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平成9年10月22日
生活衛生局食品保健課
食品化学課
1 概要
(1)本日、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会は、組換えDNA技術を応用して製造された5品種の食品及び1品目の食品添加物について、別添のとおり、それぞれ「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下、「安全性評価指針」という。)に沿って安全性評価が行われていると判断する旨の部会報告を行いました。
(2)また、あわせて、「安全性評価指針」に係る後代交配種の取扱いについても部会報告を行いました。
2 これまでに諮問された食品及び食品添加物について
(1)平成9年5月27日に諮問された5品種の食品及び1品目の食品添加物について
平成9年5月27日、組換えDNA技術を応用して製造された次の5品種の食品及び1品目の食品添加物が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることを厚生大臣が確認することの可否について、厚生大臣より食品衛生調査会あて諮問され、同日、バイオテクノロジー特別部会あて付議されたところですが、本日付けで、別添1のとおりバイオテクノロジー特別部会の報告がありました。
ア 対象品種 わた(ラウンドアップ・レディー・ワタ)
イ 対象品種 わた(BXN cotton)
ウ 対象品種 なたね(MS8RF3)
エ 対象品種 なたね(HCN10)
オ 対象品種 トマト
カ 対象品目 リボフラビン
なお、これまでの審議経過は次のとおりです。
平成9年5月27日 食品衛生調査会に諮問、バイオテクノロジー特別部会に付議
5月28日 バイオテクノロジー特別部会審議
6月6日 第1回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
6月17日 第2回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
7月15日 第3回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
8月8日 第4回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
9月9日 第5回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
10月22日 食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会開催
〃 バイオテクノロジー特別部会報告
(2)平成8年10月24日に諮問され、継続審議となっていた4品種の食品について
平成8年10月24日に諮問され、継続審議となっていた4品種の食品のうち、パイオニアハイブレッドジャパン株式会社から申請された害虫抵抗性とうもろこし(MON809)、株式会社東食から申請された除草剤耐性とうもろこし(DLL25)及び害虫抵抗性とうもろこし(DBT418)については継続審議となりました。
また、ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請された除草剤耐性とうもろこし(MS3)については、申請者から申請却下の要請がありました。
3 後代交配種の取扱いについて
バイオテクノロジー特別部会に設置された、「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」における個別食品等の審議の中で、遺伝子組換え食品の後代交配種の安全性評価の必要性の有無について意見がまとめられたことから、これについて、当部会において検討が行われた結果、別添2の報告がありました。
4 今後の予定
平成9年10月27日より毎週月水金に申請資料を社団法人日本食品衛生協会において公表します。
また、今回の部会報告に対しご意見がある方は、11月21日までに書面等にて食品保健課までおよせ下さい。
なお、今後さらに食品衛生調査会常任委員会での審議をふまえ、食品衛生調査会としての答申が行われる予定です。
II 次回申請等について
申請の受付は、平成9年12月19日までとします。
問い合わせ先 厚生省生活衛生局 堺 食品保健課長 担 当 佐原、井関、佐々木(内2447、2451) 中山(食品化学課、内2483)
食 調 第 66号
平成9年10月22日
委員長 寺田 雅昭 殿
食品衛生調査会
バイオテクノロジー特別部会
部会長 寺尾 允男
平成9年5月27日付厚生省生衛第568号をもって厚生大臣より諮問され、同日付食調第39号をもって付議された食品・食品添加物及び平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって厚生大臣より諮問され、同日食調第75号をもって付議され継続審議となった食品の安全性評価が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否については、組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会において審議してきたところである。
今般、分科会の検討結果を踏まえ、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会において更に審議した結果、下記の食品5品種及び食品添加物1品目について別記のとおり取りまとめたので報告する。
別 記
1.はじめに
平成9年5月27日、厚生大臣から食品衛生調査会に対し、食品5品種(除草剤耐性わた2品種、除草剤耐性なたね2品種、日持ち性向上トマト1品種)及び食品添加物1品目(リボフラビン)の安全性評価が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「安全性評価指針」という。)に適合していることの確認を行うことの可否について諮問がなされ、同日、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会(以下「部会」という。)に付議された。
部会においては、詳細な検討を行うため、専門家で構成された「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」(以下「分科会」という。)を設置し、この分科会における検討をもとに、さらに部会において審議を行うこととした。
分科会は、平成9年6月6日から平成9年9月9日の間に5回開催され、諮問された食品及び食品添加物の安全性評価が安全性評価指針に適合しているかどうかの検討を行った。
また、この分科会は、平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって厚生大臣より諮問され、同日食調第75号をもって付議され継続審議となった食品4品種(ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請された除草剤耐性とうもろこし(MS3)、パイオニアハイブレッド ジャパン株式会社から申請された害虫抵抗性とうもろこし(MON809)、株式会社東食から申請された害虫抵抗性とうもろこし(DBT418)及び除草剤耐性とうもろこし(DLL25))の安全性評価が安全性評価指針に適合しているかどうかの検討も行った。
この分科会での検討結果を受け、平成9年10月22日に部会において審議した結果、平成9年5月27日に諮問された食品5品種及び食品添加物については、分科会での審議が終了した。
また、パイオニア ハイブレッド ジャパン株式会社から申請された害虫抵抗性とうもろこし(MON809)、株式会社東食から申請された除草剤耐性とうもろこし(DLL25)及び害虫抵抗性とうもろこし(DBT418))については、さらに検討が必要なことから、審議を継続することとされた。
さらに、ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請された除草剤耐性とうもろこし(MS3)については、申請者の申し出に基づき、申請取消の手続きが必要とされた。
この分科会での検討結果を受け、平成9年10月22日に部会において審議した結果、今般、別紙のとおり、食品5品種と食品添加物1品目について報告をとりまとめた。
2.諮問された食品及び食品添加物の安全性評価が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について
