98/11/26 第82回人口問題審議会総会議事録 第82回人口問題審議会総会議事録   平成10年11月26日(木)   10時30分〜12時55分 日比谷松本楼2階会議室 宮澤会長 おはようございます。本日はご多用のところをご出席いただきまして     ありがとうございます。ただいまから、人口問題審議会総会第82回総会     を開催いたします。      まず出席状況のご報告でありますが、岡沢、木村、熊崎、清家、坪井     南、宮武、八代各委員、安達、網野、落合各専門委員におかれましては     本日はご都合により欠席でございます。その他の委員はご出席でござい     ます。      それでは、本日の議題に入らせていただきます。本日は2つの報告が     予定されていますが、この審議会では以前、スウェーデン、ドイツ、イ     ギリス、フランスについてヒアリングをしてまいりました。それの続き     ということでございます。本日はリスベス・B・クヌードセン、デンマ     ーク人口研究センター研究所講師、それからギース・ベーツ、オランダ     学際人口研究所研究員よりお話をいただきます。      はじめに段取りでございますが、阿藤委員からお二人のご紹介をいた     だき、通訳を含めて、それぞれ説明が30分程度、質疑20分程度というこ     とで、最後に総括の質疑として15分程度。そのような時間配分にいたし     たいと思っています。      それでは、まず阿藤委員。お二人のご紹介をお願いいたします。 阿藤委員 それでは、お二人の簡単な経歴をご紹介したいと思います。      はじめに講演なさいます、デンマークからいらっしゃいましたドクタ     ー・リスベス・B・クヌードセンさんでございますが、先生は長らくデ     ンマークの厚生省の統計部、それから統計局で課長なども務められてお     りました。実はデンマーク人口研究センターというのは、いま伺ったん     ですけれども、今年できた研究所でございまして、先生も今年そちらに     移られたということでございます。このセンターはインディペンデント     な組織だそうですが、大学などとも交流を持っているということです。      デンマークが人口研究に力を入れ始めた1つの証拠かと思います。      先生は、出生力、人工妊娠中絶、乳児死亡などに関して、多数のリサ     ーチ論文を書かれていらっしゃいます。興味ありますのは、最近では      『ヨーロッパにおける家庭生活と家族政策』という書物の中で、「主婦     が消えつつある国」という、まことに日本にとっても関連深い、興味あ     る論文を書かれておられます。      2番目にご講演をなさいますのは、オランダからみえられましたギー     ス・ベーツ先生です。ベーツ先生は、現在オランダ学際人口研究所、略     称で我々の世界ではニディー(NIDI)と申しておりますけれども、     国際的に大変有名な人口研究所に所属しておられます。先生もまた以前     は統計局にいらしたと伺っています。      先生は人口、家族の動向を研究なさってまいりましたが、マクロデー     タ、ミクロデータを用いて、出生・家族のテーマについて、たくさんの     論文を書かれておられます。最近では『雇用と出産の両立』、『オラン     ダの若者の意向の経時的研究』という論文も書かれておられまして、出     生力と女子労働、労働政策、家族政策の関係といったような側面にもご     関心をお持ちでございますので、今日は大変興味ある話がお聞きできる     のではないかと期待いたしております。      以上でございます。 宮澤会長 どうもありがとうございました。それではリスベス・クヌードセン先     生、よろしくお願いいたします。 クヌードセン氏 皆様、今日は私をこの場に招待してくださって、ありがとうご     ざいます。私は失礼して、立った状態でご説明したいと思います。オー     バーヘッドを使ってご説明します。      私は社会学者であり、研究者であり、そしてつい最近設立されました     デンマーク人口研究センターで仕事をしております。そこでは出生率と     か出生力、それから家族形成などに関して研究をしております。     (OHP1)      デンマークの合計特殊出生率です。1963年に低下し始めまして、1983     年までその低下は続いております。ここに出生数がありますけれども、     これをご覧になってもデンマークの人口は決して多くないということが     わかっていただけると思います。      1983年から増加し始めまして、そしてここに書いてあるのが一番最新     の数字です。しかし、出生率が増加していても、デンマークの人口は人     口の置き換えレベルには達していません。     (OHP2)      年齢グループ別に出生率を分析してみますと、全体の傾向というもの     がわかり、そしてその傾向を変えることについて、いろいろな示唆が得     られると思います。      これは1900年に遡る非常に長い期間を見た出生率の傾向でありますけ     れども、女性1,000人あたりの出生を見たものであります。年齢グルー プ別に分けられております。1960年代の半ばから80年代の半ばまで急に 低下して、そして増加し始めたところをもっと詳しく分析してみます。     (OHP3)      1963年から1983年までの20年間、TFR、合計特殊出生率が低下いたし ました。最初のスライドでお見せしたとおりです。特に25歳以下の女性     においては、極めて低い数値が見られました。     (OHP4)      10代、それから20〜24歳までの年齢層です。つまり、若いカップルは     第1子の出産を遅らせていたわけです。     (OHP5)      その時代は、新しい家族形態というものがデンマークに現れ始めまし    た。結婚しないで同居するという傾向が増えたのです。このように家族     の形態が変化することによって、結婚しないで出産する若い女性も増え     てきました。ただ、ここで指摘したいのは、結婚しないで出産をしてい     ても、その子は家族の中に生まれてきている、つまり父親のいる家庭の     中に生まれてきているということであります。そして1970年代の終わり     ごろになりますと、出生の約30%が、結婚をしない男女の家庭に生まれ     る子となりました。      出生率が低下したということは、それを可能にするさまざまな避妊方     法が認められたからであります。1967年からピル、経口避妊薬が使われ     るようになり、1973年には中絶が合法化されました。      次に第2の時期はTFRが増加している時期であります。     (OHP6)      1980年代に入ると、若い女性の出生率が依然として低く、特にティー     ンエージャーの出生率は極めて低くなっています。ただ、25歳以上の女     性の場合には出生率の増加、それからより高齢の出産においても増加が     見られます。     (OHP7)      そして依然として家族形態としても、現在は同棲というのが一般的に     存在しております。現在、出生の約半数が未婚の女性による出産ですけ     れども、ただ、それは父親のいる家庭に生まれてきています。      第1子出産の平均年齢よりも、初婚の出産年齢のほうが高いというこ     とにご注目ください。この出生率の傾向というものを見ますと、出生率     の増加というものが遅れて出てきているのは、結婚を遅らせている、あ     るいは第1の時期において出産を遅らせている女性たちによる傾向では     ないかといえます。しかし、この第1時期、それから第2の時期におい     て、政策の違いがあるのか、それを分析してみましょう。     (OHP8)      デンマークには家族省とか、家族や家庭を司っている官庁はありませ     ん。そうすると、複数の官庁、つまり労働省、それから健康医療の省、     社会保険省などが家族や出生率の官庁になります。      デンマークの特徴として、家族政策というものは個人に対するもので    あって、家族単位のものではありません。そして、デンマークは決して     出産主義とか子どもを生むことを積極的に奨励している、そういう政策     を持っているわけではありません。ただ、すでに子どものある男女に対     しては、国はサポートいたします。そして、すでに子どものいる男女、     あるいはすでに子どものいる家庭に対する政策、あるいはその家庭が置     かれている状況によって、他のカップルが第1子を生むべきかとか、あ     るいは第2子を生むべきかという、そういう決定や判断をすると考えま     す。     (OHP9)      私が申し上げた2つの時代は、社会政策、家族に対する政策が大きく     異なる時代であります。第1時期においては、つまり63〜83年ですね。     この時期には労働市場において女性がその労働市場にますます参加する     男女の役割に関する考え方が変わってきている、そして国としては、そ     ういった新しい考え方や新しい生活形態のための枠組みというものを提     供しなければなりませんでした。      第2の時期、83年以降になりますと、もう女性が働いているのは当た     り前ということになりまして、すべての女性、これは既婚女性とか小さ     い子どもを抱えている女性も含めて、全女性の85%が働いているという     状況です。その状況においては国の政策として、両親が2人とも働いて     いる、つまり2所得の家庭であるということを前提として政策を立てま     す。そのために、デイケアの設備を充実させ、出産したあとに新生児の     母親が職場復帰するときには、ちゃんと子どもの世話をしてくれる保育     園、デイケアセンターがあることを各地方自治体が保障しなければなり     ません。そして、子どもがいる場合には、どのようにして父親にとって     も母親にとっても仕事と家庭というものをうまく両立させていくのか。      そして時間をどのように配分していくのか。これがいま一番難しい、     一番大きな課題だと考えています。     (OHP10)      この時期の最も重要な政策は、労働市場に関するものです。まず産休     が取りやすくなったということ。1984年以降、すべての女性は出産後24     週間の産休を取る権利を持ちます。そして、出産予定日の前から4週間     休むことが可能です。父親は出産の直後、2週間まで産休を取ることが     できます。つい最近、父親の育児休暇が4週間というふうに延長された     んですけれども、最初の2週間は分娩直後でも、次の2週間はその後に     遅れて取るということになりました。      それは産休のほうなんですけれども、育児休暇というのもできまして     これは1年まで取ることができます。育児休暇は、父親が取るか母親が     取るか、どちらかが選べるようになっております。そして、子どもが8     歳以下のときに取れます。デンマークの休暇というのは年間5週間でし     て、つい最近、子どもが特に親が必要な緊急時には、週のうち4日間休     むことができるような政策ができました。その休暇中に報酬をいくらか     もらうことが可能です。これは失業保険よりもちょっと低い、あるいは     失業保険と同じくらいのレベルの保障であります。      子どものための育児手当というものも給付されております。特に最近     は、小さな子どものいる家庭に対する給付が増えています。デイケアは     個人負担であって、それは非常に高いと思っている親が多いです。デイ     ケアが高いと思っている人がいるんですけれども、この制度のもとでは     2人とも働いて子どもをあずけるか、あるいはどちらかが家にいて育児     をするかという、幼児のいる家庭においては、これだけの選択が存在し     ております。     (OHP11)      さて結論に入りますが、近い将来においては、若いカップルの出生率     というものは依然として低いまま続くと思います。というのは、大学の     勉強と幼児の育児といったものを両立させるのは、大変困難だと思いま     す。ただ、最近の調査によりますと、非常に若い女性でも家族、家庭と     いうものに対する憧れの気持ちは大変強く、ですから家族、家庭といっ     たものは消えるとは決して思っておりません。      この出生率が急に増加した時代の分析をしますと、これはコーホート     効果、つまり同世代の女性たちが出産を遅らせた影響だということが1     つの要因であり、しかし私が申し上げたような国の政策というものが影     響して、子どもをつくる、子どもを生むというカップルの判断に大きな     影響を与えたと考えております。      どうもありがとうございました。 宮澤会長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまいただきました     ご報告に質問など、どうぞお願いいたします。 河野委員 ありがとうございました。先ほど、出産の休暇、あるいは育児休暇の     休暇中について、失業保険以下か並みの手当が払われるとか、育児手当     も払われるというようなお話がありましたけれども、それは国なのか企     業なのか、どこが手当を払っているんでしょうか。 クヌードセン氏 この給付は、ほとんど国、政府が払っております。ただ、保育     所とか、そういったデイケアの設備の責任を持っているのは市のほうの     当局です。 大淵委員 大変興味深くお伺いいたしました。1つ教えていただきたいんですが     この家族政策というものが個人を対象としていて、家族ではないと。そ     ういうふうにおっしゃった点が大変興味深く感じた点なんですが。      お話を伺っている限りでは、通常の家族政策というものと、それほど     違わないような気がするんですけれども。どこが個人を対象とすると。     家族ではないということなのか。その点をお伺いしたいと思います。 クヌードセン氏 デンマークでは昔から政治的にも文化的にも個人を重要視する     大事にするという伝統がありまして、そして個人の権利というものが尊     重されております。したがって、個人と申し上げたのは、未婚か既婚を     問わず同じ権利がもらえると。それから、先ほど申し上げたいろいろな     給付とか手当とか、それは父親とか家族ではなくて、母親本人に渡され     るものなんです。      それから、育児、あるいはデイケアとかチャイルドケアといった、そ     れの権利というのは、それは子ども、つまり家族がそういう権利を持つ     のではなくて、その子ですね。新生児、あるいは幼児の権利が尊重され     て、その子はケアを受ける権利を持っていると社会が認めているという     ことを意味しています。 大淵委員 ありがとうございました。 井上委員 1960年代以後のデンマークの出生率低下の背後に、同棲が増えたとい     うことがございましたけれども、これについて2つお伺いしたいと思い     ます。      1つは、60年代に同棲が増えた理由ですけれども、婦人の労働力への     進出以外に、何か特別の理由があったのでしょうか。ということが1つ      もう一つは、同棲でしばらくいて、結婚に移っていくというかたちが     あるのか。あるいは、同棲は同棲のままでずーっといく。結婚する人は     別のグループだということなんでしょうか。 