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「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否に関する食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会報告について


平成9年10月22日

生活衛生局食品保健課
食品化学課

I 報告について

1 概要

(1)本日、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会は、組換えDNA技術を応用して製造された5品種の食品及び1品目の食品添加物について、別添のとおり、それぞれ「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下、「安全性評価指針」という。)に沿って安全性評価が行われていると判断する旨の部会報告を行いました。

(2)また、あわせて、「安全性評価指針」に係る後代交配種の取扱いについても部会報告を行いました。


2 これまでに諮問された食品及び食品添加物について

(1)平成9年5月27日に諮問された5品種の食品及び1品目の食品添加物について

平成9年5月27日、組換えDNA技術を応用して製造された次の5品種の食品及び1品目の食品添加物が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることを厚生大臣が確認することの可否について、厚生大臣より食品衛生調査会あて諮問され、同日、バイオテクノロジー特別部会あて付議されたところですが、本日付けで、別添1のとおりバイオテクノロジー特別部会の報告がありました。

 ア 対象品種 わた(ラウンドアップ・レディー・ワタ)

 性 質  除草剤耐性
 申請者  日本モンサント株式会社
 開発者  Monsanto Company(米国)

 イ 対象品種 わた(BXN cotton)

 性 質  除草剤耐性
 申請者  日本モンサント株式会社
 開発者  Calgene Incorporated(米国)

 ウ 対象品種 なたね(MS8RF3)

 性 質  除草剤耐性
 申請者  ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社
 開発者  Plant Genetic Systems(ベルギー)

 エ 対象品種 なたね(HCN10)

 性 質  除草剤耐性
 申請者  ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社
 開発者  Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ)

 オ 対象品種 トマト

 性 質  日持ち性の向上
 申請者  麒麟麦酒株式会社
 開発者  Calgene Incorporated(米国)

 カ 対象品目 リボフラビン

 申請者  日本ロシュ株式会社
 開発者  F. Hoffmann - La Roche(スイス)

なお、これまでの審議経過は次のとおりです。

 平成9年5月27日 食品衛生調査会に諮問、バイオテクノロジー特別部会に付議
     5月28日 バイオテクノロジー特別部会審議
     6月6日 第1回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
     6月17日 第2回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
     7月15日 第3回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
     8月8日 第4回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
     9月9日 第5回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
     10月22日 食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会開催
      〃   バイオテクノロジー特別部会報告


(2)平成8年10月24日に諮問され、継続審議となっていた4品種の食品について

平成8年10月24日に諮問され、継続審議となっていた4品種の食品のうち、パイオニアハイブレッドジャパン株式会社から申請された害虫抵抗性とうもろこし(MON809)、株式会社東食から申請された除草剤耐性とうもろこし(DLL25)及び害虫抵抗性とうもろこし(DBT418)については継続審議となりました。
また、ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請された除草剤耐性とうもろこし(MS3)については、申請者から申請却下の要請がありました。


3 後代交配種の取扱いについて

バイオテクノロジー特別部会に設置された、「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」における個別食品等の審議の中で、遺伝子組換え食品の後代交配種の安全性評価の必要性の有無について意見がまとめられたことから、これについて、当部会において検討が行われた結果、別添2の報告がありました。

4 今後の予定

平成9年10月27日より毎週月水金に申請資料を社団法人日本食品衛生協会において公表します。
また、今回の部会報告に対しご意見がある方は、11月21日までに書面等にて食品保健課までおよせ下さい。
なお、今後さらに食品衛生調査会常任委員会での審議をふまえ、食品衛生調査会としての答申が行われる予定です。


II 次回申請等について

申請の受付は、平成9年12月19日までとします。


 問い合わせ先 厚生省生活衛生局
        堺 食品保健課長
    担 当 佐原、井関、佐々木(内2447、2451)
        中山(食品化学課、内2483)

(別添1)

食 調 第 66号
平成9年10月22日

食品衛生調査会

 委員長 寺田 雅昭 殿

食品衛生調査会      
バイオテクノロジー特別部会
部会長  寺尾 允男  


「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」
に適合していることの確認を行うことの可否に関する部会報告


平成9年5月27日付厚生省生衛第568号をもって厚生大臣より諮問され、同日付食調第39号をもって付議された食品・食品添加物及び平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって厚生大臣より諮問され、同日食調第75号をもって付議され継続審議となった食品の安全性評価が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否については、組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会において審議してきたところである。

今般、分科会の検討結果を踏まえ、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会において更に審議した結果、下記の食品5品種及び食品添加物1品目について別記のとおり取りまとめたので報告する。



1 対象品種 わた(ラウンドアップ・レディー・ワタ)
 性 質  除草剤耐性
 申請者  日本モンサント株式会社
 開発者  Monsanto Company(米国)
2 対象品種 わた(BXN cotton)
 性 質  除草剤耐性
 申請者  日本モンサント株式会社
 開発者  Calgene Incorporated(米国)
3 対象品種 なたね(MS8RF3)
 性 質  除草剤耐性
 申請者  ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社
 開発者  Plant Genetic Systems(ベルギー)
4 対象品種 なたね(HCN10)
 性 質  除草剤耐性
 申請者  ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社
 開発者  Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ)
5 対象品種 トマト
 性 質  日持ち性の向上
 申請者  麒麟麦酒株式会社
 開発者  Calgene Incorporated(米国)
6 対象品種 リボフラビン
 申請者  日本ロシュ株式会社
 開発者  F.Hoffmann - La Roche(スイス)


別 記

1.はじめに

平成9年5月27日、厚生大臣から食品衛生調査会に対し、食品5品種(除草剤耐性わた2品種、除草剤耐性なたね2品種、日持ち性向上トマト1品種)及び食品添加物1品目(リボフラビン)の安全性評価が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「安全性評価指針」という。)に適合していることの確認を行うことの可否について諮問がなされ、同日、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会(以下「部会」という。)に付議された。

部会においては、詳細な検討を行うため、専門家で構成された「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」(以下「分科会」という。)を設置し、この分科会における検討をもとに、さらに部会において審議を行うこととした。

分科会は、平成9年6月6日から平成9年9月9日の間に5回開催され、諮問された食品及び食品添加物の安全性評価が安全性評価指針に適合しているかどうかの検討を行った。

また、この分科会は、平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって厚生大臣より諮問され、同日食調第75号をもって付議され継続審議となった食品4品種(ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請された除草剤耐性とうもろこし(MS3)、パイオニアハイブレッド ジャパン株式会社から申請された害虫抵抗性とうもろこし(MON809)、株式会社東食から申請された害虫抵抗性とうもろこし(DBT418)及び除草剤耐性とうもろこし(DLL25))の安全性評価が安全性評価指針に適合しているかどうかの検討も行った。

この分科会での検討結果を受け、平成9年10月22日に部会において審議した結果、平成9年5月27日に諮問された食品5品種及び食品添加物については、分科会での審議が終了した。

また、パイオニア ハイブレッド ジャパン株式会社から申請された害虫抵抗性とうもろこし(MON809)、株式会社東食から申請された除草剤耐性とうもろこし(DLL25)及び害虫抵抗性とうもろこし(DBT418))については、さらに検討が必要なことから、審議を継続することとされた。

さらに、ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請された除草剤耐性とうもろこし(MS3)については、申請者の申し出に基づき、申請取消の手続きが必要とされた。

この分科会での検討結果を受け、平成9年10月22日に部会において審議した結果、今般、別紙のとおり、食品5品種と食品添加物1品目について報告をとりまとめた。


2.諮問された食品及び食品添加物の安全性評価が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

別紙1から6のとおり。


3.おわりに

以上のとおり、食品5品種及び食品添加物1品目それぞれに係る安全性評価について、安全性評価指針に沿った安全性評価が行われていると判断した。


日本モンサント株式会社から申請されたわた(ラウンドアップ・レディー・ワタ 1445系統)に係る「組換えDNA 技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

日本モンサント株式会社から申請されたわた(商品名:「ラウンドアップ・レディー・ワタ 1445系統」。以下「ラウンドアップ・レディー・ワタ」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。


1 申請された食品の概要

ラウンドアップ・レディー・ワタは、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国登録:CAS登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる。
グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである、5-エノール-4-ピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS 蛋白質」という。)と特異的に結合し、その活性を阻害する。そのため、散布によりほとんどの植物は必須芳香族アミノ酸が合成できずに枯死する。
ラウンドアップ・レディー・ワタはグリホサート存在下でも機能するCP4 EPSPS蛋白質を発現させる遺伝子が導入されているため、グリホサートを散布しても植物は枯死せずに生育することができる。
また、選択マーカー遺伝子としてEscherichia coli (以下「E.coli」という。)に由来するNPTII蛋白質を発現させるnptII遺伝子が導入されている。NPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。


