I がん検診受診率と入院受療率に関する関連分析
都道府県等において検診等の地域保健施策推進の参考とするために、地域の状況を全国状況との関係で把握することを目的とし、平成14年に実施された患者調査と平成14年度の地域保健・老人保健事業報告から、がん検診受診率(以下受診率)と病院における入院受療率(以下入院受療率)の関係を検討した。対象とするがんは、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮がんの5つのがんとした。対象者については、がん検診との関連をみるために入院受療率の対象を40歳以上とし、がんという疾病の特性を考慮し病院における入院患者を対象とした。
分析については、まず、都道府県における受診率と入院受療率の関係分析を行ない、次に、総ての都道府県を受診率、入院受療率をそれぞれ全国値との関係で「高・低」の計4グループに分け、それぞれのグループに属する都道府県を、二次医療圏に分割し、二次医療圏毎の受診率と入院受療率との関係を、人口規模との関連から分析した。
昨年の検討では、胃がん及び肺がんについて考察を行ったが、今回の検討ではすべてのがんについて考察を行った。
今回の検討は、平成14年又は年度における現状であり、因果関係等についての判断は行っていない。今後、関連する統計情報を用いた分析や経時的変化について検討を行う予定である。
なお、個別の二次医療圏の数値に関しては、別表で掲載している。
○ 胃がん
胃がんは、世界的にみても寒冷地に多発する傾向があるとされ、我が国においても、北部日本海沿岸に多いといわれている。また、胃がんの発生に関しては、生活環境特に食生活の関与などが指摘されている。
都道府県単位の検討では、北部日本海沿岸への集積傾向は特に認められず、生活環境の変化が伺える。特徴的な分布を示す都道府県としては、受診率と入院受療率が共に高い都道府県では山形、受診率と入院受療率が共に低い都道府県では、東京、埼玉、神奈川などの人口集積地域である。
二次医療圏単位での検討では、全体としては、都道府県の属していたグループよりばらつきが多くなっている。特に、「I 受診率・高/入院受療率・高」のグループでは、ばらつきが他のグループより多く、このことから、「受診率が高いから入院受療率が高い」と「都道府県単位」のみで判断するのは適切でないことが示唆される。また、「II 受診率・低/入院受療率・高」のグループでも、人口50万未満の二次医療圏においては受診率の高い二次医療圏が比較的多くみられ、都道府県の分布と異なることから、受診率と入院受療率の関係においては、少なくとも人口規模を考慮した二次医療圏毎の検討が必要と考えられる。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
○ 肺がん
肺がんは、組織学的に多様であるが、我が国では扁平上皮癌、腺癌、小細胞癌、大細胞癌が多いとされている。肺がんの発生には、喫煙、大気汚染、生活環境の変化などが関わっていると指摘されている。
都道府県単位の検討では、特定の地理的分布は示していない。受診率が低く入院受療率が高い都道府県では、北海道、受診率と入院受療率が共に低い都道府県では、東京、奈良が特徴的な分布を示している。
二次医療圏単位での検討では、全体としては、都道府県の属していたグループよりばらつきが多く、特に「I 受診率・高/入院受療率・高」のグループでは、ばらつきが多くなっており、受診率の低いグループ(肺がんII・IV)では、ほぼすべての50万人以上の二次医療圏において受診率は低く、特徴的な分布を示している。また、「II 受診率・低/入院受療率・高」のグループでは、人口50万未満の二次医療圏において、「受診率が高い」あるいは「入院受療率が低い」二次医療圏が比較的多くみられ、都道府県単位での分布と異なることから、受診率と入院受療率との関係において、人口規模を考慮した二次医療圏毎での検討が必要であると考えられる。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
○ 大腸がん
大腸がんは増加傾向にあり、その発生には食生活の変化、特に食物繊維の摂取不足、動物性脂肪や蛋白質のとり過ぎなどが関わっていると指摘されている。大腸がんの増加に伴い、近年は大腸がん検診の普及が図られている。
都道府県単位の検討では、特定の地理的分布は示していない。受診率が低く入院受療率が高い都道府県では、北海道、受診率と入院受療率が共に高い都道府県では、山形、秋田が特徴的な分布を示している。
二次医療圏単位での検討では、全体としては、都道府県の属していたグループよりばらつきが多く、特に「I 受診率・高/入院受療率・高」のグループでは、ばらつきが多くなっている。また、「II 受診率・低/入院受療率・高」のグループでは、受診率が高い二次医療圏が比較的多くみられ、都道府県単位での分布と異なることから、受診率と入院受療率との関係において、人口規模を考慮した二次医療圏毎での検討が必要であると考えられる。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
○ 乳がん
乳がんの発生には初産の高齢化または高齢で未産、高脂肪食、肥満などが関わっていると指摘されている。乳がんの増加に伴い、近年は画像診断を中心とした乳がん検診の普及が図られている。
都道府県単位の検討では、特定の地理的分布は示していない。受診率と入院受療率が共に高い都道府県では、山形が特徴的な分布を示しており、受診率と入院受療率が共に低い都道府県は、埼玉、兵庫などの人口集積地域が多くなっている。
二次医療圏単位での検討では、全体としては、都道府県の属していたグループよりばらつきが多く、特に「I 受診率・高/入院受療率・高」のグループでは、ばらつきが多くなっており、受診率の低いグループ(乳がんII・IV)では、ほぼすべての50万人以上の二次医療圏において受診率は低く、特徴的な分布を示している。また、「III 受診率・高/入院受療率・低」のグループでは、入院受療率が高い二次医療圏が比較的多くみられ、都道府県単位での分布と異なることから、受診率と入院受療率との関係において、人口規模を考慮した二次医療圏毎での検討が必要であると考えられる。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
○ 子宮がん
子宮がんは、発生する部位で「子宮頸部がん」と「子宮体部がん」に区別され、両者は好発年齢、発生要因が異なると言われている。子宮体部がんは高齢者に多く、その発生は食生活の変化、少産化などが関わっていると指摘されている。子宮頸部がんは若年者に多く、その発生はヒトパピローマウイルスの感染、喫煙などが関わっていると言われている。
都道府県単位の検討では、特定の地理的分布は示していない。受診率が高く入院受療率が低い都道府県では、山形、佐賀、宮城が特徴的な分布を示している。
二次医療圏単位での検討では、全体としては、都道府県の属していたグループよりばらつきが多くなっている。「II 受診率・低/入院受療率・高」のグループでは、受診率が高い二次医療圏が比較的多くみられ、「III 受診率・高/入院受療率・低」のグループでは、入院受療率が高い二次医療圏が比較的多くみられ、都道府県単位での分布と異なることから、受診率と入院受療率との関係において、人口規模を考慮した二次医療圏毎での検討が必要であると考えられる。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。
注:点線は各々の軸の項目の全国値である。