クヌードセン氏 同棲のパターンというものもデンマークで変わってまいりまし     て、第2の質問に最初にお答えしますと、昔は実験的というか、試験的     に結婚する、つまり結婚する前に試験的に一緒に暮らすという、そうい     うかたちの同棲だったんです。それからもう一つ、住宅事情というもの     が影響しておりまして、1950年代は結婚の率が高かったんです。それは     なぜかというと、結婚していないカップルには家を貸さないという人が     多かったものですから。そうすると、結婚したくて結婚したというより     も、家を借りたくて結婚した人もいたという、そういう事情がありまし     た。ですから、住宅の需要が結婚の増加を生んだということがあります      今日は、同棲というかたちは法的に結婚している状態とほとんど変わ     らなくなってまいりました。そして、昔に比べて徐々に。依然として結     婚しているほうが法的にラクな場合が多いんですけれども、しかし昔か     ら徐々に結婚しているカップルと同棲しているカップルというのは、法     的には近づいてまいりました。若いカップルというのは同棲のほうが多     い。それからもう少し年齢が上になってくると、結婚するカップルのほ     うが多いというパターンがあります。      最近の統計によりますと、結婚しているカップルのほうが同棲してい     るカップルよりもカップルとして長持ちするという傾向があるんですけ     れども、それはなぜかといいますと、現在は結婚する人というのは、本     当に結婚したくて結婚する、つまり何か他の要因とか他の事情があって     結婚するわけではない。そして何年間も同棲していて、子どもを一緒に     育てて、そして結婚するというパターンもあります。     (OHP)      最後にこれをお見せしますけれども、同棲のカップルよりも結婚して     いるカップルのほうが子どもの数が多いです。これは1997年1月1日の     調査の結果なんですけれども。ここでは結婚しているカップルが1.81、     そして同棲カップルが2人の子ども、要するにその同棲している2人の     子どもの場合に1.6、そしてどちらかの連れ子といいましょうか、その場     合は1.42という数字になっています。      60年代に同棲が増えたというのは、これは女性の労働参加という原因     だけではありません。1つは、それまで結婚していないと借りられなか     ったアパートが借りられるようになって、住宅が自由に借りられる。逆     にアパートの過剰な供給状態がありまして。それから、60年代の人々の     新しい考え方として、法的な結婚制度とか、そういう手続きが非常に面     倒くさいとか、あるいは体制に対する反対の気持ちとか、いろいろな要     因があったと思います。そして、女性は自分の所得を持ち、自分の可処     分所得を持つということが大変重要であって、1970年までは結婚してい     るカップルは単位として課税されておりましたけれども、いまは個人と     して課税の対象になります。 河野専門委員 大変興味深いお話ですけれども。1984年から96年まで、出生率が     だいたい上がっているわけですけれども、これはお話によると出産の遅     れの取り戻し、キャッチアップですね。コーホート効果。それと、もう     一つは政策の効果ということだったんですが。このキャッチアップ効果     がいずれなくなると思うんですよね。そうなってくると、どの程度ポリ     シーがそれを引っ張り上げられるかということなんですが。何かそこは     ある程度キャッチアップ効果がなくなると、また下がってくるのではな     いかと、そう思うんですね。デンマークの出生率の将来推計というのは     どうなのか。そういうのをお聞きしたいと思います。      それから、これに関連して、結婚している人の希望出生力というか、     ディザイアードファミリーサイズですかね。そういうのは、どのぐらい     なのか。日本だと2.1とか、2を超えているんですけれども。結婚してい     る女性の希望出生というんですかね。 クヌードセン氏 質問ありがとうございます。コーホート効果と時代の効果、そ     れから政策の影響と、そういうものを区別することが大切だと思います     おっしゃるとおりコーホート効果というのは、第1のコーホートが10代     とか20代の前半のときには子どもを生まなかった、そして出生率が低下     していた層が80年代に入ってそのキャッチアップというかたちで出産を     しております。確かに同じパターンが続くとは思えませんで、だんだん     それが上昇ではなくフラットな線になってくると思うんです。現在デン     マークでは、第1子の出産平均年齢が28歳ですから、20代の後半の女性     たちも出産を遅らせているということも考えられます。      そして今後政策としては、家庭の中の父親、母親、男女の役割とか、     それから労働市場における男女の役割とか、それが自由になるよう、そ     れを組み合わせていくことができるような。つまり男女も同じように育     児の権利とか義務とか、それから労働市場においても同じような権利と     いうふうになっていくことによって、現在のままの出生率というものを     維持することが可能だと考えております。      第2の質問には、残念ながらお答えできないんです。というのは、最     後にデンマークで大きな調査をしたのは、ちょうど女性労働者が大変増     えた70年代の時代で、それがどう影響するのかという調査をしたんです     けれども、それ以来、そういった問題を扱った大規模調査は行っており     ません。ただ、当時の調査では、実際には自分がほしいと思っている希     望の子ども数よりも少ない数を持っていたという結果が出ております。     そして、そのころは1家族が1.7で、だいたい1人か2人というパターン     でした。      分析によると、これは平均なんですけれども。グループによって違っ     てくると思うんです。平均が1.7といっても、子どもが3人も4人もいる     家族もあれば、子どもがまったくいない家族もあって。特に子どものい     ない女性というのは40代の後半で、教育レベルも高く、大学の学位を取     っていて、そして労働市場においても高い地位にあるとか、そういった     女性たちで子どものいない女性というのは、グループとして増えており     ます。      将来の推定出生率なんですけれども、それはあまりにもよくわからな     いので、いろいろなシナリオを考えていて、毎年少しずつ予想を変えて     いるんです。ですから、このままの条件が揃えば出生率がこれぐらいに     なって、条件が変わればこれぐらいになってというふうに、毎年推定出     生率が変わっております。 ベーツ氏 私のほうから希望の子ども数と、それから実際の子ども数の違いとい     うことについてお話ししてもよろしいでしょうか。      オランダの傾向というのは、デンマークに大変似ておりまして。希望     家族数ということを聞きますと、だいたい20代の前半の若者たちは、自     分はいずれ家庭を持って子どもは2人と答えているのが圧倒的に多くて     しかし、現在ちょうどどのレベルにおいても、人口置き換えレベルを維     持しているところであります。ところが、同じグループが30代になった     ときに同じような調査を行いますと、最初の計画よりも実際には子ども     の数が少なかったりという結果があります。ですから、パターンとして     希望の家族数と聞きますと、子どもが何人で第1子はいつごろ生むと答     えていますけれども、実際にはその計画よりももっと遅れていて、そし     てもっと子ども数が少ないというパターンがあります。