98/10/27 第81回人口問題審議会総会議事録 第81回人口問題審議会総会議事録 平成10年10月27日(火) 15時00分〜17時00分 共用第9会議室 宮澤会長 本日はご多用のところをご出席いただきまして、ありがとうございま     す。ただいまから第81回の人口問題審議会総会を開催いたします。      最初に新委員のご紹介を申し上げます。前回の総会以降、新たな委員     の任命がございました。本日はご欠席でございますが、河野洋太郎委員     に代わりまして全国生命保険労働組合連合会中央執行委員長の浅野勲委     員が新たに委員に任命されました。      続きまして出席状況でございますが、麻生、阿藤、井上、大國、大淵、     熊崎、清家、袖井、坪井、水越、南、宮武、八代各委員、並びに安達、     網野、河野、高山専門委員、それぞれご都合によりご欠席でございます。     その他の委員はご出席です。なお、若干遅れていらっしゃる委員もおら     れるようでございます。      それでは本日の議題に入らせていただきます。本日は、関西経済連合     会と落合恵美子専門委員から少子化問題に関してご説明をいただきます。      時間の配分は、それぞれ説明が30分、それから質疑20分程度といたし     まして、最後に総括質疑として15分ぐらいをあてたいと考えております。      初めに、関西経済連合会からお願いいたします。関西経済連合会から     は住友信託銀行本店支配人の佐々木基彦氏と、それから関西経済連合会     企画調査部長、栗山和郎氏のお二人にお越しいただいております。本日     は「少子化問題に関する次世代の意識調査」の報告書を座長としておま     とめになられました佐々木氏より、ご説明をお願いしたいと思います。      それでは、よろしくお願いいたします。 佐々木氏 関西経済連合会、少子高齢対策委員会の次世代意識検討グループの座     長を務めました佐々木でございます。今年の7月に発表いたしました、     この意識調査の内容につきまして、座長の立場よりご説明申し上げます。      まずお配りいたしました資料が3部ございますが、資料1の調査の概     要に基づきましてご説明申し上げます。資料3が本報告書でございます     が、この本報告書は分析の手順にしたがってページ立てが構成されてお     ります。それを今回の報告は一つのストーリー性を持たせて解説させて     いただきたいということで順序を変えまして、資料2といたしまして説     明順序に基づいた資料集を作成しておりますので、資料1および資料2     で私どもの説明をお聞き願えればと思います。      概要の1ページ目に結論を3つに分けて書いてございます。まず調査     全体の我々の考え方は、課題を3つほど置いております。1番目の課題     は、現在問題になっております少子化傾向という社会の動向に関する危     機意識というものは、世代や立場を超えて共有できるかどうかというこ     とから始めております。      分析の結果等からは、結論だけを先に申し上げますと、その危機意識     というものは完全に共有することはできない。そして、これから子ども     を産み、育てる可能性を持つ年代層、これを私どもの報告では「次世代」     と呼んでおりまして、20〜35歳の方と対象を設定しておりますが、そう     いった年代層に対する説得のみで少子化傾向をくい止めることは難しい     だろうというのが1つ目の結論であります。      2つ目は、それでは少子化対策の目標はどのようにするべきかという     ことで、3つほど対応策のレベルを考えております。1つは、現在のよ     うな少子化傾向はくい止めることができないので、その少子化を前提と     した対応策を考えるべきである。例えば、もし少子化で労働力不足が将     来生じるというのであれば女性労働力等の活用を図る、というレベルの     対策だろうという意味であります。      2つ目は、少子化傾向を完全にくい止めることはできない。例えば特     殊出生率で2を超えるようなレベル、要するに子どもの数を減らさない     までに改善することは難しいかもしれないけれども、なるべくそれを緩     やかなものにしたい、という目標のための施策というのが2つ目のレベ     ルだろう。      3つ目は、子どもの数をこれから増やすことができることを前提にし     た挽回策というものを考えるというレベルになります。      この3つのレベルを考えましたけれども、結論的に言いますと、少子     化傾向を完全に解消することは困難である。3は多分難しいだろう。し     かしながら1のところまで悲観することはない。少子化傾向を緩やかに     して人口動態の急激な変化を避けることは可能であるという判断を下し     ております。      3つ目の課題は、それではそうした少子化傾向を改善するための対策     を立案するうえで重要な点は何だろうかということ、あるいは有効な対     策はどのようなものかという具体的な内容に関しまして判断を下すこと     です。1つは要するに1番目の課題に対して出した結論のように当事者     に対する説得のみで事態を改善することはできない。そうした当事者の     意識、あるいは行動パターンを理解したうえで対策を立てることが特に     重要である。中でも2人目の子どもを産み、育てることに焦点を当てる     べきである。要するに2人目の子どもを産み、育てるというのが1つの     重要な政策の目標であると考えられますので、そうした「2人っ子」政     策というものが重要になるだろうという分析をやっております。      2ページ目にまいりまして、具体的にその内容をご説明申し上げたい     と思います。調査の特徴ということから始めさせていただきたいわけで     すけれども、調査の特徴の1つ目は、調査対象を次世代に絞ったことで     す。この次世代というのは先ほど申し上げましたように私どもの言葉で     ございますが、20〜35歳、これから子どもを産み、育てる可能性の高い     方という世代に絞ったということでございます。その理由はお配りしま     した資料集の2ページ目のところに抜き書きしております、今日は配布     しておりませんけれども、中間報告というところで報告はしております。      我々‥‥我々と言っては変ですが、50歳以上、あるいは60歳以上とい     う方で、いわば常識としてこれから子どもを産み、育てる可能性はほと     んどない人間と、これから子どもを産み、育てる20〜35歳の間での少子     化に対する考え方というのは、かなり違う。その背景として、生まれ育     った原体験が違うんだということを2ページ目、3ページ目あたりに書     いてございます。       我々の世代は、私はベビーブーマーのはしりに属しますけれども、生     まれたときから兄弟が多い、あるいは小学校の60人教室で育った人間が、     現在の状況を見ますと子どもが少なすぎるということで、その落差に驚     いて大変だという意識を持ちますけれども、20〜35歳の人は、生まれた     ときから子どもが少ない、兄弟数も少ない環境で育っておるということ     が、まず第1点でございます。そうした人の意識というのは、我々が感     じておりますような危機意識とは大きく異なるということでございます     ので、そうした世代の結婚、出産、子育てに踏み切る条件を分析しなけ     ればならないということで対象を絞ったということになります。      さらに、絞ったうえで次世代の行動パターンを分析しようということ     で、彼らの単なる希望や欲求のみを聞くのではなくて、結婚や子育てと     いう行動に踏み切る契機を明らかにしたい。要するにモラトリアム的に     結婚しない、子どもを産まないということ、あるいは将来サッカーチー     ムができるほど子どもを持ちたいという希望ではなくて、未婚の人は配     偶者をどう見つけるか、結婚したが子どもを未だ持たない人は1人目を     どういう契機で産むか。子どもを1人持っている人は2人目をどういう     契機で持つのか持たないのか。要するに、次の一手をどうするかという     ことが分析できるような設問内容としたということでございます。      2つ目の問題は、アンケート結果を回答率で示すだけではなく、一応     ロジット分析というものを使いまして、行動の確率として分析しており     ます。このロジット分析の内容、あるいは今日お配りしました資料に書     いてございます符号の読み方につきましては、改めてご説明申し上げま     せんが、本報告書の6〜7ページ目をご参照いただきたいと思います。      本報告は、そういった分析道具を使いまして、次世代が結婚や子育て     に対してどのような経路をたどる可能性が高いか。可能性の高さを確率     という数字で分析いたしまして、さらにその属性といいますか、置かれ     た立場別にその基準を明らかにしております。その結果、個別に見た少     子化対策、要するに独身の人は配偶者をどのようなかたちで見つけるの     か。第1子を持つ確率を上げるためにはどうすればいいか。あるいは、     第2子を持つ確率はどういう要因で変動されているのかということを明     らかにし、階層別に見た少子化対策が立てられるような内容にしたとい     うことでございます。      資料2の5ページ目のところに分析を開始するにあたって想定したフ     レームワークが書いてございます。婚姻状態で既婚、独身別に分けまし     て、既婚者の方については子どもを持ち、育てることに興味がないのか、     あるいは条件が合えば考える、という基準で、AかBかに分けておりま     す。そして独身者に関しましては、配偶者を見つけること自体に興味が     あるのか興味がないのかというC1かC2かというセグメントに分けま     して、そうした方が婚姻状態になる、あるいは婚姻状態ではなくても最     終的に子どもを持つのか持たないのかといった経路を考えて分析ができ     るようなかたちで設定しております。      その結果、6ページ目にまとめましたように、1つはこういった立場     別に見ますと、子どもを持つことにまったく興味を持たないという方は     既婚者の6.4%、独身者の3.8%ということでございますから、まったく     子どもを持たないということに関して興味がないという人は1割以下と     いうことで、何らかのかたちで子どもを持つことは考えているというこ     とがわかるというのが1つ目でございます。      2つ目の問題として、子どもを欲しくない理由はどうかということで     考えますと、複数回答でございますけれども、65.3%の方が心理的要因     を挙げておられます。要するに、日本の将来が不安で子どもの将来に自     信を持てないとか、子育てが不安だという結果が出ております。しかし     ながら、そういった方の属性別内容を見ますと、こういった心理的不安     要因で子どもを欲しくないという人は、女性よりは男性、あるいは既婚     者よりも未婚者、子どものある人よりも子どものない人のほうが、かな     り明確にその意識が出てくる。いわば、子育てを経験する前に消極的に     なっている傾向が出ているということもございます。9割以上の方が何     らかのかたちで出産子育てを望むという一方で、現実になぜ子どもが欲     しくないのかということの乖離を説明するものとしましては、いま申し     上げましたような心理的要因があるということです。確信を持って子ど     もを持たないことを決心しているというのではないということから、対     策の立て方によっては子どもを産み、育てるという行動に移ることが可     能だという判断を下しております。      3番目の特徴といたしましては、後ほど述べますようないろいろな数     量的な分析がございますが、その分析結果を我々のように第三者的にそ     れを分析するというのではなく、結婚や出産行動には年齢や所得、ある     いは共働きか否かといった要因だけではなくて、人々の価値観だとか生     活スタイルが深く影響しているという前提に立っております。そうした     価値観だとか生活スタイルは我々と次世代の間ではかなり違うのではな     いかということも考えまして、分析結果を単に第三者的立場から評価す     るというのではなくて、関西経済連合会の少子高齢対策委員会に参加い     ただいた企業の中で19社から20歳台から30代前半の男女19名を選びまし     て、その方々にこういった分析結果を提示し、そういった次世代の自ら     の価値観と感性に基づいて分析結果を判断、あるいは評価し、対策と課     題を導き出したということでございます。      ですから、この分析を行いましたのは、この19名の20〜35歳の当事者     ということで、35歳以上の年齢制限を超えたのは、私とアドバイザーを     お願いした京都大学の橘木教授のみということでございます。ですから、     内容に関しましては私どもの委員会でも50歳、60歳、あるいは70歳代の     方の価値観から見るとおかしいという判断もございます。しかしながら、     それは当事者がそう言っているのだから仕方がないということでござい     ます。