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支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語広島県
通所リハビリで夫の表情生き生き
「いつか夫婦の会話戻れば」願う妻
仁井一男さんとその家族(尾道市在住)     
 「頭が割れるように痛い、痛い」。平成元年8月の夜中、尾道市で食料品店を経営していた仁井一男さん(57)が妻の智子さん(59)に訴えた。一男さんが倒れたのは、働き盛りの40代半ばだった。右半身まひ、失語症の後遺症が残った。
 一男さんは食事や入浴もままならない寝たきりの状態。二人の息子は独立し、市外で暮らしているため、智子さんが身の回りの世話を続けている。介護保険制度がスタートして一年。一男さんと智子さんの暮らしはどう変わったのだろうか。

夜も眠れない日々       
   
 
「24時間、夫につきっきり。夜も満足に眠れませんでした。ベッドから起こすにも、体重が70キロ以上ある夫を抱きかかえるのは大変。精神的にも体力的にも追いつめられました」。制度導入前の生活を智子さんはこう振り返る。夫の介護中心の日々は苦労が絶えなかった。例えば、浴室は隣の義父の家にあるため、一男さんを2階の寝室からそこまで運ぶのは大きな負担だった。また、当時は訪問診療と訪問看護を受けていたものの、リハビリのために通院することは、体力的に難しかった。さらに、智子さん自身も平成5年に子宮がんで4カ月入 院。退院後は再び一男さんの介助で精いっぱいだった。

仁井一男さんとその家族


精神面をどうフォロー        

 こうした二人にとって、介護保険制度は大きな手助けとなった。一男さんの主治医で、尾道市医師会会長の片山壽医師に相談して要介護認定を申請。一男さんは年齢が40歳以上65歳未満の第2号被保険者だが、老化が原因とされる特定疾病に該当しているため、「要介護4」の認定を受けた。ケアプランは、ケアマネジャーが片山医師の意見も聞きながら作成した。
 「歩行障害などのリハビリはもちろん大事ですが、比較的若い年齢で倒れてしまったため、生きることへの喪失感が強かった。精神的な部分でのバックアップを重視しました」と片山医師。多くの人々とのふれあいが刺激になることから、市内にある老人保健施設への通所リハビリ(午前10時から午後4時まで)を週3回に。このほか、訪問看護を週2回、居宅療養管理指導として歯科衛生士の訪問を週1回とするケアプランを作成し、制度施行から利用し始めた。

通所で明るさ取り戻す        
 「通所し始めてから夫の表情が生き生きとしてきました。私も今では自分の時間が持てるようになり、本当にうれしい」と智子さんは喜ぶ。一男さんの床ずれがなくなっただけでなく、立ち上がるためのリハビリも始めた。制度導入前では原則的に、70歳以上でなければ通所リハビリは受けられなかったという。
 さらにケアマネジャーがケアカンファレンスを随時実施。片山医師や訪問看護婦に加え、智子さんの意見も聞く。一男さんの病状を含め、住宅改造など生活環境改善も視野に入れたケアプランを話し合う。片山医師は、「言語リハビリを強化し、夫婦に会話が戻るようにしたい」と目標を話す。 「昨夏、ショートステイを利用し、夫をお世話してもらいました。長男が温泉旅行に誘ってくれたんです。15年ぶりでした。人生にはまだ楽しいことがあるんだ、と希望もわきました」と智子さんはほほ笑む。

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