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表8 アジア諸国の労使関係と労使紛争処理の概要

  韓国 中国 シンガポール インドネシア タイ マレイシア フィリピン ヴィエトナム

労使関係の背景
・1996年に労働関係法の全面的な改正が行われたが、労働組合は反発し大規模なストを実施した。1997年に再び法改正を行ったが、その矢先に経済危機に見舞われ、失業率も上昇した。1999年から経済は回復し始め、労使関係も落ち着き始めたものの、1996年以来の労使関係法制の整備等の懸案はいまだ解決していない。 ・社会主義体制のもと企業は原則国有で、国の強い統制下にあったが、1978年に改革開放政策が始まり、労使関係にかかる諸制度が整備されるようになった。

・改革解放後、労使関係は大きく変化し、労使紛争も多く生ずるようになった。
・第3次産業の比率が約半数を占める都市国家であり、天然資源に乏しいことから、人的資源の重要性が極めて高い。

・政府はTripartitism(政労使の協調)の重要性を強調しており、これが政治の安定と外資導入に大きな役割を果たしてきた。労使関係は非常に安定的で、ストライキは1986年に2日間発生したのが最後で、それ以降全くおきていない。
・ハビビ政権以後、労働分野においても制度改革が行われ、多くの労働組合が結成された。

・2000年に労働組合法の成立により労働組合の数は急増した。企業内に複数の労働組合が併存し、混乱を招いている。また、近年の経済危機により労働者の不満も鬱積し、労使紛争が続発している。
・農業部門の就業者の全就業者に占める割合が約5割と農業中心の社会構造である。

・労働者の組織化は都市部及び工業地域、が中心で、労働組合組織率は2.0%と極めて低い。
・重要産業の1つである天然ゴムプランテーションの対立的な労使関係が今日に至るまで影響を与えている。

・近年経済発展が著しい中で、マハティール首相はルック・イースト政策を提唱し、日本の安定した労使関係を学ぶよう説いてきた。こうした努力もあってか、労使関係は比較的安定している。
・アメリカ統治の影響もあり、アジアの中で最も民主主義が定着している国の一つで、伝統的に労働組合運動が活発である。

・1953年に産業平和法により団交権・スト権が付与され、労働組合の数は大幅に増加し、ストや労働組合間の対立も増加した。1974年に労働法典が制定され、現在の労使関係の法的枠組みが作られた。
・就業者人口の66%が農業に従事している農業国であり、自給的な農業と臨時的な賃金労働で生計を立てている場合が多い。こうしたことから、労使関係は国有企業及び外資系企業に勤務するごく一部の国民のみの関心事項となる。

労働組合等の状況
(1) 労働組合の状況 ・労働組合の数は、1980年代後半に急速に増加したが、その後減少傾向にあり、組織率も減少し続けている。2000年の組織率は12%である。

・ナショナルセンターとして、韓国労働組合総連盟(韓国労総)と全国民主労働組合総連盟(民主労総)がある。1997年の法改正まで、韓国労総が唯一のナショナルセンターであった。
・中国唯一の労働者団体は、中華全国総工会(ACFTU)である。その設立は中華人民共和国工会法で明文化されている。 ・労働組合の組織率は近年14〜15%で推移しており、2000年は15.0%である。

・唯一のナショナルセンターとして、シンガポール全国労働組合会議(NTUC)がある。政府与党と緊密な関係にあり、政府決定事項について労働組合に直接影響力を行使しうる立場にある。
・労働組合の推定組織率は約16.7%(2002年1月)である。

・主なナショナルセンターは、スハルト政権下で唯一認められた全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)のほか、全インドネシア民主労働組合連合(FSBDSI)等、多数ある。
・労働組合の推定組織率は2%(1998年)と極めて低い。

・ナショナルセンターである主な労働者団体協議会は、タイ労働会議(LTC)、タイ労働組合会議(TTUC)、タイ労働全国会議(NCTL)等、多数ある。
・労働組合の推計組織率は8.2%(2000年)。

・スズ鉱山や天然ゴムプランテーションの労働者を中心に、アジアでは比較的早い時期から労働組合運動が行われている。

・ナショナルセンターとして、マレイシア労働組合会議(MTUC)とマレイシア労働機構(MLO)がある。
・労働組合の組織率は27.2%(賃金労働者に対する比率)(2000年)。

