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国民年金・厚生年金保険制度改正に関する意見

平成10年10月9日
年金審議会


 本審議会は、平成11年の財政再計算に際する改正について、平成9年5月以降31回にわたり審議を重ね、その結果を以下のとおり取りまとめた。
 政府においては、これまでの審議の経過も十分参酌しつつ、改正案の立案に当たられたい。

I はじめに

 今日、年金は高齢者を始め国民の生活に欠かせないものとなっている。また、年金は経済の発展や雇用にも貢献している。このように重要な役割を果たしている年金制度は今後とも守っていかなければならない。
 公的年金は国が責任をもって実施している制度である。日本の国や国民が健在である限り、年金が破綻し、受給できなくなるということはあり得ない。しかし、歯止めのかからない出生率の著しい低下、バブル崩壊以降の経済の低迷や雇用不安などから国民の間には将来に対する不安が広がっており、年金に対する信頼も揺らいできている。
 公的年金が様々な課題を抱えていることも事実である。これまで公的年金を支えてきた人口や経済の基盤は大きく変化した。厚生年金の負担は、これまでの予想をはるかに上回る少子・高齢化の進行によって現行制度のままでは現在の2倍ぐらいまで上昇することが見込まれている。国民年金の未納、未加入問題も大きな課題である。また、女性の社会進出が進み、個人個人の人生設計が多様化する中で、社会の実態と年金の仕組みの間にずれも目立ってきている。
 これまで5年ごとに年金の制度改正が行われてきたが、次期制度改正は従来の延長線上で対応することは許されなくなってきている。人口や経済の構造変化を踏まえ長期的視点に立って、制度全体にわたる見直しを行い、公的年金の将来像を明確に示し、何よりも国民の年金に対する信頼を確保することが求められている。
 年金制度の改革は、長期的な視野に立つ必要がある課題である。現行制度の根本的な見直しを進めるにせよ、急激な制度の改変を一挙に行うことは難しい。本審議会では、制度全体の根本的な見直しについて審議してきたが、意見の一致をみるには至らなかった。制度全体の根本的な見直しについては、今後とも議論を続けることが必要であり、早期に結論を得ることが望まれるが、次期制度改正においては、現行制度の基本的な枠組みを維持しつつ、あらゆる角度から長期的に制度の安定を図るための改革を行うことが適当である。
 このため、次期制度改正においては、将来の給付の具体的な姿を示して確実な年金を約束するとともに、負担についても将来にわたって維持可能な限度を示して現役世代の理解を求めていく必要がある。そのためには年金受給世代と現役世代が対立するのではなく、痛みを分かち合いつつ高齢期の生活保障を実現していくことが制度の基礎である。負担については、世代間の不公平の是正ばかりでなく、世代内の公平の確保を図ることも重要な視点である。
 年金制度を安定して運営していくためには、給付と負担の均衡を図らなければならない。
今後の受給者の増加や現役世代の減少等を考えると、負担を引き上げていかざるを得ないが、将来世代の負担を過重なものとしてはならない。そのためには、今後、急増が予測されている給付総額についてその伸びを将来に向かって抑制していくことが避けられない。
 ただし、この給付総額の抑制とは、今後増大が予想される給付の伸びを抑えようとするものであって、現在受給している年金額を引き下げるものではない。制度改正に当たっては十分な準備期間や経過措置を設ける必要がある。
 また、公的年金の改正に併せて自助努力を支援するため企業年金や個人年金の制度改善や普及を図ることも重要である。医療、介護、子育て支援など生活を支える社会保障基盤整備を積極的に進めることも年金制度の安定や年金の実質価値を高めることにつながる。
 年金制度は、人々の生活に直接かかわるものであって、経済や社会の変化の影響を強く受けるものである。年金制度の安定のためには、その土台となる経済の活性化や雇用の拡大を図るとともに、少子化に歯止めをかけることが重要であり、適切な経済政策や、高齢者や女性の雇用対策、総合的な少子化対策が積極的に講じられることを強く要請したい。

II 次期制度改正に当たっての基本的考え方

〈公的年金の意義・役割と次期制度改正の位置付け〉

○ 我が国の公的年金制度は、昭和36年の国民皆年金の達成以降充実が図られ、高齢期の生活の主柱として国民に広く定着し、我が国の社会保障制度の中でも極めて重要な位置付けを有している。公的年金の受給者は約3,000万人、年金額は約33兆円に上っている。高齢者の所得の中で公的年金の占める比率は約6割であり、また、公的年金だけが収入のすべてである世帯は高齢者世帯の半数を占めている。
○ これまで、公的年金制度については、人口の高齢化への対応や、公平・公正な制度を確立していくという観点から、数次にわたってその見直しが行われ、必要な措置が講じられてきた。
 具体的には、昭和60年改正において基礎年金の導入による公的年金制度の再編成、女性の年金権の確立、給付水準の適正化(加入期間の伸長に応じた生年月日別の給付乗率の引下げ)等が行われ、人口の高齢化の進展に対応できる基礎が築かれた。また、平成6年改正においては、いわゆる可処分所得スライド制の導入、厚生年金の定額部分について支給開始年齢の65歳への段階的引上げ等の措置が講じられるとともに、平成9年にはJR等の共済組合について厚生年金への統合が行われ年金制度の一元化も進められた。
○ しかしながら、このような累次にわたる改正にもかかわらず、これまでの予想をはるかに上回る少子・高齢化の進行や経済の低成長など、公的年金を支えている社会経済的基盤が大きく変化している。また、女性の社会進出が進むとともに個人個人の人生設計も多様化している。公的年金を将来にわたって安定して運営していくためには、次期制度改正においては、このような変化に対応して、制度全般にわたる検討を行い、公的年金の将来像を明確に示し、信頼される年金制度に改革していくことが必要である。
 この場合、高齢者をめぐる経済状況や個人の人生設計の多様化、家族や就業形態の変化、男女共同参画社会を目指した取組みなどを踏まえた視点が重要である。

