めながら、将来の社会への展望を示すことが必要である。      少子化の要因は多岐にわたるが、少子化は、基本的には家庭や企業活     動における固定的な男女の役割分業のもとで、物質的な生産と消費の拡     大を志向し、それを享受してきたわが国社会全体の状況が深く関連し、     将来への希望そのものであるともいえる子どもを産み育てることへの負     担感、不安感、さらには未来の社会に対するさまざまな不安を反映して     いるともいえよう。      このような状況については、今後、さらに掘り下げた議論や調査研究     を行い、その過程で国民一人ひとり、家庭、地域、企業それぞれが考え     ていくと同時に、わが国社会への警鐘として重く受けとめ、個人が自然     に子どもを産み育てたいと思えるような未来に希望を感じることのでき     る社会の展望を示さねばならない。      人口減少社会に対しては、まず、現在進行中の各般の構造改革を始め     とする改革を実行し、少子化の影響への対応をする必要がある。      併せて、子どもを産み育てるうえでさまざまな不安や負担を感じるよ     うになっているこれまでのわが国社会全体のあり方を問い直しつつ、男     女共同参画社会を目指すなどのわが国社会の新たな枠組みを構築すると     ともに、子育て支援方策を総合的かつ効果的に推進する、という形で少     子化の要因への対応をする必要がある。      とりわけ、企業、個人がこれまでの仕事を至上とする働き方を見直す     なかで、終身雇用制度のもとでの多様な就業形態を認めない固定的な雇     用慣行を改め、女性や高齢者などがその意欲に応じて就労できるよう、     性別や年齢による垣根を取り払う新たな雇用環境を創出していくことは、     少子化の影響への対応、少子化の要因への対応両面の観点から、きわめ     て重要な課題であり、人口減少社会への対応の基本となるべきものと考     える。      そして、政府、企業を初め、国民が一体となってこのような改革に取     り組むのであれば、出生率の回復への期待とともに、個人の自立と自己     実現、そして他者への貢献が両立する新しい形の家族像、地域社会や企     業風土が生まれることが期待できる。それは決して悲観するような社会     ではなく、むしろ未来に希望のもてる「ゆとりと潤いのある心豊かな社     会」である。      当審議会は、こうした取り組みを通じて、人口減少社会となる将来に     対する国民のさまざまな不安を取り除き、未来に希望のもてる安心でき     る社会を構築していかなければならない、との結論に至った。      なお、人口減少社会への対応をはかるに際しては、地球規模での人口     問題に対する視点を忘れてはならない。世界人口は、1950年の約25億人     から、現在は57億人と倍以上にふくれあがり、2050年代には約 100億人     に至ると予想されている。このような人口増が地球環境や地球資源に影     響を及ぼすことに鑑み、大量消費社会のあり方を見直すなど、環境・資     源問題への取り組みも求められる。      この報告書は、これまでに述べた通り、少子化に関するできる限り客     観的な情報を提供するとともに、少子化がもたらす人口減少社会への対     応のあり方等について、さまざまな論点や考え方を整理した。そのうえ     で基本的考え方について一定の方向づけを試みたが、少子化に関し、確     定的な方向性を示した報告ととらえられるべきではない。      もとりよ、少子化、そして人口減少社会をどう考え、将来のわが国社     会はどのようにあるべきと考えるかは、「はじめに」においても述べた     ように、最終的には国民の責任であると同時に、国民の選択である。      今後、本報告書を少子化、そして人口減少社会に関する国民的な議論     の出発点として、研究者を含めた幅広い関係者を初め、国民のあらゆる     各層において大いに議論し、考えていただきたい。      そして、幅広い国民的な議論を経た結果、修正すべきは修正し、新た     な見解を加えるべきは加え、きたるべき人口減少社会への対応に関する     国民的合意が形成され、今後のわが国が目指すべき社会に向けて、政府     を初め、企業、家族、地域社会、そして個人、それぞれの幅広く国民的     な取り組みが進むことを望むものである。     以上でございます。 椋野室長 私のほうから、若干の補足説明をさせていただきます。前回にご議論     いただいた論点整理メモから大きく変わったようなところだけ、ご説明     をさせていただきます。      まず目次を開いていただきますと、構成において大きく変わりました     ところは、Vの「少子化の影響への対応」を、論点整理メモの段階では      「少子化の影響」の次にもってきておりましたが、「対応」が真ん中と      最後と二つに分かれるのはわかりにくいのではないかということで、起     草委員の案では最後にまとめて「少子化の影響への対応」「少子化の要     因への対応、」、併せて「少子化がもたらす人口減少社会への対応のあ      り方」という構成になっております。      1ページをお開きいただきまして、定義めいたところでございますが、     論点整理メモの段階では「人口が減少し、高齢化が進行していくことを     (少子化)」と整理しておりましたが、起草委員のあいだのご議論で、     ここに書いてあるような定義になりました。「低い出生率のもとで子ど     もの数が減る」という、これを少子化が進行するという。それから「生     産年齢人口が減少し、次いで総人口までが減少を続ける社会」これを少     子化の影響としてとらえております。「なることを意味しており、人口     減少社会の到来は現実のものとなりつつある」。      「また、少子化の進行と平均寿命の伸長とが相まって急速に人口の高     齢化が進んでおり、わが国は未だ人類が経験したことのない少子・高齢     社会」、少子・高齢社会というのは「若年者と高齢者の人口構成割合が     従来と極端に異なった社会」、このように言葉の使い方は、論点整理メ     モのときよりもご議論をいただいて変わっております。      IIの「少子化の現状と将来の見通し」のところについては、人口がど     うなるかということを少し詳しくきちんと書き込むべきだというご意見     をいただきまして、生産年齢人口のことも入っておりますし、中位推計     だけではなく高位推計ではどうか、低位推計ではどうかということまで     詳しく書き込んだ形になっております。      3ページ、「少子化の影響」のところでございますが、大きく経済面     の影響と社会面の影響との二つにしておりまして、柱立ての整理の仕方     を変えております。特に「マクロの経済成長への影響というよりは、国     民1人当たりでみるべきだ」というような前回の議論もありましたので、     2)で国民の生活水準への影響として、その(2)で「現役世代の手取り所得     の低迷」というような整理の仕方になってきております。      4ページの2「社会面の影響」でございますが、子どもの健全成長、     地域社会の変容のほかに、1)で家族の変容というものを追加した形にな     っております。      それから、前回の総会でも、プラス面の影響もきちんと書くようにと     いうご意見があったかと思います。5ページの3)の地域社会の変容の次     の段落に、「このように」というところからプラス面の影響についても     書き込む形になっております。      次の、少子化の要因とその背景については、若干整理は変わっており     ますが、内容的に大きな変化はございませんで、7ページ「未婚率上昇     の要因」の3として「親から自立して結婚生活を営むことへのためらい     によるもの」、これが前回の論点整理メモにはなかった、起草委員の案     に新たに加わったものでございます。      