これは自分が若     いときに計画したものが、なかなか思うように実現できないということ     なんですけれども。それと、最初に聞いたグループも、あとで調査をし     てみますと、例えば子どもを2人ほしいと言っていた人たちが、30代の     半ばでは相手がいないとか、あるいは相手と別れていて新しい相手を探     しているとか。あるいは、年齢もどんどん上がってきているわけですか     ら出生力が落ちていて、そして子どもが生みにくくなっているという、     いろいろな要因があります。      それから、オランダでもデンマークでも同じだと思うんですけれども     共働きのカップルというのは、若いときは子どもがほしいと思っていて     も、ある年齢に達したら2人でよく話し合って、どちらも自分の仕事を     犠牲にしたくないとか、あるいはどちらも自分のいまの生活を特に変え     たくないと。そうすると、最初は子どもがほしいと思っていても、いま     持っている生活を変えたくないということで、自分たちの自由意思で子     どもを生まない、あるいは子どもをつくらないというふうになるカップ     ルもあると思います。 宮澤会長 関連して。労働市場の話がございましたけれども。産休とか育児休暇     を取る間、労働力に穴があきますね。それをカバーするのに、例えば派     遣労働とかパート労働とか、そういうような手当はどうなっているんで     しょうか。1つは企業がどういう対応をしておるのか。もう一つは公的     な政府なり何なりが、労働市場なりに対してどういう対応をとっている     のか。企業のベースの場合と公的なベースと、ちょっと説明していただ     きたい。デンマークのほうですね。 クヌードセン氏 その点は十分に説明しないで失礼いたしました。育児休暇とか     あるいは産休の初期の時代では、労働市場の状況に大変関連しておりま     して。母親が産休を取ったときには、失業率を低下させる、あるいは失     業を減らすために、その人のために一時的なテンポラリーの人をパート     タイムで雇うという、そういう方策をとっておりました。 ところが最     近は、そういった必ず代わりの人を一時的に雇うというルールが撤回さ     れまして。なぜこのルールが廃止になったかといいますと、そういうル     ールがあってもそれにしたがわなかった企業があったとか、代わりの人     を探すのがあまりにも困難であったという原因があります。      その母親、あるいは父親が休暇を取っている間の会社にとっての負担     とか、あるいはその人たちの有給休暇の給付に関しては、企業と国家と     組合の失業保険との組み合わせによってカバーしております。これはど     ういった種類の休暇かによって、ルールが少し異なります。      企業側の対応なんですけれども、一番大きな問題となっているのが企     業側の反対とか対応ができないというところなんですね。特に男性が育     児休暇を取りたいというと、それが女性よりも短い休暇であっても、同     僚からの圧力が極めて強くて、非常に休暇が取りにくい状態が多いと思     います。      そこで育児休暇を取った人の代わりの、その穴をどうやって埋めてい     るのかというと、昔はそういう規則があったんですけれども、いまはそ     ういう規則がないので、企業はそのままにしていたり、あるいは誰かテ     ンポラリーの人を雇ったりする場合もあります。 高山専門委員 今日のお話の中で子どもの数の話が中心だったんですが、子ども     の質をめぐる話を実はお聞きしたいんです。同棲中のカップルだとか共     働きというのが、かなり一般化した国において、父母が直接子どもと接     触する時間とか、そういうのが従来と比べて、多分少なくなったのでは     ないかと思うんです。懸念されることは、おそらく子どもを父母が直接     鍛える時間というのがなくなってきて、子どもにそのことの影響がどう     出ているのかということをお聞きしたいんです。子どもの質が低下した     とか、あるいは子どもが耐える力が弱くなったとか、打たれ強さがなく     なってきたとか、そういう心配は特にデンマークではないのかというこ     となんですけれども。 クヌードセン氏 大変重要な問題だと思います。デンマークでも常にこれはみん     なで話し合っている問題であって、これからもその議論はずっと続ける     必要があると思うんですけれども。例えば育児のための予算が、その社     会的な施設とか組織ですね。そういったところの予算が切られたときに     は、みんなで大議論になるんですけれども、こういった育児のための予     算というのは大変重要だと思うんです。というのは、子どもが家庭で学     ばなかった、学べないようなものは、学校とか保育園とか保育所とか、     そういった組織の中で学ぶ権利があると思うんです。      いまおっしゃったことと、私が先ほど言いました時間の問題ですね。     例えば労働の中でどうやって時間を取って育児にその時間をあてるかと     いうのが、一番大きな問題になっていると最後に申し上げたんですけれ     ども。1日の労働時間のスケジュールとか構造をどのようにしていって     そして子どものための時間を母親も父親もどうやって捻出していくかと     いうのが、いま一番大きな問題の1つであります。そして最近の組合の     国との交渉、それから企業との交渉において、組合側の要求としては、     休暇とか、もちろん賃金の交渉もあったんですけれども、それだけはな     くて、休暇に関してももっと休暇がほしいと。それから年間5週間の休     暇というものも、もっと柔軟にフレキシブルにしてもらって、短期的な     休暇に関しても、子どもが必要なときに両親か、あるいはどちらかがち     ゃんと休めるような、そういう制度にしてほしいという要求が出ました      ただ、1つ忘れてはならないのは、デンマークのこの子どもたちとい     うのは、ほとんどが望まれて生まれた子、そして非常に希望されて生ま     れた子ですから、両親は平均1.7の子に対して、できる限りの時間とエネ     ルギーとお金を使って育てております。      その子どもの精神的とか心理的な問題に関してなんですけれども、最     近は学校で集中できない子とか、じっとしていられない子とか、それか     らどうも混乱しているようだとか、そういう子どもがいると学校の教師     たちが訴えているんですけれども、でもそれは親が働いていて、そして     保育所に入れられたからそうなったのか、それとも両親が揃って家にい     てもみんなでテレビばかり見ていて、そして子どもと接していないのか     あるいはコンピュータやテレビの前で子どもが時間を取っていたりとか     そういった、何が原因なのか、はっきりしたことはまだわかっておりま     せん。 宮澤会長 どうもありがとうございました。まだご質問があるかと思いますが、     時間配分上、次に移りまして、ご質問は最後の総括のときにまたお願い     したいと思います。      それでは続きましてギース・ベーツ氏、よろしくお願いいたします。 ベーツ氏 今日はどうもありがとうございます。ここでお話をする機会をいただ     き、我が国オランダの人口問題に皆様がこれだけ関心を持ってくださっ     ていることに対し、光栄に思います。      私は先ほど阿藤先生が紹介してくださったとおり、オランダ学際人口     研究所に務めておりまして、そこで家族、出生率などの研究をしたり、     それからニディー、このオランダ学際人口研究所というのは国に依頼さ     れて定期的に人口問題の報告書というものを国の委員会に提出しており     ます。