〈将来世代の負担と将来の年金給付の在り方〉

○ 年金制度を安定的に運営していくためには給付と負担の均衡を図っていかなければならない。今後、受給者の大幅な増加が見込まれる一方、現役世代の人口が減少することから、現役世代の負担については今後とも引き上げていくことが避けられない。また、経済も低成長が続くなど将来の負担の制約は強まっていく見通しであり、将来世代の負担を過重なものとしないことが重要である。このためには、将来の給付総額についてその伸びを抑制していくことは避けられないと考えられ、年金水準、支給開始年齢、スライド方式等給付の在り方全般について将来像を示し、十分な準備期間や経過措置をおいた上で改革に着手し、将来にわたり確実な年金給付を履行していくことが必要である。
○ 少子・高齢化のピークが、21世紀の半ばであることを視野に入れつつ、社会経済の長期見通しや制度改正の実施には相当の期間を要することを考慮し、2025年頃の社会を念頭において改革を進めていくことが適当である。

〈公的年金の財政方式について〉

○ 我が国の公的年金制度の財政方式は、積立方式の要素と賦課方式の要素を合わせ持ったものとなっているが、厚生年金の2階部分(報酬比例部分)については、積立方式にすべきであるという意見がある。しかしながら、積立方式への移行については、保険料の大幅な引上げが必要になること、また、巨額の積立金を保有することになるが、その運用には相当の困難が伴うこと、移行期に巨額のいわゆる「二重の負担」(注)が発生し、その解決方法が容易でないこと、大きなインフレが発生した場合の対応が困難であることなどの問題がある。このため、次期制度改正においては積立方式への移行は困難であり、積立方式の要素と賦課方式の要素を合わせ持った現行方式を維持することを基本とすべきであると考えるが、公的年金の財政方式の在り方については引き続き検討が必要である。

(注)積立方式へ切り替える場合に、切替時の現役世代が、自らの将来の年金の積立に加えて、別途の形でそのときの受給世代等の年金を負担しなければならなくなるという問題。これは、これまでの加入期間に基づいて給付を約束した債務があるために生じるものである。その規模は、一定の仮定をおいて計算すると、平成11年度末時点で厚生年金の場合、約350兆円となる。

〈公的年金の民営化について〉
○ 公的年金の役割を衣食住などの基礎的部分に限定し、それを超える部分は自助努力によって賄うという考え方の下に、厚生年金の廃止・民営化論(公的年金は基礎年金を基本に1階建ての年金とするとともに、厚生年金は廃止し、積立方式の企業年金や個人年金にゆだねる。)という主張がある。この厚生年金の廃止・民営化論については、積立方式への移行の問題に加え、中小企業のサラリーマンについては、実際上企業年金や個人年金の普及が困難な面もあり高齢期の所得保障が基礎年金だけになりかねないといった問題がある。次期制度改正においてはこのような考えを取り入れることはできず、現行の2階建ての公的年金の仕組みを維持すべきであると考える。しかしながら、このような積立方式への移行や民営化論の背景には、世代間の給付と負担に不公平があること、少子・高齢化の進行の下では賦課方式より積立方式の方が優れているといった現行制度に対する問題認識があり、これらの主張が提起した問題に対しては、今後とも真剣に検討していく必要がある。

〈公的年金と私的年金(企業年金・個人年金)の役割分担〉

○ 高齢期の所得保障の基本となるのは公的年金であるが、高齢期の生活は個人によって様々であり、公的年金だけで高齢期の多様な生活ニーズ全般を賄うのは実際上困難であるし、適切でもない。したがって「公的年金を基本としつつ、これに自助努力を組み合わせて高齢期の生活に備える」という基本的考え方の下に、公的年金制度の改革、私的年金の制度の改善を図っていくべきである。

〈年金制度と他の関連する分野の整合性〉

○ 今後の年金制度を考えるに当たっては、負担面については、現役世代は公的年金の負担だけでなく、医療、介護等社会保険料負担や税負担があり、これらを含めたトータルの負担の視点に立って、その限界や在り方を考える必要がある。
 また、年金制度は、給付面についても、医療、介護等他の社会保障施策や税制と密接な関連を有しており、他の社会保障施策や税制との整合性を図っていく必要がある。
○ 年金は、医療、介護等他の社会保障制度と関連が深い。したがって、年金制度のみならず、21世紀の総合的な社会保障の将来ビジョンを示し、整合性ある社会保障施策の推進を図っていくことが重要である。