2 指針の適用の可否について

ラウンドアップ・レディー・ワタの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。

(1)遺伝的素材に関する資料

宿主はわた(Gossypium hirsutum 種)であり、遺伝子供与体は土壌微生物であるAgro-bacterium sp. CP4株に由来し、nptII遺伝子はE.coliに由来する。
CP4 EPSPS 蛋白質の発現量は、種子生組織1mgあたり0.082μgであり、NPTII蛋白質の発現量は、種子生組織1mgあたり0.0067μgである。

(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

ヒトが摂取するわた(G.hirsutum 種)由来の食品は綿実油のみであり、綿実油は油として、天ぷら油、サラダ油、マヨネーズ等に利用され、広範囲なヒトの安全な食経験がある。

(3)食品の構成成分等に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタは、主要構成成分(脂質、脂肪酸等)、有害生理活性物質(ゴシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)に関し、既存の綿実油と有意な差は認められなかった。

(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタの食品としての使用方法は既存のわたと同等である。
なお、既存のわたとの栽培上の相違は、グリホサートの影響を受けずに生育することから、栽培期間中にグリホサートが使用できる点のみである。

(5)指針適用の可否に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、ラウンドアップ・レデー・ワタは、既存のわたと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性

ラウンドアップ・レディー・ワタの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

ラウンドアップ・レディー・ワタには、グリホサート存在下でも機能するCP4 EPSPS 蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグリホサートが使用できる。

(2)宿主

わた(G.hirsutum種)の、食品としての利用形態は、綿実油に限られる。わたの種子にはゴッシポール等の有害生理活性物質の産生が知られている。

(3)ベクター

ラウンドアップ・レディー・ワタの作出に用いられた pPV-GHGT07 は、主として Agro-bacterium tumefaciensに由来する。pPV-GHGT07に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。
また、pPV-GHGT07にはE.coli間における伝達を可能とするoriT 配列を含むが、この伝達はヘルパープラスミド等からtrfA遺伝子産物が供給されることが必須であるため、pPV-GHGT07単独では伝達は起こらない。 pPV-GHGT07は自律可能な領域が、E.coli及び Serratia marcescens 等近縁のグラム陰性菌及びTiプラスミド pMP9ORK を持つAgrobacterum tumefaciens ABI株に限られており、植物や自然界では増殖することができない。
なお、pPV-GHGT07のわた細胞への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pPV-GHGT07には、CP4 EPSPS遺伝子、nptII遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。

(4)挿入遺伝子

 1) 供与体

ラウンドアップ・レディー・ワタに導入されたCP4 EPSPS遺伝子は、土壌微生物である Agrobacterium CP4株より単離され、nptII遺伝子は、E.coliに由来する。また、E.coli中でベクターと増殖する際及び植物発現ベクターを含むAgrobacterium tumefaciens を選抜するためのマーカーとして用いたaad遺伝子も導入されていたが、aad遺伝子は植物が機能するプロモーターを持たないため、ラウンドアップ・レディー・ワタ中では発現していない。

 2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタのゲノム中に組み込まれた pPV-GHGT07由来の挿入DNA (E9/CP4 EPSPS /CTP/CMoVb /aad/nptII/ori-V)のサイズは、最大でも6.1kbp 未満である。
なお、既知の有害塩基配列は含まれていない。

b 性質に関する資料
CP4 EPSPS 遺伝子は、CP4 EPSPS蛋白質を発現させ、グリホサート存在下でも阻害を受けずに機能するため、グリホサートの除草効果を妨げる。
nptII遺伝子は、受容植物細胞にアミノ配糖体系抗生物質を不活化させるNPTII蛋白質を発現する。

c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子は、それらの特性が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
挿入DNA は、5世代目においても安定に維持されている。

e コピー数に関する資料
挿入DNA は、一ケ所に1コピー挿入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
CP4 EPSPS 蛋白質の種子中生組織重量1mg あたりの発現量は、0.082μg であり、NPTII蛋白質の発現量は、0.0067μg である。
なお、綿実油中では、いずれも検出限界未満であった。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
ラウンドアップ・レディー・ワタ由来の食品は、綿実油のみであり、綿実油中にはnptII遺伝子もNPTII蛋白質も含まれないため、抗生物質耐性マーカーに係る安全性上の問題はないと考えられる。実際に分析を行った結果でも、ラウンドアップ・レディ・ワタ由来の綿実油中のNPTII蛋白質は検出限界未満であった。

h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNA には CP4 EPSPS蛋白質及びNPTII蛋白質の発現に係るオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、CP4EPSPS 蛋白質及びNPTII蛋白質のみである。

(5)組換え体

 a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタに導入された性質は、グリホサートの影響を受けずに生育できる点のみである。

 b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。

(1) 供与体の生物の食経験に関する資料
CP4 EPSPS遺伝子の供与体であるAgrobacterium sp.CP4株は、ヒトの直接の食物源ではないが、CP4 EPSPS蛋白質は、その配列が明らかにされている。EPSPS蛋白質の酵素機能は既知のものであり、これまでにヒトは、安全な食経験のある植物や微生物由来の様々な種類のEPSPS蛋白質を摂取してきている。

(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
CP4 EPSPS蛋白質が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
CP4 EPSPS蛋白質は、人工胃液・人工腸液により急速に分解され、抗原性が消失した。

イ 加熱処理に対する感受性
CP4 EPSPS蛋白質の酵素活性は、加熱により消失するとともに、抗原性も失われることが確認されている。

(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
日本人のCP4 EPSPS蛋白質の一日予想摂取量は、日本人の綿実油の平均摂取量0.25g(我が国の油脂事情、1994、国民栄養の現状、1995)を、ラウンドアップ・レディー・ワタ由来の綿実油から全量摂取し、綿実油中に検出限界値の蛋白質が存在すると仮定すると、0.33μgとなる。

(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
アレルゲンの構造相同性検索の結果、78の食物アレルゲンを含む 219の既知アレルゲンがデータベースより抽出された。しかし、CP4 EPSPS蛋白質と隣接したアミノ酸配列が7つ以上同一であるアレルゲンはなく、CP4 EPSPS蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。

(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
CP4 EPSPS蛋白質の、一日予想摂取量0.33μgは、日本人の一日平均蛋白質摂取量 79.5g(国民栄養の現状、1995)の0.0000004%である。

 c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

ヒトが摂取する本組換えワタ由来の食品は綿実油のみであり、わたの精製油中にはいかなる蛋白質も含まれないことが確認されている。

 d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

EPSPS蛋白質はホスホエノールピルビン酸(PEP)及びシキミ酸-3-リン酸(S3P)と特異的に反応する。PEPとS3P以外にEPSPS蛋白質と反応することが知られているのはS3P類似体であるシキミ酸のみである。EPSPS蛋白質とシキミ酸の反応性は、EPSPS蛋白質とS3Pの反応性のおよそ200万分の1にすぎない。したがって、シキミ酸が植物体内で EPSPS蛋白質と反応することはない。

 e 宿主との差異に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタ由来の綿実油は、主要構成成分(脂質、脂肪酸等)及び有害生理活性物質(ゴッシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)量に関し、既存の綿実油と同等であった。
なお、収穫されたわたにおけるグリホサートの残留量は、0.26ppm であり、厚生省が設定したわたのグリホサートについての残留基準値 0.5ppm を下回った。

 f 外界における生存・増殖能力に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタの圃場試験は米国を中心として延べ235カ所以上で行われているが、生存、増殖能力に関し非組換え品種と同等であった。

 g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタの、生存、増殖能力は非組換え品種と同等であった。

 h  組換え体の不活化法に関する資料

物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、わたを不活化する従来の方法によって不活化される。

 i 諸外国における認可・食用等に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタについて、米国においては、米国食品医薬品局(FDA)との間で行った、食品としての安全性に関する協議を完了した。カナダにおいても、商品化に必要な全ての許可が得られている。

 j 作出・育種・栽培方法に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタと既存のわたとの栽培方法の唯一の違いは、生育期の雑草防除にグリホサートが使用できるか否かの点であり、他の点では同等である。

 k 種子の製法及び管理方法に関する資料

ラウンドアップ・レディー・ワタの製法及び管理方法については、既存のわたと同様である。

(6)指針適合性に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、ラウンドアップ・レディー・ワタは指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。

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日本モンサント株式会社から申請されたわた(BXN cotton)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

日本モンサント株式会社から申請されたわた(開発者:米国Calgene社、商品名「BXN cotton」。以下「BXN cotton」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。


