まえがき


 「厚生労働省 海外情勢報告」は、諸外国の労働情勢及び社会保障情勢全般に関する情報を整理・分析し、広く提供することを目的として、毎年、厚生労働省においてとりまとめ、公表しているものです。

 今回の報告では、「諸外国における若年者雇用・能力開発対策」を特集として紹介しています。
 若者は、豊かな創造性、柔軟性を有しており、さまざまな活動を通じて知識や経験を蓄積することにより、次代を担う中心的な存在へと成長していく可能性を持った存在です。これまで、我が国は、若者を、将来を担う「資産」として位置付け、若者の能力開花に向けて教育等の積極的な投資を行い、その結果飛躍的な発展を遂げてきました。
 しかしながら、今、若者は、自らの可能性を高め、それを活かす場が乏しい状況にあります。若者の完全失業率は、改善の兆候が見られるものの、依然として高水準にあります。また、近年、フリーターや、働いておらず、教育も訓練も受けていないいわゆるニートと呼ばれる若年無業者も増加しています。このような状況が続けば、若者の職業能力の蓄積がなされず、中長期的な競争力・生産性の低下といった経済基盤の崩壊はもとより、不安定就労の増大や生活基盤の欠如による所得格差の拡大、社会保障システムの脆弱化、ひいては社会不安の増大、少子化の一層の進行等深刻な社会問題を引き起こしかねません。
 こうした問題の解決には、若者自らの自覚と努力も求められるところですが、政府、労使をはじめとする社会全体で、若者の主体的な取組みを積極的に支援していく必要があります。こうした中、2005年9月に「若者の人間力を高めるための国民宣言」が発表され、経済界、労働界、教育界、マスメディア、地域社会、政府が一体となった若者の人間力を高める国民運動が展開されているところです。
 若年者雇用問題は我が国だけの課題ではありません。欧米先進諸国は、我が国よりも早く、かつ深刻な若年者雇用問題に直面してきました。近年では、アジア諸国においても経済発展に伴い、新たな若年者雇用問題が顕在化しつつあります。こうした国々の対応は、我が国の今後の対応を考える上で大変参考になります。そこで、欧米先進諸国の中からアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ及びオーストラリアを、アジア諸国の中から、中国、韓国、シンガポール、インドネシア、タイ及びマレーシアを、さらに、各国の取組みを支援する国際機関等を対象として、若年者雇用・能力開発対策について調査を実施しました。

 報告の後半では、欧米、アジア諸国の労働情勢及び社会保障情勢を紹介しております。諸外国の労働情勢を概観しますと、アメリカでは2003年後半から景気拡大が顕著になり、雇用は2005年に入っても拡大基調にあります。イギリスでは景気拡大により空前の低失業率を記録し、アジア諸国も多くの国では好調を持続しています。対照的に、フランスやドイツでは失業率が依然高い水準にあり、雇用問題は引き続き厳しい状況にあります。
 社会保障の分野では、アメリカにおいて、高齢者の年金をまかなう現役世代の社会保障税の一部を、新たに設ける個人勘定に移す公的年金制度改革が検討されています。イギリスでは、ブレア首相が内政の最重要課題として掲げてきたNHS(国民保健サービス)改革が一定の成果を挙げてきています。ドイツでは、医療、介護の中長期的改革構想が提起されています。フランスでは、高齢者介護のための制度である高齢者自助手当の受給者数が当初の予想を遥かに超え、財政難に直面しており、対応策が模索されています。

 今回の報告が、読者の皆様が海外の労働・社会保障情勢について理解を深める上で参考になれば、幸甚に耐えません。


 2006年3月

厚生労働省大臣官房総括審議官 恒川 謙司

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