〈公的年金の意義・役割についての広報・教育〉

○ 公的年金制度は、自分自身の高齢期の生活に備えるという面と併せて世代と世代の助け合いの考え方に基づくものであり、それぞれの世代が将来にわたって年金制度に対して揺るぎない信頼を有することが制度運営の基本であることから、若い世代を含め広く国民の理解を求め国民的合意を形成していく取組みが求められている。
○ 公的年金の意義・役割については、その基本理念が単なる個人貯蓄や私的保険とは異なり、社会連帯で高齢期の所得保障を行う制度であること、制度に加入し保険料を納付することは、国民の義務であるとともに、年金を得るための権利でもあるということについて、国民の幅広い理解や信頼を得ることが年金制度の安定を図る上で、何よりも重要である。今回の年金制度の見直しに当たっては、学生の意識調査を初めて実施するなど新規の取組みも行われたが、今後一層、公的年金の意義・役割や次期制度改正の内容について、次世代の担い手である学生等の若年層に重点を置きながら積極的な広報を行う必要がある。また、公的年金が社会経済全般の中で果たしている機能と役割について学校教育を通して啓発していくことも重要である。

〈情報公開〉

○ 公的年金制度については、これまでも5年ごとの財政再計算において財政見通しが示されてきているが、今年初めて「年金白書」が刊行されるとともに、昨年来開催してきた本審議会の審議内容についても、その討議資料や議事録が公表されるなど、年金制度に関する情報公開が進められている。今後一層、国民各層からの要請にこたえ、年金制度の財政状況・運営状況や財政見通しを始めとした年金制度に関する情報公開を進め、制度の透明性を高めていくことが、昨今の年金制度に対する国民の不安感を払拭する上でも重要である。

III 次期制度改正の個別検討項目についての考え方

(1)公的年金について

〈基礎年金〉

・基礎年金の在り方

○ 基礎年金は、20歳から60歳までの国民すべてが加入し、社会連帯によって高齢期の基礎的な生活を支えるものであるが、未納・未加入による空洞化や第3号被保険者制度の在り方など多くの課題を抱えている。このため、基礎年金については税方式への転換や国庫負担率の引上げなど根本的な変更を求める主張がある。基礎年金の在り方は公的年金制度の根幹にかかわる問題であり、国民皆年金を守っていくためには、基礎年金制度の安定が不可欠である。

・税方式への転換

○ 基礎年金の在り方については、国民年金の未納・未加入や徴収コストの問題の解決につながること、第3号被保険者制度の問題が解消されること、将来の保険料負担の軽減につながることなどから、将来的にはその財源を税によって賄う税方式に転換すべきであるとの主張が行われている。その場合、基礎年金は目的間接税による税方式とすべきであるとの考え方がある。
 一方、税方式に転換することについては、巨額の税負担について国民の納得が得られるか、給付費の増大に合わせて税率を引き上げていくことが可能か、給付と負担の関係が明確である社会保険方式の長所が失われる、年金の性格が生活保護と類似のものに大きく変質し、所得や資産によって給付が制限されるおそれがあるなどの問題点が指摘されている。また、税方式への転換は、国民負担全体としてみれば負担を軽減するものではなく、将来の税負担にも制約があることから、いかなる税で財源を確保するのかということと併せた検討が不可欠である。さらに、仮に目的間接税で財源を確保するとした場合、企業の負担が減少し家計の負担が増大する結果になることについてどう考えるのか、検討が必要である。
 このように税方式への転換は、年金や税の在り方を抜本的に変える問題であり、現状では現実的でなく更に慎重な検討が必要である。
 なお、税方式への転換については、制度全体の根本的な見直しを進める中で、財源問題の在り方や具体的内容等について検討を深め、速やかに結論を得るべきであるとの意見があった。

・国庫負担率の引上げ

○ 基礎年金の国庫負担率の引上げについては、前回改正時の国会においてその財源を確保しつつ検討することとされたところである。基礎年金は社会連帯によって高齢期の基礎的生活を支えようとするものであり、現行の国庫負担率のままでは、将来の保険料負担が著しく上昇し、制度が安定的に成り立っていかないことから、将来的には国庫負担率を2分の1に引き上げるべきであるという意見が強かった。その場合財源は目的間接税とすべきであり、一般財源による引上げは行うべきでないという意見と、行財政改革により財源を捻出し、一般財源により国庫負担率の引上げを行うべきであるという意見があった。
 しかしながら、国庫負担率の引上げは巨額の財源を要し、具体的な税財源の確保がなければ制度が運営できないことから、現在の財政や我が国経済の状況の下では、次期制度改正において国庫負担率の引上げを行うことは現実的には極めて困難である。さらに、税による負担を求める前に現行制度の下での保険料徴収の努力を尽くすことが必要であるという意見もあった。
 したがって、国庫負担率の引上げについては、次期制度改正の具体的課題として真剣に検討すべきであるとの意見があったが、その後の制度改正における検討課題として、国の財政状況等を踏まえつつ、税と社会保険料を含めた国民負担の在り方、社会保険方式における国庫負担の在り方や具体的な財源確保の方法と一体として引き続き検討する必要がある。