別紙1から6のとおり。
3.おわりに
以上のとおり、食品5品種及び食品添加物1品目それぞれに係る安全性評価について、安全性評価指針に沿った安全性評価が行われていると判断した。
1 申請された食品の概要
ラウンドアップ・レディー・ワタは、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国登録:CAS登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる。
グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである、5-エノール-4-ピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS 蛋白質」という。)と特異的に結合し、その活性を阻害する。そのため、散布によりほとんどの植物は必須芳香族アミノ酸が合成できずに枯死する。
ラウンドアップ・レディー・ワタはグリホサート存在下でも機能するCP4 EPSPS蛋白質を発現させる遺伝子が導入されているため、グリホサートを散布しても植物は枯死せずに生育することができる。
また、選択マーカー遺伝子としてEscherichia coli (以下「E.coli」という。)に由来するNPTII蛋白質を発現させるnptII遺伝子が導入されている。NPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。
2 指針の適用の可否について
ラウンドアップ・レディー・ワタの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(1)遺伝的素材に関する資料
宿主はわた(Gossypium hirsutum 種)であり、遺伝子供与体は土壌微生物であるAgro-bacterium sp. CP4株に由来し、nptII遺伝子はE.coliに由来する。
CP4 EPSPS 蛋白質の発現量は、種子生組織1mgあたり0.082μgであり、NPTII蛋白質の発現量は、種子生組織1mgあたり0.0067μgである。
(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
ヒトが摂取するわた(G.hirsutum 種)由来の食品は綿実油のみであり、綿実油は油として、天ぷら油、サラダ油、マヨネーズ等に利用され、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
(3)食品の構成成分等に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタは、主要構成成分(脂質、脂肪酸等)、有害生理活性物質(ゴシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)に関し、既存の綿実油と有意な差は認められなかった。
(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタの食品としての使用方法は既存のわたと同等である。
なお、既存のわたとの栽培上の相違は、グリホサートの影響を受けずに生育することから、栽培期間中にグリホサートが使用できる点のみである。
(5)指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、ラウンドアップ・レデー・ワタは、既存のわたと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
ラウンドアップ・レディー・ワタの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
ラウンドアップ・レディー・ワタには、グリホサート存在下でも機能するCP4 EPSPS 蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグリホサートが使用できる。
(2)宿主
わた(G.hirsutum種)の、食品としての利用形態は、綿実油に限られる。わたの種子にはゴッシポール等の有害生理活性物質の産生が知られている。
(3)ベクター
ラウンドアップ・レディー・ワタの作出に用いられた pPV-GHGT07 は、主として Agro-bacterium tumefaciensに由来する。pPV-GHGT07に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。
また、pPV-GHGT07にはE.coli間における伝達を可能とするoriT 配列を含むが、この伝達はヘルパープラスミド等からtrfA遺伝子産物が供給されることが必須であるため、pPV-GHGT07単独では伝達は起こらない。 pPV-GHGT07は自律可能な領域が、E.coli及び Serratia marcescens 等近縁のグラム陰性菌及びTiプラスミド pMP9ORK を持つAgrobacterum tumefaciens ABI株に限られており、植物や自然界では増殖することができない。
なお、pPV-GHGT07のわた細胞への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pPV-GHGT07には、CP4 EPSPS遺伝子、nptII遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
(4)挿入遺伝子
1) 供与体
2) 挿入遺伝子
(5)組換え体
a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
(6)指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、ラウンドアップ・レディー・ワタは指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。
1 申請された食品の概要
BXN cottonは、ブロモキシニル(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾニトリル)を活性成分とする除草剤(商品名「Buctril」)の影響を受けずに生育できる。
BXN cottonは、ブロモキシニルを加水分解するnitrilase蛋白質(ニトリル化合物を加水分解してアミド又はカルボン酸を生成させる酵素の総称)を発現するBXN遺伝子が導入されている。このBXN遺伝子により発現するnitrilase蛋白質によりブロモキシニルの影響を受けずに生育することができる。
また、BXN cottonは、選択マーカー遺伝子としてEscherichia coli(以下「E.coli」という。)に由来するnptII遺伝子が導入されている。このnptII遺伝子により発現するNPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。
2 指針の適用の可否について
BXN cottonの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(1)遺伝的素材に関する資料
宿主はわた(Gossypium hirsutumに属するCoker 315。以下「G.hirsutum種」という)であり、遺伝子供与体は、BXN遺伝子がKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeに由来し、nptII遺伝子はE.coliに由来する。
種子の生組織1g当り、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質の発現量は6μg未満(検出限界以下)であり、nptII遺伝子の発現蛋白質であるNPTII蛋白質の発現量は80μg未満(検出限界以下)である。
なお、粗精油中のnitrilase蛋白質は検出限界値(約0.1ppm)未満であり、それを更に加工した後の実際に食用とされる精製油中では、いかなる蛋白質も含まれない。
(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
ヒトが摂取するわた(G. hirsutum種)由来の食品は綿実油のみであり、綿実油は油として、天ぷら油、サラダ油等に利用され、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
なお、BXN遺伝子の供与体であるKlebsiella pneumoniae subsp.
