99/06/22 第83回人口問題審議会総会議事録 第 8 3 回 人 口 問 題 審 議 会 総 会 議   事   録 平成11年6月22日(火) 10時00分〜12時15分 共用第9会議室            (開会・10時00分) 宮澤会長  おはようございます。本日はご多用のところ、ご出席いただきましてありがとうござ います。ただいまから第83回人口問題審議会総会を開催いたします。最初に前回の総会 以降、委員並びに専門委員の改選がございましたので紹介させていただきます。  井上委員、坪井委員、吉原委員、岡崎専門委員におかれましては再任されました。ま た、宮武剛委員及び南裕子委員がご退任されまして、代わって毎日新聞論説委員の山路 憲夫委員及び福島県立医科大学の中山洋子委員が新たに任命されました。よろしくお願 いいたします。  吉原委員には引き続き、会長代理をお願いしたいと思いますが、いかがでございまし ょうか。          (「異議なし」と呼ぶ者あり)  それではよろしくお願いいたします。  まず、出席状況をご報告申し上げますが、ご欠席は浅野委員、大國委員、岡沢委員、 河野栄子委員、清家委員、坪井委員、坂元委員、落合専門委員、木村専門委員、高山専 門委員、水野専門委員、それぞれ本日、ご都合によりご欠席でございます。その他の委 員はご出席でございます。  それでは本日の議題に入らせていただきます。  本日は大きく分けて3つのことを予定しております。第1は、ヒアリングでございま して、本年の2月から3月にかけて行われました諸外国における少子化への対応に関す る取り組み状況など、我が国の専門家による現地訪問調査が行われましたが、その結果 のヒアリングでございます。第2は、報告書のまとめでございますが、諸外国の状況に 関する人口問題審議会としての報告書のとりまとめ案件であります。3番目に事務局か ら提出があった参考資料ということで、平成10年の人口動態統計の概要についてご報告 をいただく、という手順で進めたいと思います。 ヒアリングに入ります前に、前回の 審議会から若干、時間も経ちましたので、背景を今、ご説明申し上げます。我々の審議 会におきましては昨年まで逐次、諸外国の専門家を招いて各国の出生動向や関連する施 策についていろいろヒアリングを重ねてまいりました。これらのヒアリングを通じて、 一方では各国の状況がかなり把握できましたけれども、さらにもう一方ではもっと知り たいというところも出てきたように思います。  そのような中で少子化への対応に対する諸外国の取り組み状況などについて我が国の 研究者などが現地出張調査を行ったとうかがいましたので、ぜひ、当審議会にその結果 をご報告いただければありがたいと考えまして、本日、ヒアリングをお願いすることに したものでございます。 また、報告書のことでございますが、この審議会として報告 書をまとめることにつきましては、以前からこの審議会は我々が専門的見地から勉強を 重ねるというだけではなくて、折に触れてその成果を広く整理して、国民の皆様に広く 情報提供をしていく必要があるということを考えておりまして、こういう情報提供とい う視点からの工夫について事務局と相談する中から、諸外国について昨年までのひとつ は外国の専門家のヒアリング、もうひとつは今年に入っての日本の専門家による外国の 調査の結果及びその他の資料に基づきましてある程度まとまった材料が揃うということ でございますので、これらをもとに要点を整理した報告書をとりまとめて公表するとい うことにしてはいかがかと考えたものでございます。  本日はこのような考え方を背景にお手元に配付いただいております議事次第に沿って 進めてまいりたいというように考えておりますのが、よろしゅうございますしょうか。          (「異議なし」と呼ぶ者あり)  ありがとうございます。それでは最初に本年の2月から3月にかけまして社団法人生 活福祉研究機構により行われた我が国の専門家による少子化への対応に対する諸外国の 状況調査結果についてご報告をいただきます。  この研究で対象とされましたのはフランス、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウ ェーデン、そしてイギリスの6か国について3つの研究班が組織されまして、各班が2 か国ずつ訪問して各国の行政官、あるいは研究者からヒアリングを行っております。  ご報告をいただきますのは、当審議会の専門委員でもあります網野武博上智大学教授 津谷典子慶應義塾大学教授、伊奈川秀和九州大学助教授でございます。  時間の制約がございますので、まず、2か国合計で1人15分ずつの発表を3人続けて いただきました上で、質問や意見交換などについてはその後で一括して30分ぐらいの検 討、時間を取りまして討議したいというように考えておりますのでよろしくお願いいた します。  それでははじめに伊奈川助教授からフランス、イギリスについてご報告をお願いいた します。よろしくお願いいたします。 伊奈川氏  九州大学法学部の伊奈川でございます。よろしくお願いいたします。 座ったままや らせていただきます。 宮澤会長  どうぞ。 伊奈川氏  私、3月、イギリスとフランスに行ってまいりました。皆様、ご承知のようにイギリ ス、フランス、それぞれだいたい人口で言いますと6,000万人弱ということで、日本の半 分弱の人口規模でございます。合計特殊出生率もだいたいそれぞれ1.75ぐらいというこ とで、我が国と比べますと比較的高いといった状況の国でございます。  今回、行った結果につきましてはヒアリング用ということで資料の1を用意させてい ただいております。時間が限られておりますので、この最初の2枚を中心に説明をさせ ていただきまして、皆様、ご関心があれば適宜、その後、3頁以降、また1、2、3、 4、5というような形で頁が振ってございますけれども、補足資料というものがござい ますので、適宜、ご覧いただければと思います。  そういった時間の制約の関係で制度の詳細な説明というよりは、制度改革の状況とい うことについてお話をさせていただきたいと思います。  まず、資料1の1枚目でございますけれども、フランスの少子化対策ということにつ きましてご説明いたします。基本的考え方でございます。現在、フランスの合計特殊出 生率、1998年の暫定値、私が承知しておりますのでは1.75ということで、近年、少し回 復傾向にあるといったようなことのようでございますけれども、人口減少に苦しんだ過 去の記憶というものが今回、訪問したいろいろなところでも言われております。そうい ったことで人口問題がフランスにとって重要であるということは誰も否定していないと ころでございます。  その意味で正面から人口政策、あるいは人口問題の取り組みというふうにうたうかど うかは別としましても、かなり人口問題への配慮というものはいろいろな政策の中にあ るのだというのが多くの訪問先での担当者の指摘でございました。  こういった国家が家庭の問題、あるいは人口の問題に関与することはどうしてなのか ということについては、よく言われておりますのは子どもがほしいといったような希望 があれば、それに応えるのがやはり必要ではないかと。このようなことを実質的自由と か言ったりしておりますけれども、そんなような配慮とか、あるいは家族の負担の不公 平を解消していくのが公正であるとか、あるいは家族の問題が個人の問題であると同時 にやはりそれは社会の問題であり、それに対して社会は責任を負っているといったよう な指摘がされております。  現在の政権でございますけれども、これも周知でございますけれども、社会党のジョ スパン政権という政権が担っております。この現政権が前の保守政権に比べると一般的 には人口問題に対しては消極的というふうに言われてきているわけでありますけれども やはり家族の問題というのは重要であるといったことから、ここに書きましたように家 族政策という形で各種政策を進めるという立場をとっておるところでございます。  どんな施策があるのかというところに入りたいと思いますけれども、各種施策があり ますのでいくつかに絞らざるを得ません。代表的なものは家族給付と言われているもの でございます。その家族給付、これは社会保障法典という法典に規程されております各 種手当て等を総称して家族給付と言っているわけでありますけれども、これは他のヨー ロッパ諸国と比べますとひとつの特徴としては社会保険方式で運営をしているといった ところにございます。  また、家族給付というものがこの資料にも挙げましたように多くございまして、法典 上、家族給付と言われているものだけでも10種類、その中で、おそらく子どもあるいは 家庭の問題に関わるようなものだけでも、ここに挙げたような種類があるわけでござい ます。  そういった各種家族給付があるということはどういうことなのかと言いますと、やは りその背景にはかなり人口問題に対する配慮というものがあったのではないかと思われ ます。これは今回の調査でも多くの人が指摘をしておりましたし、また、戦後の社会保 障を作ったフランスのラロックという人の戦後、すぐに書かれた論文の中でも、フラン スにおいてはイギリスにおいて失業問題が重要であるのと同じように家族手当の問題が 社会保障において重要なのだといったようなことが指摘されておるところでございま す。  いろいろとあるわけでございますけれども、特に現在、フランスにおいても非常に女 性の就労というものが進んできております。また、女性にとっては結婚というのは就労 の妨げにはならないけれども、子どもが生まれるということが負担になるといったよう な指摘がございます。そういった中で設けられております手当というものが代表的なも のとしましては育児手当といったようなものがございます。  これはどういうものかと言いますと、育児休暇期間中、別の言い方をしますと育児休 業中にフランスの場合ですと雇用契約が停止するわけでございますけれども、その場合 の所得の損失を補填するための制度ということになっております。  また、女性が子育てをしていくという中で子どものために保育所という施策もあるわ けでございますけれども、フランスの場合、活用されておりますのが保育者や、あるい は保育ママを雇うといったようなものがございます。その場合の保育者や保育ママに対 する社会保険料を家族手当金庫が在宅児童保育手当、あるいは保育ママ雇用家庭補助と いったような形で補填をしておるわけでございます。そういった家庭と仕事との両立と いったような面での各種手当があり、これがまた特に1994年以降、拡充されてきている といったようなところが現在の状況でございます。  フランスに特徴的なこととしましては、税制上、いわゆるN分のN乗法と言われる方 式が取られておりまして、この方式が戦後、1945年に導入された際もかなり人口問題的 な配慮があったのだといったようなことが今回の訪問先でも言われておりました。  現在、どのような改革があるかと言いますと、一番問題となっておりましたのは、 1998年に家族手当に所得制限が導入されたわけでございますけれども、これの撤廃とい うことが大きな課題となりまして、今年から撤廃をされていると聞いております。  次に保育サービスの関係でございます。典型的なものとしましては保育所、あるいは 保育ママといったものがございます。我が国と比べますとそれほど保育所の数は多くな いわけでございますけれども、一般的にはヨーロッパの中では充実しているというふう に言われおります。  しかしながら、やはり現在、25歳から49歳の女性の4分の3が働いているという状況 にあって、保育所自体は必ずしも充足されていないということで、こういった施設の サービスを補うものとして近年、保育ママの制度が普及をしているといったようなこと でございます。これを側面から支えているのはさきほど言いました保育ママ雇用家庭補 助と言われているようなものでございます。  現在、問題になっていることとしましては、施設整備もさることながらやはり厚生省 を訪問をしたときに言っておりましたのは、保育所自体というのはどちらかというと自 治体もなかなか作りたがらないと。そういった施設とか、あるいは職員の給与といった ような面での負担がかかるということで、これは家族手当金庫が補助しているわけでご ざいますけれども、これをさらに強化しなくてはいけないといったような改革の動きが あるようでございます。  雇用対策の関係でございますけれども、フランスの場合、典型的なものとしましては こういった均等待遇原則といったことを別にしますと、育児休暇制度ではないかと思い ます。この育児休暇を実際に取っているのはやはり女性が圧倒的だと。確か私の記憶で は95%ぐらいは女性だといったようなふうに聞いております。  