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(1)感染症の発生・拡大の状況の変化
(2)患者・感染者に対する医療の提供と国民の理解・協力を得た総合的 取組み
(3)現行伝染病予防法等の問題点
(1)個々の国民に対する感染症の予防・治療に重点をおいた対策
(2)患者・感染者の人権の尊重
(3)感染症類型の再整理
(4)感染症の発生・拡大を阻止するための危機管理の観点に立った迅速・的確な対応
(5)上記の視点を実現するための法体系の整備
(1)法律の目的
(2)関係者の責務
(1)国と地方の役割分担
1.はじめに
本委員会は、平成8年7月に開催された公衆衛生審議会伝染病予防部会において、感染症対策の見直しについて検討することを目的として設置が定められた。平成8年10月に第1回委員会を開催して以降、12回の審議を行い平成9年6月30日に中間報告をとりまとめ、伝染病予防部会に報告した。
2.感染症対策の見直しの必要性
(1)感染症の発生・拡大の状況の変化
(2)患者・感染者に対する医療の提供と国民の理解・協力を得た総合的取組み
(3)現行伝染病予防法等の問題点
3.基本的方向・視点
上記の「2.感染症対策の見直しの必要性」を踏まえ、新しい時代の感染症対策を構築していく際の基本的方向・視点は次の5点に整理できる。
(1)個々の国民に対する感染症の予防・治療に重点をおいた対策
(2)患者・感染者の人権の尊重
(3)感染症類型の再整理
(4)感染症の発生・拡大を阻止するための危機管理の観点に立った迅速・的確な対応
(5)上記の視点を実現するための法体系の整備
4.新しい時代の感染症対策
(1)法律の目的
(2)関係者の責務
(3)総合的対策の推進
(4)感染症対策の具体的考え方
(5)感染症発生動向調査の体制強化
(6)予防接種対策の推進
(7)良質かつ適切な医療の提供・感染拡大の防止
(8)動物由来感染症対策
5.新しい時代の感染症対策を推進していくための体制整備
感染症予防対策の機能的、効果的な実施を図ることができるよう、国、都道府県及び市町村においては、医師会等の医療関係団体や医療機関の関係者との協力のあり方を整理しながら、各々の役割を見直すことが必要である。また、各感染症情報の報告・相談、対策の指導・支援といった各般の連携を深めることが必要である。
(1)国と地方の役割分担
(2)検疫機能の再構築と国内防疫との連携
(3)感染症対策における国際協力
その後も審議を重ね、委員会としての審議を18回、伝染病予防部会との合同審議を1回行ってきた。
また、委員会における審議と並行して、医学、法律の各作業班(ワーキンググループ)における検討を行い、さらに、平成9年9月からは人畜(獣)共通感染症に関する作業班も設け、委員会に対して報告を行った。
本委員会は、第1回の審議の中で、全面的に公開して審議を行うことを決め、その後審議の動向を国民に見守られながら検討を進めてきた。こうした審議に加え、委員会においては、国内の感染症治療や検疫の現場を視察するとともに、米国、欧州、世界保健機関(World Health Organization、WHO)等を訪問して感染症対策の調査を行った。また、多くの参考人発言、意見陳述、意見書等の提出を得ながら審議を進め、広く国民の意見の把握に努めてきたところである。
ここに、こうした経過を経てまとめられた報告書を公衆衛生審議会伝染病予防部会に対して提出する。
新しい時代の感染症対策においては、まず感染症予防による国民の健康保持、患者・感染者の人権の尊重等の諸要請に応えていくことが重要である。また、原因不明の感染症の発生といった国民の健康危機に際しては、国、地方公共団体等各関係機関の連携をとった総合的な取組み及び関連情報の提供・公開を行いつつ、一般の国民、医療関係者、報道機関等の理解と協力を得ながら適時・適切な対応を図ることができる制度を確立する必要がある。
具体的には、
といった点に問題を整理できる。
(2)法定伝染病について、法文上は発動する措置が一律で硬直的になっている、
(3)患者等に対する行動制限に際しての人権尊重の観点からの体系的な手続保障が設けられていない、
(4)原因不明の感染症の発生や感染症の集団発生といった国民の健康危機に適切に対応できる規定が設けられていない、
(5)患者に対する良質かつ適切な医療の提供の視点が欠けている、
(6)サル等の動物由来感染症に係る対策が設けられていない、
(7)検疫体制について、国内制度との連携、整合性が欠如している、
(8)個別の感染症ごとの立法が患者・感染者に対する差別・偏見につながったとの患者・感染者の意見がある、