ozaenaeはヒトの食経験はないが、環境中及び食品中に広く存在しており、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質は、植物や微生物界に幅広く存在している。
(3)食品の構成成分等に関する資料
BXN cotton由来の綿実油は、主要構成成分(脂肪酸)及び有害生理活性物質(ゴシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)に関し、既存の綿実油と同等であった。
(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
BXN cottonの食品としての使用方法は、既存のわたと同等である。なお、既存のわたとの相違は、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質の作用によりブロモキシニルが分解されることから、栽培期間中にブロモキシニルを使用してもその影響を受けることなく生育することができるという点である。
(5)指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、BXN cottonは 、既存のわたと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
BXN cottonの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
BXN cottonは、ブロモキシニルを分解するnitrilase蛋白質を発現させるBXN遺伝子が導入されているので、栽培期間中にブロモキシニルを使用することができる。
(2)宿主
わた(G.hirsutum種)の食品としての利用形態は、綿実油に限られる。
なお、わたの種子にはゴシポール等の有害生理活性物質の産生が知られている。
(3)ベクター
BXN cotton作出に用いられたpBrx75は、Agrobacterium tumefaciens(以下「A.tumefaciens」という。)のバイナリーベクターpCGN1559に由来する。
pBrx75に存在する全ての遺伝子は、その機能が明らかとなっており既知の有害塩基配列を含まない。
pBrx75は、pBR322を由来とした複製機能を有する領域を持つが、E.coli間における伝達を可能とするoriT配列は除去されている。また、pRiHRI由来の領域は、伝達に関わる機能及びoriT配列を持たない。したがって、pBrx75の伝達はなく、自律増殖可能な宿主がE.coli、A.tumefaciens及びそれらの近縁の微生物に限られている。
なお、pBrx75のわた細胞への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
また、pBrx75には、BXN遺伝子、nptII遺伝子、gent'遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
なお、BXN cottonにはgent'遺伝子は挿入されていない。
(4)挿入遺伝子
1) 供与体
a 組換え DNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
(6)指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、BXN cottonは指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。
1 申請された食品の概要
MS8RF3は、除草剤グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号)の影響を受けずに生育できる。
グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているglutamine synthetase(以下「GS」という。)の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し枯死する。
MS8RF3には、PPTをアセチル化して不活性化させるphosphinothricin acetyltransferase(以下「PAT蛋白質」という。)を発現させるbar遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
MS8RF3は、雄性不稔遺伝子(以下「barnase遺伝子」という。)を導入したナタネ(以下「MS8」という。)と既存の品種との交配種に稔性回復遺伝子(以下「barstar遺伝子」という。)を導入したナタネ(以下「RF3」という。)と既存の品種との交配種を交配させたF1雑種(ハイブリッド)である。雑種強勢により、播種用の種子は収量、均一性、環境に対する適応力に優れるとともに、barstar遺伝子により通常のナタネと同様に自家受粉が可能になる。
2 指針の適用の可否について
MS8RF3の指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(1)遺伝的素材に関する資料
宿主はなたね(カノーラ種)であり、遺伝子供与体は、bar遺伝子がStreptomyces hygroscopicus(以下「S.hygroscopicus」という。)に由来し、barstar遺伝子及びbarnase遺伝子は、Bacillus amyloliquefaciens(以下「B.amyloliquefaciens」という。)に由来する。
なお、挿入遺伝子に由来する蛋白質はプロモーターの調節により可食部(種子)には発現しない。
(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
なたね(カノーラ種)から得られる油は、食用油として幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。また、S.hygroscopicusについては、ヒトの食経験はないが、土壌中に分布している非病原性の微生物である。B.amyloliquefaciensについてはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。
(3)食品の構成成分等に関する資料
MS8RF3は、主要構成成分(蛋白質、灰分、油分、粗繊維及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート))に関し、既存のなたねと同等であった。