8ページ、未婚率上昇の4「その他」のイ)でございますか、前回も     これもちょっとご議論のあった「過疎農山村部において家業をする男性     にとって、結婚を望んでも配偶者を得にくい状況があること」、これが     追加になっております。      次に、夫婦別姓の平均出生児数と平均理想子ども数との開きでござい     ますが、9ページ、育児の仕事との両立に対する負担感の中の9ページ、     エ)、オ)、保育サービスについての分析が追加になっております。      3「その他」のウ)、エ)で、高齢出産に対する不安感ですとかリビ     ドーの問題が加わった形になっております。      その下のなお書きで、現状は、男女役割分業のもとで継続就業を希望     する者は必ずしも多数派とはいえない、ということも留意する必要があ     るということが加わっております。      その下の、2「少子化の要因の背景」ここは新たに加わったところで     ございます。その中でも特に、前回の論点整理メモでも少し、背景とし     ては分析していなくても少しずつ出ていたような考え方もありますが、     10ページの(3)「快適な生活環境のもとでの自立に対するためらい」は、     今回、起草委員の案で新たに加わったものでございます。      11ページの(4)「現在、そして将来の社会に対する不安感」も、同じく     新たに加わったものでございます。      V.「少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方」の1「少子      化の影響への対応」、これも柱立てを再整理するようにということで、     前回、ご意見をいただいておりましたが、再整理がされております。経     済面の影響への対応と社会面の影響への対応と大きく分かれ、経済面の     影響への対応が、(1)が就労意欲をもつあらゆる者か就業できる雇用環境     の整備、(2)が企業の活力・競争力、個人の活力の維持、(3)が社会保障     度、そのようになっていっております。      13ページの社会保障制度の中で、これも前回ご意見がありました「健     康づくりの推進」とか「予防医学の重視」というような記述も加わって     おります。      2)「社会面の影響への対応」の(1)地域の問題ですが、論点整理メモに     ありました地方への人口分散というようなことについては、反対のご意     見がございましたので、それは落ちております。      少子化の要因への対応で、1)「少子化の要因への対応の是非」につい     ては、若干わかりやすく整理されておりますが、基本的に変わっている     ところはございません。      15ページの真ん中あたりに「少子化の要因への対応にかかわる政策を     論ずるに際しては、下記のような指摘があることに留意する必要があ る」ということで、 1から 4までございます。前回の論点整理メモのと きには、この次に 5として環境影響のことが記述されておりましたが、 ここにあるよりは地球規模の人口の問題の中で論じたほうがわかりやす いのではないかということで、報告書から落ちたということではなくて、      「おわりに」というところに移動しております。      少子化の要因への対応のあり方について、役割分業、雇用慣行の話が、     16ページの 1「ゆとりと潤いのある心豊かな社会の構築」あたりから記     述がありますが、17ページの、先ほど読み上げは省略させていただきま     した四角の中の「制度、慣行について今後検討すべき課題 (例) 」とい     うのは、論点整理メモの段階では、こういう書き込んだものはございま     せんで、今回、起草委員の案の中で課題 (例) として加わったものでご     ざいます。      同じように、18ページから下から課題 (例) として四角に囲んで書き     込まれているものも、新たにつけ加わっているものでございます。     19ページの四角の下になお書きで、「仕事と育児の両立を望むのは、一     部の継続就業志向の女性に限られる」と、分析のところにもそれを「留     意する必要がある」とありましたが、それを受けて「しかし、継続就業     を望ましいと考える女性の割合は着実に増加する。また、条件が整って     いれば望む女性の割合は相当程度増加する」という傾向もみられる。さ     らに「女性の就労の拡大が時代の要請となることを考え併せれば、両立     のための支援方策は着実に推進していかなければならない」、ここは加     わったところでございます。      20ページの、これも前回ご意見がありました「子育ての負担ばかりが     強調されて、子育てのもつ楽しみや喜びが忘れられた形になっているの     ではないか」というようなご意見がございまたことを踏まえて、ここに     「子育てのもつ喜びや楽しみや喜びということを再確認する」というく     だりを書いてあります。      二つ目は、その下の「なお、乳幼児期において女性の就労支援を講ず     ることが子どもの観点からいかがか」ということについての考え方の整     理がされております。さまざまな人たちのあいだの中ではぐくまれれば、     むしろ子どもの健全な発達にとっても望ましいといえるのではないか。      それから、歴史的にみても、母親が一人で育児に専念するというのは     ここ最近のことである、というような指摘も踏まえて、乳幼児期におけ     る女性の支援方策を講ずることは否定されるべきものではないというよ     うな記述になっております。      それから、今後、さらに議論が深められるべき課題、これも今度新た     に、前回、前々回のご議論を踏まえて加わったものでございます。かな     りご意見のあった不妊治療の問題が 3の一つ目の〇で書かれております。      生命倫理にかかわる面もあるし、子どもを産みたくても産めない者を     心理的に追い詰めるようなことは、もちろんあってはならない。十分留     意しつつ施策的対応を検討していく。      二つ目、これも女性主導の避妊法の普及だとかリプロダクティブ・ヘ     ルス・ライフの観点が、ご意見を踏まえて入っております。三つ目、こ     れはご意見のあった選択的夫婦別姓、同棲などの観点。四つ目は婚外子     の問題。このあたりがいろいろご意見があったので、論点整理メモには     整理されておりませんでしたが、起草委員の案で、今後さらに議論が深     められるべき課題として加わっている部分でございます。      「おわりに」のところで、特に21ページのいちばん下の段落あたりで、     「固定的な雇用慣行を改め、女性や高齢者などがその意欲に応じて就労     できるよう性別や年齢による垣根を取り払う新たな雇用環境を創出して     いくことは、少子化の影響への対応、少子化の要因への対応、両面の観     点からきわめて重要な課題であり、人口減少社会への対応の基本となる     べきものと考える」、こういう位置づけが新たにされております。      22ページの上から3番目の段落、「なお、人口減少社会への対応をは     かるに際しては」、これは、先ほど「おわりに」に移動しました環境影     響のくだりはここに入っております。論点整理メモと大きく違った部分、     新たにご意見を踏まえて加わった部分等を、今、簡単にご紹介させてい     ただきました。      続きまして資料5として参考資料、これは、前回、前々回にお配りし     たものは説明を省略させていただきます。新たに加えられたものだけ、     ごく簡単にご説明させていただきます。      