政府の委員会というのは、各官庁が参加している委員会なんです     けれども、その委員会に3年に1回、報告書を提出しております。      オランダというのは福祉国家であります。私どもは福祉国家の自負と     して、すべての市民が幸せに長寿をまっとうすることができるような、     そういう国をつくることを第一に考えております。そして労働問題とい     うのが中心的な課題になりますし、人口密度の高い国で土地面積が狭い     という、空間の問題も大変重要な問題であります。     (OHP1)      私どもは正式な人口政策というものもなければ、正式な家族政策とい     うものもない、つまり人口を司っている1つの官庁というものもなく、     デンマークと同じように複数の官庁が関わっているのが人口問題であり     ます。それから、目標として出生率をどうこうしようという、そういう     人口的な目標というものもありません。ただ、日本もそうだと思うんで     すけれども、できる限り長寿国になって、みんなが健康で長生きできる     ようにということを目標としております。      私どもの国の政策というのは、人道的であり、そして寛容なものであ     り、レッセフェールの精神に基づいたものであり、上から指導するとか     命令するものではありません。私どもの政治制度の構造的な弱さという     のが2つありまして、1つは複数の政党があって、それが多種多様に分     化されているという政治的な状態。それから金融と経済の流れというも     のが複数ありまして、さまざまな法的な規制によってお金の流れが制約     されているので、公的資金を1つのセクターから別のセクターに移すこ     とが極めて困難であるという、そういう弱さがあります。     (OHP2)      私どもの人口学的な傾向というのは、デンマークと大変似ております     1960年代までは、出生率が高くベビーブームの時期にありました。そし     て長寿であって、予想寿命というものも高いものでした。人口の移動、     移住というものも中程度のものであり、家族形成も伝統的な家族構成に     なっていて、そして働き手が1人という、そういう家族でした。それを     もとにして福祉国家というものをつくったのです。      そして1960年代の終わり、70年代の初めになりますと、デンマークよ     りちょっと遅れていて、それから一番最初のレベルもデンマークよりち     ょっと高かったんですけれども、出生率が急速に低下しました。そして     現在、合計特殊出生率、TFRは1.5か1.6ぐらいで安定しまして、デンマー クよりちょっと低いところに落ち着きました。この10年間、過去20年間 出生率が低く、出生も遅いと。晩婚型であると。死亡率も低くて、寿命 がどんどん延びてきている。日本に比べるとまだ低いんですけれども、 他国に比べると大変長寿な国であります。      高齢化というものは、ベビーブームがずっと続いていたために、私ど     もは国全体としては比較的若い国であって、ヨーロッパの他の国よりも     高齢化現象は遅れて始まってきております。それからもう一つは、移民     難民、それから亡命者、それがオランダでは大変ホットな話題になって     います。      現在は、家庭の所得、あるいは収入源としても、いままでは大黒柱が     1つという感じだったんですが、いまは1つの所得ではなく1.5所得とい     うことがいわれていて。つまり、男性はフルタイムに働いて、女性がパ     ートで働くというのが理想とされております。これはより平等な、ある     いは家庭の家計を補助するかたちの制度といわれております。     (OHP3)      これが1840年から2050年の出生と死亡数を見たものなんですけれども     1840年の5万というところからずっと始まりまして、そして絶対数で1940     年代から60年代まで、極めて高いところにきまして、そして落ちていま     す。ここで高齢化が始まるんですけれども、高齢化がここで始まらなけ     れば、もっと出生というのが続いていたということが考えられます。      2000年以降の予想なんですけれども、これは3つのシナリオが考えら     れていまして。TFRがずっと高くなりますと、いまの置き換えレベルより ちょっと低い2.0というところになるだろうと。真ん中は、いまよりちょ っと高い1.7のところ、そして下がいまより低い1.4のところです。この ように波があったり変動があって、3つの異なるシナリオがあるという ことに、オランダ政府は大変懸念をしておりまして、晩婚、あるいは遅 い出産とか、それによって急に人口が変わったり、ベビーブームになっ たり、あるいは急に落ちたりという、そういう変動に対して国としては なかなか対応できないといって困っております。      オランダでは現在、産児制限のいろいろな方法があり、産児制限のシ     ステムもほとんどパーフェクトに近いもので、望まれない子どもという     のは、ほとんどいません。夫婦は子どもをいつ生むのかとか、はたして     子どもがほしいのかほしくないのかとか、そういったことを徹底的に話     す傾向にありますし、夫婦の判断で子どもを生まない、つまり意図的に     子どもを生まないカップルというのも増えています。      現在、第1子の出産年齢の平均が29歳で、デンマークより1歳高くて     それもグループ別によってかなり違いがありまして。教育レベルの高い     女性の第1子出産平均年齢が34歳。この教育レベルの高いグループの中     には、子どもをほしくないと選んでいる人が30%といわれております。      現在、大学の入学率は上がってきて、ますます数として教育レベルの     高い女性が増えているんですけれども。そして、いま申し上げたような     現象があるんですけれども、しかし逆に教育のレベルの低い層において     も、遅れて子どもを生むという傾向がますます強くなってきていまして     いわゆる低教育層といわれている中でも、10年前は平均の第1子出産年     齢が22歳だったのが、いまは27歳になっています。     (OHP4)      伝統的な1人が働いて他の人たちが家庭という、その家庭のかたちか     ら、いまはさっき申し上げました、もう一人が補助をする、あるいは協     力をするという1.5の所得獲得者という、つまり夫がフルタイムに働いて     そして妻がパートで働く。それからもう一つは平等な組み合わせという     か、協力的な家計で平等に共働きをするという、そうして家計を支える     という、そういう家庭というのが増えてきております。      ただ、いろいろな制約がまだありまして。例えばパートタイムの仕事     は需要が供給よりも上回っていますし、仕事がみつかってもあまり柔軟     性がなくて、フレックス時間がなかなか取れない。つまり、夫とか子ど     もたちのニーズに合うような時間帯で働くということが難しいのです。      それから、男性のほうも自分の相手の女性のスケジュールに合わせて     とか、あるいは子どものスケジュールに合わせて、自分自身がそういう     ふうに自由にしたいということでフレックスタイム、あるいはパートに     就きたいという希望が男性の側で増えたにもかかわらず、雇用者、使用     者のほうが、なかなか男性にそういった自由な雇用を与えてくれません      現在、子どものための施設や設備、デイケアといった保育園や保育所     というのは、あまりにも数が少なく、それから子どもが急に病気になっ     ても、なかなか休暇を取れないという問題があります。