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支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語和歌山県
自宅に帰って日増しに回復。
ゆっくり、のんびり奮闘中
竪(たて)三保子さんとその家族(和歌山県打田町在住)
 和歌山県の北部に位置する那賀郡打田町は、町の中央を紀ノ川がゆったりと流れる静かな田園地帯。人口約1万5千人ほどの小さな町だが、その約2割を65歳以上の高齢者が占めている。「もっとぬくなったら、散歩してみたい」とニコニコ笑う竪三保子さん(81)もそんな一人。昭和63年に夫を亡くして以来、一人暮らしを続けているいわゆる「独居老人」だ。長男 ・和己さん(61)は勤めの関係で奈良に住み、二男は大阪に家族を残して東京へ単身赴任している。「独居老人」というと、何やら寂しいイメージがつきまとうかもしれないが、実際のところ三保子さんの毎日は、入れ替わり立ち代わり人が出入りする孤独とは縁遠いものだ。
 もともと健康でおしゃべり好きだった三保子さんは、炊事、洗濯、掃除に買い物とほとんど自立した生活を送っていた。ところが4年前、左大腿部を骨折。それからというもの筋力が弱り、買い物などに出かけるのが難しくなってしまった。そこで打田町の在宅福祉サービスを利用して、週1回、買い物や掃除などを助けてもらう家事援助サービスと、月に1度の配食サービスを受けるようになった。昨年4月、介護保険制度がスタートしてからも「要支援」と認定され、それまで同様の家事援助を受けられることになり、三保子さんも家族もひと安心したそうだ。

竪三保子さんとその家族

在宅介護で寝たきり回避       
 ところが昨年11月、事態は急変。ヘルパーが訪問したとき、激しい腰痛に見舞われベッドの上で起き上がれなくなっている三保子さんを発見したのだ。いつまでたっても痛みがとれず、座って食事することすらできない。家族は「このままでは寝たきりになるのでは」という危惧を抱き、精密検査を目的に入院することにした。が、十日ほどして主治医は「今の竪さんに必要なのはリハビリだけ」と退院を勧めた。「座ってご飯も食べられへんのに、退院なんて殺生やと思いましたわ」と笑う和己さんだが、顔なじみの介護支援専門員やヘルパーを頼って、町の社会福祉協議会に相談に駆け込んだときは悲愴感が漂っていたという。もちろん、もう到底一人暮らしは無理だろうと思っていた。しかし意外なことに、そこで勧められたのは一人暮らしでの「在宅介護」。「竪さんならできます」という言葉を信じて決断した。家に帰った三保子さんは驚くほど顔色がよくなり、座るのはもちろん、少しなら歩行器を使って歩くこともできるようになった。心配していた一人暮らしも順調だ。2月16日には要介護3と認定され、自立に向けて練られたケアプランをもとに、週12回の訪問介護、週2回のリハビリ、週3回の配食サービスを受けるようになった。風呂場などには手すりがつけられ、ポータブルトイレが設置された。特殊ベッドと歩行器もレンタル。つい先日には打田町の福祉サービスのひとつ、緊急通報発信装置も設置され、さらに安心度がアップした。
 「介護保険制度で助かってますわ」「息子夫婦は顔を見せてくれるし、毎日いろんなヘルパーさんが来てくれて、前よりずっと人と会うことが多くなりました」と三保子さん。「家の中に他人が入ってくるのはイヤやというのはよく分かる。けど、気持ちに鍵はいりません。フランクに割り切って、心を開放すれば道は開けます」という和己さんの言葉が印象的だった。

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