各々の視点について、以下に考え方を詳述する。
(2)患者・感染者の人権の尊重
(3)感染症類型の再整理
(4)感染症の発生・拡大を阻止するための危機管理の観点に立った迅速・的確な対応
(5)上記の方向・視点を実現するための法体系の整備
しかし、今日にあってはワクチンや抗生物質の開発に代表される医学・医療の進歩、公衆衛生水準の向上等に伴い、多くの感染症の予防・治療が可能になってきている。このため、個々の国民の感染症予防及び良質かつ適切な医療の提供を通じた早期治療の積み重ねによる社会全体の感染症予防の推進に重点を置くことが必要である。その際、感染症情報の収集・分析とその結果の国民への提供・公開を進めていくことが重要である。
感染症対策の見直しに当たっては、最新の医学的知見に基づいて、各感染症の感染力、感染した場合の重篤性、予防方法や治療方法の有効性等の再評価に基づく感染症類型の再整理が必要である。その結果に基づいて、患者・感染者の早期社会復帰を支援するための良質かつ適切な医療の提供や感染発生・拡大防止のための必要最小限で均衡のとれた行動制限を行っていくことが重要である。
また、伝染病予防法以外の感染症対策関連法規については、上記の各視点を踏まえた改正、あるいは新しい法体系への統合が考えられる。各法の目的と対象とする感染症の性質の差異、近年の改正の状況、関係者の意見、国民意識の動向等について整理した上での対応が望まれる。
以上のことから、本委員会としては、伝染病予防法の改正を中心にすえた法体系の再構築を行うことを提言する。
こうした考え方をとりながら実効ある感染拡大防止を図るためには、国・地方公共団体においては、感染症が集団発生してから防疫措置を講ずるといった事後対応型の行政から、感染症情報の収集・分析・提供・公開の体制を整えるとともに、仮に集団発生した場合における関係機関の役割、対応等についての事態を想定しながら準備を行うといった事前対応型の行政に転換していく必要がある。また、隔離措置等を原則としない制度の実効を担保するためには、国・地方公共団体から提供される情報・要請に対して、広く国民、患者・感染者、医療機関等の関係者の理解と協力が必要となる。
もちろん、感染症情報の提供・公開といった場合にも、人権に配慮する観点から患者・感染者の個人情報は十分に保護される必要がある。また、患者・感染者が社会から差別されないよう、行政において無用に国民の感染症への不安を煽らないこと、国民においても、行政、報道機関から提供される的確な情報・要請に応えていくことが求められる。
こうした趣旨を踏まえて、具体的な規定を盛り込んでいくことが必要である。
また、患者・感染者に対する良質かつ適切な医療は、医師等の医療関係者と患者・感染者との間の全幅の信頼関係の中で可能となるものであり、特に患者・感染者の人権を損うことのないように努める必要がある。
なお、医師会等の医療関係団体においては、会員等に対して感染症予防に関する的確な情報提供及び研修を行うことを通じて、自ら感染症対策の推進に努めており、こうした機能の一層の発揮が望まれる。
患者・感染者については、早期に回復し社会復帰できるよう適切な医療を受けられることが必要であるが、併せて感染症が社会に拡大しないように努める責務がある。医師との信頼関係の中で、医師からの十分な説明に対する同意を基本としながら、医師の指示を遵守する必要がある。
感染症の発生、拡大防止を可能にするためには、国、都道府県及び市町村、医師会等の医療関係団体、医療機関等の関係者が互いに密接な連携を図って総合的な対策を講じ、国民が安心できる感染症対策を確立することが必要である。例えば集団発生といった事態が生じた場合に、関係部局が緊密に連絡を図り、限られた行政資源及び社会資源を有効に活用しながら、実効ある対応を図ることが必要である。
集団発生や原因不明の感染症の発生、犯罪集団による病原体のばらまきといった事態を全て想定した上で、所要の行政権限を広範に盛り込んだ法制度は、万が一の事態のために恒常的に強力な行政措置と権利制限を国民に受忍させるものとなりかねず、適当でない。本委員会は、新しい時代の感染症対策においては、むしろ、国・地方公共団体が関係機関の協力を得ながら、感染症の集団発生や原因不明の感染症の出現といった事態を事前に想定し、こうした事態にどのように対応するかについて方針をまとめ、公表することが適当と考える。
こうした考え方に沿って、国における基本指針、都道府県における予防計画の策定といった仕組みの創設を提言する。
