97/06/19 第69回人口問題審議会総会議事録 第69回人口問題審議会総会議事録 平成9年6月19日(木)   10時00分〜12時00分 厚生省特別第1会議室 宮澤会長 おはようございます。ただ今から、第69回人口問題審議会総会を開催 します。 本日の出席状況でございますが、大石、岡沢、木村、坪井、南、八代の各委員、 網野、伏見専門委員におかれましては、本日は都合によりご欠席です。 他の委員で若干遅れておられる委員もいらっしゃいます。 では、本日の議題に入らせていただきます。二つテーマがありますが、    この順序に従いまして、まず上智大学文学部の山崎泰彦教授から「女性の就労 促進と出産育児支援のあり方」についてご報告、ご見解の開陳をお願いいたした いと思います。山崎教授は、横浜市立大学商学部をご卒業後、上智大学教授とし てご活躍されておりますことは、皆さま、ご存じの通りと思います。それでは、 よろくしお願いいたします。 山崎教授 ご紹介いただきました山崎です。よろしくお願いいたします。年金、     保険、介護、いろいろ大きな課題を現在抱えているわけでありますが、私自身 は今、いちばん関心をもっているのは子どもの問題でございまして、そういう意 味で、きょうお招きいただきましたことを大変うれしく思っております。時間が 30分ということですので、かいつまんでお話しをさせていただきたいと思います。 長期的に労働力不足経済に移行する、それから社会保障の基盤強化と しての支え手を拡充するためには、一般に高齢者の雇用が大事だといわれていま すが、それとともに女性の雇用を促す、あるいは出産・育児の社会化といったこ とを進める必要があると思います。きょうは後者の課題についてお話しさせてい ただきたいと思います。 お手元に資料を用意いたしておりますが、昭和50年当時と比較します と、労働力人口に占める女子の割合あるいは女子の労働力率、雇用者総数に占め る女子の割合のいずれをとりましてもその比率が上昇しておりまして、女性の社 会進出が進んでいるということであります。しかし国際的にみますと、女子の労 働力率は既にフランスや西ドイツを上回ってはいますが、日本は男子が非常に高 いわけでございまして、その男子の高さに比べた相対的な女子の労働力率は依然 としてこれらの国ぐにをも下回っております。そのことが雇用者総数に占める女 子の割合の低さになってあらわれているわけであります。 特に、よくいわれていますように欧米諸国との大きな違いは、女子の 年齢別の労働力率がM字型カーブを描いていることでありまして、このことは出 産・育児に伴って就労を中断する者が非常に多いことを示しております。  既婚女性の就労を促すうえでは、育児休業の普及が課題になるわけで あります。最近の施策の展開をみますと、平成3年に育児休業法が制定されまし て、平成7年度から完全実施されました。また、平成6年には雇用保険法の改正 によって、賃金の25%相当の育児休業給付が創設されました。また、同じ年に健 保法と厚生年金保険法が改正されまして、育児休業期間中の本人負担分の保険料 の免除制度が導入され、いずれも平成7年度から実施されたわけであります。 そこで、その後、現状はどうなっているかということなのであります が、表2をごらんいただきたいと思います。民間企業の被用者について、各種の 統計調査から平成7年の育児休業の取得状況をみますと、取得者が6万人。ここ では推計とあります。その後、労働省の雇用保険の事業年報を見せていただきま して確認したところ、平成7年度の育児休業の受給者数は5万9720人であります。 念のために申しあげますと、このうち、男性が 117名おります。おそらく内閣総 理大臣から表彰していただいていい方だと思います。取得しなかった者が2万人 ぐらいではないかと思われます。合わせて約8万人が、就労を継続しながら出 産・子育てをしていることになります。  しかしいちばん上にありますように、これは平成7年の出生児数 119 万人と比べて極端に少ないわけであります。また、同年度の政管健保と組合健保 の被保険者に支給された出産育児一時金の件数22万件と比べても約1/3という ことであります。実は被保険者に対する出産育児一時金は、資格喪失後、つまり 退職後6ヵ月以内であれば支給されますから、22万と8万の差は退職後の出産と みなしていいように思います。このように、女性の就労意欲が高まって いますが、大半は出産前に退職していて、育児と就労の両立の難しさがあらわれ ているわけであります。そこで育児休業を普及させるという観点からしますと、 育児休業期間を延長するとか給付改善といったことに加えて、実は事業主を支援 するという観点から、育児休業期間中の社会保険の事業主負担についても     保険料の免除を行う必要があると思います。これは、育児休業の取得者がいる 企業のみがリスクをかぶる今の制度が、育児休業の普及の制約要因になっている と考えられるからであります。 実は厚生省の人口動態社会経済面調査によりますと、育児休業をとら ない理由として「職場の雰囲気や仕事の状況から」というのが最も多くて47.1% を占めておりますが、おそらくノーワーク・ノーペイといいながら事業主負担だ けは引き続きしなければならないといった事情がかかわっているように思うから であります。 次に、短時間雇用と税制、社会保険のあり方について、考えているこ とをお話しさせていただきたいと思います。女子の雇用者が急増しているわけで すが、そのかなりの部分を短時間雇用者の増加が占めているといったことに注目 する必要があると思います。表3でありますが、昭和35年から平成7年までに、 男子は1.97倍、女子は2.78倍に雇用者が増加しました。そして、雇用者に占める 女子の割合は、31.1%から38.9%へと上昇しました。この38.9というのは、表1 の右側、上から二つ目の数字であります。  しかし、表4をごらんいただきますと、厚生年金の被保険者に占める 女子の比率は、この間に29.7%から33.2%への上昇にとどまっています。 昭和 40年を基点にしますと、昭和40年が32%ですから、それ以降は厚生年金の被保険 者に占める女子の比率はほとんど変わっていないということであります。実はこ れは、この間の女子の雇用者の増加の4割強が短時間雇用者、いわゆるパートタ イマーの増加によって占められていることによるものであります。 ちなみに表5、女子の雇用者数に占める短時間雇用者、これは週35時 間未満ですが、その割合は昭和35年は 8.9%でしたが、平成7年度では31.6%に まで急激に上昇しています。つまり、出産・育児のためにいったん退職した女性 が再び職に就く場合の雇用形態として、短時間雇用等の非正規雇用を選ぶ、また は選ばざるを得ない状況があります。 いずれにしてもここで問題にしたいのは、社会保障の財政面からみま すと、女子の雇用労働者の増加が必ずしも保険料負担者としての被保険者の増加 に十分に結びついていないということであります。その観点からも、育児休業の 普及だとか出産・育児支援による女性の雇用継続の促進が望まれるわけでありま す。 その一方で、短時間雇用者の増加の背景には、雇用調整が容易だとか 人件費の節約ができるといった雇う側、企業側の論理のほかに、既婚女性にとっ て就労しやすい雇用形態であるとか、家計補助的な収入しかもともと期待しない 者が少なくないといった、働く側の意向もあります。したがって、将来ともに女 子の短時間雇用は労働市場において相当な重みをもち続けるものと思われます。 また、こうした短時間雇用者の増加は、国際的な趨勢でもありまして、     雇用形態の多様化に伴う必然的な現象としてとらえるべきかもしれません。し かし、それでも税制や社会保険の適用が、就労調整を通して既婚女子の就労をゆ がめているという現状は無視できないように思います。 こういったことについ ては、表6、表7あるいは表8ででも明らかでありますが、税制でいいますと所 得税の非課税限度や配偶者控除の適用限度、社会保険でいいますと健康保険の被 扶養者や国民年金の第三号被保険者の認定基準の範囲内に収入が収まるように就 労調整をするという、就労抑制的な機能であります。  方向としては、専業主婦や短時間雇用者に対する各種の保護的な措置 を、この際、廃止することによって就労を促すとともに、短時間雇用者について も社会保険を適用し、社会保障の財政基盤を強化する必要があると考えています。  次に、年金制度を活用した出産・育児支援ということであります。出 生率の低下を促した長期的な要因として社会保障の充実があることは明らかだと 思います。戦前の女性にとって、結婚というのは就職することであった、あるい は子というのは老後に備える資産であったわけであります。今では、働く場があ って、老後の社会保障の支えがあります。雇用機会の拡大とこうした社会保障の 充実が女性の生き方の選択を広げた、女性の自立、解放を促したという意味で、 社会の大きな進歩であります。 しかし逆に今日では、出産・育児は就労希望の 女性の足かせになり、家計にも大きな負担になってきました。  問題は、次の社会の担い手を産み育てることの社会的な価値が十分に 評価されて、それにふさわしい社会的支援が行われていないということでありま す。表9をごらんいただきたいと思います。平成5年度の児童関連の社会保障費 は1兆4140億円でありまして、対国民所得比 0.3%、社会保障費に占める割合も 2.33%であります。このうち、児童手当だけをとれば2019億円、対国民所得比で は0.05%でありまして、ヨーロッパ諸国に比べてほぼ2桁低い数字になっていま す。 老後保障については、年金、医療、そして今後は介護も、所得階層や 家族の有無を問わず社会全体で支え合うという普遍的な保障を進めているわけで あります。これが大きな流れであります。このように高齢者の扶養を社会化する のであれば、出産・育児に関しても高齢者扶養とのバランスのとれた社会化を進 めなければ、順送りの世代間扶養は成り立ちません。現代社会で子を産むという ことは、将来、高齢世代を扶養する社会の子を産み育てることであります。戦前 のように結婚や出産が事実上、強制される社会であってはなりませんが、子を産 まない人も、租税や社会保険料の負担によって出産・育児支援に参加するという 出産・育児の社会化が不可欠だと思います。そうでなければ、他人の子が財源を 支える社会保険によって老後の保障を得るという、いわばフリーライダーが   発生するからであります。 近年、ようやく施策の改善が進みつつあるわけですが、さらにそれを 基盤として本格的な出産・育児の社会化を推進するうえでは、順送りの世代間扶 養を基本原理としている公的年金制度の中に出産・育児支援事業を組み込むべき ではないかと考えています。 どのようなことが考えられるかということですが、まず第1に、児童 手当を国民年金に吸収して所得制限を廃止したうえで、対象年齢の引き上げを行 う。少なくとも義務教育終了まで、できれば高校卒業まで引き上げるということ であります。そして支給額についても、経済的に意味のある水準にまで給付の改 善を行うことであります。現在は、第一子、第二子にそれぞれ5000円、第三子以 降、1人につき1万円、しかも所得制限があるというものでございます。所得制 限を廃止するのは、社会の子であれば、親の所得は無関係に支援されるべきだか らであります。  改善に要する費用は、現役世代の負担金と公費、国と地方負担によっ て賄う。なお、現役世代の負担金は年金の保険料に上乗せして徴収することとし て、被用者については労使の折半負担が妥当ではないかと思います。また、もと もと児童というのは社会保険原理になじまない分野であります。まさに偶発的な リスクではないわけであります。そういう意味で社会保険になじまない分野であ りますし、それから、介護や育児に資源を重点配分するという社会保障の構造改 革のほぼ合意を得つつある方向性からしても、公費の思い切った増額を行うべき だと考えます。少なくとも基礎年金に対する一律の国庫負担率の引き上げよりは 優先すべき課題だと思っております。  さらに、児童扶養控除の廃止による財源の捻出も検討課題になると思 われます。そのうえで、さらに被用者世帯の子については、労使の追加的な負担 金によって付加給付を行うことも検討してもよいように思います。このような児 童手当の改善を進めるにあたっては、施設保育との調整が不可欠な条件になると 思います。調整方法は次のいずれかになると思われます。  まず第1は、原則として保育所への公費補助を廃止して、利用料を全 額自己負担とするということであります。この場合、保育所と利用者の関係は直 接契約制になりまして、児童手当で保育サービスを買う形になります。  第2は、児童手当の財源の一部を保育所へ補助し、保育料を一律に軽 減する現物給付制が考えられますが、その場合には児童手当との給付調整を行う。 つまり、公費補助を受けて保育所を利用している場合には、児童手当を減額する か支給停止にするということであります。そうすることによって、家庭保育と施 設保育との均衡をはかる必要があると思います。また、産前産後6週間、8週間、 それぞれ被用者については出産手当金が標準報酬日額の60%出ますが、それと改 善される児童手当との調整も必要になると思われます。 第2に、医療保険の出産育児一時金を国民年金の給付に移管し、加入 期間の要件を儲けるということであります。財源的には、医療保険から出してい たものを年金保険から出すわけですから、振り替わりにすぎないのですが、若い 世代と年金との新たなかかわりが生まれ、国民年金の基盤強化にも資するように 思います。