(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
MS8RF3の食品としての使用方法は既存のなたねと同等である。なお、既存のなたねとの相違は、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点及びハイブリッド種であることから雑種強勢の利点がある点である。
(5)指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、MS8RF3については、既存のなたねと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
MS8RF3の指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
MS8RF3には、PPTをアセチル化しGSの阻害作用を活性化させるPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されず、栽培期間中にグルホシネートが使用できる。さらにハイブリッド種であることから雑種強勢の利点がある。
(2)宿主
なたね(カノーラ種)は、食品として食用油に利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。エルシン酸及びグルコシノレートのような有害生理活性物質の生産が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。
(3)ベクター
MS8RF3の作出に用いられたpTHW107及びpTHW118は、pGSV1に由来する。
pTHW107及びpTHW118に含まれるすべての遺伝子は、その特性が明らかになっており、既知の有害な塩基配列を含まない。pTHW107及びpTHW118は、自律増殖可能な宿主域がE.coli及びAgrobacterium tumefaciensのみに限られている。
なお、pTHW107及びpTHW118のなたね組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pTHW107はbar遺伝子、barnase遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子が、pTHW118はbar遺伝子、barstar遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子をそれぞれ含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
(4)挿入遺伝子
1) 供与体
2) 挿入遺伝子
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
(6)指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、MS8RF3は指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。
1 申請された食品の概要
HCN10は、除草剤グルホシネート(商品名:バスタ(グルホシネート・アンモニウム)、」の影響を受けずに生育できる。
HCN10は、グルホシネートの有効成分であるホスフィノスリシン(phosphinothricin。(以下「PPT」という。))は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているグルタミン合成酵素(glutamine synthetase。(以下「GS」という。))の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し枯死する。
HCN10には、PPTをアセチル化して不活性化させるphosphinothricin acetyltransferase。(以下「PAT蛋白質」という。)を発現させるpat遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
選択マーカー遺伝子としてEscherichia coli(以下、「E. coli」という。)に由来するNPTII蛋白質を発現させるnptII遺伝子が導入されている。NPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。
2 指針の適用の可否について
HCN10の指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(1)遺伝的素材に関する資料
HCN10の宿主はカノーラなたね(カノーラ種)であり、遺伝子供与体は、pat遺伝子が非病原性一般土壌細菌であるStreptomyces viridochromogenes Tu494株に由来し、nptII遺伝子がE. coliに由来する。
なお、挿入遺伝子に由来する蛋白質はプロモーターの調節により可食部(種子)には発現しない。
(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
なたね(カノーラ種)から得られる油は、食用油として幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
(3)食品の構成成分等に関する資料
HCN10は、主要構成成分(蛋白質、脂質、粗繊維及び抗栄養素)等に関し、既存のなたねと同等であった。
(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
HCN10の食品としての使用方法は既存のなたねと同等である。なお、既存のなたねとの相違は、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点のみである。
(5)指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、HCN10については、既存のなたねと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
HCN10の指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