・給付水準

○ 基礎年金の給付水準については、相当の水準に達しており、国庫負担率の引上げが現状では困難であることや将来の国民年金の保険料負担の限界、厚生年金における1階部分(基礎年金)と2階部分(報酬比例部分)との適正なバランスの確保などの観点から、基礎年金の給付水準を見直す必要があるとの意見があった。一方、基礎年金の給付水準の引下げは適当でなく、今後も政策改定を行うべきであるとの意見があった。この点については、基礎年金の額を引き下げることは現実的に困難であり、少なくとも当面、物価スライドによる購買力の維持にとどめることが適当であると考える。

〈厚生年金の給付と負担の水準〉

○ 厚生年金の保険料率については、現行制度を維持した場合は最終的に2025年には月収の30%を大きく超える水準(労使で半分ずつ負担。厚生省推計。)に達し、現役世代の負担の限界を超えると考えられる。将来の現役世代の負担を過重なものにしないよう最終保険料水準を抑制することが不可欠であり、そのための具体的方策を検討する必要がある。
 具体的な負担の限界水準については、前回改正の前提であった労使合わせて月収の30%以内とするかあるいはそれを少し下回る程度という意見、厳しさを増した経済環境等を踏まえれば、労使合わせて年収の20%程度(月収の26%程度に相当)にすべきであるという意見、労使合わせて月収の20%以内とすべきであるという意見があった。
○ 厚生年金の標準的な給付水準(注)については、世界各国の中でも有数のレベルであり高齢者世帯と現役世帯の消費や貯蓄、資産、負債の状況や現役世代の負担能力等を考慮すると、給付水準を引き下げることはやむを得ないと考える。この場合、現に年金を受給している者や間もなく年金を受給する者については、現在受給している年金額、又は、受給できるはずの年金額を物価スライドを含めて保証する措置が前提となる。

(注)給付水準
厚生年金では、現在、標準的なサラリーマンの年金額が現役の平均手取り月収に対して80%(平均手取り年収に対しては62%)となっており、これまで厚生年金においてはこの比率で給付水準が議論されてきており、給付水準は年金額そのものを意味するものではない。
 一方、厚生年金の給付水準は、高齢期の生計費の基本部分を保障するに足る給付水準を確保する必要があり、現行の給付水準は適正であって引下げはすべきではないという意見、年金改正は現役世代や年金受給者に痛みを伴うものである以上、現行制度において年金額の計算上恵まれた年金受給者については、物価スライドを一時停止するなどの何らかの措置が必要であるとの意見もあった。さらに、平均余命の今後の更なる伸長を考慮し、厚生年金の標準的年金の加入期間を40年から45年加入にすべきであるとの意見がある一方、45年加入を前提とすることは慎重に検討すべきであるとの意見があった。

〈スライド方式〉

○ 現行制度では、厚生年金については、年金の裁定時に過去の報酬について再評価し年金額を算定するとともに、裁定後は毎年の物価スライドに加え、5年ごとの制度改正時には、現役世代の可処分所得の伸びに応じて年金額の改定が行われている。基礎年金についても、基本的には同様の政策改定が行われてきている。
 年金の裁定後に、年金額の実質価値を維持するため物価スライドを行うことは必要不可欠であるが、将来世代の負担の上昇を抑える必要があることなどから、年金裁定後の賃金再評価や政策改定を当分の間行わないようにすることはやむを得ないと考える。
 なお、年金の裁定後、物価スライドのみとすることについては、長期的には年金の給付水準が現役の賃金水準に比べ相当低下することとなるので、不適切であり、物価スライド及び賃金スライドは維持すべきであるとの意見があった。
○ 前回改正から導入された可処分所得スライドについては、その指標として、現役世代の手取り賃金の伸びと受給世代の手取り年金の伸びの比率によることを検討すべきであるとの意見があった。

〈在職老齢年金の取扱い〉

○ 昭和60年改正において65歳を引退年齢と考え、また基礎年金との整合性を図る観点から65歳以上の者は在職中であっても年金制度の被保険者とせず、年金は満額支給することとされた。しかしながら、少子・高齢化が進行し現役世代の負担が重くなっていることを考えれば、60歳台後半の在職者に年金が満額支給されることは現役世代の理解を得にくいことから、厚生年金を適用し保険料負担を求めるとともに、厚生年金(報酬比例部分)の支給も一定の制限を行うことが適当であると考える。
 なお、具体的な制度の設計に当たっては、一定の経過期間を設けるとともに、賃金と年金を合わせた額が低い高齢者に対しては年金額が減額されないような方法を検討することが必要である。
○ 60歳台前半の在職老齢年金(特別支給の老齢厚生年金又は別個の給付(報酬比例部分)について賃金と年金の額に応じて年金の一部又は全部が支給制限される。)は、高齢者の就労を阻害する面があること、実質的に年金によって賃金の補填を行うべきではないことから廃止すべきであるとの意見があった。この場合、在職中は年金を支給しないようにすべきであるとの意見と、在職中も無条件に年金を支給すべきであるとの意見があった。また、高齢者の雇用の促進のためには、年金によって、賃金を補うことも必要であり、現行の60歳台前半の在職老齢年金は当分の間存続することもやむを得ないとの意見、60歳台前半の在職者について一律に20%の年金支給を制限する措置を廃止すべきであるとの意見があった。