出産育児一時金は健保・共済では30万円、国保もほぼ同額になってい ますが、この30万円、わずかでありますが、国民年金の保険料に置き換えると子 1人でも2年分に相当する。 子2人であれば4年分の保険料に相当するわけで す。しかも年金では加入期間の要件がつきますから、若い世代の拠出インセンテ ィブを高める効果も期待できます。もちろん単なる振り替えではなくて、一時金 の額そのものを高めるということも検討課題になるかと思われます。  さらに、こういった施策を進めていきますと、社会保障のうちの普遍 的な所得保障部門を年金制度に統合するところまで発展せざるを得ないように思 います。出産関連給付のほか、傷病手当金も年金保険に移管してはどうかという ことであります。これによって、所得保障における短期給付と長期給付の体系的 な整合性も確保でき、その一方で、医療保険を医療保障制度として純化できるよ うに思います。  最後に、保育所改革の課題ということでございます。このたびの児童 福祉法の改正につきましては、中央児童福祉審議会の基本問題部会の委員として 検討に参加させていただきました。その場でもいろいろ申しあげたことでありま すが、社会全体で支える仕組みを構築するという表現には入れていただきました が、私がそこで発言したことからすると、きわめて不十分な改正だと思っており ます。出産・育児支援にあたっては保育所改革の推進が不可欠な条件になる。し かし、今回の保育所改革はいわば大きな改革に向けての小さな第一歩であって、 本格的な改革に向けて検討を急ぐ必要があると思います。  まず改正は、保育料の均一化を目指すとしているわけですが、実際に は、現在10段階に分かれている保育料を7段階程度に簡素化するにとどまるとみ られております。その直接的な理由は、公費負担増が困難だという財政的な理由 によるものであります。つまり、低所得者に配慮しつつ均一化を進めるというこ とになると、公費負担増が不可欠な条件になりますが、それを許す財政状況にな いということでございます。 しかし、仮に財政的な制約が緩和されたとしても、保育料の均一化を 進めるとすれば、家庭保育との均衡が必要になります。つまり高所得者であって も、均一保育料になりますから公費補助がいくことになります。 その高所得者 の保育料が軽減される一方で、家庭保育にはなんら手当が支給されないという問 題が生ずるからであります。つまり、保育料の均一化を進めるうえでの論理的な 帰結としても、先ほど申しあげましたような普遍的な児童手当制度が必要になる と思われます。 それから、社会保障のサービス部門、医療とか福祉部門の改革のキー ワードは、利用者主体、選択、競争、あるいはそれを促す供給主体の多様化、規 制緩和、民間活力の活用といったことであります。その観点からみても、改正は 大きな課題を残しているように思います。改正では、情報開示を条件にして基本 的なサービスの利用については措置制度を廃止して、希望する保育所名を付して 市町村に申し込むこととしている。 市町村に申し込む、それから市町村が施設 に保育を委託するという関係ですから、利用者・市町村・施設の関係は実質的に は従来と変わらない。変わるのは延長保育や一時保育といった付加的なサービス で、これは直接契約制になる。いずれにしても、供給が不足しているにもかかわ らず介護保険は直接契約であります。一方、マクロ的には供給過剰だと いう保育の分野において、なぜ直接契約制を基本に置けないのか、私は理解でき ないわけであります。 また、従来と同様に認可保育所が市町村立と社会福祉法人立に限られ ます。介護保険では、在宅に限っていますが営利法人の参入も認めることとして おります。しかも現行制度のもとでも、当面、既にホームヘルプサービスや入浴 サービスは委託を進めていますが、新たにデイサービスやショートステイ、在宅 支援センター、訪問看護にまで営利法人への委託を拡大する方向で検討が進めら れているといわれますが、保育サービスではなぜ営利法人は排除されるのか、こ れも理解できないわけでございます。 そういったことが、きょうは特にお話ししたかったことでございます。 宮澤会長 ありがとうございました。限られた時間を有効に配分していただきま して、ありがとうございます。それでは、どうぞご質疑をお願いいたします。 井上委員 どうもありがとうございました。今の女性の就労促進あるいは出産・ 育児支援という問題は、二つの側面があるように思うのです。一つは、社会政策 と申しますか、そのこと自体が望ましいかどうかという観点からの見方と、もう 一つは、これが、私どもがここで問題にしております少子社会にとってどういう 意味があるかということであろうかと思うのです。私の質問はこの第2点に関す ることで、ここでいろいろ提案されましたことが、いったい出産に対してどうい う影響をもつのかということなのです。ヨーロッパの諸国では、いろいろなこれ に類した政策がとられてまいりました。成功したところもあるようですが、成功 しなかったところもたくさんある。日本でこれをやって、もし出産力に影響を与 えたいということから考えますと、どの程度の支援が必要になってくる のだろうかということがまず第1点。  それから、少子化ということが問題になりますときに、その原因とし て既婚者の出産はそんなに問題がないのだ。むしろ晩婚化とか非婚化とかいうこ とに問題がある。これに対して、提案されたようなことがどういう効果があるの だろうか。  この2点をお伺いしたいと思います。 山崎教授 私は、結婚しなさいとか、子どもを産みなさいとは言っていないので ございまして、制度、政策を中立的にしてほしい。高齢者の扶養を社会化しなが ら、子どもの養育について基本的に親の責任、法的には親の責任でいいのですが、 実質的に相当社会化を進めないとアンバランスである、不公平だということであ ります。  それから晩婚化ということなのですが、これも、結婚しなさいとか早 く結婚しなさいということではなくて、そういった人も子育て支援に参加すると いう仕組みが必要だ。これも中立化するということであります。  今の制度は、明らかに子どもを産まない、結婚しないことのほうに有 利になっている。そのゆがみだけは正したい。結果的に結婚が促進されるだとか 子どもが増えるかどうかについては、特に私はこだわらないのでございます。 福田委員 短期間の雇用者、女子の場合にはパートタイマーが非常に多い。そし て実際、先ほど、表の5でお挙げになりましたように、増えているのはパートタ イマーばかりといってもいいほど明らかでございます。この点の国際比較で、先 ほど、国際的な趨勢だというお話がございました。その中で、ちょっと私も聞き 損なったのかと思いますが、なお日本には著しい傾向があるということでしたが、 もうちょっとその点を伺えたらと思います。  母親になっても働こうという人たちの組織を最初につくったのは、40 年ぐらい前かと思います。そのころは、キャリア志向の婦人たちがそういうこと をおやりになった。パートタイマーが非常に有利に扱われていることは、お挙げ になったところでもたくさんそういう条件があるわけでございますが、人口が停 滞して労働力が不足していくうえで活路を女性の仕事に求めるとすれば、いつま でもこういうことはやっていられないだろう。 もっと申しますと、女性が全く平等に社会の中に参加していくことに 新しいビジョンをもってもいいのではないか。そういう観点からいいますと、 パートタイマーばかりが増えていくことに対して何か考えなければいけない。そ れを伺ったわけですが、国際比較の点でもう少し補充していただくことがござい ましたら、承りたいと思います。 山崎教授 国際的にどこの国でもパートタイマーの割合がどんどん増えてきてい るのですが、たしか労働省が調べたところによりますと、これはOECDのデー タだったと思うのですが、それでも日本は高いということでございます。  それから、本格的な就労を望む人にはその条件を整える必要があるの ですが、将来的に、今いいましたように国際的な大きな流れからしても、相当 パートタイマーは残るのだろう、そして一概に否定できないと思うのです。しか もこれは、女性だけではなくて男性のパートタイマーも、特に高齢者を中心に増 えるのだろうと思うのです。ある意味ではかなりノーマルな就労形態の一部にな るのかなと思います。  ただ問題は、そのことが税制面で有利だとか社会保険の面で有利だと かそういったところにあるわけで、労働時間は短い、したがって賃金は低いなり にも、支える側に回っていただくことを考えないといけないと思うのです。 宮武委員 年金の問題でお聞きしたいのですが、一つは、子どもを多く産み育て た人ほど年金の保険料をたとえば減免をするという考え方について、山崎さんは どんなお考えであるかということ。  2点目は、専業主婦年金保険ただ乗り論というのが大変盛んでござい ますが、しかし現実に専業主婦から保険料をとる場合、大変難しい問題が多々あ るかと思います。一つは、国民年金に入るという人であれば、その国民年金から どうやって徴収するのか。夫の勤務先でそれを天引きすることになると、雇用主 は当然なからいやがりますし、そうすると今の滞納とか未加入がドッと増えてし まうのではないかという点、何かアイデアをおもちであるかどうか。  もう一つ、パートのほうも年金なら年金の保険料を払うことになりま すと、当然ながら雇用主側は半額負担というのを大変いやがるわけでございます。 たとえばそういう場合に、パートの場合は年金の保険料もパート並みに安くする とかそんなことが考え得るのかどうか、その辺、何かお教えいただけることがあ ればと思います。 山崎教授 最後の点については、賃金比例、低い賃金に見合って低い保険料を労 使で負担していただくということでいいのだろうと思います。  それから、子どもをたくさん産んだ人ほど年金を上げてはどうかとい う意見が……。 宮武委員 上げるか、あるいは保険料を減ずるか、どちらかでしょう。 山崎教授 なるほどね。年金の給付水準は、ある一定の水準、社会的な合意が受 けられる水準を保障しようとしているわけですね。子どもをたくさん産んだ人が 老後の生活費がたくさんかかるというのであれは、それはそれで結構ですが、ど うも素直には受け取れないのですね。非常にわかりやすい議論ですが。むしろ負 担面で調整をするほうがいいのではないか。それも、みんなで保険料を納めて、 そして子どもを産んだ人が給付を受けるという形で実質的な調整が進むというの がいいと思います。  今、雇用保険の育児休業給付も、それから健保の、あるいは年金の保 険料免除も、みんなで負担した保険料でその給付なり免除の財源を捻出している わけですから、そういうソフトなやり方のほうがいいのであって、あなたは子ど もを産んだ、産まない、だからこうだという社会は、私はあまり好きではござい ません、ということです。  第三号被保険者の問題については、これは日本では割り切るのはまだ まだ難しいのだろうと思うのですが、長期的な趨勢として女性もすべて働ける社 会になるのだ。そういう社会にあって家庭にいるというのは本人の選択だという ことになると、今のような保護を与える根拠はないのではないか。しかし現実に は、出産・育児だとかお年寄りの介護で就労が制約されているという部分につい ては、なんらかの配慮が今後とも必要なのだろうけれども、しかし親の介護の制 約もない、子どもも大きくなってしまった。働く機会もある。にもかかわらず家 庭にとどまっていることについては、これは負担をしていただくのが本来ではな いかと思います。 袖井委員 お聞きしたいことは、所得格差を是正するというか平等にするのに、 税でやることと手当でやるというのとあるのですが、山崎先生の場合はいろいろ な控除はやめると理解してよろしいですか、たとえば配偶者特別控除だとか。そ して手当でやる。 山崎教授 はい。 袖井委員 もう一つお聞きしたいのは、施設と家庭保育の平等化をはかるという ことですが、今、実際に比率はどのぐらいになっているのか、教えていただきた いと思います。 山崎教授 それは事務局にお願いしてください。中児審で申しあげたのですが、 実は今の制度でもちょっと問題があるのです。児童手当はすべての子どもにいき ますね、所得制限つきながら。一方、保育所に預けた場合には公費の補助がある。 保育所に預けて公費の補助を受けながら、なお児童手当を受給しているわけです、 同じ厚生省の中で、ということなのです。 わずかな児童手当ですからあまり目 くじらを立てるほどのこともないと思うのですが、私が言いますように本格的な 児童手当の改善をはかることになると、そのあいだの調整が必要だ。児童手当が 十分なものを出しているのだったら、それで保育サービスを買ってもらう、ある いは保育所に補助をつけるのであれば、児童手当は支給停止する、というふう     なことを考えていただかないといけないと思います。 宮澤会長 今まで出たご質問をあれしますと、特に制度間の調整とか関係、育児 関係、それから年金の調整とか、そういう調整を考える場合に、今までは比較的 日本の制度はアドホック的にできてきたわけで、そういうことでおかしいところ を調整するというバランスがあります。と同時に、制度間の調整をするには、原 理が違っておって、原則が違っておって、それを調和させるとか、あるいは新し い発想が必要であるとか、あるいは先ほどお話に出てきました短期給付と長期給 付は性格が違うので、これをきちっと整備するということがベースにあっていろ いろな制度間の調整が行われるとか、今の子育て問題に対する効果とか見方につ いても、哲学がだいぶ調整の仕方が違ってまいりますね。