HCN10には、PPTをアセチル化しGSの阻害作用を不活性化させるPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されず栽培期間中にグルホシネートが使用できる点である。
(2)宿主
なたね(カノーラ種)は、食品として食用油に利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。エルシン酸及びグルコシノレートのような有害生理活性物質の生産が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。
(3)ベクター
HCN10の作出に用いられたpOCAは、Klebsiella aerogenesのプラスミドRK290に由来するバイナリーベクターpOCA/ACである。
pOCAに含まれるすべての遺伝子は、その特性が明らかになっており、既知の有害な塩基配列を含まない。pOCAは植物形質転換の機能を持っているが、伝達性を有さず、自律増殖しない。
なお、pOCAのなたね組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pOCAはpat遺伝子、nptII遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
(4)挿入遺伝子
1) 供与体
(5)組換え体
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
PAT蛋白質は人工胃液及び人工腸液により急速に分解され、抗原性が消失した。
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
(6)指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、HCN10は指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。
1 申請された食品の概要
フレーバーセーバートマト(以下「FLAVRSAVRTM トマト」という。)は、アンチセンス・ポリガラクチュロナーゼ遺伝子(以下「FLAVRSAVRTM遺伝子」という。)により、果実の軟化速度を遅延させることにより収穫後の日持ち性を良くし、果実の腐敗及び収穫後のトマトの病気の発生が低減される。
FLAVRSAVRTMトマトには、トマト果実の細胞壁に存在するペクチンの可溶化とそれに伴う果実の軟化をもたらす酵素であるポリガラクチュロナーゼ(Polygalacturonase:以下「PG」という)の発現を抑制するために、それをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を持つFLAVRSAVRTM遺伝子が導入されている。
また、選択マーカー遺伝子として、Escherichia coli(以下「E.coli」という。)に由来しAPH(3')II(NPTII)蛋白質を発現するカナマイシン抵抗性遺伝子(以下、「kanr遺伝子(nptII遺伝子)」という。)が導入されている。
2 指針の適用の可否について
FLAVRSAVRTMトマトの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(1)遺伝的素材に関する資料
宿主はトマトである。遺伝子供与体は、栽培トマト(L.esculentum cv Caligrande cv Campbell33)に由来する。
この食品は、アンチセンス方式による遺伝子組み換えであるため、組み換え体におけるPGの発現量は0.01μmol/min・mg proteinであり、宿主トマトのそれに比較して少ない。また、kanr遺伝子により発現するAPH(3')II蛋白質の発現量は、1.75μg/g以下である。
(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
宿主である栽培トマトはLycopersicon esculentum Millに属し、食品として古くから利用されている作物であり、広範囲で安全な人の食経験を有する。
kanr遺伝子の供与体であるE.coliは、ヒトの直接の食物源ではないが、環境中に広く分布しており、kanr遺伝子(nptII遺伝子)の発現蛋白質であるるAPH(3')II(NPTII)蛋白質は、微生物界に幅広く分布している。
(3)食品の構成成分等に関する資料
FLAVRSAVRTM、トマトは、主要構成成分(蛋白質、ビタミン、ミネラル)及び毒性物質(トマチン、ソラニン、チャコニン)に関し、既存のトマトと同等であった。
(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
FLAVRSAVRTMトマトの食品としての使用方法は既存のトマトと同等である。なお、既存のトマトとの相違は果実の軟化をもたらすPGの発現をコードする遺伝子のアンチセンス遺伝子の発現により、収穫後の日持ち性が向上し、果実の腐敗及び収穫後の病気の発生を低減させる点である。
(5)指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、FLAVRSAVRTMトマトは既存のトマトと同等と見なし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
フレーバーセーバートマトの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
FLAVRSAVRTMトマトでは、PGの発現をコードする遺伝子のアンチセンス遺伝子が導入されているので、PG活性が大きく低下し、そのため果実の軟化・腐熟の発生率を低く抑えることができる。
(2)宿主
宿主である栽培トマトはLycopersicon esculentum Millに属し、食品として古くから利用されている作物であり、広範囲で安全な人の食経験を有する。
(3)ベクター
FLAVRSAVRTMの作出に用いられたpCGN1436は、Agrobacterium tumefaciens(以下、「A.tumefacience」という。)のバイナリーベクター pCGN1547 に、kanr 遺伝子はE.coliに由来する。pCGN1436に存在するすべての遺伝子は、その機能が明らかになっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、バクテリア間での伝達性はなく、自律増殖はできない。
なお、pCGN1436の宿主への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