まず5ページで、今回、生産年齢人口を報告書の中に書き込んでおり     ますので、その関連で生産年齢人口のグラフをつけております。15から     64でやった場合が5ページ、20から64で生産年齢人口を考えた場合が6     ページに載っております。      17ページは地域の問題ですが、前回は都道府県別を示しておりました     が、市区町村別将来推計人口というのが統計情報センターから出てまい     りましたので、それを参考につけております。65歳以上人口の割合が3     割を超える市町村は、現在1割弱程度であるものが、2025年には約6割     となる見通しもある、ということで、市町村別の推計を地域の問題で加     えております。      28ページ、前回の女性の晩婚化の原因に一般論はつけていたのですが、     具体的に独身の理由が出ております。男女とも「適当な相手にめぐり合     わない」というのが一つでございます。      次に、これも前回ご意見がございました未婚女性の結婚の意思、9割     の方が「いずれ結婚するつもり」と答えている。その中をみますと、      「ある程度の年齢までに結婚するつもり」という方がほぼ半数、「理想     の相手がみつかるまでは結婚しなくてもかまわない」という方がほぼ半     数という状況でございます。      30ページ、結婚相手の条件として何を重視するかということで、男性     では「人柄、容姿」、女性では「人柄、経済力、職業」と続いておりま     す。      31ページ、親からの自立問題で、20歳代未婚の方の親との同居率の状     況。これは、地域的に府中と松本のものでございます。同居率6割前後     と高く、特に女性の同居率が高い。全国的にみましたものがその次のペ     ージ、20から34歳未婚女性の親との同居率の推移をみますと、だんだん     と上がっております。昭和50年は7割程度、平成8年には8割強まで上     昇しているという状況です。      33ページ、同居している場合に個室があるか、身の周りの家事はどう     しているかということで、20代未婚者で親と同居している者のうち9割     以上が個室をもっている。また、身の周りの家事について「親がすべて     してくれる」「ほとんどしてくれる」を合わせると、府中で8割、松本     で7割ぐらい。「自分でする」というのは2割前後という状況です。      34ページ、30歳代の親との援助関係の現状でございます。親からなん     らかの経済援助を受けている方は、未婚の方で3割弱、親と同居してい     る方で4割弱にのぼっています。ただ、親と同居している場合で受けて     いるのが4割弱といっておられますが、住んでいて家賃を払っていない     場合を経済的支援を受けていると判断しているかどうかというのは回答     者の考え方次第ですが、それは受けているというほうにカウントしてい     ない可能性も高いのではないかと考えております。      同じくその関連で、将来、子どもにしてやりたいことの国際比較でご     ざいます。6ヵ国とも「義務教育後の教育費を負担する」が比較的多く、     日本ではこのほか「孫の面倒をみる」とか「結婚費用を出す」というの     が多くなっております。      36ページ、前回、見合いの話が出ておりました。恋愛結婚、見合い結     婚、1960年代後半から恋愛が見合いを上回っており、現在では8割以上     が恋愛結婚。そして年齢階級別にみると、若い世代ほど「恋愛結婚した     い」と答えている状況にございます。     次に、未婚者における異性との交際の状況。18歳以上35歳未満の未婚     者の異性との交際状況ですが、「婚約者、恋人、友人として交際する異     性をもたない」と回答した方が、男子で5割弱、女子で4割と高い割合     となっております。      45ページ、女性の社会進出の関係で、妻の年齢階級別、夫婦とも雇用     者である世帯の割合でございます。妻の年齢が25から34歳でみて、だん     だん増加をしております。夫婦とも就労時間35時間以上、フルタイム共     働きの場合、年によって若干の差はありますが、妻の年齢が25から34歳     ですと2割前後で推移しているという感じでございます。      今回は、年功序列型賃金等、雇用慣行の関係の資料を補足しておりま     す。60ページ、性別、年齢階級別所定内給与をみますと、男子では50歳     ごろまで上昇を続けた後、低下。女子でも、50歳代前半までは上昇しま     すが、上昇の度合いは男子に比べて著しく低いという状況でございます。      61ページ、定年制の普及状況。95%と、ほとんどの企業で定年制があ     り、そのうち60歳としている企業が8割を超えている。      62ページ、企業の人事労務管理上の方針として、能力重視は4割程度     あるものの、年功序列主義が1割、両者の折衷が3割程度となっており     ます。      63ページ、一斉昇格制度・慣行の有無で、「ある」と答えている企業     が5割を超えている。      64ページ、途中転職した場合にどうか、同一産業内転職による賃金の     増減率でみますと、下の右側の、大卒・サービス業、30〜40というとこ     ろはプラスになっていますが、一般に、転職すると賃金は低下する。      退職金がどうかというのが65ページでございますが、上のグラフで見     て、勤続年数3年の方の退職金を1とした場合、勤続年数40年で、つま     り約13倍の場合、退職金は25倍になっている。途中で転職をしますと、     下のように、早くに転職すれば次の会社で勤続年数が長くなりますし、     遅くに転職すれば、最初のところで勤続年数が長いのですが、真ん中あ     たりで転職すると非常に退職金が低下するというのが下のグラフでござ     います。      68ページにいきまして、地球規模での人口の話が終わりに加わってお     りますので、世界規模でみての人口が、1990年の約50億人、2050年に約      100億人と倍増するというグラフを載せさせていただいております。 宮澤会長 どうもありがとうございました。それでは討議していただきたいと思     いますが、この報告案つきましては、あくまでもたたき台としてまとめ     たものでございます。これから委員の皆さま方のご意見を承りまして、     必要な修正を加えたい。そして、次回の総会でとりまとめることができ     ればと考えています。      それから資料4のタイトルでございますが、報告書のタイトルにつき     ましては、起草委員のあいだで、メインのタイトルとサブタイトルを設     けてはどうかという議論がございました。一応それぞれ使用する言葉と     して、メインには「少子化」、サブには「人口減少社会」を用いるとす     るのが多数の意見でございましたが、あるいはメインとサブを逆にした     ほうがよい、というご意見もございました。サブタイトルにつきまして     は、起草委員としては一本化しておりません。報告書案とともにご討議     をいただければと思います。      さらに、起草委員案のとりまとめに際しましては、参考といたします     ために事務局を通じて各省の幹事会に意見の照合をいたしまして、その     うえで、取り入れるべきと判断したしたものは取り入れてまとめており     ます。そういう側面がございます。      それでは、議論に入りたいと思います。どこからでも結構でございま     すので、よろしくお願いいたします。 木村委員 4ページに「子どものいない世帯の増加は、家系の断絶、無縁墓地の     増加などを招き、先祖に対する意識も薄れていく」とありますね。これ     は、明らかに家というものを考えた記述だと思うのです。