なお、平成6年に改正された予防接種法の附則第2条において、「政府は、この法律の施行後5年を目途として、疾病の流行の状況、予防接種の接種率の状況、予防接種による健康被害の発生の状況その他改正後の予防接種法及び結核予防法の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、新予防接種法等の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」と規定されている。したがって、厚生省においては、見直しの必要性や必要がある場合の内容について、平成11年を目途として検討を進められることになるが、予防接種の重要性に鑑み、ワクチンや予防接種に関する専門家、医療関係者、法律関係者、地方公共団体の代表等から構成される委員会を新たに設置して、集中した審議がなされることを期待したい。
以上の第一種感染症指定病棟(床)、第二種感染症指定病棟(床)及び第三種感染症指定病棟(床)については、医師等の医療従事者や他の入院患者への感染拡大を防止できる環境の中で、入院患者に対する良質かつ適切な医療等を提供できる体制を整備することが求められており、各々の感染症指定病棟(床)に応じた必要病床数、設備・構造、必要な職員、運用等について具体的な検討を進める必要がある。
以上の感染症類型と医療体制の関係が基本であるが、感染症の患者が予想を超えて多数発生した場合をはじめとした緊急時の対応について、国の定める基本指針、都道府県の定める予防計画等において、予め定めておくべきである。
しかし、感染症から国民の健康を守るためには、限定的にせよ、国民の行動制限が必要となる事態も考えられる。また、新しい法制度もそうした事態に的確に対応できるものとして整備しておく必要がある。
現行の伝染病予防法には、患者・感染者に対する入院(収容)といった行動制限をはじめ、国民が集まることの制限・禁止といった措置に至るまで、広範な規定が設けられている。この背景には、コレラによる年間患者数・死亡者数が10万人を超えることのあった時代において、行政の責任において、法律の強制で担保しながら講ずる必要が想定される措置を広範に規定したものと思われる。
今日においても、感染症予防が実効を発揮しなければならないとの要請には変わりがない。しかし、多種多様な感染症事例の全てを想定し、具体的に発動・執行し難いような強力な措置を網羅的に規定することは、法体系としては整っていても、機能的でない。本委員会では、人権尊重の要請にも応える意味から、必要最小限で均衡のとれた措置を提言するとともに、こうした措置に当たっても、明確な行政手続を規定することが必要であるとの判断に至った。但し、医療機関、保健所等による感染症拡大防止のための迅速な対応を阻害しないようにする必要がある。
就業制限の取扱いについて、現行伝染病予防法においては、就業制限の認定、勧告・命令等についての法的な手続きはなく、病原体診断がなされた場合に自動的に効力が発生する仕組みとなっている。新しい法体系においては、就業制限という行動制限を求める重要性、人権への配慮の観点から、病原体診断において対象感染症であると医師が診断した場合に医師から保健所長への届出を求め、保健所長が就業制限事由に該当することについて認定するといった取扱いの検討が必要である。この場合においても就業制限の実際のあり方は、当該患者の自覚に基づく自発的な休暇、就業制限の対象職種の業務以外への一時的従事といった対応が基本となる。なお、就業制限の対象職種については、現行伝染病予防法に規定された飲食物の調理従事者等を参考に、必要最小限で均衡のとれた行動制限の原則に基づいて、さらに検討を続けるべきである。
また、入院勧告又は命令に基づく感染症指定病棟(床)への入院が求められる場合においては、患者が精神的に不安定な状況に追い込まれないよう、例えば電話等を用いた通信、面会の自由の保障について配慮すること等を通じて、可能な限り個人としての生活を営み、通常の社会生活にも参加できるようにしていく必要がある。
こうした整理は、2つの要請、即ち、(1)新しい法制度が的確に感染症の拡大を阻止できるものでなければならないとの要請と、(2)人権尊重の観点から国民の権利制限を必要最小限で均衡のとれたものとすべきであるとの要請とを両立させる形で行う必要がある。
第一の、的確に感染症の拡大を阻止する法制度とすべきとの要請のみを考えると、一見、現行伝染病予防法上の措置は基本的に存続させるべきとの結論が導き出されそうである。しかし、今日における我が国の公衆衛生水準は、現行法制定当時と比べれば、格段に向上しており、また、国民への呼びかけを通じた国民の理解・協力と関連法規との連携によって、規制と同じ効果を命令等の措置を用いないでも実現することが可能な面もあると考えられる。こうしたことから、新しい時代の感染症対策において、感染症予防のための法制度に規定する必要性に乏しい規定も多いと考えられる。