ですから、これから申し上げます内容というのは、我々の世代の     判断というよりも、この20〜35歳の人々がどう行動しており、その行動     を当事者が自ら振り返ってどう判断したかという報告としてお聞きいた     だければと思います。      調査結果の概要にまいりますと、この概要は先ほどの結論でも申し上     げましたように2つに分けられます。1つは次世代、要するに20〜35歳     ということで、当初の仮説としては、我々とは価値観、生活スタイルが     かなり違うと考えたその次世代も、子育てに関しましては、その基本は     やはり家庭形成と親の助力ではないかという結論になっております。      結婚する条件と子どもを持つ条件、言葉を言い換えれば結婚や子育て     がもたらす当事者にとってのメリット、あるいはデメリット、あるいは     利点、あるいはコストという面から見ますと、基本的には別ということ     は、このアンケート結果からも出ております。このアンケート結果の対     象者の中でも、未婚のまま子どもを育てるケース、いわゆるシングルマ     ザーと呼ばれる方は希ではございません。パーセンテージ的には1%近     い方が未婚のまま子どもを持っていると回答されております。      しかしながら大勢は結婚‥‥結婚といいましても籍を入れるというこ     とではなくて、事実婚を含めた配偶者との共同生活という意味で考える     べきかと思いますが、そういった家庭を形成することが子どもを持つ前     提条件と見ていることは、我々と変わりはないと。特に第2子以降を育     てる条件は、家庭を形成しなければほぼ実現しないものだということが     1つ目のポイントでございます。      2つ目のポイントは、子育ては夫婦、あるいは親子関係を中心とした     プライベートなものという意識が強く出ております。その結果、親と同     居する次世代は子どもを持つ確率が高いという行動結果が出ております。      男女分業体制が崩れ去った現在においても、育児負担の軽減を求める     夫婦にとっては女性が育児、家事をするべきという考え方はなくなって     はおりましても、それでも育児負担を軽減したいという夫婦にとって、     頼るべきはやはり親、要するに生まれてくる子どもにとっての祖父母と     いう傾向が以前にも増して強くなっているように見えます。      2つ目の問題は、子どもを持つにしても1人目を育てる条件と2人目     以降を産み、育てる条件がまったく異なっているということでございま     す。この結果、もし年少人口の減少をできる限り緩やかにする、くい止     めるということに政策目標を置きますと、子どもを2人以上持つ家庭を     増やすことが必要でありまして、1人目と2人目とは条件が違うんだと     いう、その条件の違いを考慮した「2人っ子」政策というものをかなり     柔軟な発想で実施することが望まれると考えております。      以下では多少、数量的な話も入りますが、資料1の3ページ以下のと     ころから書いております、結婚、子育ての条件というものをご説明申し     上げたいと思います。      資料2の7ページ目に書きましたように、分析しました最終結果から     見ますと、少子化対策のフレームワークというのは、5ページ目に書き     ましたフレームワークとはやや違いまして、第1子を持つ可能性という     のは既婚、あるいは未婚でも、それぞれの経路が考えられますけれども、     第2子以降を持つということの条件、要するに経路7と書いてございま     すが、その7は、やはり先ほどから申し上げておりますように家庭を形     成するという過程を経てから第2子を持つということになります。シン     グルマザーのまま第2子を持つという経路は、ほとんど考えられないの     ではないかという分析結果がございますので、フレームワーク自体は7     ページ目の上のように描いております。さらに中でも白抜きの大きな矢     印で描きましたような経路が、メインの経路になるだろうということで     ございます。      そうなりますと、まず独身者にとって次の一手というのは、シングル     マザーのまま子どもを持つ、あるいはシングルファーザーのまま子ども     を育てるというのではなく、まず配偶者との家庭を形成をするという経     路2のところが重要になってまいります。この経路2、多少誤解を受け     るかもわかりませんが、結婚の条件ということからいいますと、その条     件は何かということを表現いたしますと、1に経済力、2に年齢、3、     4がなくて5に出会いという言葉で説明できるような行動パターンにな     っております。      例えば、次世代は経済的に余裕ができれば結婚したいと考えており、     実際の行動としても所得水準が上がるほど、他の条件に差がなければ結     婚する確率は高まっております。例えば、年収が100万円高まりますと、     あるいは高まると本人が確信いたしますと、男性では12〜15%、女性で     は8〜10%結婚する確率が高まり、逆に言ますと未婚でいる確率が低下     するということになります。これは8ページ目に書きました、最終報告     書の42ページから抜粋と右上に書いてございますが、その分析結果から     出ております。これは未婚でいる確率が、その説明変数に採用しました     年齢だとか所得、あるいは家庭観といった要因別にどのように影響され     ているかということを分析しました結果ですが、有業者で考えますと、     所得水準が年収100万円上がると未婚でいる確率が11.4%低下するとい      う様に、この表をお読みいただきたいと思います。      さらに8ページ目の下のところに本報告書の14ページ目から抽出しま     した表が出ておりますが、結婚して幸福だとか、結婚してよかったと結     婚を肯定する確率も、やはり所得が高いほど結婚生活を肯定する確率が     高くなっております。ですから、幸せはお金では買えないというけれど     も、結婚生活は、やはりある程度の経済的裏付けが必要というのが次世     代の感性だということになります。      あるいは、年齢が高まるにつれて、やはり他の条件に差がなければ結     婚する確率は高まります。48ページ目の上の表にありますように、31歳     以上では25歳以下、あるいは25〜29歳、いわゆる20歳代の人に比べて男     性で15%、女性でも9%程度未婚でいる確率が低い、あるいは結婚する     確率が高いというかたちになっております。      さらにこれがやや意外な分析だったということで、9ページ目のとこ     ろで31〜32ページからの抽出をしておりますけれども、男性の中で職業     に誇りを持つ女性、結婚後も仕事を続ける女性を理想の相手とする男性     は、未婚でいる確率が高いということになっております。一方、既婚女     性、既に結婚という次の一手に進んだ女性というのは、女性が仕事を持     つことに協力的な男性を選んでおります。      こうなりますと、働く女性肯定派の男女の中でも、男性のほうが結婚     する確率が低い、ここでは男余りと書いてございますが、それが起きて     いるということでございます。そうなりますと、男性がそういう理想の     相手を思っていても相手にされないという状況があるということか、あ     るいは、こうしたカップルに出会いのチャンスが少ないのではないかと     いうことも考えられるということになっております。      次に、資料1の3ページ目の下段の部分に移りまして、では先ほどの     フレームワークの経路1に該当する行動、要するに婚姻状態になって、     それから第1子を持つ確率を高めるためには、どのような条件になるか     ということを分析しました結果から申し上げますと、1が楽しみと義務     感、2が年齢、3が周囲の希望、配偶者ないし親の希望、4に家庭内分     業と原体験、5に保育環境、特に勤務先の制度という条件が1人目の子     どもを持つ確率を高める方向に大きく影響しているということになって     おります。      資料2の10ページ目の表をご覧いただきますと、既婚者が子どもを持     つ、あるいは持った条件として、好きな人との絆としてとか、跡継ぎを     期待して等が有力となっております。あるいは特に30歳を過ぎますと、     結婚すれば子どもを持つのは当然だとか、親の希望でといった自らの能     動的な意識なしに何となく子どもをつくるケースが増えているというこ     とが1つポイントであります。一種の義務感ないし周囲の希望に基づい     たということかと思います。      さらに、家庭に関する考え方を基準に考えますと、家庭内分業を前提     とする世帯主型の男性を選んだ女性、要するに家庭内のリーダーシップ     を男性にとってもらいたいと考えている既婚女性というのは、子どもを     持つ確率が高まっております。あるいは家庭内分業にこだわらないタイ     プの女性を選んだ男性、要するに男性の意識として家庭内分業にこだわ     らない人は、子どもを持つ確率が低いということがわかっております。      もう一つの問題といたしまして、子どものころに兄弟の世話をした経     験のある人、あるいは幼児を抱いた経験のある人は、子育てに関しては     往々にしてハンディとなる共働きという状況のもとでも子どもを持つ確     率が高いという結果が出ております。これは資料2の11ページ目の一番     上に抜き書きました、最終報告書49ページ目の分析表から明らかになっ     た問題ということになります。      さらに、その11ページ目の下の表では、1人で打ち止めにしたい、1     人だけで十分だ。あるいは、1人の子どもに育児努力を集中したい。だ     から2人目は持たないといった人ほど、勤務先の制度や施設を積極的に     利用しているというパターンが出ているということでございます。です     から、その結果から見ますと、1人目の子どもを産み、育てる条件は、     上に書きました5つの大きな要因になるだろうということになっており     ます。      それでは、次にフレームワークの経路7、第1子を持ったあと第2子     を持つという行動に移るための要因は何だろうかということをご説明し     ます。資料1の4ページ目に書きましたように、2人目以降の子を産み、     育てる条件とは、1つ目は決心、あるいは子ども好きという意味での決     心かと思われます。2つ目が、男性の協力と理解。3番目に親の助力と     広い住居。4番目に保育環境。この保育環境は、地域環境という意味で     の保育環境ということでございます。5番目に体力ということになって     いるかと思います。      例えば、結婚のときには所得水準が高いほど家庭を形成する確率は高     いということでございましたけれども、そうなると子どもを育てるには     お金がかかるから、2人目以降を産み、育てるのはある程度経済的に豊     かな家庭かという仮説が出ましたけれども、分析結果から見ますと、そ     うではないということになっております。例えば、年齢や共働きか否か     といった属性の違いを調整いたしましても、所得が相対的に多い家庭ほ     ど2人以上の子どもを持つ確率は、かえって低いということになってお     ります。資料2の12ページ目の表でございますが。      そして、2人目以降の子どもをつくるのに、考え方として経済的に無     理、あるいは物理的に無理だから子どもを持たないという判断は多いわ     けですけれども、それでは経済的・物理的に無理だと諦めている人は、     実際の所得水準が低いのかというと、そうではなくて、経済的・物理的     に無理だから子どもを諦めるというのは主観的な判断であって、客観的     には所得水準の低い人ほど2人目以上の子どもを持つ確率が高いという     逆転した関係になってきております。特に本報告書17ページ目から抜き     出しました表で見ますと、2人目以降の子どもを持つ確率が高いのは、     子どもが好きだからというその人の気持ちが大きく影響しているという     ことになっております。      さらに女性に分析の対象を絞りまして、2人以上の子どもを実際に持     っている人は、どういった要因で後押しされているかということになり     ますと、配偶者である男性が経済的、社会的に成功する可能性が高いと     いうことだけではなくて、これは1人目の子どもを持つときにも重要な     要素ではありますけれども、それだけではなくて、実際にその男性が安     定した収入があり、さらに家事や子育てが得意であるということがあっ     て、初めて2人目の子どもを持つということになっております。      あるいは、家事担当者と家計管理者が一致している家庭は、子どもが     2人以上いる確率が高いということになります。男性がすべてリーダー     シップをとっている家庭は1人の子どもを持つ確率が高いというのは先     ほど申し上げましたが、2人以上の家庭では、むしろ女性、多分家事担     当者と家計管理者というのは女性のほうだということからいいますと、     その確率が高いということになります。