・主要なナショナルセンターとして、フィリピン労働組合会議(TUCP)、5月1日運動(KMU)、自由労働者連盟(FFW)がある。
・国有企業の80%、外資系企業の60%で労働組合が結成されている(1998年)。

・ナショナルセンターとして、ヴィエトナム労働総連合(VGCL)があり、労働法典により設立が法定されている。
(2) 使用者団体の状況 ・主要な使用者団体として、韓国経営者総協会、全国経済人連合会、大韓商工会議所、韓国貿易協会、中小企業協同組合中央会等がある。 ・中国企業連合会(CMEA)と中国企業家協会(CEDA)がある。 ・使用者を代表する団体は、シンガポール使用者連盟(SNEF)である。会員企業の総労働者数は全労働者の2割に当たる。全国レベルの政労使交渉の場において使用者の利益を代表する。 ・代表的な使用者団体として、インドネシア経営者協会(APINDO)がある。 ・使用者の中央組織である主な使用者団体協議会として、タイ使用者連盟(ECOT)、タイ産業貿易使用者連盟(ECOTHAI)がある。 ・結社法に基づき登録された使用者団体と労働組合法上の登録を受けている労使交渉団体としての使用者団体の2種類がある。後者のうち、全国の代表組織としてマレイシア使用者連盟(MEF)がある。 ・主な使用者団体として、フィリピン使用者連盟(ECOP)がある。政府の勧告により全国的な業界団体の上部組織として設置された。 ・全国的な使用者団体として、ヴィエトナム商工会議所とヴィエトナム協同組合連合がある。

労使紛争の現状
・労使紛争は1987年をピークに減少していたが、1997年の経済危機により大量失業者が発生し、不安定な雇用形態が急増したことにより、1998年以後再び増加傾向にある。 ・改革解放後、労使紛争は増加している。争議の原因は、労働報酬、保険福祉、契約解除が多い(2000年の集団争議件数8,247件)。 ・労使紛争は1990年代半ば以降減少している。争議の原因は、賃金その他の労働条件が大半を占める。

・なお、ストは1986年以降発生していない。
・労使紛争は活発化しており、中央労使紛争処理委員会における裁定件数は、近年2,000件程度で推移している。

・スト、ロックアウト等の争議行為の影響は職場のみならず、社会的にも大きな問題となっている。
・労使関係は比較的安定しており、2001年の広義の争議件数は154件と少なく、その原因は、福利厚生、賃金、解雇等の順となっている。

・スト、ロックアウト等の争議行為の発生は非常に少ない。
・スト等の争議行為の件数は多くないが、これは、ストを行う前に政府機関による調停が義務づけられていることが要因の一つとなっている。人的資源省に持ち込まれる労使紛争件数は非常に多い(1999年新規申請5,369件)。 ・マルコス〜アキノ政権にかけてスト件数が急増したが、政府の違法ストに対する対決姿勢や労使協調体制(産業界の協調と安定のための社会協定)により、ストは大幅に減少した。
スト発生件数は1986年の581件から毎年減少し、最近では60件前後で推移している。
・ストの発生件数は、2000年70件で、その半数が外資系企業におけるものである。この原因は、賃金不払い、達成不能なノルマの設定、労働組合の設立を認めない等となっている。

労使関係制度の枠組
(1) 労使紛争処理機関の仕組 ・労働部

・労使政委員会

・労働委員会
・労働・社会保障部

・労働局

・労働仲裁委員会
・人材開発省(MOM)

・労働仲裁裁判所 (IAC)
・労働移住省

・地方労働事務所

・労使紛争終了委員会
・労働社会福祉省

・地方労働事務所

・労使関係委員会

・労働裁判所
・人的資源省

・労働裁判所
・労働雇用省(PDOLE)

・全国斡旋調停委員会

・全国労使関係委員会

・地方労働事務所
・労働・戦傷病者・社会福祉省

・基礎労働調停協議会(事業体に設置)