第二の、国民の権利制限を必要最小限で均衡のとれたものとすべきとの要請からは、現行伝染病予防法に規定されている措置の一部については、人権への配慮に乏しいものがある。こうした措置については今日では実際の発動はないため、現実に問題は生じていないが、新しい法制度に向けて、廃止等の形で整理することが必要である。
こうした観点を踏まえた上で、(1)感染症の原因究明のために必要な措置(例:健康診断、立入検査、死体検案)、(2)病原体に汚染されているおそれがある物品等に対する所要の措置(例:物件、食品に対する措置)、(3)強力な措置を用いないと感染力が強く症状が重篤となる感染症の発生・拡大を阻止できないような状況における一定の措置(例:水の使用停止、建物に対する措置)、について、適切な発動が可能となるように整理することが必要である。
なお、本委員会においては、感染拡大防止措置についての考え方を、今日の公衆衛生水準や昨今の感染症発生状況等を勘案しながらまとめたものである。関係機関が協力するとともに、以下に整理する措置を限定的に講ずることによって感染症の発生・拡大を阻止することができると考える。しかし、状況の変化があって、例えば、強力な措置が不可欠な感染症の拡大が現実化した場合には、その時点で追加的な措置を必要な限度において導入・実施することが望まれる。
また、新しい時代の感染症対策にあって人権制限を最小限のものとしつつ、感染症の発生・拡大を阻止するためには、国・地方公共団体等からの適時・的確な情報の提供・公開に対する国民の理解と協力が前提条件と考えられる。こうした考え方について、公衆衛生審議会伝染病予防部会をはじめとして広く国民・各界からの意見を受けて、法案が作成されることを期待する。
以下に、現行伝染病予防法の規定する措置について、存続、修正、廃止といった整理を行った。こうした考え方の整理をもとに、法案の検討を進められたい。
しかし、万一原因不明の感染症が発生した場合に備え、原因が特定できるまでの間、良質かつ適切な医療を提供するとともに感染の拡大防止を図る観点から感染症指定病棟(床)に入院することが必要とされる感染症(3号感染症及び4号感染症)の取扱いに準じた対応ができる制度体系が必要である。その際、疫学調査等の結果に基づいて迅速な行政措置を講じることができるよう、適切な判断基準及び判断手続を予め明確にしておく必要がある。
なお、原因不明の疾患で感染症が疑われる患者に遭遇した臨床医は、感染症及び関係分野の専門医と迅速、緊密に協議を行うことが重要であり、その後、「原因不明の感染症」と判断される場合には保健所長に届出ることになる。さらに、報告を受けた厚生省は速やかに都道府県、地方衛生研究所、保健所等と協力しながら、感染症の専門家(臨床医、基礎研究者、疫学者等)等を含めた対策チーム(以下「専門家による対策チーム」という。)による積極的な実態調査を行うことが重要である。実態調査の結果(感染力、病原体、感染経路、診断、症状、治療、予防、周囲への感染拡大状況等)を入院勧告又は命令を決定する際の参考とすることが考えられる。その際、原因不明の感染症としての判断の適正を担保するため、具体的に入院勧告又は命令を発動するに至った判断過程の公開を行うとともに、専門家による対策チームの調査結果を踏まえた上で、公衆衛生審議会伝染病予防部会の意見を聴くといった手続を盛り込む方向で検討すべきである。
さらに、「原因不明の感染症」として入院勧告又は命令を行うに当たっては、予め明確化された要件に従って行政担当者が判断することになるが、感染症と疑われる原因不明の疾病が当該要件に該当するかどうかを判断することは容易ではない。その結果、行動制限の措置や注意喚起の情報提供を行う公務員が過大な権限行使をしたとして責任を追及されることをおそれて萎縮し、感染拡大を防止できないようなことが生じないようにすることが必要である。そのため、公務員が定められた手続に従って権限を行使し、故意又は重大な過失がない場合には、民事上及び刑事上の法的責任が生じないということについて、明らかにしておくべきである。
ここで重要なのは、たとえ感染症が日常的には想定できないような形で発生した場合にあっても、患者・感染者に対してはその人権に配慮しながら良質かつ適切な医療を提供しつつ、全ての国民の安全・健康が守られるよう、危機管理の観点から対応できる法体系を構築すべきである。
日常的には発生が想定されない事態を例示すれば、