そういった中でどういうことが問題になっているかと言いますと、やはり育児休暇の 現職復帰というのはこれは法律上も保障されておるわけでございますけれども、現実に はいろいろなトラブルもあるといったような中で問題も抱えているけれども、大きな見 直しをするといったような状況にはないというようなことを言っておりました。  むしろ現在、問題になっておるのは家庭と就労といったことよりは、法定労働時間制 これを35時間制にするといったような流れが一番の大きな課題であると。これが実現を すれば家庭にとってもいい影響があるのではないかといったものが訪問先での指摘でご ざいました。  次にイギリスの関係でございます。次の頁を開いていただけますでしょうか。イギリ スにつきましては私の承知しているところでは1996年の合計特殊出生率が1.75といった ような状況のようでございます。フランスと異なりましてイギリスの場合は人口問題、 あるいは人口問題の配慮といった形での政策というものは取っておらないということの ようでございます。  ただ、やはりむしろ別の考え方、特に今回、目につきましたのは「家庭にやさしい」 とか、「ファミリーフレンドリー」といったような考え方がいろいろな施策の中で重視 されているといったことでございました。  これは大きな流れとしましては、ここに書きましたような現在の政権の下で進められ ております、訳が適切かどうかわかりませんけれども、「就労促進的な福祉」といった 一連の改革の中で取り組まれているということでございました。その背景としましては ここに挙げましたような少子化に関連する各種、社会問題の存在といったようなことが あるようでございます。  個別施策の関係でございますけれども、イギリスの場合、特に子ども、あるいは家庭 に関係するものとしましては、ここに挙げましたような児童手当、あるいは家族補助と 言われているものが中心ではないかと思います。この児童手当でございますけれども、 フランスの場合はこれは第2子以降なのですけれども、イギリスの場合は第1子からと いったことで、そのあたりがひとつの特徴だろうというふうに思われます。現在、今年 の4月からでございますけれども、給付額も改善を図るといったようなことが行われて おります。  また、家族補助、制度はちょっと複雑なのですけれども、働いた場合に金額が全く停 止してしまうということではなくて、所得に応じて一定額ずつ減額していくような制度 でございます。この制度につきましてもここに書きましたように今年の10月からという ことのようですけれども、就労家族税額補助といった形での給付の改善を行うといった ことが予定されております。  保育の関係ですけれども、これは児童法に基づきまして現在、対応が取られておると ころでありますけれども、やはり問題点としましては質、量、費用といった面で問題を 抱えているということでありまして、現在、保育に関しましてはここに書きましたよう な保育の定員の引き上げ、保育職員の質の問題がありまして、その養成なり質の向上、 あるいは財政的な補助といったことを取り組んでいるといったことでございました。  雇用対策の関係でございますけれども、これは前政権と異なりましてECの各種法制 を導入していくといったような取り組みをしているということでありまして、従来指摘 されておりました各種労働関係の法律の不備というものを見直していくということで、 特に今年になりまして最低賃金制の導入、あるいはこれは特に女性の収入の向上という ことに役立つのではないかといったようなことが言われております。  あとは労働時間法制の見直し。あるいは出産休暇、育児休暇。出産休暇は現在もある わけなのですけれども、育児休暇が今までなかったということでございまして、3か月 の育児休暇を導入するという法案が提出されておるというふうに聞いております。  以上がイギリス、フランスの調査結果でございます。時間の関係がありまして不十分 ですけれども、以上で終わります。 宮澤会長  どうもありがとうございました。質問はさきほど申しましたようにあとですることで 続きまして網野教授からドイツ、オランダについてお願いいたします。 網野氏   私、この審議会の専門委員を仰せつかっておりますが、この時間はむしろ実際に調 査いたしましたレポーターということでこの席に座らせていただいておりますので、担 当しましたドイツ、オランダについて報告させていただきます。  お手元の資料2に沿って簡単にお話し申し上げたいと思いますが、ドイツもオランダ も私ども、実際に訪問しまして改めて最新の状況を確認したところから言いますと、は じめにというところで書いておりますように比較的共通の方向での政策が促進されてい るという面が見られました。  比較的共通と言いますのは、ひとつはこれは従来からですが、両国ともいわゆる出生 率そのものについて関心を持って、例えば出生率を上昇させようというような意図を持 った人口政策、あるは少子化政策ということは直接、具体的は進めていないというのが 特徴かと思います。  むしろそれよりもさきほど伊奈川先生からお話がありましたようなイギリスで見られ るファミリーフレンドリーと言いますような、いわゆる家族関係をもう少し大切にして あるいは子育てを大切にする家族政策というふうなことで重視している方向が見られま した。特にここに書きましたように家族形成と就業を両立させるような環境の整備とい う点が非常に重視されているかと思います。  まず、ドイツですが、もう既にご承知のようにドイツは合計特殊出生率がここずっと 低いことで著名な国のひとつですけれども、東西ドイツが統合されて現在、約8,270万人 というふうな人口が言われておりますが、EU諸国で最大の人口規模を擁しておりま す。ここ数年、どちらかと言いますと旧東ドイツの体制からかなり脱皮したというので しょうか、旧西ドイツ体制での本格的な生活政策の面での落ちつきが漸く見られつつあ るような状況にあるかと思います。  その中で出生率の動向を見ますと、むしろ上昇というようなことは今のところあまり 見られません。2の出生率低下の背景のところに書きましたように多くのヨーロッパ諸 国と同じように婚姻率が下がっているというふうな、あるいは女性の就労の高まり、こ れらが背景にあるわけですが、もうひとつむしろドイツでは従来から子どもを生み育て るということに対して必ずしも温かい目、眼差し、あるいは理解という点が薄かった。 これは比較的国民性にも関係するかと思いますが、むしろ政策がしたがってハンディキ ャップを持つ、子どもを生み育てることによってハンディキャップを持つことが解消す るという方向で進められているという特徴がありますので、これが言わば家族政策の背 景にも関連するかと思います。  特に興味ありますことは、その次のところに書いてありますけれども、旧東ドイツ圏 が統一後、デモグラフィック・ショックという、人口問題研究所の研究員の方はこのよ うな表現をされておりますが、統一されたことによる非常な、この後どうなるのだろう というような不安、あるいはじっと現状を少し様子を見ようということから、婚姻率、 出生率、これも非常に下がっただけではなくて離婚も手控える。あらゆる家族関係、親 子関係、それに関連するような部分について手控えられるというような現象が見られた ようです。  漸くそこから今、元に戻りつつあるということが大変興味ある内容としてお聞きしま したが、そのような背景から言ってもむしろ下がる傾向が見られて、これからどのぐら い上昇するか、いろいろな要素でわかりませんが、いずれにしてもドイツはこのような 点では出生率が低いという特徴が見られるかと思います。  さきほど申し上げましたように3番目に書いておりますようなことから、特に人口政 策はこの趣旨で行われておりません。むしろいかにまとめました家族政策の中で特に最 近の特徴、政策の方向について報告したいと思います。  まず、育児休業に関してですが、ドイツの育児休業制度は実際の育児休業を取得する 体系と、もうひとつ育児手当の支給という非常に特徴があります。この中で育児手当で すけれども、過去に働いていたかどうか、あまりにそれには関係なく、ちょうどこの期 間、だいたい国の連邦政府の政策では生後2歳になるまで、0歳、1歳の段階、2年間 で家庭における育児を支援するためということで育児手当が支給されます。これは児童 手当とは全く別の仕組みです。それ以外に支給されるということです。休業とともに手 当が支給されるというのが特徴です。7か月以降は所得制限がありますが、それまでは ありません。  さらにいろいろ見ていきますと、この育児手当がその後、3歳になるまで、つまり2 歳の段階で一部の州によってはさらに継続して支給するという制度を設けているところ があります。それによって育児休業期間すべての期間、育児手当も支給されるというこ とが、まだ全国的ではありませんが、そのような方向も見られております。  これをさらに制度を強化していきたいということで、新政権の下では育児休業に関し ては対象児童8歳未満まで広げたい、あるいは父親、母親どちらかですが、同時に両親 ともに取れるというふうな改正をしていきたいという方向を検討しております。  さらにその次のところにまとめておりますが、父親の子育て参加、これを政策的には 非常に重視しておりまして、ここにも例に挙げておりますように大きな企業が、いわゆ る父親の子育て参加を促進するようなトレンドセッター、これはセンターではなくてセ ッターですね。トレンドセッターになるような広報活動も展開しております。さらに パートタイム労働を促進するための重要な制度の改革なども今、進めておりまして、母 親だけではなくて父親が子育てに参加するという方向が見られております。  次に保育政策ですが、ドイツは従来、東ドイツと西ドイツでは全くシステムが違いま した。しかし、統一後は旧西ドイツの体系で進められております。以前は0歳からの保 育は社会主義体制の国家的な政策もありまして普及しておりましたが、全国的に見ます と旧西ドイツ圏が3歳未満の保育が非常に不足、不足と言いますか、あまり必要性を感 じていなかったということもありまして、現在、様々な状況を見ましても3歳未満の保 育状況は日本とはかなり違った状況が見られます。  むしろ注目すべきことは、子育て家庭での3歳以降の子どもの保育権、教育権を保障 するために、保護者が保育を求めるという保育権を保障する制度が1996年からできまし て、具体的に言えばすべての子どもが3歳からは保育、あるいは幼児教育を受けるとい う、このような方向が促進されております。  最後に経済的な面での政策ですが、西ドイツの特徴はもう既に児童手当が広くよく周 知されておりますのでご存じかと思いますが、18歳未満までの場合に児童手当が支給さ れる。これはもうひとつ税制で言いますと児童扶養控除を適用するか、あるいは児童手 当を受給するか、そのどちらかの選択するシステムになっています。  ここにも年間約7,000マルクと書かれておりますが、これをそれぞれの家庭がどちらを 選択する方がある意味では経済的に有利かというふうなこともあって、どちらかを選択 するというふうなシステムになっております。さらに特別の場合には18歳以上でも控除 の制度があります。  その下のところに書いておりますが、ちょうど私どもがドイツを訪れた際、財務省の 担当課長といろいろヒアリングをしていたときに、ここに書いておりますことが大変大 きなことになっておりまして、ちょうどその改革のためのどういうふうに進めていった らいいかという渦中にあるという印象の強いものでした。  それはどういうことかと言いますと、これまでは一人親家庭、単身世帯の場合に育児 あるいは保育に関わる費用の補助が従来からずっと行われておりました。1980年代後半 にも両親世帯でもこれは適用すべきだという意見が多かったようですが、いわゆる連邦 の裁判所の判断でこれは一人親所帯のみということで判例を重視していたところだった わけですが、ちょうど今年の1月、連邦の憲法裁判所がある意味では逆転判決と言いま すか、単身所帯のみというのは違憲であるという判決が出まして、したがって子育て家 庭すべてに対して控除が行われることになるという方向が今、進められております。こ れはひとつの大きな改革かと思います。  時間が少し限られておりますので、児童手当制度についてはかなり知られております ので省略させていただきます。  次にオランダですが、人口は1,570万人程度ですが、EU諸国のの中でも非常に人口密 度の高い国です。一時、70年代には非常に出生率、合計特殊出生率が低下しました。そ の後、若干回復しましたが、ここにも書いてありますようにだいたい1.5〜1.6前後を推 移しております。  同じようにその低下の背景には女性の就労率の向上、晩婚化が言われておりますが、 特に2の出生率低下の背景に書いておりますように今の若い人たちはまず結婚の前に同 棲をする。