1 申請された食品の概要

BXN cottonは、ブロモキシニル(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾニトリル)を活性成分とする除草剤(商品名「Buctril」)の影響を受けずに生育できる。
BXN cottonは、ブロモキシニルを加水分解するnitrilase蛋白質(ニトリル化合物を加水分解してアミド又はカルボン酸を生成させる酵素の総称)を発現するBXN遺伝子が導入されている。このBXN遺伝子により発現するnitrilase蛋白質によりブロモキシニルの影響を受けずに生育することができる。
また、BXN cottonは、選択マーカー遺伝子としてEscherichia coli(以下「E.coli」という。)に由来するnptII遺伝子が導入されている。このnptII遺伝子により発現するNPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。

2 指針の適用の可否について

BXN cottonの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。

(1)遺伝的素材に関する資料

宿主はわた(Gossypium hirsutumに属するCoker 315。以下「G.hirsutum種」という)であり、遺伝子供与体は、BXN遺伝子がKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeに由来し、nptII遺伝子はE.coliに由来する。
種子の生組織1g当り、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質の発現量は6μg未満(検出限界以下)であり、nptII遺伝子の発現蛋白質であるNPTII蛋白質の発現量は80μg未満(検出限界以下)である。
なお、粗精油中のnitrilase蛋白質は検出限界値(約0.1ppm)未満であり、それを更に加工した後の実際に食用とされる精製油中では、いかなる蛋白質も含まれない。

(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

ヒトが摂取するわた(G. hirsutum種)由来の食品は綿実油のみであり、綿実油は油として、天ぷら油、サラダ油等に利用され、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
なお、BXN遺伝子の供与体であるKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeはヒトの食経験はないが、環境中及び食品中に広く存在しており、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質は、植物や微生物界に幅広く存在している。

(3)食品の構成成分等に関する資料

BXN cotton由来の綿実油は、主要構成成分(脂肪酸)及び有害生理活性物質(ゴシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)に関し、既存の綿実油と同等であった。

(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

BXN cottonの食品としての使用方法は、既存のわたと同等である。なお、既存のわたとの相違は、BXN遺伝子の発現蛋白質であるnitrilase蛋白質の作用によりブロモキシニルが分解されることから、栽培期間中にブロモキシニルを使用してもその影響を受けることなく生育することができるという点である。

(5)指針適用の可否に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、BXN cottonは 、既存のわたと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性

BXN cottonの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

BXN cottonは、ブロモキシニルを分解するnitrilase蛋白質を発現させるBXN遺伝子が導入されているので、栽培期間中にブロモキシニルを使用することができる。

(2)宿主

わた(G.hirsutum種)の食品としての利用形態は、綿実油に限られる。
なお、わたの種子にはゴシポール等の有害生理活性物質の産生が知られている。

(3)ベクター

BXN cotton作出に用いられたpBrx75は、Agrobacterium tumefaciens(以下「A.tumefaciens」という。)のバイナリーベクターpCGN1559に由来する。
pBrx75に存在する全ての遺伝子は、その機能が明らかとなっており既知の有害塩基配列を含まない。
pBrx75は、pBR322を由来とした複製機能を有する領域を持つが、E.coli間における伝達を可能とするoriT配列は除去されている。また、pRiHRI由来の領域は、伝達に関わる機能及びoriT配列を持たない。したがって、pBrx75の伝達はなく、自律増殖可能な宿主がE.coli、A.tumefaciens及びそれらの近縁の微生物に限られている。
なお、pBrx75のわた細胞への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
また、pBrx75には、BXN遺伝子、nptII遺伝子、gent'遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
なお、BXN cottonにはgent'遺伝子は挿入されていない。

(4)挿入遺伝子

 1) 供与体

BXN cottonに導入されたBXN遺伝子は、Klebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeに由来し、nptII遺伝子は、E. coliに由来する。
 2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
BXN cottonのゲノム中に組み込まれたpBrx75由来の挿入DNA(nitrilase蛋白質産生に関与する遺伝子(tml/bxn/35S)、NPTII蛋白質産生に関与する遺伝子(35S/kan/tml)のサイズは、それぞれ2.7kb及び 2.512kbである。
なお、有害塩基配列は含まれていない。
b 性質に関する資料
BXN遺伝子により産生されるnitrilase蛋白質は、除草剤であるブロモキシニル等のニトリル化合物を加水分解することにより、ブロモキシニルの除草効果を妨げる。
nptII遺伝子は、アミノ配糖体系抗生物質を不活化させるNPTII蛋白質を発現する。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
ブロモキシニル処理に対する耐性形質は、少なくとも5世代に渡って安定している。
e コピー数に関する資料
10211系統、10222系統及び10224系統にはT-DNAが1ヶ所に1コピー挿入されており、10215系統には1コピーのT-DNA及びnptII遺伝子が挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
種子中の生組織1g当り、nitrilase蛋白質の発現量は1.3μg未満、またNPTII蛋白質の発現量は6.6μg未満である。
なお、綿実油中にはいかなる蛋白質も含まれないことが報告されている。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
BXN cottonのインガード・ワタ由来の食品は、綿実油のみであり、綿実油中にはnptII遺伝子もNPTII蛋白質も含まれないことが報告されているため、抗生物質耐性マーカーに係る安全性上の問題はない。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNAには、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質の発現に係るオープンリーディングだけが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質はnitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質だけである。
(5)組換え体

 a 組換え DNA操作により新たに獲得された性質に関する資料

BXN cottonにに新たに導入された性質は、生育中にブロモキシニルを散布してもその影響を受けずに生育することができるという点のみである。
 b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
(1) 供与体の生物の食経験に関する資料
BXN遺伝子の供与体はKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeであり、nptII遺伝子の供与体はE.coliである。
Klebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeはヒトの直接の食物源ではないが、環境中及び食品中に広く存在しており、E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。
(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質がアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。
(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料<
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
nitrilase蛋白質は人工胃液、人工腸液に対して不安定で、分解されやすいことが確認された。
イ 加熱処理に対する感受性
nitrilase蛋白質の免疫反応性は、加熱によりおよそ80%失われることが確認された。
(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
粗精油中のnitrilase蛋白質は検出限界値(約0.1ppm)未満であり、それを更に加工した後の実際に食用とされる精製油中では、いかなる蛋白質も含まれないことが報告されている。
(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
アレルゲンの構造相同性検索の結果、78の食物アレルゲンを含む219の既知アレルゲンがデータベースより抽出された。しかし、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質と隣接したアミノ酸配列が7つ以上同一であるアレルゲンはなく、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質は既知のアレルゲンとの間に構造相同性は認められなかった。
(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
nitrilase蛋白質の一日予想摂取量25ngは日本人の一日蛋白摂取量79.5g(国民栄養の現状、1995)の0.00003%となる。
なお、実際に食用とされる精製油中にはいかなる蛋白質も含まれないことが報告されている。
 c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
実際に食用とされる精製油中にはいかなる蛋白質も含まれないことが報告されている。また、nitrilase蛋白質についてはその生化学的機能が明らかであり、供与体であるklebsiellaが環境中に広く存在しており、また、人工胃液、人工腸液により速やかに分解される。したがって毒性影響があるとは考えられない。

 d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質はそれぞれ非常に基質特異性が高いことから、代謝経路へ影響するとは考えられない。

 e 宿主との差異に関する資料

BXN cotton由来の綿実油は、主要構成成分(脂肪酸)及び有害生理活性物質(ゴシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)に関し、既存の綿実油と同等であった。
なお、収穫されたBXN cottonの種子粒のブロモキシニルの平均残留量は0.019ppmであり、米国で設定されているブロモキシニルのワタについての残留基準値7.0ppm未満を下回っている。

 f 外界における生存・増殖能力に関する資料

1993以来、BXN cottonの圃場試験は米国を中心として延べ67カ所以上で行われているが、BXN cottonの生殖・繁殖能力は非組換え品種と同等であった。

 g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

BBXN cottonの生殖・繁殖能力は非組換え親品種と同等であった。

 h 組換え体の不活化法に関する資料

物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、ワタを不活化する従来の方法によって不活化される。

 i 諸外国における認可・食用等に関する資料

BXN cottonについて、米国においては、米国食品医薬品局(FDA)との間で行った食品としての安全性に関する協議は1994年1月に完了した。また、米国環境省(EPA)は1995年5月5日、生育中のBXN cottonへの除草剤Buctrilの使用を暫定的に認可した。
カナダでは1996年8月、メキシコでは1996年に、また英国では1997年1月に、BXN cotton由来の綿実油が食品として認可されている。

 j 作出・育種・栽培方法に関する資料

BXN cottonと既存のわたとの栽培方法の唯一の違いは、生育期の雑草防除にブロモキシニルを使用できる点であり、他の点では同等である。

 k 種子の製法及び管理方法に関する資料

BXN cottonの製法及び管理方法についても、既存のわたと同様である。

(6)指針適合性に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、BXN cottonは指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。

