00/12/13 第85回人口問題審議会総会 第85回 人口問題審議会総会 平成12年12月13日(水) ダイヤモンドホテル スタールビー  宮澤会長  それでは、時間がまいりましたのでスタートしたいと思います。本日はご多用なとこ ろを、ご出席いただきましてありがとうございます。ただ今から、本日が最後となると 思いますが、第85回人口問題審議会総会を開催いたします。  まず、出席状況のご報告を申し上げます。浅野、麻生、河野、中山各委員、網野、小 林、坂元、高山、山本各専門委員が、それぞれご都合によりまして欠席でございます。 その他の委員はご出席で、若干、遅れて来られる委員があると思います。  それでは、本日の議題に入らせていただきます。議事予定にございますように、ま ず、報告の聴取が4点ございますが、最初に2つ報告書が出ております。1つは社会保 障制度審議会から出されました「新しい世紀に向けた社会保障」の意見書、もう1つは 「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」の報告書、この2件であります。 そのあと、引き続きまして少子化に関する最近の動向、厚生省関係審議会の再編、以上 4点についてのご報告をおうかがいして、その後、質疑を行うということで進みたいと 思います。  それでは、まず、本年9月14日に社会保障制度審議会から出されました「新しい世紀 に向けた社会保障(意見)」についてでございます。ご報告いただきますのは、社会保 障制度審議会の酒井事務局長でございます。では、よろしくお願いいたします。  酒井事務局長 酒井でございます。宮澤会長から、説明するようにということで、た いへん光栄でございます。会長は社会保障制度審議会の会長をやっておられますので、 おかしいところがあったら会長があとでご指摘をされるかと思います。  制度審議会は、実は24年にできておりますが、これまで10回ばかりの勧告等、非常に 多くの活動をしております。54にわたる勧告あるいは意見といったものを出しておりま す。その他にも、膨大な諮問答申作業というものをやってこられたわけですが、ここに お出しいたしました、「新しい世紀に向けた社会保障(意見)」でございますが、資料 1と資料2は一心同体でございまして、資料1でこれから簡単に説明させていただきま すが、この意見は、総合的なものとしては審議会の、いわば最後のまとめということ で、昨今、生じております社会保障の重要課題について、制度審議会の自主的な活動で ありますところの審議を先生方がなさいまして、先生方のほうで、数十回にわたりまし て、小委員会あるいは総会を経て、時には泊まり込みの作業を先生方がおやりになっ て、みずからおまとめになったものでございます。手短にということでございますの で、資料1を中心にご説明させていただきます。実は分厚いほうの冊子は第1部、第2 部ということになってございます。第1部が総論で第2部が各論というわけでは必ずし もございませんで、第1部がいわば意見のスタンスあるいは認識、方針についての大き な考え方あるいは横断的な、共通的な考え方といったものが整理されているわけでござ いまして、第2部が、その中でとくに大きな重要論点について深めた言及がなされてい るわけでございます。  資料の図でございますが、最も最近、平成7年に総合的な勧告の1つである勧告をや っております。その7年以降の、社会経済面の主な変化というものが起こっているとい うことです。失業の問題等も、平成7年の時点ではなかなか十分に見通せなかった時代 でありますし、あるいは中央省庁の行政改革というものも加わってきています。主なも のとして、そういうようなものを背景に、またそれと関連して、たいへん重要な社会保 障の問題が起こっているということで、「意見書の考え方の大きな柱」という欄と、 「主な具体的な施策の方向」ということで割ってございます。  大きな柱といたしましては、実はこのペーパーは私どもで、先生方のために、なんと かコンパクトに整理したものをということでございまして、舌足らずでございますが、 ここに書いてありますように、1〜6の大きなポイントを整理しております。  社会保障は、国民が活力をもって社会生活をするうえで、今や必要不可欠な前提とな る制度です。これはあとでご覧いただきたいんですが、意見書の第1部の冒頭のところ に書いてございますが、社会保障の重要な役割というものを認識しながら、制度の改革 というものをやっていくべきである、と。社会保障が必要でないとかお荷物であると か、そういうことではなく、社会保障の重要性の認識をしつつ、以下のような視点で改 革をやっていくべきであるということで、まず、長期安定的で確実なものであること。 少子高齢化あるいは経済の問題等の中でも、確実なものであること、といったことをは じめといたしまして、大きく6つぐらいを掲げてございます。  3番目、「厳しい財政事情を念頭に置くこと。負担の先送りは自制すること」とあり ますが、このペーパーの中では、あとで14ページの3といったところなどをご覧いただ きますと、世代エゴイズムをわれわれは自制しなければいけない、今がよければいいと いうことではなくて、社会保障の場合にはあとに負担を残してしまう、ルールを守って やらなければ、制度の安定性に支障を来すといったことが書かれておりますし、やはり 厳しい経済財政事情にあるということを考えながら、財源の制約であるとか、様々な財 政的制約も念頭に置いた社会保障の構築ということが必要であるということを、ひとつ 立てて、指摘されております。  それから、この大きな柱の6番目に、政策の立案・決定過程といったものに、社会保 障の問題は非常に長々期に、国民に幅広く、世代内、世代間を通じて関連してくる問題 であるので、それにできるだけ幅広い、また時間的に長い、関係者の意見が反映される ようなやり方を考えていかなければならない、といった柱が言われているわけでござい ます。  具体的な施策の方向というところへ、取り急ぎ移らせていただきますと、そういうも のをやることによって、信頼できる生活保障システムを確立しなければいけないという ことで、具体論の中で言われていることを、ここに書いたわけでございます。  すべての国民の社会保障に向けて、というスローガンがございます。リバース・モー ゲージ等、高齢者が必ずしも弱者ということではなく、中身の問題なんだといったこ と、それから今、社会保障の給付の65%程度が高齢者によって受給されているといった ことから、社会保障というのは高齢者のためだけのものではないか、といった一部の世 代の懸念といいますか、そういうことも踏まえて、社会保障を、世代を通じて公平なも のにしていくということが、制度の安定につながっていくということで、リバース・ モーゲージあるいは年金課税を検討していこうということであります。年金課税の問 題、あるいはリバース・モーゲージの話は、いろんな切り口で、この意見書の中に出て まいります。そういうことが言われておりますし、すべての国民の、といった場合に、 ここに空白ないし手薄になっている部分とありますが、たとえばホームレスの問題であ るとか、必ずしも空白ではございませんが、家庭内暴力の問題であるとか、あるいは交 通遺児に対する対応であるとか、やや、従来、社会保障ということで言われている範囲 を少し踏み出して、広くまわりを振り返ってみるべきである、といったようなことが書 かれているわけでございます。  2番目が就業形態。労働・雇用の実態が非常に変わってきています。それに対する社 会保障面からの取り組みが必要です。あるいは、その場合に、女性の就労なども非常に 変わってきています。そのようなことが社会保障あるいは税制といったものの制約によ って、やや止められているというようなことがないように、制度を考えていかなければ ならない、といったようなことがあります。  3番目に言っておりますのは、高齢者のためだけではないというようなことで、結 婚・出産・子育てへの対応ということを指摘しております。  4番目に書いてあります、国民皆保険の維持といったことですが、これがいわゆる税 方式か保険方式か、賦課方式か積立方式かということで、社会保険の分野でいろいろ出 ている問題について指摘しているということでございます。この詳細は、矢印で引っ張 った下に書いてございます。基本的には今の考え方でいくしかないだろう、と。しか し、公平といったことを考えていかなければ制度の安定というものが図っていけま せん。下の枠の中の○の2つ目に「これまでよりも負担者の側に立ったものであるこ と」とあります。これも、いろんな箇所で言っております。  また、5番目にまいりますと、先ほども触れました政策立案・合意形成の仕組みとい ったところで、社会保障の国民化ということを考えていくべきであるということを提案 しております。時代を超えて、また、党派を超えて、あるいはひとつの職業というもの を超えて、いろんな知恵を集約していくことによって、社会保障の安定性といいます か、政策の説得力を一層高めていく必要があるといったことが言われているわけでござ います。  社会保険の部分に関しましては、議論の素材といいますか、両論をいろいろ分析した 表現方法になっております。全体としては、いろんなことを提言しておられるペーパー でございますが、そういう、なかなか一義的に言い切れない部分につきまして、国民の 皆さんに幅広く議論をしていただこうというようなことで、議論の素材を提供しなが ら、国民の皆さんにアピールしていく、そういう性格になっているわけでございます。  9月14日に総理にこれを提出したわけでございまして、そのあと、翌月に有識者会議 の報告がまとまりました。時系列的なことで言えばそんなことでございます。やや舌足 らずでございますが、取り急ぎ報告させていただきます。また、何かご指摘がございま したら、申し上げたいと思います。以上でございます。  宮澤会長  どうもありがとうございました。それでは次に、本年10月27日に出されました「社会 保障構造の在り方について考える有識者会議」の報告書です。ご報告いただきますの は、厚生省大臣官房政策課の吉田企画官でございます。よろしくお願いいたします。  吉田企画官  政策課でございます。「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」の報告に つきまして、お手元の資料3とさせていただいております白表紙の冊子と、資料3-1と いう枝番を付けさせていただきましたA3の1枚紙、この2つの資料をもちまして、簡 潔にご報告させていただきたいと存じます。  白表紙のほう、インデックスを付けさせていただいておりますが、その会議というと ころをお開きいただければと存じます。本有識者会議につきましては、時の小渕総理の もとで社会保障の在り方について、とくに将来にわたり安定したものになるように、い ろいろな各制度について、総合的に、給付と負担を一体的に考えるべきであるというイ ニシアチブによりまして、その会議というインデックスの2ページ目のところにお名前 を掲げさせていただいております貝塚啓明座長他、19名の先生方にとくにお願いを申し 上げまして、本年の1月18日の第1回から、最終的なとりまとめのご審議をいただく12 回まで、ご審議をいただき、最終的にお手元の資料にまとめさせていただいております ような報告書という形で、森総理のほうにご提出いただいたものでございます。  