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年金自主運用検討会報告書

平成9年9月1日

目 次

はじめに

1.年金積立金の意義と年金積立金運用の基本的考え方

(1)年金積立金の意義
(2)年金積立金運用の基本的考え方

2.年金積立金運用の現状と問題点

(1)資金運用部への預託義務
(2)年金福祉事業団による市場運用

3.資金運用部への預託義務の廃止と自主運用の確立

(1)預託義務の廃止
(2)自主運用の確立と責任体制の明確化
(3)預託義務廃止後の財政投融資との関係

4.年金積立金運用の新たな仕組み

(1)年金積立金の運用の基本方針の策定
(2)保険料拠出者の代表等からなる運用委員会の設置
(3)民間運用機関による市場運用の実施
(4)運用管理機関による民間運用機関の管理
(5)保険者等の忠実義務及び注意義務
(6)情報開示の徹底
(7)その他

5.自主運用への移行

(1)実施の時期
(2)自主運用への円滑な移行
(3)年金福祉事業団の市場運用事業の円滑な承継

(別紙1)運用の基本方針と運用管理業務

(別紙2)年金積立金運用の新たな仕組み(試案)

年金自主運用検討会委員名簿


年金自主運用検討会報告書

はじめに

 厚生年金・国民年金の積立金は、平成8年度末現在、126兆円にのぼっており、その全額について資金運用部への預託が義務付けられている。
 少子・高齢化が急速に進む中、年金積立金の効率的な運用により、将来の保険料負担の増加を抑制し、年金制度の長期的な安定を図ることが課題となっており、年金積立金運用の重要性は、一層高まってきている。
 年金積立金は、これまで財政投融資の原資として社会資本整備、政策金融等に活用され、また、一部は、還元融資として、住宅融資、社会福祉施設等の整備、年金福祉事業団の市場運用事業等に活用されてきた。しかし、社会資本の整備が進む中、資金余剰時代を迎え、財政投融資制度については、政府部門の肥大化・非効率、民業圧迫等様々な問題が提起されている。
 このため、財政投融資制度については、現在、その改革を推進する観点から、資金運用審議会懇談会において、本格的な検討・研究が行われているところである。
 このような中で、年金積立金について資金運用部との関係を抜本的に見直し、保険料拠出者の利益のため最もふさわしい運用の在り方について検討するため、厚生大臣の主催により、本検討会が設置された。
 本検討会は、平成9年4月から計6回にわたり議論を行ってきたが、年金積立金運用の新たな在り方について基本的考え方をとりまとめたので、報告する。
 今後、本検討会の報告が関係審議会等で議論され、年金積立金の新たな運用の仕組みが確立し、将来にわたる公的年金制度の安定的な運営に資することを期待したい。


1.年金積立金の意義と年金積立金運用の基本的考え方

(1)年金積立金の意義

 平成8年度末現在、年金積立金は126兆円(厚生年金の積立金118兆円、国民年金の積立金8兆円)に達している。
 年金積立金は、支払準備金として年金の支払いに支障を来さないよう保有するにとどまるものではない。我が国の年金は、世代間扶養の考え方を基本としつつも、世代間の負担の不公平を是正するため、年金積立金を保有し、その運用収入によって、将来の保険料負担の増加を抑制するという財政方式(修正積立方式)をとっている。
 年金積立金は、年金給付に充てるため強制徴収した保険料の集積であり、運用収入の如何によって将来の保険料負担が影響を受けることを考えれば、年金積立金は専ら保険料拠出者の利益のために運用しなければならない。

(2)年金積立金運用の基本的考え方

 (1) 年金積立金の性格

年金積立金は、次のような性格を有する資金である。

ア 長期の資金

 我が国の年金制度の長期的な収支見通しによれば、今後とも年金積立金は着実に増加することが見込まれており、長期的な総合収益(実現収益に評価損益の増減を加えたもの)の確保を目指して運用することが求められている資金である。