・労働仲裁協議会
(2) 労働組合の設立 ・労働組合の設立自体は自由である。ただし、労働委員会に労働争議の調整等を申し立てることができるためには、以下の手続きが必要である。
(1)労働組合を設立しようとする者は、申告書に労働組合の名称、目的及び事業等を記載した規約を添付し、労働部長官等の行政機関に提出しなければならない。
(2)申告書を受理した行政機関は、記載事項に不備がある場合を除き、3日以内に申告証を公布しなければならない。
(3)労働組合が申告証の交付を受けた場合には、申告書が受理されたときに設立されたものとみなす。
・工会(労働組合)の全国組織たる中華全国総工会及び県レベル以上の地方行政単位(省、市及び県)ごとの総工会については、これを設立する。

・工会会員が25人以上の企業、事業単位、機関では基層工会委員会を設立しなければならない。25人以下の場合は、単独に基層工会委員会を設立してもよいし、2以上の単位の会員が連合して基層工会委員会を設立することもできる。

・同一業種又は性格の近似する複数の業種は、必要に応じ、全国的又は地方的な産業工会を設立することができる。

・工会の設立の際には、1段階上の工会に報告し承認を得なければならない。
・労働組合の設立には、少なくとも7人以上の者が集まって登録官に以下の事項を提出し登録を受けなければならない。
(1)組合の名称と住所
(2)組合の目的と資金の使途、組合員の権利と義務
(3)規則の改正
(4)組合役員の変更
(5)組合費の万全な管理と徴収責任者
(6)組合の記録の監督権限
(7)解散方法と解散に当たっての組合費の分配方法
(8)無記名投票制度

・組合の設立に当たっては、以下の条件を満たさなければならない。
(1)申請に係る組合とその規則が法に反するものでないこと
(2)申請に係る組合の目的が法に反する又は労働者の利益に反する可能性がないこと

・登録のない組合は違法であり、登録済みの組合が受ける権利、各種義務からの免除等を受けることができない。

・ある企業において既に労働組合が存在している場合には、新たな組合を設立することは認められない。
・一つの労働組合は最低10人の労働者によって設立される。労働組合連合は最低5労働組合によって設立され、労働組合総連合は最低3連合によって設立される。

・設立された労働組合等は、記録のため、労働事項に責任のある地方の政府機関に対して、以下の事項を書面で通知しなければならない。
(1)設立発起人の名簿
(2)規約及び定款
(3)執行部の構成及び氏名
・労働組合は、同一の使用者の下で労働する労働者又は使用者の数に関係なく同業者の労働に従事している労働者であって、法行為能力を有する者が設立することができる。

・設立に当たっては、労働組合を設立する権利を有する10人以上の労働者が、労働組合規約案を添えた文書による登録申請書を登録官に提出し、登録官が、国民の秩序安寧に反しない等と認めた場合に登録証明書を交付することが必要とされる。

・労働組合規約案には以下の事項を記載しなければならない。
(1)名称
(2)目的
(3)事務所の所在地
(4)労働組合への加入及び脱退に関する手続き
(5)ストライキ指示の手続き
(6)総会に関する手続き
・労働組合は、職種別、職業別及び職能別、事業所別並びに産業別に設立することができる。特定の職種、職業及び機能、事務所並びに産業において既に労働組合が設立されている場合、当該職種、職業及び機能、事務所並びに産業において新たな労働組合を設立することはできない。

・労働組合は、原則としてその設立後1ヵ月以内に、労働組合登録官に登録申請書を提出して労働組合登録官の資格審査を受け登録を行わなければならない。なお、登録を認めるか否かについては労働組合登録官の裁量が認められている。

・登録後、当該労働組合が従業員の労働組合として活動するためには、使用者の承認を得なければならない。承認を拒否された労働組合は、労働組合登録官に申立てを行うことができる。
・労働組合を設立すること自体は全く自由であるが、労働法典に定められている労働組合としての権利を付与されるためには、最寄りの労働雇用省地方事務所に登録して承認を受けなければならない。

・登録に必要な手続きは以下のとおりである。
(1)50ペソの登録料の納付
(2)役員氏名、住所、労働組合の本部住所、設立会議の議事録及び設立会議出席労働者名簿の提出
(3)活動の場と予定されている交渉単位における全労働者の20%以上に当たる労働組合員名簿の提出
(4)登録を申請する労働組合が1年以上存続している場合には、年度会計報告書の提出
(5)登録申請組合の綱領及び規則、当該綱領及び規約を採択又は承認した会議議事録、並びに当該会議参加労働組合員名簿の写し4部の提出
・労働組合とは、ヴィエトナム共産党の指導の下に、自主的に組織されたヴィエトナムの労働者階級及び労働者の広範の政治・社会団体である。