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ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請されたなたね(MS8RF3)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請されたなたね(開発者:プラント・ジェネティック・システム社。以下「MS8RF3」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。

1 申請された食品の概要

MS8RF3は、除草剤グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号)の影響を受けずに生育できる。
グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているglutamine synthetase(以下「GS」という。)の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し枯死する。
MS8RF3には、PPTをアセチル化して不活性化させるphosphinothricin acetyltransferase(以下「PAT蛋白質」という。)を発現させるbar遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
MS8RF3は、雄性不稔遺伝子(以下「barnase遺伝子」という。)を導入したナタネ(以下「MS8」という。)と既存の品種との交配種に稔性回復遺伝子(以下「barstar遺伝子」という。)を導入したナタネ(以下「RF3」という。)と既存の品種との交配種を交配させたF1雑種(ハイブリッド)である。雑種強勢により、播種用の種子は収量、均一性、環境に対する適応力に優れるとともに、barstar遺伝子により通常のナタネと同様に自家受粉が可能になる。


2 指針の適用の可否について

MS8RF3の指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。

(1)遺伝的素材に関する資料

宿主はなたね(カノーラ種)であり、遺伝子供与体は、bar遺伝子がStreptomyces hygroscopicus(以下「S.hygroscopicus」という。)に由来し、barstar遺伝子及びbarnase遺伝子は、Bacillus amyloliquefaciens(以下「B.amyloliquefaciens」という。)に由来する。
なお、挿入遺伝子に由来する蛋白質はプロモーターの調節により可食部(種子)には発現しない。

(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

なたね(カノーラ種)から得られる油は、食用油として幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。また、S.hygroscopicusについては、ヒトの食経験はないが、土壌中に分布している非病原性の微生物である。B.amyloliquefaciensについてはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。

(3)食品の構成成分等に関する資料

MS8RF3は、主要構成成分(蛋白質、灰分、油分、粗繊維及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート))に関し、既存のなたねと同等であった。

(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

MS8RF3の食品としての使用方法は既存のなたねと同等である。なお、既存のなたねとの相違は、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点及びハイブリッド種であることから雑種強勢の利点がある点である。

(5)指針適用の可否に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、MS8RF3については、既存のなたねと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性

MS8RF3の指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

MS8RF3には、PPTをアセチル化しGSの阻害作用を活性化させるPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されず、栽培期間中にグルホシネートが使用できる。さらにハイブリッド種であることから雑種強勢の利点がある。

(2)宿主

なたね(カノーラ種)は、食品として食用油に利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。エルシン酸及びグルコシノレートのような有害生理活性物質の生産が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。

(3)ベクター

MS8RF3の作出に用いられたpTHW107及びpTHW118は、pGSV1に由来する。
pTHW107及びpTHW118に含まれるすべての遺伝子は、その特性が明らかになっており、既知の有害な塩基配列を含まない。pTHW107及びpTHW118は、自律増殖可能な宿主域がE.coli及びAgrobacterium tumefaciensのみに限られている。
なお、pTHW107及びpTHW118のなたね組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pTHW107はbar遺伝子、barnase遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子が、pTHW118はbar遺伝子、barstar遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子をそれぞれ含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。

(4)挿入遺伝子

 1) 供与体

MS8RF3は、MS8と既存の品種との交雑種と、RF3と既存の品種との交配種を交配させたF1雑種である。
MS8及びRF3に導入されたbar遺伝子は、S.hygroscopicusに由来し、MS8に導入されたbarnase遺伝子及びRF3に導入されたbarstar遺伝子は、B. amyloliquefaciensにそれぞれ由来する。

 2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料
MS8のゲノム中に組み込まれたpTHW107の挿入DNAすなわちPAT蛋白質産生に関与する遺伝子(PSsuAra/bar/3'g7)及び雄性不稔発現に関与する遺伝子(PTA29/barnase/3'nos)にも、RF3のゲノム中に組みこまれたpTHW118の挿入DNAすなわちPAT蛋白質産性に関与する遺伝子(PSsuAra/bar/3'g7)及び稔性回復発現に関与する遺伝子(PTA29/barstar/3'nos)にも有害塩基配列は含まれていない。
b 性質に関する資料
bar遺伝子はPAT蛋白質を発現させ、グルホシネートの有効成分であるPPTをアセチル化し、GSの阻害作用を不活化する結果、グルホシネートの除草効果を妨げる。
barnase遺伝子は一本鎖RNA分子を加水分解する酵素リボヌクレアーゼをコードし、barstar遺伝子はbarnase遺伝子産物であるリボヌクレアーゼの阻害物質をコードする。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、それら遺伝子の特性も明らかとなっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
MS8とRF3において、遺伝的安定性と発現安定性が解析され、少なくとも3世代にわたる正常なメンデルの分離が確認されている。また、様々な環境における栽培においても、挿入遺伝子は安定して発現している。
e コピー数に関する資料
挿入DNA断片は、1コピー挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
bar遺伝子、barnase遺伝子、barstar遺伝子は、プロモーターとターミネーターとの調節により、種子においては発現しない。
種子中におけるこれらの遺伝子に由来する発現量は検出限界値(PAT蛋白質100ng/ml、barnase蛋白質0.2ng/ml、barstar蛋白質0.2ng/ml)以下であった。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
抗生物質耐性マーカーは導入されていない。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNAには、PAT蛋白質、barnase蛋白質、barstar蛋白質の発現に係わるオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、PAT蛋白質、barnase蛋白質、barstar蛋白質だけである。
(5)組換え体

 a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料

MS8RF3に導入された性質は、グルホシネートの影響を受けない点及びF1雑種であることで雑種強勢の性質を獲得した点である。
 b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
(1) 供与体の生物の食経験に関する資料
S.hygroscopicusのヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。またB.amyloliquefaciensはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。
(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
PAT蛋白質、barstar蛋白質及びbarnase蛋白質のそれぞれについて、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。
(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
PAT蛋白質は人工胃液により急速に分解され、抗原性が消失した。また、barstar蛋白質及びbarnase蛋白質は人工胃液中で、酵素活性が消失した。
イ 加熱処理に対する感受性
PAT蛋白質は加熱により変成し、酵素活性が消失した。また、barstar蛋白質及びbarnase蛋白質は加熱により酵素活性が消失した。
(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
なたね種子中のPAT蛋白質、barnase蛋白質、barstar蛋白質の検出量は検出限界以下であった。
なお、日本人のなたね油の一日平均摂取量を8gとすると、なたね油中に検出限界値の蛋白質が存在すると仮定すると、日本人の一日予想摂取量はPAT蛋白質が0.020μg、barnase蛋白質及びbarstar蛋白質が0.008μgである。
(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
データベースに登録されている全ての蛋白質について構造相同性検索を行った結果、PAT蛋白質、barstar蛋白質及びbarnase蛋白質と既知のアレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
PAT蛋白質、barnase蛋白質及びbarstar蛋白質の一日予想摂取量は、日本人の一日平均蛋白質摂取量79.5g(国民栄養の現状、1995)のうち、その45%が植物性であるとすると、0.56〜0.22ppbとなる。

 c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

データベースの検索の結果、遺伝子産物と既知の毒性物質との間に相同性は認められなかった。ラットを用いたPAT蛋白質の反復投与経口毒性試験及びウサギの飼育実験の結果、悪影響は認められていない。
 d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
PAT蛋白質、barstar蛋白質はそれぞれ基質特異性は高く、その基質となり得る化合物または分子はなたね中には存在しない。
 e 宿主との差異に関する資料
主要栄養成分(蛋白質、灰分、油分、粗繊維)及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート)の分析の結果、既存のなたねと同等であった。
 f 外界における生存・増殖能力に関する資料
MS8RF3の外界における生存・増殖能力は、グルホシネートに耐性を示す点を除いて、既存のなたねと同等であった。
 g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
MS8RF3の生存・増殖能力は、既存のなたねと同等であった。
 h 組換え体の不活化法に関する資料
物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、なたねを不活化する従来の方法によって不活化される。
 i 諸外国における認可・食用等に関する資料
カナダ厚生省の確認が1997年3月に得られている。
 j 作出・育種・栽培方法に関する資料
MS8RF3と既存のなたねとの栽培方法の違いは、生育期の雑草防除にグリホシネートが使用できる点とF1雑種であることで雑種強勢の利点がある点であり、他の点では同等である。
 k 種子の製法及び管理方法に関する資料
MS8RF3の製法及び管理方法については、既存のなたねと同様である。

(6)指針適合性に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、MS8RF3は指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。

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ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請されたなたね(カノーラHCN10)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社から申請されたなたね(開発者:ヘキスト・シェーリング・アグレボ株式会社。以下「HCN10」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。