イ 安全性・確実性が求められる資金

 保険料拠出者の最大の関心は、将来にわたり年金給付を確実に受けられるかどうかということであり、安全・確実に運用することが求められている資金である。

ウ 有利性・効率性が求められる資金

 将来における保険料負担の増加を抑制するため、長期的に高い収益があがるよう効率的な運用を行うことが求められている資金である。

 (2) 年金積立金運用の基本的考え方

ア 年金財政との整合性の確保 ----- 運用の基本方針の策定

 年金制度では、少なくとも5年ごとに、将来における被保険者数、受給者数、賃金や物価の上昇率、積立金の予定運用利回り等を基礎として、長期的な収支見通しを作成している。
 年金制度を安定的に運営するためには、(1)で述べた年金積立金の性格を踏まえ、年金財政の長期的な収支見通しと整合性を持った年金積立金の運用を行う必要があり、そのためには、運用の目標、政策的資産構成割合(長期的に維持すべき年金積立金全体の基本的な資産構成割合)等を定めた年金積立金運用の基本方針を策定することが不可欠である。
 また、年金積立金運用の基本方針については、年金財政の長期的な収支見通しの見直し、経済金融環境の変化、運用の実績等を踏まえ、状況の変化に応じた見直しが必要である。

イ 長期的観点に立った分散投資

 資本市場では、一般に、高い収益率が期待できる資産は収益率のぶれが大きく、低い収益率の資産は収益率が安定しており、安全性と有利性を両立させることは困難である。
 しかし、債券、株式等様々な資産に運用対象を分散し、長期にわたって運用すれば、株式等一種類の資産だけで運用する場合よりも資産全体の収益率のぶれを小さくし、かつ、債券だけで運用する場合よりも高い収益率を期待することができる。
 このため、年金積立金の運用に当たっては、安全性・確実性を重視しつつ、適度な収益率のぶれを許容した上で、長期的な総合収益の確保を目指し、各種資産への分散投資を行うことが適当である。
 ただし、実際に生じ得る確率としては小さいと考えられるものの、毎年の収益率の下方へのぶれが続き、資産残高が債券だけで運用していた場合の水準を下回ることもあるので留意することが必要である。
 したがって、運用の基本方針の策定に当たっては、年金積立金にどの程度のリスクが許容されるか慎重な検討を行い、市場運用のリスクとリターンを明確にした上で、十分な議論を尽くして、保険料拠出者等関係者の合意形成を図る必要がある。


2.年金積立金運用の現状と問題点

(1)資金運用部への預託義務

 (1) 経緯と現状

 昭和17年、労働者年金保険制度(厚生年金保険の前身)が発足した際、積立金の管理運用方法について議論がなされたが、戦時体制下、国家資金であることを理由に、他の財政資金とともに、一元的に管理することとされた。
 昭和35年、国民年金制度が発足する際にも、その積立金の管理運用方法について関係審議会等において議論がなされたが、国の制度・信用を通じて集められた公的資金は統合管理し、公共の利益の増進に寄与するよう運用すべきという観点から、資金運用部への預託義務が課されることとなった。その際、還元融資を専門的に実施する機関として年金福祉事業団が創設されたほか、年金資金等の新規預託金について住宅、生活環境整備等の使途別の分類表の作成が行われることになった。
 現在、厚生年金・国民年金の特別会計の積立金については、資金運用部へ全額預託することが義務付けられており、預託による利息の受取りが年金特別会計の運用収入となっている。
 預託金利の利率は、国債金利その他市場金利を考慮するとともに、年金財政の安定等に配慮して定めることとされており、具体的には、7年以上預託する場合の利率は、10年利付国債の表面利率を基準に設定されている。また、市場金利が低いときは、更に国債金利の利率に一定の上乗せがなされた水準に設定されている。
 なお、財政投融資については、近年、政府部門の肥大化や非効率、政策金融の拡大による民業の圧迫、民間の資金循環の阻害等の問題も提起されている。
 また、年金積立金の運用の状況については、新規預託金についての使途別分類はあるものの、年金制度運営の立場からは、年金積立金が他の資金とともに運用されていることもあって、どのように運用されているのか分かりにくいとの指摘があり、年金積立金運用の現況について、保険料拠出者への情報開示や説明責任の遂行が不十分との指摘がある。

