報道発表資料 | HOME |
平成11年7月21日
標記見解については、本年6月23日に開催された同専門委員会において、とりまとめられたところであるが、本日、別紙の通り、厚生省児童家庭局長から、都道府県知事、政令市市長、特別区区長、日本医師会会長、日本産科婦人科学会会長及び日本母性保護産婦人科医会会長宛に通知を発出したものである。
照会先:厚生省児童家庭局母子保健課
北島(内3173) 武田(内3179)
(代表)[現在ご利用いただけません]
(直通)03-3595-2544
(別紙)
児発第582号
平成11年7月21日
都道府県知事
各 政令市市長 殿
特別区区長
厚生省児童家庭局長
厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会
「母体血清マーカー検査に関する見解」について
母子保健事業の推進については、かねてより特段のご配慮を煩わしているところであり、深く感謝申し上げる。
さて、母体血清マーカー検査については、近年急速に普及しているが、この検査に関する事前の説明が不十分であることなどから妊婦に誤解や不安を与えていること等が指摘されており、早急な対応が求められているところである。
このため、平成9年7月から厚生科学審議会先端医療技術評価部会において、この問題を含む生殖補助医療についての検討を開始し、平成10年10月には、この問題を集中的に審議するため、同部会に「出生前診断に関する専門委員会」を設置し検討を行ってきたところである。
今般、同委員会のこの問題に関する検討報告として、別添の通り「母体血清マーカー検査に関する見解」が取りまとめられたので、周知することとしたものである。本見解の主旨は、母体血清マーカー検査には、十分な説明が行われていない傾向があること、胎児に疾患がある可能性を確率で示すものに過ぎないこと、胎児の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる懸念があることといった特質と問題があること等から、医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきでもないというものである。
各都道府県、政令市、特別区におかれては、御了知の上、管下市町村、関係団体、医療機関等に本見解を周知するとともに、医療機関等が本見解を踏まえ、適切に対応するよう指導方よろしくお願いする。
また、同委員会においては、羊水検査、絨毛検査等、その他の出生前診断についても、十分な説明に基づく同意を得て行われる必要があるとの意見が出されたことから、医療機関等がその他の出生前診断についても適切に対応するよう指導方よろしくお願いする。
児発第583号
平成11年7月21日
日本医師会会長
日本産科婦人科学会会長 殿
日本母性保護産婦人科医会会長
厚生省児童家庭局長
厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会
「母体血清マーカー検査に関する見解」について
母子保健事業の推進については、かねてより特段のご配慮を煩わしているところであり、深く感謝申し上げる。
さて、母体血清マーカー検査については、近年急速に普及しているが、この検査に関する事前の説明が不十分であることなどから妊婦に誤解や不安を与えていること等が指摘されており、早急な対応が求められているところである。
このため、平成9年7月から厚生科学審議会先端医療技術評価部会において、この問題を含む生殖補助医療についての検討を開始し、平成10年10月には、この問題を集中的に審議するため、同部会に「出生前診断に関する専門委員会」を設置し検討を行ってきたところである。
今般、同委員会のこの問題に関する検討報告として、別添の通り「母体血清マーカー検査に関する見解」が取りまとめられたので、周知することとしたものである。本見解の主旨は、母体血清マーカー検査には、十分な説明が行われていない傾向があること、胎児に疾患がある可能性を確率で示すものに過ぎないこと、胎児の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる懸念があることといった特質と問題があること等から、医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきでもないというものである。
貴職におかれては、御了知の上、貴会会員に本見解を周知するとともに、貴会会員が適切に対応するよう特段の配慮をお願いする。