そして生活を確かめた上で結婚に至る。なかには子どもを生み育てている人 もいますが、結婚して子どもを生むというパターンが多いようで、現在、平均出産の年 齢が29歳と非常に高くなっております。  さきほど申し上げましたようにオランダにおいても低出生率に対応する人口政策とい うものは行っておりません。ちょうど以前にも日本にお見えになりました人口問題研究 所長のDr.Beets先生にもまたいろいろ聴取、ヒアリングできましたけれども、そのとき にむしろ子ども、少子化を含めて特に人口の高齢化というのはある意味では人間として の勝利ではないかというふうな受け止め方があるというような趣旨でして、必ずしも少 子・高齢ということに対して否定的、あるいは悲観的な受け止め方をしておりません。 ちょっと時間がありませんので、その背景は省略させていただきます。  家族政策の重要なポイントを簡単に申し上げますと、まず、育児休業ですが、対象は 8歳未満の子どもに対して通算13週間、あるいは連続、約3か月というのが制度の中心 になっております。  特に新しい動向としましては、就業中断期間の所得保障に関する法律ということで、 キャリアを中断しても、老親の介護なども含まれますが、子育てや介護、あるいは教育 そういうことのために就業を中断しても一定の所得保障をするということ。さらに例え ば生活保護世帯のような方々に就労の機会を提供するということで代替要員をあてる。 このようなシステムが制度上、非常に強化されてきております。言うまでもなくこれは ドイツと同じですが、男性の育児参加を促進するということでもかなり政策的に強化し ております。  次のパートタイム労働政策ですが、この点でオランダがかなり強力な政策を推進して いる国のひとつかと思います。男性の育児参加を促進するということがこの趣旨にも相 当含まれておりますが、下のところに1993年以降、現在までのこの面での制度の改定と 言いますか、充実ということで出ております。低賃金上の差別をなくす、年金上の差別 をなくす、処遇上の差別をなくす、ということでいよいよどのような職種、どのような 職についても正当なパートタイムが適用できるという方向に進んできつつあります。い わゆる1.5所得モデルの実践ということになるかと思います。  次に保育政策ですが、オランダは印象を一言申し上げますと、大変に保育政策を重視 しはじめ、ある意味では数はもともと少ないわけですが、保育所の数も劇的に増加しは じめているという印象が見られました。これは言うまでもなく子育てと仕事の両立を図 る上で政府も社会も企業も協力する体制ということになるかと思います。  特に事業主、企業が様々な形で保育をサポートするシステムがオランダの特徴でもあ ります。特にここに書いてありますように4歳以上の子どもたちの保育が非常に不足し ておりますので、特に計画的な強化が進められております。  最後に経済的な負担の点ですが、今、申し上げましたような、特に保育に関わる控除 制度というものがありまして、ここに書かれております具体的な要件にあう場合に控除 が認められております。  最後の児童手当ですが、これもよく知られておりますので内容は省略させていただき ますが、いずれにしまても児童手当を充実させるということ、これが出生率の上昇と結 びついているかどうかということはドイツもオランダも必ずしもそれについての肯定的 な見解がありませんし、いろいろな議論のあるところかと思います。以上、終わりま す。 宮澤会長  ありがとうございました。それでは引き続き津谷教授からデンマーク、スウェーデン についてお願いいたします。 津谷氏   ご紹介に預かりました津谷でございます。私は単なる人口学者でございまして北欧 の研究家でも専門家でもございません。スウェーデンについては、ここにご出席されて おります国立社会保障・人口問題研究所の阿藤誠副所長のお声掛かりで以前から研究を しておりますので、比較的アカデミックなお話ができるかと思いますが、デンマークに 関しましては、今回2日間の訪問が初めてですので、付け焼き刃のお話になることをご 承知いただければと存じます。  まず、私が比較的通じているスウェーデンから始めたいと思います。スウェーデンは 世界に名だたる福祉国家の伝統を持ち、よく研究されている国ですが、1998年現在の人 口は約880万人です。北欧最大の人口規模を誇る国なのですが、それでも東京都の人口よ り少なく、神奈川県より若干多い程度です。  スウェーデンの合計特殊出生率(これをTFRと呼びます)は、1965年には女性一人 あたり約2.4であったのですが、1975年には1.8、そして1983年には、これが一番低かっ たのですが、1.6と落ち込みました。この 1983年の1.6を底にして、TFRはそれからもの凄い勢いで反騰、回復をしました。1990 年にはもっとも高くなり2.13です。これをピークに1990年代の初頭は出生率はかなり高 い水準で推移したのですが、その後、急落しています。ヤン・ホエムとブリタ・ホエム という2人のスウェーデンの人口学者が、この状況をさして「ローラーコースター・ラ イド」だと言っています。下がって上がって、また下がったということですね。  ではスウェーデンの出生率はどうして下がって上がって、また下がったのか。まず、 最初の1960年代半ばから70年代半ばまでの低下ですけれども、これについてよく言われ ておりますのは、最大の要因は女性の雇用労働力化に伴う家庭外就業の増加ということ です。1960年代、スウェーデン経済は大変好調で「黄金の60年代」と呼ばれてました。 この時期、有配偶女性も含めて多くの女性が労働市場に参入しました。その後、底を打 った出生率が増加した要因にはいろいろなものがあげられていますが、大きな要因は包 括的な家族政策であると言われています。具体的に言うと、育児休業制度と児童手当、 そして豊富な保育サービスを柱にした総合的な政策の効果が非常に大きかったのではな いでしょうか。  その後、出生率は再び落ち込みましたが、これには大きく言って3つの要因があるの ではないかと思います。ひとつは不況に伴う失業。特に若年層の失業の増加です。もう ひとつはこれは人口的な要因なのですが、80年代後半にベビーブームで非常に高くなっ た反動による落ち込み、つまり、生める人はほとんどが生んでしまったために、その後 の時期に出生率が低下するというある意味の「ピリオド効果」です。そして3番目は社 会政策、特に児童を抱える家族を対象とした社会サービスのカットバックです。  このカットバックは、実はこの低下が始まった後に実施されておりますけれども、 1995年にTFRが1.74、96年に1.61、97年に1.52とここまで落ち込んだのは、このカッ トバックが与えた影響が非常に大きいのではないかということをいろいろな方たちから 聞きました。このような出生率の大幅な落ち込みがあったものですから、最近社会サー ビスの再拡充を始めています。  では次に、家族政策のお話に移りたいと思います。ここでは特に重要な部分だけに焦 点を当てて説明をさせていただきます。皆様への配付資料の第1頁目の一番上にスウ ェーデンの家族政策の概要をまとめたものをお出ししております。  まず、具体的な施策についてお話しする前に、大きなことをお話したいと思います。 これはスウェーデン、デンマーク、そして他の北欧諸国に共通することかと存じますけ れども、これらの国々には私たちが呼ぶところの「少子化政策」とか「少子化に対する 政策的取り組み」とかというものは存在しません。むしろ個人主義の伝統に則った公正 平等、自立などの社会的な原則原理に基づき、それを旨とした児童や家庭や親のための 政策、特にスウェーデンの場合は平等政策、なかでも男女平等政策の傘の中で家族政策 を行っていると解釈するのが一番妥当ではないかと思います。  これは政策的な建前ではなく、いろいろな方々にお話を聞いてみましても、少子化が 大変な社会的問題だとか、社会として憂慮すべき事態だというような考え方はないと感 じました。  スウェーデンの家族政策をまとめますと、これには、3つの大きな柱があります。こ の他にもありますが、ここではこの3つの柱にしぼってお話ししたいと思います。  まず、第1は出産・育児のための有給休業制度です。これをスウェーデンでは「親保 険」、「ペアレンタル・インシュアランス」と呼んでおります。なぜ、この名前がある かと言いますと、スウェーデンは1974年に健康保険制度を抜本的に改正しましたが、そ のときに一緒に導入された制度であるからです。これはスウェーデンの家族政策、特に 児童家庭政策の根幹をなすものであり、特に出産育児への男女共同参画をうたった世界 で最初のものでもあります。  この「親保険」にはいろいろな要素があるのですが、ここでお話したいものは4つで す。まず、最初は出産に伴う親手当です。これは子どもが18か月になるまでにフルに取 るか、最初の6か月まではフルにとり、それ以降は子どもが8歳になるまでに分けて取 るかを選ぶことができます。このように受給形態は非常にフレキシブルです。  また、出産に伴う親手当の所得保障ですけれども、現在、15か月です。最初の1年間 つまり12か月間は休業前の所得の8割、そしてその後は最低保障額が支給されます。所 得保障の割合は、最初に導入された時には9割で、その後ずっとそれが続いていたので すが、95年のEU加盟と、それに伴ってマーストリヒト条約を批准したために財政赤字 をなくさなければならない必要が生じ、その結果大変お金がかかるということで8割に カットされました。そして次の年に、さらにカットされて7割5分、つまり、75%にな りました。しかし、これは少し低すぎるという意識が政府にはあり、また、国民の反応 もこれを裏付けるものであったため、98年には8割に戻っています。  お手元の配付資料に、この出産に伴う親保険は父親も1か月の取得義務があると書い ておりますが本来は両親が少なくとも1か月づつは取らなくてはいけないということな のです。ただ、実際の取得者は殆どが母親でありまして、受給日数にして男性は約1割 しか取っていません。そこで、お父さん全員に少なくとも1か月は休暇を取ってもらい ましょうということで、このような要件を93年から設けています。  皆様に今から、ポスターをお回ししたいと思うのですが、スウェーデン政府はここ数 年男性の育児参加を呼びかけるキャンペーンを積極的に行っています。これは「ダデ ィ・カム・ホーム」と呼ばれているのですけれども、お父さんが小さな赤ちゃんをお風 呂に入れたり、女の子を肩に担いでキッチンで朝御飯の用意をしたり、もうちょっと大 きな男の子を釣りに連れていったりといったような写真が使われた、大変可愛いポス ターです。ここからも男女共同参画に対するスウェーデンの取り組みが見えると思いま す。  この出産に伴う親保険は、2つめの項目である次子出産資格期間、エリジビリティ・ インターバルと呼んでいますが、それとカップリングされています。これは何かと言い ますと、最初の子どもを生むときは、その休業直前の所得で所得保障額が決まってくる わけですが、その後ある一定期間内に次の子を生めば最初の子どもと同じ条件で育児休 業が取れるといいうものです。この資格期間は最初は12か月という短い期間だったので すが、現在は30か月です。特に1980年にこの期間が24か月に大きく延長されてから第3 子の出生割合が急速に上がりました。これをストックホルム大学のヤン・ホエム教授は 政策の「スピード・プレミアム」と呼んでいます。つまり、この条件があるために、子 どもをある期間内に、ある程度の速さで生んでゆくインセンティブが与えられていると いうわけです。  次に、臨時児童看護手当に移りたいと思います。これは出産育児休業を終えた後も、 子どもが病気になったりした時に親がこの制度を使って休業することができるというも ので、現在、子ども1人当たり年間90日とることができます。これは12歳未満の児童が 対象になっていますので、子どもが3人いれば年間270日まで看護のための休みが取れる ことになります。これは最大限ということで、実際こんなに長い休みを取る人は殆どい ないということですが、子どもが重い病気にかかったときなどは、大変助かる制度であ るという親の声が届いているというのを聞きました。  親保険の最後になりますが、出産後の父親特別休暇について簡単にご説明したいと思 います。これは「10デイ・アローワンス」とか、「ダディ・デイズ」と呼ばれていまし て、普段は母親か父親のどちらしか取れない育児休業を、出産後10日間に限り両方が取 れるという制度です。この制度の受給率は約95%と大変高くなっております。  次に、スウェーデンの家族政策の第2の柱であるところの各種の手当に移りたいと思 います。