ですから制度的な側面 ではなくて、原理的考え方の側面で留意すべき点は、こことこことここ がきちっと揃うと調整の方向性がはっきり出てくるという点では、今は長期給付、 短期給付の差とかいろいろございましたが、どういう整理をしたらよろしいでし ょうか。 山崎教授 宮澤先生には大変な問題をいただきまして、ちゃんとお答えできない のですが、先ほど申しあげましたように所得保障の部門というのは、なにか年金 の体系に全部吸収したらどうかなという感じがするのが一つと、それから現役世 代が年金でも医療でも相当な部分、そして介護でも同様ですが、高齢者を支える というのと同様に次の世代を支える。そして順送りの扶養を回転させていくとい うのが非常にわかりやすいのではないかなと思うわけでございます。  それと、あえていいますと、今の児童手当の財源は、公費もあるので すが、それは一部でございまして、8割強は事業主の拠出金に依存しているとい う非常にゆがんた形であります。経営者団体がときには廃止論をお出しになるの もわかるような気がするのです。事業主にも応分の負担をしていただくことは大 事なのですが、それとともにわれわれ国民一人ひとりが目にみえる形で負担する ことが、出産・育児の社会化といいますか普遍化を進めるうえでどうしても必要 なのではないかという感じがいたします。 宮澤会長 どうもありがとうございます。そういうインセンティブの面とか、社 会的な責任の分担の面できちんと目にみえるようにしたほうがよろしい。企業負 担も結構であるけれども、そのことだけで負担の構造がかえってぼやかされてし まうのではマイナスになる、こういうことでございますね。 山崎教授 はい。 宮澤会長 どうもいろいろありがとうございました。まだご質問がおありかと思 いますが、次に移らせていただいてよろしゅうございましょうか。  それでは、続きまして東京学芸大学教育学部の山田昌弘助教授並びに 東洋大学経済学部の永瀬伸子専任講師から、「少子化の社会・心理的要因に関す る調査研究」についてご報告をお願いいたします。 山田助教授 おはようございます。東京学芸大学の山田昌弘でございます。 本報告は、年金福祉総合研究機構の平成8年度の事業の一環として、厚生省の ご協力をいただいて行ったものです。少子化の社会・心理要因に関する調 査研究会、代表は東京学芸大学・神宮英夫先生なのですが、きょうは所用によっ て出席できませんので、全体の報告部分を山田昌弘が代理で行わせていただきま す。そしてあと、私の部分と永瀬先生の部分を続けて報告させていただきます。  本調査研究会の狙いと方法というのは、まず未婚化、少子化の社会的、    心理的要因の解明となっておりますが、結婚や子どもをもつことに関する無意 識的なレベル、本音のレベルの要因を発見して分析・検討するということです。 たぶんこの部分は、政策的には最もコントロールしにくい部分かと思います。で すから、山崎先生のご報告のように直接細かい政策に役立つものであるかどうか というのは、今後の問題にかかってくると思うのですが、実はこの無意識的な本 音の価値観、意識、感情といったもののなかに現代の少子化や晩婚化の本質があ るのではないかという意識をもちまして、研究会を運営してまいりました。  方法としては、インテンシブなインタビュー調査と、いわゆる印象評 定心理テストというものを組み合わせて実施いたしました。これは質問調査の限 界、つまりあらかじめ答えが想定されている、たとえば子どもを何人もちたいか といったときに、3人のところに〇をつけたからといって、ほんとうに3人ほし くてつけたのか、まあ2人でいいと思っているのだけれども、とりあえず3人の ところに〇をつけておこうかといったような微妙なところが反映されない。そう いうものを補うものとして行いました。  サンプルとしては、インテンシブな調査でプライバシーに踏み込んだ 質問をしているために、協力者は限定されているのですが、出来る限り幅広い層 を抽出することに心がけました。20歳から42歳の男女 166名、男性43名、女性 1 23名。女性は、首都圏では専業主婦、セールスウーマン、大企業雇用者、地方の 大企業雇用者、主にマニュアルワーカーの人たちを対象にいたしました。男性の 場合は、首都圏、地方の大企業雇用者を対象にいたしました。 ただ、男性に関しては、今いちばん結婚難が深刻になっている自営業 の跡継ぎとか過疎地の農家であるとか、都市であれば中小企業雇用者といった経 済力の低い層のサンプルが抜けていることは、一つの欠陥だと思います。女性に 関しても、不安定なサービス業従事労働者が抜けていることに注意しなくてはい けないと思いますが、インテンシブな調査の限界としては今後の課題にしていき たいと思います。 調査結果の概要にまいります。得られたインタビュー記録や心理テス トの結果をもとに、経済学、社会学、人口学、心理学の各分野の研究者がそれぞ れ得意の方法で分析を行うという形で行いました。神宮、小島、成田は主に心理 テスト結果を分析を行いまして、永瀬、山田、小嶋、青木は主にインタビュー記 録に基づいて分析を行いました。 その報告書の内容ですが、まず永瀬先生はきょういらっしゃっていま すので、後ほど報告いただきます。山田の部分も、後ほど報告いたします。2 ページにまいりまして、ほかの先生の部分をごく簡単にご紹介申しあげます。  まず「親になること」ということに関する心理的印象テストというの を行ったわけですが、国立社会保障・人口問題研究所の小島先生は、男女とも、 保育所利用者もしくは利用を予定するといっている者が親になることについて否 定的印象をもつという結論を出しておられます。また、女性で高学歴で子どもが いない者が、比較的親になることについて否定的印象をもつという結果を報告な さっております。  次に東京学芸大学の成田先生は、親になることについての印象テスト の構造分析というものをいたしまして、男性も女性も親になることは責任と魅力 という二次元で把握している。親になる責任意識が強い人と弱い人がいる、親に なることが好きな人と嫌いな人がいる、それを組み合わせているのですが、専業 主婦はその責任が消えてしまっている。つまり親の責任はあたりまえで、現実的 に「ある・ない」どという問題ではなくなっているということを報告なさってい ます。  次に東京学芸大学の神宮英夫先生は、親になることについて肯定的印 象をもっている人は、子育てや親についてなんらかの自分なりのモデルをもって いる。つまり、親に関して受容的であれ拒否的であれ理解しているのに対し、否 定的印象をもっている人は子育てについての大変さを強く意識しているという結 果を出されています。そこから、自分の親以外のモデルをつくるようなきっかけ をつくることが重要ではないかという結論を導いていらっしゃいます。  都立大学の小嶋先生は、未婚女性の結婚観と子育て観、既婚女性子あ りの子育て観について分析を行いました。都会の未婚女性の結婚観は、かなり結 婚に対して漠然としてイメージしかもっていないが、結婚したくないというわけ ではない。ただ、結婚は自由がなくなると思っている。 つまりこれは、あきら めることをしないままおとなになって社会に出ていく女性が多いからではないか というふうに分析なさっています。  未婚女性の子育て観に関しても、子どもはほしくないから未婚でいる という人は非常に少数で、子育てもしてみたいとは思っているのですが、子育て において耳年増状態にある。子育てはあまりにも大変だ、大変だと周りに言われ 続けているために、非常に耳年増状態になっているという状況を分析なさいまし た。  次に、子どものいない既婚者及び独身男性にみる出産・育児をめぐる ライフプランの現状と課題ということで、東京都立大学の青木先生が分析なさっ ていますが、子どもがいない既婚女性、既婚男性、未婚男性は、既婚女性は男性 に比べて子どもを切望しているけれども、子どもを育てるうえでの葛藤、不安が 強く、子育ての見通しに関する現実性・適応度に問題がある。これは逆にいえば、 男性は既婚、未婚を問わず、子どもに関してはどうでもよい、どうにかなると思 っている。つまり、子どもをもっても自分の生活が変わると思ってはいないとい う結論が導き出されました。  この部分は私は勝手にまとめさせていただきましたので、もし質問が あったとしても、完全に答えられないかもしれませんので、その点についてはご 容赦いただきたいと思います。  次に、少しお時間をいただきまして、私、山田昌弘の分析部分につい てご報告していきたいと思います。参考資料の1と2をコピーしていただきまし たので、資料2の3ページの部分はここの要約版ですので、参考資料1に基づき まして報告をさせていただきたいと思います。  私は、豊かな社会の少子化ということで分析を行いました。そして、 三つ結論を出したのですが、結婚が人生のゴールというわけではないですから、 苦労をしてまで結婚をしたいと思わないというのが第1点。  第2点は、子どもをたくさん産むのがゴールではないですから、苦労 してまで子どもをたくさん産もうとは思わない。  そして、特に女性にとっては仕事をすることがゴールではないですか ら、苦労して仕事と子育てを両立させてまで子どもを産もうとは思わない、とい うことが出てまいりました。  まず要約を先に話させていただきますと、インタビュー記録をもとに、     未婚でとどまる理由は何か、子どもをもう一人産まない理由はなぜか、仕事と 子育てを両立できない理由はなぜかというのをみてみますと、未婚者は、結婚し たくないわけではないし、子どもをほしくないわけでもないし、女性は仕事と子 育てを両立させたくないわけでもない。しかし現実の経済状況を考えた場合、生 活水準を落としてまで未婚者、特に親元の女性は結婚したいとは思わない。また、 苦労してまで子どもをたくさん産もうとは思わない。女性は、苦労して両立させ てまで仕事をしようとは思っていないし、男性は、育児を手伝ってまで妻が仕事 と育児を両立させることを望んでいるわけでもない、ということがインタビュー 記録から推測できました。  結論を先に申しあげてしまいますと、豊かな社会というのが結婚や子 育てのネックになっている。つまり、豊かな親元に育って、親元でのシングル生 活が豊かであるために、親から独立して若くして結婚することは生活水準の低下 を引き起こすという事実。子どもを豊かな環境で育てるために、たくさん子ども をもつことは生活水準を下げる効果しかもたらさないという事実。女性にとって 魅力ある仕事が少なく、両立させてまで仕事に就きたいという希望はないし、生 活のために経済責任を負うという意識がない。男性にとっては、育児、家事を逃 れることが優先課題になっているために、手伝ってまで子どもをたくさんつくろ うとは思わない。この事実が少子化の原因であろうと推測されます。  具体的に分析に入らせていただきます。3ページに入ります。  分析1が、なかなか結婚しないのはなぜかという点について、インタ ビュー記録を分析してみました。結婚意思は強く、男性は自分次第、女性は出会 い次第と思っているのは明白です。未婚化、晩婚化が進んでいますが、一生結婚 したくないと思っているのは非常に少数です。ここに書いてあるように、実際の 調査でもごく少数でした。  結婚の見通しに関しては、男女の差が非常に激しくなっております。  男性は、なんとなく結婚するものだと思っていますし、そして、結婚できるか どうかは自分の能力や決断次第。たとえば経済力がつくとか妥協すると思ってい る。これは、今回の調査が大企業勤務という経済的には安定して、あまり結婚難 が起こっていない層であることが影響していることはたぶん明白だと思います。 しかし女性は、「しなくてもいい」という発言に代表されるように、いい相手に めぐり合えばという比較的受動的な意識が強い。  つまり、結婚できるかできないかは、男性は自分の条件、女性は出会 った相手の条件と思っている。これは、男性は選ぶ、女性は受けるかどうかを決 めるという結婚に関する古い習慣が残っているとともに、男性はだれと結婚しよ うが生活に変化はないと思っている、女性は、相手によって生活が変わってしま うといういわゆる生まれ変わりの意識をもつ女性がまだ非常に多い、そういう男 女の結婚意識の差のあらわれです。  まず未婚女性について分析いたします。  結婚のイメージをみてみますと、結婚に夢や希望を抱いている人は非 常に少ない。20〜30年前までは、結婚すれば幸せになるという意識はあったので しょうけれども、ちょっと私もよくわからないのですが、結婚に関しては利点と 不利な点が両方あると意識している人が多い。今の若い人は恋愛と結婚は分離し ていますから、べつに恋人があっても、その人と結婚する・しないというのは自 由で、逆に、結婚するなら経済条件と考える人が増えてきていることは確かだと 思われます。結婚自体に夢を抱かないからこそ、結婚後の生活条件が問題になる わけです。 まず経済条件は必須でありまして、たとえば地方のノンキャリアの女 性は、結婚相手の条件として、ある程度の収入、経済力を挙げる人が多いし、ま た本音として、女性は結婚する相手によって、将来、楽に暮らせるか、あくせく 働かなくてはならないかが決まってしまうという意見が非常に根強く残っている わけです。 また、小島報告の中で「女性は結婚について漠然とした意識しかもっ ていない」とあるのは当然でありまして、女性は結婚すると相手の条件によって ライフスタイルが全然違ってきますから、描きようがないというのがあるのだと 思います。ただ、都会の大卒女性の中には「生活を新しくするために結婚資金が たまるまで」とか「生活を始められるだけのお金がたまったら」のように、自分 の力で結婚生活のための資金を稼ぐという意識も出てきましたが、それも「結婚 まで」という条件つきという点が男性とは異なっています。 