1 申請された食品の概要

HCN10は、除草剤グルホシネート(商品名:バスタ(グルホシネート・アンモニウム)、」の影響を受けずに生育できる。
HCN10は、グルホシネートの有効成分であるホスフィノスリシン(phosphinothricin。(以下「PPT」という。))は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているグルタミン合成酵素(glutamine synthetase。(以下「GS」という。))の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し枯死する。
HCN10には、PPTをアセチル化して不活性化させるphosphinothricin acetyltransferase。(以下「PAT蛋白質」という。)を発現させるpat遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
選択マーカー遺伝子としてEscherichia coli(以下、「E. coli」という。)に由来するNPTII蛋白質を発現させるnptII遺伝子が導入されている。NPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。


2 指針の適用の可否について

HCN10の指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。

(1)遺伝的素材に関する資料

HCN10の宿主はカノーラなたね(カノーラ種)であり、遺伝子供与体は、pat遺伝子が非病原性一般土壌細菌であるStreptomyces viridochromogenes Tu494株に由来し、nptII遺伝子がE. coliに由来する。
なお、挿入遺伝子に由来する蛋白質はプロモーターの調節により可食部(種子)には発現しない。

(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

なたね(カノーラ種)から得られる油は、食用油として幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。

(3)食品の構成成分等に関する資料

HCN10は、主要構成成分(蛋白質、脂質、粗繊維及び抗栄養素)等に関し、既存のなたねと同等であった。

(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

HCN10の食品としての使用方法は既存のなたねと同等である。なお、既存のなたねとの相違は、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点のみである。

(5)指針適用の可否に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、HCN10については、既存のなたねと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性

HCN10の指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

HCN10には、PPTをアセチル化しGSの阻害作用を不活性化させるPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されず栽培期間中にグルホシネートが使用できる点である。

(2)宿主

なたね(カノーラ種)は、食品として食用油に利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。エルシン酸及びグルコシノレートのような有害生理活性物質の生産が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。

(3)ベクター

HCN10の作出に用いられたpOCAは、Klebsiella aerogenesのプラスミドRK290に由来するバイナリーベクターpOCA/ACである。
pOCAに含まれるすべての遺伝子は、その特性が明らかになっており、既知の有害な塩基配列を含まない。pOCAは植物形質転換の機能を持っているが、伝達性を有さず、自律増殖しない。
なお、pOCAのなたね組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pOCAはpat遺伝子、nptII遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。

(4)挿入遺伝子

 1) 供与体

pat遺伝子の供与体は、Streptomyces viridochromogenes Tu494株である。Streptomyces viridochromogenes Tu494株は、自然界特に土壌等に広く分布している。
 2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料
HCN10のゲノム中の組み込まれたpOCA由来の挿入DNA(NPTII蛋白質産性に関与する遺伝子(NOSプロモータ/nptII/OCSターミネータ)、PAT蛋白質産性に関与する遺伝子(35Sプロモ-タ/pat/35Sターミネータ)のサイズはそれぞれ約1.7kb及び1.3kbである。なお、有害塩基配列は含まれていない。
b 性質に関する資料
pat遺伝子はPAT蛋白質を発現させ、グルホシネートの有効成分であるPPTをアセチル化し、GSの阻害作用を不活化する結果、グルホシネートの除草効果を妨げる。
nptII遺伝子は、アミノ配糖体系抗生物質を不活化させるNPT蛋白質を発現する。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、それら遺伝子の特性も明らかとなっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
グルホシネート処理に対する耐性形質は安定して発現している。
e コピー数に関する資料
挿入DNA断片は、1ヶ所に2コピー挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
種子中におけるpat遺伝子及びnptII遺伝子に由来する発現量は検出限界値(NPTII蛋白質25ng/mg、PAT蛋白質10ng/mg)以下であった。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
抗生物質耐性マーカーは導入されていない。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNAには、NPTII蛋白質及びPAT蛋白質の発現に係わるオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、NPTII蛋白質及びPAT蛋白質だけである。

(5)組換え体

 a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料

HCN10に導入された性質は、生育中にグルホシネートを散布しても、その影響を受けずに生育することができるという点のみである。

 b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
(1) 供与体の生物の食経験に関する資料
S. viridochromogenes Tu494株はヒトの直接の食物源ではないが、環境中に広く分布している非病原性の微生物である。また、E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。
(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
PAT蛋白質及びNPTII蛋白質が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。
(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性

PAT蛋白質は人工胃液及び人工腸液により急速に分解され、抗原性が消失した。

イ 加熱処理に対する感受性
PAT蛋白質及びNPTII蛋白質は加熱により変成し、酵素活性が消失した。

(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
なたね種子中のNPTII蛋白質及びPAT蛋白質の検出量は検出限界以下であった。
(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
データベースに登録されている全ての蛋白質について構造相同性検索を行った結果、PAT蛋白質及びNPTII蛋白質と既知のアレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
PAT蛋白質の一日予想摂取量は、日本人の一日平均蛋白質摂取量79.5g(国民栄養の現状、1995)の0.000008%から0.00001%となる。
なお、実際に食用とされる精製油中にはいかなる蛋白質も含まれない。
 c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
データベースの検索の結果、遺伝子産物と既知の毒性物質との間に相同性は認められなかった。種子及び非可食部分(葉、茎等)を用いたウサギの飼育実験の結果及びラットを用いた亜急性経口投与試験の結果、悪影響は認められていない。

 d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

PAT蛋白質はそれぞれ基質特異性は高く、その基質となり得る化合物または分子はなたね中には存在しない。また、PAT蛋白質の基質との反応はアミノ酸により影響されない。

 e 宿主との差異に関する資料

HCN10について主要栄養成分(蛋白質、脂質、油分、粗繊維)及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート)の分析の結果、PHY36と既存のなたねと同等であった。

 f 外界における生存・増殖能力に関する資料

HCN10の外界における生存・増殖能力は、グルホシネートに耐性を示す点を除いて、既存のカノーラと同等であった。(資料42)

 g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

HCN10の生存・増殖能力は、親品種と同等であった。

 h 組換え体の不活化法に関する資料

物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、なたねを不活化する従来の方法によって不活化される。

 i 諸外国における認可・食用等に関する資料

カナダにおいて、1995年6月に、HCN10から作出されたなたね油の食品としての安全性が確認された。

 j 作出・育種・栽培方法に関する資料

HCN10と既存のなたねとの栽培方法の違いは、生育期の雑草防除にグリホシネートが使用できる点であり、他の点では同等である。

 k 種子の製法及び管理方法に関する資料

HCN10の製法及び管理方法については、既存のなたねと同様である。

(6)指針適合性に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、HCN10は指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。

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麒麟麦酒株式会社から申請されたトマトに係る「組み替えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

麒麟麦酒株式会社から申請されたトマト(開発者:米国Calgene社、FLAVRSAVRTMトマト)について「組み換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下指針という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。


1 申請された食品の概要

フレーバーセーバートマト(以下「FLAVRSAVRTM トマト」という。)は、アンチセンス・ポリガラクチュロナーゼ遺伝子(以下「FLAVRSAVRTM遺伝子」という。)により、果実の軟化速度を遅延させることにより収穫後の日持ち性を良くし、果実の腐敗及び収穫後のトマトの病気の発生が低減される。
FLAVRSAVRTMトマトには、トマト果実の細胞壁に存在するペクチンの可溶化とそれに伴う果実の軟化をもたらす酵素であるポリガラクチュロナーゼ(Polygalacturonase:以下「PG」という)の発現を抑制するために、それをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を持つFLAVRSAVRTM遺伝子が導入されている。
また、選択マーカー遺伝子として、Escherichia coli(以下「E.coli」という。)に由来しAPH(3')II(NPTII)蛋白質を発現するカナマイシン抵抗性遺伝子(以下、「kanr遺伝子(nptII遺伝子)」という。)が導入されている。


2 指針の適用の可否について

FLAVRSAVRTMトマトの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。

(1)遺伝的素材に関する資料

宿主はトマトである。遺伝子供与体は、栽培トマト(L.esculentum cv Caligrande cv Campbell33)に由来する。
この食品は、アンチセンス方式による遺伝子組み換えであるため、組み換え体におけるPGの発現量は0.01μmol/min・mg proteinであり、宿主トマトのそれに比較して少ない。また、kanr遺伝子により発現するAPH(3')II蛋白質の発現量は、1.75μg/g以下である。

(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

宿主である栽培トマトはLycopersicon esculentum Millに属し、食品として古くから利用されている作物であり、広範囲で安全な人の食経験を有する。
kanr遺伝子の供与体であるE.coliは、ヒトの直接の食物源ではないが、環境中に広く分布しており、kanr遺伝子(nptII遺伝子)の発現蛋白質であるるAPH(3')II(NPTII)蛋白質は、微生物界に幅広く分布している。