本報告書につきましては、お手元の白表紙の中、「本文」というインデックスを付け させていただいておりますところ以下、47ページにわたるものでございますし、その最 後には、この有識者会議のご議論の中で、定性的に議論をするだけではなくて、将来の 姿について、いろいろな制約がある中で、できるかぎり計数的なものをお示しして、国 民に議論を求めるべきであるという強いご要請もございまして、厚生省のほうから新し い社会保障の給付と負担についての見通しというものを提出させていただきました。本 文をご覧いただきますと、47ページまで文章がございまして、そのあとに、引き続き付 表という形で、私ども厚生省の推計について、掲げさせていただいているところでござ います。  この報告書につきましては、有識者の皆様方におけるご議論の中で、とくに現在の社 会保障制度をめぐる状況の中で、社会的条件が変わりつつある、そういう中において も、社会的リスクを軽減するという、その役割をいかにして持続可能なものにするかと いう観点からご議論をいただいたところであり、とくに報告書をおまとめいただく、あ るいはそれに至るご議論をいただく過程におきましては、個別の制度を網羅的に取り上 げるというわけではなくて、現在、とくに問題が提起されている部分を中心に、基本的 な方向を探ろうではないかという、委員の皆様方のコンセンサスのもとに議論が行われ たと、私ども、理解をさせていただいておりますし、この報告書につきましては、とく に本文の中にも記載いただいているところでございますけれども、長期的に安定的な社 会保障制度の構築に向けた改革の方向性について、最終的な選択を行う国民の方々に対 する判断材料を示すという観点からとりまとめいただいたというふうに受け止めさせて いただいております。  お手元、資料3-1という形でまとめさせていただいておりますA3の紙が、47ページ に及ぶ、有識者会議の方々の報告書を、私どもなりに構造的に少し、整理させていただ いたものでございます。この3-1の左側にございますように、有識者会議のご議論にお きましては、とくにやはり出発点として、社会保障の役割をどう考えていくのかという ことについてご議論をいただき、そこに掲げてございますように、「個人が一人ひとり の能力を十分発揮し、自立し尊厳を持って生きることのできる社会に不可欠なセーフテ ィネット」たる社会保障というものを、引き続き追求していくべきであるというお考 え、また、その際には社会保障と経済というものについても、十分、いろいろと考慮を し、また、とくに医学や医療というものの進歩が、今後、社会保障にどのように影響を 与えるかということにも十分思いを致すという観点から、報告書においてもいろいろな ご議論をまとめていただいておりますし、このような観点を整理いたしました社会保障 の役割を踏まえれば、3-1の、少し黒く網かけのあるところに、本文の言葉を引用さ せていただいておりますけれども、現行の社会保障制度というものを維持するのではな くて、その制度を不断に見直しながら、必要な改革を進めることにより、社会保障の機 能というものを維持しなければならないのではないか、というご提言をいただいている ところでございます。  このために、どうするか。先ほど申しましたように、報告書は国民の方々に対して判 断材料を示すというお立場からまとめられたものでございますけれども、具体的に、21 世紀に向けた選択の幅というものを、この報告書ではお示しいただいております。そこ に図式的にまとめさせていただいておりますように、2つの極ということになっており ますが、1つが負担を増大させても給付を確保していくという選択肢。もう1つが、負 担を増大させずに、今程度の負担というものを逆にフィックスし、給付を見直していく という選択肢。この2つの極を掲げておられるところでございます。  先ほど、少し触れさせていただきましたように、本報告書に、私ども厚生省として の、新しい社会保障の将来の給付と負担についての推計を提出させていただきました が、その数字をもとにしますと、負担を増大させても給付を確保していくという選択肢 においては、負担が現在の1.5倍になるということです。その負担は、現在のドイツ、 フランスとイギリスの間の水準になるということがひとつ、ファクトとしてございま す。このような事実を前提に、あるいはこのような見通しを前提に、将来の負担の中核 を担う若い世代の理解が得られるかどうかということが、この極に関しての考慮事項で あります。  もうひとつ、負担を増大させずに給付を見直していく選択という極につきましては、 具体的な数字としましては、たとえば厚生年金というものを例にとれば、負担水準を固 定すれば、将来に向けた給付総額を、今回、行いました年金制度改革からさらに4分の 1程度削減しなければならないとか、基礎年金の水準につきましても、現行の6割程度 になるということが数字の上で見込まれる、あるいは医療につきましても、現在の推計 医療費から、約40兆円のギャップを生じるに至るという、この負担を増大させずに給付 を見直していく極という選択についての具体的なイメージを明らかにしたうえで、果た してそのような選択肢がセーフティネットとして、社会保障が重要な機能を果たし得る のかということを十分、検討すべきである、という問題設定をしていただいているとこ ろでございます。  報告書におきましては、このような2つの極というものを国民の方々に明確にお示し いただきながら、この間の中で検討していかなければならないとしつつも、有識者会議 におきましては、将来に向けてある程度の負担の増加は避けられないものの、できるか ぎりの負担増、とくに現役の負担増を抑えることが必要ではないかという方向性をお示 しいただいているところでございます。  具体的に、3-1の右側に四角を3つ、掲げさせていただいております。そのいちばん 上の四角、そうであればということで、報告書におきましては、そのような持続可能な 社会保障を構築するために、どのような方策があるかという観点から、具体的には、た とえば今後の、意欲に応じて働くことのできる社会ですとか、あるいは個人の選択に中 立的な制度というものを目指していくことによって、支え手を増やすという方策。ある いは、高齢者の方々も能力に応じて負担を分かち合っていただくという意味での、たと えば現役の世代、将来の現役世代の負担の公平化、あるいは資産の活用という取り組 み。また、3つ目といたしましては、給付につきましても見直しと効率化というもの が、今後また、議論として進めていかなければならないのではないか、と。それを通じ て得られた結論で、方策として取り組まれなければならないのではないか、ということ をおまとめいただいているところでございます。また、とくに、今のようないろいろな 取り組みをいたしましても、社会保障にかかる負担というものは、今後、増大するわけ でございまして、それにつきましては保険料および公費ということで進めていく、その 負担を担っていくという方向をお示しいただいております。  右側の2つ目の四角でございます。とくに財源の調達につきましては、社会保障が事 前の備え、あるいは自助を共同化したという観点から、現行の社会保険方式がふさわし いという方向をお示しいただきながらも、最終的には現行制度が保険料と公費の混合方 式だという認識をお示しいただいたうえで、公費負担の在り方について、今後、保険料 水準が上昇していくことにより、その公費負担の必要性が高まるという方向をお示しい ただいておりますし、左側の「進むべき途」というところにも書かせていただいており ますように、その、増える公費負担のまかない方につきましては、税制の在り方も含め て検討していくことが必要だという方向性をお示しいただいているところでございま す。  左側のいちばん下でございますが、そのような方策を講じていくことによって、有識 者会議におかれましては、「スリムで強固な社会保障」として、「このままで推移する 姿に比べ規模の増大は抑制されるものの、持続可能で、必要な給付が確実に行われる強 固な社会保障」を目指すべきであるとの方向性をお示しいただいているところでござい ます。  報告書におきましては、3-1の右側のいちばん下の四角でございますが、「21世紀の 社会保障のために」ということで、選択にあたって、社会保障の意義、機能を十分国民 の方々に理解をしたうえで選択をしていただかなければならないであるとか、党派を超 えた国民的な合意が必要であるとか、企業につきましてもその社会的責任について触れ ていただいているところでございます。政策運営につきましても、来年、新省になりま して、厚生労働省となりますが、その政策調整機能の強化、省庁の枠を超えた取り組 み、あるいは税と社会保障というものを総合的に捉えた取り組みというものの必要性、 とくに改革を急ぐべきであるというご認識をいただいているところであり、最終的にこ の報告書を踏まえて、政府において総合的・包括的な改革に取り組むべきであるという ご提言をいただいているところでございます。  本人口問題審議会におきまして、ここ数年、とくに少子化の問題について、各種のご 提言を頂戴したところでございますが、社会保障の有識者会議におきましても、少子化 問題については触れさせていただいておりまして、「本文」と書かせていただいたイン デックスのところで申し上げれば、9ページから、先ほど申しました3つの、今後の持 続可能な社会保障のための方策の1つ目であります、支え手を増やすという文脈の中 で、先ほど申しました労働の問題、あるいは個人の選択に対する中立的な制度設計と並 びまして、具体的には11ページからでございますが、子どもを産み育てやすい環境を整 備するということで、少子化対策について触れていただいておりますとともに、12ペー ジに頭出しをさせていただいたうえで、補論という形で、お手元の資料で申し上げれば3 9ページからでございますけれども、補論3として、少子化対策についても有識者会議 におけるご議論の結果を報告書に盛り込んでいただいているところでございます。ま た、この少子化対策、あるいは支え手を増やすという文脈の中で、具体的にはお手元の 資料の40ページでございますが、外国人労働者の受け入れについてもご議論がございま して、その結果についても、報告書の形でまとめていただいているところでございま す。  私ども政府といたしましては、有識者会議の報告書を10月27日、森総理に提出いただ きましたものを受けて、税制あるいは財政という関連分野を含めた社会保障改革を進め るべく、政府部内に総理をはじめとする関係閣僚会議を設け、取り組んでいるところで ございます。今後、いただきましたご提言に基づいて、社会保障改革についてまた、関 係者の方々とご議論し、あるいはまた、与党の方々と連携をさせていただきながら、進 めさせていただくこととしております。雑駁でございますが、以上、報告させていただ きます。  宮澤会長  ありがとうございました。それでは次に、少子化に関する最近の動向につきまして、 厚生省児童家庭局企画課の蒲原少子化対策企画室長、よろしくお願いいたします。  