〈一定以上の高額所得者の年金給付〉

○ 在職中に限らず、一定以上の高額所得者に対しては年金支給を制限すべきであるとの考え方があるが、これに対しては、拠出に応じた給付を行うという社会保険方式の理念になじまないこと、高齢期でも一定の所得があると予想する者は加入を忌避し制度の崩壊につながるおそれがあることなどから適切な課税によって対応していくことが適当と考えられ、慎重な検討が必要である。
 なお、老齢年金は高齢期の所得保障であり、年金以外の収入を可能な限り捕捉し一定以上の高額所得者に対しては年金の支給を制限すべきであるとの意見があった。

〈支給開始年齢、別個の給付の在り方等〉

○ 平成6年の改正においては、60歳から65歳までの間に支給される特別支給の老齢厚生年金のうち、定額部分については2001年から段階的に支給開始年齢を引き上げることとしたところであるが、報酬比例部分については引き続き60歳から支給されることとなっている。しかしながら、平均寿命の伸長によって年金の受給期間が伸びていることや将来の保険料負担の増大を抑える必要があることなどを考えれば、65歳の前後で雇用と年金の役割分担を明確にするという考え方に立ち、報酬比例部分(別個の給付)についても、十分な準備期間を取った上で段階的に支給開始年齢を65歳に引き上げるべきであるという意見が強かった。この場合、報酬比例部分についても繰上減額年金制度を導入するとともに、減額率については支給開始年齢の見直しと併せて検討すべきである。
 一方、高齢者の雇用環境の厳しさ、労働者の健康水準と労働実態などを踏まえれば、報酬比例部分の65歳への引上げは行うべきではなく、60歳からの年金受給権を基盤とし、60歳台前半層の雇用と年金の多様な接続を図り自分自身で引退年齢を選択できるシステムの確立を先行させるべきであるという意見があった。また、次期制度改正において減額率を見直すべきであるという意見があった。
○ 厚生年金の定額部分の支給開始年齢の引上げ計画の前倒しは、高齢期の生活に備える準備期間が短い者には厳しい措置となり適当でないと考える。
○ さらに、基礎年金の支給開始年齢を67歳に引き上げることは、平均余命の伸長等から将来的に検討すべきであるとの意見と、67歳に引き上げることは不適当であるとの意見があった。

〈保険料負担〉

○ 保険料については、受給者の増加等に対応し、将来の現役世代の負担の軽減を図るため、適切な段階的引上げを行うべきである。
 この場合、具体的な引上げ方については、現下の経済状況に十分に配慮した方法を検討すべきである。
○ 保険料は本来的にはできるだけ平準保険料(注)に近づけていくべきであり、年金財政の安定、世代間の負担の不公平の是正、運用収入による将来の保険料負担の軽減などの観点から、保険料引上げ計画を早めるべきであるとの意見がある一方で、保険料については、現在の経済状況から次期制度改正では据え置くべきであるとの意見や引き下げるべきであるとの意見があった。

(注)人口・経済等の状況があらかじめ見込んだ基礎率どおりに推移すれば、将来にわたり一定水準の拠出で収支均衡を図ることができる保険料
○ 国民年金の保険料については、無業者など保険料の負担が困難な人のために保険料免除制度が設けられているが、免除基準が複雑であり、分かりにくいと指摘されていることから、現在の免除基準を見直すとともに、的確な事務処理を行う必要がある。加えて、保険料を今後更に引き上げていかざるを得ない中、被保険者の負担能力に配慮して保険料の一部を免除する制度の導入について検討すべきである。

〈積立金の保有〉

○ 現行の財政運営においては、年金受給者の急速な増加に伴い将来の年金給付費が増大することが見込まれる中で将来世代の負担を過重なものとしないことや世代間の負担の不公平の是正のために保険料を段階的に引き上げていくこととしており、その結果一定の積立金を保有している。今後とも基本的にはこのような財政運営が適切であると考えるが、巨額の積立金を保有することについては、インフレによる目減りや運用の困難性を考えると必要ないという意見や積立金の規模は給付費の支払準備に必要な程度にとどめるのが適当であるとの意見があり、今後とも検討を行うべきであるという意見があった。

〈総報酬制〉

○ 現在、厚生年金の保険料は月給に対して賦課され、給付もこれを反映したものとなっており、ボーナスについては、特別保険料(1%)のみが賦課され、給付には反映されていない。ボーナスの多寡による被保険者間の負担の不公平を是正するためには、ボーナスについても保険料賦課の対象とするとともに、給付にも反映させる総報酬制を導入すべきである。この場合、総報酬制は増収対策として実施されるものであってはならないものであり、保険料総額や給付総額が現行制度に比べ財政的に中立となるよう、保険料率と給付乗率の調整(引下げ)が必要である。
 なお、ボーナスは景気の変動などにより不安定であり、また、最近、退職金を廃止しボーナスに上乗せして支給する動きなどもあり、負担と給付の基礎とすることは適切でないとの意見があった。
○ 総報酬制への移行に当たっては、事業主の負担にも配慮し、準備期間を設けるなどの激変緩和について考慮する必要がある。