ただ、実際上、この調査対象の     中では配偶者控除を受けている方は女性とは限らなくて、男性で配偶者     控除を受けておられる家庭もございますので、ここを家事担当者、家計     管理者が女性、あるいは男性という性別で即断するのは間違う可能性が     あるということには注意しておかなければならないかと思います。      さらに専業主婦は1人目は自分の力で育てようとしますけれども、や     はり2人目からは自分の力だけではなくて配偶者の協力を求めるという     動きが出てまいります。さらに女性の既婚者では家庭生活、要するに夫     婦で生活することの現実的、具体的な利点を感じている人ほど、子ども     を2人以上持つ確率が高くなっております。要するに2人での結婚生活     の利点というものが、子どもを持つことのコストを上回っているのでは     ないかと考えられます。これは資料2の14ページ目の上に掲載しました     分析結果からの判断であります。      さらに有業女性は2人目以降の子育てについては、夫と力を合わせる     というよりは、身の回りの人の力を借りる傾向が強いというのが、やは     り資料2の13ページ目に抜き書きしました本報告書61ページ目の表に出     ております。。      さらに3世代住居に住む世帯は、2人以上の子どもを持つ確率が高い。     あるいは持ち家願望のある世帯、多分、持ち家願望があるというのは、     現在の住居に不満がある人と考えることもできますが、そういった世帯     は2人以上の子どもを持つ確率が低いということになります。ですから、     これが先ほど言った広い住居という判断に結びついた分析であります。      女性は男性以上に1人目の育児負担に肉体的、時間的な負担感を感じ     ておりますけれども、身の回りの人の協力を受けることで、育児の負担     感を軽くすることができるという状況が明らかに出ております。これは     本報告書の60ページ目の表、資料2の11ページ目のところでございます。      さらにこのアンケートでは、初婚年齢というのは聞いておりませんの     で、初婚年齢に代わるそれぞれの人の年齢を推測する、あるいは結婚生     活の長さを推測する代理変数として、子どもの年齢、小学生か中学生か     ということを用いております。中学生の子どもがいる人ほど初婚年齢が     低かった、あるいはまだ小学生以前の子どもしか持っていない人は、比     較的初婚年齢が高いということで、その初婚年齢を推計してみますと、     若い人ほど子育てに肉体的、時間的な負担を強く感じてはいるものの、     初婚時の年齢が若い人ほど男女ともに子どもを2人以上持つ確率が高い     という分析が可能だと思われますので、そこから2人以上の子どもを持     つのもやはり体力だろうということを推定しております。      そういったことから、報告書の結論といたしましては、これは必ずし     も関経連の少子高齢対策委員会の結論というよりも、この分析作業に関     わりました20〜35歳までの世代の人々の考え方ということでございます     けれども。それから考えますと、少子化対策を立案するにあたって柱と     すべき点は、次の3点であるということで、3つのポイントを提示して     おります。      1つは、男女分業体制は世の中のニーズにはマッチしていないけれど     も、しかしながらやはり未婚者が家庭を築き、とりあえず1人は子ども     をつくる風土をつくることが大切ではないか。要するに、先ほどのフレ     ームワークの経路2のところが、まず重要だと考えております。      さらに、2人目以降につきましては、より一層男性の共同意識と育児、     家事能力の向上が要求されるのではないか。ここでは書いてございませ     んが、次世代の中からは、企業の従業員教育の一環として男性の子育て     教室もつくったらどうかという話もあったぐらいでございます。      さらに、育児は夫婦間、あるいは親子間の問題であるという意識が強     い。できるなら我が手で子どもを育てたいということを尊重することが、     少子化くい止め策の基本ではなかろうかということでございます。です     から、当事者の手を放れて子どもを育児できるような施設、対策という     ものは、優先順位は劣後するのではないかとも考えられるということで     ございます。      さらに、育児の負担、2人目以降の子どもを持つことを決意する条件     整備のことから見ますと、事実婚を含めまして家庭を築くことの必要性     は従来以上高まっている。ですから、結婚は極めて個人的な問題で無理     強いすることはできませんけれども、何らかの障害で家庭を築けない、     築くチャンスに恵まれないといった人に、それが実現するようにし向け     る措置も必要ではないかということを考えております。      その結果、具体的な対策の例示といたしましては、資料1の5ページ     目のところに書きましたようにマクロ対策としてどうかということにな     りますと、必ずしも金銭的インセンティブが最重要ではないにしても、     例えば3世代住宅整備のための低利融資だとか。あるいは世代を超えた     ふれ合い子どものころに幼児を抱いた経験というものが大きくなってか     らの子どもを産み、育てる決意を後押しすることができるということで、     いわば幼児の町とか。子ども中心の地域を設定してもいいのではないか     ということ。あるいは、親族による保育という無償労働へのインセンテ     ィブをどのように与えるかということをマクロ対策として考えるべきか     と。      あるいは企業に対して見ますと、社内育児制度、あるいは社内保育所     ということは1人目をつくるときには重要な対策であるにしても、2人     目以降はもう少し発想を変えて、ここに書き上げましたような対策を企     業としても考えたほうがいいのではないか。      さらに、次世代自身が努力すべき対策もあるということで、そこに書     きましたように、結婚相手に対する希望のミスマッチも当事者どうしで     調整してもらわなければならないだろうし、あるいは男性の育児に対す     る抵抗感の払拭。あるいは家事の合理化の促進といったものも必要だろ     うということでございますし、社会全体としても専業主婦でも2人目の     子育てに悩んでいる人も多いということですので、そういった精神的に     孤立している孤独な母親の支援ネットワークの開設も必要だろうし、あ     るいは小学校へ保育所を併設するといった対策で子ども時代から幼児と     の接触の奨励も必要なのではないだろうかということを個別例示的に提     示しておりますのが、この報告書の特徴ということでご理解いただけれ     ばと思います。      以上でこの報告書、私どもの次世代の意識調査の概略のご説明を終わ     らせていだだきます。 宮澤会長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまのお話について、     何かご意見、ご質問がございましたら、どうぞお願いいたします。 岡沢委員 非常に興味深い調査なんですが。一姫二太郎とか。介護ということを     考えるなら一人っ子なら女という言葉と、跡取りのことを考えるなら一     人っ子なら男という言葉が、おそらく対立しているコンセプトはいっぱ     いあると思いますが、最初の子どもが女の子の場合と男の場合、どちら     のほうが2人目を産もうという衝動は強いんですか。 佐々木氏 子どもを持った人に対して、その子どもの性別は聞いておりませんの     で、その分析はできません。ただ、いま申し上げましたように、結婚し     たときに親の介護のための結婚かどうかとかいう、結婚のメリットを何     に求めるかということに関しては分析はしておりますが、そのことが必     ずしも子育てに対して有力な違いを説明する要因ではないと思います。      ただ、先ほど言いましたように結婚に関して、結婚してよかったとい     うことを単に好きな人と一緒になったというのではなくて、実際の生活     にメリットがあった、具体的なメリットを得た、その中に介護だとか看     護する人手が共同でできるようになったということを含めております。      そういった人は、やはり子どもを持つ確率も高いというかたちになり     ます。ですから、その意味では親の介護のために家庭を形成したという     人が、子どもを持つ確率がそのために低くなっているということは認め     られないという、消極的な反論しかできないということになります。 河野委員 5ページ目の最後のところで、できることなら我が手で子ども育てた     いということをおっしゃっておりましたし、施設などよりも他に優先す     ることがあるのではないかというご意見がありましたが、これはデータ     でいえば、どういうところでこれがわかるんでしょうか。 佐々木氏 データでは、要するに1人目を持つ、あるいは1人だけしか持ってい     ない人というのは、子どもを育てるコストを解消することとして、地域     での近隣の人、知人同士での助け合い、というよりも勤務先での保育所     だとか、勤務先の育児休業制度というものを積極的に利用しております。     ただし2人目以降になりますと、企業だとか地域の保育所に依存する人     よりも、親の助力を求める、ないしは男性といいますか、配偶者に協力     を求めることができる、あるいは求めたいという人ほど2人目の子ども     を持つ確率が高いというところから、その判断をしております。 河野委員 でも、厳密には、それは我が手というか。我が手というと、非常に少     数の子どもに親がつきっきりでという意味ではないんですね。 佐々木氏 ないです。 河野委員 はい、わかりました。 佐々木氏 1人の子どもに育児努力を集中したいというところで、いまおっしゃ     ったような我が手で慈しんで1人だけに努力を集中するというのは、別     のところで分析はしております。この括弧書きにしておりますのは、要     するに夫婦間、あるいは親子間の問題だという意味。要するにプライベ     ートな問題だと考えているという意味で書いたところです。 山田専門委員 大変面白い調査だと思ったんですが、1点。意識調査から提言に     持っていく際の問題を1つお聞きしたいと思います。      つまり、こういう意識があるから子どもの数が増えないんだ、結婚し     ないんだといった場合に、さまざまな意識の中でどの意識を尊重し、ど     の意識を変えなければならないかという点について分けられていると思     うんです。例えば報告書の5ページの、2人目以降については、より一     層の男性の共同意識と能力の向上が要求され、逆にできるなら我が手で     子どもを育てたいことを尊重するとなっているのですが、それはつまり     男性に共同意識を要求するのだったら、なぜ子どもを自分の手でという     意識も変えなくてはいけないかというふうに、そうならない‥‥。例え     ば私は男性の意識を調査していますと、例えば手伝わされるぐらいだっ     たら2人目はいらないという意識も、けっこう見られるわけですね。つ     まり、どちらの意識を尊重するかというときの基準というのは、どちら     の意識、もしくはこの意識は変えてはいけない、この意識は変えるべき     だといったときの基準として設定されているものをお示しいただければ     と思います。 佐々木氏 先ほどのご質問と同じ、私のほうから見ると誤解、あるいは皆さんの     ほうから見ると書き足りない点ということになりますけれども、我が手     というのは何も産んだ女性の我が手というのではなくて、夫婦で産んだ     なら要するに男性、私なら私の子どもを自分で育てたいという意味の我     が手であって、これは女性の手という意味で書いておるつもりはござい     ません。要するに、その家庭を形成した2人の手というかたちでありま     す。ですから、いまのお話ですと、我が手というのは女性が我が手で、     男性の配偶者に手を出すなという意味で我が手といっているのではない     ということでございます。 山田専門委員 そうではなくて、家族、親族で育てたいという意識から、2人目     も3人目も保育所やそういうところにあずけて育てるように意識を変え     ようとはいかないわけですか。 佐々木氏 ですから、そこが最初の問題意識の設定であります。例えば、我々の     ほうから「こうすべきだ、ああすべきだ」ということで次世代、あるい     は子どもを産み、育てる人の意識を変えるように説得あるいは命令する     ということはできないだろうと思います。ここの分析は、どういうふう     に行動しているから、その行動パターンに合わせてまわりの環境を整え     れば、次世代が結婚したり子どもを産んだり、あるいは2人目の子ども     を産むという行動を選択するかどうかということであって、我々から見     て若い人、あるいはこの作業した人間から同世代の人に対して、「あな     た方の意識をこう変えなさい」というところまではいっていないわけで     す。ただ、分析結果から見て、こういう環境を設定すれば、こういう意     識を持っている次世代は、次の行動として婚姻状況を形成したり、子ど     もを産み、育てるところに次の一手として踏み込んでいくだろうと考え     ているということでございます。      