ただ、今の生活は十分に楽しいといっているように、現在の生活、こ れはご存じの方もいるかと思いますが、親元での生活水準が非常に高すぎる。今 以上の生活ができる収入をもつ男性があらわれる確率は低いので、未婚化、晩婚 化が生じる。つまり専業主婦志向の女性ほど結婚しにくいということが明白なわ けです。 未婚の女性の場合は、特に母親との関係が重要なファクターとして効 いてきます。少子化ですから親と同居している女性が非常に多くなってきていま すが、親と離れるという選択をしたがらない。「婿養子でなくては結婚しない」 というのは1例だけでしたが、大卒の研究者、地方高卒ノンキャリアの別なく、 結婚しても親の近所に住みたいという意見が目立ちます。つまり、自分の家族と 暮らしてわがままし放題というように、親の子どもに対する甘さが結婚を妨げて いることは明らかであります。生活水準を落としたくないために親元を離れたく ないという、私はパラサイトシングル、寄生シングルというのを少し前に新聞に 書きまして、パラサイトという言葉はいやだという意見もあったので、親依存娘 といったらいいのでしょうか、人口系の調査でも、ここ10年で増えてい るのはひとり暮らしの女性ではなくて、20代後半で未婚のままとどまっている女 性の増加分のほとんどは親元に同居する女性なわけです。 たとえば、デパートで高額商品を買ういちばんのお得意様は、親と同 居している専業主婦志向の30前後の女性である、などということがいわれていま す。若い男性と結婚して安い給料のもとで暮らすのだったら、豊かになった親の もとで、母親に家事をやってもらって父親に養ってもらって暮らしたほうがいい という女性が増えていることが、私は未婚化の原因だと思っていまして、それが インタビュー調査などでも明らかだと思います。 つまりパラサイトシングルという意識をもつのはほとんど女性であり まして、今回のサンプルでも、結婚に際して親と近いところに住むという条件を 挙げたのは女性のみです。女性にとっては、親の利用可能性が夫の経済力ととも に結婚後の生活水準を決める重要な要素であります。 つまり、親の援助が期待 できない層と利用可能な層との不公平が広がっていることが一つ、ここに現実と してあるのではないかと思います。 未婚男性の場合は、お金をためるまで結婚できないということを挙げ る人が多かったです。未婚男性の場合も女性と同様に経済力を挙げるのですが、 女性の場合は出会った相手の経済力が条件になるわけですが、男性の場合は自分 の経済力でして、それも、そのままずばり「お金がないから結婚できない」とい う言葉を使います。 結婚を予定している女性がいる男性でも、彼女に内緒で借金があって、     それを返済するまでできないとか、彼女がいない男性でも、将来の見通しが決 まらないと結婚は無理とか、貯蓄ができてから、つまり結婚後、ある程度の二人 の生活をひとりで支えられるようになるまで結婚を引き延ばそうとする傾向があ りますし、地方高卒グループになりますと、披露宴や式で 400〜 500万全部使っ てしまったら、その後の生活ができなくなって女性がかわいそうである、とか、 結婚するためにはそれなりの支度金が要る、というように、結婚可能な経済的条 件を具体的に示す未婚男性が多くなってきます。 男性には自力で女性を養うべきという意識があるから、年功序列で親 の経済が高く若い人の経済力が低い今の経済状況のもとでは若い人に不利ですか ら、結婚が遅れるわけです。  逆に既婚者のデータをみていますと、結婚後の生活を女性に支えても らってありがたいという意識をもっている人は、むしろ男性既婚者に多い。そし て未婚者に多いのは、男が養うものだという男のこけんにかかわっている人は、 一定の経済力があっても結婚しにくいという結論が出てきます。  次に、妥協しないと結婚できないというのは、男性のほうがロマンチ ストだとよくいわれますが、ロマンチックなものをもっているからなかなか結婚 できないのだというのが一つあります。何人もの女性とつき合って、べつに女性 とつき合ったからといって結婚しなければいけないわけではありませんので、い いところと悪いところがあるとか、テレビで見るようなきれいな女性が身近にい ないから結婚しないのだと、蹴飛ばしたくなるような発言なのですが、言葉がす ぎましてすみませんでした、つまり理想的な彼女があらわれなければ結婚しない という男性が、大卒の経済的には結婚可能と思われる層に多くみられました。  つまり、男女交際が増大すれば結婚が多くなるというのは逆の話であ りまして、男女交際が多くなればなるほど、つまり選択肢があればあるほど選び にくくなるという状況があります。ただ、男女交際が少なかった時代は、出会っ た異性がみんなすてきにみえたわけですが、今は男女交際が一般化していますの で、調査でもあらわれていますが、自分が好きな相手には断られ、自分がどうで もよいと思っている相手から告白されるという状況が今、広範に起こっているよ うです。  最後に、未婚化に関しては専業主婦願望が結婚を遅らせるとまとめて いいのではないかと思います。女性は、ある程度の生活条件を保障してくれる男 性がなかなかあらわれないために晩婚化して、男性は結婚後の生活水準に対して 責任を感じるがゆえに結婚が遅れる。裏返せば、男性は女性に育児・家事を求め、 女性は育児・家事責任を自分でかぶる代償として経済力を男性に求めていると解 釈できます。つまり、男性はお金がたまるなり収入が多くなりさえすれば結婚で きると思っており、女性は経済力のある人に出会えさえすれば結婚できると思っ てます。  そして双方が結婚できない理由は、現在の経済条件が若い男性に思っ たようにはお金がたまらない構造になっているからです。高度成長期前までは育 った若者の環境は非常に貧しかったわけですから、結婚しても生活水準の低下を 経験しなかった。結婚後の生活水準の理想がもともと低いので、未婚男性の経済 力が相対的に上回っていた。しかし現在、低成長期で年功序列を維持している社 会ですと、若い人の親が豊かになってしまっていますので、結婚後の生活水準の 理想が未婚男性の経済力を相対的に上回ってしまっているということが起こって いる。何度も言いますが、男性は専業主婦を求め、女性は専業主婦になりたがる 傾向が強いゆえに生じている現象です。男女双方とも専業主婦がぜいたくな存在 になりつつあることを認識していない。 これもあたりまえだろうと思うのですが、苦労してまで結婚したくな い。先日の総理府調査におきましても、生活が豊かであると感じる人は20代女性 に非常に高い数値を示したことは、皆さんご存じだと思います。 中の上の人が いちばん多かったのが20代の女性でした。つまり、親元で豊かに生活を享受して いる人が非常に自分は豊かだと思い、結婚難に陥っている。女性は、結婚してま で自分の生活水準を落としたくない。男性のほうは、結婚して妻に生活水準を落 としたと思われるのは男のこけんにかかわるということで、これは半分、夢物語 なのですが、次の3点が考えられます。  一つは、男性が女性にも経済上の責任を求めてもよいという意識をも ち、女性も、自分の稼ぎで結婚後の生活を支えるという意識をもつことが必要で ある。そして、その代償として男性にも家事・育児の責任があるという意識をも たせる。未婚女性に実の親を経済的に頼らないようにする。もちろん男性にも親 を経済的に頼らないようにすることが有効であるが、なかなか難しいというのは、 1、2、3とも苦労が伴うからです。苦労するぐらいなら結婚を急ぐことはない、 場合によってはしなくてもよいと思っている人にとっては、1、2、3の意識変 化に向かうことはあり得ません。  それゆえに、未婚化、晩婚化を食い止めるためには、結婚の魅力自身 が強まる、貧乏しても結婚したいと思うような状況をつくるか、未婚者の生活水 準を下げるしかないのですが、親元の未婚者にペナルティを与える。ひとり暮ら しの人と親元に住んでいる人の生活水準の格差は広がっていますから、たとえば そういう人からは贈与税をとってしまうなどという方法もあり得るのかなという 気はしますが、現実みはないかもしれません。  長くなりましたので、あとは少しはしょらせていただきます。  7ページ、「子どもをもう1人産めないのはなぜか」いうところにま いりますと、「もう1人ほしいけどなかなかできない」という回答がありますが、 インタビュー記録をみる限り切実感が感じられなくて、「なんとなくこのくらい がよい」という回答からわかるように、満足度は高い。希望3人、実際2人とい う数字は、産めなくて不満というギャップではなくて、条件を整えればもっと産 むはずという説はどうも成り立たないような気がします。これもインタビュー記 録から生み出された私の勘ですので、今後の統計的実証に待つ問題ですが、すべ て読む時間がありませんので、代表的な結論だけいわせていただきます。  たとえば首都圏の専業主婦グループは、非常に高学歴で「もう1人ほ しいのだがなんとなくできない」とか、専業主婦だから3人、4人産めるという わけではない。1人では淋しいけれども3人では多いという意識が強い。専業主 婦であってもそうだということがまず一つです。つまり、なんとなく1人か2人 で終わってしまう。都会の高学歴主婦は、子どもをもう1人という動機づけ自体 がないわけです。  キャリア女性で子どもがいない人は、常識的には仕事のために産みた くても産まないと考えましたが、そういうグループはむしろ少数で、仕事に執着 している人は少ない。希望は2人だが、産休を二度とれないから1人というよう にはっきりと人生を設計している人は少数で、「子どもを産むなら辞めるつも り」とか「なんとなく」という人が多いです。  セールスウーマンの場合も、高卒パートグループというものですが、 年収 300万円以下の人たちですが、2〜3人子どもをもっていて特に不満ではな いということがあります。これもほんとうかどうかわからないのですが、専業主 婦に「もう1人ほしくてもできない」という回答が多いのに対して、それ以外の 層には「2人目がほしくてもできない」という意見がないというのは、もしかし たら首都圏高学歴夫婦のセックスレスを示唆するデータかもしれないというのは、 ちょっと言い過ぎかもしれませんが、あるかもしれない。もちろん調査は不可能 です。  既婚女性のマニュアルワーカー、地方の人は、2〜3人産むのは当然 で、実際、希望通り産んでいる。ここでは、逆に仕事と子どもというのは両立の 問題ではない。もう1人ほしいけれども、夫に経済的余裕があればあと2人ほし いというように、子どもは産むと費用がかかるから仕事をしなければ、子どもが 少なければ専業主婦でいられるのに、という意識がこのグループで目立ちました。  男性の場合は、子どもの数に関しては漠然としている傾向があります。      「妻はもう要らないと言っているが」、つまり積極的に何人ほしいというわ けでもなく、妻の都合に合わせるというのが一つあります。  男性一般の傾向ですが、女性に比べて子どものお稽古ごとに言及した がるという特徴がありますし、また、自分の収入が低くて妻が専業主婦の男性だ と、「お金がかかる」をインタビューの中で連発している人がいます。つまり、 収入を高くするために、家事を手伝ってでも妻を働かせようという発想にはいか ずに、なんとか自分で子どもは少なくやっていこうという男性が多いわけです。  大卒の既婚者の場合は、「教育費がびっくりするほどかかる」とか  「子どもにひとり部屋」という条件がついています。本人が大卒ですから、子ど もは当然大学以上にいかせなくてはいけない。今の30代の男性も女性も、自分が 豊かな環境でピアノとかそういうお稽古ごと、さらには上の学校まであがらせて くれたのだから、自分の子どもにもそれ以上のお金をかけなくてはいけないとい う意識は、特に大卒の人では強くなっています。 9ページにいきましてまとめますと、子どもを育てるのに十分な経済 環境を用意するという意識が強くて、男性にとってはそのお金は自分が稼ぎ出す という感覚が強い。そして、アンケート調査で出てくる「子どもは3人ほしい」 というのはたぶんリップサービスで、苦労してまで、つまり女性は自分が働いて まで、男性は自分が家事・育児を手伝ってまで子どもをもう1人ほしいとは、男 性も女性も思わない。ゼロでいいとは思っていないが、1人も不安。十分な経済 条件を整えないで子どもを産むことだけは避けたいと思っている様子がわかりま す。子どもの数を増やすには、子どもが少ない人ほど苦労するという仕組みをつ くるしかないのではないかとい考えるわけです。  3番目に「仕事は子育ての障害か、子育ては仕事の障害か」というと ころで、これは少し議論が分かれるところだと思いますが、仕事と子育てを両立 させようとする意識はきわめて、これはサンプルの偏りにもしかしたら問題があ るかもしれませんので、これが全体の傾向とは限りませんが、「無理して両立さ せるぐらいなら仕事を辞める、もしくは妻に辞めてもらう」と回答した人が多い。 仕事に合わせて子どもを産んでいるのではなくて、夫の収入と子どもの数に合わ せて女性の就労形態が決まるという傾向が顕著なわけです。  仕事を積極的にしたい、仕事にアイデンティティをもっている女性は まだ非常に少数でありまして、特に統計的には未だ高卒、短大卒の女性のほうが 多数を占める。つまり、できれば仕事はせずに子育てに専念したいと思っていま すし、男性のほうは専業主婦を望んでいる。仕事と子育てを両立させる施策をす れば子どもの数は増えるという説は成り立つのか成り立たないのかというのは、 微妙なところだと私は考えております。