といった事態が挙げられる。こうした事態においては、新しい法体系のみにおいて危機に対応するのではなく、例えば出入国管理及び難民認定法、災害対策基本法、道路交通法といった法令との連携の中で、的確に感染症の発生・拡大防止を図ることが必要である。
(イ)地震、水害等により被災地で大規模な感染症の発生が危惧される場合、
(ウ)感染症の病原体が何らかの人為的な事故・犯罪等により大量に放出される場 合、
具体的には、国の感染症予防の基本指針及び都道府県の感染症予防計画の策定によって、各分野の行政が国民、関係機関の協力を得ながら総力を挙げて危機管理に取り組む体制を整えることが必要である。そして実際に想定外の事態が発生した場合にあっては、国民に適切な情報提供を行いながら、指針・計画に沿った適切な対応により、感染症の拡大を阻止する必要がある。
なお、厚生省においては、平成9年3月に感染症健康危機管理実施要領を定めている。その中で、危機の段階に従って、例えば、感染症の全国的な発生の増加がみられ、緊急に対策を必要とする場合にあっては、関係省庁連絡会議の設置や、米国疾患管理センター又は世界保健機関への協力依頼を検討するといった対応を盛り込んでいる。
したがって、今回の感染症対策の見直しにおいても、医療保険制度の充実、伝染病院等の設置の実態、感染症患者に対する診断・治療方法等の進歩等の観点について検討すると、従来の公費負担の仕組みを改め、一般の疾病の場合と同様に、まず医療保険制度を適用し、その基盤の上に公費による負担を組み合わせた仕組みという結核予防法の取扱いに準じた内容に改正することが考えられる。この場合の医療費への公費負担の目的としては、個人の感染症予防、特に3号感染症及び4号感染症といった感染力、罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性が高い(極めて高い)感染症の患者の入院医療を支援し、その積み重ねを通じた社会全体の感染症予防に資することが基本となる。またこの結果生じた公費財源を有効に活用し、今般の感染症対策の見直しに的確に対応できるような対策を講じ、新しい時代の感染症対策を推進していく必要がある。
具体的には、(ア)国等が全数把握を必要とする届出、(イ)定点方式による抽出調査、(ウ)必要に応じて国立感染症研究所等の研究機関等が実施する積極的疫学調査が考えられるが、実施する場合の問題点と人への危険性の評価の衡量、実施可能性を含めて検討する必要がある。なお、実験動物施設における従事者など動物由来感染症に感染する危険性の高い動物取扱従事者については、定期的な健康診断、抗体保有状況等の調査の必要性と実施主体について検討する必要がある。
また、平成9年4月に改組された国立感染症研究所及び新興・再興感染症の臨床面で知見等を有する国立国際医療センターの役割も期待される。なお、平成6年に法律改正のなされた地域保健法の中で、新たな地域保健対策上の位置づけを得た都道府県・政令指定都市設置の地方衛生研究所についても、期待される役割を明らかにすることが必要である。
さらに、感染症対策を総合的に進めていく上で、国内における感染症対策のみではなく、国外から国内への病原体の侵入防止対策が重要であり、その役割を担う検疫機能と国内防疫との連携を進めていくことが必要である。
また、感染症指定病棟(床)の整備・運営への関与、感染症発生地域等への専門家の集中的派遣、集団発生時における周辺都道府県への協力要請、原因不明の感染症が発生した場合における、都道府県、地方衛生研究所、保健所等との連携を図った迅速・的確な対応体制の整備を進める。さらに、感染症対策の専門医、検査技師等の医療関係者の育成・研修は国立感染症研究所や国立国際医療センターの役割となることから、これらの機関の機能強化を図るべきである。
なお、政令指定都市、中核市、保健所設置市といった都市について、感染症予防に取組む組織・人材面の体制や広域的な対策を講ずる必要性といった観点から、都道府県に準じた取扱いとする業務の範囲を整理するとともに、都道府県とこれらの都市の相互の連携に留意する必要がある。
第二に、感染症を引き起こす病原体はこれまでに数多く発見されており、さらに今後も新たな新興・再興感染症の出現が予想されている。このような広い範囲の感染症について、国立感染症研究所が全ての分野において最先端の知見を有することができるとは必ずしも限らない。したがって、国立感染症研究所は国立国際医療センターとの連携の下、研究協力機関として地方衛生研究所、大学等の組織の協力を得ながら我が国の感染症対策の技術的連携組織を構築していくべきである。さらに必要に応じて、重要な感染症について、国立感染症研究所は、国立国際医療センター、その他研究協力機関の専門家の中から総括担当者(仮称)等を定め、厚生省担当部局とともに国内外の各感染症の発生状況の常時把握、集団発生等の健康危機が発生した場合の現地調査等の迅速な対応を図ることができる体制の構築に努めるべきである。