それからもう一つ、多少そのところに価値観が入っているのではない     かということになりますけれども、それはこの19名の方、後ろに代表と     して1人来ておりますけれども、我々‥‥山田委員の年齢は存じ上げて     いませんが、我々のような年齢で若い人に「こうしろ」というのではな     くて、彼女、彼たちがそう考えて、お互いに考えたうえでディスカッシ     ョンの中でこういう意識を変えなければならないなということになって     おりますので。だから、当事者の意識だし、当事者の結論の結果だとい     うことでご理解いただければと思っています。 坂元委員 大変大雑把な質問をしたいんですが。お話の結論として、少子化をな     だらかになおしていくということは可能であると判断されたということ     ですね。5ページを見ますと、企業に期待する対策がいっぱいあります。     上に政府、公共自治体での問題があって、下に社会全体としてとるべき     態度が出ていますが、結婚、育児、出産という個人の問題は国が口を出     すべきものではない、社会に対するそれは希望の羅列で大体これまで言     われた所です。そうすると対策がとれると判断をされたのは、おおまか     にいって、いろいろなことが実行できるとお取りになったからでしょう     か。対策はもう出尽くしたと思われるんだけれども、それが実行できな     いのが現状ですね。そうすると、いまそれを実行できるところは企業し     かありません。企業では、次世代より上の方々が事の決定をされますね。     そうすると、その方々がこれなら実行できると判断されたからプラス思     考になられたんですか。      大雑把でけっこうですから、そのへんを聞かせて戴きたいですね。 佐々木氏 この報告書の利用方法として一番重要な点だと思うんですが、まず多     少誤解を恐れずに言いますと、いままでの対策というのは当事者の意識     を別にして、上から「こうあるべきだ」と。「こうすれば、おまえたち     子どもを産むだろう」という押しつけ的な対策だったのではないか。あ     るいは、少子化が大変で、それを改善しなければならないという危機意     識は国民全員が持っているから、それに対して乗ってくるだろうという     判断でされたのではないかと考えまして、果たしてそうだろうかという     ことからこの調査を始めました。この分析を通して当事者の立場になっ     てことを考えようということになったら良いのではと思っておりすます。      ですから、いままで考えられた対策というのは、果たして施策対象者     の行動パターンを十分に意識したものかどうかということに関して疑問     だから、我々はあえてこの分析をやったとお考えいただきたいと思いま     す。      それから、資料1の5ページ目に書きました対策というのは、これの     フィージビリティーについては検討はしておりません。ただ、次世代の     ほうから見ると、こういう対策があればいいなというのを羅列しただけ     でございます。ですから、この関経連の委員会といたしましては、こう     いう報告書がワーキンググループから上がってきたけれども、実際に企     業の対策を立てるのは経営者の方ですから、経営者の目から見て、この     中でフィージビリティーがあるのかないのかということは、これからご     議論いただきたい。その材料を出しましたよということで、この報告書     をご利用いただきたいと言っているわけでございます。      それからもう一つは、もう少し時間があれば詳しくご説明したいんで     すが、いままで実行された中でなぜ効果が上がらなかったのかというこ     とも当然おわかりいただけるだろうとは思っています。例えば金銭的に     インセンティブを与えて、第2子、第3子を産んだ方に何万とか何十万     の出産奨励金を出すとかいった対策は、実は無駄なのではないか。要す     るに金銭的インセンティブのみで、子どもを産ませるわけにはいきませ     んよということ。それよりも、もう少し彼らの価値観、行動パターンを     基準にしてみると、同じ金銭的インセンティブでも出産奨励金というよ     りも、3世代住宅のための低利融資などのほうが、実は効果があるので     はないかでしょうかとか。そういうところまでご利用いただければなと     は思っているわけであります。 坂元委員 ありがとうございました。 木村専門委員 大変興味深いご報告をありがとうございました。やはり私も5ペ     ージのところで3点ほど質問したいと思います。      いまおっしゃったように若い人が考えたんだからとおっしゃられれば、     それまでのことなんですが。まず第1点ですけれども、政府や地方公共     団体が実施するマクロ対策の中に、話を初めからしますと、これまでの     少子化に対する報告書でも、親とか親戚が近隣に住んでいるとか、同居     しているケースは子どもの数が多いということが出ておりまして、この     報告でもそういう傾向が見られます。この報告書では、3世代の同居と     いうことを重要視しておられますが、それはそれでわかるんですけれど     も、必ずしも3世代同居が可能な人たちばかりではないんです。田舎か     ら出てきて都会で暮らしている人とかもおりますし、親が遠くで暮らし     ている人もおります。そうしますと、同居とか近隣に住んでいることと     同じような機能を持つ、例えば地域にある保育ママとか、そういうもの     を充実させるという提言には、どうして結びつかなかったのでしょうか     ということが1つ疑問です。      2番目の点ですけれども、これも若い人が考えたからとおっしゃられ     ればそれまでなんですが。社宅というのは、むしろこれからの企業福利     の観点から見ますと縮小していく傾向にあるのではないかという印象を     持っておりますが、あえて社宅を充実させる、おまけに3世代の社宅と     いうことを提言されたのは、どういう理由なのかということです。      それから3番目ですけれども、比較的長い小学校卒業までの育児期間     の専業主婦奨励というのは、これはどういったことが根拠で、どういっ     たかたちでされようと考えておられるのでしょうか。      その3点を教えていただきたい。 佐々木氏 まず1つ目の問題というよりも、全体のご指摘に関しての判断でござ     いますが、それぞれの対策が結果的にどれぐらいの効果を上げるのだろ     うかということは、これはおっしゃるように、おじいさん、おばあさん     がいない人にとっては3世代住居は無理だということはわかります。だ     から、対象者の世の中に存在する比率は考えなければならないんですけ     れども、こういう分析は他の条件を一定とすればという条件で出ますの     で、他の条件を一定とすれば3世代同居を充実するほうが、これだけ高     い確率が引き上がりますよということで効果の大小を比較しております。     ですから、実際の政策が実現されるときに、この3世代同居のための低     利融資よりも、対象者の広さから見て、こちらのほうが効果が薄くても     より多くの人にマッチする対策だから、これを実現すべきだという判断     は、実際の政策実施の段階でご議論いただければと思います。      ですから我々は、一つ一つの対策が例えば特定の個人、この中ではい     わゆる平均的日本人を考えているわけですが、すべての属性で平均値を     持った人間に対して、この対策がとられれば確率がどれぐらい上がりま     すかという分析をやっておりますので、個別の政策の優先順位までかな     り積極的に例示したつもりはないということにもなります。      ただ、1つ目の問題で、ではそれよりも社会全体から保育ママ等のと     いうころをおっしゃいましたけれども、それは例えば一番最後の社会全     体としてとるべき長期対応の1つ目に書いてございます、いわゆる孤独     な母親の支援ネットワークというふうなことで、多分次世代の人は考え     ているのではないかと思います。要するに、なぜ大変かということにな     りますと、単に肉体的に大変だけではなくて、精神的に追い込まれた人     をいかに社会でカバーするかということも大切ですという価値判断があ     りまして、単に時間的、あるいは物理的に育児を肩代わりするというこ     とではなくて、もう少し広く、精神的なバックアップもしてもらいたい     ということでございますので、それは木村委員のおっしゃったことをさ     らに強調した対策が、この社会全体としてとるべき長期対応の1番目に     出されたのではないかと、年寄り世代の一員としては考えているところ     でございます。      それから、企業として社宅という福利厚生制度は別とすべきかどうか     ということは、これは先ほどの坂元委員のご質問に対して答えましたと     同じで、どちらをやるかというのは企業の福利厚生政策として従業員と     経営者の間で決めるべきことだろうと思います。ただし、それをやれば     他の、要するに2人目をいかに従業員に育てる環境をつくり上げるかと     いうことが、もし企業の経営の最優先課題であるとすると、それは他の     福利政策よりもこれを優先したほうがいいですよとというふうにこの報     告書は言っているんだとご理解いただきたいと思います。      最後の専業主婦はどうかというかたちになりますと、ここでは十分に     ご説明できなかったわけですが、子どもを産み、育てるときの問題とし     て、かなり重要なのは、地域活動に対する参加の可能性もかなり大きな     要因となっております。PTA活動から始まりまして、地域活動といっ       たものに参加できるかできないかということ自体が、子どもを持ってい     る、持っていない人の大きな違いになっておりますので。それは単に親     子の関係ということだけではなくて、子どもを通じた地域活動、あるい     は子どもをめぐる集団への貢献の可能性ということ自体も重要な要因に     なっている。それは子どもが2歳、3歳になって保育の手を放れたから     いいというのではなくて、地域活動への参加というのは、もう少しあと     まできますよという判断で。そうなりますと、少なくとも小学校程度の     ところまでは地域活動との関連があるという判断をしているということ     でございます。      そのあたりは、調査アンケートの最後のほうで、わざわざ設問を付け     たわけです。例えばどんな社会活動に参加していますかということを、     報告書の86ページ目のところにアンケート内容を掲載しておりますが、     その最後にそんな設問をやっております。その意味は、最初この調査を     するときにも、そこまで広げて分析すべきではないかと考えておりまし     たのが、そのまま出てきたという感じでございます。 宮澤会長 ありがとうございました。どうしても質問したいですか。 水野専門委員 一言だけ。申し訳ありません。      こういう調査をされたときに、子どもが産めている環境条件を聞かれ     るというかたちでアプローチされますと、例えば、専業主婦で介護労働     にも積極的で、そして3世代同居で若いうちから結婚している人のほう     がたくさん子どもを持つでしょう。それに比べるとフルタイムの仕事を     持っていて、その仕事を続けていきたいと思っていると、当然子どもは     持ちたくないということになってきます。そうすると単純にその条件だ     けを満たしていくということになりますと、それこそ専業主婦になる人     がたくさんいればいいという結論になってしまうおそれがあるわけです     が。そういう結論にならないように気をつけていらっしゃることはわか     るのですけれども、でもやはりその要素がポロポロと入ってきているか     なという気がします。たとえば3世代同居に肯定的であるとい分析です     とか。そのような現実の条件を聞いていったことによって、その条件を     さらに充実すると、それが一層進行するという設定でしておられること     で、それで正しい答えが出るのかなという危惧をもちます。1つは第1     子を持つ人たちが第2子を持ってくれるようにという設定、そこに一番     重点を置かれたということも1つの要因かなと思うのですが。第1子を     持つ人と全然未婚の女性との選択肢、考え方の間にはかなり大きなギャ     ップがあるでしょう。したがって、例えば第1子を持っている人たちが     第2子を持つようになるためには、3世代同居のほうがいいかもしれな     いけれども、3世代同居のシステムを進めていくと、結婚をしない女性     はますます結婚をしなくなってしまうかもしれないという問題があるか     なと思うのですね。      現在の客観的な条件を聞かれるだけではなくて、答える側に、どうす     れば子どもを産んでもらえるかというかたちで聞いていかれれば、結婚     していない人たちにも子どもを産んでもらうという要素をより取り入れ     やすくなるでしょう。それでも、もっとも限界はあります。つまり将来     の解決策を聞く側でも、答える側でも新しい発想がなかなかできないわ     けですね。現状を前提に答えますから。