専業主婦グループは比較的高学歴なので すが、学歴があるから仕事をしたいというわけではなくて、子どものためにしか たなく仕事を辞めたと答える人は少ない。つまり専業主婦になって楽をしたかっ た、専業主婦を謳歌しているグループが非常に多い。たまたま収入の高い夫と結 婚したグループは、決して仕事と子育ての両立を望んでいるわけではな い。つまりフルタイムの仕事をする気はないとか、自分が共感できない仕事はし たくない、パートのような仕事はしたくない、つまり苦労する仕事だったらした くないというのが、特に大卒専業主婦に顕著にみられます。希望の仕事像をいわ せても、そんな夢みたいに都合のよい職があるわけはない。プライドが保てて創 造的で時間も数時間で給料が高いような仕事だったらやるわ、というふうに答え るわけですが、そういう仕事に現実に就けるとは思っていない。再開したいとい う専業主婦の場合も、幼稚園にお金がかかるしとか、自由になるお金がほしい、 小遣い稼ぎ以上の意味をもたないということで、専業主婦税でももしかしたらか けたほうがいいのではないかと、社会全体の効率性のためにはそう思っ てしまいます。どうもすみません。  もう時間がありませんのではしょらせていただきます。ディンクスの キャリア女性の場合のみが子育てと仕事の両立に悩んでいると考えられます。  11ページのCにまいりまして、セールス・グループに関しては、都会 で夫の収入の低い層が「子どもや少々の気晴らし、小遣いのために就業する」と いう形態があるわけで、これは仕事と子育ての両立ではなくて、夫の収入と子育 ての両立という問題意識をもっています。子どもを多く産むためには働かなくて はいけないという悩みを抱えているわけです。  地方にいきますと、地方の高卒の共働きだと、生活のために逆に働く のは当然という前近代農村型の就労をする人が多く、多くの場合は三世代同居の 義母がみている。家にいるには仕事を辞めないといけないし、辞めると暮らして いけないという問題意識をもっているわけです。または、結婚する前から三食昼 寝付きの生活はさせられないといわれて働いている。つまり就業が家計を支える 一要素となっているのですが、専業主婦への憧れは強く、「子どもができたら辞 めたい」と答える人もいます。未婚女性の場合も、子育て中は仕事をしたくない という意識が強いわけです。12ページにいきまして、男性の場合ははっきりして います。 ここに調査されたのは大企業に勤務する男性ですから、子どもが小さ い場合は例外なく妻は専業主婦でありましたし、子どもがいない場合で も、働くのはかまわないけど、自分に家事・育児の責任がかかってくるのはいや だと答えている。そして、子どもは自分もしくは妻の親がみれば働いてもいい。 つまり、家事・育児を手伝ってまで女性に働いてほしいと思っている男性は少数 で、少数の男性も、家を建てるためには働いてもらわなければ、子どもは親がみ るから育児は分担しないというふうに、女性が働くことを自分が苦労して応援し ているわけではないということです。要約としましては、私がいいたいことは3 点、苦労してまで結婚したいと思わない、苦労してまで子どもをたくさん産もう とは思わない、苦労してまで子育てと仕事を両立させようとは思っていない。  では、どうして少子化が起こるのかというところで、参考資料の2、 これは『月刊厚生』に私が先月書いたものですが、意識が変化したから結婚難が 起こって少子化が起こっているのではなくて、意識が変化していないから、つま り子どもに自分たちよりもよりよい生活をさせたいという親の思いが強く、結婚 に関して専業主婦志向が強いがゆえに結婚難、少子化が起こっている。これはひ とえに、高度成長から低成長、さらにはゼロ成長ともいわれるなかで経済環境が 変わっているのにもかかわらず、昔の高度成長期の家族のあり方がいいと思って いる若い人が多いところからくるのではないかと思います。  少し長くなりましたが、どうもありがとうごさいました。相当言葉が 足りない、もしくはすぎたところがありますが、どうぞご容赦ください。 宮澤会長 引き続いて永瀬さん、お願いします。 永瀬専任講師 東洋大学の永瀬でございます。少子化の社会心理要因に関する調 査研究会の私の部分の報告書を申し上げます。私の部分は 100強の女性に対する インタビュー調査をもとにした分析ではございます。私は、従来1万や10万とい う大量のデータを経済理論の枠組みを使ってコンピュータ解析するようなことを 仕事としてまいりました。そこで、インタビューの分析に関し、若干つたない部 分があるかとも思われますが、私が少子化が進んでいる世代とかなり近いところ にいることが一因でお呼びいただいたと理解しております。  私自身は、経済理論を使いながら家庭の側から日本の女性の選択をみ るということを専門としております。これまでは就業選択を専門としてまいりま したが、その延長の中で最近は育児・出産ということに興味をもっております。 家庭の中からみるという意味では何か提供できるのではないかと思ってお話しを 申しあげます。  今日の報告は、最初の1〜2枚がレジュメになっておりまして、次の 1〜2枚が基本統計量とプロビット分析、3ページ以降がインタビュー結果が出 ております。  経済学で子どものコストやベネフィットを考えることになりますと、 これはいろいろいわれていることですが、金銭的な費用、時間費用、精神的費用 がコストのほうでございまして、ベネフィットとしては消費財ということがよく いわれ、昔は投資財的な側面があったけれども、賦課方式の年金によってかなり 公共財的な面が出てきた、外部性が出てきてフリーライダーが出てきたことが、 少子化の要因になっているのかもしれないといったことがよくいわれるわけです。  また、時間費用という面では、女性の賃金の上昇であるとか、あるい は密室育児という言葉に代表されますように、周りの環境が変わってきた。マン ションの一室の中で1対1で向き合う子育ての大変さといったことを指摘される こともあります。  そういったものを経済学で分析する場合には、通常、たとえば大量の データをとってきまして、賃金を入れたり所得を入れたり、あるいは地域を入れ てみたり、マンションの広さを入れてみたりするわけですが、そういったことで とらえられない育児観、あるいはそういったことでとらえられないなんらかの少 子化要因があるかどうかを、個人属性とインタビューの結果を併せて探ってみた いというのが、当初の目的でありました。  そして、サンプル数は少ないのですが、お決まりのようにまずプロビ ット分析をしてみまして、どういう人が結婚するかしないかというのをまずみた わけです。  その前に基本統計量をご説明しますと、3ページ目をごらんになると おわかりになるように、上場企業女性は84人です。首都圏6社51人のうち、2/ 5が既婚女性ですが、子どもがいながら上場企業に勤めている方は1人のみでし た。また、地方は2社、3事業所、33名。2/3が既婚女性でありまして、子ど もがいる方は半数も占めております。  表2より、たとえば年齢、学歴等でいちばん地方と首都圏で違うのは、     上場企業の場合、首都圏は学歴が高い層が非常に多い。地方は高卒のほうが多 い。年齢でみれば、未婚層は首都圏と地方では3歳の大きな差があることなどが このサンプルの特徴といえます。  これは、特定の抽出法に従ったものではなくて、いくつか協力いただ ける企業で取ったということで、多少の偏りもありますし、また、調査対象は上 場企業に勤めている人が中心である。つまり女性の中ではどちらかといえば優秀 であった方で、学歴も高卒でもそういうところに入社できる女性であるというこ とで、一部でございます。  対象グループとして、専業主婦、それから歩合制のセールスウーマン のような方が入っています。  子どもをもつかどうかのプロビット分析がどうしてできなかったかと いうのは、おわかりのように、首都圏において働いていて子どもをもっているサ ンプルが非常に少なかったからであります。  結婚するかどうかのプロビット分析を行いましたのが表6でございま す。これは2)とありまして、1)が別にあるわけですが、学歴が高いほど結婚しに くい。年齢が高まってくると、それでも結婚するようになる。 それから、女性 の就業所得が 500万以上だと結婚しにくい。経済学ですと、自分で支えていける ような高い所得がある場合、あるいは学歴が高くて、そのことがたとえば市場の 人的資本の増加につながる場合は結婚しない確立が高まると考えるのですが、そ れはすぐに出てきた。ほかの分析と同様の結果が出てきたわけです。 今度は、子どもをもつことをどのようにとらえるか、それがどのよう な影響を与えるかというのをみるために、勤務中、もしも子どもを託すとしたら だれに託すかという複数選択の結果をダミーとして入れてみました。それが表5 で選択肢になっていますが、祖父母、保育園、ベビーシッター、駅型保育所、企 業内保育所、ベビールーム、幼稚園、その他、配偶者とありまして、複数選択可 能なのですが、イエスといった人を1とし、何も答えなかった人をゼロとするダ ミー変数を入れてみました。  私は、保育園などいろいろなタイプの託児方法を挙げる人は、就業志 向が強いので結婚しない確立が高まるのではないかと当初予想したのですが、反 対に、幼稚園に預けたい、つまりゼロ歳から3歳ぐらいまでは自分でみたいとい っている人、それから親にみてもらう、つまり身内にみてもらうといっているよ うな人がむしろ結婚していないという結果が出てきて、非常に驚いたわけです。  その原因を考えてみますと、まず一つ常識的に考えられるのがサンプ ルセレクションでございます。自分で子どもをみるつもりの人は退職してしまう。 だから上場企業にいる人の中のインタビューにかかってこない可能性が一つはあ るわけです。ですけれども、それだけではなくて、私は、こういうこともあるの ではないかと思って仮説を立てました。  レジュメの1ページの2の育児ダミーについての解釈のところですが、    自分が身内の手によらなくては子どもは育てたくない、あるいはそうしないと いい子にならないと思っている人にとっては、育児と仕事が非常に代替的なもの になっている。だから、結婚して子どもをもつことは退職につながる。そういう ふうに考える人ほど、つまり将来的には自分は専業主婦になる、そういう像をも っている場合ほど、結婚は生活の激変を意味するわけです。仕事をしながら子ど もを育てようという人にとっては、結婚、子どもというのは既にまっすぐきた道 のプラスアルファですが、専業主婦指向の人、子どもは自分でなくてはいけない、 だから退職をするつもりだという人にとっては結婚は大きな変化を意味するわけ で、現在の仕事がそれなりのものであり、生活状況もよく、所得も高い という状況にありますと、かえってなかなか理想の相手に会ったと感ぜられずに 結婚しない。そういう解釈もあり得るのではないかと思いまして、その先、より この仮説が実際にあるものかどうか、インタビュー調査を読んでみたわけです。  3番、レジュメから首都圏というのが抜けていますが、首都圏の上場 企業勤務女性の結婚観、育児観をみますと、仕事と家庭の両立ができると考えて いるサンプルはこの中でほとんどいませんでした。日本の女性の労働市場を考え た場合に、正社員と非正社員の賃金格差は非常に大きいものがあります。これは 世界的にみても非常に大きいものなのです。 そして、今まで既婚女性が高賃金 の正社員を続けるために何が必要であったかというと、祖母と同居していること、 これが正社員の選択確率を非常に高めていました。ところが、都会部にはそうい った同居形態は薄くなっている。その薄くなっているというのは、同居したくな いという好みも入っていると思いますが、そういう祖母の手がなくなってきて     いる。育児休業法が導入されましたし、また、施設保育もありますが、こ こでわかるのは、そういった育児休業あるいは都会部の施設保育、あるいはその ほかの手段は、十分には祖母に代わっていないということです。まずいちばん多 い例は 1「自分で子どもの世話をしたいので退職する」です。自分で子どもを育 てたい、自分が子どもをみたほうが子どもの発達がよいだろう、こういう人が多 いわけです。  次に、「仕事との両立は大変すぎるので退職する。」これは後ろの3 ページの 2にインタビュー例がありますが、「子どもを育てながら働くという環 境は整いつつあるけれども、まだ整っていない段階。大変だなと思う。よほど切 羽詰まらないと子育てをしながら働くことはないと思う。」「両立するための環 境は整いつつあり、やっと現在、そういう人が1人いる。すごく大変そう。配偶 者が何もしてくれない人だと、すべて自分にかかってくる。職場や同僚に迷惑が かかると心苦しい。」このような状況なわけです。   3の人は、「仕事も子供もほしいけれども、可能だと確信できない。」     割合としては前二者よりもう少し少ないのですが、「子どもがどうしてもほし いが、駅型保育所はかわいそうなところが多く、保育所の閉所時間も早い。仕事 の継続を迷う。たぶん退職する。」「キャリアを積むことと子どもを産むことは 同じぐらい重要だから、そのときになったら選ぶと思う。現時点ではわからな い。」「子どもを自分のそばで育てたいという思いと、自分の仕事をしたいとい う思いとどちらもある。」などの声があります。  そして、ほんとうの少数が 4の、「どうにか育児と仕事の両立をはか る」というふうに考えています。ちなみに、これは心理的分析なので、20の「親 になること」に関する印象評定シートに回答してもらっています。たとえば不完 全な、完全な、温かい、冷たい、激しい、穏やかなといったいろいろな印象を答 えるのですが、親になる印象の因子分析をして「期待感」と「不安感」という座 標をつくりますと、どうにか育児と仕事の両立をはかるというふうに考えている 層に、有意に育児不安が高いことがわかります。