この少子化の     問題は国単位で考えておりますし、ひいては国というものの最小単位で     ある家族というものを重視しよう、そういう哲学が背後にあると思いま     すね。それでこういう記述が出てきて、これは私は大変結構だと思うの     ですが、20ページを見ますと選択的夫婦別姓が出てくるのですね。これ     は明らかに家制度の否定の上に立脚しておりますので、矛盾してくるの     ではないかと思うのです。      選択的夫婦別姓といいますのは、別姓にすれば婚姻率が高まるであろ     う、ひいては出生率につながるであろうという、いわば風が吹けは桶屋     が儲かる式の提案であり、非常に効果は望み薄ではないか。さきの国会     でも廃案になったものであり、さまざまな世論調査でもこれに対する否     定的な考え方が多いという、非常に否定的な論議の多いものであります     ので、ここにこれを出してくることには私は賛成しかねると思います。 熊崎委員 私は、次回、欠席をさせていただきますので、まとめてといいましょ     うか、質問やら感想やら意見を述べたいと思っております。      まず、この報告案をまとめられた起草委員の方、そして関係者の方の     ご努力に敬意を表したいと思っております。      私の質問する点は、6ページの「主として個人の結婚観、価値観の変     化によるもの」と記述してありますところの「女性の経済力が向上した     結果」という表現があります。もちろん、女性の経済力が向上したこと     は事実ですが、結婚観とか価値観の変化というものは、経済力だけでは     なくて諸々の意識の変化にもよってきているのではないかと私は感じて     おりますので、そんなこともつけ加えられればつけ加えていただきたい     と思っております。      それから、今、木村先生のおっしゃいました選択的夫婦別姓の件です     が、これは非常に論議のあるところですが、働く女性がこれから増える     とすれば、働く女性が選択的夫婦別姓を法律化することによって、家と     いう家族の考え方も変わっていくし、現在のような形のままではないと     いうことを強く望んでいるということも把握していただきたいと私は思     っております。ここの書きぶりの矛盾点はあるかと思いますが、働く女     性の立場からすると、私はぜひともここに記述してほしいと考えており     ます。      もう一つ、質問ですが、ここに賃金の関係で、制度的な終身雇用の指     摘がいくつか出てきておりまして、書きぶりの中で終身雇用についての     指摘と記述がしてありまして、大変私も心配しているわけです。といい     ますのは、終身雇用と現状の賃金体系というのは結びつくのは当然でし     て、今までもそのように制度化してきているわけなのです。これをここ     で書いてあるのは、これを変えていこうとされているのか、そして変え     ていく中でどのようにしていったらいいか、ということをあまり記述さ     れていないことを心配しているわけです。      先ほど、資料にも報告がありましたように、日本の終身雇用制度は、     この審議会の中でも指摘されましたように、男性は終身雇用制が適用さ     れておりますが、女性の大半は終身雇用制度を受けていないという事実     の中で、ここで終身雇用制の見方を記述しているという点で、ちょっと     私も心配しているということです。      参考資料でも指摘されておりますように、現在の賃金体系の中では、     終身雇用制度は、賃金といいますと諸々のものが入ってきておりますか     ら、たとえば退職金でもこのような現実があらわれて、終身雇用制のほ     うはメリットがあるということがここにあらわれているという事実があ     るわけですね。ですからそういうメリットのあるところをどう変えてい     こうか、そこら辺が大変な問題ではないかと私は思っております。      それから感想ですが、少子化に関する影響だとか対応ということで絞     り込んでありまして、少子化に対する経済と社会性という二面的でもの     すごく強く記述してあります。私は当然だと思いますが、若い女性ある     いは妊娠のできる年齢の女性が、これからの出産をしたいというような     背景なり影響なり要因は、社会、経済だけに絞るという手もありますが、     私はもっと文化的といいましょうか、たとえば私の周りでも、結婚をし     て妊娠・出産をするというときには、周りに高齢化の家族がいるという     のは、安心して産める、そして子育てという支援が高齢社会の方たちか     ら伝授されていく、あるいは地域の中で助産婦さんという制度がありま     して、そういう形の触れ合いの中で、妊娠・出産・育児が安心してでき     るというようなこともあるのではないかと、私はそう感じております。      大変経済関係で強い点が気になってなりません。しかし、経済的に強     く出してあるにもかかわらず、今後の対応というところでは、文章的に     は踏み込んだ書きぶりをしてあります。たとえば「男女がともに参画し     ていかなければならない」というようなところが非常にたびたび出てき     ておりまして、そういう意識面は出てきておりますが、経済的となりま     すと、今後検討すべき課題という例が記述してありまして、例の書きぶ     りも、今後どのような受け皿でこれを解決をされていくというようなこ     とも明確にしていないようで、気になっております。      女性が、子育てを終わればまた再び職場に復帰しようと思っている人     もいるわけなのです。だけれども育児休暇、制度的なものがあっても使     えないということがここに指摘されておりますから、そういうものをど     うしたら使えるようになるのかということが明確でないと私は思ってお     ります。      最後に、とてもいいまとめになっておりますので、これを国民に広く     討議をしていただいて、それをもとに少子化あるいは高齢社会にこれか     ら一人ひとりが取り組んでいくという役割も必要ですが、これまで論議     し、このようにまとめられましたから、端的にいいますと総理大臣にで     も、これを答申という形はいいのかどうかわかりませんが、そういう形     でこの審議会で討議したことが、政府の中でも解決できるものは積極的     に取り入れられるような仕組みを、会長さんにぜひお願いしたいという     私の私見でございます。この点につきましては、それがいいのかどうか     検討していただければ結構でございます。      以上です。 阿藤委員 木村先生のご意見について、先にちょっとコメントしたいと思うので     す。4ページの家の点ですが、これは、そういう観点からいえばこうい     う影響があるということであって、そういう立場に立っている人からみ     れば非常に淋しいことである、ヒアリングの中でそういうご発言をなさ     った先生がいらっしゃったということだと思うので、これは立場、立場     があると思うのです。ただ、そういうご意見もあるということでここに     書かれているのでなはいかと私は感じます。      選択的夫婦別姓の問題は、たしかに今、日本の世論を二分するような     問題ですが、そういうわけで国会でも議論があり、今回、否決されたと     いうことでございますが、しかし方向性としては、この報告書が男女共     同参画にまで踏み込んだ報告になっていますので、長い目でみれば、そ     ちらの方向で制度的、慣行的なものを変えていくということになれば、     この問題についての議論は避けて通れないのではないかということで、     こういう書きぶりになっているのではないかと、私は思います。      13ページぐらいのところですが、ここは少子化への影響への対応とい     うことで、経済面への影響と社会面への影響と二つに分けてあるわけで     す。