ちなみに、親保険は国が実施しておりますので全国一律です。そして育児休業 の所得保障は課税されます。ただし、スウェーデンの税制は徹頭徹尾個人ベースですの で扶養家族控除を含む各種の控除は一切ありません。子どもがいようが、奥さんが家に いようが同じです。そして、各種の手当ても殆どが国によって実施されているので、こ れも全国一律である場合がほとんどです。  各種手当ての中で一番重要なものは児童手当で、「チャイルド・アローアンス」と呼 ばれています。この手当の額は比較的高いのですが、それよりも大切なことは、子ども 数以外の受給要件が何もないということです。国籍がなかろうが、親が100万クローネ稼 いでいようが、無収入であろうが同じです。  これには2つの理由があります。子どもは公共財であるということがまず第1です。 そしてもうひとつは、親の収入や経済的階層の格差が子どもに影響することを防ぐとい うことです。親が収入ゼロの場合は、親の収入が高い場合よりもこの手当ははるかに重 要になります。また、児童手当には多子加算という制度もありまして、第2子までは手 当は子ども数に応じてかけ算をした額が支給されるのですが、第3子以上は子どもの数 にプラス・アルファを足した額が支給されます。この制度は先程申しました財政難のた めに96年に一旦廃止されたのですが、98年に復活しています。  この児童手当には大きな消費刺激効果があると言われています。いろいろな人に聞い たところでは、この手当がないと、子どもを育てるのが苦しくなる親御さんがかなりい るということです。なお、この手当は受給要件がないだけでなく、非課税でもありま す。税金はかかりません。  ただ、額ですが、多子加算復活のときに650クローネから750クローネというのが650で なしに640です。誤植でございます。ご訂正下さい。 各種手当ての2つめの延長・奨学手当ですが、児童手当が16歳未満の児童を対象とする のに対し、これはもし子どもが学校に行っていれば20歳になる春まで延長できるという ものです。  3番目の先払い養育手当ですが、これは同棲、もしくは結婚していた親が別れてしま って片親になった場合、特に母子家庭が対象になることが多いのですが、その場合、一 緒に住んでいないけれど養育費を負担すべき親が払わなかったりして、子どもを抱えた 親が困るということがあります。そのようなことになった時、政府が養育費を立て替え て、払うべき親から取り立てるという制度であります。この制度は、子どもの福祉とウ ェル・ビーイングのためであり、子どもに安定した経済環境を与えるためです。ここま での手当は、全て国が実施主体ですので、条件は全国一律です。  手当の最後にある住宅給付だけは「コミューン」と呼ばれる地方自治体が実施主体で あり受給要件があります。しかし、この要件はコミューンによって変わってきます。ち なみに国が実施する住宅給付もありますが、これは非常に貧しい家庭に対する一種の生 活保護のようなものです。そこまで貧しくなくても、十分に健全な住環境で子どもを育 てることができない親や家庭に対して各コミューンがこれを支給しております。  概ねスウェーデンの住宅事情は、ここ10年ほど非常に改善されてきており、このコミ ューンの支給する住宅給付は大変役に立っているということを聞いております。これが 第2点目であります。  次に第3の柱である保育サービスに移りたいと思います。この保育サービスはコミ ューンが実施主体となっています。これは1982年に社会サービス法を施行して、従前の 児童福祉法やその他の児童関連法を全て統合して以来、現在の枠組みがとられていま す。保育サービスを実施する際、ある程度の大まかな枠組みは国が決めますが、各コミ ューンが独自にその内容を決定し、運営をしています。保育サービスの種類は豊富です が、ここでは一応児童の年齢で分けてご説明したいと思います。まず、就学前児童、こ れは7歳未満の児童ですが、これらの児童を対象としたサービスには大きくいって2つ あります。まず第1は、「Daghem」と呼ばれる保育所です。だいたい朝8時頃から晩6 時頃まであいているところが多いのですが、朝早いところもありますし、夜遅いところ もあります。私が依然スウェーデンを訪問した時には、24時間あいているところを見学 しました。  就学前児童を対象とした保育サービスのもうひとつは「Familjedaghem」つまり家庭保 育所です。英語では「Family day care」と言っています。この他に「時間制グループ」 と呼ばれる幼稚園もあり、これは学期中だけ1日3時間ほどの保育です。また、「開放 型就学前学校−Open pre-school」と呼ばれるものもあります.これは育児休業中のお母 さんや自分で家庭保育所を開設している保育ママを対象にしたもので、1週間に数回行 われています。  保育サービスの最初の2つ、つまり保育所と家庭保育所は共に有料です。ただ、料金 はコミューンによって違います。また、親が払う保育料も違うのですが、保育コストに おける親の負担割合もコミューンによって大きく違います。全国平均では、保育にかか るコストの約1割から1割5分で残りを政府が負担をしているということです。そして 保育料は親の収入でかなり変わってきます。幼稚園である「時間制グループ」と「Open  Pre−school」は無料です。  次は、学齢になった子どもを対象とした保育サービスについてですが、「余暇セン ター」が中心になります。これは学校が終わった後いくところで俗に言う学童保育所で す。そして家庭保育所ですが、スウェーデンでは家庭保育所は学齢前の子どもだけでな く、学齢の子どもも預かるところがあります。  このような保育サービスに対する利用状況ですが、保育所と余暇センターに在籍する 子どもの数はずっと増加傾向にあり、一方家庭保育所に在籍する子どもの数は低下傾向 を示しています。入りたい保育施設に入所できない子どもの入所待ちも多少あるようで すが、保育サービスの受給関係のバランスは概ね取れているようです。  では、これでスウェーデンに関するご説明を終えて、次にデンマークに移りたい思い ます。デンマークは人口530万の国です。デンマークの社会政策担当者から聞いたところ では、デンマーク人は自分たちの国を「ひとつの大きな家族だ」と言っているようで す。実際に行ってみるとなるほど本当にそういう感じがしました。  デンマークのTFRの動向を簡単に申しますと、1965年には女性1人当たり2.6ですの で、当時はスウェーデンより若干高かったわけです。その後、ずっと約20年間、低下傾 向が続いておりました。1983年にはTFRは1.37です。この低下ですが、これは先程ス ウェーデンの時に申しました女性の雇用労働力化に伴う家庭外就業の増加によるところ が大きく、また、若い女性の結婚および同棲などのユニオン・フォーメーションのタイ ミングが遅くなり、また出産開始のタイミングも遅くなったことにもよります。  TFRが1.37であった1983年を底にして、出生率はその後95年ぐらいまで上昇しまし た。この上昇の要因には、ひとつは、スウェーデンほどではないのですが、家族政策を 本格的に始めたこと、特に育児休業と保育サービスに力を入れだしたことが挙げられま す。また、家族形成を遅れせていた人たちが子どもを産みだしたことによる「キャッチ アップ効果」もあります。現在、デンマークの出生率にして1.8くらいで90年代半ば以降 この水準で推移しています。  スウェーデン同様、デンマークでも少子化対策という考え方は存在しません。ただ、 スウェーデンが平等政策、特に男女平等政策を全面に押し出して家族政策を実施してい るのとは対照的に、デンマークはチャイルド・ウェルフェアやチャイルド・ウェルビー イング、つまり児童福祉や子どものためという意識を非常に強く持って家族政策に取り 組んでいるという感じがしました。  また先程と同じ3つの柱に沿って、デンマークの家族政策を説明させていただきま す。まず出産育児休業ですけが、これは現在産前4週、産後24週つまり6か月です。こ の出産休暇に伴う所得保障ですが、スウェーデンは健康保険の枠組みの中で親保険とい うものをやっており、保障額も大きかったのですが、デンマークの場合は日本同様、雇 用保険の中で実施しているため、支給額は失業給付と同額です。ただし、これには上限 のキャップがあり、月額にして約11,300クローネです。非常に高い収入を得ている人に はちょっと辛い額です。  なお、出産育児休業は産後14週までは母親だけですが、それ以降は父親も取得可能で す。なおスウェーデンと同様、デンマークでも産後2週間は両親が共に休業することが できます。ただ、この出産直後の特別休暇の父親の取得率には、両国間に大きな差があ り、スウェーデンでは10日間の休暇を取る父親は約95%に達しており、デンマークで は58%です。私の勝手な解釈ですが、デンマークでは所得保障額がかなり低いので、 男性は取りにくいし、また取るのを躊躇するのではないかと思います。  この出産休暇が終わった後は、育児休暇を取ることができます。現在この休暇は13週 から52週ですが、13週までは親(取得対象者)が申請すれば雇用主は必ず認めなければ なりません。それ以降は雇用主とのネゴになります。また育児休暇中の所得保障額は失 業給付の6割で、上限が6,780クローネ(月額)ということです。所得保障額はかなり低 いが、その分コストパフォーマンスは大変良いそうです。  次に、各種手当てに関する説明に移りたいと思います。ここで大切なものは、一番最 初にリストされている「一般家族手当、General family allowance」と呼ばれているの ですが、これだけです。スウェーデンの児童手当には受給要件が全くないのですが、デ ンマークの一般家族手当には若干の要件があります。どういうものかと言いますと、ひ とつは親がデンマークで税金を払っていること。もうひとつは対象となる子どもがデン マークに居住していること。この2つです。親の所得は関係ありません。そこに手当の 額を書いておきました。ごらんのように子どもが小さい程、高いのですが、これは小さ い子ほどお金がかかるという考え方があるからだそうです。  その他の児童手当がかなりたくさんあるのですが、これらは私が解釈する限りでは、 片親や親がいない子ども、また親権が確立できない子どもそして親がハンディキャップ であったり、年金生活者である子どもを対象としたもので、特別な場合にのみ当てはま るものです。  3番目の住宅給付ですが、これもスウェーデンほど充実しておりませんが、コミュー ンによって実施されているという点は同じです。  では、最後の保育サービスについてお話いたします。デンマークの保育サービスは子 どもの年齢によってかなり細かく分かれております。保育サービスは生後6か月の児童 から始まるのですが、これは出産休暇が6か月であり、休暇中は親に育児をしてもらお うということだと思います。6か月以降2歳までの非常に小さな子どもに対しては保育 所、これは「Creches」と呼ばれていますが、これと家庭保育所とが保育サービスの供給 主体になります。  3歳から5歳児の保育施設は「Nursury school」と呼ばれる保育所が主なものです。 そして学齢になった子どもが行くのが「学童保育所」です。家庭保育所は、デンマーク では2歳までの小さい子どもに限られているようです。  ただ、コミューンによっては、6か月から5・6歳、場合によっては10歳ぐらいまで 全年齢の子どもを一か所で保育する施設もあります。これは「年齢統合施設、Age-integ rated Institution」と呼ばれています。このような「縦割り保育」の実例を、私はスウ ェーデンでも見ました。子ども数が少なくて年齢別の学級編成ができなかった場合など に、保育所によっては2歳くらいから6歳くらいまでの子どもを一緒のクラスで保育し ていました。このような縦割り保育は、保育コストを削減するのに役立つだけではなく 毎年クラス替えがないため友達ができやすく、また、保育所の中で兄弟のような関係で 年下の子と年上の子が一緒に遊び学べるという利点があるとのことです。  また、保育コストにおける親の負担割合ですが、全国で平均しますと約3割ぐらいと いうことです。従って、スウェーデンよりも負担割合は高いのですが、保育コストの水 準が違いますので、親の実際の負担額がスウェーデンより高いとは一概には言えないと 思います。  以上、私の報告を終わらせていただきます。 宮澤会長  ありがとうございました。それではただいまのお三方の報告につきまして質問、ご意 見ございましたらどうぞお願いいたします。  ございませんでしょうか。それぞれ6か国一度に聞きましたので、なかなか交通整理 その他、あるかと思いますが、何かございませんでしょうか。どうぞ。 