2004〜2005年の海外情勢主要国の労働施策の動向

I  アメリカ

 経済及び雇用・失業等の動向
 アメリカ経済は2001年3月から景気後退期に入ったが、2001年第4四半期に景気が反転して以降、2005年第2四半期まで、15四半期連続でプラス成長となっており、景気は拡大基調にある。
 2004年の雇用動向をみると好調な景気を反映し、148万人の増加となった。失業率は、2005年も引き続き低下傾向であり、2005年第3四半期には、5.0%となった。

 賃金・物価・労働時間等の動向
 2004年の週当たり名目賃金の上昇率は、対前年比2.2%であり、前年と同水準となった。2004年の週当たり支払い労働時間は、前年と同水準の33.7時間となった。

 労働施策をめぐる最近の動向
(1) 教育・職業訓練の支援
 成長産業では高校卒業以降の教育・訓練を必要としている雇用が多くみられる。そのため、職業訓練を企業にとってより使いやすく改善することにより、地域経済のニーズを反映しやすくし、同時に労働者が受講しやすいようにすることを目指す施策が打ち出されている。
(2) AFL-CIO(アメリカ労働総同盟産別会議)の分裂
 AFL-CIO(米労働総同盟産業別会議)に加盟する4つの労働組合が、2005年7月25日に開催されたAFL-CIOの年次総会をボイコットし、そのうち、3つの組合がAFL-CIO脱退を宣言した。これによりAFL-CIOは、全組合員1,300万人のうち460万人約35%を失った。また、脱退した労働組合が中心となり、新たにCWC(勝利のための変革連合)が発足した。CWCの2006年1月末現在の組合員数は640万人である。


II  イギリス

 経済及び雇用・失業の動向
 イギリスの2004年の実質GDP成長率は3.1%と、前年に引き続き堅調な伸びを示した。国内消費は堅調であり、欧州全体の経済の回復とともに拡大傾向が顕著になっている。
 雇用情勢を見ると、2004年の失業率は4.8%となった。4%台となったのは、1975年の4.2%以来となる30年ぶりで、極めて低い水準で推移している。就業者数は2,838万2,000人と引き続き増加傾向にあり、過去最高と言われる高水準を維持している。

 賃金・物価・労働時間等の動向
 名目賃金上昇率は2004年には4.4%と2003年よりも1.1ポイント上昇し、2005年に入っても着実に上昇を続けている。また、消費者物価上昇率は1.4%と、2004年を通じて安定的に推移している。2004年のフルタイム雇用者の週当たり実労働時間は39.6時間と、2003年から横ばいである。

 労働施策をめぐる最近の動向
(1) 次世代育成支援
 次世代の育成支援に係る措置として、2004年12月、子育て支援10カ年計画〜親には選択肢を、子どもには最善のスタートを〜(Choice for parents, the best start for children)が発表された。また、2005年5月、産休手当の支給期間の延長等を内容とする育児法改正法案が国会に提出された。
(2) 移民・難民及び国籍法案
 イギリスの国境を強化して、違法な就労を防ぐための措置として、移民・難民及び国籍法案(Immigration, Asylum and Nationality)等が2005年6〜7月に公表された。この法案は、電子プログラムを利用した国境管理(e-Border)、不法就労者を雇用する雇用主に対する罰金、移民受け入れ判定手法の改正等を内容としている。
(3) 2004年労働者への情報提供と労働者との協議に関する規則の施行について
 2005年4月6日、労働者への情報提供と労働者との協議に関する規則(The information and Consultation of Employees Regulation 2004)が施行された。同法は、使用者と労働者の代表が交渉して「労働者への情報提供と労働者との協議に関する協定」を締結するための手続きを定めている。


III  ドイツ

 経済及び雇用・失業の動向
 2004年の実質GDP成長率は1.6%と、前年のマイナス成長から好転した。輸出が好調で、経済は回復傾向にある。
雇用情勢を見ると、2004年の失業率は10.5%となり、引き続き高い水準で推移している。

 賃金・物価・労働時間等の動向
 2004年の製造業生産労働者の賃金は前年比2.1%増大し、時給15.24ユーロとなった。2004年の消費者物価上昇率は、1.6%であった。また、2004年の製造業生産労働者の週当たり平均労働時間は37.9時間となった。

 労働施策をめぐる最近の動向
(1) 職業訓練協定の締結
 2004年6月、政府と経済界は、年間3万人分の職業養成訓練の場を新規に創ること等を内容とする職業訓練協定を締結した。これにより、労働組合側が求めていた、職業養成訓練生を雇わない事業主に課徴金を課するという職業教育訓練保障法案の立法化手続きは凍結された。
(2) 労働時間延長の動き・それを受けた最低賃金制度を求める労働組合の動き
 2004年6月、ジーメンスグループ(電気・電子製造業グループ)のカンプーリントフォルト及びボッホルト工場で、週35時間労働を40時間労働に引き上げることについて労使が妥結するなど、周辺国より比較的賃金コストが高いことを背景に、労働時間を延長する動きがいくつかの産業で広まった。
(3) 失業給付II制度の発足
 2005年1月1日、失業扶助を廃止して失業給付IIを新設するなどの変化を伴う、ハルツIV法に基づく労働市場改革が、大きな抗議行動もなくスタートした。制度改正の主目的は、(長期)失業者の労働市場への(早期)再統合である。


IV  フランス

 経済及び雇用・失業の動向
 フランスの経済は、2001年以降の世界経済の減速の影響を受け、経済成長率は2000年をピークに減速傾向にあったが、2004年の経済成長率は2.1%となり、前年に比べ伸びが高まった。雇用情勢をみると、2004年の失業率は10.0%となり、2001年第2四半期に8.6%となった後は上昇傾向にある。

