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支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語長崎県
「ずっと家族と暮らしたい」
母の希望をかなえてやりました
山口キノヲさんとその家族(西彼杵郡西海町在住)
 7年前に左足大腿骨を骨折し3カ月半入院した山口キノヲさん (90) 。以来、車イスの生活をしていたが、次第に言葉も不自由になり、自分で食事することもできなくなった。現在、要介護5の認定を受けている。「倒れる前はかくしゃくとして元気な母でしたよ」と介護している娘の常子さんは語る。元気な時から「自分が寝たきりになった時は、老人施設などには行きたくない。家にいたい」と言っていた。こちらから話しかけても、かすかに理解する程度だ。家族は当初、食事の量や種類はどのような物がよいのか考えたり、夜中の排泄物の世話などで眠れない時もあったという。

1日の出来事は連絡帳に記載     
 自宅から車で約五分、デイサービス水浦事業所にキノヲさんは送迎車で通っている。入浴、食事、仲間とのレクリエーションなど自宅ではなかなかできない「もてなし」に表情も和やかになる。食事はノドに詰まらせないようにミキサーにかけ食べやすいように工夫しているほか、栄養面でも気配りがなされている。

山口キノヲさんとその家族

 1日の出来事は「連絡帳」に記載される。血圧、その日の体調などが書かれてあり、家族に知らされる。「家でも分からないことが書かれているのでとても役立ちます」と利用者の家族らに好評だ。
 「ここを訪れる人は、みなさん楽しそうにしています。体が不自由でも心はしっかりしているのです」。係員の言葉が響く。


肉体的、精神的な負担かかる     

 過疎化に伴い、高齢化が進む市町村では高齢化対策は避けては通れない。キノヲさんが住む西海町では介護保険導入以前から福祉には力を入れてきた町だ。「高齢者が幸せに暮らせるまちづくり」を柱に社会福祉協議会と連携し保健婦、介護福祉士、栄養士、ホームヘルパー、ボランティアなどを充実させている。
 介護といっても介抱する人の肉体的、精神的な負担は言葉では言い表わせないものがある。また経済的な負担も重くのしかかる。介護保険の適用で「正直に言って助かります。だれでも介護されようとは思っていないはず。でも先はどうなるのか分かりません。その時、みんなで助け合うシステムは必要です」。介護している常子さんの言葉には実感がこもる。

「働くこと」と「介護」を両立    
 常子さんは町内の給食センターで働いている。働きながら、母親を自宅で介護するのは容易ではない。「自分も生活するために働かなければなりません。私が倒れたら母はどうなりますか」。介護する人が介護疲れのために「共倒れ」になることは避けたい。母の介護で感じることは「自分が寝たきりになると、家族に世話をかけることを皆さんに知ってもらいたい。介護保険の利用で、自分が仕事をしながら自宅で介護もできるのです」。介護は家族、社会が一体となって「生きる」ことの大切さを実感させることだ。もちろん「愛情、思いやり」が根本になくてはならない。
 麺類が好きというキノヲさん。食事にウドン類が入っていると顔をほころばす。機嫌が悪い時は曇らせた表情も見せる。家族の温かい愛情に育まれて生きる姿は、高齢者を抱える家庭のひとコマを浮かび上がらせた。キノヲさんの目は澄んでいた。

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