それから子ども     だけではなく、例えば両親とか祖父母などの介護をしなければならなく     ても休暇が取れないという、そういう問題がありまして。議会でそうい     った問題を直面から取り上げるようになりますと、家族の問題と高齢化     の問題がそこで一気に凝集されて議論されるということになると思いま     す。     (OHP5)      調査の結果、オランダの国民は人口はいまのままでいいと。あるいは     できればもっと人口が減ってほしいと望んでいるようで、人口密度が高     すぎる、そして土地の面積が少ない。東京もそうかもしれませんけれど     も、どこに行っても人がウジャウジャいて、そして交通渋滞ばかりであ     るという、そういうふうに国民が答えております。      そして、出生率が低下しているのを次のように説明しています。人が     言うには、まずみんなもっとラクな生活をしたいということで子どもの     数が減っている、女性の労働人口への参加や参入、それから男女ともに     もっと独立して自由に暮らしたいし、自分のキャリアのうえでもっと成     功したい、あるいは出世したいと。そして、自分の親よりも子どもの数     が少なかったほうが、そういった目的を達成しやすいと考えているよう     です。      もう一つは、この調査の結果、フレックス時間を提供したほうが、そ     の仕事を離れることなく、家庭と仕事と両方とも両立させることがしや     すいし、使用者、雇用者がそういったフレックス時間を提供しないほう     が職場を離れてしまったりする可能性が強いという結果が出ております     子どもがまだいないカップルは、声を大にして、もっと休暇とか子ども     の保育所とか、労働の柔軟な対応とか、そういうものがなければ子ども     がなかなかつくれないと言っています。すでに子どものいる親、特に幼     児を抱えている親は、もっと経済的な援助をしてほしいということを言     っているわけです。つまり、彼らの意見では、これは調査の結果なんで     すけれども、オランダ政府はそんなに短期間で急に保育所を増やせるは     ずがないと。そういう力がいまない。したがって、自分たちに対する経     済的な援助をしてほしいということを言っております。     (OHP6)      家族政策といったものは、これはあくまでも仮説なんですけれども、     何らかの家族政策をとったとろこで、多分、子どもの数にはまったく影     響しないであろう。いまのまま安定していて、置き換えレベルよりちょ     っと低いところで落ち着くだろうと。しかし、子どもを生むタイミング     には影響するだろうと思います。いろいろな設備とか、子どもが生みや     すいような対応が国側のほうからされれば、子どもを生むタイミングに     影響すると思います。     現在、依然としてこういった家族問題や人口問題を取り扱っている1     つの官庁はないんですけれども、各管轄官庁の間に調整とハーモナイゼ     ーションの傾向が強く見られますし、それはすべて解放というふうに、     いわゆる解放政策といっていまして、その傘下のもとで各官庁が協力を     しております。      そして労働市場は国民の要望に応えて、フレックスタイム、パートタ     イム、これは男性もこういった労働ができるようにすることになるでし     ょう。所得もだんだん1世帯が1所得というのではなく、1.5とか、ある     いは2所得という、もう一人が補助をしたり、あるいは平等に稼ぐとい     う、そういうかたちに移ると思いますし、それから現在休暇というのが     あるんですけれども、特に男性の休暇は有給ではなくて無給なんです。      ですから、ほとんど誰も取りません。あくまでも、そういう休暇を与     えているというシンボルにすぎません。 現在、人口目標はないと申し     上げましたけれども、人口をどこで落ち着かせたいとか増やしたいとか     減らしたいと、そういったものはまったくありません。ただ、急に出生     率が低下したり、急に増えたりといった、そういう急速な波というもの     は避けたいと考えております。      最後に高齢化。高齢化は問題というふうに私たちは考えていません。     高齢化は我々にとってのチャレンジなんです。いままで、オランダが過     去において寿命を延ばそうといろいろな努力をして、いろいろな投資を     してきた。そのために支払う代償が高齢化時代であって、そしてこれは     決して問題ではなく、人口学的な成熟を示すと考えております。      どうもありがとうございました。 宮澤会長 どうもありがとうございまして。それでは、ただいまの報告に質問、     あるいはご意見をお願いいたします。 袖井委員 気になったのは、1.5所得ということが理想的だとおっしゃったんです     が。これはやはりデンマークとかなり違うと思うんですね。男の人がフ     ルタイムで女がパートというんですが、そうするとやはり家事、育児と     いうのは女性がほとんど担っているのかということと、将来的には2に     いくのか、それとも1.5のままでいくのでしょうか。そのへんのことを聞     きたいと思います。 ベーツ氏 これは、いずれ2にいくということは難しいと思いますし、そして決     してこれはオランダにとって理想ではなく、一時的なものであって、私     どもが好んでこういうふうにしているわけではないんですけれども。ど     うしてこうなっているかといいますと、男性のほうがフレックスタイム     にしたいとか、パートでもいいとか、家事をもっとしたいとか、そうい     うふうに言っても、使用者側のほうが男性にフレックスタイムを提供し     てくれないとか、パートタイムの労働を認めてくれないという、そうい     う問題が残っているんです。      オランダ国民としては、将来理想的には2人で0.75ずつ、つまりフル     タイムに働くのではなくて、0.75ぐらい働いて2人合わせて1.5の所得に     なって、そうすると残りの時間は2人で育児と家事を平等にできるよう     にしたいと考えております。 水越委員 オランダでは産休および育児休業制度等々は、いまどのようになって     いるんでしょうか。 ベーツ氏 産休も、それから育児休暇もあります。現在、産休は16週間で、オラ     ンダもデンマークも所属しているEUの中でも平均的なもので、オランダ     はデンマークよりちょっと低いかもしれませんけれども、16週間です。      それから、育児休暇、これはパレンタルディーブといっていますけれ     ども、男性も女性もそれを取る権利があるんですけれども、無給なので     男性はほとんど取りません。女性がほとんどそれを取っています。それ     が6カ月間、子どもが4歳になるまでで、その6カ月間を分けて取るこ     とが可能です。現在、それを6カ月以上に増やそうということと、子ど     もが8歳になるまで延長しようという話がされております。デンマーク     と同じように、1年に増やして、そして8歳になるまで自由なときに、     つまり望むときに分けて取れるようにというのを目標としております。 水越委員 デンマークでは、父親の産休が約4週間、そして育児休業が1年間と     伺いましたけれども、父親の取得率は、どのくらいになっているのか。     そして、それが職種ですとか、あるいは職責等々で違いがあるかどうか      お願いいたします。 クヌードセン氏 デンマークの場合は産休は出産後の24週間で、出産前の4週間     予定日の前の4週間ですね。それから、夫は出産後の2週間で、産休の     残りの10週間は、どちらが取るのかと。