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支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語静岡県
2年で「あ・り・が・と・う」が
言えるようになりました。
鳥居ひで子さんとその家族(清水市在住)    

 「気持ちいいですか」とたずねると、お風呂上がりの鳥居ひで子さん(81)はにっこりうなずいた。毎週土曜日の午前中は訪問看護ステーションから所長の渡辺マスさん(74)が鳥居さん方を訪れ、体の調子を調べ、お風呂に入れてもらう。嫁の敦子さん(57)と渡辺さんのテキパキした動きに、体の動かないひで子さんも安心しきった様子で世話を受け、満足そうだ。「さあ、今度はお茶をいれてみようね」。用意してくれた急須に不自由な右手を使い、ゆっくり、ゆっくりと湯飲みにお茶を注ぎ、おいしそうに飲み干す。大切なリハビリの1つだ。最近、なんとかできるようになったという。

突然の脳こうそくで半身不随に   
 
 ひで子さんが脳こうそくで倒れたのは3年前の平成9年4月。いつものように2階のベランダで洗濯物を干していた。「何か静かでおかしいなと見に行くと、階段の途中におばあちゃんがうずくまっていました」。休日で一家の主、公務員の正さん(59)と息子さん二人の家族5人全員が家にいた。すぐ近くのお医者さんに運び込み、医師の判断で即座に救急車で病院に。一命は取り止めたが、十日ほど意識不明の状態が続き、甦った時は手足の右側が動かない半身不随状態で、声も失っていた 。

鳥居ひで子さんとその家族

 1年ほどで、伊豆のリハビリ病院等を経て自宅に戻り、敦子さんを中心にした家族の介護が始まり、昨年4月の介護保険スタートでは介護度5と認定された。

介護サービスに助けられ       

 週2回ずつ、近所の開業医の往診と渡辺さんの訪問看護は引き続き受け、月曜日と木曜日は朝、迎えのディーサービスのバスに乗って出掛け、夕方まで過ごして帰宅。この他、昨年10月から毎週1回ヘルパーさんの派遣を受ける。毎月のスケジュールは、ケアマネジャーと敦子さんが相談して1カ月の利用票を作っている。「気心の知れた方たちで助けられています」と敦子さん。
 おばあちゃんは倒れるまで海外旅行にもどんどん出掛ける行動派だった。それだけに動けず、言葉が出ない自分がもどかしそう。意志が伝えられず、かんしゃくを起こすこともある。「一番困ることは、声が出ないことですか」と聞くと強くうなずいた。

介護には経験と知識が本当に必要   
 当初、半身不随のひで子さんの身体を動かすのも大変だったが、ベテラン看護婦の渡辺さんの指導でコツを教わったと敦子さん。「その点、うちは本当に恵まれていました」と話す。そしてご主人の正さんや二人の息子さんの協力もあり、 看護、介護に携わる人たちとの支え合う心が、鳥居さん一家の在宅介護を支えている。
 世話が終わり、帰ろうとする渡辺さんに一言ずつゆっくり「あ・り・が・と・う」とひで子さん。家庭での2年がかりのリハビリの成果であり、言えた時のおばあちゃんの笑顔が一家を明るくさせる。
 「身体が不自由なお年寄りの世話は本当に重労働。そして経験と知識が本当に必要だと実感しています。看護や介護に携わる人たちの待遇や教育を、もう少し考えていただけたらもっと介護保険も利用しやすくなると思います。そして急な用事の時、おばあちゃんを預かってくれる緊急対応の体制があると本当に助かるのですが」と正さんと敦子さんは語る。

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