全国北海道東北関東北陸東海近畿中国四国九州沖縄
支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語岡山県
妻を安心させたい。喜ばせたい。
その気持ちの一部が「介護」です。
有田彰子さんとその家族(岡山市在住)     
 「今日は風があるよ。散歩に行く時はこのきれいな帽子をかぶって行こうな」――。訪問看護の日、居間のリクライニングチェアに座って入浴後の体を休める彰子さん(64歳)に、車いすを準備中の夫の博紀さん(66歳)がやさしく話しかけます。
 「わぁ、おしゃれな帽子」「有田さん、ステキ」と声をかける看護スタッフ。一瞬、彰子さんの固い表情に、かすかに笑みが浮かんだように見えました。その姿を見て、博紀さんもうれしそうに目を細めます。

会社を辞め、介護に専念して十年
   
 世話好きで温厚だった彰子さんに、アルツハイマー型痴ほうの兆候が表われるようになったのは10年前。病気の進行と共に症状は悪化の一途をたどり、パーキンソン病も併発した現在では歩行や食事、排せつなど日常動作すべてに介助を必要とします。 痴ほうの度合いは最終段階まで進み、言葉や感情を表わすことも、周囲の呼びかけに反応することもなくなりました。妻の状況が尋常でないことを悟った博紀さんが会社を辞め、介護に専念するようになってから10年がたちます。

有田彰子さんとその家族

ニ人の人生をどう楽しく送ろうか   
 「ショックも不安も絶望感もなかったといえば、ウソになります。けれど、妻の病気もそれに伴う介護も生活の一部であって、二人の人生をどのように楽しく送ろうかという原点まで変えてしまう必要はない、そう思ったんです。私がどう接すれば、妻が安心できるのか。楽しい気持ちで過ごせるのか。妻に対してそう思う夫は珍しくないはず。私の場合はそこに介護という視野が加わっただけなんですよ」と博紀さん。
 刻々と症状が進んでいく日々の中で、話しかけたり、一緒に手をつないで買い物や散歩に出掛けたり、友達を家に招いたり。毎月のように旅行にも行きました。体が動かなくなっても、意思の疎通がかなわなくなっても、彰子さんはいつもと変わらぬ博紀さんのやさしいまなざしに包まれてきたのです。

毎日の入浴で幸せな表情を      
  1年前、彰子さんは要介護5に認定されました。「毎日の食事、入浴、散歩」を介護の柱にしてきた博紀さんは、ケアプラン作成にあたり、入浴介護サービスを主体にすることを希望。1週間のうち、訪問看護3回、訪問介護1回、通所介護2回を利用する彰子さんは、毎日、おふろで格別の幸せな表情を見せてくれるといいます。
 「妻の介護は自分でという基本的な考えは変わりませんが、妻の症状が悪化し、医療的なサポートの必要性が増えたり、私自身の身体的負担が大きくなると、やはり社会的支援なしにはやっていけません。それに訪問介護による1週間に四時間の自由時間は、私にとって欠かすことのできない息抜きの時間になっています」と博紀さん。
 24時間気を抜けないといわれる、痴ほうの介護。介護にあたる家族の心のケアにもっと積極的に取り組んでもらえたら―。介護保険に対する博紀さんの思いです。
 同時に「痴ほうへの理解を深めるためには、介護する家族が積極的に社会に出て、理解や共感を得る努力が必要」が持論。定期的に発行する通信「二人三脚車椅子道中記」で、社会へメッセージを送っています。

全国北海道東北関東北陸東海近畿中国四国九州沖縄