つまり男が取るのか女が取るの     かということを選ぶことが可能なんです。      そして職業によって、あるいは職種によって違いはありますけれども     たいてい、どっちが休暇を取るのかという話し合いをするときには、所     得の少ないほうが休暇を取るんです。損を被らないように。そうすると     夫のほうが妻よりも収入が少ない場合には夫のほうが取るというかたち     をとっております。      それから、これは登録制度になっているので、その登録の記録を見る     と、だいたい職種などの分析ができるんですけれども、夫婦で自営業の     場合には非常に休暇が少なくなっております。 木村専門委員 オランダのベーツさんにお願いいたします。どうも興味深いご報     告ありがとうございました。最後のほうに、家族政策を男女ともに担う     ためには、フレックスタイムの働き方とかパートタイマーということが     出てきました。それが可能になるためには、パートタイマーの待遇とい     うことが鍵になると思うんですが。以下の点で、パートタイマーとフル     タイムの待遇が、オランダでどのように違うのかということを教えてい     ただきたいと思います。      1つは賃金において、どのように違うのか。それから2番目は付加給     付です。企業からのさまざまな給付がありますが、賃金以外の給付にお     いて、どのように違うのか。それから有給休暇の取得において、どのよ     うに違うのか。以上の3点です。 ベーツ氏 質問ありがとうございます。質問すべてに答えることはできないんで     すけれども。一般的に労働市場というのは、いままで正規の社員が常時     働いていて、1週間なら1週間、そしてフルに働いている、フルに給料     をもらっている人をベースにして、いろいろな付加給付とか年金の積み     立てとか、そういうものが全部決まっていたんですけれども、ただオラ     ンダは世界の中でもパートタイム労働のリーダーであって、現在オラン     ダの女性の6割がパートタイムで働いておりますし、男性のパートタイ     ムの労働者も増えてきております。これに関しては、常にオランダの国     議会で議論しているところで、制度をもっと変えようということが、い     ま提案されております。      パートタイムの労働者は正規社員に比べて十分な所得も、それから十     分な給付も受けていなかったんですけれども、正規社員ほどのものはも     らえなくても、実際に働いている時間のパーセンテージに合わせて何パ     ーセントか同じ恩恵やいろいろな恩典が受けられるようにしようという     ことが、いま議会で話されているところであります。      したがって、ご指摘の問題というのは大変複雑でして。パートタイム     労働といっても、例えば週のうち10時間以下働く人もいれば、1週間の     うち20〜30時間働く人もいれば。現在オランダの1週間の労働時間とい     うのが38時間と決まっていて、フルタイムの仕事というのは全部38時間     なんです。そうすると、37時間働く人もパートと定義されてしまいます      一般的に働く時間に合わせて給付をしようという方向にありますので     1週間に20時間働く人だとすれば、決まっている38時間の半分ぐらいな     ので、権利も半分、そして産休も育児休暇も約半分、そして年金もその     積み立ても半分というふうになるんですね。いま現在、議会が法案とし     て話し合っていて、これが通過すれば大変興味深いと思うのが、パート     タイムの仕事を要求する権利に関する法案というのがありまして。いま     までは正規社員がパートに切り替えたいというと、使用者側のほうで、     なぜいまよりも時間を減らしたいのか。収入も減るし、そして会社も困     るということで、断る権利があったんですけれども、いまは使用者側は     断る権利がなく、労働者のほうからパートタイムにしてくれと要求する     権利ができるという、そういう法案がいま審議中であります。      1人の女性、あるいは夫婦の人生のコースというのをずっと見てきま     すと、傾向として教育を受けていて、教育を終了すると今度は働きだし     て、男性も女性も完全にフルタイムで働くんですね。子どもができると     今度は女性のほうが労働時間を減らして、子どもが10歳、12歳ぐらいに     なって、ずっと監督している必要がないということになると、女性の労     働時間をまた増やすという、そういうパターンがあります。これは教育     のレベルの高い女性に見られるもので、しかも本人が希望してそういう     パターンにしているというのが、一般的な傾向であります。 坂元委員 大変興味あるご発表ありがとうございました。お二人にお礼を申し上     げます。ポピュレーションの問題について少しお聞きしてみたいと思い     ます。      デンマークのほうはファーティリティーレートは上がっている。アボ     ーションは下がっている。そうすると、ポピュレーションは増えてもい     いんですが、ほとんど変わっていないとおっしゃいました。あまりフラ     クションも起こらない。現在の人口であなたの国では十分だとお考えな     んでしょうか。あまり人口のことに国が口を出すのはまずいし、あるい     は、調整してもそんなに影響してこないようです。そうすると、いまの     ポピュレーションは、労働市場でのリクエスト、その他に応えられるだ     けのものがおありなんでしょうか。 クヌードセン氏 質問ありがとうございました。現在、ご指摘のとおりの問題が     あるんですけれども、国として人口政策はとにかく持たないと。つまり     国は干渉しない。そして労働市場に対して、いま労働力として入ってき     ているコーホートが大変小さいんですけれども、その対応策として退職     年齢ですね。引退年齢を延ばしてもらうように。つまり、もっと長く働     いてもらうように動機づけをするということはしております。      といいますのは、補足しますと、いま定年退職の年齢が67歳なんです     が、年金の減俸を受け入れて60歳で引退することも可能なので。以前は     失業対策として、60歳で引退するようにということを奨励していたんで     すが。そうすると、それだけ雇用を創出することができたんです。とこ     ろが、あまり若い定年というのに人気が出てしまいましたので、逆に労     働者不足の問題が出てきていて、そしてこの引退を延ばしてもらうよう     にと国は努力をしております。 坂元委員 この長い調査期間の間で、ポピュレーションが増えてもいいのに、ほ     とんど変わらないのはコントラスセプションが上手にいっているという     ことなんでしょうか。ペーパーには避妊法が普及したと書いてあります     ね。ファミリーサイズの自己調節計画が、おたくでは大変うまくいって     いるということでしょうか。 クヌードセン氏 そのとおり、家族計画というのが大変うまくいっているもので     もちろん、私の隣にいる同僚の国ほど効果的ではないんですけれども。      ただ、いろいろな避妊法があって、いろいろな避妊法が広く使われて     おりまして。出生が減ったけれども中絶の数も減ってきておりまして。     中絶が合法化されてから25年間、その歩みを記した小冊子がありますの     で、関心があれば、それをあとで差し上げたいと思います。 坂元委員 デンマークでは、ピルが非常にたくさん使われていて、利用率は30%     以上と私は聞いておりますが、そういったことがポピュレーションコン     トロールに利いているいるんでしょうか。 