なかなかそれは大変な道だろう と本人は思っているわけです。  4番にいきまして、親になることの因子分析でございますが、地方と 首都圏では不安感が有意に異なって、地方は低いのです。  あと、学歴が高いほうが不安感が強い。地方でも、高卒対短大卒では 学歴が高いほうが不安感が強いです。首都圏でも、短大対大卒では学歴が高いほ うが不安感が強い。  こういったグループ分けをしても子どもに対してもつ明るい期待感は かわりません。しかし、不安に差があるわけです。ただ首都圏の主婦と就業者を 比較しますと、今度、不安感は違わないけど、主婦は期待感が低い。やや子ども をもつことに食傷しているかもしれない、そのようなことが出てきます。  これに対して地方の上場企業OLがあまりに違うので、驚いたのです が、4ページにありますが、地方の場合は働きがいの就業というより経済的な就 業の側面が強いのです。配偶者の親の同居のもとで世帯としての最良の選択とし ての場合によってはやむを得ない就業であります。主に語られるのは姑や舅との 人間関係の難しさや、反面、援助でありまして、仕事と家庭の両立の難しさとい うよりは、ほとんどそういった人間関係が話の中心になる。子どもはこうした拡 大家族の中で家族の絆となる喜びの源泉となっていまして、全く矛盾がないもの としてとらえられている。  でも、地方でも核家族になりますとちょっと違いまして、子供は今ま での生活の大きな変化、どちらかというと不自由になるような、夫がやらなけれ ば自分がやる、自分がやらなければ夫がやらなければならないというあつれき関 係が共働き家庭にみられないわけではない。  5番は、首都圏の上場企業勤務女性の類型化をしますと、現実派、自分派、 キャリア派と分けることができるのではないか。  現実派というのは昔からいるタイプでございまして、独身時代を楽し むために結婚を延期しているけれども、結婚というのは自分のライフプランの中 にはっきり入っている。ただ、結婚すると少し不自由になるから、なるべくあと にしたい。そして、生活の中心は家庭になっている。  自分派というのは、もっと自分のプライバシーを重視して生活をエンジョイ している。ただ、こういった人たちも、もしも子どもをもったら退職して 真剣に大切に育てるつもりと言っています。しかし、どちらかというと子どもに 責任の重さを感じているうえに、結婚が大きく人生を変えるかもしれないから、 なかなか結婚に踏み切れない。また、踏み切らないでよいだけの所得の見通しも ある。この自分派というのは、あまり地方にはみられませんでした。  次にキャリア派。これは少数なのですが、仕事におもしろみを見出し て、また評価を求めている。子育ては大切であり、真剣に取り組まなくてはと考 えているが、現状の勤務形態や夫の勤務状況では大きい無理が出て、仕事にも支 障が出ると考えところに大きい葛藤がある。  つまりキャリア派にとっては、今すぐに子どもがほしいと思っていて も、現実の保育制度や現在の長時間労働、こういったものが出産の障害となって いる。けれども、現実派、自分派の場合は、子どもは自分で育ててこそいい子に 育つという認識、それから、いったん仕事を辞めたら、再び現在の仕事には就き にくいという労働市場の事情、たとえばパートが低賃金であるとか、中高年主婦 の正社員の入り口が狭いということ、それから、女性が育児と家事を負担すると いう現在の家庭習慣、こういったものが変わらない限り、出産は離職、家事専業 を意味することになるから、今後も簡単には結婚、出産には踏み切らないのでは ないか。  6番に仕事と育児両立の夫婦モデルの不在と施設保育への不安感と書 きましたが、ある先輩モデルがいる場合にはずいぶん意識が変わったという回答 が複数ありました。ただ仕事も家庭ももっている、そういう先輩をみて考えが変 わったという人はいたのですが、現在の上場企業に夫婦とも勤めて、核家族で子 どもを産んでうまくやっていく、そういう家庭モデルが実際あり得るかどうか、 ホームドラマにもならないのではないかと思うわけです。  あと、施設保育に対して漠然とした不安感をもっている。これは私自 身もそうでしたが、いたいけな子どもを他人に預けて、はたしてどういう影響が 出るかということには非常に敏感になるわけです。そのときに周りから、それは かわいそうであるとか発達に悪いといわれると、そこはどうしても非常に反応す る。ただ、私もその後、いろいろ調べましたが、はたしてそれが事実なのかどう か、ほんとうに悪いのかどうか、それは科学的には今のところ実証されたのかど うか。アメリカの例でみますと負の影響とも正の影響とも両方出てきている。あ るいは統計的に関係はないというのも出てきている。というので、なんともいえ ないわけであります。  この分析のまとめは、要約としてその次のページに書いてありますが、    女性の所得水準の上昇、学歴の上昇は結婚確率を引き下げる。また、育児を目 前に控えた首都圏の上場企業勤務者に育児への不安感が強く、地方勤務者とは有 意に異なる。仕事と育児の両立が難しいためと考えられる。こうしたなかで、子 どもは自分が退職して育てたいと考える上場企業勤務者に、むしろ結婚時期の遅 延が起こっているというものです。  これは、子どもと仕事が二者択一の代替関係と意識されるほど、結婚 に踏み切りにくいからではないか。仕事時間の長さ、施設保育への漠然とした不 安感、子どもには手をかけたほうがよいという規範感などが、育児退職の期待を 一般的なものとしているのでしょう。仕事時間、夫婦分業のあり方、キャリアの 見通しを含めて、仕事と育児を両立させる新しい夫婦像の不在が少子化を引き起 こしていると思われます。  最後に、少子化対策として何かというふうにいわれましたので、その 前のページの7に実現するのが簡単と思われる順に書きました。  まず、託児不安を減少させる広報活動。私自身の経験を通じても、ゆえない 不安も大変多かったように思います。またインタビュアーからも「託児情報を 市役所や区役所以外に置いてほしい。自分は忙しくて健診ぐらいしか行けな い。たとえば産婦人科の病院や両親学級などで、子どもが生まれたあと働く場合 どうするかという情報を置いてほしいのだ」という声がでています。これはすぐ にできるのではないかと思います。  私自身の経験ですが、区のCATVがいつの間にか無料で映るように なりまして、そこで保育園の様子が放映されます。私は6年間も保育園に子ども をやっていますが、それを見たとき、ああ、こういう1日を過ごしているのだな と思って、大変安心する。そういった情報提供が必要なのではないか。  あと、託児が発達不全につながるのかどうか。これは、昭和40年代ぐ らいには既に出ていた。発達不全につながると。それは乳児院の調査でそういう 結果が出たのだと聞いています。ですけれども、現在では私はたぶん出ないので はないかという気が大変強くしておりますが、そういった科学的調査がされてい ないのではないか。もしもそういうことがあるとすれば、都会部の長時間保育が 必要な層、あるいはおばあちゃんに代わるなんらかの育児支援が必要な層に対し て、いったいどういう保育のあり方がいちばん子どもの発達によいのかそういっ た科学的な調査がされるべきなのではないか。 それから、保育所の充実。これは私は別に保育所の実態調査というの をしてみたのですが、都会部の人口増加地域で待機児童が大変多いのです。それ も低年齢児で多いのです。この辺はぜひ充実したほうがいいのではないかと思い ます。保育園の低年齢児保育には高いお金はかかりますが、老齢世代に対する年 金給付期間の長さに比べましたら、1年や2年ですむことでありますから、もっ と財政支援してもいいのではないか。  その他の対策として男女分業でない家族モデルの提示、再就職の待遇 改善、職場環境の改善をあげました。  時間をオーバーしたので申し訳ないのですが、いちばん根本的な問題 は、日本的な雇用慣行にあると思われます。どうしても長時間就業になる。それ から1社に入ってそこでのノウハウが非常に重要であって、なかなか転職はでき ないし、いったん辞めると正社員の入り口に入りにくい、そういうことが日本を 専業社会、分業社会にしているのだと思います。私は労働経済学が専門でありま して、そういったことが非常に経済効率がある、それはゆえあることなのだとい うことを勉強してきたわけでございます。  確かにいい点もあります。たとえば夫が失業しにくい。夫であればか なりいいお給料をもらえる。また、2人がやるよりも、長期的に仕事にコミット したひと1人がいるほうが経済効率が高いかもしれない。実際に結婚した人にと っても、結婚は諸外国に比べて安定しているので、今のところ、このような社会 に入って裏切られたと思っていないのではないか。そういう意味では支持されて いるのかもしれない。そういう専業社会であれば、年齢ぎりぎりのところまでは 結婚しない。つまり出産しない不効用が高まるぎりぎりまで相手探しをして結婚 しないことが、晩婚化につながっている。  ですが、もしも少子化というのがほんとうに大きな問題であるとすれ ば、もしもこれが生んでいる外部不経済が非常に日本にとって大きな問題である とすれば、そこは経済効率を削ってでも、育児期の男女に所得以上にたぶん時間 を与える必要があるのではないか。そういった仕事の仕方をさせるのは、経済効 率は必ず低いと思いますが、子どもが生まれないことの社会的な外部不経済がよ り以上大きいならば、気兼ねを感ぜずに急な病気には休めるとか、あるいは男女 とも育児休暇をとれるとか、そういった方向にいく必要があるのではないかと思 うわけです。  そして、子どもを産むと得をする社会になれば、子どもは増えるので はないかと思います。  時間をオーバーして大変申し訳ございませんでした。 宮澤会長 どうもありがとうございました。それでは、ただ今のお二方のご報告 につきまして、ご意見、ご質問等をお願いいたします。 清家専門委員 今、お二人の発表を伺って非常に興味深かったわけですが、今、 永瀬さんも最後に日本的雇用制度が問題だというお話をされましたし、最初の山 田さんの報告でも、年功賃金があるから、特に若い女性の場合、お父さんの所得 が高すぎていい思いができてしまう反面、パートナーの賃金が安すぎて、結婚す るとウエルフェアの水準に落ちてしまうということがありました。一つは年功賃 金をフラットにしていくことが解決策なのでしょうが、これについては、わざわ ざ政策的にしなくても、だんだんそういう方向に進んでいるのではないかと思い ます。ただ、一部では年功賃金に生活給という観点から、生活のためにこのぐら い必要だという形で年功賃金を維持しようという考え方があると思います。     しかしそうはいっても、50代後半のお父さんが20代後半の十分裕福な    女性のためにデパートで洋服を買い与えるための賃金までは生活給とはいえな いでしょうから、その辺は少しずつ変わっていくのではないかなと思うのです。 一つ、こういうことはどのように考えたらいいのかなと思うのは、年功賃金が フラットになってくることは、一方ではたぶん今いったような結婚にプラスの 影響を与えると思うのてすが、それはたとえば今、女性と男性のケースで いえば、若い女性自身の賃金も相対的に高くなっていくわけですから、そういう 面からいうと、今度は本人の結婚による機会費用といいますか、それも一方では 高くなってくる。もちろんネットでみれば若い人たちの結婚にプラスの影響を与 えると思いますが、一方では女性の機会費用を高めるという面で、結婚にマイナ スの影響を与えるのではないか。 もう一つ、お二人の報告の中で、子どもはかわいいから手をかけたい ので専業主婦になりたいという人が女性の中に非常に多いということです。これ はたぶんサンプルは若い、せいぜい30代ぐらいのところまでに限られていると思 うのですが、子どもがかわいいのはごく一時期だけで、大きくなるとそんなにか わいくはなくなってくるという面もあるわけです。もちろんかわいさの程度はい ろいろ変わってくるわけで、ある人にいわせると、子どもがうんと小さかったと きにかわいかったお礼に、親は大きくなって生意気になっても育てなければいけ ないのだという話を聞いたことがありますが、もしかしたら少し年齢のサンプル の上のほうの女性に対して調査をすると、子どもに手をかけるために、これはた ぶん常識的にもそうでしょうけれども、専業主婦を続けたいという願望は    減ってくるのではないでしょうか。  そのとき問題なのは、たぶん今、永瀬さんが言われたように、子どもが、 個人の合理的な選択からいえば、手がかかる、あるいは非常にかわいいとき には専業主婦でいたい。そして手がかからなくなったときには、外でキャリアと して自己実現が果たせることができればいいのですが、それが、長期雇用が前提 になっていたり、専門職として仕事をすることができないためにネックになって いると思うのです。その辺で、このあと、できたらもうちょっと子どもが大きく なった世代のところの意識調査もされると、非常におもしろいのではないかと思 います。 山田助教授 まず第1の点、年功賃金がフラットになると女性自身の賃金も上昇 するのでは、というところなのですが、実は私は恋愛社会学というのもやってお りまして、どういう人にひかれるかというところで、男性は自分よりも収入の低 い女性に魅力を感じてしまうのに対して、女性は、どんなにキャリアを積んでも 自分以上の人に魅力を感じてしまう傾向があるところがネックになっているとい うのが一つあるのです。