(4)挿入遺伝子関連
1) 供与体
(5)組換え体
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組み換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組み換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における許可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
(6)指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、FLAVRSAVRTMトマトは、指針 に沿って安全性評価が行われていると判断した。
1 申請された食品添加物の概要
リボフラビンは、栄養強化又は着色の目的で、菓子、スポーツ飲料、味噌、漬物等の食品に使用される。現在、リボフラビンは、合成法又は発酵法により製造されているが、生産効率の点から合成法が多用されている。
申請リボフラビンは、Bacillus subtilis Marburg 168株由来株を宿主とし、pUC19をベクターとして用いて、リボフラビン生合成遺伝子群、プロモーター遺伝子等を染色体上に挿入した組換え体を培養することにより、効率的に製造されるものである。
2 指針の適用の可否について
申請リボフラビンについては、食品添加物公定書第六版に収載されているリボフラビンの成分規格中の定量法から求めた含量が98.0%〜102.0%の範囲内にあり、確認試験、純度試験等の成分規格にもすべて適合していること、HPLC法による測定で既存の合成リボフラビンと同一の保持時間にピークが得られることから、既存の食品添加物であるリボフラビンと同等とみなし得るものと考えられる。また、申請リボフラビンについては、組換え体自体は生産物に含有されない。以上の点から、申請リボフラビンについては、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
申請リボフラビンの指針への適合性については、指針の第2章第1〜第3及び第3章第1に従って申請資料の検討を行った。
【製造過程に関して】
(1)組換え体等の製造方法
B.subtilis Marburg 168 株由来株を宿主とし、pUC19をクローニングベクターとして用いて、リボフラビン生合成遺伝子を染色体上に組み込ませ、増幅させた当該組換え体を培養する。培養により生産されたリボフラビンは、結晶として培養液中に蓄積されるので、菌体画分とリボフラビン画分を分離した後、リボフラビン画分を精製し、食品添加物としてのリボフラビンを得る。
(2)宿主
B.subtilis Marburg 168 株を突然変異処理し、リボフラビン及びプリンの生産を調節解除した誘導体であるRB50株を使用している。B.subtilis Marburg 168株誘導体は、長期にわたって安全に用いられてきた歴史をもつ微生物であり、「組換えDNA実験指針」の表2の認定宿主−ベクター系に含まれている。
宿主の増殖性については、水道水、下水及び土壌中で(20℃及び37℃)、15日間生菌数を測定したところ、対照として用いたB.subtilis Marburg 168 株と同様、一日目で約100分の1に減少し、その後ほぼ一定に保たれていることから、低いものと考えられる。
(3)ベクター
Escherichia coliに一般に広く用いられるプラスミドpUC19 (2.7kbp) は、制限酵素による切断地図、塩基配列が明らかにされており、既知の有害塩基配列を含まないことが示されている。なお、pUC19は遺伝子ampを含むため、E. coliにおいてはアンピシリン耐性を発現するが、宿主B.subtilisにおいては、複製ができない(B.subtilis特有のリボソーム結合部位による)ため、アンピシリン耐性遺伝子は発現されない。
(4)挿入遺伝子関連
組換え体に挿入される遺伝子は、B.subtilis Marburg 168 株由来のリボフラビン合成遺伝子群(6.5kbp)、B.subtilisを宿主とするファージSP01由来の初期遺伝子プロモーター配列(365bp)、Staphylococcus aureusのプラスミドpC194由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子(1035bp)、Streptococcus faecalisのプラスミドpAMa1由来のテトラサイクリン耐性遺伝子(2.4kbp)である。これらの挿入遺伝子の塩基配列は明らかにされており、既知の有害塩基配列は含まれていない。
(5)組換え体
組換え体は、組換えDNA操作により、宿主と比較し10倍以上のリボフラビン生産性、テトラサイクリン及びクロラムフェニコール耐性を新たに獲得する。
組換え体の外界における増殖性は、組換えにより生存及び増殖能力を増強するような性質が付与されていないので、宿主と同様、環境中での増殖能は低いと考えられる。
組換え体の遺伝的安定性については、リボフラビンが生産・蓄積されること(組換え体の目的とする機能の保持)及びリボフラビンオペロンに特異的なプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション法によるDNA断片の結合(組換え体に導入されているDNAの基本構造の維持)によって、確認されている。
また、組換え体は60℃で30分間加熱することにより、殺菌されることが確認されている。
申請リボフラビンの製法は次のとおりである。まず、組換え体を栄養成分、クロラムフェニコール及びテトラサイクリン塩酸塩を培地に含む種発酵槽で種培養し、リボフラビン生合成遺伝子を増幅させる。その後、栄養成分を培地に含む主発酵槽で培養し、リボフラビンを生産する。生産されたリボフラビンは、加熱殺菌、遠心分離、酸処理の工程を経て製品化される。培養工程や精製工程で用いられる製造原料には、食品添加物、日本工業規格1級の試薬等が使用されている。また、発酵工程には密閉式容器が用いられており、培養槽からの排気ガスは、排ガスフィルターで処理され、廃液は、加熱殺菌(60℃、30分)後、排水処理設備に送られる。
(3)生産物の精製
組換え体から生産されたリボフラビンは、結晶として培養液中に蓄積される。培養液を加熱処理(60℃、30分)し、組換え体等の微生物を失活させた後、結晶画分を遠心分離し、更に、DNAの分解(脱プリン化)のため酸処理(塩酸又は硫酸約2%)し、約96%含量のリボフラビンを得る。これを酸溶媒でさらに結晶化し、約98%含量の製品を得る。