また、同委員会においては、羊水検査、絨毛検査等、その他の出生前診断についても、十分な説明に基づく同意を得て行われる必要があるとの意見が出されたことから、貴会会員がその他の出生前診断についても適切に対応するよう特段の配慮をお願いする。
母体血清マーカー検査に関する見解(報告)
平成11年6月23日
厚生科学審議会先端医療技術評価部会
出生前診断に関する専門委員会
I はじめに
医学・医療技術の進歩に伴い、出生前診断技術が向上しており、一部の疾患については、胎児の状況を早期に診断し、子宮内で、あるいは出生後に早期に治療を行うことも可能になってきた。しかし、現在、先天異常などでは、治療が可能な場合が限られていることから、この技術の一部は障害のある胎児の出生を排除し、ひいては障害のある者の生きる権利と命の尊重を否定することにつながるとの懸念がある。現在、我が国においても、また、国際的にも、障害のある者が障害のない者と同様に生活し、活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念は広く合意されており、平成8年には旧優生保護法が母体保護法に改正され、優生思想に基づき優生手術、人工妊娠中絶等を認めていた条項が削除されたところである。
こうした中で、諸外国や我が国の関係学会においても出生前診断に関するガイドラインを作成する方向にある。 出生前診断は医療の問題のみならず、倫理的、社会的、心理的な問題も含んでいることから、この問題の検討に当たっては、医学のみならず、多くの分野の関係者の意見を聞くことが求められている。
厚生科学審議会先端医療技術評価部会の中で出生前診断に関する諸問題が検討されることとなり、約1年の間に医療関係団体、法曹関係団体、障害者団体、女性団体等から意見が聴取された。これらの問題の論点は多岐にわたることから、同部会の下に、医学、看護学、遺伝学、法学、生命倫理学の専門家からなる専門委員会が設置され、それぞれの専門的立場から検討を集中的に行ってきた。今般、母体血清マーカー検査に関する見解をとりまとめたので報告する。
II 検討の趣旨
出生前診断は、胎児が出生する前に胎児及び母体の状況を把握するために行われる。
現在実施されている診断技術には、羊水検査、絨毛検査、超音波検査、母体血清マーカー検査等がある。それらの中で、最近導入された母体血清マーカー検査は、妊婦から採取した少量の血液を用いて血中のα-フェトプロテイン、hCG(free-β hCG)、エストリオール(uE3)などの物質が、胎児が21トリソミー(ダウン症候群)等であった場合にそれぞれが増減することを利用して、胎児に21トリソミー等の疾患のある確率を算出する方法であり、その簡便さから、今後広く普及する可能性がある。
しかし、この検査に関する事前の説明が不十分であることから妊婦に誤解や不安を与えていること等が指摘されており、厚生科学審議会先端医療技術評価部会での検討においても早急な対応が必要とされている。このため、本専門委員会では、まず、母体血清マーカー検査に関する見解をとりまとめることとしたものである。
III 母体血清マーカー検査の問題点と対応の基本的考え方
1 問題点
2 対応の基本的考え方
IV 行政・関係学会等の対応
(別紙)
【検査前】
I 母体血清マーカー検査の説明と実施に当たり、医師は検査前に次のことを行 う。
1 この検査を希望する妊婦又は妊婦本人及びその配偶者(事実上の婚姻関係と 同様の事情にある者を含む。以下同じ。)に対し、必ず次のことを前もって説 明する。説明は個別に口頭で説明するとともに文書で補足し、その際、平易な 言葉を用い、質問には納得いくまで応え、思いやりのある態度で接するととも に、秘密保持に留意する。
(1) 生まれてくる子どもは誰でも先天異常などの障害をもつ可能性があり、また、 障害をもって生まれた場合でも様々な成長発達をする可能性があることについ ての説明。
(2) 検査の対象となる疾患(主に21トリソミー及び神経管欠損)に関する最新 の情報についての説明。
(3) 検査の目的・方法・原理・結果の理解の仕方等についての説明。
(4) 予想される結果とその後の選択肢についての説明。
2 以上の事項について十分説明した上で、妊婦又は妊婦本人及びその配偶者か ら文書による同意を得るとともに、診療録にその旨を記載し、文書を保存する。
3 対象となる疾患を専門とする医師や医療機関と連携し、必要な情報を収集す るとともに、必要な場合にはその専門の医師に速やかに紹介する体制を確立し ておく。
4 妊婦及びその配偶者が十分な説明を受けた後も判断に迷う場合には、いつで も専門的なカウンセリングが受けられるよう、日頃からそれらの専門機関との 連携体制を構築しておく。