経済面への影響のほうで高齢者の雇用という問題が入っているので     すが、高齢者の問題というのは、単に雇用、いわゆるお金をもらって仕     事をし、社会に貢献するという側面だけではなくて、もっと広い意味で     の、お金をもらわない、あるいはもらうにしても、広い意味での社会参     加といわれるようなボランティア活動ですとか、あるいはお金をもらう     ボランティア活動ですとか、さまざまな形態があると思うのですが、そ     ういうあたりはどちらに書くのか、あるいは社会面への影響への対応と     して書くのか、今はそういうことが高齢者問題を論ずる場合には必ず出     てくるわけですし、それは広い意味で高齢者が社会の支え手の側に回る     ということを意味しているわけですので、いわば少子・高齢者型の社会     をそういう形で、一種の高齢者の扶養負担感を逆にいうと減らしていく     という側面があると思うのです。ですから、それについてどこかでひと     言書いていただければということがあります。     それから、これは非常に難しいと思うのですが、最後の「おわりに」     というか結論のあたりで、私は基本的にこの報告書のトーンは全く賛成     なのですが、もうひと言、あえてつけ加えるとしますと、今の少子化の     最大の問題は未婚率の上昇であり、さらに言い換えれば、若い男女が、     少なくとも欧米や、逆にいうと伝統社会とも違って、非常にシングルの     状態が長い。それは単に婚姻だけではなくて同棲もないということで、     文字通りのシングルでいる青年からもう青年を超えた男女が、おそらく     世界でも稀なぐらい多い、そういう状況になっているわけです。     このことが、結果として今の少子化や人口減少社会に結びついている     ということになりますと、なにか若い青年男女が互いに尊重し合って、     喜び、愛情をはぐくみあえるような社会、そういうものをどこかでひと     言書き込めないかと、なかなか難しいと思うのですが、そういうことを     感じております。 網野専門委員 私も、全体的にこれほど幅広く深くまとめられたということに、     まず敬意を表したいと思います。その中で、特にこれをまとめていくう     えでもう少し明快にしたほうがいいのではないかと思う点が一つ、15ペ     ージのところで最初の〇に書いてあるところの趣旨です。これは少子化     の要因への対応ということで一つとして書かれていますが、全体の調子     からいいますと、このような意見が書かれていて、つまり、子どもは親     の中の子どもというだけの視点ではなくて社会的な子どもだという視点、     この重要性を挙げているかと思うのです。      基本的には今、子どもが社会の子、つまり昔の国の子意識ではなくて、     親だけではない、プライベートなだけではない部分の重要性が非常に重     視されてきていますが、これは必ずしも少子化社会を迎えてのそのため     の対応ということで考えられているだけではない部分もあるかと思いま     す。日本が第二次世界大戦後、特に子どもの福祉に関してつくられまし     た児童福祉法は、既にもう50年前に高い理念を打ち出していたわけです     が、ようやくこのような考え方が少しずつ重みを増してきた、その土壌     ができてきたのではないかと私は考えている一人です。      そのような意味でも「この考え方をより深めるべきである」と書いて     ありますが、ほかの文章では、たとえば「それについて反対の意見もあ     る」とか「こういう疑問がある」とかという表現をなされているところ     が多くて、それはどういうことからなのか、それを対比させる意味で非     常に参考になるような書かれ方をしています。ここでは、この意見をど     う考えるかということで、これに対して全般的に社会が受け入れている、     あるいは必ずしも肯定的ではないという趣旨での表現がされています。      たとえば、私も十分ここで出席できなかったのですが、この中でこれ     についてのもし議論があって、これについての疑問なりあるいは反論の     ようなものがあれば、それは出しておいたほうがいいのではないか。      もしなければ、むしろこの意見をどう考えるかというその以下に書か     れていることは、少子化の要因への対応ということだけではない重要な     意味をたくさんもっている部分があるかと思いますので、家族観にもか     かわる、あるいは今後、子どもの扶養に対して公的にどう関与していく     かといった幅広い、必ずしも少子化のゆえの対応ということだけではな     い重要な視点として、今後、十分に検討を進めていくべきであるという     趣旨のほうがよろしいのではないかと思います。     あと1点は、非常に細かいことですが、今、木村先生や阿藤先生がお     っしゃられた4ページのところで「家系の断絶とか無縁墓地の増加」、     むしろ私は、このような表現がこの審議会の報告書の中に書かれている     ことにちょっと疑問を感じた一人なのです。いろいろな考え方があると     いうことで、これは淋しいことだな、という趣旨がどうしても受けとめ     られるかと思うのです。ほかの面ではかなりいろいろなご意見があった     ものを中立的に公平に叙述していると思うのですが、この点ではやや考     え方としては、家系が断絶するとか無縁墓地とかというのは、もっとほ     かのさまざまないろいろな要素があると思いますし、確かに専門の先生     のこの中のヒアリングの中で出されたことは事実かと思いますが、審議     会の意見として表現する際にはもう少しなんらかの配慮が必要かなと感     じました。     以上です。 井上委員 私も、この報告書をまとめられたご努力に大変敬意を表する者の一人     でございます。大変重要なことがここで出されておりまして、少子化あ     るいは人口減少社会というのは大変なことなのだということを訴える力     があると思うのですが、もしそういうことを訴える場合に、議論が客観     的でないと、これはひいきの引き倒しになってしまう。この報告書の最     後にもございますが、少子化に関する出来る限り客観的な情報を提供す     る、そういう面から申しましてちょっと気になった点が二、三ございま     す。      たとえば、少子化の影響、経済面の影響ということで3ページにござ     いますが、1)の最後のほうでございます。これをざっと読みますと、労     働力供給が制限されてくる、あるいは高齢化が進むので貯蓄率が下がる。     したがって生産性が下がる、そういう感じに読みとれるのですが、この     辺は必ずしも経済学者のあいだで意見が一致しているものではないよう     な気がするのです。      たとえば生産性一つとりましても、日本の生産性は諸外国と比べて非     常に低い。なぜかといいますと、生産性の低い産業分野があるからだと     いうことなのです。こういう分野の生産性を上げることによって、生産     性の向上は十分可能なわけでありますし、人口減少が貯蓄率の、あるい     は高齢化が貯蓄率の低下に結びつくかどうかということも疑問をもつ経     済関係の方が大勢おられます。私は、きのう、きょうと国際会議に出て     おったのですが、貯蓄率に関する経済学者の集まりでございましたが、     必ずしも高齢化が貯蓄率の低下に結びつかないのではないかという議論     がかなりあったわけでございます。人口減少が進むとかえって資本と労     働力の比率が改善するので、生産性が上がるのではないかという議論ま     であったわけです。      こんなふうに意見が分かれている場合に、一方的な見方を書いてしま     いますと、これはちょっと偏った印象を与えるのでなはいか。      