これは合理的に考えてみれば、男女共働きを前提とすれ ば、どうせ共働きをするのだったら、収入はちょっと低くても家事を手伝ってく れる男性がもてる。 男性側からいえば、どうせ共働きで家事を手伝うのだから、 収入が高い女性のほうがいい生活をできるから、収入が高い女性のほうがもてる というふうに、男女共働きを前提とする社会になってくれば、賃金の高 い女性が結婚しにくくなるということはだんだん少なくなってくるのではないか という見通しをもっているのですが、人間の恋愛感情にかかわる問題ですので、 どの程度のタイムスパンで変わるか、私も予想がついていないのが現状でありま す。  第2点の子どもがかわいいというところなのですが、私は、20代の未婚者の 調査と親の関係の調査も別のところでやっておりまして、今度、本でまと まるのですが、父親−息子、父親−娘関係と母親−娘関係というのが全然質的に 違いまして、母親と娘が心理的に離れないまま20代、30代まで越してしまう傾向 が強い。小さい子どもだけがかわいいわけではなくて、特に母親にとっては40、 50になっても娘はかわいくて、娘と一緒に出かけたいと思っている。つまり、年 功序列で賃金の高くなったお父さんが長時間労働しているあいだに、母、娘が消 費で楽しんでいるという構図が思い浮かぶわけで、そういう人が、かわいくない から、では働き出そうかといったら、今の家族内の感情メカニズムを前提にする と、なかなかそうはいかないのではないかという印象が一つあります。 あとはいろいろあるのですが、長くなりそうなので永瀬さんに移ります。 永瀬専任講師 今の日本の分業社会は、いろいろな面があるような気もするので す。決して悪いことばかりではないようだと。いい面があるなどというと誤解を 受けるようで、私はそれがいいといっているわけではないのですが、いいところ と悪いところは表裏ということがあるのではないか。 では、なぜ晩婚化が進ん でいるかというと、非常に合理的な選択として、子どもをもちたいと思ったら勤 務は続けられない。そうなると、それなりの所得のある人と結婚したほうがいい。 だけれども、自分は大学を出ていろいろな教育を受けてきて、なるべく今のこと をやっておきたい。だけれども子どもがほしい。そこで今の状況が不変だとすれ ば、年齢のぎりぎりのところまで結婚しないというのは合理的な選択であろう  と思うわけなのです。 これを変えていくとどういう変化があるかというのは、もっとよく考 えてみないとわからないのですが、最終的に男女協業社会というところにはいろ いろな変化が起こってから行き着くのではないか。そこはもっとよく考えてみな いとわからないなという気がしております。 熊崎委員 一つは、最初の先生のほうにお聞きしたいのですが、男性が結婚の対 象になる女性を選ぶときに、女性の結婚観なりその人の人生観なり職業観なりと いうものについて、あまりそんなことをきつく思っていない。しかし女性のほう は、男性と結婚した場合に非常に不安がある。その不安というのが、自分が生ま れたときから現在まで築き上げてきたいろいろなものを全部捨ててしまわなけれ ばいけない、大げさな言い方ですが、そういう結婚意識をもっているということ をお聞きをしました。そのなかの分析の仕方としていろいろあると思うのですが、 たとえば、今いわれております民法改正の別姓の選択制などは非常に家族観につ いて関係があるのではないかと思うのですが、そこら辺は踏まえられましたかど うかということをお聞きしたい。 あとは感想めいたことなのですが、先ほどもおっしゃいましたように 年功賃金型がフラットになってしまうという現象のなかで、もちろん現実として は年功序列型の賃金というのは、若い層のほうが低いというのが実態なのですね。 だけれとも私は、結婚で障害になっている経済的なネックというのは賃金だけで はなくて、年功序列賃金がフラットになっていけば、もう一つは、生活をしてい く子育てに必要になる諸々のものが、山田先生がおっしゃいましたように社会保 障のあり方につながっていくと思いますが、そういうものをひっくるめて社会保 障というものが現段階では複雑化している。だけども最後に、もちろん子育ての 補助が経営側のほうが負担率が多いとおっしゃいました。それは実態かもしれ  ませんが、そこまでこなければならなかった社会補助の仕組みが現在まで 流れてきております。だから、ひとくくりに社会保障といいますが、非常に込み 入って複雑になっている現段階の社会保障やら補助、給付をどのようにしていく かということが、文字通りいちばんのネックではないかということを感じており ましたが、賃金が平準化になれば子育て費用、保育費用、教育費、住宅費、諸々 のものを含めてもほかの面で補っていくということをもう少し整理をしていかな ければならないのではないかと感じました。 もう一つは、永瀬先生の分析に仕事と育児を両立させる新しい夫婦像 のあり方を説かれたのですが、今これは、自分でもそういう信念をもっておりま すし、それこそこういう新しい夫婦像がもっと増えていかなければいけないので はないかと思いました。 宮澤会長 では、質問について。 山田助教授 民法改正と女性の関係というのは、結婚において男性は生活とかそ ういうことに関しては何も変わらないと思っている点が一つ。女性は、私はある ところで、生まれ変わりとしての結婚、つまり今までの人生がチャラになって次 の人生になるという形の生まれ変わり、生まれ変わりを志向するのだったらより よく生まれ変わらなければいけないというので、晩婚化というのを言ったのです が、女性の中では生まれ変わりたくないという人が徐々に増えてきていることは 確かですので、夫婦別姓、民法改正になれば少しは増えるのではないか。養子で なければだめだという人のためにも、少しは結婚・出産に対してはプラスに働く のだと思います。これが第1点です。  第2点は、社会保障のあり方が何か細かい点があるのではないかとい うところなのですが、私はもう1点、主張したいのは、家族のあり方を加えた公 平性というものを少し考えなくてはいけないのではないかと思います。何度も言 いましたが、今の若者の生活水準を決めるのは、若者の実力ではなくて、若者の 親が経済的にどれだけ利用できるかというところに今の20代の人の階層意識があ るわけです。 結婚してからも、自分の母親が近所に住んでいたり同居していたり、 サザエさん型のところは働きながらできる。それに対して、親が遠くに住んでい る人は共働きしたくてもできないとか、保育園とかに急ぎながらやっているとか、 たとえば最近は私の知り合いで、共働きをするために引退した両親を地方から呼 び寄せて近所に住まわせるという例も起こっている。たまたまそういう条件でも オーケーしたからそうなのでしょうけれども、家族のあり方、親が元気だとか親 が金持ちかどうかによって生活が決まってしまう。子供も同じです。子どもが多 いと遊べない、子どもが少なかったりすると遊べるといった、家族のあり方によ って生活や自由時間が変わってしまうというところまで踏み込んで公平、公正  な社会保障政策をする時期にきているのではないかと思います。 でもそうすると熊崎先生のようにますますきめ細かく複雑になるかも しれないという、私はそこは専門ではないので判断できないのですが、その点だ け一つ、申し添えておきたいと思います。 永瀬専任講師 先ほどの年功賃金のフラット化ということでありますが、あとで ちょっと考えましたら、男性に関しては確かにフラット化は進むと思うのですが、 女性に関しては、退職して40とか45で再就職する女性と、育児休業の恩恵を受け て残った女性とのあいだの賃金格差は非常に大きいまま残ると思っております。 また、あるいはアルバイトとかそういう形でいった人とそうではない人の差とい うのでしょうか。 河野専門委員 山田先生は、実は3日前に日本人口学会に来ていただきまして、 そのときに非常におもしろい山田節を聞かせていただいたのです。きょうは官庁 の威厳に押されたせいかどうか知りませんが、非常に穏健なご議論でございまし た。  それはさておきまして、お聞きしたいのは、今からいうのは揚足取り みたいなのが多くなりまして、それはご勘弁願いますが、相手によって自分の一 生が決まるとか、結婚は女性にとって生まれ変わりであるというのは非常におも しろいと思うのです。全体として、山田先生のプロバカティブというか、斬新で 今までの盲点を突くようなところがあるのでおもしろいと思うのですが、ただ、 相手の一生が決まるといっても、普通、結婚というのはホモガミーといいますか 同類婚で、私は日本のデータは知らないのですが、アメリカの場合は60〜70%が ホモガミーで、同じバックグラウンドで同じ学歴で大体同じような階級、ホワイ トカラーが白人でとか。ですから、玉の與とかシンデレラ症候群とか、あるいは 逆玉とかというのはわりあい少ない。その点、ガラッと変わることは実 際はないのではないか。普通の場合は大体同じようなペースでいくのではないか。 その辺がちょっとあれだと。 あとは、苦労してまで子どもを産みたくない、あるいは苦労してまで 結婚したくないというのは非常におもしろいと思うのですが、しかしなかには、 苦労しても結婚したいという人もいるわけです。それが相対的に少なくなると思 うのですが、その苦労とは何か。その苦労をとれば結婚するのか、あるいは子ど もを産むかということになりますので、そうすると先ほどの一つの提言が、未婚 の生活水準を下げるというよりも、非常に常識的ですが苦労、それはいろいろな ものがどんどん早く変わったために、なかで制度上のミスマッチが起こるとか意 識との、そういうことを変えたほうがいいのでは。生活水準を下げるというのは 非常におもしろいと思うのですが。 3番目は、よく私は、日本でなぜ出生率が小さいか。それは結婚しな くなったというと、アメリカ人の友人などは、それはちょっと考えられないと。 各人、ある程度セクシュアルアージというのですかリビドーというのをもってい るわけで、最近ではリビドーもなくなっているという説もありますが、しかし、 ではセックスはいったいどうなっているのか、そういうあれがあるのですね。そ ういうソマティックというか、心理学というのは最近は生物学的なそういうのが むしろあると思うのですが、その辺でどういう具合にそれを解決しているのか。  時間がございませんので、以上です。 山田助教授 いちばん簡単なのが第3点で、結婚しなければ性関係をもてないと 考える世代は、もうたぶん40から50ぐらいに達しているのだと思います。セック スしたら結婚しなければいけなくなるような時代があったと学生に講義をすると、 学生はきょとんとするわけです。そんな時代があったの、という感じで。べつに 結婚しなくても性関係はもてるけれども、避妊もしくは中絶システムで子どもが できないようにしているので、べつにセクシュアルアージがなくなっているわけ でもない。 逆に今は、もてる人はますますもてて、もてない人はますますもてな くなるという現象で、もてる人は未婚であっても性的な満足は得ているのですが、 もてる人は昔はどんどん結婚してくれたですが、今はもてる人はなかなか結婚し てくれませんので、未婚でもてない人の中で結婚もできない、性的にはできない という人のセクシュアルアージの処理というのが、たぶん今、問題になっている のだと思いますが、これは福祉で解決できる問題ではないですので、どうなるの かなと私は心配しております。 苦労とは何かというのだと、少なくとも生活水準を自分の親よりも下 げたくないというのがいちばん大きいのではないかという気はいたします。親並 みの苦労はしてもいいのだけども、親以上はしたくないと思っているのではない かというのが一つです。 最初の点については、ちょっと私は整理できないのでご勘弁ください。 井上委員 よくよく聞いておりまして、身の周りをみますと、ああ、これもこん な例があるなという感じがする。周りをみませんでも、自分のうちをみてもそん なところがあるかなという感じがしたりするわけなのですが、私がここでお伺い したいのは、ここで出てきたいろいろな観察や結論というものがどれだけ日本全 体を代表しているのかということなのです。 拝見しますと、 166名のサンプルを選んだということですが、大体首 都圏で、それも大企業を中心であるということです。明らかにこれはランダムサ ンプルではない、何か特殊な方法で選ばれたのですね。具体的にどういう企業を どういう方法で選ばれて、そしてその企業の中でどういう方を選んだのか。非常 に意地悪な見方をしますと、自分の答えが得られそうな人を選んだという可能性 あるわけです。これはそう思っているわけではありませんが、その辺、どのよう に具体的なサンプルを選ばれたか。  そして結論として、これで発見されたことが日本全体の代表をどのく らい映しているのか、その辺のご見解をお願いしたい。 山田助教授 私は研究代表者ではありませんので間違っているかもしれませんが、     企業の場合は、協力していただけそうな企業を首都圏と地方で選びまして、そ の企業の中でランダムに調査者を推薦していただくようにお願いしました。かな り本音まで聞く調査ですので、なかなかそういうことに関して協力していただけ る企業が少なかったのも事実なのですが、そういう意味ではそれほど全体に当て はまる調査データではないことは私も承知しております。全体に当てはまるかと いうことに関していいますと、抜けているのは大企業に勤めていない男性の心理 が一つ抜けているのが大きい点かと思います。  第2点は、あまり恵まれない首都圏の職に就いている女性に関しても 調査できなかった点に関しては、これが全体の傾向を映すものと思っていないの ですが、ちょっとあいまいになってしまいますが、今後、もし何か意識調査でも できましたら、こういうことを併せて調査していきたいとは思っております。 