蒲原室長  児童家庭局でございます。お手元の資料4をご覧ください。「少子化への総合的な対 応について」というタイトルで、1枚目のペーパーを中心に、現在の取り組みの状況を ご説明したいと思います。  平成9年に、この人口審議会でご報告をいただきまして、その後、厚生白書、あるい は官邸で設けられました少子化に関する有識者会議の報告を受けまして、現在の取り組 みは大きく2つの柱になっております。1つが政府。厚生省だけではございませんで、 関係省庁、非常にたくさんございますが、政府としての取り組みです。  もう1つが、この種の少子化の問題というのはやはり、政府、行政だけではなくて、 民間のいろんな取り組みが必要であり、国民的な取り組みをする必要があるという観点 から、少子化への対応を推進する国民会議を設けておりまして、大きく2つの柱で対応 しております。前段の、政府としての取り組みのほうですが、政府部内に少子化対策推 進関係閣僚会議として、総理の他、18省庁からなります関係閣僚会議を設けまして、こ れは以前にもご説明申し上げた事項でございますけれども、昨年の12月に、少子化対策 推進基本方針といいます、今後の進めていくべき方針を決めて、これにしたがって各 省、一生懸命頑張るということです。  もう1つは、具体的な政策目標。これは平成16年度の具体的な目標を入れたものでご ざいますけれども、新エンゼルプランという形で、具体的な数値目標を設けてそれに取 り組んでいくということをやっております。  これから、基本方針につきましても、実はフォローアップということをやろうという ことになってございますので、今後、そうした作業に取り組んでいくことにしておりま すし、新エンゼルプランのほうにつきましては、2年目でございます平成13年度の予算 に向けて、夏の段階で概算要求しているわけでございますが、保育所の関係の施策の充 実、あるいは今度、労働省と一緒になるわけでございますけれども、ファミリー・サ ポート・センターといったような、地域の様々な活動といったものもどんどん広げてい こうということで、現在、大蔵省に対して要求している状況でございます。  もう1つの柱、少子化への対応を推進する国民会議のほうでございますが、お手元の 資料の6ページに、この会議を構成するメンバーが入っております。実はこの国民会議 という名前が若干、誤解を及ぼすのですが、この会議で何か報告書をまとめるという性 格のものではございませんで、国民会議という名のもとで、国民運動を広げていこうと いう趣旨でございます。  具体的には、いろんな社会福祉関係あるいは保健医療関係の団体、教育関係の団体、 あるいは報道関係の団体、等々のトップの方々をメンバーとしております。この、国民 会議としてどういう取り組みをするかということを検討いたしまして、実はこの資料の 2枚手前、4ページでございますが、「国民的な広がりのある取り組みの推進につい て」ということで、この国民会議の第2回目が、今年の4月25日に、今度、国民会議と してどういうことに取り組んでいくかということを整理しております。ここでは概要だ けでございますけれども、国民会議自体としてのいろんな取り組みの他に、各団体がそ れぞれ、自分の団体としてやれることをきちんとやっていこうということで、とりまと めてございます。  現在、これにしたがいまして、たとえば国民会議としては全国的な普及啓蒙活動をや っておりますし、各団体におきましても、それぞれの立場で取り組んでいるという状況 でございます。来年から厚生、労働が一緒になりますけれども、厚生労働省の各施策の 有機的な連携というものを図りまして、私ども、一生懸命やっていきたいと思います し、さらに言えば、厚生労働だけではなくて、関係省庁に非常にまたがっておりますの で、関係省庁と連絡を密にしながら、一生懸命やっていきたいというふうに考えている ところでございます。以上、簡単でございますが、現在の取り組みの状況でございま す。  宮澤会長  ありがとうございました。最後に、第4件目でございますが、来年1月の中央省庁の 再編にあわせまして、本審議会を含め、厚生省関係の審議会が再編されることになって おります。この点につきまして、事務局からご報告をお願いいたします。  吉田企画官  お手元の資料の5でございます。「厚生省関係審議会の再編について」という資料を 用意させていただきました。今、会長のほうからもお話がございましたように、来年1 月6日に、中央省庁が再編されるのに伴いまして、政府の統一方針として、関係の審議 会についても再編統合、整理合理化をするということになりました。具体的には政策審 議、あるいは基準作成という機能を果たしておりました、これまでの審議会につきまし ては原則廃止ということでございまして、個別、法律により、とくに審議会という形で 必要的な付議をお願いする審議会を残すとともに、政策審議あるいは基準作成のものに つきましては、基本的な政策を審議するという形に変えまして、数を限定して存置する という、政府統一の方針でございます。  厚生省関係の審議会につきましては、現在、22の審議会がございますが、今、政府の 方針としてご説明申し上げました、2つの考え方に沿いまして、お手元の資料の (1)、(2)と分かち書きをさせていただいておりますが、基本的な政策を審議する 審議会といたしましては、とくに社会保障全体につきましての社会保障審議会と、技術 系、技術問題を中心といたします厚生科学審議会の2つとし、その他、たとえば障害あ るいは疾病の認定を行います疾病・障害認定審査会でございますとか、薬・食品の審議 をいたします薬事・食品衛生審議会、それから医療費を中心とする問題を議論いたしま す中央社会保険医療協議会、あるいは医療審議会、援護審査会、社会保険審査会とい う、行政処分あるいは不服審査を行う6つの審議会、都合8つに、22の審議会を再編さ せていただこうと思っております。  社会保障審議会につきましては、資料の2ページ目をご覧いただきますと、上に図が ございます。当人口問題審議会をはじめ、厚生統計協議会などの審議会を統合し、社会 保障審議会という1つのものにし、人数も30人以内という形で発足させていただくこと を考えております。この審議会につきましては、<参考>という形で所掌事務を書かせ ていただいておりますけれども、社会保障に関する重要事項、あるいは従来、当審議会 に担っていただいておりました厚生労働大臣あるいは関係大臣の諮問に応じて人口問題 に関する重要事項を調査審議したり、あるいは社会保障の問題、人口問題の重要事項に ついて審議会からご議論をいただき、意見をお述べいただくなどの機能を行っていただ くべく、設置するものでございます。  いわゆる審議会に対する諮問答申という位置づけにつきましても、先ほどの統一方針 により変更を生じますけれども、その中で引き続きお願いします、法定付議事項を審議 するために、この審議会には分科会を設けたり、あるいはそのときそのときの、大きな テーマ、あるいは具体的なテーマに基づきまして、審議会の議決により、部会という形 でご審議をいただくということが決められておりますが、具体的にこの審議会の運用等 につきましては今後また、私どもとしても整理しながら進めてまいりたいと思っており ます。  ということで、当人口問題審議会につきましては、1月6日の新省発足をもちまし て、社会保障審議会に統合という形でその機能を引き継がせていただくことになりま す。また、この審議会は、厚生省関係の審議会の再編にあわせまして、先ほどご報告い ただきました、内閣にございました社会保障制度審議会の、これまで社会保障や制度に 対するいろいろなご議論をいただきました機能につきましても、ある程度この社会保障 審議会の方で担っていくことになるというふうに承知をいたしております。  以上、簡単ではございますが、審議会の再編についてご報告申し上げました。  宮澤会長  ありがとうございました。それでは、ただ今いただきました4つの報告につきまし て、ご質疑がございましたらどうぞ、よろしくお願いいたします。どれからでも結構で ございます。  特段にはございませんでしょうか。これからの展開の方向いかんによるという部分が 非常に多いということで、質問しにくい面もございましょうけれども。よろしゅうござ いましょうか。それでは後ほど、何かございましたら戻ってご議論いただくことにいた しまして、次の、議題2のほうに移らせていただきます。最近の人口をめぐる課題につ いて、国立社会保障・人口問題研究所の阿藤所長よりご報告をいただきたいと思いま す。よろしくお願いいたします。  阿藤委員  阿藤でございます。最近の人口をめぐる課題についての話をということでございまし たが、恐らく、人口問題審議会もこれが最後であり、現在、人口問題として最も重要な 課題は何かということをここで提示し、宿題を残していくというような趣旨ではなかっ たかと思いますが、何しろ私1人で考えたものでございますから、後ほど、いろいろご 議論いただいて、新しい宿題になるものを残していければと思います。  資料6をご覧ください。最初の6ページまでにメモがございまして、7ページ以降に 資料がございます。時間が限られておりますので、資料のほうはなかなか見る時間がな いと思いますので、それは最小限に限らせていただきます。全体として、どういう課題 かといいますと、ひとつは世界の人口問題についての課題でございまして、それから大 きな2つ目が日本についての人口問題についての課題ということでございます。  最初の、世界の人口問題について。とりわけこれは途上地域の人口問題であります が、Iのさらに1のところに、全体のトピック的なことを示してございます。大きく は、人口爆発と言われた途上地域の人口増加というものが、90年代に入って沈静化して いるということです。爆発そのものが沈静化しているということであって、べつに増加 が止まったというわけではないのですが、そういう兆しがあり、そして新しい動向が見 られるということです。直感的にわかりやすい例としては、かつての2050年の世界人口 の見通しが、大体100億と言われていました。最新の国連推計では、これが89億に下が っているということが、この沈静化のひとつの表れであります。とくに90年代におい て、人口増加率が予想外に低下傾向を示しています。世界全体では1995〜2000年で1.33 %という低さであります。かつては2%を超えていました。  この、人口増加率が低下している主たる理由は、ひとつは出生率の全世界的な低下で す。もうひとつが、とくにサハラ以南のアフリカとロシア・東欧における死亡率の上昇 ということです。ご承知のようにサハラ以南のアフリカについては、主としてこれはエ イズの蔓延による死亡率の上昇であり、ロシア・東欧については、いわゆる経済体制の 崩壊に伴う経済社会の混乱と、それに伴うストレス等が理由として考えられると思いま す。  そういうふうに申したうえで、しかし、それでも今後15年間ぐらいは、世界全体で年 平均、7,000万人台の人口増加が続くという見通しでございますし、とりわけ世界の青年 期の人口が2000年現在で11億人弱と史上最大であり、しばらくそういう状態が続くとい うことも予想されております。  