同じようなことが、5ページの社会面への影響ということで、ご説明     にありましたように、プラス面も書かなければいけないのではないかと     いうことで、プラス面がいくらか加わっておるということでございます     が、プラスと書かれておりますのは4行でございまして、すぐその下に     また4行「ただし、そうとも限らない」ということで、全般的にみます     と非常に否定的なのですね。客観的な情報を提供して判断をあおぐとい     う観点からいたしますと、ちょっとこの辺が書き方が偏っているのでは     ないかという印象を私はもたざるを得なかったわけでございます。      それから、これは内容的に問題があるということではございませんが、     外国人の取り扱いです。人口減少社会といいますと、じゃあ外国人を入     れれば、というのが一般の反響に出てくると思うのですが、この報告書     の中で外国人は15ページと25ページに出てまいりますが、なかなかみつ     けるのが難しいのですね。何か工夫がないものか。何かタイトルをつけ     て、外国人の導入についての是非の論議、これをもう少し充実させるこ     とが国民のためにはいいのではないか、そんなことを考えました。     もう一つ、これは内容についての注文でございますが、6ページに未     婚率上昇の要因というのがいろいろ書かれております。ここの1にアと     イと二つあるのですが、ここにウと3番目があってもいいのではないか。     それは、理想子ども数と現実の子ども数の開き、ここのところで保育あ     るいは学童に対する諸施策、こういうものがあとで出てくるのですが、     これが未婚率上昇の要因としてもやはり重要ではないかと思うのです。      未婚の方が結婚しようかと思う。結婚したら子どもができるだろう。      そうしたら子どもを育てるのは大変だ、だから結婚も考えようという     ことで、その辺が既婚者に対する制約的な要因というだけではなくて、     未婚者に対しても重要なのではないかという感じを受けております。      最後に、表現上のことでございますが、何回か「諸般の構造改革」と     いうことが出てまいります。これは非常に深い意味をもった言葉である     ように見受けられますし、現在進行中のことですから、書きにくいこと     はわかるのですが、だだ、諸般の構造改革といいますと、現在はたいて     いの人はわかるとしましても、ちょっと時間がたちますとなんのことだ     かわからなくなってしまう心配がある。どういう種類の構造改革をここ     で考えているのか、もう少し肉づけをしておいたほうがいいのではない     のかという感じを抱きました。      もう一つ、表現の問題かもわかりませんが、1ページだったと思いま     すが「少子化というのは今後の社会への警鐘を鳴らしている」という表     現がございます。確かに少子化というのは、将来にわたって大きな影響     をもってくるという意味では、将来に対する警鐘ということもいえるの     かもわかりませんが、少子化そのものは、現在の社会が抱えている矛盾     がこの少子化というものにあらわれてきている。現在、ここで提言され     ておりますような男女参画社会ですか、こういうものが実現されていな     いところに原因があるとすれば、これは将来に対する警鐘というよりも、     むしろ現代を含んだ状況に対する警鐘ととってもいいのではないかとい     う感じをもったわけでございます。 河野栄子委員 お尻が詰まっていますので、要件だけ。      この男女共生社会という全体のトーンには、私も大変賛成しておりま     す。ただ、いろいろのたくさんの資料があるのですが、たとえば先進国     の中で女性の労働力率と特殊出生率との関係、日本が大変低い。他国が     特殊出生率は高いけれども労働力率のほうも高いというふうなデータが     もし適当なものがあれば、それを入れていただいたほうが、女性をたく     さん働かせることが出生率の低下につながるのではないかというご懸念     もまだおありではないかと思いますので、その資料を、私はたまたまO     ECDの資料を、ないではないのです。これは正確かどうかわかりませ     んが、入れていただいたほうがありがたいかなと思っております。      あと、これはテニオハになるのですが、21ページの下から4行目「女     性や高齢者などがその意欲に応じて」という、この全体の中で「男女と     もに」なので、できればこれが「個人が」というほうがいいのか。要す     るに男性のほうがその意欲に応じて就労できているとすれば、一律の雇     用慣行でちょっとそういうふうには思えないのですが、それとも「女性     や高齢者なども」というのか「個人が」なのか、ちょっとテニオハなの     ですが。     それと同じトーンのものが、16ページの中ほど「このようにして実現     される社会は」というところで「女性などの能力が最大限に生かされる     ように」は「個人の能力が」でよろしいのではないかと。私はそう思い     ますが、前後の事情でこれは女性だと書いたほうがより意味が正しいと     いうことであれば、あえて反対しないのですが、そういうことではない     かというように。     これは議論にならなかったのですが、19ページのカッコの中の最後の     行です。「今後、検討すべき課題」なのですが、最後の「職住近接の住     宅の整備、職場に近い住宅への子育て世帯優先入居」、ただ今現在では     これは非常にいいことだと思うのですが、今の企業の動きは、終身雇用     と相まって、ある種の社宅制度とかいうものを、かなり先進的なところ     は給与にしてしまって見直しているとかやめてしまっているということ     で、これがただ今現在は正しいと思うのですが、どうなのかなと、ほか     のバランスと比べるとちょっとそこが気になるかなと。皆さんのご賛意     が多ければ、あえてこだわりません。     以上です。 八代委員 時間がないので手短にいたしますが、経済的なところで、かなり大き     な異議がありましたので、ちょっとお答えしておきたいと思います。      高齢化になったら貯蓄率が下がるかどうかについて経済学者のあいだ     で意見の一致がないというのは、やや言い過ぎでありまして、ごく一部     に非常に楽観的な意見を言う方もおられますが、それはOECD等でも     全米経済研究所でも、基本的に高齢化が貯蓄率の低下をもたらすという     ことについてはコンセンサスがあると思います。      ここでは、もちろん高齢化が進んだとしても、高齢者が就業を続けれ     ば貯蓄率の低下は必ずしも起こり得ないという批判に対して、3ページ     のところではわざわざ「貯蓄を取り崩すと考えられる退職者の割合の増     加」というふうに厳密にいっているわけです。ですから退職者が貯蓄を     取り崩すということ自体は疑いのない事実でありまして、そこはかなり     厳密に定義しておりますので、必ずしも高齢化がただちに貯蓄率の低下     というふうに結びつけているわけではございません。      それから、日本は生産性は低いから上げればいいではないかというの     はもっともでありますが、それは、そういう構造改革をすればというこ     とで、高齢化になれば自動的に構造改革が進むという保障はどこにもな     いわけで、ですからそれは全然要因としてカウントしてはいけない。そ     ういう、他の条件が同じであれば高齢化は投資の意欲を減らすであろう     という結論をいっているのではないかと思います。      それから、もちろん労働者を機械に代替すればいいということはよく     いわれるわけでありますが、それは長期的には持続できないわけです。      