水越委員  フランスの家族手当の所得制限の撤廃ということを改革の中で行ったということです が、その改革の背景をもう少し詳しくお話しいただけますでしょうか。 伊奈川氏  さきほどは舌足らずの説明で申し訳ございませんでした。この背景として実は1994年 に家族法制に関する改革が行われております。それは、ここに挙げております育児手当 等の女性の言わば就労を促進するような手当の関係、特に在宅児童保育手当、あるいは 保育ママ雇用家庭補助といったような一連の手当を充実させることで支給対象者、ある いは支出が増大するという結果になりました。  その結果、従来、家族手当関係の財政というのは黒字だったわけでございますけれど も、赤字に転じたという中で、この家族手当自体の所得制限を導入さぜるを得なかった ということでございます。  これは前政権の時代から議論があったわけでございますけれども、家族手当というの は本来、従前所得の保障といったようなものではございませんので、一般的に家族手当 が子どもがいるということに着目した給付だということで、所得制限には馴染まないの ではないかと。また、家族手当にこういった所得制限を導入することに対する各種団体 等からの批判というものがございまして、1999年からまた所得制限を撤廃したといった ようなことでございます。 宮澤会長  よろしゅうございますか。他に。どうぞ。 木村委員  どこの国ということはないのですけれども、こういう施策をしたらばどういう効果が あったというような、どこの国も非常に最近のことのようですので、まだ結果は出てい ないのでしょうかということをうかがいたいのですが。 宮澤会長  政策効果の具体的な結果がどういうことで現れているか。学者の間の定量的な分析が そういうのがあるのかないのかという点も含めて、それぞれ簡単に。 伊奈川氏  続けてで。フランスに関しましてはご存じのように国立人口問題研究所がございま す。そこで聞きましたところ、そういった効果というものは測定できるものがないとい うふうに言われまして、それ以上、私の方も突っ込めなかったのですけれども、他の役 所でもやはりそういった効果ということを直接、測定した上でこういった施策を講じて いるわけではないのだと。  むしろさきほど来、ありましたようにこういった児童の養育に対する負担の軽減、あ るいは家庭と仕事との両立といったようなことのためにやっているのだからということ でございました。  イギリスに関しましてもやはり特にそういったそもそも人口問題的な配慮ではないの だということが前提でございましたので、効果というのは特に明確な回答はございませ んでした。 網野氏   さきほども申し上げましたように人口政策との関連というのはなかなか判断する、 具体的にこれだと決める、決めつけることが非常に難しい面がたくさんあるかと思いま すが、ただ、特に例えばドイツの場合は、さきほど紹介のありましたスウェーデンなど もそうかと思うのですが、具体的な政策で少し影響があるかと思われますのは、やはり 0歳、1歳、2歳の段階でどのような政策を取るかによって子育てと仕事の両立の選択 の幅が広がると言いますか、具体的に言いますと乳幼児期に手当なり休業を保障する方 向、特に育児休業を重視して、あるいはドイツのように育児休業と育児手当、この育児 手当はもちろん少し働くような形ももちろんできるわけですが、しかし、常勤的なもの ではありません。  そのような点で育児休業の全体的なシステムを強化すると0歳、1歳、若干、2歳ぐ らいまでは保育のシステムとして非常に低年齢児の子どものための保育所の整備とか、 あるいは保育ママとか、そういうことに対する需要が必ずしも増えない。  これはスウェーデンがある意味ではそういう時期の典型的な時があったようですが、 やはりドイツでも東ドイツは全く逆を取っておりましたが、1990年代後半からひとつの 保育政策の方向で見ていきますと、どうも別に3歳児神話というほどのことではありま せんが、むしろ0歳、1歳あたりの保育の充実よりは育児休業とか、あるいは育児手当 そのような面を重視ということにやや傾いているかなと。  それは相対的に見ますと低年齢期からの保育のニーズを必ずしも拡大させない方向に なっているのではないかなと、私としてはそのあたりがひとつ具体的な形では言えるの ではないかと思います。 津谷氏  スウェーデンに関しましては先程申し上げましたように、80年代半ばから90年代初頭 までの期間、出生率が急激に反騰しました。しかし、これは決して出生率を上げるため に出産促進政策を取ったからではないのです。  しかし、この出生率の反騰はこれも先程申しましたように、包括的家族政策の結果で あろうというのが多くの研究者そして政府関係者の一致した意見です。この政策効果を 定量的に研究したものがあるかどうかということですが、政策効果全体を計量したもの については私は不明にて存じませんが、家族政策の柱の1つである親保険の中の次子出 産資格期間については定量的研究があります。申し上げましたように、この資格期間は 最初12か月であったものが、その後18か月になり、さらにその後24か月、そして30か月 と延長されました。12〜18か月という生物学的に困難な期間であったものが、2年から 2年半というそれほどの困難なしに達成できる現実的なものに延長された途端、第3子 を生む人の数が増え、第1子から第2子、そして第2子から第3子への出産間隔が短く なりました。  スウェーデンの中央統計局は多くの研究者を抱えており、国家の様々な統計だけでは なく、サーベイなどの多くの調査を行っております。そしてまた、統計を歴史的に時系 列で整理することもきちんとやっています。この歴史的・時系列のデータを使ってトレ ンドを追っていきますと、次子出産資格期間の延長に従って出産のペースが上がること がわかります。これを「スピード・プレミアム」と呼んでいるのです。極端なことを言 えば、2年から2年半の間隔で子どもを産み続ければ、3人から4人子どもを持つ場合 7年も8年も最初と同じ条件で有給休業できるわけです。  また児童手当には多子加算があります。多子加算のために子ども数が増えたというこ とはあまり聞いておりませんが、少なくとも親保険については定量的な研究や統計があ ります。  もうひとつ、先程のご質問へのお答えになるのかどうかわからないのですが、スウ ェーデンとデンマークを研究して非常に感心しましたのは、家族政策の柱であるところ の出産育児休業制度や保育サービスが雇用政策と非常によく統合されていることです。 政策間のコーディネーションが取れており、省庁間の連絡が大変多いです。例えば、ス ウェーデンの保育サービスの一環として「Open pre-school」というのがあります。これ は1週間に3回ほど、1回数時間開かれており無料です。 この「Open pre-school」というのは何をするのかといいますと、育児休業中のお母さん が子どもを連れてこの施設に行くのです。そうすると、そこには自分の母親ぐらい年齢 の元保母さんの女性がいて、いろいろな育児の問題や悩みの相談相手になってくれるわ けです。また、子どもの健康や発育を見てくれたりもします。また、ここでは同じよう に休業中の他の女性たちと出会うこともでき、子育て相談をしたり、友達になって自分 の悩みを打ち明けたりできるわけです。そして、この施設には保育ママ達も訪れ、保育 ママとしての悩みの相談にのってもらったり話し合ったりします。そして、この施設の 保母さんも、毎日朝から晩までの勤務はしなくても、自分の今までの経験を生かした仕 事ができるということで、雇用機会を提供することにもなります。  これは、育児休業の実施主体である国と保育サービスの実施主体であるコミューンの 連絡がうまくいっているからできるのではないかと思います。聞くところによりますと 子育てをして休業をしているお母さん達は大変孤独なのだそうです。なぜなら、スウ ェーデンでは育児休業者を入れて約8割、入れなければ約6割から6割5分の女性が働 いていますので、休業して家にいると、日中周りに殆ど誰もいないのだそうです。した がって、お母さんが文字通り一人で子どもを育てるという状況になります。そういう女 性達に対するケアも、できる限りしていきたいと政策担当者は言っていました。  デンマークについては、スウェーデンのように豊富な統計的データがありませんので 政策効果の定量的研究も殆どないのではないかと思います。中央統計局にも行きました が、サーベイなどの調査は大変お金がかかるということで、殆ど実施されていないとい うことです。ただ、出生率はご存じのとおり、83年に底を打ってからずっと上がってき ています。これはデンマークが本格的な家族政策、特に育児休業や保育サービスを実施 し始めた時期と一致します。ですから、出生率の上昇には政策的な効果が大きいと考え られているということを研究者や政府関係者の見解として聞いております。 宮澤会長  ありがとうございました。まだ、議論があると思いますが、次の議題がございますが 簡単にそれではひとつ。 袖井委員  ちょっと簡単なことで。今、お話をうかがってひとつわからなかったのですが、フラ ンスで家族手当金庫というのはちょっとよくわからなかったので簡単に説明していただ きたい。 伊奈川氏  フランスの社会保障制度のひとつの特徴と申しますのは、社会保障制度自体を国が運 営するのではなくて、各種金庫と言われるところが運営をするということにござい ます。  その社会保障関係の金庫は大きく分けますと年金、医療、家族手当というふうになっ ております。その家族手当関係の金庫を運営しておりますのが全国家族手当金庫という ものでございまして、この下に基本的には各県にひとつずつ実際の給付を行う金庫があ るということでございます。そんな程度でよろしゅうございますでしょうか。 宮澤会長  よろしゅうございましょうか。 袖井委員  お金はどうやって。労働者と両方折半ですか。 伊奈川氏  その点に関しましては最近、大きな動きがございます。フランスの場合はもともと保 険料で運営するということが大原則でございましたけれども、1990年以降、一般社会拠 出金というふうに訳しておりますけれども、各種所得に対して付加をする税金と保険料 の中間のようなものがございます。法的には税金の一種だというふうに言われておりま すけれども、徴収方法等はむしろ保険料に近いというもので賄われておりまして、家族 手当につきましても一部分は保険料、そして一部分はこの一般社会拠出金で賄われてい るのが現状でございます。 宮澤会長  ありがとうございました。それでは今までの議論を踏まえまして、次の議題、当審議 会としての報告書(案)に進みたいと思います。お手元に資料4というものがございま すが、昨年までのこの審議会での諸外国の学者からのヒアリング、本年に入ってからさ きほどの現地調査の結果資料、これを事前に事務局に提出いただいて、私と吉原代理の 了解の下に事務局において作成していただいた案文でございます。  事務局からご説明をお願いいたします。この報告書(案)につきましては短い時間で 恐縮でしたが、予め委員並びに専門委員の皆様にもお送りして、寄せられたご意見を踏 まえ修正を行っております。それではお願いいたします。 高倉企画官  事務局の方からこの資料4の報告書(案)につきましてご説明させていただきます。 着席して説明させていただきます。  資料4、恐縮ですが、鰐口グリップを外していただけますでしょうか。3点、この中 に3種類の構成でございます。  まず、ひとつめのホチキスで綴じてございますのが、総論ということでございまして その中で総論がはじめにの章を述べた上で2番目で基本的な視点というものを整理す る。そして、第3章として各国の出生率動向とか、各種取り組みの総合観察を述べる と。その上で第4章、ここのところを第2番目の厚い綴り、各国編ということでちょっ とぶ厚うございますので、別紙ということで束ねてございますが、これが第4章と。そ して本文、総論編の一番最後の頁で「おわりに」で第5章と。これが本文の構成でござ いまして、言葉だけでもなかなか一覧的に認識しにくいのではないかということから、 横長のA3にしてもなお国の数が多いものですから小さな字で恐縮でございますが、一 覧表的に整理したものを添えてあるということでございます。  今、まにあっておらず恐縮でございますが、資料の総論の1頁目の一番下に基礎とし て用いた各国の意見聴取や調査報告等の件名は別紙のとおりと。この別紙、のちほどこ の会場でお配りさせていただきますが、これまでの各種ヒアリングの日付とか、公開し ている旨などを記した一覧表を添えてございます。  以上が構成でございますが、各論の別紙のところにつきましては基本的に今日のこれ までのお時間で種々、ご報告をいただきました各国の詳しい事情をできるだけ比較とい うのでしょうか、同じような項目の整理で可能な限り、まとめてみたというものでござ います。  