だから、先ほどの木村先生の質     問でもありましたけれども、地域の保育ママという可能性を考えること     ができずに、おばあちゃんが手伝ってくれれば何とかなるかもしれない     けれどもというふうに答えていくという問題があるとすると、こういう     意識調査から答えを導いていくことの限界みたいなものが、どうも感じ     られてしまったのですが。 佐々木氏 どのようなパターンであれ、一発の意識調査ですべてのことを解決す     ることはできないと思います。おっしゃるようなことは十分ございまし     て、これは現状の制度を前提にして、あとどういう制度を付け加えれば     子どもが増えていくかということだけを分析したわけであります。      ただし、そのときに多少誤解されているように思いますけれども、我     々は条件を聞いたつもりはまったくないわけです。条件を聞くというこ     と、あるいは希望を聞くということは意識的にすべて追おうとしており     ます。行動パターンを聞いたわけです。行動パターンをもとにして、そ     の条件整備は我々のほうで考えたということで、回答者にとってみます     と、条件だとか希望を聞かれたという意識がないように、これは調査分     析しております。だからこそ現状を前提にした対策にしかすぎないとい     う限界はあります。それは認めざるをえないと思います。      しかしながら、あまりにも「どうしたいですか」、「どういう条件な     ら産みますか」ということになりますと、もう言いたい放題になってし     まうんですね。そうではなくて、我々は次の一手で、例えばこの委員会     では次の15年間というふうに人口問題としては割と短く設定しておりま     す。要するに年少人口が入れ替わる間に、どこまで子どもを増やすこと     ができるかということでございますから、2025年あるいは2050年といっ     たはるか先の日本を現状からジャンプして考えているのではなくて、次     の15年間、来年生まれる子ども、再来年生まれる子どもをいかに増やし     ていくかということから言いますと、あまり大きな設定の変化は無理だ     と。ですから現状を前提にして、それにあと少しローリングプラン的に     何を変えていけば少しずつ子どもは増えていくかと。我々の言葉で言い     ますと、次の一手。未婚の人を婚姻状態にさせ、婚姻状態で子どもを持     たない人は1人目を産ませ、1人しか子どもがいない人は2人目の子ど     もを産むという、次の一手の行動パターンを分析したという調査でござ     いますから、最後のところのご質問に関しては、それはこの調査設定の     ときからは考えてなかったことだということでご理解いただきたいと思     います。 宮澤会長 大変面白いご調査で、質問もまたたくさん出してただきました。      各委員が「我が手で子どもを」という表現にだいぶ印象づけられたよ     うですが、もう一つは、「頼るべきはおじいちゃん、おばあちゃんだ」     という表現もありました。いづれにせよ行動パターンを分析する場合の     インセンティブのあり方が問題ですね。心理的な意識上のインセンティ     ブと経済的なインセンティブと両方あって、その間のウエイトがどのよ     うになっているかということについて、なかなか判断がしにくいという     ところが、皆さんの質問を呼んだ一因ではないかと思います。またワン     ラウンドしましてから、その点についてお話しいただければと思います。      落合専門委員も質問したそうな顔をしておられましたけれども、ご報     告いただきます中で触れていただきたいと思います。     それでは続きまして落合恵美子専門委員から、「少子社会・家族変動      ・制度改革」についてご説明をお願いいたします。ご著書の『21世紀家     族へ』が今年の厚生白書でも引用されておりますが、家族社会学的な視     点から論じていただけるものと思います。よろしくお願いいたします。 落合専門委員 私、最初に申しておりましたタイトルと、最後にレジュメのかた     ちで出しましたタイトルが違っておりまして。なぜかと言いますと、内     容は考えていたとおりなんですけれども、あまりに羅列的であったかな     というので、少しジャーナリスティックなタイトルを今度は付けてみま     した。「20世紀システムからの転換−家族単位社会から個人単位社会へ     −」というのがレジュメのほうのタイトルです。      まず最初に、人口問題審議会報告書を読んでというところから話を始     めたいと思います。私、この審議会では新入りですので、その前にはど     ういうことをなさっていたかというのを勉強させていただこうと思いま     して、審議会の報告書、それからさまざまな識者の方から伺ったお話で     できた本がございましたね。あれを熟読いたしました。それから、私は     この前2回ぐらい欠席したんですが、その間の議事録も全部勉強させて     いただきました。その中で気が付いたことを申したいと思います。      まず、昨年10月の審議会報告書というのを読みまして思ったことなん     ですけれども。まず非常にいいといいますか、もっともなんですけれど     も非常にこれは正論だなと思いましたことが、その報告書の全体の構成     なんですね。少子化の要因のみではなくて、少子化の影響とそれへの対     策というものも示してある。そういう報告書であったと思います。少子     化の要因を挙げて、それに対する対策を示し、少子化の影響を論じ、そ     れに対しては人口減少社会へのソフトランディングのための対策を挙げ     ると。こういう構成にしていらっしゃいました。      これは大変素晴らしいと思いましたのは、私は少子化への対応を考え     る有識者会議のほうのメンバーもさせていただいているんですけれども、     そちらのほうではこの第2点目のほうというのは、きちんと議論すべき     だと私は思うのですが、議論の中心ではありませんでした。      しかし先ほども、少子化はある程度緩和できても、まったく止めるこ     とはできないというようなご報告もありましたので、そうしますと少子     化の影響に対する対策というものをもっと前面に立てて論じるべきでは     ないかと私は考えております。      それから、報告書を読みまして気が付いた2つ目の点なんですけれど     も。ジェンダーについての視点−男性、女性という性別についての視点     というのは、大変強調されていると思いました。その意味で、男女共同     参画を論じる審議会の報告書かなと思うぐらいのところもあって、それ     は「ああ、こんな時代になったのかな」というふうに拝見したんですけ     れども。それでも私の感じ方からしますと、なお何かそのジェンダーの     視点というのが、ちょっとギクシャクしているような気がしたんです。      どういうことかと言いますと、まず少子化の原因を論じるときに、ど     うしても「女性が、女性が」という話になります。「女性の晩婚化が」     とか、「女性の意識が」というような話になるんですけれども、男性の     ほうの問題ももちろんあると思うんですね。未婚にしろ既婚にせよ、女     性から「子どもができたみたいなの」と言われてイヤな顔をしてしまっ     た男性というのは、どのぐらいいるんでしょうね。そういうときの男性     の反応というものが、女性が産むか産まないかというのをすごく決めて     いると思うんですね。「一緒に産もうよ」と男性はどれだけ言っている     んだろうか、態度で示しているんだろうか。そういうことを考えますと、     女性だけを中心に原因論を論じていくのは、ちょっとおかしいのではな     いかと思いました。      それから、男女共同参画の話のようだと申しましたけれども、私は価     値判断としてそれがいいとも一応思っているんですけれども、しかし      「こうすべきだから」というのではなくて、両性関係の変容というのが     社会科学的にはどう捉えられるのか。それがあって初めて政策だと思う     んですね。性別分業の廃止をというようなことを言うのが、いかに政治     的に正しいと思われるからといって、そういうことを言っていればいい     わけではないだろうと思うのです。      それから、女性のトータルな人生は見えないなという感じも受けまし     た。女性のトータルな人生が見えないということは、相互の政策間に矛     盾が生じてしまう可能性があるということだと思うんです。そういう意     味で、それが見えるような考え方をもう少ししていくべきではないかと     思いました。      3番目の点としまして、家族の変化ということが随所に触れられては     いるんですけれども、家族変動をいかに認識するかということが案外明     示されていないなと感じたんです。新入りが急に何を言い出すのかとお     思いになると思うんですけれども、私が普段関心を持っていることから     見ると、どんなことを思ったかというのを率直にお話しいたしました。      では、私はこの審議会にどういう貢献ができるかということなんです     けれども。家族の変動というのをいかに認識するかという、これが私の     専門です。それと関連しまして、性別の関係というものをどういうふう     に社会科学的に捉えていくかという、このあたりも専門としていること     です。ですから、そのあたりを中心にあとのお話をしたいと思います。      ここで1というところで、大上段に20世紀システムの人口・家族・社     会というのを書きました。この少子化等という事柄は、非常に歴史的に     長いスパンで考えないとわからないような大変動であろうというのが、     まず最初の認識です。しかもそれは、人口だけを見ていてわかるもので     はない。人口変動も起きているけれども、それと同時に家族変動も、そ     れから社会変動も起きている。それをセットで見据えておく必要がある     であろうと考えております。      非常にここに大雑把な図式を描きまして、いろいろご批判はあるかと     思うんですが、だいたいどんなふうにこの三者を私が関係づけて見てい     るかと申しますと、人口について人口転換というのがございます。多産     多死から少産少死へという変化なんですけれども。それがいわゆる人口     転換。それをこのごろ第1次人口転換などと申しまして、それに対応す     るものとして第2次人口転換というようなことを言う方たちもいらっし     ゃいます。第2次人口転換というのは、離婚率の上昇ですとか、出生率     のさらなる低下ですとか、同棲の増加ですとか、欧米を中心に起きてい     まして日本でも最近始まっているような、そういう変化のことです。      非常に大雑把に見まして、この2つの人口転換の間に挟まれた時代が     あった。それは家族から見ても社会から見ても、ある安定したシステム     をつくっていた時代だったと考えられるのではないでしょうか。この家     族の面から見たとき、それは近代家族の大衆化の時代ということができ、     社会の面から見たときは豊かな社会というふうに見ることができる。も     ちろん、豊かな社会の形成というようなことは、人口学的要因のみで説     明できるのではないので、経済的な条件というものにも支えられていま     す。その経済的条件というのは、別に発展段階論のようになっているわ     けではありませんので、偶発的な要素もいろいろあったと思うんです。      しかし、その偶然と、それからこの人口転換というようなものは近代     化に伴ってかなり必然的に起きるようですので、けっこう必然的な変化     と言ってみても、特に第1次人口転換のほうはいいかと思うんですけれ     ども、そういう必然的な変化と偶然的な変化と、それが合わさった結果     として、家族と社会がある程度の期間安定していた時代があった。それ     を20世紀システムと名前を付けてみたらどうかと思うんです。      これは時期的には欧米では戦間期以降、日本では戦後成立しまして、     それがしばらく続いて1970年代に崩壊すると、こういうイメージを持っ     ております。欧米について見た場合、だいたい20世紀を覆っているシス     テムですので、20世紀システムと呼んでみたらどうかと考えています。      では20世紀システムというのは、どういうシステムであったかという     ことなんですが、2ページ目に入りまして、まず人口について見ますと、     多産少死世代が社会の中心になったと言えるでしょう。日本の場合は特     に短期でしたので、これが言えると思うんです。多産少死世代、すなわ     ち第1次人口転換の移行期世代ですね。たくさん生まれて、しかし乳幼     児死亡率が下がっているために、ほとんど成人してしまったという世代。     人口増加世代です。この前の世代に比べて、人口規模が大きくなるこの     世代が社会の中心になった。これが20世紀システムのある程度の特徴を     つくっているのではないでしょうか。      最近の世界人口白書を見ますと、この段階に多くの発展途上国が向か     いつつあるということが強調されています。その白書は中で「人口ボー     ナス」という言葉を使っています。働き盛りの人口規模が大きくなる時     代、これは人口の面から見て、その国の経済発展にボーナスをもらって     いるようなものだというんですね。