労働者がどんどん減っていけば資本の生産性も下がりますから、そん     なときにどんどんロボットをつくったりする企業家はいるわけはないの     で、それもあまりにも楽観的な見方であろうと考えます。      ですから、そういう楽観的な見方もあるからといって半々にするとい     うことは、高齢化の問題を非常に軽く考えることであって、これは政府     の審議会、あるいは主要な機関等でも、こういう高齢化の経済的影響と     いうのは、放置しておけば非常に厳しいものとなることは、べつにこの     審議会だけではなくてほかの経済関係の審議会でも共通した意見であろ     うかと思います。      それから、先ほど、意識と経済ということを対立するような概念でと     らえたご発言がありましたが、たとえば女性の就業が拡大するというこ     とは、あるいは女性の賃金所得が高まるということが、まさに女性の意     識の変化の大きな要因になっているわけであって、べつに経済力と意識     の変化というのは決して矛盾することではない。これは、意識の変化の     背後にそういう経済的な変化があるというトーンで議論しているかと思     います。      それから、いい機会でありますので選択的夫婦別姓について、先ほど     木村委員から、世論の大多数が反対しているということでありましたが、     それはその通りでございます。ただ年齢構成が重要でありまして、反対     しているのは40歳以上の人です。もう結婚している人が反対しているわ     けで、今から結婚を考えているまさに30歳以下の人だけに年齢層を区切     ってみますと、男女ともに選択的夫婦別姓に対してはむしろ賛成が多数     である。利害関係者が賛成していて、利害に関係ない人が反対している     というのが、この問題の非常におもしろいところでございますので、そ     こは必ず世論というときに考えなければいけない。     大事なのは、これ自体が出生率の低下に結びつくかどうかという直接     的ではなくて、多様な家族のあり方を認めるという寛容性ですね、そう     いう寛容性を考えることがこちらの大事な点であるということをいった     のではないかと思います。      それから、木村委員のおっしゃったように、家制度を書いているとこ     ろとたとえば選択的夫婦別姓が矛盾するという見方は、私もその通りだ     と思います。ですから、矛盾するなら、私はむしろ家制度のところを削     除すべきだと思っております。     以上でございます。 山田専門委員 来週、欠席させていただきますので、最後に、子育ての楽しさ、     喜びのところが前回から強調され出してきましたので、その点について     ひと言、意見をつけ加えさせていただきたいと思います。     子育ての楽しさとか喜びを強調するという点が入ったことは、大変す     ばらしいことだと思うのですが、実際にマスメディアや論壇などでの風     潮はむしろ逆になっていまして、特に何か少年事件があると常に非難さ     れるのは親であるという構造がどうもできているのではないか。そのこ     とが、私の同年齢の世代が子育て期に入っているのですが、あと、イン     タビュー調査などをしてみても、子育て期の親にすごくプレッシャーを     かけている。特に先日の有名な事件がありましたので、3人だとやはり     目が届かないかもしれないといったような意見も聞かれます。      もちろん、子育て方がどうのこうのというのは、言論表明の自由、報     道の自由というのがありますので、これをどうにかできるとは考えてお     りませんが、ただ、必ずしも科学的な実証性に基づいた親の非難という     ものが行われているとは限らないのが現状だと思います。網野先生が強     調したように、子どもは社会の子どもだという視点をもつことは、何か     事件を起こしても、親だけを責めるというのではなくて、親も含めた社     会の責任という視点がもてないのだろうかということを、最後につけ加     えさせていただきます。 木村委員 こういう答申は、ただ出せばいいだけではない。子どもは増やせばい     いだけではなくて、やはり哲学が必要だと思うのです。日本人としてど     ういう国をつくりたいのか、そういう背景がなければ、ほんとうに小手     先のハウツーだけに終わってしまう。私はそれを大変懸念しております。      さらに言わせていただければ、全体のトーンとして、社会がサポート     しましょう、サポートしましょう、こういうことが書いてあるのですが、     実は子どもを産み育てるというのは、親の側の社会に対する責任である     という考え方は、この中には一つも出てこないわけです。ますます社会     がなんとかしてくれるという、先ほどのご発言もありましたが、今まで     は、学校が悪い、学校が悪いと、子どもの非行に対しては学校に責任を     問うていて、今度は社会が悪い、社会が悪いと言い始めるのは、このま     まであれば、日本はどんなになってしまうのであろうかなという大変な     危惧を感じます。 千葉委員 直接的な影響に関してはこれに触れられている通りだと思うのですが、     二次的な影響といいますか、相当大きな問題があるのではないか。それ     は、こういう状態ですぎたときに国際的にはどうなるかということ。外     人労働者の問題などが出てきていますが、経済的にみた場合には、たと     えば工場をつくる場合でもみんな海外にいくでしょうし、海外でつくっ     たものも、日本の市場が小さくなりますから、日本にもってこないでみ     んな海外で売るとか、そうなってくると、経済の活力はますます衰える。     ですから、国際的にみた場合に問題がより大きく出てくるのではないか     なという気がしているわけです。      したがって、少子化問題というのはもっと危機意識をもって取り上げ     るべきぐらいの問題ではないかなと思っておるのですが、その点、意見     を申しあげます。 麻生委員 この中間報告の意味というのは、これが最終的な報告につながってい     くのか、それともここでは世論に提起して何か議論が出てきて、それを     もういっぺん集約して最終報告へいくのか、それがちょっとわからない     のです。もし前者だったらいいのですが、後者の場合は、これを続けて     いくのだったら、審議会のスタンスというのか、先ほどの危機意識なら     危機意識がもっとクリアに出たほうがいのではないかというのが1点で     す。      2番目は、これはスタイルの問題ですが、たとえば先ほどの未婚率の     問題なのですが、たとえば9ページのその他のときに「なんとかではな     いか」とか、「リビドーが低下しているのではないか」などというのは、     リビドーになってくると私はちょっとこれは問題ではないかと思うので、     こういうのと「こと」というのとどう違うのか。「ないか」と書かれま     すと、その他の要因としてよくわからない。これは文字の問題です。      それから、エ)は「ないか」と書くしかないと思うのですが、必要が     あるかなということがあります。      同じようなことで15ページですが、「優生学的見地に立って人口を論     じてはならないこと」、これはわかりますが、私は政策を論ずる場合に、     たとえばIQ論者の立場に立って論じてもいいと思うので、たとえばそ     れを取り上げるか取り上げないかは別ですが、論議の時にはタブーにす     る必要はないのではないかという気がいたします。      最後に、私は新米の委員なのですが、人口教育みたいなものは、どこ     でもあるようで全くない。阿藤先生がおっしっゃたようなカルチャーの     問題も出てきていますので、生涯学習社会とか生涯学習政策の中でのい     ろいろな発達段階ごとに人口とか結婚とか子育ての問題を教えていく、     そういう総合的な生涯学習体系の視点があれば、いろいろな意味で……。     