(3)食品の構成成分等に関する資料

FLAVRSAVRTM、トマトは、主要構成成分(蛋白質、ビタミン、ミネラル)及び毒性物質(トマチン、ソラニン、チャコニン)に関し、既存のトマトと同等であった。

(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

FLAVRSAVRTMトマトの食品としての使用方法は既存のトマトと同等である。なお、既存のトマトとの相違は果実の軟化をもたらすPGの発現をコードする遺伝子のアンチセンス遺伝子の発現により、収穫後の日持ち性が向上し、果実の腐敗及び収穫後の病気の発生を低減させる点である。

(5)指針適用の可否に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、FLAVRSAVRTMトマトは既存のトマトと同等と見なし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性

フレーバーセーバートマトの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

FLAVRSAVRTMトマトでは、PGの発現をコードする遺伝子のアンチセンス遺伝子が導入されているので、PG活性が大きく低下し、そのため果実の軟化・腐熟の発生率を低く抑えることができる。

(2)宿主

宿主である栽培トマトはLycopersicon esculentum Millに属し、食品として古くから利用されている作物であり、広範囲で安全な人の食経験を有する。

(3)ベクター

FLAVRSAVRTMの作出に用いられたpCGN1436は、Agrobacterium tumefaciens(以下、「A.tumefacience」という。)のバイナリーベクター pCGN1547 に、kanr 遺伝子はE.coliに由来する。pCGN1436に存在するすべての遺伝子は、その機能が明らかになっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、バクテリア間での伝達性はなく、自律増殖はできない。
なお、pCGN1436の宿主への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。

(4)挿入遺伝子関連

 1) 供与体

FLAVRSAVRTMトマトに導入されたPG生合成を阻害するFLAVRSAVRTM遺伝子は、L.esculentum cv Caligrande cv Campbell33に由来し、kanr遺伝子(nptII遺伝子)はE.colに由来する。
 2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
FLAVRSAVRTMトマトのゲノム中に組み込まれたpCGN1436由来の挿入DNA(mas5'/kanr/mas3'/CaMV35S5'/CaMV35S5'/FLAVRSAVR/tlm3')のサイズは、1.6kbである。なお、 pCGN1436の全ての遺伝子はその特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。
b 性質に関する資料
導入されたFLAVRSAVRTM遺伝子は、細胞壁に存在するペクチンを可溶化し、果実の軟化を引き起こすPG酵素活性を低下させる。また、kanr遺伝子(nptII遺伝子)はアミノ配糖体系抗生物質を不活化させるAPH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)を産生する。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれるFLAVRSAVRTM遺伝子は、その塩基配列及び特性が明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれらの塩基配列及び特性が既に明らかになった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
導入DNA及び遺伝形質は少なくとも3世代にわたり安定している。
e コピー数に関する資料
挿入DNAは、最大3コピー挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)の発現量は、FLAVRSAVRTMトマトの全蛋白質中の0.08%以下(1.75μg/g)であり、生育全期間中、全組織で発現している。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
・kanr遺伝子(nptII遺伝子)により発現するAPH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)は、FLAVRSAVRTMトマトのすべての細胞に存在し、その量は1.75μg/g以下である。
・kanr遺伝子(nptII遺伝子)の塩基配列及びAPH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)のアミノ酸配列は明らかになっている。
・APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)は、アミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。
・kanr遺伝子(nptII遺伝子)は、サザンブロット法にて分子量1kbpの断片として同定されている。また、APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)は、ウエスタンブロット法及びELISA法により同定されており、果実中の全蛋白質の0.004%がAPH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)であると推定される。
・kanr遺伝子(nptII遺伝子)及びAPH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)は、加工の際の熱に対する安定性が低い。また、加工製品のpHが4.6以下で変性することが知られている。
・生で食する場合を想定した人工胃液及び人工腸液による検討では、10分後にはkanr遺伝子が消失し、またAPH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)の酵素活性は、人工胃液及び人工腸液中で速やかに低下している。
・予想一日摂取量の上限値はきわめて微量であり、問題ないと考えられる。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
FLAVRSAVRTM遺伝子には、オープンリーディングフレームは存在しない。

(5)組換え体

 a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料

FLAVRSAVRTMトマトにあらたに導入された性質は、PGの活性低下とそれにより果実の軟化・腐熟の発生率が低く抑えられる点のみである。

 b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
(1) 供与体の生物の食経験に関する資料
kanr遺伝子(nptII遺伝子)の供与体はE.coliであり、FLAVRSAVRTM遺伝子は、L.esculentum cv Caligrande cv Campbell33由来である。栽培トマトは、食品として古くから利用されている作物であり、広範囲で安全な人の食経験を有する。また、E.coliは、ヒトの直接の食物源ではないが、環境中に広く分布している。

(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかに関する資料
APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)がアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料

ア 人工胃液、人工腸液に対する感受性
APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)は、人工胃液及び人工腸液で急速に分解され、10分以内に酵素活性が失われた。
イ 加熱処理に対する感受性
APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)の酵素活性は加熱により消失した。

(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
日本人のAPH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)の一日平均予想摂取量は、日本人のトマトの平均摂取量11.7gをFLAVRSAVRTMから全量摂取し、加工損失が全くないと仮定した場合、0.057μgである。

(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)と既知の食物アレルゲンとの構造相同性については、 データベース検索により、相同性がないことが確認された。

(6)遺伝子産物が一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)の一日平均予想最大摂取量は0.000057mgで、日本人の一日蛋白質摂取量79.7g(国民栄養の現状1995)の0.0000715%となる。

 c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

APH(3')II蛋白質(NPTII蛋白質)との間で、構造的に有意な相同性を示す毒性物質は、検出されなかった。また、ラットに対する急性毒性試験においても、毒性は認められなかった。
 d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 e 宿主との差異に関する資料

FLAVRSAVRTM、は、主要構成成分(蛋白質、ビタミン、ミネラル)及び毒性物質(トマチン、ソラニン、チャコニン)に関し、既存のトマトと同等であった。食品栄養素の分析結果では、宿主との間に有意な差異は見いだされなかった。

 f 外界における生存・増殖能力に関する資料

FLAVRSAVRTMトマトの栽培方法は、通常のトマトと同様である。

 g 組み換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

FLAVRSAVRTMトマトの生存・増殖能力は、既存のトマトと同様である。

 h 組み換え体の不活化法に関する資料

FLAVRSAVRTMトマトの低温下における枯死は、既存のトマトと同様である。

 i 諸外国における許可・食用等に関する資料

FLAVRSAVRTMトマトは、米国では1994年6月に、カナダでは1995年2月に、メキシコでは1995年3月に、イギリスでは1996年2月にそれぞれ食品としての安全性が確認されている。

 j 作出・育種・栽培方法に関する資料

FLAVRSAVRTMトマトの作出・育種・栽培方法は、既存のトマトと同様である。

 k 種子の製法及び管理方法に関する資料

FLAVRSAVRTMトマトの製法及び管理方法は、既存のトマトと同様である。

(6)指針適合性に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、FLAVRSAVRTMトマトは、指針 に沿って安全性評価が行われていると判断した。

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日本ロシュ株式会社から申請されたリボフラビンに係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について

日本ロシュ株式会社から申請されたリボフラビン(ビタミンB2。以下「申請リボフラビン」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。


1 申請された食品添加物の概要

リボフラビンは、栄養強化又は着色の目的で、菓子、スポーツ飲料、味噌、漬物等の食品に使用される。現在、リボフラビンは、合成法又は発酵法により製造されているが、生産効率の点から合成法が多用されている。
申請リボフラビンは、Bacillus subtilis Marburg 168株由来株を宿主とし、pUC19をベクターとして用いて、リボフラビン生合成遺伝子群、プロモーター遺伝子等を染色体上に挿入した組換え体を培養することにより、効率的に製造されるものである。


2 指針の適用の可否について

申請リボフラビンについては、食品添加物公定書第六版に収載されているリボフラビンの成分規格中の定量法から求めた含量が98.0%〜102.0%の範囲内にあり、確認試験、純度試験等の成分規格にもすべて適合していること、HPLC法による測定で既存の合成リボフラビンと同一の保持時間にピークが得られることから、既存の食品添加物であるリボフラビンと同等とみなし得るものと考えられる。また、申請リボフラビンについては、組換え体自体は生産物に含有されない。以上の点から、申請リボフラビンについては、指針の適用範囲内であると判断できる。