〈財政再計算における経済的前提等〉

○ 財政再計算に用いる将来推計人口については、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によることが基本と考えるが、低位推計や高位推計の場合についても、参考として示すことが適当である。
○ 賃金上昇率、物価上昇率、年金積立金の運用利回りについては、長期的推計に用いる前提であることを十分に考慮してマクロ経済の長期予測や過去の傾向等を踏まえ設定することが適当であり、標準的なケースに加え、経済情勢の変化の影響を把握するための参考ケースも示すことが適当である。

〈第3号被保険者等女性の年金〉

○ 女性の社会進出や人生設計の多様化、家族や就業形態の変化を踏まえ、女性の年金という観点から制度全体にわたる検討が必要となってきており、具体的には、次に掲げるような課題がある。この場合、年金制度は、結婚、離婚、就労などの人生の選択を行う場合に影響を与えない中立的な制度とすべきであるとの考え方がある。

・個人単位化

○ 現在の年金制度は、被扶養配偶者に関する第3号被保険者制度が設けられていること、厚生年金の水準も世帯を単位に設計されていることなど伝統的な女性の役割を反映した世帯単位の考え方を基本としている。しかし、経済の担い手として自立して働く女性という視点で年金制度の在り方を考え、年金制度も世帯単位中心から、個人単位に組み替えることが望ましいとの考え方がある。一方、女性は賃金が低い場合が多く、生活様式(ライフスタイル)の変化が大きいといった女性の置かれた実態に対する配慮が必要であり、早急な個人単位化は多くの女性が不利益を被るおそれがあるとの考え方があり、年金制度を個人単位の考え方に改めていくことについては、今後、更に議論を深めることが必要である。

・第3号被保険者制度

○ 第3号被保険者制度は、昭和60年の改正により女性の年金権の確立という観点から導入されたものであるが、片働き世帯と共働き世帯・単身世帯との間の不公平などがあり、また、年金制度の個人単位化の観点からも、第3号被保険者又はその配偶者から保険料を徴収すべきであるとの考え方がある。その際、育児・介護のために就労できなかった期間については拠出期間等として認めるべきであるとの考え方がある。
 この点については、現在は世帯の収入が同じであれば負担も給付も同じ水準となっていること、専業主婦には所得がないことや生活様式(ライフスタイル)の変化が大きい女性の年金権を確保する上で意義があることなどから第3号被保険者制度は合理的であるという考え方や、第3号被保険者制度の見直しの必要は認めつつ1200万人もの第3号被保険者の存在を考えると、急激な制度変更は困難といった現実論がある。このため、次期制度改正において何らかの見直しを行うことは困難であるが、医療保険や税制上の取扱いとの関係や女性の就業状況等の進展も踏まえ、検討を続けることが必要である。
 なお、第3号被保険者については、次期制度改正においてその範囲を見直す(配偶者に限定せず、無収入の被扶養者等に拡大し、一方、収入の認定基準(注)を引き下げる。)べきであるとの意見があった。

(注)現在は、年収が130万円を超えると第3号被保険者の資格を失い、第1号被保険者として国民年金保険料を納付しなければならない。

・遺族年金や離婚の場合の取扱い

○ 遺族年金については、個人単位化という観点から縮小・廃止すべきであるとの主張が行われている。一方、女性が置かれている社会的実態からみて必要であるとの主張や共働きの女性について自分の年金が掛け捨てにならないようにすべきであるとの主張がある。したがって、男女の平等の視点から、女性の就業状況等の進展も踏まえながら検討を続ける必要がある。
○ 離婚時の年金の取扱いについては、一律に夫婦それぞれの老齢年金を合算して分割すべきではないかとの意見や、一律に分割することは困難であり個別に対応すべきではあるが現在は年金受給権が一身専属的な権利とされており、このような対応ができないことが問題であるとの指摘がある。この問題についても、社会的合意が可能な方策や夫婦別産制との関係、年金受給権の一身専属性の取扱い、税制との関係等について、検討する必要がある。

・検討会の設置

○ 以上に述べたとおり、女性をめぐる年金については、多くの課題があり、これらの課題は年金に限らず、民法、税制等幅広い分野にわたることから、女性の年金に関しては、民事法制、税制、社会保障、年金数理などの専門家からなる検討の場を設け、早急に検討に着手すべきである。

〈パートタイム労働者に対する厚生年金の適用〉

○ 就業形態が多様化している中で、パートタイム労働者に対してもできるだけ厚生年金を適用すべきであるとの意見がある。パートタイム労働者に対して厚生年金の適用を拡大することは、国民年金保険料よりも低い保険料負担で基礎年金に加えて報酬比例部分の年金を受けることとなり、第1号被保険者との均衡を損なうという問題があるほか、医療保険の被扶養者の取扱いや税制等との整合性の問題があり、更に慎重に検討する必要がある。

(注)現行では、常用雇用者の4分の3以上の勤務時間、日数の者について厚生年金の被保険者とされている。

〈少子化への対応〉

○ 年金制度において、子育て家庭に対する負担の軽減や現金給付などの少子化対策を実施することについては、老齢、死亡、障害といった所得喪失事故に対する社会保障制度である年金制度にそぐわない、また、少子化対策をわずかな現金給付として行ったとしても出生率の向上には結び付かないとする意見がある一方、年金制度は次世代が育たないと成り立たないことや、実際の子育てに伴う負担を考え子どものいる世帯と子どものいない世帯との公平を考慮して年金制度としても何らかの対策を検討すべきであるとの意見があった。なお、育児休業中の厚生年金保険料の本人負担の免除制度は、事業主負担にも適用すべきである、との意見があった。