【生産物に関して】
(1)組換え体の混入を否定する資料
生産物中に組換え体由来のDNAが混入していないことは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて確認している。組換え体の全ゲノムの代表として、クロラムフェニコール耐性遺伝子由来の557bpフラグメントをPCR分析したところ、申請リボフラビンからはDNAが検出されなかった(検出限界は0.5ppb)。
(2)製造に由来する不純物の安全性に関する資料
申請リボフラビンをHPLC法で分析したところ、3種の不純物(8−ハイドロキシメチルリボフラビン、フォルミルメチル−フラビンアセタール及びルミクローム)が検出された(合計含量約0.3〜1%)。対照として化学的合成法によるリボフラビンをHPLC法で分析したところ、上記3種の不純物及びリビチル−オクソ−キノクサル酸、ルミフラビンが検出された(合計含量約1%)。申請リボフラビンに含まれる上記3種の不純物については、文献検索から毒性を示唆する情報は得られなかった。
また、申請リボフラビンを6mol/l塩酸中加熱処理し、加水分解後、アミノ酸及びアミノ糖を分析をしたところ、含量0.06%以下であり、タンパク質は実質的に除去されていると考えられる。
(2)毒性試験
Wister系ラットを用いた申請リボフラビンの混餌(0,20,50,200mg/kg体重/日)投与による13週間の反復投与試験においては、検体に起因する毒性徴候は生じていない。
また、Salmonella typhimurium(TA1535,TA97,TA98,TA100及びTA102株)を用いた、S9存在下及び非存在下でのAmes試験(濃度:50μg/プレート〜5,000μg/プレート)においては、いずれにおいても復帰突然変異体のコロニー数の増加は認められていない。
(3)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する資料
申請リボフラビンは、98%以上のリボフラビンを含有し、有害性の示唆される常成分は認められなかった。
4.指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、申請リボフラビンについては、指針に沿って安全性評価が行われていると判断できる。
食調第67号
平成9年10月22日
委員長 寺田 雅昭 殿
食品衛生調査会
バイオテクノロジー特別部会
部会長 寺尾 允男
安全性が確認された組換え品種と従来品種とを、伝統的な育種の手法を用いて掛け合わせた品種(以下「後代交配種」という。)の安全性評価については、現在の組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針(以下「安全性評価指針」という。)」に記載がなく、具体的な評価のあり方について未定となっている状況である。
後代交配種の安全性評価のあり方については、国際的には、1996年10月のWHO/FAOの合同レポート(「Biotechnology and food safety」)等において、従来品種と同等の安全性が確保された組換え品種の後代交配種については、遺伝子組換え技術に特有な評価方法による安全性評価は必要ないとの見解が示されているものの、我が国においてはこの問題について十分な議論がなされてきたとは言えない状況にある。
今般、バイオテクノロジー特別部会において、安全性評価の確認がされた品種と従来の品種との掛け合わせによって作出された後代交配種の安全性評価が個別に必要かどうか、バイオテクノロジー応用食品等の安全性評価に関する研究班の報告も参考にして、後代交配種の安全性評価のあり方について下記のとおり意見を取りまとめた。
1.後代交配種の安全性について
厚生省により安全性が確認された組換え品種の後代交配種のうち、次の(1)〜(3)のすべての項目を満たすものについては、その安全性に問題はないものと考えられる。
2.安全性評価の確認について
1.の(1)〜(3)の各条件を一つでも満たさない後代交配種を製造又は輸入しようとする者等は、個別に厚生省に対しその安全性評価の確認を求めることが望ましい。
3.その他
組換え品種の後代交配種についても、これまでに十分な食経験がなく、遺伝子組換え食品の安全性の一層の確保を図る観点から、後代交配種の安全性評価についも厚生省による調査・研究を引き続き進めていくことが望ましい。
参 考
1 「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」について
厚生省では、平成3年に安全性評価指針を策定し、組換えDNA技術を応用して製造された食品・食品添加物(以下、「食品等」という。)であって、生産物が既存の食品等とみなし得る食品等であり、組換え体そのものを食さない場合についての安全性を確保してきた。
しかし、近年の組換えDNA技術の進歩により、組換え体そのものを食する食品等についても、その安全性確保のための対応が必要になったことから、食品衛生調査会の答申に基づき、平成8年2月5日に安全性評価指針を改訂した。
現在の安全性評価指針の適用範囲は下記のとおりである。
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2 組換えDNA技術応用作物について
(1) 組換えDNA技術について
組換えDNA技術とは、ある生物から取りだした遺伝子を改良しようとする生物に組み込む技術のことで、この技術を用いることにより、目的とする有用な遺伝子をより正確に、かつ簡便に作物に導入し、作物を改良することができるようになる。
(2) 今回報告された食品5品種、食品添加物1品目について
今回報告された食品5品種は、除草剤耐性わた2品種、除草剤耐性なたね2品種及び日持ち性向上トマト1品種であり、新たに獲得された性質、挿入遺伝子等は別紙1のとおりである。
また、食品添加物1品目は、リボフラビンであり、組み換え体の利用目的、挿入遺伝子等は別紙2のとおりである。
(3) 安全性評価のポイントについて
食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会における検討では、平成9年5月27日に諮問のあった5品種の食品及び1品目の食品添加物及び平成8年10月24日に諮問され継続審議となった4品目の食品それぞれについて、申請者が行った安全性評価が、安全性評価指針に基づき適切に行われたものかどうかについて審議した。