面白い言い方だと思うんですけれど     も、この人口ボーナスの時代というのが先進国にとっては20世紀だった     のではないでしょうか。特に日本では、戦後であったといえると思いま     す。      これは豊富な労働力の時代です。これを個人ベースで見ますと、人口     学的イベントの特定年齢への集中というのが見られた時代だといえると     思います。どういうことかといいますと、人口学的イベントというのは、     この右に書きました、死亡、婚姻、出産というようなものです。死亡が     特定年齢に集中した、これは実感なさっていることだと思います。いま     は老人以外はめったに死にません。それはもっと前の時代とは、ずいぶ     ん違うことです。それから婚姻ですけれども、婚姻年齢の集中というよ     うなことも、やはりこの時代に見られました。適齢期規範が強まったと     いうのですね。もっと古い時代を見ましても現在を見ましても、婚姻年     齢はもっとばらついているんですが、日本でいいますと戦後の20年ぐら     いの時期、婚姻年齢というのが非常に集中しました。それから出産年齢     も集中しました。これは産んだ子どもの数が減るということにもよりま     す。第1次人口転換以前ですと40歳ぐらいまでは産んでいる人というの     がかなり多かったわけですけれど、そうではなくて、20代のある時期に     さっさと2人、あるいは3人産んでしまうという時代になりました。      このように人口学的イベントというのが特定年齢に集中するというこ     とになりますと、それは個人にとってどういうことを意味するかという     と、人生の安定性、画一性、予測可能性が増大したということなのでは     ないでしょうか。人はめったに死ななくなったわけですから、一生を通     して自分の人生を考えることができる。だいたい何歳ぐらいでこういう     ことをするのだということを自分でも考えることができる。それは画一     的なすなわち他人と同じ人生なんですね。それで予測も可能である。こ     ういう時代。私たちが「人生というのはそういうものだ」と思うような     人生に戦後の20年間なってきた。20年間と私が申してますのは、1955年     から75年がその典型だと思っているからです。その戦後の時代に私たち     は「人生はこういうものだ」というのに慣れてしまって、なかなか結婚     しない人がいたり、子どもを持たない人がいたりすると、ちょっと顔を     しかめたりするようになりました。しかし、もっと前の時代をふりかえ     ると、例えば徳川時代でしたら、それはまたかえって今と似ているんで     すね。徳川時代ぐらいを見ますと、婚姻年齢もかなりバラバラですし、     子どもがいない人もけっこういるんです。あるいは明治、大正もそうで     す。そういうものに対して、人生が安定性、画一性、予測可能性という     性格を備えたのは、ある時期の、すなわち20世紀システムの特殊な現象     だったのではないでしょうか。      この時代、社会全体として見ますと、豊富な労働力に支えられた豊か     な社会が実現され、完全雇用と高度大衆消費社会というものが実現され     ました。この完全雇用という条件も、人生の安定性を支える重要な経済     条件でありました。というわけで、家族も非常に安定した。それがこの     時代の特徴です。夫婦ということに限定してみると、人口学的、経済的     条件の安定により、夫婦の絆の安定性が強まった、結婚というのが一生     ものになった時代といえると思います。私たちは結婚すると、特にもめ     なければ、だいたい一生この人と一緒にいられるだろうと思ったりしま     す。それはなぜかというと、人が死ななくなったからです。それをご説     明するのに、付録で図10−5というのを付けてありますので、ご覧くだ     さい。      これは4ページ目の参考資料の中で上げました私の著書、『21世紀家     族へ』からの引用なんですけれども。婚姻終了率というものを出してお     ります。結婚の壊れやすさなんですね。横軸が婚姻継続年数。今度は縦     軸を見ていただくと、累積婚姻終了率。何年目には、何パーセントの結     婚が終わっていたという、そういう見方をしてください。     まずイギリスを見ていただきたいんですがこれはマイケル・アンダーソ     ンという人の論文からとってあります。現在のところは「イギリス(離     死別、1980年婚姻)」というあたりを見ていただければいいと思うんで     すが、だいたい20年ぐらいたちますと30%ぐらいの結婚が終了している。     その中身といいますものは、実はほとんど離別なんですね。その2つ下、     「イギリス(離別、1980年婚姻)」というのを見てください。これを見     ていただくと、いま見ていただいた離死別で結婚が終わっているののほ     とんどは離別なんだということがおわかりになると思います。      ところがこれに対しまして、過去のイギリスの婚姻はどうだったかと     いいますと、その上、「イギリス(死別、1826年婚姻)ですとか、「イ     ギリス(死別、1896年婚姻)」のように、19世紀の前半や終わり近くに     結婚した人たちというのは、実はいまのイギリス人と同じぐらい結婚は     壊れやすいという経験をいたしておりました。ただ理由が違います。そ     れは死別なんです。離別は宗教的な理由によって、ほぼ許されていなか     ったのですが、しかし死亡率の高さによって、結婚というのはいまと同     じぐらい壊れやすいものであった。そうすると、19世紀のイギリス人に     とっては、結婚したらこの人と一生とか、何歳になったら家を持ってと     か、何歳が定年でなどという人生設計をすることはできなかったはずな     んですね。      ところがそれができるようになりましたのが20世紀の前半です。ちょ     っと下のほうの「イギリス(離死別、1921年婚姻)」ですとか、「イギ     リス(離死別、1946年婚姻)」というのを見てください。結婚の壊れや     すさというのが、だいたい半分ぐらいのスピードになります。20世紀の     前半から中ごろまでの婚姻というものは、したがって歴史の中で例外的     なほど壊れにくいものだったんですね。結婚したら一生その人と多分添     い遂げられるだろうと思えるようになったのは、この時期の特殊事情だ     ったというのをこれでご理解ください。      比較のために日本のデータを重ねてみましたのが、この実線です。東     北日本、福島県の旧二本松藩の地域なんですが、そこのデータから私が     計算しましたところ、離死別合わせて20年で60%も結婚は終わっていま     す。比較にならないぐらいの率です。日本は死亡率のほうはイギリス並     みか、あるいは少し高めなぐらいでして、かつ離婚が非常に多かったん     ですね。ですから、徳川時代の日本人にとっては、結婚というのはこん     なに終わりやすいものだった。特に4〜5年目ぐらいを見ていただいた     ら面白いと思うんですけれども、離別によって20%、死別も合わせると     30%ぐらいの結婚は終わっています。これが過去における結婚というも     のだったんですね。      ですから、レジュメの2ページ目に戻りますけれども、結婚とか家族     をつくるということが一生ものになったのは、本当にこの20世紀システ     ムの時代、日本では戦後のことだったのだといえるのではないでしょう     か。      この条件があって、初めて家族が社会の基礎単位となることができま     した。それは稼ぎ手である夫、主婦である妻、かわいい子ども2人から     なる家族、これは標準家族と言われます。まあ、かわいくなくても標準     家族なんですけれども、そういう標準家族にすべての社会成員が帰属し     ているという前提に立つシステム。これが成立可能であったのは、こう     いう条件に支えられていたのだということを申したいと思います。      ところが、この20世紀システムというものは1970年代以降、先進国で     崩壊してきていると言わざるをえません。まず人口について見ますと、     それはどういう意味かと申しますと、第1次人口転換の最終段階に入っ     たということですね。ヨーロッパの場合もっと早い時期から入っており     ますけれども、その最終段階というのはどういうことかというと、少産     少死世代が社会の中心になる。人口の多い多産少死世代は高齢期に入る。     とすると人口ボーナスは終焉し、かつ高齢者の比率が増大するのですか     ら、従属人口比率の高い高齢社会に入るということを意味しております。     これはその前の時代との大きな違いです。      続けて、いわゆる第2次人口転換というものも起きてまいりました。     これはその第2の少子化といえるわけですが、1970年代ぐらいから先進     国では緩やかな少子化というのが起きている。      それから婚姻の社会的意味の希薄化と書きましたが、これは特にヨー     ロッパで見られる同棲の増加ですとか、アメリカでより顕著に見られる     離婚率の増大ですとか、そういうようなことを意味しております。      こういうのをまとめると、婚姻というものが非常にプライベートな人     生の選択になっていて、社会的な意味というものを失いつつあるのでは     ないか。実際、スウェーデンとか北欧の国々、あるいは西ヨーロッパの     国々などですと、結婚していようがしていまいが、それはあまり社会生     活に影響を及ぼしません。というかたちに法律の方もついてきてしまっ     ています。ただ、遺産相続のときにはまだ関係があるそうで、私の知人     の50代の夫婦もこの間結婚しましたけれども、「そろそろ自分の遺産の     ことが気になりだしだんだ」と言っていました。      いまのことを個人の目から見ますと、人口学的イベント経験の多様化、     それはその経験をするしないということ、それから何歳でするかという     こと、それが多様化してきている。死亡のほうはあまり多様化していな     いんですけれども、婚姻については多様化しております。婚姻しない人     も出てきているし、婚姻年齢もばらついてきている。出産についてもそ     うです。      そうしますと、こういうライフイベントというものが、みんながする     ことではなくて、ライフスタイルの問題、選択の問題になってきている     ということだと思うんです。その善し悪しということを言えば、いろい     ろ意見はあるのかもしれませんけれども、少なくとも現象として、みん     ながそういうライフイベントをある決まったときにする社会から、そう     ではない社会になってきているんだということ。これは押さえておいた     ほうがいいと思います。      現在日本で起きています人口変動というのは、この2つの異質の人口     変動、つまり第1次人口転換の最終段階であるということと、それから     第2次人口転換、その2つが同時進行していると理解するのがいいと思     うんですね。そういうふうに申しますのは、私たち、現在起きている少     子化を問題にして、その対策等を話したりしておりますけれども、しか     し第1の人口転換のほうは、もう起きてしまったわけで、いまさらこれ     は逆戻りできないんですよね。そうすると、いずれにせよその帰結に対     しては対策を立てなければいけない。      第2の人口転換によって加速されているのはそうなんですけれども、     基本的には人口構造が高齢化するのは、もう決まっているのだから、む     しろその影響に対する対策、人口減少社会へのソフトランディングとい     うほうに話の焦点を移すべきではないかと私が思いますのは、こういう     点からです。      この20世紀システム崩壊というのは、社会全体にとってはどういう意     味を持っているかといいますと、労働力不足、それから完全雇用の崩壊。     人生の安定性を支える経済的な条件も消失したということですね。      では、家族にとってはどういう効果を持っているかといいますと、離     婚の増加、婚姻制度の弱まりにより、再び不安定化する。それから、家     族を持つ、持たないはライフスタイルの問題になる。人口のところでご     説明していますので、あまり繰り返しませんけれども。その結果として、     家族は社会の基礎単位となりえず、単位となるのは個人だけになってし     まう。それから労働力不足により女性の労働力化が進む。このようなこ     とが20世紀システム以後の家族について、これは善し悪しを超えて、ほ     ぼ客観的にこういうことが起きているし、避けられないと言えるのでは     ないでしょうか。      先ほど、家族を持つ持たないはライフスタイルの問題になったと申し     ましたけれども、そういうふうに言うと主体的に選び取っているように     聞こえて、それはちょっと語弊があると思います。もう少し違う言い方     をすると、ライフコースの中で個人がさまざまな家族を経験するように     なるという、そういうふうにも言い換えることができると思います。ラ     イフスタイルの選択というのは、人生の1時点で決めてしまうものでは     なくて、いろいろな年齢のときに順々、次々にいろいろな選択をしてい     くものですよね。