 賃金・物価・労働時間等の動向
 非農業労働者の時間当たり賃金上昇率は、週35時間労働制導入の影響もあり、2000年に前年同期比で5.2%の高い上昇率となった後やや低下し、2004年は2.9%となった。一方、消費者物価上昇率は安定して推移し、2004年は2.1%となった。
 2000年2月1日(20人以下の事業所は2002年1月1日)の週 35 時間労働制の導入以来、非農業労働者の週当たり実労働時間は短くなっており、2004年は35.64時間となった。

 労働施策をめぐる最近の動向
(1) 社会連帯計画化法案の成立
 ラファラン前政権が年金制度改革、医療制度改革と同様に重要な改革として位置づけている社会連帯計画化法案が2004年12月20日、成立した。本法は、雇用や住宅など社会問題全般に関する改善を目的としている。
 社会連帯計画化法の主な項目は、(1)求職者支援の改善、(2)職業訓練の強化を通じた若年層の職業参加に向けた政策の強化、(3)最低所得保障受給者のための新たな特殊雇用契約の導入、(4)経済活動の発展や企業設立に有利な措置の導入等である。
(2) ドビルパン新内閣の雇用創出政策
 2005年5月31日、シラク大統領は5月29日の欧州憲法批准の国民投票での否決を受けて、内閣改造を発表し、6月2日、ドミニク・ドビルパンを首相とする新内閣が発足した。ドビルパン新首相は、雇用、労使関係、教育、研究開発を優先課題にあげ、若年者雇用の活性化、零細企業の新規雇用促進等を内容とする緊急雇用対策を打ち出した。これらの緊急雇用対策は迅速な実施とするため、議会による審議や採決を経ない政令(オルドナンス)に基づいている。


V  韓国

 経済及び雇用・失業等の動向
 韓国経済は、1997年末に通貨・経済危機に陥ったものの短期間で急速に回復し、2003年は3.1%、2004年は4.6%の成長となっている。
 通貨・経済危機以降、韓国の雇用情勢は急速に悪化したが、景気の回復に伴いその後は改善し、2004年は3. 5%となっている。
 最近では若者の失業率の高さ(2004年は15〜29歳層で8.3%)、正規・非正規労働者間の労働条件格差が社会問題になっている。

 賃金・物価・労働時間等の動向
 賃金に関しては、通貨・経済危機により上昇が鈍化したが、経済の回復と共に伸びを回復し、2004年は9.5%となっている。
 労働時間に関しては、1999年から減少傾向にあり、2004年7月から段階的に週40時間制に移行させたこともあり、2004年の労働時間は、48.7時間となった。

 労働施策をめぐる最近の動向
(1) 公務員労働組合法の国会での成立
 韓国では、公務員への労働基本権の付与が課題となっていたが、2004年12月、労働3権のうち団結権及び団体交渉権を認める(団体行動権は認めない。)内容の法律案が国会を通過し、2006年に施行される見通しとなった。
(2) 外国人雇用許可制度の開始
 2004年8月に公布された「外国人勤労者の雇用等に関する法律」に基づく外国人雇用許可制(2003〜2004海外情勢報告参照)により、2004年10月5日の時点で、284人の外国人が入国したと韓国労働部が発表した。また、2005年3月に「2005年外国人労働者需給計画」を発表し、企業からの需要に基づき総枠で1万8千人の受入れを認めた。
 またその席上、雇用手続きの簡素化や国内の不法残留者を減らすための外国人雇用許可制度改善方針が示された。
(3) 非正規職保護関連法案の動向について
 政府は、非正規労働者の保護を目的とする「期間制・短時間勤労者保護等に関する法律」案及び「派遣労働保護等に関する法律」改正案(以下、「非正規職保護関連法案」という。)を2004年11月に国会に提出した。
 その後、労使政による実務協議をおこなったが、最大の争点である期間制及び派遣労働者の雇用期間と雇用契約終了時の雇用保障問題において合意に失敗し、2005年通常国会及び同年6月の臨時国会で処理することができず、同年9月国会に持ち越しとなった。


VI  中国

 経済及び雇用・失業の動向
 2004年の実質GDP成長率は前年比9.5%増と、前年の9.5%上昇から引き続き高度成長を続けている。
 雇用情勢を見ると、2004年の失業者数(登録)は827万人で失業率は4.2%となっている。この他に下崗労働者(注)が153万人存在するが、この数は急減している。

 賃金・物価・労働時間の動向
 2003年の年間賃金は14,040元と対前年13.0%の増加になった。
 2004年の消費者物価上昇率は、2003年のそれを上廻ったといえ、3.9%と成長率・賃金の伸びをかなり下廻った。

 労働施策をめぐる最近の動向
(1) 就業問題の「下崗労働者」から「出稼ぎ労働者」への重点移行
 2004年3月の全国人民代表大会で行われた温家宝首相による「政府活動報告」に見られるとおり、就業問題の重点は、「下崗労働者」(注1)から「出稼ぎ労働者」(注2)に移行している。特に、出稼ぎ労働者の賃金未払いなどの問題に関しては、2004年後半以降、事業主への調査・監督を厳しくしている。
(2) 全国人民代表大会(第10期第3回)の開催
 第10期第3回全国人民代表大会が2005年3月5日から14日まで開催された。温家宝首相は、「政府活動報告」の中で、経済・社会発展の主要な所期目標について、国内総生産(GDP)の伸び率を8%前後、都市部就業者の新規増加数を年間900万人とし、都市部の登録失業者を4.6%に抑える等とした。

(注1) 国営企業からの一時帰休者。実際は一定期間の所得保障の後解雇。
(注2) 地方から都市部に期間限定で働きに来ている労働者。

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