それから4点目では、国際人口移動の活発化ということで、かつては国際人口移動と いうと南北間だけでしたが、90年代に入って東西間、そして発展する途上国とそれ以外 の途上国の間で、いわゆる南と南の間の人口移動というものも活発化しているという状 況がございます。  最後に5番目としては、人口転換を終えた途上国において順次、高齢化が始まってい くということでございまして、今後とも、人口高齢化が世界全体として進んでいくとい うことが予想されております。世界全体で、現在65歳以上人口割合が95年で6.6%であり ますが、これが2050年には16.4%に変わっていくということです。  以上のような世界人口の動向について、とくに日本についての課題を2点ほどあげて おきます。ひとつは、カイロ会議で新しく登場しましたリプロダクティブ・ライツとい うものの原則に則ったリプロダクティブ・ヘルスサービスの促進、とりわけ家族計画の 普及ならびにHIV/AIDSの防止、そのための国際協力の拡大ということが望まれるという ことです。  第2番目は、今お話ししたカイロ会議、94年の国際人口・開発会議というのが正式名 称ですが、そのカイロ会議で20年間の行動計画、プログラム・オブ・アクションという ものが採択されました。カイロ会議から10年後の2004年に、従来の会議と同様に、この 行動計画のモニターと、カイロ会議では十分に議論されなかった課題、たとえば先ほど ご紹介しましたようなエイズでありますとか、あるいは人口・資源・環境の相互関係、 そして日本などにとくに関係する少子高齢化、国際人口移動などを議論するための新た な国際的人口会議、いわばカイロ+10というものを開催すべきかどうかということが 今、ひとつ、国連、政府間で課題になっております。具体的には来年の4月2日から6 日にかけて予定されております国連人口開発委員会でそれを開くかどうかということが 議論されますが、日本ではこれについてどう考えるかということが、ひとつの課題であ ろうと思います。  大きなIIに移ります。日本を含む先進地域の人口問題でございます。ここでは、少子 化と少子化を踏まえた日本の将来人口推計の問題、そして最後に、最近、国連で研究成 果が出ました補充移民という、3つの問題を扱っています。これは同時に、先ほどから ご紹介のありました、社会保障の審議会等の報告においても扱われた問題であります。  最初に少子化です。少子化の動向はとくに今、世界全体で大きく変化しているわけで はございません。先進諸国の出生率は、現在でもほぼ、すべて、いわゆる人口置換水準 である2.1程度の水準を下回っております。しかし、地域間の格差が大きいということも 周知の事実でありまして、いわゆる英語圏の国々、そして北欧諸国は相対的に高い立場 にあり、そして南ヨーロッパ、日本、ドイツなどが低い位置にあるということでありま す。この、少子化の人口学的な背景としては、これも周知のことでありますが、全般的 に結婚・出産年齢がこの20〜30年、上昇が続いているということがございます。要する に20代でだんだん子どもを産まなくなる、結婚をしなくなる。そして、出生率が下がっ ていくということでありますが、現在の国別の出生率の違いを生んでいるものは、ひと つは今お話しした出産の延期(postponement)によって20代の出生率がどれぐらい低下 していくかということがありますが、もうひとつは、30代における出産の取り戻しとい いますか、これもまた最近、英語でrecuperationとよく言われますけれども、そうい う、出生率が今度、30代で取り戻して上昇していく、その2つのいわばバランスがうま く働いているところが高めになり、うまく働かないところが低くなるという状況が出て きているわけです。  先進国全体としての少子化の背景というのは、かねてからいくつか指摘されていま す。ここでは詳しい説明は省きますけれども、とくにヨーロッパを中心としては、いわ ゆるピルでありますとか人工妊娠中絶等が広がって、出生抑制行動が普遍化し、そして 効率化していったということが指摘されております。これは日本については直接には関 係ございません。それからヨーロッパ、アメリカ等で2番目には価値観の変化というこ とです。これは、いわゆる教会離れといいますか、それまでの社会的な規範が崩れて世 俗化し、そして若者の意識が非常に個人主義化しているということ、いわゆる自己実現 というものを至上の価値にするという考え方が強まっているという見方です。日本で は、これもやや違ったサイドでの変化ということで、山田先生等によってパラサイト化 というようなことが言われているところであります。  3番目は、女性の社会・経済的な地位=役割の変化。いわゆる高学歴化、雇用労働市 場への進出、男女の賃金格差の縮小等々が少子化の背景にあるということです。  最後にあげた「子どもの消費財化」というのは育児コストの上昇でありますとか、あ るいは逆に、親が子どもから得る効用の減少等を含めた意味でありますが、そういう現 象がこの問題に関係があるのではないかということが、様々な形で指摘されています。  そういう少子化というものが、もう既に四半世紀、あるいは四半世紀を超えて続いて いるということで、ヨーロッパを中心に、今、第2の人口転換(The second demographic transition)論という議論がかなり力を持ってきているということであり ます。この理論の中身としては、先ほど申しましたように、若者の価値観というものが 自己実現ということを中心に、たいへん大きく変わってきていて、それにしたがってす べての人口学的な行動を選択するという形に変わってきているということがひとつで す。もうひとつは、図5をご覧ください。これは、第2の人口転換論の主張者でありま すヴァン・デ・カーという人が描いた模式図です。少しご説明しますと、この図の左側 のほうは、今から言えば第1の人口転換で、多産多死から少産少死へという、そういう 変化を示したものです。この時代に、つまり伝統社会から近代社会に移って、そして出 生率も死亡率も下がるけれども、その間に大きなギャップが出るので人口増加が続く。 しかしやがて、出生率、死亡率がともに下がってくると、少産少死で人口が増えも減り もしない状況になっていく。人口増加が続く時期にはむしろその国からは人口を押し出 す、移民を送り出す圧力が働くという、そういう図式になるわけであります。日本も概 ね、そういう経験をしたわけでありますが、それに対して現在の先進国は、この第2の 人口転換ということで、死亡率が出生率を恒常的に上回るということで、自然増加とし ては恒常的にマイナスになる。つまり、ほうっておけば人口がどんどん減っていくとい う姿であります。それを補うべく、いわば国際的には、移民がむしろプラスで入ってく る、純移動がプラスになるという社会状態、人口状態に変わってくるという見方であり ます。  そういう見方が正しいかどうかは別にしても、先進国がこの四半世紀、この第2の人 口転換に要約されたような動き方をしつつあるということも間違いのないところであろ うと思います。このような見方はこれはあくまでも、少子化というものがもうほとんど 先進国にとって、やや普遍的な事実として受け入れざるを得ないという見方であります が、しかし少子化ではあるにもかかわらず、3ページの4にありますように、先進国間 で出生率にかなりの格差があります。先ほど申しました2つのグループで言えば、北欧 や英語圏では出生率が1.7〜2.1ぐらいですが、南ヨーロッパやドイツ語圏、日本などで は1.1〜1.4ということで、平均的には子ども半人分ぐらいというと語弊がありますが、 0.5ぐらいの違いがあるわけです。その2つのグループをおおまかに比較してみますと、 これもまた、かなりはっきりした傾向がございまして、意外に、むしろ女子労働の参加 率が高い前者のグループのほうが、低いグループよりも出生率が高い。言い換えれば、 男女共同参画が進んだ国ほど出生率が高い傾向が見られるということがあります。こう いう事実を捉えて、私も含めて2〜3の海外の研究者が、4の(3)にありますよう に、社会経済的な場面での男女平等だけが進んでも、もう一方の家族・家庭における場 面での男女平等が進まないかぎり厳しい少子化状況を招くという見方を提示していま す。  少子化問題についての、日本にとっての課題ということで、いくつか書かせていただ きました。ここで、べつに私が答えを出すつもりではなく、問題提起の意味で出しまし たが、ひとつは先ほどもご紹介がありました、90年代の政府による少子化対策というも のが、一応、10年間、一気にではありませんがある意味では段階を追って進められてき たわけですが、出生率の上昇にとって、結果的には有効ではなかったということが言え そうですが、いったいこの理由をどういうふうに考えるのか、ということであります。  それから、日本も含めて、20代の結婚・出産がたいへん低くなっています。そして、 結局、30代でどれだけ子どもを産み、育てられるかということが一種の、出生率のキー ポイントになりつつあるということでありまして、この30歳代での出産・育児をしやす い社会環境がどの程度、整備されつつあるかということを、これから、とくに問うてい く必要があるのではないか、ということがあります。  3番目は、今の2つ目とも密接に絡みますが、仕事と家庭、とくに家事・育児が両立 できる社会環境がどの程度、整備されつつあるかということです。同じことを別の言葉 で言えば、日本社会というものが、family friendlyな男女共同参画型社会に今後、うま く変化していけるかどうかということが問われるところであります。  次の問題は、日本の将来人口推計についてであります。毎回、人口推計というもの は、国勢調査が5年ごとにございますので、その国勢調査の結果を踏まえて改定すると いうスケジュールになっております。そういう意味では、この2000年のいわゆるミレニ アム・センサスの結果が来年の秋に発表されるということですから、2001年あるいは 2002年の初頭には、その結果を踏まえて将来人口推計を改定する必要があるということ になります。  そこで、最後の機会ですので、あらためて将来人口推計というのは、いったい何なの かという、その意義と限界というものを考えるといいますか問題提起しておきたいとい うことで、3ページの下のところに書きました。  意義のほうですが、これは先進国の場合、たいへん出生率の動向が不安定でありまし て、なかなか先行きの見通しが難しいという状況ではありますけれども、死亡率と、た とえば国際人口移動の趨勢をある程度予測できれば、20〜25年先までの生産年齢人口あ るいは老年人口あるいは老年従属人口指数というものを、かなり的確に予測できるでし ょう。結局、人口推計の最大のメリットはここにあるのではないかということでありま す。とくに先進国の場合には、死亡率がそう大きく変化いたしませんので、人口移動が ある程度うまく読み込めれば、子どもの人口は関係なしに、働き手と高齢者の人口がか なりの精度で予測できる。そこに社会保障の推計等も含めて、大きなメリットがあると いうことであろうと思います。