総論的な部分につきまして少し人口問題審議会のこれまでの議論を踏まえた整理を試 みたと、こういう構成でございます。その総論の薄い方の綴りについてもう少し詳しく ご説明させていただきたいと思います。  まず、第1章のはじめにのところでは、97年、一昨年の10月にこの人口審としての報 告書を出していただいた後のものを政府ベースの動きだけを見てもこういうことがある ということで、いろいろ議論が展開してきているというところを後づけてございまして その上で今回、外国の動向を報告する目的、どういうものを基礎にしてまとめたかとい うことを下の方で書いております。  上の方で書いておりますようないろいろと取り組みの動きも出てきているということ を踏まえまして、これまでいろいろと意見聴取を重ねてきたところなどをもとに整理し て情報提供をしようと、こういう考え方を明記しているものでございます。  なお、対象国につきましては実はこれまでのところは実際に専門家の方々をお招きし てのヒアリングはヨーロッパの方の、ここにございますうちの6か国だけでございまし て、アメリカにつきましてはまだそういう機会が得られておりませんけれども、一応、 各種の手元に得られる資料をもとにアメリカにつきましてもやはり大変大きな比重の国 ということでわかる範囲で整理を追加してみたというものでございます。  おめくりをいただきまして整理のときの基本的な視点ということでございます。まず やはり国際比較と申しましょうか、外国の事情を整理して眺めるときの一番基本的な点 でございますけれども、各個別制度を単純に背景の中から抜き取って、それだけで比較 することはいろいろ問題があると。  特に結婚や出産に関する各国民の行動というものがここにございますような各種の背 景要因に深く関わっておるということから、この点をまず視点として持っておくことが 必要ではないかということで、このパラグラフがございます。  そして、以下ということであまり細かいことに踏み込んでというのはなかなか時間の 関係もあり難しい面もありますので、今回のこれまでの一応、中締めのような形での報 告にあたっては総合的・大局的観察に重点を置くということを述べると。  その上でそうは言っても具体的にいくつかの分野を取り上げて見るわけでございます けれども、どの分野をなぜ取り上げるかという説明を2頁の下の方、3分の1ぐらいか ら書いてございます。これまでいろいろと人口問題審議会で、とりわけ基本的考え方を まとめるときに行われた議論、これを踏まえましてひとつにはまず仕事と育児のバラン スに配慮した働き方の関係の制度、2つには働いている間の子どもを保育をするという 保育サービスの部分、3つめとしては子育ての経済的負担への対応。このような分野に 特に注目して整理をするということでまとめたということを書いてございます。  3頁目につきましては、その後、人口審の後、少子化への対応を考える有識者会議と いう総理主催の場においても主として少子化の要因、背景などについて取り除いていく 環境整備が必要という、人口問題審議会の整理の言葉で言えば少子化の要因への対応と いうことを中心に議論してきておりますので、その意味でもこの要因に関わると思われ るさきほどの3点、3分野について取り上げるのが妥当ではないかという趣旨を書いて ございます。  今回、注目する具体的分野という3頁の下の方では、今のことを改めて整理して書い たというものでございます。  おめくりいただきまして、4頁ではさきほどのヒアリングの中でも出てまいりました けれども、これらの分野は諸外国では基本的に家族政策というような言葉で総称して認 識されているという意味でも併せて全体像を把握することが望ましいという点を触れて おります。  次の第3章でございますけれども、出生率動向、また、人口の年齢構成の姿を整理し たというものでございます。各国ともいわゆる人口置換水準を下回ってはいる。しかし 結果としてかなり幅があると。一番低いドイツが、この段階での数字で1.32、アメリカ が2.03ということでかなり幅がございます。この幅は今の時点、直近の時点で幅がござ いますが、どういう変化の軌跡を辿ったかというパターンを敢えて大別してみますと4 つぐらいに、7つを4つですからあまり分けてもいないのですけれども、4つぐらいに 一応、整理できるだろうと。  1番目としては60年代、さきほど65年ぐらいからフランス、イギリスでも大きく下が ってきたとございましたが、そういう70年代半ばぐらいまでに10年ぐらいかけて大きく 低下、その後、少し80年前後に若干回復したと大変緩やかな低下傾向というものがフラ ンス、イギリスではないかと。  おめくりいただいて2番目にはドイツはご覧のとおり、低下の趨勢が続いてきている と。  3番目にオランダにつきましては、これも60年代ぐらいから低下傾向が始まったわけ ですが、イギリス、フランスと比べますとさらに低いところまで低下したと。1.5〜1.6 ぐらいまで低下したあとはだいたい横ばい的に推移しているのがオランダでござい ます。  4番目には比較的大きな回復という局面も経験した国という括り方で言えば、デン マーク、スウェーデン、米国が挙げられるであろうという整理でございます。もちろん さきほどご覧いただきましたとおり、スウェーデンにつきましてはその後、また下がっ たという特徴もございます。それも一言触れてございますが、回復局面というものをか なり大きい規模で経験したのがこの3国、こういう観察ができるだろうと思います。  年少人口と老年人口割合は省略させていただきます。ご覧のとおりということで、6 頁の一番上にございますように日本が年少人口割合が老年人口割合よりも小さいという ことで、この横長表でパッと通覧していただきますと今の数字の時点では日本だけが逆 転ということになっておるという状況でございます。  各国の取り組みの総合的な状況という6頁でございますけれども、さきほどの4区分 に沿って国ごとの特徴というものを大局的に観察してみたというものでございます。フ ランスにつきましては働き方関係では育児休業の期間という点では長めの制度ですけれ ども、休業中は無給が原則と。取得者の95%以上は女性であるなど、固定的性別役割分 担の慣行の存在がうかがわれると。こういうふうに従来、人口問題審議会で整理してき た、例えば性別役割分担、働き方、そういったことはどうだろうかという視点を少しず つできる範囲で入れて整理をしております。 フランスにおきましては育休期間が3年 までだからかどうかは、これは明確にはわかりませんということですが、結果として保 育の部分について社会的な保育サービスで受け止めている比率というものをいろいろと 数字に限りがございますが、横長表の方で各国パッと通覧できるように整理してござい ますけれども、フランスで言うと3歳未満児数に対する保育所の定員の割合というもの はだいたい6%ぐらいと。計算すると、ということで低めの国だなという感じがござい ます。  経済的負担軽減措置につきましては、フランスの特徴としては税制においていわゆる 個人単位を原則とした家族除数制度というものがあるとともに、育児経費の控除もある と。また、児童手当もあるということで、両方併用している国だと。また、伝統的に出 産奨励的な政策を取っているという特徴があろうかということで書いてございます。  イギリスにつきましては働き方の関係では前半のヒアリングでございましたように育 児休業制度は今、まさに国会提出中と、法律案の提出中ということでまだ法整備はされ ていないと。ただ、個別の労使交渉などに基づいて実際の例として個別企業の中で、さ きほどのキーワードとしてファミリーフレンドリーというような言葉だということでご ざいましたけれども、そういう企業の例はいろいろな資料からうかがわれるところでご ざいます。  保育につきましては集団型保育サービスの定員と個別の保育者、保育ママという言葉 も、さきほどの男女共同参画ということを考えて、今後どうかなという意見もあって、 取り敢えずちょっと堅苦しいのですが、個別保育者という用語で書いてございますが、 そういったもののサービスを合算してみましても5歳未満児数で捉えて10数%程度。  国によって年齢の切り方がいろいろと違うものですからなかなか横断的にできません が、その程度と。そしてひとつの特徴として全国保育戦略というようなものを決めてい るということが特記できるかと思いました。  経済的負担軽減につきましては、税制の方の対応を廃止して児童手当を設けたという ことでございます。  7頁のドイツにつきしては、働き方では育休の方はさきほどのフランスのような感じ で長めでございまして、その間の育児手当も月額4万円程度は出産手当と併せればある ということですけれども、結果として取得比率は98%、女性ということで、この国も固 定的性別役割分担の慣行の存在がうかがわるのではないかと。  ただ、ヒアリングの中でございましたキャンペーンの話、あるいは弾力化を検討して いるといったあたりは特筆できるのではないかということで掲げてございます。  保育の方は西と東で随分違いますけれども、結果としては全体ではフランス程度の6 %程度となっておると。  経済負担軽減に関しましては、税と児童手当の選択制というやり方を取っているとい うことでございます。  オランダにつきましては働き方の育児休業は短い期間でございまして、かつ、無給と いうことですが、女性の4割、男性の10%が取得ということで、これは理由が不明でご ざいますが、男性の取得割合が他国よりは高くなっていると。また、98年、ごく最近、 従来の育児休業の3か月制度と別に多目的の育児のため、あるいは介護のため、あるい は自分自身の教育のためという学校にまた行くためといったことを理由とした休業制度 が法制化されているという点、また、パートタイム労働の推進と。これも以前の人口審 のヒアリングの中で非常に特徴的な説明がございました。そういった点があると。  保育に関しましては5歳未満児数の保育所定員割合は8%程度。待機児がかなりいる のではないかという調査があるということでございます。  経済負担につきましては、税の控除と児童手当の併用方式でございます。  デンマーク、スウェーデン、アメリカにつきましては、特にデンマーク、スウェーデ ンではいずれも出産年齢層の中心である25歳から44歳の女性の労働力率が8割乃至9割 と大変高いと。一方でまた3歳未満児数に対する社会的な保育サービスの割合も4割か ら5割と大変高いと。育児休業間の給付水準もスウェーデンにおける親保険などにより まして相対的に高くなっていると。デンマークでは若干下がってきているということで すけれども、そういう点に特に特徴があるということで、少し詳しめに書いてございま す。  社会的な保育サービスの提供形態につきましては集団保育だけでなく、子育て中の親 がいろいろ預かる、あるいは個別に見るというようなものについても何らかの支援が行 われていると。これらの個別保育者について地方自治体の許認可、あるいは研修といっ たようなことでサービスの質の確保方策もあると。  経済負担軽減に関しましては税制はなくて児童手当という手当で対応していると。  アメリカでございますけれども、ここは法制としましては育児休業、1年間に12週間 の無給の休暇が法定ということでございます。ただ、イギリス同様、個別の企業の例は あるということでございます。  保育に関しましてはこれは全国連邦制度はないということで、申し訳ございませんが 詳細は把握できていないということでございます。  経済負担の方はこの国は税制のみの対応でございます。  総合的な横断的観察ということで、やはり基本的にパーツ、パーツで横に見るよりは 国の全体的な姿を見る必要がございますけれども、まずは今回取り上げた3つの分野ご とに横断を試みてみますと、その場合も各分野の中でも大変組み合わせに多様なものが あるなということが見てとれるということで、働き方関係の例えば育休における期間、 あるいは所得保障の組み合わせがいろいろあるということ。  保育の関係では集団保育と個別保育ということの比率を見てみますと、スウェーデン オランダなどは比較的集団の方の比率が高い。そしてイギリス、フランスなどは個別の 方が高いというような分布がございます。  経済負担軽減につきましては随時述べてきましたとおり、税制と児童手当の対応につ いて多様なものが見られます。  このように多様な組み合わせのもとにありますので、個々の施策と出生率の関係につ きましては、これは厳密な定量化は極めて困難ということでございますし、例えばドイ ツにつきましては大変高い給付水準の児童手当がございますけれども、出生率は最も低 いというように個別の施策が直ちに出生率にプラスの影響というのは推論はちょっと無 理ではないだろうかと。