その結果、資料の提出が遅れた4品種の食品を除く、5品種の食品及び1品目の食品添加物について、安全性評価指針に沿って適切に評価が行われていることを確認した。
(4) 組換え体の特徴
モンサント社ワタ (ラウンドアップ・レディ−・ワタ 1445系統) |
モンサント社ワタ (BXN cotton) |
アグレボ社カノーラ (MS8RF3) |
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申請者 | 日本モンサント(株) | 日本モンサント(株) | ヘキスト・シェーリング・アグレボ (株) |
開発者 | Monsanto Company(米国) | Calgene Incorporated(米国) | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
新たに獲得された性質 挿入遺伝子(供与体) |
除草剤(グリホサート)耐性 CP4 EPSPS遺伝子 (Agrobacterium.sp 由来) |
除草剤(ブロモキシニル)耐性 BXN遺伝子 (Klebsiella pneumoniae subsp.ozaenae 由来) |
除草剤(グルホシネート)耐性 bar遺伝子 (Streptomyces hygroscopicus由来) 雄性不稔(雄性不稔ナタネ MS8) barnase遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens) 稔性回復(稔性回復ナタネ RF3) barstar遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens) (MS8×従来種)×(RF3×従来種)=交配種(MS8RF3) MS8RF3は除草剤耐性のみを獲得 |
選択マーカー 挿入遺伝子(供与体) |
抗生物質(カナマイシン等)耐性 nptII遺伝子 ( Escherichia coli由来) |
抗生物質(カナマイシン等)耐性 nptII遺伝子(Escherichia coli由来) |
除草剤(グルホシネート)耐性 bar遺伝子 (Streptomyces hygroscopicus由来) |
可食部分に発現する 遺伝子産物と発現量 |
CP4 EPSPS蛋白質 0.082μg/mg(種子生組織重量) NPTII蛋白質 0.0067μg/mg(種子生組織重量 綿実油中にはともに検出限界下 |
nitrilase蛋白質 検出限界以下(種子生組織NPTII蛋白質 検出限界以下(種子生組織綿実油中にはともに検出界以下 |
プロモーターとターミネーターとの調節により、可食部分には発現しな い。 |
諸外国での認可状況 | 米国(1996年2月) | 米国(1994年9月) カナダ(1996年8月) 英国(1997年1月) |
カナダ(1997年3月) |
組み込みによる効果 | 除草剤使用量・回数の削減 (環境保全に資する。) |
除草剤使用量・回数の削減 (環境保全に資する。) |
除草剤使用量・回数の削減 (環境保全に資する。) |
アグレボ社カノーラ (HCN10) |
キリン トマト | |
申請者 | ヘキスト・シェーリング・アグレボ(株) | 麒麟麦酒(株) |
開発者 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) | Calgene Incorporated(米国) |
新たに獲得された性質 挿入遺伝子(供与体) |
除草剤(グルホシネート)耐性 pat遺伝子 (Streptomyces viridochromogenes Tu 494株由来) |
Poly Galacturonase生合成遺伝子のアンチセンス発現性遺伝 ( Lycopersicon esculentum cv Caligrande cv Campbell 33由来) |
選択マーカー 挿入遺伝子(供与体) |
抗生物質(カナマイシン等)耐性 nptII遺伝子 (Escherichia coli由来) |
抗生物質(カナマイシン等)耐性 nptII遺伝子 (Escherichia coli由来) |
可食部分に発現する 遺伝子産物と発現量 |
なたね油に、 PAT蛋白質検出限界以下 (検出限界 0.1μg/g) NPTII蛋白質検出限界以下 (検出限界 0.1μg/g) |
NPTII蛋白質 1.75μg/g (生組織重量) |
諸外国での認可状況 | カナダ(1995年6月) | 米国(1994年5月) カナダ(1995年2月) メキシコ(1995年3月) 英国(1996年2月) |
組み込みによる効果 | 除草剤使用量・回数の削減 (環境保全に資する。) |
・トマト果実の軟化速度の遅延 ・品質の長期間保持。 ・果実の腐敗及び収穫後のトマトの病気の発生の低減。 |
対 象 品 目 | リボフラビン(ビタミンB2) |
申 請 者 | 日本ロシュ株式会社 |
開 発 者 | F.Hoffmann-La Roche(スイス) |
組換え体の利用目的 | リボフラビンは、合成法又は発酵法により製造されるが、生産効率の面から合成法が多用されている。 Bacillus subtilis Marburg 168株由来株を宿主とし、pUC19をベクターとして用いて、リボフラビン生合成遺伝子群、プロモター遺伝子等を染色体上に挿入した組換え体を培養し、効率的リボフラビンを製造する。 |
宿 主 | Bacillus subtilis Marburg 168 株由来株であるRB50株 |
ベクタ ー | Escherichia coliのプラスミド等の配列を含むpUC19(約2.4Kbp) |
挿 入 遺 伝 子 (供 与 体) |
・Bacillus subtilis Marburg 168株由来のリボフラビン合成遺伝子群(6.5kbp) ・Bacillus subtilisのファージSP01由来のプロモーターSP01-1 (365bp) ・Staphylococcus aureusのプラスミドpC194由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子(1035bp) ・Streptococcus faecalisのプラスミドpAMα1由来のテトラサイクリン耐性遺伝子(2.4Kbp) |
諸外国での状況 | 米国及び英国において、使用等が認められている。 |
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