 (2) 問題点

 資金運用に当たっては、資金の性格に最も適した方法で行うことが必要であるが、年金積立金については、資金運用部への預託が義務付けられ、郵便貯金等の資金と同様、原則国債金利での運用となっており、他の運用方法を選択することは認められていない。このため、年金積立金については、1の(2)で述べた年金積立金の性格や運用の基本的考え方を踏まえた運用ができない仕組みとなっている。
 現行の預託義務の下での年金積立金の運用は、保険料拠出者の最大限の利益になっているとは必ずしも言えず、国は、年金の保険者としての役割を重視し、年金積立金にふさわしい運用に努めることが求められている。

(2)年金福祉事業団による市場運用

 (1) 経緯と現状

 昭和60年以降、市場金利の低下に合わせ、預託金利の引下げが行われ、さらに昭和62年、預託金利の法定下限を撤廃する資金運用部資金法の改正がなされた。このような状況の下で、財政投融資の一環として、年金福祉事業団が資金運用部から資金を借り入れ、市場運用を行う事業が創設された。
 年金福祉事業団は、預託金利と同一の固定金利で資金運用部から資金を借り入れ、原則として民間運用機関に運用を委託して、市場運用事業を実施しており、事業規模は、平成8年度末現在、約24兆円にのぼる。
 年金福祉事業団では、長期的に資金運用部からの借入金利を上回る総合収益(実現収益に評価損益の増減を加えたもの)をあげることを目標として、基本的な資産構成割合を設定し、債券、株式、外貨建て資産等に分散投資をしている。

 (2) 問題点

 年金福祉事業団の市場運用は、年金財政に貢献する等の目的で行われているものの、利払いや償還期限のある借入金の運用であり、長期的視点に立った年金積立金本来の運用とはなっていない。
 年金福祉事業団では、毎年度、資金運用部に利払いをする必要があるが、市場環境が悪化し、利払いに見合う実現収益を確保できなければ、決算上赤字が生ずることになる。なお、平成8年度末までの決算上(簿価)の赤字の累積は、約1.4兆円に達する。
 年金福祉事業団の運用については、運用規制の緩和が進み、運用管理のための体制も年々改善されてきてはいるものの、より多様な運用方法の活用、専門性の更なる向上が求められているほか、これまでの運用実績の十分な分析評価、一層の情報開示などが必要である。
 以上のように、年金福祉事業団が資金運用部から資金を借り入れた上で市場運用する仕組みについては問題が多く、抜本的に見直すことが必要である。


3.資金運用部への預託義務の廃止と自主運用の確立

(1)預託義務の廃止

 年金積立金は、年金給付に充てるため徴収された保険料の集積であって、財政投融資の原資のため集められたものではなく、本来、保険料拠出者の利益のために運用されなければならない。
 このため、年金積立金は、年金の制度運営全般について権限と責任を有する保険者(厚生大臣)がその判断により、保険料拠出者の利益のため、年金積立金に最もふさわしい方法で運用すべきである。これが自主運用である。 既に述べたとおり、急速な少子・高齢化の進行により、年金積立金の意義や運用の重要性は一層高まっている。また、年金福祉事業団の市場運用事業の仕組みについては、抜本的な見直しが急務となっている。
このような年金積立金をめぐる状況をみれば、もはや年金積立金に預託義務を課すことは適当でないと言わざるを得ない。
 年金積立金については、本来の趣旨に立ち返り、預託義務を廃止して、保険料拠出者の利益のため、年金積立金に最もふさわしい方法で運用することができる仕組みに再構築すべきである。

