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支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語富山県
2人一緒に外出できる
 「まるで青春時代みたいだね」
井沢忠幸さんとその家族(富山市在住)     
 「デイサービスセンターから迎えの車が来たよ」。妻のもとえさん(69)の声に、茶の間で休んでいた井沢忠幸さん(80)の顔がほころんだ。「早く行きたい」―。体を支えてもらいながら玄関へ歩いて行く。
  忠幸さんは、介護保険でデイサービスを週4回、訪問介護を週2回利用している。デイサービスは日帰りで施設に通い、食事や入浴などの世話を受けるもので、ふろ好きの忠幸さんのお気に入り。訪問介護も、自宅を訪れたホームヘルパーに入浴介助を頼んでいる。介護保険利用者は「どの程度の介護が必要か」の判定を受ける必要があり、忠幸さんは重度の「要介護4」だ。

以前は「夜も眠れない」介護負担  
 
 忠幸さんは、富山市郊外の自宅でもとえさんと二人暮らし。一昨年、脳梗塞(こうそく)を起こしてから痴ほう症状が表れ、昼夜を問わず徘徊(はいかい)するようになった。高血圧、不整脈などの病気も抱えており、入浴や排せつに介助が必要だ。

井沢忠幸さんとその家族

 当初は、もとえさんが一人で世話を続けていた。だが、徘徊はひどくなる一方。目を離したすきに家を抜け出して行方不明になり、雪の降る中を近所の人に捜してもらったこともあった。もとえさんは「夜も眠れぬがんじがらめの生活。入浴介助は力仕事で体もきつく、ご近所の助けが身に染みてありがたかった」と振り返る。若いころの忠幸さんは面倒見が良く、頼もしかっただけに、顔を見るたびに涙がこぼれた。
 市の相談窓口で近くのデイサービス施設を紹介してもらったが、希望した利用回数が確保できず、忠幸さんも雰囲気になじめなかったという。状況が一変したのは介護保険がスタートした昨年4月からだ。


表情が明るくなった!        

 
介護を社会全体で支えようというこの制度は、原則的に40歳以上の住民が保険料を納め、介護サービス利用者は費用の1割を負担すればよい。もとえさんは「収入の少ない私たちを救ってくれた、かけがえのない制度。この良さをみなさんに知ってもらい、利用していただきたい」と手を合わせる。制度導入に向けて介護事業者数やサービス量が増え、事業者の選択や、希望通りの利用回数確保ができるようになった。
 
サービスの充実とともに、不機嫌になりがちだった忠幸さんの表情が、目に見えて明るくなってきた。もとえさんとの会話が増え、デイサービスセンターでは自ら他の利用者の世話をし、「親方」のニックネームをもらった。生きがいを見つけ、面倒見の良い以前の忠幸さんが戻ってきたのだ。日中に体を動かすことで、夜はぐっすり眠れるようになり、徘徊もなくなった。

家族も自分らしく生きる       
 デイサービスセンターにはもとえさんも時折同行し、職員から介護のアドバイスを受けている。「若いころは働き詰めで、二人一緒に外出することなんてなかった。まるで青春時代のようで毎日が楽しい」
 センターの職員も「介護に専門家が携わることで、みんなが自分らしく生きられるようになる。介護保険はお年寄りだけでなく、家族のためにもあるんですよ」と話す。「若い人たちの支えがあればこそ、いまの暮らしがある。感謝の気持ちを忘れたらばちが当たるよね」。もとえさんが忠幸さんの手をやさしく握りしめた。

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