・全てのヴィエトナム人労働者は、法令の範囲内で労働組合を組織し及び労働組合に加入することができる。

・労働組合の全国組織たるヴィエトナム労働総同盟及び労働組合の地域組織たる省級労働総連合については、これを設立することが法定されている。

・省級労働組合連合については、新たに事業所が設立された場合には、その操業開始の日から起算して6ヵ月以内に暫定労働組合を設立しなければならない。
(3) 労使紛争の解決手続等 ・調整制度の特徴は、(1)調停前置主義(ストライキやロックアウトは、公的調整手続きを行ったあとはじめて認められる)、(2)事後的調停方法、(3)公的調停中心、
の3つとされている。

・団体交渉が決裂した場合、労働委員会に対して調停を申請する。

・調停が成立しなかった場合は労働委員会に仲裁を申請し、仲裁が開始されると、関係当事者を拘束する仲裁裁定がなされる。

・仲裁裁定が不服の場合には、中央労働委員会に再審の申請をすることができる。

・仲裁裁定及び再審の決定が不服の場合には、行政訴訟を提起することができる。
・労働争議が発生した場合には、(1)企業に設置される労働争議調停委員会における調停、(2)三者構成の労働争議仲裁委員会による仲裁、(3)人民法院における司法裁判、といった方法によって処理される。

・企業内の労働争議調停委員会で調停を行い、調停が不調の場合には、争議の当事者は労働争議仲裁委員会に申立を行って仲裁をし、仲裁に不服がある場合には、人民法院(裁判所)に訴えを提起するという手順で行われる。この一連の手続きのうち、調停が最も重視されている。
・ストライキ及びロックアウトが認められるのは、人材開発省による調停が不調に終わり、かつ人材開発大臣が当該労使紛争を労働仲裁判所の仲裁に委ねるよう指示しない場合である。

・団体交渉を行ったにもかかわらず当事者間で合意に達しない場合は、人材開発省による調停が行われる。

・ほとんどのケースはここで合意に達するが、達しない場合は労働仲裁裁判所による仲裁に移行する。仲裁の手続きとしては、まず調停を通じて紛争解決のための援助をし、そこで解決されなかった場合に仲裁が開始される。労働仲裁裁判所の下す裁定は最終拘束力を持ち、控訴することはできない。
・ストライキ及びロックアウトが認められるのは、調停官による調停、地方労使紛争処理委員会による調停等が全て不調に終わったときである。

・紛争当事者間の協議において合意に達することができない場合、労働移住大臣により任命された調停官に対し、調停を申請する。

・調停官が調停では解決できないと判断した場合には、地方労使紛争処理委員会に委ねられる。地方労使紛争処理委員会は紛争解決のための提案、または強制力のある裁定を行うことができる。

・このほか一定の場合、仲裁の専門家又は仲裁委員会で事件が処理され、その判断は中央労使紛争処理委員会の承認又は代替措置によって強制力のある決定となる。

・一定の場合には中央労使紛争処理委員会で事件が処理され強制力ある裁定が下される。
・団体交渉について、労働組合だけでなく、7名以下の労働者の代表も当事者となることができる。

・争議行為の権利は、労働者側だけでなく使用者側にも明文で認められている。

・ストライキ及びロックアウトは、調停官による仲裁が不調に終わったときに初めて行うことができる。

・労使紛争の調整手段としてはこのほか労働争議仲裁人による仲裁決定、労使関係委員会における労働争議の裁定及び仲裁、戒厳令及び緊急事態の宣言等に基づく労働争議の仲裁がある。
・ストライキ等が認められるのは、人的資源省又は労働裁判所における調整がつかなかったときである。

・当事者間の交渉で問題が解決できないときは、人的資源省の労使関係局に解決を求め、局長は調停を行う。労使関係局長の調停が不調に終わったときは、人的資源大臣が調整を行う。

・人的資源大臣の調停が不調に終わったときは、人的資源大臣は労働裁判所に付託する。労働裁判所の裁定は終局的なものであるが、労働裁判所の手続きにおける法律問題についてのみ高等裁判所に上訴することができる。
・団体交渉は、排他的交渉代表制を採用しており、企業等交渉単位内の過半数の支持を得た労働組合が団体交渉権を与えられる。