(2)自主運用の確立と責任体制の明確化

 自主運用を確立し、年金積立金の資金としての性格や積立金運用の基本的考え方に則した運用を実施するためには、次の4で述べる考えに沿って、運用の新たな仕組みを構築しなければならない。
 自主運用に当たっては、責任体制の明確化を図る必要がある。そのためには、年金制度の運営に最終的な権限と責任を有する保険者(厚生大臣)を始め、運用に携わる全ての者について権限と責任を明確にした上で、受託者責任(忠実義務、注意義務)を課すとともに、情報開示を徹底することが必要である。
 さらに、責任体制の明確化のためには、保険料拠出者による監視機能や関係機関による監査機能の充実を図る必要がある。

(3)預託義務廃止後の財政投融資との関係

 預託義務が廃止された場合、財政投融資に資金を供給する手段としては、任意の預託や財投債・政府保証のない財投機関債の購入等が考えられる。公的年金としては、保険料拠出者の利益になると判断される場合に、主体的に、預託又は財投債・財投機関債の購入をすることになる。
 任意の預託制度が残り、保険者の自主的判断で預託する場合には、その理由、預託額、預託条件等について情報開示することは言うまでもない。また、財投債・財投機関債が発行される場合には、安全性、収益性等それぞれの特性を踏まえ、国債、社債等と同様、債券運用の一種として市場を通じて購入することになる。


4.年金積立金運用の新たな仕組み

 自主運用を確立するとともに、その責任体制を明確化するため、以下のような年金積立金運用の新たな仕組みを構築すべきである。

(1)年金積立金の運用の基本方針の策定

 保険者(厚生大臣)は、年金財政の長期的見通しや年金積立金運用の基本的考え方を踏まえた運用を行うため、次の(2)の「運用委員会」(仮称)の意見に基づき、政策的資産構成割合を含めた運用の基本方針を策定する。(別紙1参照)
 なお、運用の基本方針については、年金財政の長期的な収支見通しの見直し、経済金融環境の変化、運用の実績等を踏まえ、状況の変化に応じた見直しを行うことが必要である。

(2)保険料拠出者の代表等からなる運用委員会の設置

 年金積立金の運用は、将来の保険料水準に影響を与え、保険料拠出者の利害に直結する問題である。したがって、運用の基本方針の策定等運用の重要事項の決定に当たっては、保険料拠出者や金融・経済の専門家の意見を反映させるとともに、これらの者が運用全般について監視する仕組みを作ることが必要である。
 具体的には、保険料拠出者の代表や金融・経済の専門家が参加する「運用委員会」を設ける必要がある。「運用委員会」は、年金積立金の運用全般について諮問に応じるとともに、意見具申や建議を行い、また、運用管理機関の指導監督の状況を含め、年金積立金の運用状況を監視するものとする。なお、「運用委員会」の意見については、保険者(厚生大臣)がこれを尊重しなければならないこととする。(別紙2参照)
 「運用委員会」の具体的な在り方については、別途検討する必要があるが、年金積立金運用と年金財政・制度設計との間の整合性を図るため、年金審議会との十分な連携を確保することが必要である。

(3)民間運用機関による市場運用の実施

 年金積立金の市場での実際の運用は、基本的には、運用の専門家である民間運用機関(信託銀行、生命保険会社、投資顧問会社等)に委託して実施する。
 この場合、年金積立金については、資金量が巨額にのぼること、危険分散を図る必要があること、運用機関間の競争を促進する必要があること等から、運用の効率性にも配慮しつつ、海外を含む多くの運用機関に委託することが必要である。また、運用に当たっての規制は必要最小限にとどめ、投資一任契約を含め、多様で柔軟な運用方法を認める必要がある。
 なお、自家運用については、手数料の節減等の長所が指摘されており、一部の資金を次の(4)の運用管理機関が自家運用することも、検討に値する。