それから、20〜25年先のさらに40年、50年といったとこ ろについても、超長期の人口変動の方向性といいますか、たとえば50年間、人口がどう いう趨勢で増えていくのか減っていくのか、高齢化の方向がどこまで続くのかといった ことを示すことができるということが、大きな意義ではないかと考えます。  それに対して、現在の日本を含めた先進国の将来人口推計の限界というと、それは言 うまでもなく、出生率の見通しを立てることがたいへん難しいということです。それは この審議会でも、人口推計に関して厳しいご批判をいただいて、重々、承知していると ころでございますが、しかしこれはべつに日本だけが難しいのではなくて、他の先進国 もみな、頭を抱えている問題だということであります。  それはひとつには、先ほどご紹介しましたが、かつては国連も含めて、人口転換論と いうものに乗っかって、ある程度、そういうものを前提にして出生率の見通しを立てて きたのですが、それは、出生率・死亡率がほぼ均衡するということ、出生率がほぼ人口 置換水準の2.1ぐらいに収まるということを前提に考えてきたわけでありますが、今やこ の第2の人口転換論で示されるように、もう、とても2.1を維持する状況にはない。しか しながら、出生率が、いったいどこまで下がるのか、あるいはどこまで下がってそのま ま平衡状態を維持するのか、そのあたりを示すような理論というものはなかなかないわ けです。第2の人口転換論はあくまでも、置換水準を維持するのは難しいということは 言っていても、出生率がどのへんになるのかということはなかなか指し示してくれませ ん。あるいは、経済学者の間でたいへんポピュラーな、出生力の経済理論といったもの も、なかなか、それ自体が的確な出生率の見通しを与えてくれるものではありません。 このような現実があるわけです。  国連の人口部では、2年ごとに先進国も含めた人口推計の改定を行っていますが、こ こで表4をご覧ください。これはいくつかの主要な国をあげてきたものですが、比較 的、高出生率の北欧でありますとか、あるいは英米、フランスなどの国については、か なり人口置換水準の2.1に近いあたりへの出生率の回復を想定した推計を行っています が、ドイツや日本、イタリアになりますと、反転はするものの、置換水準を大きく下回 るという仮定となっています。そういう状況でございます。  出生率の問題、とくに人口推計に絡んだ出生率の仮定を考えることはたいへん大きな 課題であるわけですが、つい先般、2000年の10月に、国連で人口に関する一種の専門家 会議がありまして、そこで私も含めて議論をしたときに、どうもドイツやフランスの学 者は、人口推計における出生率とか死亡率というのは、もうこれはシナリオだというふ うに、かなり割り切って考えているということがわかりました。ところが日本では、か なりこれを予測として見ています。つまり人口の予測というよりも、むしろ出生率も予 測なんだという、何かそういうニュアンスがたいへん強いという印象を、その会議で持 ちました。フランスなどでは、出生率の仮定というものを推計時点でコンスタントに考 えるわけです。一定不変というふうにして、推計を行うということをやっていますが、 これはまさにシナリオという考え方だと思います。このへんをどういうふうに考えるか ということが、ひとつございます。  それから、もう少し中身を問うとすれば、人口学的には、先ほど申しましたように、 いつまで20代の出生率低下が続くのか、そして30代の出生率の上昇がどこまで可能かと いうことが、とくに日本の場合は大きく問われるという時代に来ております。それから 中身の点で、社会経済的あるいは政策絡みでは、先ほど申しましたように、日本の社会 というものが、今後、どのぐらいfamily friendlyな男女共同参画社会に変わっていくの かということも、ある程度、考えなければなりません。あるいは、日本の青年層におい て、このままパラサイト化が続くのか、あるいはもう少し違った、家族形成意欲を持つ のか、というあたりが問われるところであります。  最後に「補充移民」(replacement megration)という、ちょっと耳慣れない概念を お示ししました。これは、先ほどご紹介した2000年10月に行われた国連の専門家会議で 正面から取り上げられた議論でありますが、国連がこの春に、先進国について、新しい 補充移民という概念を使って、背景としては一種の推計値といいますか、試算値を出し ました。その、先進国が全体として、遅かれ早かれ21世紀の前半に人口減少を始める、 高齢化が程度の差こそあれ進んでいく、そして老年従属人口負担がたいへん大きな社会 になっていく、ということがございます。それを人的に緩和する手段としての移民とい うのはいったいどの程度のものであろうか、ということを試算したわけであります。  5ページになりますが、要するに、そういう超高齢・人口減少社会の到来に対して、 メモとしてお示しした部分にありますように、女性や高齢者がもっと働くとか、そうい うことはもちろん、いろんな形で提案があるわけですが、それに加えて移民というもの をどう考えるかということであります。表6でございますが、これはいちばん最後の表 です。これは国連の推計といいますか試算した数字をそのまま示したものであります が、時計数字のIII、IV、Vというのが一種のシナリオでありまして、時計数字のIII は、たとえば日本が1995年の総人口が1億2,700万程度ですが、その総人口をそのまま 2050年まで維持しようと思ったら、いったいどれだけの純移民、純移動による移民を必 要とするのか、という計算であります。55年間では1,700万、それを年平均にすると下 の表にありますように31万。ですから、おおまかに言うと、年間30万の純移民が入って くると、総人口が維持できるということです。そして時計数字のIVは、今度は15〜64歳 の生産年齢人口をそのまま維持しようと思ったら、いったいどれだけの移民が必要かと いうことです。55年間では3,300万、1年間に60万程度の移民が必要であるということ です。最後に時計数字のVでは、いわゆる高齢者、65歳以上人口を分母に、そして生産 年齢人口を分子にした、potential support ratesという比率を国連が提案している のですが、それを仮に潜在扶養指数とします。これまで使われている老年従属人口指数 の逆数です。ですから、今までの言葉を使えば現在の老年従属人口指数を維持するため には、いったいどれだけの移民が必要かというと、55年間で実に5億5,000万、1年間に 1,000万の移民が必要だという試算になるわけであります。  これは日本の新聞にも出たことがございますけれども、とりようによっては計算のた めの計算というふうに捉える向きもあろうかと思います。ただ、ひとつの見方として、 これから日本が進んでいく、この超高齢人口減少社会への対応策として、いったいこう いう補充移民というものがどの程度、現実性を持つのかどうかということも、やはり考 えてみる必要があるでしょう。仮に、補充移民というものの数字自体が非現実的だとし ても、日本の経済社会が今後、こういった恒常的な移民の受け入れなしに成り立つのか どうかということも、われわれは考えていく必要があるのではないかという問題提起で あります。  宮澤会長  たいへん貴重なお話をありがとうございました。それでは、ただ今のご報告につきま して、ご質問等をよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。  ひとつの焦点を挙げてみますと、3ページの5として、日本にとっての課題というご 説明がございました。(1)〜(4)までの論点です。(1)90年代の少子化対策が、 出生率上昇にとって有効でなかった理由は何か、ということで、主要な側面として、 (2)ひとつは30歳代でどれだけ出産を取り戻しできやすい社会環境が整備されている かどうか、これに大きく関わるということ。それから、(3)その要因として、仕事と 家庭を両立できるような環境いかん。それからもうひとつは、(4)社会的な場面だけ ではなく、家庭の場面で男女平等が進んでいるような変化がなければならない。そうい う整理でございます。理由として挙げられた(2)、(3)、(4)は、いずれも非常 に重要な点ですが、それぞれ、相互に関連するような面もあります。このあたりをめぐ って、委員のほうからご意見はございますか。今後の問題を考えるうえで有益かと思い ますが、いかがでございましょうか。  清家委員  これは以前から、よく議論になるところだと思いますけれども、少子化と経済成長と いうか、あるいは1人あたり所得の間の関係について、1人あたりの機会費用、とくに 女性の子育ての機会費用が高くなることが出生率を低下させるというような考え方と、 もうひとつは、これは確か以前、ここにいらっしゃる八代委員なども言われていたかと 思いますけれども、子どもがもし、消費財ないしは贅沢財的なものになるとすれば、む しろ1人あたりの所得が高くなることで、もっと子どもを消費しようというような傾向 も出てくるのではないか、と。仮に後者であるとすると、90年代の少子化対策が効かな かったのは、やはりその、所得の伸びが低かったことが子どもを購買する力というか、 子どもを消費するパワーを低下させて少子化が進んだかもしれないというふうにも考え られるわけですが、阿藤先生は、1人あたりの所得と出生の間の相関については、プラ ス説とマイナス説、どちらのほうが妥当だとお考えになっているのか、ちょっとこれは 経済学上の興味の部分になるかと思いますが、お聞かせいただけますでしょうか。  阿藤委員  これは経済学者におまかせしたい質問ですけれども、私自身は短期に……短期がどこ までかということはあると思うのですが……考える場合には、そういうものも重要かと 思いますけれども、やはり、もともと出身が社会学なものですから、もうちょっと物事 を社会構造的に考える傾向がありまして、その際に所得の高さというものがどれぐらい 子どもの数あるいは子どもを産むタイミングに効くのかどうかというのは、極端に言う と、それほど重視していないということにもなります。ですから、この5番で書いたよ うな、あるいは推計のほうの課題に書きましたものも、基本的にはそういう社会学的な サイドから見た構造的な問題であろう、と。やはり仕事と家庭が両立しにくい、という ふうなことがこの問題の中心的な問題ではないか、と。それはもちろん、経済学的に表 現すれば、機会費用が高いからだというような言い方にもなるでしょうけれども、その 点で、どうも所得というものの意味はそれほど重視していないということでございま す。  ただ、たとえば先進国でもイタリアあたりの国について言うと、若者の失業率がたい へん高いということがあって、そのこととこの問題がしばしば関連づけて論じられてい るのも事実です。ですから、所得の低い高いよりも、むしろ失業ですと所得がないとい いますか、そもそも家族形成がしにくい、世帯を持つことが難しいという、そういう問 題は、国によっては起きていると感じておりますけれども。  八代委員  阿藤さんとは、別の場所でも議論しているのですが、社会構造とか、構造を重視する というふうにおっしゃるときに、その構造は何によって規定されているのか。