・ストライキやロックアウトは調停や任意仲裁で解決できない場合のみ認められる。

・労使紛争の解決方法は、(1)労使紛争当事者間の公式・非公式な討議及び交渉を通じた解決、(2)斡旋・調停などにより紛争を平和的に解決する方法、(3)労使紛争の解決のために裁定を下す強制仲裁、民間の第三者に紛争処理を付託する任意仲裁、などがある。

・中央斡旋調停委員会の調停や斡旋が効果的に機能しており、予防的な調停で80%前後の労使紛争が解決されている。
・ストライキやロックアウトは労働仲裁協議会の裁決を得たあとに行うことができる。

・当事者同士で紛争の解決が図られないときは、労働調停協議会で調停を開始する。労働調停協議会による調停が不調に終わったときは、争議の当事者の一方又は双方の申立により労働仲裁協議会が調整を行う。労働仲裁協議会の裁決に同意しない場合、労働者団体は人民裁判所に対し紛争の解決の訴えを提起するか又はストライキを行うことができ、使用者は人民裁判所に対し裁決の再審査の訴えを提起することができる。

労使関係に係る問題点と今後の展望
・調停を行う労働委員会の人手不足等により充分な調整が行われないこともあって、労使双方とも調整制度への不信感がある。また、調停案が示されても解釈、履行方法をめぐって紛争が再発するケースが多い。

・今後、労働時間短縮や非正規職保護の法制化等労使の協議が必要な問題が多いことから労使関係がより不安定になるおそれがある。
・最近では改善しつつあるが、民営化された企業や外資系企業の進出により、これまで国有企業にはなかった雇用上の諸慣行に労働者が慣れていなかったことから生じる問題が多かった。2001年工会法改正により、社会主義市場経済に適合するよう工会の機能を強化したことで、労使の対等な協議を推進し、協調的な労使関係の実現にも貢献が期待されている。 ・労組が労使協調の重要性を認識していることから労使関係は協調的である。問題点としては、最近多くなっている管理職の解雇を背景として管理職にも団結権を認めるため労組法の改正が検討されている。 ・最近まで労組活動に制限があったため、労使共に労働者の権利及び義務、労組活動の意味及び役割、労働関係法制への理解が十分といえない状況にある。また、労使共に団体交渉を行うための知識・経験が不足していることも問題となっている。また、労使からは法の整備と執行が不十分であり、調停にも時間がかかるという不満がある。

・このため、2000年には労働組合法が成立し、続いて、労働者保護等を盛り込んだ労働力開発保護法案と労働争議解決法案が審議されている。
・労働者側が権利義務関係に基づいた労使関係の概念に慣れていないため、使用者側との協議・交渉をうまく行えないという問題がある。使用者側には労使関係行政に対する不信感も一部あり、労働法規の罰則が厳しすぎるとの声もある。
 また、紛争処理に時間がかかる点については労使双方が問題点として挙げている。
・人的資源省及び労働裁判所で処理される事件の数が多いこともあって処理に時間がかかり、特に労働側の不満は大きい。MTUCは政府の対応に抗議して人的資源省前でピケを実行した(2000年11月)。

・マレイシアでは、制度的な問題からストライキが少ないという側面もあり、これを代替する政府及び労働裁判所の調整機能が今後とも改善しない場合、労使関係の安定性が損なわれるおそれもある。
・労組の登録や紛争処理に時間がかかることは労使とも問題点として指摘。

・これに対して政府は、労働法の実効を上げるため解決すべき事項として、(1)紛争処理手続きの簡素化及び期間短縮、(2)処理の継続性確保のため担当職員の研修の充実、(3)公共の関心の向上が必要としている。これらを実現するため、政府は現在、法改正の作業を進めている。

・一部組合が実施するストライキについて使用者側には経営に与える打撃が大きいとの認識がある。
・市場経済の進展に伴い、現行の労働法及び労働組合法に現状に合わない問題が生じている。このため、政府は現在、労働法の見直しを行っている。

・労働法の見直しにより、社会主義原理と市場主義原理の一層の調和を図り、労組関係の安定を目指していくものとみられる。


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