〈学生への適用等〉

○ 平成3年度以来、障害になった場合に無年金とならないようにすることや40年加入の満額の基礎年金を受給できるようにするという理由から学生も国民年金が強制適用されているが、学生本人には所得がなく、保険料は親が支払っている例が多い。このような親の負担を解消し、本人が社会人になってから納付できるような何らかの対策を検討すべきである。
○ 現在、国民年金の第1号被保険者の加入期間は20歳から60歳までを原則としているが、この年齢要件を弾力化すべきであるとの意見があった。

〈障害年金〉

○ 年金制度に加入していなかったり、保険料を納付していないことによる無年金障害者の問題については、社会保険方式をとる現行の年金制度では、年金給付を行うことは困難である。今後、障害者プランを踏まえ、適切な検討が必要である。

〈施設入所者の年金給付〉

○ 老人ホームや老人保健施設等の入所者については、医療給付や福祉給付と重複して年金給付が出されており、年金給付を調整すべきであるという主張がある。この問題については、施設の入所者にも、在宅で生活する家族がいることや、施設の入退所を把握することは実務的に極めて困難であることから、年金は全額支給した上で、施設の利用に要する費用については適切な自己負担を求めることとすべきである。

〈公的年金制度の一元化について〉

○ 公的年金制度の一元化については平成8年の閣議決定を踏まえ、本審議会とは別に各共済関係者を含めた検討の場(公的年金制度の一元化に関する懇談会)において推進を図るべき問題であるが、その方向性を踏まえ本審議会としても検討していく必要がある。

〈年金現業業務について〉

○ 年金制度の安定と国民の信頼確保のためには、制度的な対応と併せて、国は保険者として、年金事業の効率的な運営を図り、国民年金の第1号被保険者の未納、未加入問題の解消等事業運営上の一層の強化が求められる。具体的には、昨年導入した基礎年金番号を活用するとともに、被保険者情報の把握のための新たな仕組みについて検討する必要がある。また、制度に対する正しい理解を得るための広報や情報提供活動を一層充実するととともに、納付督励の着実な実施や保険料納付に際しての利便性を向上させるための措置を講ずべきである。さらに、未納、未加入者に対しては、制度的対応も含めて強化を図ることを検討すべきであるとの意見があった。

<国際化へ向けた対応>

○ 国際化の進展に伴い、人的交流が増大する中で、ドイツに引き続きできるだけ多くの国とできるだけ早く国際年金通算協定を締結すべきである。

(2)厚生年金基金等について

<代行制度>

○ 上述したように公的年金の改革が進む一方で、老後の所得保障に関する企業年金の役割はますます重要になるものと考えられる。
 代行部分に独自の年金を上乗せした厚生年金基金は、これまで我が国における企業年金の普及や受給権の保全に大きな役割を果たしてきたが、長引く不況による運用環境の低迷等により、財政上の問題が発生している。
 現在代行制度が抱えている問題を解決していくためには、免除保険料率について、被保険者間の公平を図るため基金ごとの代行給付のコストに見合ったものに逐次改善していくべきであるとの平成5年の本審議会の意見書に沿って、個別化の徹底を図るべきである。
 さらに、同様の観点から、個々の基金の事情とはかかわりなく生じる死亡率等の変更の影響についても、厚生年金本体との間で財政的な中立性を確保すべきであるとの意見があり、これに対しては、厚生年金基金の運営はすべて自己責任で行うべきであり、例えば、厚生年金の予定利率と厚生年金本体の実際の利回りとの利差を基金・本体間で調整することは行うべきではないとの意見があった。
 また、代行制度の在り方に関しては、厚生年金基金は公私双方の年金の性格を併せ有し、制度が複雑となっているとともに、現在の運用環境の下では代行部分の利差損まで企業負担となっていることから、代行制度を廃止する方向で抜本的に見直し、当面、個々の基金の選択により、代行部分の国への返上や厚生年金基金から適格退職年金への移行を認めるべきであるとの意見がある。一方、厚生年金基金は民間活力の活用により公的年金の一部を実施するものであること、代行部分を持つことによって運用のスケールメリットがあること、受給権保護の措置も相当採られていることなどから、厚生年金基金の役割は重要であり、現在の状況だけをみて代行制度を否定すべきではないとの意見もある。したがって、代行制度の在り方に関しては、引き続き検討すべきである。

<確定拠出型の給付設計>

○ 現在の厚生年金基金等企業年金は、あらかじめ給付額を約束する確定給付型の給付設計であり、拠出金とその運用収益との合計額を基に給付額を決定する確定拠出型の給付設計は制度上認められていない。
 老後の所得保障に関する加入員の自己選択、自助努力を支援するという観点からは、給付設計の選択肢として、労使の合意を前提に確定拠出型の導入を認めるべきである。
 その際には、確定給付型と同様の税制上の措置が不可欠である。
 また、確定拠出型の給付設計の導入に当たっては、個々の基金が、加入員に対して、十分な情報開示や教育を行うことが重要である。
 なお、退職金を原資とする企業年金については、給付額が労使協約により確定しており、これを確定拠出型年金に変更することについては反対であるとの意見があった。