宮澤会長 どうもありがとうございました。最後、井上委員のご指摘になりまし た点は、こういうアンケート調査が常に抱える問題点でございますが、従来いわ れてきたことと違って、今回のアンケート調査で何が新しく発見されたか、ここ がセールスポイントであるという点がどれだけ出たかということも、一つ、評価 の点になるのではないかと思います。そういう意味ではまだいろいろお伺いした い点もございますが、予定の時間もだいぶすぎましたので、お二方にはどうもあ りがとうございました。  もう一つ、事務局で作成していただいた資料がございます。きょうの 分は入っておりませんが、今までのヒアリングを整理いたしたものとしまして 「少子化をめぐる前提認識と主要論点(案)」を用意していただいてございます。 本日は時間がございませんので、簡単にひとつお願いいたします。 辻課長  ヒアリングを一巡終わったと認識しておりますので、むしろこれから は先生方のご意見を交わしていただく。その場合に、主要論点を整理して、それ に沿ってやっていただいてはどうか。私どもといたしましては、これらの論点に 沿った結論を出すのではなくて、むしろ論点を整理して広く国民の皆さまのご論 議に資する、こういった取りまとめを秋、できたらなるべく早くという気持ちで、 まずもって論点を整理させていただいたということでご説明申しあげます。 椋野企画官 資料4に沿って簡単にご説明申しあげます。少子化をめぐる前提認 識と主要論点の案としてまとめさせていただきましたが、1ページの 2の<意 識・価値観>の下にカッコでくくって・をたくさん並べておりますが、これはあ くまでこれまでの有識者のヒアリングにおける関連意見を整理したものでござい まして、これ自体が論点という整理をしたものではございません。  まず前提認識といたしましては、将来、出生率が相当程度向上すると しても、今後、少子化が進み、人口が減少していく社会、年少人口より高齢人口 が増加していく社会、これを少子社会というとして、そういう社会になることは 避けられないだろう。これはこの審議会の委員の方がたも、あるいは有識者の方 がたも、皆さん、前提認識としておもちのように伺われました。  論点の二つ目としては、少子社会の姿、少子社会としてどのような社 会を想定するかでございますが、これを少し意識、価値観ですとか、経済、労働 とかいくつかの項目に分けて整理をさせていただきました。ヒアリングにおける 関連意見は、皆さま、お聞きになっていたことですので、時間の関係もございま すので省略いたしますが、関連で各省幹事会でご説明をしたときに各省から寄せ られた意見がございますので、それをご紹介させていただきます。  2ページの<経済・労働>でございます。労働力の不足の問題がだいぶ ヒアリングの中でも出てまいりましたが、各省幹事会で出ました意見として、 少子化に伴い労働力不足が生じる可能性について論じるにあたっては、わが国産 業の国際競争力の維持、強化のため、生産性の向上が課題となっていることや、 少子化のもたらす国内需要の減少も考慮して需給について適切な見通しをもつ必 要がある。また、仮に社会全体をみて量的に労働力不足となったとしても、さま ざまな需給のミスマッチの存在により、失業が増大する可能性もある、というよ うな意見が出ておりました。  次に<地域>の問題に関連して、少子社会では地域が崩壊し、基礎的 自治体サービスが失われていくというような有識者の意見があったわけですが、 この関連で、基礎的自治体サービスの中で防犯機能の低下ということも含めて考 えるべきであるという意見も出ておりました。  次に<社会保障><教育>といきまして、教育の関連としまして、急増する 介護を要する人材の不足が懸念される。このため、資質の高い医療・福祉 人材を安定的に育成することが急務となるというようなことが、教育に関連する 各省の意見としてございました。  4ページにいきますと、今までが少子社会の姿でございましたが、少 子化対策の考え方として、大きく分けて少子社会になることを踏まえて必要とな る対応と、出生率に関する対応と分けてまとめております。  少子社会への対応としては、意識・価値観ですとか経済、労働というふうに 分けて関連意見を整理しておりますが、意識・価値観の中で有識者の意見 として、年齢は社会制度を変えることによってそのもつ意味が変えられるという 意見がございましたが、この関連で各省幹事会のほうでは、変えられるのだけれ ども、その変更には多大な政策努力が伴うとことを十分認識する必要があるとい う意見。それから、高齢者の多様性を、社会的に共通認識として一律に高齢者と ひとくくりにしないことが必要ではないかという意見が出ておりました。  次に<経済・労働>のところではいろいろな見直しの意見が有識者の 中であったわけですが、公共投資の見直しに関連して、一定水準の社会資本整備 については着実に進めるべきだという意見も出ておりました。  6ページの<地域>のところでも、人口は減るものとの前提のもとに、     高額な社会資本を要する基盤整備の見直しという有識者の意見の関連で、人口 減少がただちに社会資本の整備の必要性、優先順位の見直しにつながるものでは ない。さまざまな要素を考慮すべきであるという意見がございました。  前後して恐縮でございますが、<経済・労働>のところで、外国人労 働者の受け入れについていくつか有識者の意見があったわけですが、これに関連 いたしまして、外国人労働者の受け入れについて検討する場合においては、わが 国経済社会に広範な影響が及ぶことから、国民のコンセンサスを十分に踏まえつ つ慎重に対応する必要がある。また、国際間の労働力移動については、言語、習 慣面等の相違により、本人にとっても社会にとっても、国内での労働力移動に比 べてより大きなリスクを伴うという問題がある。労働力の過不足の観点のみによ って労働力移動を考えることには種々の問題があるのではないかという意見が出 ておりました。  7ページは<社会保障>でございますが、社会保障の改革が必要だと いう有識者の意見がございましたが、その関連で、豊かな高齢社会を実現するた めには、社会保障構造改革はもちろんですが、経済構造改革や財政構造改革など と一体的に断固することが不可欠である。また年金に関連して、公的年金の見直 し限定の検討とともに、私的年金の拡充へのインセンティブを付与するための環 境の整備と、個人の安定的な需給を確保するための制度的整備が必要であるとい う意見が、各省幹事会の中では出ておりました。  <教育>の関連では、社会全体で高齢者を支えるという意識や、各年 代間の相互理解を深める教育を連携して推進することが必要。また、高齢者理解 教育を進めるとともに、60年、70年後に元気に学習し労働することのできるよう な教育を行うことが必要である。 あるいは、学生数の減少により教育機関に余裕が生じる点を生かし、 今後はさまざまな年齢層のニーズに対応した学習サービスを提供できる生涯学習 の拠点としてそのような余裕施設を生かす。特に元気な高齢者の学習需要に対し サービスを十分提供できる態勢を整える必要があるという意見。  それから、今後、労働力人口が減少することに加え、高齢社会におい ては、複数の疾病を有する多くの患者や要介護者に対して適切なサービスを提供 していくことが必要になる。多様な視点からの専門的なアプローチをとることが できる人材が求められている、そういう教育が必要だという意見も出ておりまし た。 9ページ、出生率に関する対応でございますが、出生率の対応を検討 するにあたって、有識者の意見の中でもございましたが、今後の審議にあたって も男女共同参画社会の形成という観点が適切に反映される必要があるという意見 が出ておりました。  時間の関係がございますので、学識者の意見の紹介は省略させていた だきますが、この説明をしたときに各省から出ていた意見をご紹介いたしました ので、併せてご参考にしていただければと思います。  資料5は、インターネットの厚生省ホームページに寄せられたご意見 を中間的に最近の段階でまとめてみたものでございます。昨年8月からインター ネットのホームページの冒頭に「ご意見募集・少子化問題」というコーナーを設 けておりまして、少子化問題についての考え方を国民の方がたから電子メールで 寄せていただくように募集いたしました。  寄せられたご意見は、総数述べ 150件ございまして、内訳を見ていた だきますと、30代の男女とも配偶者なしの方が中では多いものになっております。 意見のある方が寄せてきたものでございますし数も少のうござますので、統計的 に意味があるものではございませんが、いろいろな意見がございましたので、ま た参考にしていただければと思います。 まとめ方については、先ほどの前提認識と主要論点に併せたような形 でまとめさせていただきましたが、個人からのご意見でしたので、2ページの2 に入れておりますが「家庭・子どもについて」というご意見を項目立てをしてま とめてみました。  ごく簡単に申しあげますと、少子社会の姿については、やはり悲観的 なご意見が多かったようでございます。家庭・子どもについては、「子どもは嫌 い」というような意見もございましたが、大勢は「かけがえのないもの、夢、希 望、やすらぎの場」というような非常に肯定的にとらえているものでございまし た。  3ページ、少子化対策の考え方で、少子社会の対応は今までいろいろ いわれているような意見が出てきているものでございましたが、4ページで出生 率に関する対応、特に必要性の是非では、統計的に意味はないものではございま すが、男女でやや傾向が分かれる感じがいたしました。 男性は、なんらかの対 策が必要、環境の整備が必要、また、それが可能であるという意見の方が多い傾 向がございまして、女性は、どちらかというと必要がないとか、少子化は当然で あるとか、そういうご意見がみられました。もちろん反対の方もいらっしゃいま すが、全体的にそんな感じがございます。  出生率に結びつくことが期待される施策として、これは従来いわれて きたようなことが並んでおりまして、特段、妙案もないようでございますが、企 業・労働のところでは、先ほど永瀬先生からもちょっとございましたが、女性の 中ではやはり、会社では子どもを産むことが歓迎されていないとか、女性に結婚 退職を迫る会社とかそういう表現、男性のほうでは、滅私奉公があたりまえとい う会社を改めるべきと、企業の風土、会社の意識の変革についてのご意見が目立 ったものとしてございます。  それから育児支援や保育サービスの充実等々、よくいわれている議論 が並んでおります。  その他で、今までになかったものとしては、一つは不妊治療の負担軽 減というような問題が寄せられているものがございましたのと、先ほど出ており ました婚外子の話、夫婦別姓の話という民法の改正の問題、あと、養子をもらい やすくするような環境づくりをしてほしいというご意見もございました。  先ほどの論点整理ともう一つ違った項目として、結婚支援策について 必要性の有無とその内容というご意見もございましたので、項目を立てて6ペー ジの4としてまとめております。ここでは、必要がないというご意見がやや多い ように思います。結婚支援が必要で、その内容を書いている場合も、自然な形で 交流できる場が必要とか、時間のゆとりがあれば結婚の機会も自然に増えるとか、 確かに 100万特別控除のようなものはごさいますが、どちらかというと積極的支 援策というよりは、不要、または支援するとしても自然な形、というご意見が多 かったように思います。 最後、その他、少子化問題に関してご自由に書いていただいたところ では、寛容さ、おおらかさのある社会の雰囲気が必要とか、未来への明るい展望 をひらけば子供も増えるとか、具体策というよりは社会の雰囲気のような総体的 なところが必要だというご意見が目新しいものとして目立ったものでございます。 以上、ご参考にしていただければと思います。よろしくお願いいたし ます。 宮澤会長 ありがとうございました。ただ今、ご説明がございました資料につき ましては、次回以降の議論の素材にしたいと考えております。これについてご意 見がございましたら、きょうは時間がございませんので、6月末までに事務局ま で具体的にお申し越しいただければ大変ありがたいと思います。  その他、事務局から何かございましたらお願いします。 辻課長  参考資料3「少子社会を考える市民会議及び国民会議について」とい う資料がございます。いよいよこれから審議会としての本格論議で論点整理をお 願いしたいわけでございますが、こういう問題は国民的に議論が必要だというこ とで、7月7日・宮城県を皮切りに10月13日・広島県まで、全国8ヵ所で少子化 問題を中心に自由なご議論をいただいて、また、そのようなこともこの審議会の 参考にしていただければということでございます。そして、11月4日に国民会議 を東京でやるということでございます。これにつきましては、本審議会からもし 論点整理がおまとめいただければ論議のために役立つと思いますので、なるべく 論点整理を早くいただければいいなということと、また、市民会議等につきまし て先生方にご協力もいただければと思っております。  以上でございます。 宮澤会長 ありがとうございました。きょうの議題はこれで終了いたしました。 大変時間を超過いたしましたが、ご多用のところをありがとうございました。閉 会といたします。 問い合わせ先 厚生省大臣官房政策課    担 当 山内(内2250)、齋藤(内2931)    電 話 (代)03−3503−1711    (直)03−3595−2159