(4)運用管理機関による民間運用機関の管理

 (1) 運用管理業務の必要性

 多くの民間運用機関に運用を委託する場合、政策的資産構成割合の維持、効率的・効果的な運用等の観点から、次のような運用管理業務を行うことが不可欠となる。(別紙1参照)
○ 政策的資産構成割合からの乖離許容幅の範囲内での中短期の資産配分比率の決定
○ 資産ごとの市場の平均的な動きを示す指標(ベンチマーク)、運用手法(スタイル)の組み合わせの決定
○ 運用機関の選定、資金配分の決定
○ 運用機関への運用対象資産、運用手法、ベンチマーク等の指示
○ 運用機関ごとの運用状況の把握、必要な指示
○ 運用資産全体の資産構成の把握・管理
○ 運用機関の評価、運用実績の要因分析、運用機関の入替え
 (2) 運用管理業務を行う組織

 運用管理業務を行う組織の具体的な在り方については、行政改革との関係にも留意しながら、次の方向で検討する必要がある。

ア 組織の要件

運用管理業務を行う組織については、次の要件を満たすことが必要である。

a. 専門性の確保
業務の性格上、資産運用に関する専門的知識を有する人材を確保する必要があり、職員の採用や処遇については、組織の判断で柔軟に対応できるようにする。
b. 民間活力の活用
年金積立金という公的資金の管理を行う以上、公的性格を有する組織である必要があるが、投資判断や組織運営に関し広く裁量を持たせるとともに、組織の最高責任者は民間人を公募するなど、民間活力を活用した組織とする。
c. 責任体制の明確化
権限と責任の所在を明確にして、専門家としての注意義務や保険料拠出者の利益のため忠実に職務を遂行するという忠実義務に違反した場合には、速やかに責任をとる体制を構築する。
その際、前述の保険料拠出者の代表等からなる「運用委員会」の監視機能の活用を図る。
d. 公平・公正、透明性の確保
民間運用機関の選定、資金配分、評価等について、公平・公正、透明性を確保するとともに、情報開示を徹底する。

イ 組織の性格

 国が自ら運用管理業務を行うことも考えられるが、専門的知識を有する人材を確保することが難しいこと、行政の肥大化につながるおそれがあること、国による企業支配につながる等の理由で国には株式の保有が認められていないこと等から、適当でない。このため、国とは別の組織の運用管理機関を設け、運用管理業務を行わせることが現実的である。
 この場合、公的性格を有する組織であることが必要であるが、民間活力を最大限発揮させるため、行政の運用管理機関に対する関与は必要最小限にとどめる一方、徹底した業績評価を行う必要がある。

ウ 内部組織の在り方

 運用管理業務は、高度の専門性を有すること、運用管理業務についての中立性を確保するとともに、運用管理機関としての権限と責任を明確にする必要があることを考慮すると、運用管理機関に数名の専門家からなる「投資委員会」(仮称)を設置することを検討すべきである。すなわち、「投資委員会」に投資政策の決定、民間運用機関の選定、資金配分、評価等について権限と責任を持たせる。「投資委員会」の委員は、公募等により保険者(厚生大臣)が専門家を任命し、職務にふさわしい処遇を行う。「投資委員会」の下に執行部門を設け、運用管理業務を執行する、という考えである。

(5)保険者等の忠実義務及び注意義務

 自主運用に当たっては、責任体制を明確にする必要がある。このため、公的年金運用について、英米の企業年金や我が国の厚生年金基金について適用されている「受託者責任(忠実義務、注意義務)」の精神をできるだけ取り入れ、運用に関わる全ての者(保険者、運用管理機関、民間運用機関等)が果たすべき義務を法令により明確化することが必要である。
 具体的には、運用関係者は、保険料拠出者の利益のため忠実に職務を遂行しなければならず、また、運用関係者は、それぞれ専門的な立場に立って、年金財政や経済金融の状況に配慮しつつ、十分な注意を払って職務を遂行しなければならないものとする。
 ただし、運用関係者が忠実義務や注意義務を果たしていたとしても、市場変動の結果、財政再計算で期待していた運用利回りが得られないこともあり得る。この場合、運用関係者は、市場変動による運用の結果については、責任を負うものではないが、注意義務等に違反した場合には、罷免、懲戒処分、損害賠償等の責任を問われることとなる。
 また、運用関係者が注意義務等を果たしたかどうかは、職務遂行の時点を基準として、投資判断を含む職務遂行の過程において注意義務等を十分に果たしたかどうかで判断されるべきものである。