3 指針への適合性

申請リボフラビンの指針への適合性については、指針の第2章第1〜第3及び第3章第1に従って申請資料の検討を行った。

【製造過程に関して】

(1)組換え体等の製造方法

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

B.subtilis Marburg 168 株由来株を宿主とし、pUC19をクローニングベクターとして用いて、リボフラビン生合成遺伝子を染色体上に組み込ませ、増幅させた当該組換え体を培養する。培養により生産されたリボフラビンは、結晶として培養液中に蓄積されるので、菌体画分とリボフラビン画分を分離した後、リボフラビン画分を精製し、食品添加物としてのリボフラビンを得る。

(2)宿主

B.subtilis Marburg 168 株を突然変異処理し、リボフラビン及びプリンの生産を調節解除した誘導体であるRB50株を使用している。B.subtilis Marburg 168株誘導体は、長期にわたって安全に用いられてきた歴史をもつ微生物であり、「組換えDNA実験指針」の表2の認定宿主−ベクター系に含まれている。
宿主の増殖性については、水道水、下水及び土壌中で(20℃及び37℃)、15日間生菌数を測定したところ、対照として用いたB.subtilis Marburg 168 株と同様、一日目で約100分の1に減少し、その後ほぼ一定に保たれていることから、低いものと考えられる。

(3)ベクター

Escherichia coliに一般に広く用いられるプラスミドpUC19 (2.7kbp) は、制限酵素による切断地図、塩基配列が明らかにされており、既知の有害塩基配列を含まないことが示されている。なお、pUC19は遺伝子ampを含むため、E. coliにおいてはアンピシリン耐性を発現するが、宿主B.subtilisにおいては、複製ができない(B.subtilis特有のリボソーム結合部位による)ため、アンピシリン耐性遺伝子は発現されない。

(4)挿入遺伝子関連

組換え体に挿入される遺伝子は、B.subtilis Marburg 168 株由来のリボフラビン合成遺伝子群(6.5kbp)、B.subtilisを宿主とするファージSP01由来の初期遺伝子プロモーター配列(365bp)、Staphylococcus aureusのプラスミドpC194由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子(1035bp)、Streptococcus faecalisのプラスミドpAMa1由来のテトラサイクリン耐性遺伝子(2.4kbp)である。これらの挿入遺伝子の塩基配列は明らかにされており、既知の有害塩基配列は含まれていない。

(5)組換え体

組換え体は、組換えDNA操作により、宿主と比較し10倍以上のリボフラビン生産性、テトラサイクリン及びクロラムフェニコール耐性を新たに獲得する。
組換え体の外界における増殖性は、組換えにより生存及び増殖能力を増強するような性質が付与されていないので、宿主と同様、環境中での増殖能は低いと考えられる。
組換え体の遺伝的安定性については、リボフラビンが生産・蓄積されること(組換え体の目的とする機能の保持)及びリボフラビンオペロンに特異的なプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション法によるDNA断片の結合(組換え体に導入されているDNAの基本構造の維持)によって、確認されている。
また、組換え体は60℃で30分間加熱することにより、殺菌されることが確認されている。

(2)組換え体以外の製造原料及び製造器材

申請リボフラビンの製法は次のとおりである。まず、組換え体を栄養成分、クロラムフェニコール及びテトラサイクリン塩酸塩を培地に含む種発酵槽で種培養し、リボフラビン生合成遺伝子を増幅させる。その後、栄養成分を培地に含む主発酵槽で培養し、リボフラビンを生産する。生産されたリボフラビンは、加熱殺菌、遠心分離、酸処理の工程を経て製品化される。培養工程や精製工程で用いられる製造原料には、食品添加物、日本工業規格1級の試薬等が使用されている。また、発酵工程には密閉式容器が用いられており、培養槽からの排気ガスは、排ガスフィルターで処理され、廃液は、加熱殺菌(60℃、30分)後、排水処理設備に送られる。

(3)生産物の精製

組換え体から生産されたリボフラビンは、結晶として培養液中に蓄積される。培養液を加熱処理(60℃、30分)し、組換え体等の微生物を失活させた後、結晶画分を遠心分離し、更に、DNAの分解(脱プリン化)のため酸処理(塩酸又は硫酸約2%)し、約96%含量のリボフラビンを得る。これを酸溶媒でさらに結晶化し、約98%含量の製品を得る。


【生産物に関して】

(1)組換え体の混入を否定する資料

生産物中に組換え体由来のDNAが混入していないことは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて確認している。組換え体の全ゲノムの代表として、クロラムフェニコール耐性遺伝子由来の557bpフラグメントをPCR分析したところ、申請リボフラビンからはDNAが検出されなかった(検出限界は0.5ppb)。

(2)製造に由来する不純物の安全性に関する資料

(1)不純物に関する資料

申請リボフラビンをHPLC法で分析したところ、3種の不純物(8−ハイドロキシメチルリボフラビン、フォルミルメチル−フラビンアセタール及びルミクローム)が検出された(合計含量約0.3〜1%)。対照として化学的合成法によるリボフラビンをHPLC法で分析したところ、上記3種の不純物及びリビチル−オクソ−キノクサル酸、ルミフラビンが検出された(合計含量約1%)。申請リボフラビンに含まれる上記3種の不純物については、文献検索から毒性を示唆する情報は得られなかった。
また、申請リボフラビンを6mol/l塩酸中加熱処理し、加水分解後、アミノ酸及びアミノ糖を分析をしたところ、含量0.06%以下であり、タンパク質は実質的に除去されていると考えられる。

(2)毒性試験

Wister系ラットを用いた申請リボフラビンの混餌(0,20,50,200mg/kg体重/日)投与による13週間の反復投与試験においては、検体に起因する毒性徴候は生じていない。
また、Salmonella typhimurium(TA1535,TA97,TA98,TA100及びTA102株)を用いた、S9存在下及び非存在下でのAmes試験(濃度:50μg/プレート〜5,000μg/プレート)においては、いずれにおいても復帰突然変異体のコロニー数の増加は認められていない。

(3)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する資料

申請リボフラビンは、98%以上のリボフラビンを含有し、有害性の示唆される常成分は認められなかった。


4.指針適合性に関する結論

申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、申請リボフラビンについては、指針に沿って安全性評価が行われていると判断できる。

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(別添2)

食調第67号
平成9年10月22日

食品衛生調査会

 委員長 寺田 雅昭 殿

食品衛生調査会      
バイオテクノロジー特別部会
部会長  寺尾 允男


後代交配種の取扱いについて


安全性が確認された組換え品種と従来品種とを、伝統的な育種の手法を用いて掛け合わせた品種(以下「後代交配種」という。)の安全性評価については、現在の組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針(以下「安全性評価指針」という。)」に記載がなく、具体的な評価のあり方について未定となっている状況である。
後代交配種の安全性評価のあり方については、国際的には、1996年10月のWHO/FAOの合同レポート(「Biotechnology and food safety」)等において、従来品種と同等の安全性が確保された組換え品種の後代交配種については、遺伝子組換え技術に特有な評価方法による安全性評価は必要ないとの見解が示されているものの、我が国においてはこの問題について十分な議論がなされてきたとは言えない状況にある。
今般、バイオテクノロジー特別部会において、安全性評価の確認がされた品種と従来の品種との掛け合わせによって作出された後代交配種の安全性評価が個別に必要かどうか、バイオテクノロジー応用食品等の安全性評価に関する研究班の報告も参考にして、後代交配種の安全性評価のあり方について下記のとおり意見を取りまとめた。

1.後代交配種の安全性について

厚生省により安全性が確認された組換え品種の後代交配種のうち、次の(1)〜(3)のすべての項目を満たすものについては、その安全性に問題はないものと考えられる。

(1)組換えDNA操作により新たに獲得された性質が変化していないこと

安全性評価指針においては、導入した遺伝子とその産物について毒性やアレルギー性等を評価しているが、導入した遺伝子に基づく形質が変化していない場合には、在来種との交配においてタンパク質としての構造が大きく変化する等の事象が起こっている可能性は極めて小さく、毒性やアレルギー性等の新たな問題が生じる可能性はほとんどないと考えられる。

(2)亜種(変種)間での交配が行われていないこと

導入遺伝子が酵素として発現する場合、安全性評価指針においては酵素の基質特異性を検討し、宿主たる植物体中に既に存在する物質がこの酵素の基質となって他の毒性のある物質に変化する可能性を検討している。後代交配種について、交配に用いる従来品種と組換え品種とが亜種(変種)間の関係にある場合には、交配に用いる従来品種の成分が組換え品種のそれと大きく異なることもあり、基質特異性について再度検討が必要であるが、亜種(変種)間での交配が行われていない場合にはその必要はないと考えられる。