第三に、地球規模化する感染症問題に対応していくため、国立感染症研究所は、我が国の感染症対策にあたる研究機関及び国立国際医療センターをはじめとする国内関係機関とともに、海外の感染症研究機関等との情報交換、疫学調査研究等の研究協力、海外を含めた研究者の技術研修等の人的交流を通じて、国際的な感染症対策の連携体制の構築に努め、WHOの活動に協力する拠点として、感染症制圧に主導的な役割を果たしていくことが期待される。
具体的には、第三種感染症指定病棟(床)を整備して、4号感染症をはじめとする新興・再興感染症に対する医療を提供することが考えられる。さらに、感染症指定病棟(床)を有する施設の中心的施設として、医療従事者を対象とした研修会の開催等を通じた知識・技術の移転と相互の信頼関係の醸成を図ることが考えられる。
このため、国立国際医療センターにおいては、我が国の感染症対策にあたる医療機関及び国立感染症研究所をはじめとする国内外の関係機関との適切な連携に努める必要がある。
第一に、地域の感染症対策の中核的機関である保健所と密接な連携を図るとともに、国における国立感染症研究所の位置づけを参考にしながら、都道府県における感染症の技術的・専門的機関としての位置づけを明確に行い、期待される機能が十分に果たせるようにしていくべきである。
第二に、感染症発生動向調査について、都道府県における病原体・血清の感染症発生動向調査の中核的機関としての位置づけを明確に行い、患者の感染症発生動向調査との総合的解析を進める体制整備を図るべきである。その上で、国立感染症研究所をはじめとする関係機関との密接な連携を通じて、既知の各種感染症や原因不明の感染症の予防、早期発見、拡大防止等の役割を担っていくことが考えられる。
第三に、地域に感染症の発生があった場合において、病原体の迅速・的確な特定は、患者への良質かつ適切な医療を提供する面で重要な意味を持つことは言うまでもない。しかし、感染拡大の防止を目的とした必要最小限で均衡のとれた行動制限を行う上において、患者・感染者の人権の尊重の面からも病原体の迅速・的確な特定は必要である。したがって、国立感染症研究所の協力のもと、自らの試験検査機能の向上に努めるとともに、地域の検査機関の資質向上と精度管理に向けての必要な指導が期待される。
新しい時代の感染症対策においては、感染症対策の総合的体系の中で検疫の再定義、位置づけを行った上で、各論的な検疫機能を構築していく必要があり、以下に具体的な提言を行う。なお、食品の輸入に係る取扱いについては、近年における国民の食生活の多様化、食品の国際流通の進展、食品の海外依存度の増加等の状況の変化を踏まえ、輸入食品監視業務の強化が図られている。また対応体制についても、昭和57年から食品等の輸入に際しての監視指導に関する業務を検疫所に統合するとともに輸入食品・検疫検査センター等の整備が進められている。したがって、今般の主な検討対象からは除外したが、今後の状況の変化に応じた機能の再構築・強化が求められる。
本委員会は、感染症類型について1号感染症から4号感染症に再整理することを提言しているが、3号感染症及び4号感染症について検疫感染症として整理することが考えられる。
次に、4号感染症については、入国時の健康相談等で疑似症と判断された場合には、検疫所長による入院命令等によって国内への侵入・拡大を防止する必要がある。さらに検疫を通過し入国した者で、入国時に実施した検査の結果、当該渡航者が4号感染症の患者等であることが判明した場合にあっては、保健所への連絡を新しい法体系の中で規定し、国内における迅速な対応につなげていくことが必要である。
「原因不明の感染症」については、海外において「原因不明の感染症」の定義に合致する患者が発生し、当該患者と想定される者が入国してきた場合に国内法との整合性のとれた対応を図ることとする。
2号感染症については、検疫感染症としての位置づけの必要はないが、入国者の希望等に基づいて入国時に実施した病原体検査の結果が陽性であった場合、入国者の了解を得た上で検査結果を保健所へ連絡し、入国者の健康管理をはじめとした国内における迅速な対応につなげていくことが重要である。
なお、動物由来感染症対策として、輸入時における動物の検疫についても検討する必要がある。
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