(6)情報開示の徹底

 (1) 情報開示の必要性

 年金積立金は、強制徴収された保険料の集積であり、運用の如何が将来の保険料水準に影響を与えるなど保険料拠出者の利害に直結する。したがって、その運用に当たっては、保険料拠出者の理解を得ながら実施していくことが必要であり、保険者(厚生大臣)は、保険料拠出者に対し、運用の方針、運用状況等を説明する責任を有する。
 また、保険者や運用管理機関が適切に業務を執行しているかどうかを保険料拠出者が監視するためには、十分な情報が開示される必要がある。

 (2) 情報開示の内容等

 情報開示については、定期的に、文書のほか、インターネット等を活用して、わかりやすく行うことが必要である。
 また、開示の内容については、運用の基本方針及びその策定の考え方、時価での収益率、資産残高及び資産構成割合、運用委託機関の名称・運用額・運用実績など、できるだけ詳細に行うことが必要である。
 年金積立金の運用結果は、年金財政に影響を与え、最終的には保険料率に反映されることになる。したがって、年金積立金の運用結果と年金財政との関係、例えば、財政再計算時に想定した運用の見通しと実績の乖離や運用結果が年金財政や保険料率に及ぼす影響等について、情報開示すべきである。具体的には、厚生年金基金におけるような責任準備金概念や複式簿記を参考にし、情報開示の在り方の検討を行う必要がある。このような運用と年金財政との関係に関する情報開示が自主運用の評価につながるであろう。

(7)その他

 運用に当たっては、国等が民間企業の経営を支配したり、これに影響を与えることがないよう、個別銘柄の選択を伴う運用については、民間運用機関の判断に任せるとともに、株主議決権の行使については、何らかの制限を検討することが必要である。


5.自主運用への移行

(1)実施の時期

 年金積立金の自主運用については、急速な少子・高齢化が進む中で、積立金運用の重要性が一層高まっていることから、早急に実施することが必要であり、平成11年の次期財政再計算に合わせて制度改正を行い、実施に移していくことが必要である。

(2)自主運用への円滑な移行

 年金積立金を市場運用に移行させる場合、市場の混乱を小さくするために、その規模については、徐々に増加させていくことが現実的である。

(3)年金福祉事業団の市場運用事業の円滑な承継

 年金福祉事業団については、本年6月、平成11年の次期財政再計算に合わせ、年金資金の運用の新たな在り方につき結論を得て、廃止することが閣議決定されている。閣議決定に従って年金福祉事業団を廃止するに際しては、市場に混乱を生じさせないよう、年金福祉事業団の資産及び負債の円滑な引継ぎが必要である。


運用の基本方針と運用管理業務図


年金積立運用の新たな仕組み(試案)図


年金自主運用検討会委員名簿

  貝塚 啓明 中央大学法学部教授
  黒川 和美 法政大学経済学部教授
  竹内 佐和子 長銀総合研究所主席研究員
  船後 正道 共済組合連盟会長
  水谷 研治 東海総合研究所代表取締役社長兼理事長
(座長) 三宅 純一 日本総合研究所副理事長
  若杉 敬明 東京大学大学院経済学研究科教授
  鷲尾 悦也 日本労働組合総連合会事務局長
  渡辺 俊介 日本経済新聞論説委員
  渡里 杉一郎 日本経営者団体連盟副会長


 問い合わせ先 厚生省年金局資金管理課
    担 当 伊藤(内3348)
    電 話 (代)[現在ご利用いただけません]
        (直)03-3501-3450

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