文化と か、そういう変わらないもので規定されているのかどうかというふうに考えるかどうか によって、政策の意味が違ってくるわけなんですね。社会構造で、こういう出生率みた いなものが決まるんだったら、もう、人々の意識を変えるしかない。それにはすごく時 間がかかる。だから、もう移民しかないという論理になる。それに対して、われわれ、 評判の悪い経済学者は所得という変数で考えることによって、それを操作することによ って人々の意識自体を変えられるんじゃないか、と考えるわけです。そこがかなり大き な点だと思います。  今、失業率の話が出ましたが、現在、確かに日本は失業率が高く、非常に暗い状況で すから、出生率が落ちるのものあたりまえだというふうに、そこだけを見れば納得でき るんですが、出生率の低下というのは、日本のブーム期にも起こっていたわけですね。 ほとんど完全雇用に近い失業率2%のときも出生率は落ちていたわけですから、やはり もっと長い目で考えたら、そういうアドホックな要因だけではなくて、やはり所得の上 昇、とくに私は清家さんがおっしゃった、家族の所得の上昇の効果よりも、女性の所得 が上がることによって、子どもを持つことの機会費用が大きくなってきているというこ とが出生率の低下と関連していますし、ロジックにもあうのではないだろうか。ですか ら、ここで書いておられますように、仕事と家庭を両立できやすい環境をつくるという ことが、まさに北欧型のように女性の地位を高めるとともに、出生率も上がるという道 になるわけで、そのあたりの意識は政策によって変えられるのではないかということで あります。  ですから、もちろん長期的には移民に頼らざるを得ないと思いますけれども、それ以 前にすることはいっぱいあるわけです。なぜそれがわかっているのにできないかという と、今、座長がおっしゃいましたように、5の、たとえば(2)とか(3)とか(4) がなぜできないのかということを、本当は考えなければいけない。それは明らかに、こ れをすることによって損をする人がいるからなんですね。出産育児をしやすい社会環境 を整備することによって、あるいは仕事と家庭を両立できるような社会環境を整備する ことによって誰が損をするのか、そういう人たちがこれを妨げているんだというふうに 考えていったら、それをどうしたらいいか、という問題が出てくるわけです。ですから やはり、そこはどこまで政策変数を考えるかによって、かなり出生に影響を及ぼすこと になります。  それから、ついでに、先ほど20ページの表6でご説明いただいた中で、先進諸国、地 域における移民のシナリオですが、韓国の数字の異常さといいますか、生産年齢維持の ための移民というのは6,000人で、たいしたことはないんですが、潜在扶養指数維持のた めの移民が、日本よりはるかに大きい。何かここにやはり、こういう、機械的な計算の 落とし穴というか誤差というか、結局これは、たとえば女性とか高齢者がどれだけ働い ているかとかいう、労働要因をまったく無視して、単なる人口要因だけで計算するから こういうことになっているのではないだろうか。韓国もかなり、女性の就労率が低い国 ですから。ですからそこは、難しいかとは思いますが、人口よりはむしろ就業率とか労 働市場の要因を入れることによって、たとえば移民の必要量を計算する場合でも、もう 少しリーズナブルな数字が出るのではないか。これはぜひ、あとで教えていただければ と思います。  阿藤委員  最後の表6ですが、これは国連で出されたとおりのものです。そのときにも、ちょう ど今、八代先生がおっしゃったように、生産年齢ではなくて実際の労働力人口でやらな ければおかしいんじゃないかというような批判が出ました。ただ、ご承知のように、労 働力人口自体を、将来についてどう予測するかというのはたいへん難しい問題があるの で、そこで人口だけで予測すればば非常に単純で、メカニカルではあるんだけれども、 その意味するところはかなりはっきり出やすいという側面もあるように思います。です から、もちろん、両方やればいちばんいいということだと思います。  それから、韓国の数字の異常さというのは、要するに韓国が今、人口転換を終わった ばかりで、一種の生産年齢人口が大きい、非常に若い人口なんですね。それがこれか ら、高齢化がどんどん進んでいくということで、まさに生産年齢人口と高齢者の比であ る潜在扶養指数というものが、日本以上、今の先進国以上に急激に変わっていくという ことで、こういう異常な数字が出るということであります。  私自身は、最初は日本についても、とくにシナリオの5のような、年間1,000万という のはまったくアンリーズナブルなといいますか、とんでもない数字だというふうに思っ て見たんですが、たとえば総人口に対して30万というと、それほど荒唐無稽でもありま せん。日本の一時期といいますか、あるいは年によって違いますけれども、外国人の純 移動というのがプラス10万ぐらいだったことは何年もあります。そういう意味で言う と、60万はまだ相当遠いですが、これからの21世紀に、30万という数字は決して荒唐無 稽ではないという印象を持ちました。  それから、3ページの5の話は、ご議論の中で、私と八代先生はそんなに意見が違う かというと、どうもお聞きしていると、それほど違わないという感じもいたします。構 造的といっても、それは政策も含めて、まさに仕事と家庭が両立しやすい環境に変わっ ていかなければいけないということがございまして、そこからもう一歩踏み込んで、文 化というと、かなりこれは、なかなか変わりにくい側面がありますが、構造的な問題と いうのは、ある意味では政策によって変えていける部分だというふうに考えます。しか し、同時に、そうは言いながら、やはり日本の社会の場合、どこかでもう少し、文化的 なものも変わっていかないと、なかなか難しいということもあるように私は思っており まして、とくに今、世界の先進国の中で出生率がたいへん低いのは、南ヨーロッパ、ド イツ語圏、そして日本を含む東アジアなんですね。これはそれぞれ、みんな、文化は違 うんですけれども、日本を含む東アジアは儒教文化圏であり、南ヨーロッパはマチズム と言われる伝統文化があり、ドイツの家父長制的なものが仮に今でもあるんだとすれ ば、そういう、男と女を非常に差別化する、男と女にはっきり分ける、そういう文化の 強いところで、なかなかこの問題の解決が難しくなっているということも、どうもある ようなんです。だから政策的にどうするかというのはたいへん難しいんですけれども、 そういうことを認識したうえで考えていかなければいけません。逆に言うと北欧や英米 のような社会よりも、より強い政策をとっていかないと、なかなかこの問題の解決は難 しいのではないだろうかという感じを持っております。  落合専門委員  今の、所得か文化かという、経済学者と社会学者の議論みたいなことに関連してです けれども、所得か文化かというのは、ちょっと極端だと思うんです。私は、人間は損を するようには行動しないという、経済学的なものの考え方で基本的にはいいのではない かと思っているんですが、その場合の損をするとか得をするというときに、人々が考え ているのは、所得だけではありませんよね。自分の生活の質みたいなものを保ちたいと 思うのではないかと思うんです。生活の質が何によって構成されているかというと、私 がいちばん思いつくのは、所得と家事労働と、それから自由時間です。それがあわさっ て、生活水準というものをつくっていると思うんです。ですから、ただお金がもうかる というだけでは人はその選択をしないんだろうと思います。  女性のパートタイマーというのは、ある意味で非常に経済的に合理的な選択をしてい るとも言えまして、つまりそのぐらい広く、経済学的という言葉を使うとすれば、非常 に合理的でして、自由時間をほどほどに持ちつつ、それから家事というか生活にも手を かけて、ある水準を維持するためにはあのぐらいしか働けないというようなことだろう と思うんです。そういう意味で、そのぐらい広く考えて、人々の合理的行動というもの を考えていったほうがいいのではないかというふうに思います。そういうふうに考えま すと、男性も働きすぎですと、自由時間もないわけですし、働きすぎで生活水準が低下 しているなあというふうに感じることがあると思うんです。本来なら今のパートタイ マーくらいの労働時間をフルタイムということにして、みんな自宅で夕食を食べられる ようにしたいですよね。 そういうことを考えますと、男女共同参画型社会というの は、女性はもっと働いて所得を増やして、男性はもうちょっと働く時間を減らして自由 時間と、それから少しは家事とかをして、身の回りのことを自分の好きなようにやって みるという、そういう社会であるわけで、そういう意味で、生活者としては(2)〜 (4)というようなことでは、男性も女性も、得をするんだと、非常に素直に私は思う んですけれども、そこで八代さんに質問なんですが、(2)〜(4)で損をする人とい うふうに、さっき曖昧におっしゃいましたけれども、どういう方のことを考えているの か、ちょっと教えていただきたいと思います。  八代委員  それを言うと長くなるので遠慮していたんですが、せっかくご質問をいただきました ので申し上げます。私はやはり、これは社会学か経済学かということに少し関係すると 思うのは、何が望ましいということを社会学の方は当然、おっしゃって、その中身はべ つに経済学とそんなに変わらないんですが、どこを押せば、どういうふうにすればそれ が解決できるかという、もうちょっとクリティカルなところでやはり、社会学の方は 人々の意識が変わらなければいけないというふうに考えられると思うのです。ただ、わ れわれはもう、マルクス以来、意識を変えるのは制度であると考えます。この制度を変 えれば人々の意識も否応なしに変わっていくのではないか、と。  今、ご質問をいただきました、誰がこういう5の(2)〜(4)に反対しているかと いえば、それは大企業の、日本的雇用慣行の受益者といえます。女性が家事と子育てを し、男性が働くという形で、家族ぐるみで雇用する日本的雇用システムということがあ ります。これは決して文化ではなくて、まさにそれが企業から見れば合理的というわけ です。男性に徹底的に企業内訓練を与えて、転勤をはじめ、自由に労働者を使って、家 族はそれについていくという、高度成長期型の働き方が、これまで日本では合理的であ って、それを守ろうとする勢力からすれば、女性が働いて、今おっしゃったように男女 がともに平等に、フレキシブルな労働時間で働くということが脅威になるわけです。そ の具体例を申し上げますと、たとえば派遣労働とかパートタイム労働のような弾力的な 働き方を「好ましくない働き方」であるというふうに定義して、そういう働き方を規制 するという動きがあるわけです。そういう具体的な、この法律を賛成するか反対するか というような論議に結びつけて、かなり生臭い話に持っていかなければ、いつまでたっ ても「将来、男女共同参画社会になっていけば、」というような議論で終わってしまう んじゃないか、と。  男女共同参画社会が望ましいとすれば、そのためにどうしたらいいかというと、そこ でひとつのカギとなるのは、今の労働市場の規制であるというのが私の考え方でありま す。