<企業年金に関する包括的な基本法>

○ 企業年金が安定的に機能し、高齢期の所得保障の一翼を担うに足る制度となるためには、厚生年金基金以外の制度も含めて、受給権の保護を中心とした共通の基準の設定を内容とする企業年金に関する包括的な基本法の制定が必要である。なお、企業年金に関する包括的な基本法を制定するのであれば、特別法人税の撤廃や確定拠出型企業年金の導入等が前提との意見があった。また、企業年金だけでなく、退職金も含めた退職給付全般を対象とすべきであるとの意見があった。
 企業年金各制度は、沿革が異なるだけでなく、積立基準等の受給権保護の措置の有無など大きな格差があり、また、共通の基準を設定するに当たっては、支払保証制度の取扱いについて、受給権保護の観点から必要であるという意見と、モラルハザードを引き起こしやすい、健全な制度運営を行っている企業には負担のみ強いられる等のことから導入すべきではないという意見に分かれるなど、関係者の意見の一致が得られていない問題もあることから、引き続き企業年金としてあるべき基準の制定に向けて検討を深めるべきである。

(3)年金積立金の運用について

<積立金運用の在り方>

○ 少子・高齢化が進む中、年金制度の長期的な安定を図るため、年金積立金の安全かつ効率的な運用を行い、将来の保険料負担の増加を抑制していくことがますます重要になってきている。このため、年金積立金については、年金制度の運営に最終的な責任と権限を有する厚生大臣が、保険料拠出者全体の利益を目的として、年金積立金の性格に最もふさわしい方法で運用を行うべきであり、資金運用部への預託義務を廃止し、効率的に運用することができる自主運用の仕組みを構築する必要がある。なお、年金積立金は、これまで還元融資事業を含む財政投融資の原資となってきており、新たな仕組みへの移行に当たっては、年金積立金が果たしてきたこうした財政投融資制度に対する役割と影響に配慮することが必要である。

<新しい自主運用の在り方>

○ 自主運用に当たっては、将来にわたり年金給付が確実に行われるよう、安全確実な運用を行い、年金財政の安定を実現することを基本とし、運用リスクの管理に最大限努力すべきである。あわせて、運用収入によって将来の保険料負担の増加を抑制するため、効率的な運用を行うべきである。
 このため、「年金自主運用検討会報告(平成9年9月)」及び「年金積立金の運用の基本方針に関する研究会報告(平成10年6月)」を踏まえ、市場を通じた運用を基本とした自主運用の具体的な仕組みを構築していく必要がある。その際、以下の点に特段の配慮を払うべきである。

・保険料拠出者の代表の参加を得て、その意向を十分反映させる。
・責任体制の明確化を図る。
・情報の公開と透明性の確保を図る。
・「運用の基本方針」を策定し、その下で安全・確実な運用を基本として効率的な運用を行う。
・有価証券市場への影響や株式投資による企業経営への影響が不適切なものにならないようにする。

 なお、自主運用に当たっては、基本的には運用の専門家である数多くの民間運用機関に委託して実施することになるが、個々の運用のみならず運用全体を通じたリスクの管理や資金管理を責任をもって行う専門の運用管理機関が必要となる。こうした運用管理機関の組織については、公的資金を扱う受託者としての責任を明確にするとともに、民間活力が発揮でき、また、廃止される年金福祉事業団の資金や業務を円滑に承継できる法人であることが必要である。

<還元融資事業>

○ 年金積立金は、これまで財政投融資の原資となり、社会資本整備、政策金融等に活用され、その一部は還元融資として住宅融資、社会福祉施設等の整備等に活用されてきた。
特に、昭和36年に設立された年金福祉事業団は、年金積立金の還元融資機関として被保険者や事業主に対する貸付け事業、あるいは大規模年金保養基地の設置運営事業を通じ、多くの被保険者の福祉向上に貢献してきたところである。
 今般、行財政改革の流れの中で、これら事業からの撤退と同事業団の廃止が決定されたが、その実施に当たっては被保険者、年金受給者に悪影響が出ないよう、また事業に従事している者の雇用や地域に配慮しながら、進める必要がある。
 今後は、効率的な運用を図るべく市場を通じた運用が原則となるが、積立金を活用する事業については様々な意見があった。年金制度に対する保険料拠出者の理解を深める等の意義から、住宅融資等の融資事業は引き続き実施すべきである、少子・高齢化が進む中、子育て、介護、教育支援等若年世代にも将来に対する安心感を与える社会保障基盤整備のために年金積立金を活用すべきである、という意見がある一方で、政策的な融資事業は積立金の効率的な運用に反する、民間でできることはできるだけ民間にゆだねるべきである、積立金の運用については、行政改革や財政投融資制度の抜本的な改革の趣旨に沿った対応が必要であるという意見があった。


問い合わせ先
 年金局企画課
 二川(内3364)
 福本(内3313)
 須田(内3316)
 直通 3503ー2090


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