その総計としてさまざまなライフコースを個人が選択     する。ライフコースのさまざまな時期によって、個人が持っている家族     というものもずいぶん違うというのが、いま私たちが迎えつつある時代     であろうと思います。      先ほど、前のご報告で、専業主婦であればどう、共働きであればどう     という調査結果を伺いましたが、それを伺いまして私がちょっと思いま     したことは、人生の一時点で切ってみれば、ある家は共働きで、ある家     は専業主婦がいる家なんでしょうけれども、それはずっと固定している     ものではない。家族がそういうグループに分かれてしまったのではない。      いまは専業主婦であっても、もう2〜3年後に統計を取ってみたら、     今後は働きはじめているかもしれない。あるいは、もっとたって見てみ     たら、今度は介護のためとか、あるいは疲れたということで、今度は共     働きをやめているかもしれない。そういうことで、ライフスタイルとい     うのは人生の中で変わるんだと。その中で、いろいろなタイプの家族を     人々は経験するということを考えておいたほうがいいなと思っておりま     す。      4番目としまして、21世紀システム確立へ向けた制度改革というのを     書いておきました。この20世紀システムが崩壊しているという、これは     ほぼ客観的に確かめられると思うんですけれども、ではいま私たちが議     論することはどういうことであるべきなのかというと、この次にどうい     うシステムを確立することができるか。そのためには、どのような制度     改革が必要なのかということを全体的に討議することだと思うんです。     個々の出生率を上げるためにはどうすればいいかとか、それだけでは多     分もう不十分だと思うんですね。人口も家族も社会も一体となって変化     しているんですから、その全体としてどういう社会、どういう時代がや     ってくるのかということをまずイメージする必要がある。そのシステム     を支えるためには、どういう改革が必要なのかというのを論議していく     必要があるでしょう。      この3ページの上のほうに1997年度は家族改革元年ということを書き     ましたけれども、元年かどうかはともかくといたしまして、昨年通りま     した法改正とか、あるいは議論されましたことというのは、ずいぶんと     家族とか、あるいは男と女の関係というものに関係のあるものが非常に     多うございました。そのこと自身は現在の社会がそういうことを1つの     軸にして変化しているんですから当然と思うんですけれども、私が危惧     しましたのは、そういうことがみんな家族に関連しているねとか、性別     のあり方に関連しているということが、あまり新聞などでも強く言われ     なかったことです。それから、個々の審議会でもこういう制度改革を出     したときに、それが他の審議会で審議しているものとどういうふうに関     係があるかということをどのぐらい議論してきたのかということが、ち     ょっと疑問なんですね。      そういうことで後ろに付録で付けていただきました、「制度改革相互     の一貫性検討を」という新聞記事を書いたわけなんです。これは昨年の     国会が終わった時点で書きました。それはまた後ででもお読みいただけ     れば幸いなんですが。      では、いま制度改革を行っていくうえで、大原則としてはどういうこ     とを考えればいいんでしょうか。そこで多分これは言えるだろうと思い     ますことを3点挙げておきました。      1つ目は家族単位から個人単位へ。これは年金とか医療保険等でずい     ぶん言われていることですね。それから2番目、ライフスタイル中立性。     特に家族の持ち方について、人生の中でどういう選択をしたかによって、     人々は差別されてはいけないのではないか。例えば、ある時点で離婚を     選択すると、そのあと夫と一緒にもらえるはずだった年金がもらえなく     なるとか、そういうことがいろいろ起きていますよね。そういうのは、     あるライフスタイルを選ぶことを禁じてしまっているというか、罰して     しまっている。そういう制度だと思うんですね。それは、いまのような     時代に難しくなっているのではないか。      それから3番目としまして、タックスペイヤーの尊重ということを挙     げました。これからの時代には、多くの人に働いてもらいたい。働いて     税金を払ってもらいたいわけですね。日本のようにタックスペイヤーが     バカにされている国はないと言う人がいますけれども、本当にタックス     なのか。タックスというのは、それが自分たちに返ってきてこそタック     スですよね。そうでないと封建地代みたいなことになって、ただ吸い上     げられていることになってしまうんですけれども、どうも封建地代感覚     が強いのではないでしょうか。それはやはり、そのタックスペイヤーを     尊重しているということをもっと見せないと直らないのではないかと思     うんです。      こういう大原則に立ちまして、いくつかの点を考えてみます。まず労     働力不足と家事労働力不足ということなんですが。家事労働力不足とあ     えて書きましたのは、企業の労働力が不足することについては、よく議     論されているんですけれども、そちらに女性の労働力も振り向けられ、     かつ働き盛りの人口が減っていくことによって、家事労働力が減ってい     くということ、これをもっと深刻に議論しなければいけないと思うから     なんです。よく介護による過労死というような話を聞きます。これは知     人の経験として聞いたりするわけですけれども、そういうときに「かわ     いそうね」という話は聞くんですが、それはむしろ準労災だというぐら     いに社会としては受け止めて、何らかの対策を講じるべきなのではない     でしょうか。社会として必要な労働のために死んでいるのですから、や     はり労災だと思うんですね。      こういうことを考えますと、家事労働力も、それから一般の労働力も     含めた意味でですけれども、労働力の効率的な配置を目指さなければい     けない。これからはゆとりのある社会をと言いますけれども、実はそう     とう効率のいい社会をつくらなければやっていけない。そのときに、効     率的な配置を妨げる制度というのを廃止していかなければいけないわけ     ですが、それはどんなものがあるかというと、まず性別分業だと思いま     す。      生まれたときの属性によって、例えばこの人は男なので家事はできな     いとか、この人は女なので仕事はできないということに決めてしまうと、     非常に労働力の使い方が硬直してしまいます。才能を生かさないという     こともありますし、人生のいろいろな時期で、例えばいまは家のことに     時間を使ったほうがいい時期とか、ありますよね。そういうときにも男     の人はしないとかということですと、本当に効率が悪いので、何とかし     なければいけない。      私が看護学校で教えているときに、学生が自分のケースから調べてき     た例ですけれども。奥さんの体がかなり悪くなったんだけれども、夫が     家事をしないという例が出てきましてね。家事をしないどころか、自分     の身の回りの世話も妻にさせたままなんだそうです。だから奥さんは、     はいずり回るようにして夫の靴下を整え、パンツを出してきてというよ     うなことをやっていて。また、奥さんのほうもそれを生きがいにしてい     たんでしょうけれども、結局、私がその看護学校で教えている半年の間     に、転んでしまって骨を折って、奥さんは本当に寝たきりになりました。      こういうことを考えると、性別分業にこだわっているというのは、非     常に悲惨なことだと思うんです。そのようなことが性別分業の非効率の     例です。      それから、年功賃金制というものが、やはり効率的でない。これはよ     く理解されていると思います。      それから正社員とパート社員の身分制的な差別。これを乗り越えるこ     とができれば、ずいぶん融通が利くのではないでしょうか。      それから次に、家事・介護・リフレッシュメントのための休暇という     のを書きましたけれども。先ほどの前のご報告の中で、我が手で子ども     を育てたいという話が出てきたんですが、私はそれはわかる気がいたし     まして。確かに人生のある時点で、仕事と子どもを自分の手で育てるこ     とと、どっちが大事かと言われたら、「いまは子ども」と思う時期があ     ると思うんですね。ただ、そこでその選択をしてしまったら、もう一生     そうなんだ、一生賃金体系はパート賃金になってしまって、職場復帰は     できないということになりますと、その時点、時点での本当に大切なも     のに自分の時間を使うことが、かえってできなくなります。そこで、育     児休暇とか介護休暇とか、あるいはもうちょっとリフレッシュメントの     ための休暇などというものもあっていいと思うんですけれども。人生の     ある時期に「私はこれが大切だ」と思うことのために時間を使いたい。     ただ、それがある年数内であれば職場復帰できるんだというような、そ     ういう制度をつくっておけば、それこそ労働力の効率的な配置というこ     とになると思うんです。      こういう硬い言い方をしますと何ですが、個人の目から見ますと労働     力の効率的配置というのは、柔軟なライフコース選択ということですね。     その柔軟なライフコース選択を可能にするような方向に制度を持ってい     きたいものだと思います。      それから、その下の、俗に言う100万円の壁等々の主婦優遇制度とい      うものも、それ以上働くということを罰しておりますし、それから主婦     の存在を前提とした学校、地域における活動というものも、やはりネッ     クになっていると思います。      このように、主婦の位置づけということが制度改革の1つの焦点にな     っている。これはいろいろなところで言われているんですけれども、こ     の間の年金問題の審議会のほうから出していることでも、あまりはっき     りは出てこなかったように思います。私が主婦について一番思いますこ     とは、いま専業主婦とか兼業主婦という以外に準専業主婦というような     ことが言われまして。この準専業主婦というのは、年金とか税制上で優     遇されている、専業主婦扱いになっている働いている主婦のことなんで     すけれども。      いまは本当に主婦というと何なのかわからない、こういう状況になっ     ています。しかし、無理矢理税制上、それから保険の関係などで線が引     かれている。そういうことで、女性の人生というのは、いま本当に100      %主婦の人も少ないし、100%働くという人まで、なだらかにいろいろ      な種類の人生をとっている人がいるんですけれども、その間につくられ     た対立が持ち込まれているのではないか。主婦と働く女性の対立という     のは、いままたよく言われておりますけれども、しかし私の体験などか     ら言いますと、実は働き方、何時間仕事をしているかみたいなことを見     ると、その変化の部分は本当になだらかなカーブなんですよね。そこで     つくられた対立を強調するのではなくて、多様な人生の選択があるのだ     ということを認める方向にできないものだろうかなと思っております。      というようなことが書いてあるんですけれども、そろそろ時間を過ぎ     ておりますので、このあたりにしたいと思います。 宮澤会長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまのお話に質問等、     よろしくお願いいたします。      一番最初に一つ。審議会の答申につきまして、いろいろコメントして     いただいて、なるほどと思いました。0の審議会報告を読んでの(3)     の家族変動を如何に認識するかが必ずしも明示されていないというご指     摘です。審議会でもいろいろ議論しても、なかなか議論がまとまらなか     ったところの反映かと思います。後半のご報告で、この家族変動の認識     というところは、ポイントはどこで押さえたらよろしいということなん     でしょうか。      つまり、これからは家族単位でなく個人単位になるというと、家族と     いうものがどういう位置づけに変わるのか。社会の基本単位でなくなる     と断定されておるのか。そのへん、どういう具合にこの家族変動の側面     と結びつけて、社会の基本単位としての家族が、まったく個人に変わる、     個人中心になるとみるのか。そのへん、どう考えたらよろしいのか、お     話しいただければと思いますが。 落合専門委員 みんなが標準家族に属するわけではなくなるというのは間違いな     いことですよね。では、家族が社会の基礎単位でなくなるのかというこ     となんですけれども、事実上は家族生活を営んでいる人は、相変わらず     多数派でいくだろうと思っております。ただ、制度としてそれをどう遇     していくのかということでは、どのようなタイプの家族を持つ人を優遇     することもできない。