それを言いますと、またいろいろ角が立ちますので、先ほどのような言い方になっ たのですが。今の男性中心社会というのは決して意識の問題ではなくて制度の問題であ って、実際には、たとえば派遣労働法、労働基準法、職業安定法といった具体的な法律 をめぐる対立に還元されていくということであります。  宮澤会長  落合専門委員、よろしゅうございましょうか。  落合専門委員  日本型の会社の経営層と、それから労働組合でしょうか、そのあたりが反対している ということだろうと思うのですが、おっしゃることにはほとんど賛成ですけれども、し かしある意味で、その人たちはそれで得をしているというふうに、勘違いをしていると いう面もあると思うんです。つまり虚偽意識ではないか、と。だから、虚偽意識を暴露 していくことで、ある程度、何かが変わるかもしれないという気もしております。男性 は搾取されているということに気がついていないと思います。  山田専門委員  これがもう、最後の機会ですので申し上げます。落合専門委員が男女の観点から述べ られたのと同じように、今度は若い人の観点から、人口問題もしくは社会保障問題の質 問というよりも、半分、意見を述べさせていただきたいと思います。  阿藤委員も、日本の青年層の家族形成意欲であるとか、また、先ほどの社会保障に関 する2つの報告の中でも、世代間対立ということが言われていました。私は最近、若い 人の希望というものに関心を持っておりまして、村上龍さんが、今の日本の豊かな社会 には何でもあるけれど希望だけはないというふうに、小説の中で言っていたことを鑑み まして、希望の社会心理学というものを今、研究しております。そこで出会ったのは、 希望というのは努力が報われるという見通しが生じたときに希望は生まれる。逆に努力 してもしなくても同じだと考えたときに失望、絶望が生まれる。それを考えてみるとき に、先ほどの報告の中で、世代間の不公平というのは解決可能だというふうにおっしゃ ったのですが、実はそれが家族の外で、世代外の不公平に移行されてしまうのではない か。はっきり言えば、遺産であるとか贈与であるとかによって、親の援助を受けられる 若者と、親の援助を受けられない若者というものが生じてきてしまっているのではない か。それはもちろん、私も一度、若者代表として有識者会議の中で意見を述べさせてい ただいたんですが、その際に、そういう状況の中で希望が持てるのだろうか。つまり親 の援助があてにできる者は努力してもしなくても豊かな楽な生活ができるから構わな い。逆に、親の援助が期待できない者は、ますます絶望、失望をつのらせる。今、豊か になった社会であるからこそ、そういう状況が起きているのではないか。もちろんこれ は、報告書の中で述べられているように、社会保障制度の外側の問題であるかもしれま せん。 しかし八代委員がおっしゃったように、やはり制度が意識をつくるというのは多分、私 も大賛成でありまして、今、ある制度というものが、何か歪みをもたらして、そのよう に若者の希望を奪っているのではないか、と。  私は、家族形成意欲というものは、もともとあるというふうに思っております。そう しますと、子どもの数というものは、もしかしたら若者の希望というものの関数なので はないか、という意識を持っております。いろいろインタビュー調査をしていいます と、今、親の援助がなくて自立をして子どもを育てている世代に、非常に社会保障に対 する不信感が根強い。つまり、私たちにはもう何も社会はやってくれない。にもかかわ らず、子どもを育てて将来の税金、年金を払う人を育ててしまっている。やはり困るの ではないか。やはり、いわゆる自由主義社会というものの社会心理的な基礎というもの を今、考えなくてはいけないのではないかという気がします。今、自由社会が活性化す るということは、多分、若い人の希望というものにかかっているんだと思います。その ためには、どのような親のもとに生まれていても、努力が報われる社会というものをつ くりあげなくてはいけないのではないかと思っております。  ですから、先ほどから問題になっている5の(2)〜(4)というものがありますけ れども、それを進めることによって、私は方向は間違っていないと思います。そうい う、男女共同参画を進めて、そして若い人、とくに若い女性の努力が報われるような社 会、夢と希望というものができるかどうかというのが、今後の少子化社会の活性化とい う問題の対策になると思っております。私も43になったので、もう、若い人の代表かど うかわからないんですが、私が若い人にインタビューする中で、「結婚して子どもを持 つなんてばかのやることだ」とかいう意見が出てきたり、「コネでいいところに就職し ちゃって、あとは楽に暮らしたい」というような人がいるわけです。そうすると、も う、やる気のある若い人というのは海外に出ていくか、村上龍さんの小説にあるよう に、日本の中に別の国をつくるか、そういう選択肢しかなくなってしまうとしたら、ま ずいのではないか。最後になるかもしれませんので、若い人の意見を代弁して言わせて いただきました。  安達専門委員  私も今日で最後になるかもしれませんので、意見を述べさせていただきます。私は大 学の教員をしていることと産婦人科の医師をしているということ、それから少子化対策 有識者会議では、八代先生と同じように委員のメンバーでありましたので、その立場か ら申しあげます。今、山田専門委員がおっしゃった、若い人の意識というものから述べ たいと思うんですが、やはり少子化対策がうまくいっていないということ、あるいはそ ういう状況が進んでいることの中には、若い人たちの意識として、子どもがいるという ことで自分の人生が豊かになるかとか得をするかということの、その価値観がやはり変 化してきているのではないかというふうに考えます。ですから、やはり物質とか金銭と か時間の問題などを比べても、今、比較的若い世代で子どもがいることによって、自分 が人生において得をしているという意識がない、損をしているという意識を非常に強く 持っています。意識の中では子どもを持ちたいという願望を若い人たちは持っているの ですが、今の時点ではそれによって非常に損をするという意識を持っているんです。そ の問題は基本的には日本の教育の中で、偏差値や受験やいろんなことも含めて、今とい うものを非常にスコア化して評価していく、先の展望というものを持たせるような教育 をしていないという、そういうことにも関係があるのかなと思っております。  それから5の日本にとっての課題として(1)〜(4)まで書いてあります。これは まったくこのとおりで、30代からの出産や育児ということも非常に大切なんですが、も うひとつここに加えてほしいと思っているのは、むしろ若いときに子どもを持つという ことを考える方たちの支援です。そうしますと、逆に30代から勉強するシステムの整備 とか、30代から専門職のための技能を磨くことができるようなシステムの確立、あるい は30代から仕事に就労できるシステムということがあると思います。もちろん、それに はバックアップとして、若いときに生まれた子どもを社会的にきちんと見られるような 体制の整備が必要なんですが、今言ったようなことの整備も一緒にあわせていかなくて はいけません。私、産婦人科医の立場から言いますと、30代後半になってから妊娠・出 産しようと思ったときには妊娠・出産しにくくなっているという現状も実際にあるわけ で、そういうことも考えて、今のようなことも必要なのではないかと思います。  宮澤会長  ありがとうございました。他に、まだ発言なさりたいようなお顔がたくさんあるよう ですが、どうぞお願いいたします。  大國委員  先ほど、八代先生、それから落合先生のほうから、損をする者が反対しているという ようなお話で、相当、決めつけられてしまったんですが、私は日経連の副会長をやって おりますが、王子製紙の社長でございます。大企業だからどうだとか、そういうことは 実はまったくないと思うんですね。大きい会社でも小さい会社でも、今、日本の会社と いいますか、国際的な競争をさせられている企業というのは、もう、ものすごくぎりぎ りなんですね。けれども、今度の新会計制度等によって、どんどん利益金というか、そ ういう経費というのが持っていかれてしまう。その中で戦っているわけで、ほとんどの 従業員というのは相当、サービス残業というのはあたりまえということになってしまっ ているんです。決して私はそれが正しいと思っているわけではありませんし、企業とい うのは、しかもしっかりした企業になろうとするためには社会貢献ということも十分、 やるべきだと私は思っておりますし、事実、王子製紙としてはいろんなそういう経費も ずいぶん出しております。しかし、いろいろな社会的な構成、労働者の流動性の問題 も、私どもは必要な技術者についてはなかなか流動してもらうことは困りますけれど も、ある程度の流動性、とくに女子社員の流動性というのは、むしろそのほうがいいの ではないかと思います。  ここで男女を別々に言うのは、たいへん具合の悪いような印象がありますが、男女共 同参画というとまったく同じで、女性が製造業の現場の交代勤務をしないでそのまま重 役になるとかいうことは非常に難しい、ほとんどできないと私は思います。そういう中 でやっている中で、やはり、勤務の形態というのは女性と男性で違ってもやむを得ない とは思います。ワークシェアリングのような考え方を取り入れて、これは日経連といた しましても、そういう方向ということでいろんな動きをしておりますけれども、なんと かして社会貢献したいと考えています。そうするとやはり、オランダモデルとか、そう いうようなものを見ますと、女性はやはり、そういう時間的な余裕をとろうとする努力 をしている。そういうことによって出生率等が上がるというか下がらないというか、そ ういうことになっている。また、企業はそのために、絶対に必要な人が1年以上、出産 のために会社を休むというようなことを想定しますと、今の場合、実は予備要員という ものを正式に採らなくてはいけないわけです。しかしこれを、流動的なパートタイマー なんかをどんどん入れられるような仕組みにしておけば、まず、たいていのことはやれ るんじゃないか、と。  だから、社会の仕組みも考えていただく。いろいろ考えておられるんですけれども、 もっと踏み込んでもらう。あるいは、経団連でも日経連でも、企業のそういう社会貢献 ということは、社長さんなんかと話していると皆さん、持っておられるんです。それを もう少し利用する必要があるんじゃないか、と。われわれが損だからやらないなどとい うことは決してないということを先生、ひとつお願いします。  水越委員  企業にあっても、家庭にあっても、男性の働き方と女性の働き方にに差があるという ところに大きな問題があると思います。先ほどパートタイマーの働き方について話があ りました。私ども流通業では数多くのパートタイマーが働いていますが、そのほとんど は女性です。女性が大半を占める職場というのは、所得などでも低いレベルで押さえら れがちです。したがって、将来、パートタイマーの仕事も、創造性の高い仕事も含め職 種がバラエティに富んでくれば、仕事の内容に見合った所得になります。また、生活の スタイルにあわせた勤務体制を選択できるようになれば、仕事と家事、育児の両立が女 性にとっても男性にとっても可能だと思います。