また、アメリカの場合についてはなかなか特定の施策との関連 づけは困難であろうということが監査されます。  むしろ人口問題審議会の97年秋の基本的考え方の中でいろいろと要因分析をした上で 総合的対応が必要というようなご提言があったわけですけれども、そういう分析を踏ま えて眺めてみますと、やはりそれぞれの国の大変、文化、歴史、そういった固有の状況 の中で、特に文化等に関わる性別役割分担の是正をはじめとして、それぞれの相応しい 施策を各分野に渡って整備していくということが生み育てることとのバランスで重要と ちょっと結論的にはそれぞれの国の中の総合的な組み合わせと、固有の文化があるので ということになっております。  10頁でございます。今回の報告の限界ということでございますけれども、家族政策と いうときには例えば住宅などもさきほどのヒアリングのようにいろいろ出てまいりまし たけれども、十分今回は時間が作業不足で整理できておりませんし、他にもいろいろと もちろん取り上げるべき分野はあろうかと、そういう点で限界がございます。  また、個別分野で見ましても、働き方などはやはり法律だけを見ていても実態がわか らないという面ではございます。また、保育につきましては特にそうですが、地方政府 の取り組みというものはなかなかつかまえにくい。特にアメリカなど50州、さらに市町 村が分かれるということで難しいということ。  また、経済的負担の対応のところにつきましても、実は各国でもそれぞれ今、まさに 議論がある。そこら辺は整理できていない。また、賃金体系が例えば年功序列的要素が あまりなくて、先々のフラットな賃金体系、あるいはまた企業の扶養手当など、あまり ないというようなことが背景にひとつあって、いろいろな育児手当、児童手当みたいな ものが充実しているという面もあるのではないかと、そういう賃金との関係という論点 も必ずしもまだ掘り下げられておりません。  横断的には男女共同参画の在り方の問題。これがなかなか個別の政府関係者のコメン トはいろいろ調査などからもいただいたわけでございますが、いわゆる客観的指標での 捉え方に困難な面がございまして、今回は整理しきれてはおりません。  また、いろいろと前の基本的考え方、人口審でも指摘された移民問題というものもい ろいろな意味で関連はしてくるのではないかということでありましたが、この点も大変 大きな問題で、今回は整理しきれていないということでございます。  こういう限界がございますけれども、これまでの人口問題審議会で重ねてきた情報収 集の基本的なところを情報提供するということで報告をまとめたと。対応の総合的な在 り方については参考にしていく余地があるのではないかと。こういう整理でまとめさせ ていただいております。以上でございます。 宮澤会長  ありがとうございました。それではただいまの報告の案につきましてご意見、ご質問 をお願いいたします。はい。お願いいたします。 八代委員  各国の個別報告書だけでなくて、横並びで制度をきちんと比較していただいたのは非 常に有意義であろうと思います。  そのとき、ひとつ大事な点なのですが、企業がどういうふうに負担しているのかとい う点が必ずしも明らかではないわけです。例えばフランスですと休業中は原則無給と書 いてあるのですが、ドイツだと最長3年と書いてあるのは、これは給料を出して3年な のかという意味なのか。それは育児休業が無給か有給かの区別は重要なもので、そこは ぜひ他の点についても明記していただきたいと思います。  それは休業中の者が有給ですと労働力人口に入りますが、無給ですと非労働力人口に なり、これはM字型のカーブに直接的に影響を及ぼします。そういう点からの国際比較 企業の役割というのが重要ではないかと思います。 宮澤会長  ありがとうございました。はい、どうぞお願いいたします。 阿藤委員  今までの人口審で招聘した諸外国の先生方のご報告と、つい最近の調査に基づく報告 ということですので、これで十分ではないかというふうに思いますが、例えば今後、あ るいはここにちょっと足りないものという意味で今後、さらに追求してほしいなと思う ことを、2、3点申します。ひとつは各国比較があるのですが、残念ながらイタリア、 スペインという世界で最低の出生率を持ち、且つまだ低下している、しかも人口も極め て大きい(ヨーロッパの中では)。そういう国の状況というのは必ずしも把握できてい ない。これは日本にとっての反面教師の意味でも、なぜ、そこまで下がっているのかと いうことはぜひ、これからも考えていかなければならないのではないかと、そういうふ うに思います。  2点目は、この報告書の中でも度々触れられてはいるのですけれども、文化、特に性 別役割分担に関わる社会的な制度、文化というものに触れられていますが、具体的な中 身がほとんどない。こういう点で例えばジェンダー規範とか、あるいは家族観とか子ど も観とかというふうなものに関する世論調査、価値観調査というようなものがいくつか あるかに聞いておりますので、そういうものもこういうところで取り上げていったらど うかと思います。そうするともう少し家族政策という制度以外の側面についての国際比 較的な認識が深まるのではないかと、そんなふうなことであります。  同じことで3番目にこれもよく言われる夫の家事、育児参加について、これも若干の データは見たことがありますけれども、何かもう少し具体的に各国でどれぐらい男女が こういう家事や育児や介護に参加しているのかということが国際比較できるような調査 データがあれば、非常にわかりやすいのではないかと、こんなふうに思いました。 宮澤会長  ありがとうございました。はい、どうぞお願いいたします。 熊崎委員  大変素晴らしい各国の状況を聞きまして参考になりました。  このペーパーをどのようなところで活用するかということの大変興味があるのですが その点において2つ程、これからの課題として意見を申し上げたいと思いますが、ひと つは北欧の国が一貫して言われておりました3つの総合的な分野、いわゆるいろいろな 施策と働く側のそういう実際に使う面での連絡網が統一をしているという、そういう仕 組みがこういうような報告で皆の人の目に触れられるような、そういうことが日本でも 現実的に捉えていくようなことをぜひ、入れてほしい。  具体的には、例えば出産の以前の母性、母体保護ですね。母体保護に関わる、いわゆ る例えば通院休暇だとか、妊娠によるつわりだとか、いろいろな母体の病気が発生して くるわけなのですが、そういう医学的なものが影響してなかなか出産が困難、あるいは 流産してしまうというケースがこの頃、多いように思われます。  ましてや高年齢出産が最近多いですから、3つのテーマの以前の母体の保護強化とい う点でもぜひ、これからこういうようなデータだとか、話し合いを深めていかなければ ならないのではないかというふうに思っております。  さきほど阿藤先生がおっしゃったみたいに家族の在り方、家族が非常に今、変化して おりますから、家族の在り方とここに書いてあります先日、国会で審議で決められたよ うに男女共同参画社会の在り方という点についてもこれから論議をして書き込んでいっ てほしいという希望、意見を申し上げたいと思います。以上です。 宮澤会長  ありがとうございました。どうぞ。 袖井委員  この報告書、大変良くできていて感心したのですが、最後のおわりのところにいきな り限界なんて出しちゃわない方がいいのではないかと。こういうことをちょっと感じた のですね。  今日のご報告をおうかがいしていてやはりどの国も少子化対策とか人口政策というこ とはやっていないと、それは非常に印象的でした。結局、北風と旅人じゃないけれども 状況を良くしていけば結果は良くなるのではないかという、そういうふうな感じがしま したので、何かもうちょっと大局的に日本社会全体がポジティブな方向に行くというの は何か示唆できないか。  これは男女共同参画もそうですし、例えば今、国際比較調査を見ますと日本の若者が 将来に対して非常に不安感が高いですね。そういうことなんかも結婚しないということ に関係しているのではないかと思うので、何かもうちょっと将来に対しての明るい展望 みたいなものを示唆するものを書けないかしらと。いきなり限界と書いちゃうと何だか 非常に悲しいような気がしますので、一応、希望として述べたいと思います。  さきほどちょっと高倉さんには申し上げたのですが、今、阿藤先生がスペインとかイ タリアとおっしゃったけれども、今後としてできればアジアなんかですね。アジアの人 口、やはり凄く減っているのですね。特に旧儒教国ですね。韓国とか台湾とか、そうい うのが減っていますし、今度、アジアなんかの方にも目配りしていった方がいいのでは ないかなという、これは私の希望でございます。 宮澤会長  ありがとうございました。 岡崎専門委員  私も袖井さんと同じような印象を受けたのですが、表題が少子化に関連する諸外国の 取り組みという報告ですから、これでもいいと思うのですが、今までのご報告をうかが って、報告書を読ましていただいてこれだけやっても駄目なのかという、つまり人口の 再生産率を維持するには随分先進国、頑張っても駄目だったということになれば、他に 何か施策が必要だということを意味しているのではないだろうかと。  諸外国、回られた方が全部、自分たちは人口政策については考えていないと答えたそ うですが、それでいいのかどうかということですね。私はやはり個人的には日本の少子 化は非常に危険な状況を意味していると思いますので、どういうふうにこの報告書を国 民の方がお読みになるかわかりませんが、今、言ったような人口政策というものを全く ネグレクトしていいのかどうか。家族政策だけに徹したらいいのか。家族政策に徹した 結果はこの程度だという印象を受けられたら困るのではないかなと、ちょっとそういう いらん老人の小言を申し上げたい思います。 宮澤会長  ありがとうございました。他に。どうぞ、お願いいたします。 水越委員  この少子・高齢化対策については経済4団体でもそれぞれ対策、提言等をまとめてお りますけれども、ただ、具体的には各企業に任されているというような状況があり ます。  したがって、各企業が活発にこの問題に対して施策を考えていこうとするためには、 日本の状況と同時に各国の情報を入れていただけると対策の参考にもなっていくのでは ないかなと思います。 宮澤会長  どうぞ。 河野専門委員  既にさきほど袖井先生が言われたのであれですけれども、やはり日本は元来、脱亜入 欧と言いますか、いつも欧米に範をあれすると言うのですが、さきほど言われたように やはりアジアニーズとか、そういういろいろなところでも日本並に出生率が下がってい るわけで、やはりそういうところを研究、調査をすると非常に文化的にも近いわけで、 非常にある程度、そういう出生率回復するならば、それに対するクルーと言いますか、 そういう糸口が見られると思います。  2番目はやはり日本の低い出生率をもたらした重要な要因のひとつは晩婚化なのです ね。あるいは非婚化とかいう言葉がありますけれども、欧米に暗にそういう同棲も含め てそういう結婚と言いますか、事実上の結婚をしやすくするような、そういう政策、施 策、あるいは法制的なものがあるかどうか。そういうところをもうちょっとあればいい なと思います。  また、そういう同棲のカップルの結果、生まれてきた子どもたちというものがどのよ うに社会的に認知されている。それ全く同じように認知されているかどうか。社会的に 全く同等に扱われているか。その辺を知りたい。同じような社会的なベネフィットを貰 っているのかどうかということを知りたいと思います。  やはり日本の場合は例えば受験戦争とか、そういうような欧米にない問題がある。こ れはむしろ韓国とか、さっきの儒教国と共通ですね。非常に受験戦争、韓国なんかもっ と酷いと言いますけれども、そういうような要素がかなりあると思いますので、その辺 も調査、研究が行っていただければありがたいと思います。以上です。 宮澤会長  ありがとうございました。他にございましょうか。だいたいいただきましたご意見、 3つのサイドになると思います。ひとつは、この報告書の中にぜひ、この点を明記して ほしいという要望がございました。  もうひとつは、これはこれとして甚だ結構でまとまっている。ただし今後の課題とし てこれこれの問題があるというご指摘で、それをこの審議会としてどう進めていくかと いうこと。  3つめは、この報告書を受け取った者が読む場合に受けるトーンですね。トーンに問 題があって、少しやや諦め的なムード、暗いムードを誘発するような面がある。そうい う意図はないのですけれども、客観的な情報を提供するのが目的なのですが、しかし客 観的な情報提供でも受け取られ方が問題ですので、その辺を考慮した方がよろしいので はないか。