(3)摂取量、食用部位、加工法等の変更がないこと

安全性評価指針においては、摂取量、食用とする部位、加工法等についても検討している。したがって、安全性評価がなされた組換え品種と後代交配種との間に、これらの評価項目における実質的な相違がない場合、その安全性の確保に支障が生じることはないと考えられる。

2.安全性評価の確認について

1.の(1)〜(3)の各条件を一つでも満たさない後代交配種を製造又は輸入しようとする者等は、個別に厚生省に対しその安全性評価の確認を求めることが望ましい。

3.その他

組換え品種の後代交配種についても、これまでに十分な食経験がなく、遺伝子組換え食品の安全性の一層の確保を図る観点から、後代交配種の安全性評価についも厚生省による調査・研究を引き続き進めていくことが望ましい。


参 考

1 「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」について

厚生省では、平成3年に安全性評価指針を策定し、組換えDNA技術を応用して製造された食品・食品添加物(以下、「食品等」という。)であって、生産物が既存の食品等とみなし得る食品等であり、組換え体そのものを食さない場合についての安全性を確保してきた。
しかし、近年の組換えDNA技術の進歩により、組換え体そのものを食する食品等についても、その安全性確保のための対応が必要になったことから、食品衛生調査会の答申に基づき、平成8年2月5日に安全性評価指針を改訂した。
現在の安全性評価指針の適用範囲は下記のとおりである。

  生産物が既存のものと同等とみなし得る 生産物が既存のものと同等と
みなし得ない
組換え体の種類 組換え体そのものを
食さない
組換え体そのものを
食する
微生物 × ×
種子植物 ×
その他 × ×
1: 平成3年適用範囲
2: 平成8年追加範囲
×: 指針の適用を受けない範囲

2 組換えDNA技術応用作物について

(1) 組換えDNA技術について

組換えDNA技術とは、ある生物から取りだした遺伝子を改良しようとする生物に組み込む技術のことで、この技術を用いることにより、目的とする有用な遺伝子をより正確に、かつ簡便に作物に導入し、作物を改良することができるようになる。

(2) 今回報告された食品5品種、食品添加物1品目について

今回報告された食品5品種は、除草剤耐性わた2品種、除草剤耐性なたね2品種及び日持ち性向上トマト1品種であり、新たに獲得された性質、挿入遺伝子等は別紙1のとおりである。
また、食品添加物1品目は、リボフラビンであり、組み換え体の利用目的、挿入遺伝子等は別紙2のとおりである。

(3) 安全性評価のポイントについて

食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会における検討では、平成9年5月27日に諮問のあった5品種の食品及び1品目の食品添加物及び平成8年10月24日に諮問され継続審議となった4品目の食品それぞれについて、申請者が行った安全性評価が、安全性評価指針に基づき適切に行われたものかどうかについて審議した。
その結果、資料の提出が遅れた4品種の食品を除く、5品種の食品及び1品目の食品添加物について、安全性評価指針に沿って適切に評価が行われていることを確認した。

(4) 組換え体の特徴

(1) 除草剤耐性作物について

土壌中の微生物から得られた、特定の除草剤の働きを阻害する蛋白質を産生する遺伝子をとうもろこしやなたねに導入することにより、これら除草剤に対する耐性を持たせたものである。
これにより、除草剤の散布回数・散布量を減少させることができ、環境保全に資することができる。また、不耕起栽培場面での使用により土壌の流亡を防ぐ他、コストの低減、安定した収穫などの効果も期待できる。

(2) 日持ち性の向上作物について

果実の過熟や、軟化をもたらす酵素の遺伝子を取り出して、その遺伝子配列を逆(アンチセンス方向)に配列したものを本来の作物に導入することにより、酵素の発現を抑制させ、果実の日持ちを向上させることができる。
これにより、果実が完熟した後の収穫が可能となる。



組換えDNA技術応用食品の一覧表

  モンサント社ワタ
(ラウンドアップ・レディ−・ワタ 1445系統)
モンサント社ワタ
(BXN cotton)
アグレボ社カノーラ
(MS8RF3)
申請者 日本モンサント(株) 日本モンサント(株) ヘキスト・シェーリング・アグレボ (株)
開発者 Monsanto Company(米国) Calgene Incorporated(米国) Plant Genetic Systems(ベルギー)
新たに獲得された性質
挿入遺伝子(供与体)
除草剤(グリホサート)耐性
CP4 EPSPS遺伝子
(Agrobacterium.sp 由来)
除草剤(ブロモキシニル)耐性
BXN遺伝子
(Klebsiella pneumoniae subsp.ozaenae 由来)
除草剤(グルホシネート)耐性
bar遺伝子
(Streptomyces hygroscopicus由来)
雄性不稔(雄性不稔ナタネ MS8)
barnase遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens)
稔性回復(稔性回復ナタネ RF3)
barstar遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens)
(MS8×従来種)×(RF3×従来種)=交配種(MS8RF3)
MS8RF3は除草剤耐性のみを獲得
選択マーカー
挿入遺伝子(供与体)
抗生物質(カナマイシン等)耐性
nptII遺伝子 ( Escherichia coli由来)
抗生物質(カナマイシン等)耐性
nptII遺伝子(Escherichia coli由来)
除草剤(グルホシネート)耐性
bar遺伝子
(Streptomyces hygroscopicus由来)
可食部分に発現する
遺伝子産物と発現量
CP4 EPSPS蛋白質
0.082μg/mg(種子生組織重量)
NPTII蛋白質
0.0067μg/mg(種子生組織重量
綿実油中にはともに検出限界下
nitrilase蛋白質
検出限界以下(種子生組織NPTII蛋白質
検出限界以下(種子生組織綿実油中にはともに検出界以下
プロモーターとターミネーターとの調節により、可食部分には発現しな
い。
諸外国での認可状況 米国(1996年2月) 米国(1994年9月)
カナダ(1996年8月)
英国(1997年1月)
カナダ(1997年3月)
組み込みによる効果 除草剤使用量・回数の削減
(環境保全に資する。)
除草剤使用量・回数の削減
(環境保全に資する。)
除草剤使用量・回数の削減
(環境保全に資する。)
  アグレボ社カノーラ
(HCN10)
キリン トマト
申請者 ヘキスト・シェーリング・アグレボ(株) 麒麟麦酒(株)
開発者 Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) Calgene Incorporated(米国)
新たに獲得された性質
挿入遺伝子(供与体)
除草剤(グルホシネート)耐性
pat遺伝子
(Streptomyces viridochromogenes Tu 494株由来)
Poly Galacturonase生合成遺伝子のアンチセンス発現性遺伝
( Lycopersicon esculentum cv Caligrande cv Campbell 33由来)
選択マーカー
挿入遺伝子(供与体)
抗生物質(カナマイシン等)耐性
nptII遺伝子
(Escherichia coli由来)
抗生物質(カナマイシン等)耐性
nptII遺伝子
(Escherichia coli由来)
可食部分に発現する
遺伝子産物と発現量
なたね油に、
PAT蛋白質検出限界以下
(検出限界 0.1μg/g)
NPTII蛋白質検出限界以下
(検出限界 0.1μg/g)
NPTII蛋白質
1.75μg/g (生組織重量)
諸外国での認可状況 カナダ(1995年6月) 米国(1994年5月)
カナダ(1995年2月)
メキシコ(1995年3月)
英国(1996年2月)
組み込みによる効果 除草剤使用量・回数の削減
(環境保全に資する。)
・トマト果実の軟化速度の遅延
・品質の長期間保持。
・果実の腐敗及び収穫後のトマトの病気の発生の低減。



組換えDNA技術応用食品添加物について

対 象 品 目 リボフラビン(ビタミンB2)
申 請 者 日本ロシュ株式会社
開 発 者 F.Hoffmann-La Roche(スイス)
組換え体の利用目的 リボフラビンは、合成法又は発酵法により製造されるが、生産効率の面から合成法が多用されている。
Bacillus subtilis Marburg 168株由来株を宿主とし、pUC19をベクターとして用いて、リボフラビン生合成遺伝子群、プロモター遺伝子等を染色体上に挿入した組換え体を培養し、効率的リボフラビンを製造する。
宿 主 Bacillus subtilis Marburg 168 株由来株であるRB50株
ベクタ ー Escherichia coliのプラスミド等の配列を含むpUC19(約2.4Kbp)
挿 入 遺 伝 子
(供 与 体)
・Bacillus subtilis Marburg 168株由来のリボフラビン合成遺伝子群(6.5kbp)
・Bacillus subtilisのファージSP01由来のプロモーターSP01-1 (365bp)
・Staphylococcus aureusのプラスミドpC194由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子(1035bp)
・Streptococcus faecalisのプラスミドpAMα1由来のテトラサイクリン耐性遺伝子(2.4Kbp)
諸外国での状況 米国及び英国において、使用等が認められている。


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