フルタイマー、パートタイマーとも に、日本の企業にとっても優秀な人材が多様な働き方で長時間働けるような環境を作っ ていかなければ、将来、品質の高い労働力を確保することはできません。これから更 に、労働組合も企業経営者も働き方の変化に対し新しい対応をしていかなければ、仕事 と家庭とが両立できるような職場環境にはならないのではないかと思います。  次の課題は、家庭に残る男女の役割の固定観念に対し、意識、行為ともに、どこまで 変えていけるかだと思います。生活スタイルが仕事、家事、育児を両立できるような職 場環境にはならないかぎり、本質的解決にはいたらないと思います。  まだまだ様々な機会を捉え、意識改革がなされるような手を打たねばならないと考え ます。  高島委員  私は連合でございますので、労働組合のことを何か、たいへん古い組織みたいに言わ れながら何か言わなければいけないんでしょうか。ここでそれに触れるつもりはありま せん。  いただいた、少子化への総合的な対応についての資料を見ていまして、たとえば2 ページの3番に、安心して子どもを産み、ゆとりをもって健やかに育てるための家庭や 地域の環境づくりという項目があります。たとえば年間の中絶件数というのは36万人な んですね。中絶してはいけないという趣旨ではなくて、こういうことというのは議論さ れなかったのかなあという感じがします。あるいは先日も広島で、2人の子どもたちが 死んでいます。そういう、子どもたちのいたましい事件があまりにも多いのに、そうい うものに対して、社会の人たちは「ひどい親だ」というようなことで終わっているので はないかという気がするんです。とくに最近の虐待だとか子どもを殺してしまうという ような事件というのは、その背景は、新聞を見るかぎりでも、再婚した女性が、母親の 役割と妻の役割をうまくこなせないところで、どうも悲劇が起きているとしか思えない んです。そういうものに対するやさしさみたいなものが、この人口問題については、大 きな国の構造のことももちろんありますけれども、個々のことに対していったいどこま で、何かできることがないのかということを、もう少し積み上げていただく努力を厚生 省のほうでやっていただきたい。これは厚生省だけの話ではありませんけれども、期待 したいと思います。  それからもう一点、育児を支援するため、私たちは来年の国会に、子どもが病気にな ったときに、せめて年に10日ぐらい、職場を休めるようにしたり、転勤についてもっと 配慮するというようなことを要求し、法案が出されますが、その内容はほんのささやか なものでしかない。だから先ほど、阿藤先生がおっしゃったように、それはみんなわか っているんです。企業の方もおっしゃいました、労働組合もみんなわかっている、だけ どそれができないところに、非常に残念なところがありますので、それをもう少し、突 っ込んでみる必要があるんじゃないでしょうか。  袖井専門委員  最後になりますので、ちょっと発言させていただきます。厚生省、労働省とも少子化 対策でいろいろやってらっしゃるのですけれど、あんまり効果がないんですね。だか ら、やはり政策評価ではありませんが、どうなのかということをちゃんとやってみるべ きではないか、と。いろんなキャンペーンもしたり、何か、歌をつくったりもしている けれど、あまり意味がない。阿藤先生も私も、そういうシンポジウムなどに行って話し たりしているんですけれど、あんまり効果がないんですね。ですから、やはりやってい ることの政策評価を、この10年間、阿藤先生の報告で効果がなかったとありますけれ ど、やはりひとつ、これを洗ってみる必要があるんじゃないかと思います。  私は仕事と家庭の両立について、ずっと調査もやっているんですが、何かちぐはぐな んですよね。せっかくやっていても、たとえば今、高島委員から看護休暇みたいな話も ありあましたけれども、何かうまくかみあっていないという感じですね。ですから、そ こをどうしたらいいかといことを、もっと具体的に考えるべきです。たとえば学童保育 なんかも、低学年しかないわけです。そうすると、仕事をやめなくてはならないという 問題があります。それから、主婦の再就職というようなことで、労働省とかいろんなと ころで職業訓練もやっているんですが、職業訓練をやっても就職できないというか、そ のチャンスがない。それから、職業訓練を受けるためには保育園に預けられない、職業 に就いていないと保育園に預けられないとか、何か本当に、一つひとつは一生懸命やっ てらっしゃるんですけれども、そのあたりがちぐはぐなので、やはりこれから、今度、 厚生労働省として一緒になりますから、トータルでどこがおかしいのか、今までの政策 はどこがおかしかったのかということを、ちゃんと見直してやっていただきたいと思う んです。幸い、児童家庭局と女性局が一緒になって雇用均等・児童家庭局ができるとい うのは私は非常にいいことだと思いますので、そのへんのところをよろしくお願いいた します。  宮澤会長  どうもありがとうございました。よろしゅうございましょうか。もう、予定の時間を 過ぎてしまいまして、進行予定によりますと、(3)の所感として私が何か述べなけれ ばならないのですが、その必要はなくなったようです。最後に、資料7がございまし て、私が話す際に、参考になるようにということで事務局がつくったものがあります。 平成元年から最近までの主要審議事項の資料です。これは、あとでご覧いただくことに して、むしろ今までのお話について述べさせていただきます。議長というのはたいへん 苦しい立場にあり、何れかに旗をあげたいところでも、こらえていなければならないわ けですが、他方でこれから必要な論点というものが、かなり浮び上ってまいりました。  われわれは、それぞれ経済学者、社会学者がおり、それから労働者、経営側もあり、 また、男性も女性も、若い人も高齢者もいます。それらの間で議論するための共通の言 葉というものが、従来あまりにも少なかった。何か、議論がちょっと出会っても、深い ところにいかないうちに別れてしまう。もっと共通の言葉というものが、どうあるべき かということをまず、考える必要があるということがひとつです。  それからもうひとつは、まさに今、お話がございましたように、少子化対策のいちば ん難しい問題ですが、とくにこの領域については、「政策評価」が不可欠であるという ことです。政策評価をきちんとするためにも、われわれが共通の言葉を持たなければな らないということになるかと思います。論点の真ん中には、「社会構造」というものが ありまして、一方にこれを支える「文化」があり、それから「意識」がある。もう一方 には「経済」の構造があり、それを支えている「制度」がある。この、3者の間をつな ぐ言葉がたくさんあるはずであります。ご意見の中でもいろいろ出てまいりました。経 済的な面では、所得レベルとか、機会費用をどう考えるとか。あるいは、家庭における 時間配分、労働時間と生活時間をどう配分するかということもございます。そのそれぞ れには行動単位があって、男があり女があり、若い人があり年寄りがいる。しかも、個 人行動を巡る社会の基本単位には、一方では企業があり、他方では家族がございます。 その企業と家族の在り方に踏み込んで問題を考えないと、一般的、抽象的なレベルで議 論していても、いつもすれ違いに終わりやすいのではないだろうか、と。まさに、省庁 が再編されて、縦割り構造が少しでも改善されるということに多くの期待を寄せて、ま すます、その問題についての情報を示していただければ、私どもも、それらについて機 会をとらえ、厚生労働省のほうに申し上げる機会を持ちたいと思います。  どうも長時間、ありがとうございました。これで閉会させていただきます。最後に次 官のほうからお話しいただきたいと思います。  羽毛田事務次官  厚生事務次官の羽毛田でございます。総会の終了にあたりまして、本審議会の、本日 に至るまでの幅広い見地からの人口問題に関するご審議につきまして、厚く御礼を申し 上げたいと存じます。  本審議会は、第1回の総会が昭和28年の11月でございまして、それ以来、本年まで47 年間、総会の数にして85回の総会をいただいて、人口問題についてご熱心なご論議をい ただいてきたわけでございます。その間の、わが国の人口をめぐる状況というのは、戦 後の第1次ベビーブーム以降、急速に出生率が低下し、また、経済の高度成長に伴う農 村から都市への人口移動、あるいは第2次ベビーブーム以降の少子化など、様々に、人 口問題の質が大きく転換しながら、今日まで来たわけであります。  近年の審議会でのご審議を振り返りましても、平成6年に、先ほどもご紹介がありま したように、カイロで開催されました国際人口・開発会議に提出いたします日本の報告 書につきましてご審議をいただきました。また、平成9年には「少子化に関する基本的 考え方について」ということで、これをおとりまとめいただきまして、この報告書が、 言ってみればその後における、わが国の少子化に関する議論をいわば喚起する契機とな った、大きな報告書であったというふうに思います。これも先ほど、ご報告を申し上げ ました、その後、総理のもとに有識者会議がつくられ、また、その報告が出され、ある いは少子化対策の推進の基本方針あるいは新エンゼルプランというようなものに結実し ていくという、そういう一連の、いわば契機になった審議会の報告であったと思いま す。たいへん意義深い報告だったと思います。  来年から、厚生省と労働省が統合いたしまして、厚生労働省として発足するわけであ ります。先ほどもお話がございましたように、仕事と育児を両立させるための行政を一 体的に進めるということでの体制整備も整うことになります。先程来、最後まで厳しい ご指摘、ご意見も頂戴いたしました。私どももそのことをよく胸に置きまして、今後、 そういった体制の中で、より総合的な観点から、少子化について、最優先の課題として 取り組んでまいりたいというふうに思います。また、このたびの省庁再編に伴いまし て、人口問題審議会は本総会が最後になるわけでありますけれども、審議会という側面 では社会保障審議会において、今日までの審議を引き継いでいただいて、引き続きご審 議をいただき、また人口問題の審議や関係行政機関に対する意見具申の役目もそのまま 引き続きやっていただくということでございます。したがいまして、今日までたいへん お世話になりました委員、専門委員の皆様方におかれましては、今後とも、ぜひ、幅広 い見地から、人口問題のみならず、厚生行政、あるいは厚生労働行政に対しまして、幅 広いご指導をいただければ、たいへんありがたいと思います。  最後になりましたけれども、宮澤会長様をはじめ、本審議会の委員の先生方、専門委 員の先生方に対しまして、今日までたいへんご尽力をいただきましたことを、重ねて御 礼を申し上げまして、ご挨拶とさせていただきます。どうも長らく、ありがとうござい ました。よろしくお願いいたします。  宮澤会長  この審議会に長い期間にわたってご出席いただき、また時々に貴重なご意見をいただ いてまいりました。まことにありがとうございました。これにて本日は閉会とさせてい ただきます。 照会先:厚生労働省政策評価官室 石井(7774)米丸(7778)