そういう趣旨のご指摘がございました。  1番目の問題、例えば企業の対応についてもうちょっときちんと触れた方がいいので はないかとか、その他、いくつか具体的に取り入れることのできる面につきましては、 そうさせていただく必要があると思います。  全体のトーンにつきましても確かに「いろいろ調べてみたけれども、総合的に考えな ければいけない」という反省的、むしろ後ろ向きの印象がある。そういう消極的な形で なく、「いろいろ調べてみた結果、結局、総合的な面が大切なのだ」という形で逆手に 取って、そこに何か積極的な提言につなぐというような書き方がよろしいのかと思いま す。  男女共同参画社会という話が出ておりますが、実際に男女共同参画社会に進むために は、今までお話にもかかわりますが、まずは男女共同参画「家庭」を作らなければいけ ない。男女共同参画「企業」を作らなければならない。企業の行動、家庭の行動の中で それぞれどう対応していくか。それが文化とか、社会全体の有り様ということに関係す るのだと思います。  ですから、そういう面も踏まえて考える。ただし、今回の報告書は各国の状況報告で ございますから、そこにそういうことまでを多く書き込むことはできないと思いますけ れども、トーンはむしろ明るい希望を与えるというか、問題点の所在がこういう点にあ るのだという意味がうまく伝わるような表現形式を取るということが必要かと思いま す。  そこで本日、出されたご意見を踏まえた必要な修正を行った上で報告書として公表し てまいりたいと思います。修正の内容につきましては私と会長代理と事務局にお任せい ただけますでしょうか。          (「異議なし」と呼ぶ者あり)  大変な信頼をいただきましてどうも恐縮でございますが、事務局の方で、なるべく早 くまとめたいという予定もございますので、そうさせていただきます。  報告書(案)にもございますように、我が国を含めて各国の事情は非常に多様でござ いますし、究明すべき課題もたくさん残っております。対象とすべき国の範囲も、今、 申されましたようにもっと戦略的にも広げる必要があるということもございますし、ま た社会の有り様についての議論の仕方、それについてもさらに今後、事務局においてい ろいろと工夫、検討をお願いしたいと思います。  それでは資料、さきほど話にでた「意見聴取一覧」の資料を、今、お配りいたしてお ります。  それでは引き続きまして、最後になりましたけれども、6月11日に公表されました平 成10年度の人口動態統計の概要についてご説明をお願いいたします。 中田課長  人口動態統計課長の中田でございます。先日公表いたしました平成10年の人口動態統 計の月報年計について説明させていただきます。  参考資料の1番です。この年計は、平成10年の1月から12月までの月報を取りまとめ たものです。3頁をご覧いただきたいと思いますが、3頁の表の1に全体の姿をまとめ ています。  まず、出生数ですが、平成10年は、1,203,000人ということで、平成9年の1,191,000 人より11,000人程、増加しています。ただし、合計特殊出生率は、平成9年の1.39から 平成10年の1.38というふうに若干減少しています。  もう一桁下まで申しますと平成9年は1.388でしたのが、平成10年は1.384ということ で四捨五入の関係で0.01差が出ているということで見かけ程は大きくないのですが、若 干減少しているということです。  現在、第2次ベビーブームに向かっての女子出生率の増加というものが20代の後半か ら30代の前半の年齢に到達していますので、そこの人口が増えております。その関係で 出生数が増えているということだろうと思います。  ちなみに出生率を平成9年と同じと仮定しまして計算しますとあと5,000人程ぐらい増 えまして、16,000人ぐらい増えてもおかしくはなかったということになるわけですが、 10代後半を中心にいたしまして出生率が減少したために11,000人の出生数の増加に留ま ったということです。  次に死亡ですが、936,000人ということで、平成9年の913,000人よりも23,000人程、 増加しています。のちほどいくつか特徴的な点について説明させていただきたいと思い ます。  2つ飛ばしまして自然増加ですが、これは、出生数から死亡数を引き算したものです けれども、266,000人ということで、平成7年に次いで2番目の低さということです。平 成7年は例の阪神淡路の大震災があったり、あるいは非常にインフルエンザが流行った ということで非常に死亡数も多かった年です。そういうこともありまして、自然増加は 少なかったのですが、それに次いで2番目の低さということです。  ずっと飛ばしまして下から2番目の婚姻ですが、784,000組ということで、775,000組 の平成9年よりも8,900組程、増加しています。これのひとつの理由として平成10年の10 月10日という10が3つ並ぶという縁起のいい日があり、その日に非常に婚姻の届けが増 えているということがあり、その関係で婚姻数が増えております。  離婚ですが、243,000組ということで、これは平成に入りましてから毎年、非常に大き な増加を示しておりますが、平成9年から10年にかけましても20,000組という非常に大 きな増加を示しています。  少し中の細かい説明をさせていただきたいと思います。5頁をご覧いただきたいと思 います。5頁の図の1が出生数及び合計特殊出生率の戦後の年次推移を示したもので す。最近の動きをご覧いただきますと、出生数は横ばいの状況になっています。一方、 合計特殊出生率は昭和の終わり頃からずっと下がってきているということです。  表3に書いていますが、いわゆる晩婚、晩産の晩産の方ですが、第1次出生時の母の 平均年齢、これは平成10年も上がっております。  7頁をご覧いただきたいと思います。7頁の図の2に合計特殊出生率の年齢階級別の 推移を示しています。25歳から29歳のところ、ここの落ちが大きいということがご覧い ただけるかと思います。30歳から34歳、あるいは20歳から24歳、あるいは35歳から39歳 こういったところは横ばい乃至若干増加になっていますが、25歳から29歳のところの落 ち込みが大きいということで全体として少しマイナスになっているということです。  出生から死亡にまいりますが、死亡に関しましては平成10年は3つ程、特徴がありま す。そこを説明させていただきたいと思います。11頁の図の5をご覧いただきますと死 因の順位で、1番が悪性新生物、2番が心疾患、3番が脳血管疾患、こう続くわけです が、肺炎、不慮の事故の後、自殺が増えています。図でわかる程、増えているわけです が、これが表の7をご覧いただきますと、6番目の自殺の数として31,734人ということ です。一番右側に平成9年の数が出ておりますが、23,494ということですので、8,000人 ぐらい増えているということです。  13頁ですが、13頁の図の6−2の参考をご覧いただきたいと思います。それの死因の 3番目、乳幼児突然死症候群というものがあります。いわゆる赤ちゃんが原因不明で亡 くなるというものですけれども、これにつきまして、平成9年に496人亡くなったわけで すが、それが137人減りまして359人ということになりました。うつ伏せ寝がこういった ものの原因になるというようなキャンペーン、あるいはそういったものに関しましたア ナウンスメントが昨年の半ば前後から行われまして、その結果、死亡数が減ったのでは ないかというふうに私どもでは考えているところです。  もう1点、15頁ですが、15頁のところに悪性新生物の部位別の死亡率を示していま す。平成10年に初めて、男と女を足したところでございますが、足したところで肺の方 が胃を上回ったということです。もともと既に男の方は肺が一番の死因になっていまし たけれども、女の方も肺の増加が大きいということで2つ併せましこところで平成10年 に初めて肺が悪性新生物としては第1位の死因になったということです。  次に婚姻の関係ですが、17頁をご覧いただきたいと思います。17頁の図の9に初婚の 妻の年齢別の婚姻件数割合を載せていますが、少しずつ年齢が上がっているのがおわか りかと思います。平成10年につきましても表の10をご覧いただきますと、初婚の妻の平 均初婚年齢は平成9年に比べまして、また0.1歳上がったということで、いわゆるこの指 標で見ました晩婚化は依然として進んでいるということが言えるかと思います。  最後になりますが、18頁の離婚をご覧いただきたいと思います。18頁に戦後の離婚に ついてその離婚率及び離婚件数の推移を載せています。  平成に入りましてから数、率ともに非常な勢いで伸びておりまして、人口動態史上、 最高ということになっています。ちなみに離婚率の1.94というのはフランスの1.90を一 気に抜いたということです。  あと23頁、24頁ですが、人口動態統計は、明治32年に近代化されまして平成10年をも ちまして100年間経過したということで、その100年間の推移を主なものについて載せて います。  いわゆる多産多死から少産少死へのいわゆる人口転換、あるいは24頁をご覧いただき ますと肺炎、胃腸炎、あるいは結核、こういった感染症から悪性新生物、あるいは心疾 患、脳血管、こういった慢性疾患への変化、いわゆる疾病構造の変化、あるいは疫学的 な転換、こういったものがこの100年間に起きていることがご覧いただけるかと思いま す。  簡単ですが、説明終わらせていただきたいと思います。 宮澤会長  どうもご説明ありがとうございました。また、詳細に拝見して何か質問、ご意見ござ いましたらどうぞ事務局の方へ。どうぞ。 八代委員  申し訳ありません。細かな点ですが、この数字を受けて来年に出生率が底を打ち、1.6 まで回復するという人口研の予測との整合性というものについてちょっと一度、ぜひ、 ご説明いただきたいと思います。  確かに今、ご説明のようにほとんど出生率は率的には横ばいだというご説明がありま したが、その中身がどうなっているのか。出生率のキャッチアップについての人口研の シナリオというものは、25歳から29歳の出生数の低下が30歳から34歳の回復によって相 殺されるというシナリオだったのですが、果してそういう通りになっているのかどうか という点が非常に興味があります。特に最近の出生率の低下傾向の横ばいは不況による 女性就業の低迷という一時的な要因がどこまで関係しているのかというような可能性も ある。晩婚化の方は依然として進んでいるというご説明もありましたから、これは年金 の推計でも重要でありますので、現状のデータから予測を改めてチェックしてみるとい う作業が非常に重要だと思いますので発言させていただきました。 宮澤会長  ありがとうございました。今の点、非常に重要なご指摘でございますので、ご検討い ただいて、もし必要に応じてある情報がまとまりましたら適宜、ご連絡いただきたい と。はい、どうぞ。 高橋人口動向研究部長  国立社会保障・人口問題研究所の高橋です。さきほどのご質問ですけれども、実際に 観察された合計特殊出生率と予測値との間の誤差というものは今回については0.001とい うことでした。ですから、これまでのところ予測値と実数値、現状というのは合致して いると。さらにそれ以外の指標等についても絶えず我々は観察しておりまして、今、そ れを見守っておるところです。また、時期を見てそれらについて報告できればしたいと 思っております。以上です。 宮澤会長  よろしゅうございましょうか。その他、事務局から資料、その他について追加説明あ りましたらお願いいたします。 高倉企画官  お手元に参考資料の2というものだけちょっと趣旨をご説明させていただきます。こ れは昨年、関西経済連合会において行った少子化の要因などに関するアンケート、人口 問題審議会でヒアリングをいただいたところでございますけれども、その後、この関西 経済連合会においてそのデータをもとに自分たちでいろいろと議論を交わして提言とい うことでまとめたので、ぜひ、人口問題審議会、ヒアリングいただいた人口審に対して も配付をお願いすると、こういうことでございましたので、配付させていただいたとい うものでございますので、のちほどお目通しいただきたいと思います。以上です。 宮澤会長  ありがとうございました。それでは時間がだいぶ超過いたしましたが、本日はご多用 のところ、ご出席をいただきましありがとうございました。次回につきましては事務局 と相談によってご連絡いたします。  これで本日の総会を閉会いたします。どうもありがとうございました。            (閉会・12時17分)  問い合わせ先   厚生省大臣官房政策課 担当 米丸(内2931) 電話 (代) 03-3503-1711 (直) 03-3595-2159