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支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語大阪府
保険は我が家の救いの天使。
老夫婦の自立をサポート
山口正夫さん・治代さんとその家族(大阪府羽曳野市在住)
 大阪市の中心部から20キロメートル圏内に位置する羽曳野市は、豊かな歴史と文化財、美しい自然に恵まれた大阪を代表するベッドタウンだ。人口、約12万人。うち65歳以上の高齢者は約1万8千人。この街にも、高齢化の波はひたひたと静かに押し寄せつつある。
 同市高鷲の府営住宅に住む山口正夫さん(85)も「この住宅、全186世帯のうち24世帯が一人暮らしの老人ですよ」とため息をつく。山口さんは昭和29年から同住宅に住んでいる、いわば団地の “生き字引”のような人だ。自分自身も含めて、住人が高齢化していく現実を目の当たりにしてきた。山口さん自身は現在、奥さんの治代さん(82)とふたり暮らしだが、その毎日はここ数年大変なものだった。というのも、治代さんが7年ほど前の住宅建て替えを境にうつ症状に陥り、5年前、骨折して右手が聞かなくなってからというもの家事が全くできなくなってしまったからだ。「とにかく、戸締りなどいろんなことが心配でたまらんらしく。モノ忘れもひどい。動いている洗濯機を途中で開けてしもたりするんです」。それまで普通にできていたことが突然できなくなってしまったのだから、正夫さんをはじめ家族のショックは図りしれないものがあったという。

山口正夫さん・治代さんとその家族

 が、落ち込んでばかりはいられない。それまでは市場にすら行ったことがなかった正夫さんだが、孤軍奮闘、家事一切と奥さんの世話を始めることになった。3人の子どもたちは口々に「もっと甘えて」と言ってくれるが、できるだけ面倒をかけたくないという信念をもっていた。しかし現実は厳しい。治代さんの症状は一向に改善されないばかりでなく、正夫さん自身が5年前、激しい胸の痛みに襲われて入院。以来、毎日7種類の薬を飲み続けなければならない体になってしまったのだ。おまけに持病の腰痛も悪化する一方で、今では家の中を動くのにも杖が必要なほど。治代さんも足が不自由だ。「自立の信念も、もはやこれまでか」と思われたとき、救いの天使が舞い降りてきた。昨年4月にスタートした介護保険制度である。

上手に選択、調整して利用      
 さっそく認定を申請し、正夫さんは要介護1、治代さんは要介護3と認定され、現在、正夫さんは週1回のしびれ感の緩和のための訪問看護を、治代さんは週1回のデイサービスと訪問看護を受けている。まだまだ多くのサービスを受けることはできるのだが、なるべく二人で頑張りたいとみえて、今は最小限の利用に抑えているようだ。それでも「リハビリパンツや手押し車は市の高齢者福祉制度で支給されるし、バスチェアも介護保険の一割負担で購入できて助かってます」と正夫さん。「看護婦さんもヘルパーさんも、仕事に誇りをもっておられる方ばかり。子どもたちは頻繁に顔を見せてくれるが、ヘルパーさんらの訪問も心待ちにしてます」と笑う。
 「介護保険は国の制度。毎月保険料を払っているんだから利用するべき」というのが持論だ。もちろん、利用するには一割の自己負担がいる。「しかしそれでも・・・」と正夫さんは力を込める。「サービスの内容は相談して選択し、調整することができるんやから、とにかく認定申請はするべきです」。せっかくの制度、上手に利用し強い見方にしてほしいものだ。

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