クヌードセン氏 デンマークの出生率というものを見ますと、確かに経口避妊薬     というものも60年代から導入されまして、大変効果的なんですけれども     ただ、今世紀の初めにおいても、最近の近代的な避妊方法とか避妊具と     か、そういったものがない状態でも、急に人口が低下したという、そう     いうこともありますので、それはどういう手段を使うというよりも、や     はり国民の動機づけというか、子どもがほしいとかほしくないという、     そういう動機というのが大変重要だと思うんです。そして、いまはそう     いった避妊方法がいろいろありますので、ほとんどの妊娠、出産という     のは望まれたものであるということが重要だと考えております。 坂元委員 私は産婦人科の医師なんですが、その意味で、女性が自分で簡単にフ     ァミリーサイズをコントロールできるという点で、ピルが多いのではな     いかと思います。さっき大変イフェクティブだとおっしゃいましたので     その意味で使用率、あるいはその評価をお聞きしたいのです。 クヌードセン氏 先生のおっしゃるとおりだと思います。大変効果的な方法です     し、計画的に家族のサイズを決めるのに、とても役に立つものだと考え     ます。つまり、子どもがほしくないと思っているときには、大変簡単で     あって、そして大変有効的なんですが。      もう一つの問題として、これはまったく別の問題なんですけれども。     先生が産婦人科でいらっしゃるので申し上げますと、子どもを生むのを     ずっと遅らせていて、そしていまは子どもがほしいと思っている女性が     なかなか思うように子どもをつくれなかったり生めないという、そうい     う問題もまた。それは別の問題ですけれども、そういうことも、いま問     題として考えております。 坂元委員 ありがとうござました。私はオランダの方にもお伺いしたいんですが     オランダはいまの国民が満足しているから、このポピュレーションは維     持する。特に他の理由でコントロールするつもりはない。特にポピュレ     ーションに対して目標はないけれども、急激に増えたり、あるいは減っ     たりすることを防ぐとおっしゃっていましたが、そう取っていいですか ベーツ氏 先生のおっしゃるとおりなんです。私ども、オランダの政府としては     急に人口が増えたり、急に減ったりというと、その年齢層ですね。その     年齢構造というのが、どんどん時間がたつにつれて1つの塊としてどん     どん年を取っていくわけですから、それが社会にいろいろな影響を及ぼ     したり、社会の他のところに波及するわけですから、そういった急な波     ですね。低下にしても増加にしても、急な波を避けて、そしてなめらか     に年齢構造が進むようにしたいんですね。      ただ、国は干渉しないんですけれども、オランダ国民としては、もう     ちょっと人口が減ってもいいのではないかと思っているんです。やはり     土地が狭くて人口密度が高い。だから、もう少し息苦しくない程度の人     口に落ち着いてくれればと思っていて、もっとラクな、そして楽しい生     活をするには、もう少し空間というかスペースがほしいし、レクリエー     ションも楽しみたいと思っています。      その質問と関係なく、先生の先ほどの質問に対してオランダの立場か     らお答えしてもよろしいでしょうか。      過去20年間、私どもの国では、生殖に関する教育だとか、リプロダク     ティブヘルスの教育を徹底的に行ってまいりましたので、現在のティー     ンエージャーとか20代の若い人たちの性的な活動とかというのは、性生     活とか性的な活動というものはヨーロッパのどの国ともほとんど同じな     んですけれども、ただオランダでは10代の妊娠というのは、もうほとん     どなくなってしまいましたし、中絶も低いんです。ということは、パー     フェクトに近い避妊ができていると私たちは考えております。だからこ     そ出生が遅れてとか、あるいは遅れてお産をするという、そういう傾向     が出てきているんですが。      私がここで言いたいのは、いままでは妊娠の予防に、その情報にもの     すごく私たちが投資をしてきましたので、それで若い人たちの望まない     妊娠というのを防ぐことができたんですね。ただ今度は、30代に入って     急にピルをやめると、すぐ妊娠すると思い込んでいる人が多いので、そ     んなに簡単にはいかないということを今度徹底的に教えてあげたいと思     います。だから、これはとても奇妙な状況に思われるかもしれませんけ     れども、30代になってから妊娠をしたければ、どうやって妊娠をするの     かとかですね。そういった教育を、ピルをやめてからの健康の教育とか     そういうことをこれからはもっと努力をしなければならないと考えてお     ります。 坂元委員 もう一つだけ聞かせてください。いまの人口で、労働力はあなた自身     の国の人たちの数で十分なんですか。 ベーツ氏 とても難しい質問です。というのは、将来の労働市場の構成というも     のは、人口の動態よりももっと予想が立てにくいものなので、はたして     今後、労働市場のニーズが何なのか。それに対して人口というよりも、     労働市場そのものがどうなっていくのかというのは、あまりにもわから     ないことが多いので。      ただ、オランダに社会労働省というのがありまして、そこは確かに人     口が減っていると。これからの数十年間は人口がどのように減っていく     のか。それで労働力にどう影響するのかの予想を立ててくれというふう     に私に依頼してきまして、少し数字を提供したんですけれども。この社     会労働省としては、出生率が低下してしまうと労働力が減るのではない     かということを大変不安に思っていまして。何か方策はないのか。例え     ば、若いときに子どもを生んでも、これだけの特典とか、これだけの楽     しいこともあるんだから、どうせいずれ生むんだったら、もっと若いう     ちに子どもを生みませんかといった、そういった奨励策ですね。そうい     うものを考えたほうがいいのではないかと、そこの官庁は考えているよ     うです。 坂元委員 不足を補うのに移民するという問題はいかがですか。 ベーツ氏 英語が母国語ではないので、言い方がちょっとまずかったかもしれま     せんけれども。出生を遅らせてとか、あるいは30代とか40代で子どもを     生むとか、そういうことを言いたかったのではなくて、第1子を生む年     齢をこれ以上遅らせないようにしてということを国が考えたいと思って     いるようです。      それから、この労働力の不足を解決するために、すぐ移民を入れると     いうのは、オランダの場合はオプションとして大変難しいというか、あ     まり考えられないと思います。というのは、労働力の不足を埋めるため     に移民を入れていったら、かなりの人数の移民を入れなければならない     ことになりますし、オランダにはそれだけの人たちを収容するためのス     ペースも設備もありません。それから、移民の方たちもオランダに住み     つけば、彼らも高齢化していくわけですから、そうすると、いずれ大き     な移民の高齢人口を国が抱えることになると思います。 坂元委員 ありがとうございました。 宮澤会長 今日は大変長時間、予定時間を超過いたしまして、人口、家族、それ     から医学的な手法、労働市場という多面的なお話をいただきました。      どうもありがとうございました。     問い合わせ先     厚生省大臣官房政策課 担当 山内(内2250)、齋藤(内2931) 電話 (代) 03-3503-1711 (直) 03-3595-2159