インチキなところあります、たいがいなにかわけがわからなくなってく     ると最後は教育という意味で回しますから、効かない薬みたいなところ     があるのですが、万能薬的な意味があるので、そういう点で最後に生涯     学習か何か入れておいて落ち着かせるというのも手ではないかなと考え     ているのです。      もう少し私がほしいのは、これだけ出生率が下がってきて、これをた     とえば10年ぐらいまでのあいだにこのくらいにしておくのだという計量     的な目標みたいなものが出て、それがバンと外へ出ればすごいなという     気がするのです。これは阿藤先生にお願いするよりしかたがないと思い     ますが。     以上です。 宮澤会長 ほかにございましょうか。いろいろご議論いただきましたが、今、報     告書の性格についてお話がありましたが、これは最後の22ページに、こ     ういう書き方で報告書の性格をまとめておりますが、下から四つ目の段     落の「この報告書」の3行目に「これは考え方の整理である。そして一     定の方向づけを試みた。ただし確定的な方向を示した報告ととらえられ     るべきではない。各層において大いに議論して、考えていただきたい」、     そういう性格のものとしてある一定の方向づけを試みているが、確定的     な方向を出したのではなくて、いろいろご議論をいただきたいという性     格のものとしてこれを発表したい、こういうことでございます。     そこで、いろいろご議論いただき、たくさんのご提言、ご忠言をいた     だきましたが、議論を拝聴しておりまして、全体の大筋ではこの報告案     に沿った形でまとめることについては、ほぼ異論がないように思います。      ただ、その場合にいろいろ個別の点につき、議論が分かれています。     単に個別の点につき議論が分かれているというだけではなくて、そこに     は客観性の問題とか公平性の問題、哲学的なデータの違いとか、そうい     う意見が分かれる。こういうものをどう調整するか、はなはだ難しいわ     けでございますが、いずれにしても、いただきましたご意見に基づきま     して、若干、あるいは場所によってはかなり修正をする必要があると思     います。また、本日、ご都合でご欠席の委員につきましても、なんらか     の形でご意見を伺っておく必要もあろうかと思います。     そこで次回、もう一度総会に修正案を提出してご議論いただきたいと     思いますが、その修正につきましては、私と会長代理とに一任させてい     ただき、修正案をつくって、次回の総会に提出したいと思いますが、そ     ういう手続きでよろしゅうございましょうか。 吉原会長代理 いろいろご意見を伺っていまして、私は木村先生のおっしゃった、     子どもを産み、あるいは育てることの社会的な支援というか責任という     のが、全体としてトーンが強くなりすぎて、子どもに対する親の責任と     いうのが全然触れられていないというご意見に、私も、そうかなという     心配をするわけです。     それはこの報告全体の基本にかかわる問題なのですが、木村先生のお     っしゃることも、私は個人的にそうかなというふうにも思うのですが、     ほかの委員の先生で、もしそういう感じをもたれて、このままでは、と     いうのがありましたら、ほかの先生方のご意見も聞かせていただきたい     と思うのですが。 宮澤会長 あまり一任されるのでは困るという側面もあると思います。いかがで     ございましょうか。いずれにしても、一方の社会、一方の家族あるいは     家というものが相互関係になる。一方だけを強調すれば他方の関係があ     る、他方からまた強調すると、大変難しい観点がございます。何か今の     会長代理の発言に関連してご意見をご開陳いただけると、私ども、修正     案をつくるときに非常に楽になりますので。おまえたち、苦しめという     のでしたら、つれない委員だなと思いますので、何かありましょうか。 山田専門委員 私への反論かと思いますので、少し修正させていただきたいと思     うのです。今の、こういう言葉を使っていいかわからないのですが、今     の30代ぐらいの親の状況というのが、どうも階層分化してきているよう     な気がするというのが私の調査した限りの印象なのです。つまり、わり     と高学歴の人は非常に過剰なプレッシャーにさらされて、過剰に責任を     とらなければいけない不安が強いというのが一つ事実としてある一方で、     またもう一方の極には、いわゆるパチンコ赤ちゃん置き去り事件にみら     れるように、責任をとらない親というのも一部あらわれてきているのは     事実ではないかと思います。     それゆえに、そのような親に対して一様な対策、一様な意見、一様な     判断、評価というものがはたして加えられるかどうかというのが、今、     私は調査等を通じまして疑問に思っている点でございます。     ちょっと回答になっているかわかりませんが。 阿藤委員 たとえば16ページの、「ゆとりと潤いのある心豊かな社会の構築」と     いうところで、要するに今、男女共同参画型社会の実現のもう一つ手前     といいますか、「個人 (男女) が自立し、自己実現と他者への貢献が両     立する」、こういうことがたしか何カ所かに出てくると思うのです。こ     れは親子のことをいっているわけではなくて、個の自立という非常に大     切なことをいっているわけです。産む・産まないが個人の選択の問題だ     というところがどこかにあるわけで、それ以前にある個人の自己決定権     というか自立というか、そういうものが実はまだ日本ではあまり確立さ     れていないといわれるわけです。こういうことを実現していく過程で、     新しい社会の中で自己実現と他者への貢献を両立させる。      それは同時に、男女共同参画ということは、単に社会のほうに男も女     もいってしまうという話ではなくて、仕事や職業というものと家庭とい     うものの両方にかかわっていくのだということを、当然自明のこととし     ていっているのだと思うのです。     もう一つ、経験論的にいえば、先ほど河野委員がおっしゃっていたデ     ータなど、私はよく使って議論をするのですが、今、女性が社会進出し、     さらに出生率の高い社会は、北欧社会とアングロサクソン社会なのです。      これは先進国の中では最も個の自立が進み、そして男女共同参画のほ     うに相対的に進んでいる社会だと思います。そのことが同時にこの問題     の解決につながっているのだということがいえれば、私は非常に格調高     い前提であり、さらに結論ではないかと感じているのです。 宮澤会長 ありがとうございました。会長代理、今までのお話でよろしゅうござ     いましょうか。 吉原会長代理 はい。 宮澤会長 それでは、たくさんご意見をいただきました。なお、参考資料につき     ましても、いただいたご意見が修正する必要があれは修正いたしまして、     報告書を公表する際に一緒にこれも広く公表するという扱いにしたいと     思います。それでよろしゅうございましょうか。     それでは、次回の総会におきまして修正案を提出いたしまして、でき     ればとりまとめを行いたいと思います。よろしくお願いいたします。     次回は10月27日の15時から開催いたします。皆さん、よろしくお願い     いたします。     本日は、長時間ありがとうございました。これで閉会いたします。 問い合わせ先 厚生省大臣官房政策課    担 当 山内(内2250)、齋藤(内2931)    電 話 (代)03−3503−1711        (直)03−3595−2159