個人単位と私が申してますのは、個人が生活の単     位になっていくだろうという、そういうことではないんですね。社会的、     あるいは制度的に扱っていく場合に、もはやいかなる家族も単位にする     ことができない。何かをすればアンフェアになってしまう。だから個人     単位でやるしかないだろうと。つまり、どういう家族生活を送るかとい     うのは、やはりライフスタイルの問題になると、制度を考える側としま     しては、もう考えてしまったほうがいいと思うんです。どういうライフ     スタイルを選んだ人もアンフェアに扱われないようにということで考え     ていったらいいだろうと思っております。 宮澤会長 社会生活の基本単位ということではなくて、制度のほうから見た基本     単位としての役割は終わったと。こういう内容だと、こう理解していい     わけですね。      ありがとうございました。どうぞ。 岡崎委員 私、非常に女性から恨まれるような男尊女卑的な時代の。70歳を超え     ると、こういうことになるんですけれども。ちょっとお尋ねしたいんで     すけれども、いまおっしゃたように完全に個人単位になった場合に、人     口の観点から見て、いわゆる人口の置き換え水準まで出生率が回復する     と考えるべき根拠をお持ちでしょうか。私が心配するのは、個人単位に     したらいいけど、アダムスミスの経済学ではないけれども、個人で勝手     に動かした場合に、うまい秩序ができるという人口学的な保障が今度は     レベルとしては人口の置き換え水準にあたる出生率になるわけなんです     かね。      だから、家族単位で、いま無理をして、それで出生率がひどく下がっ     ているわけで。そこのところをお突きになるのは、よくわかったんです。      しかし個人単位に解放してしまったときに、果たして人口の置き換え     水準を維持するような出生率が回復すると考えていいのかどうか。人間     の知恵が進みすぎて、個人単位になればなるほど勝手なことを始めて、     結果として再生産できない。崩壊してしまうような経路に陥るのではな     いかなという危惧を私は持つので。人口学者というのは、もともとマク     ロでものを考えますから、おっしゃるようにミクロの観点を押し進めた     場合はどうかなということを私は心配に思うんですけれども。 落合専門委員 人口置き換え水準ということですと、それを達成できている国は     先進国ではいまもうないわけですので、それを望むのはやはり無理だろ     うと思うんですね。だから、せいぜいよくて1.7とか1.8までいったらす     ごいなというような、そういうことしか望めないとは思うんですけれど     も。      そのぐらいに目標を低く設定しました場合には、このレジュメの最後     で、パラダイム転換の遅延が出生率低下の原因と書きまして、そこにメ     モしておきましたけれども。現在の先進国を見ますと、女性就業率と出     生率というのが正比例の関係になっている。これが1つのヒントであろ     うと思います。社会の転換というものが、ある程度うまくいった社会で     は、出生率もそこそこまで戻すのではないかと思っているんですが。 岡崎委員 それはよく了解しているわけですが、それでも2.05にはいかないんで     すね。結局。そして、財政が苦しくなってくると、スウェーデンも下が     ってきた。ということは、どうも我々が考えている先進国型の社会とい     うのは、生物的には崩壊する方向にいっているとさえも私には思われる     ので、つまらないご質問をしたわけです。 山田専門委員 あまり細かいことにこだわりますと、学会での論争になってしま     いますので、大きいところ、方向性を質問させていただきます。      いわゆる専業主婦型の家族というのが、基盤が不安定化して、かつ非     合理的になっているというところは認識は共有するんですけれども、そ     れがすぐ、だから個人が自立しなければいけないというふうにいくかど     うかというのが疑問でして。特にいまの日本だと、ますますもっと安定     したものにすがっていこうという傾向が強まっているのではないかとい     う気がします。つまり、規制緩和とか自由化というのが進めば進むほど、     もっともっと安定したものを求めるという傾向が強まってきまして。例     えば先ほど関西経済連合会さんの調査においても、ますます親に頼る傾     向が強まっているような気がします。つまり夫婦は不安定化する代わり     に、自立をするのではなくて親元に留まったり親の援助をあてにしたり     という。親子間ですがろう‥‥すがろうというか、傾向があるように思     います。      例えば、早稲田大学の正岡寛司先生という人は、不安定化したら母子     単位の家族というものを単位にして構築するのがよいのではないかなん     ていう構想もあるんですけれども。その方向性、個人にいくかどうかと     いうところを含めて、もし何かお考えがあれば、お願いいたします。 落合専門委員 それはやはり不安定な時代になって、みんながその中でも安定を     求めるというのは、当然だろうと思うんですね。会社が倒産しやすくな     っていれば、少しでも安定した会社にいたいと思うわけですし、親がい     れば親にもすがりたいとなるのは当たり前だと思うんです。ただ、その     場合に、すがるべき会社がこれからもあり続けるか、親があり続けるか     ということが問題でして。安定したものをいくら求めても、そうそうは     得られなくなるぞということをはっきり言っておいて、いざとなったと     きにも何とか1人でやっていけるようにしておきたいものですねという     ようなことを社会意識として広めていくほうがいいのではないかなと思     うんです。      4ページ目に社会的ネットワークの再編と書いたんですけれども。衰     退する親族ネットワークを地域ネットワークと公的ネットワークで代替     と、ここで書きました。これは何のことかと申しますと、親族ネットワ     ークの強さというものを60年代と80年代で比較しましたところ、やはり     親族ネットワークは80年代は弱くなっているんです。60年代の親族ネッ     トワークは親と兄弟、この両方に頼れましたけれども、80年代になりま     すと兄弟の数が減っているものですから、兄弟はほとんど使いものにな     りませんで、親だけになっています。そういう中で3世代同居したら助     かるのではないかという考えが生まれてくるのは自然でして、本当に親     しか頼るものがないからそう思うんですよね。しかし、昔と比べると兄     弟はもう助けてくれないわけですから、すでに親族ネットワークは弱く     なっている。      というふうに思いますと、個人が自立して1人で生きていけるように     なるとは私は思いませんけれども、個人が柔軟にさまざまなネットワー     クをつくっていく。それを応援するようなシステムになったらいいので     はないかと思うんです。ですから親族だけではなくて、親族ネットワー     クが弱いときに、では人はどうしているかといいますと、地域ネットワ     ークをつくっているんですね。親戚が遠くにいる育児期のお母さんたち     というのは、近所付き合いをよくします。それは調査結果で出ておりま     すので、そういうネットワークの代替のための便宜みたいなものを社会     的には図っていったらいいのではないかと。そういうことです。自立し     ていくというよりも、個人が核になって柔軟なネットワークをつくって     いくという、そういうイメージです。 木村専門委員 はからずも私が発言しようとしていたことと重なってきたんです     が。佐々木さんが先ほど、次世代を中心に調査なさいましたけれど、私     は私たちの孫を持つ世代の調査もしたら何か面白い結果が出てくるので     はないかという気がするんです。      私は仕事を持ちながら子育てをしてこられたのは、やはり母親と同居     していたからなんです。そのころの母親というのは、孫の世話をすると     いうことに興味も力も注ぐ傾向にありましたけれども、いま私たちの友     達を見ていると、カルチャーセンターに行ったり、友達付き合いとか、     楽しいことがたくさんありまして、孫の世話なんかできない、やってら     れないという。いろいろな意味で孫には手を出さないという人がたくさ     ん多いんですね。そういう人たちを刺激することによって、もう少し少     子化改善のために孫育てのお手伝いを方向づけるというような、そんな     調査をどこかでできないかなという希望です。 宮澤会長 関経連では引き続き何か調査のご計画はございますか。 佐々木氏 いまおっしゃいましたように、確かに。我々は3つの世代を考えてい     まして、第1は経営者の世代です。かなりの人が60歳以上で孫もつくっ     てしまった世代。その方のアンケートは実はやったわけです。そして次     世代、これから子どもを産み、育てる人の調査をやりまして。おっしゃ     るように真ん中のサンドイッチ世代ですね。ちょうど我々のように、こ     れか孫を持ったときに、その孫の世話をする気がありますか、どうかと     いうことは重要な調査対象だとは思っております。ただ、それをこの1     年間でやるというスケジュールはありません。ただ、この報告書を見て、     それは重要だとお考えいただいただけで、我々のこの調査の1つの役割     はあったんだろうと思います。      それと、もう一つは、ではこれから40代、50代の人が孫を育てますか     どうかということに対しては、確かにおっしゃるように、他の楽しみと     の代替関係がございますので。そこは対策の中にも書きましたように、     孫を育てる、それに何ら金銭的な対処もない。ここでは無償労働といっ     ていますけれども。そういうことをやることに対して、他のカルチャー     センターだとか、あるいは友達とゴルフに行く代わりに孫の世話をする     ということに対して、ではどんなインセンティブを与えられるのか。そ     れは考えましょうということは問題意識としてあって書きましたが、で     はそれをどうやればいいかということに関しては、まだこれからの当事     者の議論ということになるかと思います。      ついでに申し上げますと、地域ネットワークか親子間かということに     なりますと、どちらがいいか、どちらの可能性があるかどうかと同時に、     効果の大きさも測らなければならないと思っています。我々の分析では、     例えば共稼ぎをやっていると、その共稼ぎという状態のもとで30%子ど     もを持つ確率は下がります。しかしながら、共稼ぎでも男性がある程度     意識として協同的になってきますと、確率が16%上がると。おじいさん、     おばあさんの世話、あるいは身の回りの人の協力を得られると26%上が     るということですから、専業主婦ではなくて共稼ぎが不可避だとしても、     その30%低下分は、他の状況で代替できるのではないかとか、ではどち     らを選ぶのか。専業主婦型を選ぶのか、共稼ぎ型でおじいさん、おばあ     さんの世話、あるいは男性の協力を選ぶのか。そこがこれからの議論の     中で詰めていきたい点。ただし、それをやったときに効果としてどれぐ     らい出そうかという数字は出ておりますので、それは材料としては出し     ているのではないかと考えております。 落合専門委員 いまのお話なんですけれども、地域ネットワークか親の援助かと     いうのは、現実にやっていることは二者択一ではないんだと思うんです     ね。そこがポイントなのではないかと思います。私の調査では、得たい     援助の質によりまして、例えばお昼ご飯を食べさせてもらいたいという     のと2時間みていてもらいたいというのは違うわけですね。それによっ     て、これは親にやってもらいたいか、これは近所の人にやってもらいた     いかというのが分かれてきます。ですから、これを生かすのがいいのだ     という二者択一ではなくて、柔軟にそれが組み合わされるようにしてい     くことがいいのではないでしょうか。      ですから、親の助力はあったほうがいいといたしましても、保育所に     も入れる自由があればいいと。専業主婦であっても、例えば保育所に何     時間かでも入れることができたら、親の負担も軽減されますし、おじい     ちゃん、おばあちゃんの負担も軽減される。そういうことで、それを柔     軟に組み合わせていくということが、これから望まれることなのではな     いかと思います。 宮澤会長 ありがとうございました。まだご質問はあろうかと思いますが、時間     を超過いたしました。基本的な問題を出していただき、ご議論いただき     まして、どうもありがとうございました。      次回は11月26日の木曜日でございますが、午前10時30分から開催いた     しまして、オランダとデンマークの研究者の方々から少子化対策につい     てお話をいただくこととしております。よろしくお願いいたします。      それでは、本日の総会をこれで閉会とさせていただきます。どうも長     時間ありがとうございました。 問い合わせ先     厚生省大臣官房政策課 担当 山内(内2250)、齋藤(内2931) 電話 (代)03−3503−1711 (直)03−3595−2159