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支えて 支えられて 介護保険は1周年
介護保険物語福島県
とりとめのない妻の話も親身に。
訪問看護に心いやされ
熊坂 普(すすむ)さんとその家族(福島市在住)
 妻は平成元年7月に自宅近くの道路を横断しようとしてオートバイにはねられたことがきっかけで介護を受ける生活となりました。入院中、100日近くも意識が戻らない状態が続き、家族も心配しました。1年余りの入院生活を経て何とか自宅に戻ることができるようになりました。
  でも、頭を打ったためか痴ほうが残り、介護保険の要介護認定では「要介護4」となりました。以前は家から出歩いてしまい、近所を探し回ったことが何度もありましたが、足が弱ってきたせいか、今は少し落ち着いています。


入浴サービスとショートステイも    
 
介護保険のサービスでは、毎週月曜日の訪問看護と毎週金曜日の訪問入浴を受けています。また、普段、介護をしている私の息抜きのために年に4、5回のショートステイを利用しています。このほか、ベッドやエアマットなども介護保険から借りています。

熊坂普さんとその家族

 昨年4月から介護保険制度が始まり、以前はただ同然だった訪問看護も入浴サービスも利用料を払わなければならなくなりました。昨年10月からは保険料も払うようになり、金銭的には苦しい面もあります。でも、私自身も将来、介護を受ける身になることを考えれば、社会全体で高齢者の介護を支えるという介護保険制度の趣旨には賛成です。
  サービスについては、市の社会福祉協議会のケアマネジャーさんが丁寧に相談に乗ってくれます。どんなサービスを受けることができるか、そのサービスを何回使えばいくらかかるかなど金銭的なアドバイスもしてくれますので、安心して任せることができます。


娘と孫も介護の手助け        

 訪問看護ステーションから来られる看護婦さんはだいたい決まっていますので、妻の体調はすぐに分かります。看護婦さんは妻のとりとめのない話でも親身になって聞いてくれますので、妻も安心して話をすることができるようで、この時ばかりは穏やかな表情になります。体をふいてもらったり、ツメを切ってもらったり、上半身を使った体操を一緒にしたりして約1時間過ごしています。私もこの間は安心して他のことをすることができます。医師からの連絡事項やアドバイスを聞くことができますし、私も介護の悩みを聞いてもらっています。
 
娘や孫も妻の介護に手を貸してくれます。孫は高校一年生ですが、妻がトイレに行くときには付き添いをしてくれるようになりました。定期的なサービスは家族の生活のリズムにもなっています。

より多くの人に知ってほしい     
 私の妻が介護保険のサービスを受けているという話を聞いて、近所の人や親類の中にも介護保険からサービスを受ける人が増えてきました。昔は子どもたちが大勢いましたが、今はほとんどが高齢者世帯で、一人暮らしの友達も多くなりました。私が地域の民生児童委員を務めている関係で、施設への入所の仕方や介護保険の利用法など地域の住民や友人からいろいろな相談が寄せられます。
 こうした体験を通じて、介護保険をより多くの人に知ってもらう努力が必要かなと思います。高齢者世帯にあまり負担がかからないような制度になってほしいものです。

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介護保険物語福島県
家族の笑顔に包まれていたから、
夫は順調に回復している。
角田利秋さんとその家族(郡山市在住)     
 角田利秋さん、73歳。長い間、鍼灸師・理学療法士として活躍してきた。昨年1月、その利秋さんが突然「腰が痛い」と訴えだした。歩行するのも困難になり、3月に入院。しかし、はっきりした原因も分からず、症状は一進一退を繰り返した。このため、家族は「家で療養させる」ことを決意、利秋さんは4月末に退院した。在宅ケアを決めた背景には四月からスタートした『介護保険制度』があった。 利秋さんは全面的介助を必要とする「要介護5」と認定された。歩くことはもちろん、食事も一人でとれない状態だったから、在宅ケアは予想よりも大変だった。

電動ベッドはボタン1つ、楽ですね   
 
それでも、利秋さんを世話する妻の孝子さん(70)を支えたのは、介護保険によるサービスだった。「ありがたかったのは、何といっても車イスと電動ベッドの貸与ですね」と孝子さん。「そんなに体が大きい人じゃないのに、起き上がらせるのはけっこう力がいるんですよ。それが電動ベッドならボタン1つ、楽ですね」。

角田利秋さんとその家族

 「介護保険がなかったら、とても母一人で父の世話はできなかったでしょう」と話すのは娘の広田みつえさん(41)。利秋さん夫妻は娘さん夫婦と同居している。みつえさんの夫の正栄さん(43)、孫の哲也君(小学三年)、望ちゃん(同二年)の笑顔に囲まれて暮らす。家族に囲まれて暮らす利秋さんに変化が現れ始めた。自力で起き上がれるようになったのだ。半年後の認定見直しで「要介護4」になった。

介護を支える“信頼”のキーワード  

 
利秋さんは現在、週2回通所リハビリテーションのサービスを受けている。うち1回は入浴サービス。歩行訓練などに取り組み、今では自分で車イスの乗り降りができるまでに回復している。「通所リハビリが楽しみのようで、その日は朝早くから起きて用意しているんですよ。リハビリの職員の方を信頼しているんですね」と孝子さん。
 「信頼している」―この孝子さんの何気ない言葉に、実は介護保険を支える重要なカギがある。介護を受けるお年寄りと介護サービスに携わる人たちとの信頼関係なくしては、何も始まらない。信頼こそ質の良い介護サービスの出発点だ、と言えるだろう。介護支援専門員(ケアマネジャー)も毎月、利秋さんの状態や要望を考えた上で適切なプランを提供してくれている。


夫の病気で初めて知った介護保険   
 介護保険制度がスタートして間もなく1年。「最初は私も(介護保険の)意味が分かりませんでした。夫が病気になって初めてその存在を知ったぐらいです。普通の人は理解しにくいんじゃないでしょうか」と、孝子さんは制度理解のためにもっとPRしてほしいと言う。「そうですね。地方ではなかなか“介護の社会化”が理解されていないかも…。まだまだ女性に負担がかかっているのかもしれませんね。もし介護疲れで母が倒れていたら、私も働いてはいられなかったでしょう」とみつえさん。
  家族の優しさと思いやりに包まれて過ごす利秋さん。楽しみはテレビでの相撲観戦。それに時折、妻の孝子さんと歌うカラオケだそうだ。日当たりのいいリビングで、孫たちに肩をもんでもらう利秋さんの顔はほころんでいた。春は確実にやってくる。


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