5 検査の説明文書や同意書は、医師が本見解の趣旨に基づいて適切なものを用 意する。
II 母体血清マーカー検査を行う検査会社は、次のことに留意する。
1 この検査業務で得られる個人情報等についての秘密保持を徹底するとともに、 検体は検査後速やかに廃棄し、妊婦の同意なく他の検査や研究に利用してはな らない。
2 検査結果の算出方法やそのもととなるデータ等について、広く公表するとと もに、検査を実施する医師に説明する。
【検査後】
母体血清マーカー検査を実施する医師は、検査後に次のことに留意する。
1 検査結果について、妊婦又は妊婦本人及びその配偶者に分かりやすく説明す る。その方法は、【検査前】の1の(3)の(注2)に従って行うこととし、電 話や手紙、FAX、電子メールなどによって結果報告を行わない。
2 妊婦又は妊婦本人及びその配偶者が、検査結果の解釈やその後の方針決定に 際して、検査前に行った説明の各項目を理解しているかどうかを確認した上で、 十分に理解していない点や不明の点についてさらに詳しく説明する。
3 十分な説明に対し十分な理解が得られた後の羊水検査等の方針決定に際して は、妊婦の自己決定を尊重する。
4 検査を実施する医師等の関係者は、検査結果のみならず、すべての個人情報 について秘密保持を徹底する。
5 検査結果によっては衝撃を受けたり、大きな不安が生じる場合があるため、 妊婦及びその配偶者(必要に応じてその他の家族)に対する十分な心理的ケア と支援を行う。
6 検査後においても、必要に応じて、専門的なカウンセリングが可能な施設を 紹介する。
7 当該疾患に関する相談が受けられる機関(医療機関、保健所、福祉事務所等)、 本人・親の会及び支援グループの存在やその情報を提供する。
参考資料
<母体血清マーカー検査>
母体血清マーカー検査のうち本邦で最も多く実施されているトリプルマーカー検査は、妊娠15〜17週の間に母体から数ミリリットル採血し、血液中の3つの成分(α−フェトプロテイン:AFP、絨毛性ゴナドトロピン:hCG、エストリオール:uE3)を測定して、その値から胎児が21トリソミー(ダウン症候群)であるかどうかを推定する検査で、検査所要日数は通常、約一週間。
この検査では、21トリソミー以外にも神経管欠損(Neural tube defect)、18トリソミーも検出可能といわれているが、21トリソミー以外は判定に用いる日本人のデータが得られていない。
胎児が21トリソミーである場合、AFPとuE3の中央値が正常対照群に比べて低く、hCGは高くなる。測定値は対照群(21トリソミーでない群)の中央値の何倍であるか(multiple of the median, MoM値)で表す。これを基に「母体年齢から推定された21トリソミーの児の出生確率」に、個々のMoM値から換算される「21トリソミーである見込み率(likelihood ratio)」をかけて、胎児が21トリソミーである確率を算出する。
このように胎児が21トリソミー等であるか否かが「確率」として示されることから、確率が低いとされても21トリソミーの児が生まれる場合があり、また、確率が高いとされてもほとんどの児は健常である。確定診断は羊水検査で行われる。
<α−フェトプロテイン(α-fetoprotein、AFP) >
胎児期に、主に肝で生成される特殊なタンパクで、胎児血中のAFP値は妊娠10〜13週で最高となり、その後低下する。AFPの胎児から母体への移行は主に胎盤経由であるが、一部は羊水から羊膜を経由する。21トリソミーの胎児では対照群(21トリソミーでない群)と比較し、母体血中AFPのMoM値が低い。
逆にAFPのMoM値が高くなる場合は、神経管欠損(外脳症、無脳症、二分頭蓋、脊髄裂・開放性二分脊髄や脊髄膜瘤)等の可能性が高くなる。
<ヒト絨毛性胎盤刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin、hCG または freeβ−hCG>
hCG値は妊娠 9〜12週で最高に達し、その後低下するが、21トリソミーの児を妊娠している場合は、そうでない場合に比べMoM値が高い。
Freeβ−hCGはhCGよりも精度が高いとされている。
<非結合型エストリオール unconjugated estiol、uE3>
uE3は胎児の副腎皮質・肝および胎盤から生成されるが、21トリソミーではそのMoM値が下がるので、AFPとhCGに加えることによって検出精度を上げる目的で使用されている。一般に、AFPとfree β−hCGの2種だけの検査をダブルマーカー、AFPとhCGにuE3を加えた検査をトリプルマーカーと称する。
報道発表資料 | HOME |