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支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語香川県
肩をなでながら話しかけると
ほほ笑んでくれるんです。
那須シカエさんとその家族(高松市在住)    
 「本当によく働く人だったんです、母は」。
 朝一番の列車で出かけるときでも、家中の洗濯を済ませていたという働き者。もちろん洗濯機などなかった時代のことである。 大正2年1月2日生まれの那須シカエさんは、平成3年10月、夫の50年の法要を済ませて以来、ベッドに寝たきりとなってしまった。今は、朝に夕に口を開き、次女・井口律子さんを見つめるだけの静かな生活を送っている。


長年ここで暮らしてきた母ですもの 
 
 シカエさんは15年ほど前、病院で「アルツハイマー病の初期」と診断された。米穀店を営んでいたため、幸い井口さん夫婦は一日中家に居る。介護するのが妻だけでなかったことも、10年という歳月、在宅介護が続けられた大きな理由だ。
 昨年、介護保険がスタートすると、井口さん夫妻は早速、要介護認定の申請を行った。結果は「要介護5」。

那須シカエさんとその家族


今は、必要なサービスを必要なだけ  

 現在、シカエさんは毎週水曜日に入浴、隔週金曜日の夜から土曜日にかけてショートステイのサービスを受けている。
 「『今ごろどうしよるかなあ』と心配で、夜中に何度も目を覚まし、居もしないベッドをのぞき込んだものです」と、律子さんの夫である桂一さんがポツリともらす。
 慣れないことに最初のころ、シカエさんは熱を出した。しかし、今では帰ってきたシカエさんの紅潮したほおをなでながら、母が留守をしていた間の出来事を話し聞かせるのが井口家のイベントとなった。しかも、ショートステイのお陰で、ようやく律子さんにも旅行に出かけるゆとりができた。
 夫妻はいつも、シカエさんのベッドがある部屋で寝起きしている。奥にも、2階にも部屋はあるが、みんな一緒のほうが落ちついて眠れるためだと言う。
 確かに、3人いつも一緒だ。というよりも、地域の人が声を掛け合いながらシカエさんを見守っているという感じさえする。取材の間も「おばあちゃん元気?」と、近所の人が訪れる。「人の出入りが頻繁だと雑菌が入るのが心配だ」と医師からの忠告もあったそうだが「もう免疫ができているはず」と律子さんは笑う。
 今はまだ、夫婦が健康でシカエさんの身の周りの世話ができるため、入浴とショートステイしか利用していないが、これから先のことを考えると、介護保険はなくてはならないもののようだ。
 「今のうちに、よそで泊まるのに慣れてくれれば、何かあったときに安心して預けられるでしょう。主人は心臓が悪いもので、もし入院することでもあったら、とても私一人で二人の看病はできませんから」。

この目で確かめた施設ですから    
 医療技術が進み、高齢化社会を迎え、これまでは「死ぬか、治るか」だった病いが、「死なないけれど治らない」病いへと変化してきた。しかも、在宅で介護する人の年齢層も徐々に上がりつつある。
 「私たちだけで生活する気ままさに慣れているんだから、今さら遠く離れて暮らす息子夫婦の世話になろうとは…」というご夫妻に「もし、ご自分に介護が必要なときがくればどうしますか」と尋ねてみた。
 「もちろん、要介護認定を申請して、施設もサービスも利用させていただきます」と元気な声が返ってきた。

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