戻る

(3)介護保険に関する指導監督について

ア 都道府県等の実施体制について

(ア)市町村(保険者)に対する指導体制について

 介護保険制度の実施主体である市町村(保険者)に対する指導については、介護保険事業の適正かつ安定的な運営を図るため、法令等に基づく適正な事業運営の実施及び保険財政の健全化の推進に努めさせることが重要である。
 平成13年度に国が各都道府県に対する技術的助言を行った結果、市町村(保険者)指導の実施方法等において以下の点が認められたので、平成14年度の指導方針及び指導計画を策定する上で十分考慮し、適切な指導を実施されたい。

(1) 市町村(保険者)に対する指導については、全ての市町村(保険者)に対し、原則年1回の実地指導をお願いしているところであるが、一部の都道府県において実地指導が不十分であることが認められたので、平成14年度の指導方針、指導計画の策定にあたっては、実地指導の実施回数について十分留意されたい。

(2) 指導を実施した結果について、法令等に規定されている事項が遵守されていない市町村(保険者)に対して、口頭での指導のみで是正改善報告を求める文書による指導が行われていない事例が見受けられたので、指導結果については、文書による指導を行い、是正改善報告を求められたい。

(3) 福祉事務所等の機関に指導にかかる業務を委任している都道府県が見受けられるが、これらの都道府県においては、統一した方針のもとに指導が行われ、また市町村(保険者)のそれぞれに対する指導に差異が生じないよう研修会、連絡会議等を開催して一定の指導水準の確保を図るとともに、これら機関による指導の実施状況を的確に把握し、必要に応じ、本庁の介護保険担当課による十分な助言を行うこととされたい。

(イ)介護保険施設等に対する指導体制について

 平成12年4月の介護保険制度発足以降、介護保険施設等においては都道府県等の指導により概ね適切な介護サービスが行われているところである。
 一方で、一部の介護保険施設等において運営基準等を遵守しない不適切な介護サービスの提供、架空又は水増しといった不正な介護給付費の請求、施設整備に絡む不正等極めて憂慮すべき不祥事が発生しているところであり、平成12年4月から14年1月末までの間に指定の取消し等を行った事業者は、全国で21事業者26事業所となっている。
 平成13年度に国が各都道府県等に対する技術的助言を行った結果、介護保険施設等の指導・監査の実施体制等において以下の点が認められたので、平成14年度の指導及び監査の実施計画を策定する上で十分考慮するとともに、各都道府県等の実情に応じた適切な指導及び監査を実施されたい。

(1) 都道府県本庁等の指導監査組織体制が、指導要綱等に沿った指導監査が実施できる体制にあるとは言い難い状況が認められ、その結果、平成13年度の実施状況が極めて不十分である都道府県等が認められた。利用者に対する適切な介護サービスを確保する観点から、また、不祥事の未然防止及び利用者保護の観点から、指導要綱等に沿った定期的な指導を全ての介護保険施設等に対し年に1回は実施される体制を確保されたい。

(2) 介護老人保健施設の指導監査を実施する保健所政令市等において、指導監査要綱が策定されていない、又はその内容が一部不適切であることが認められた。指導及び監査は法令に基づき実施するが、法的根拠、指導の具体的な実施方法及び都道府県との連携等を明確にした指導監査要綱を定め適切に実施されたい。

(3) 指導監査を実施した結果、法令等に規定されている事項が遵守されていない介護保険施設等に対して、口頭での指導のみで是正改善報告を求める文書による指導が行われていない事例が認められた。法令等に抵触する事項は早急に是正改善を図り、適切なサービスの提供に資する必要があるので、文書により是正改善報告を求め、その改善状況を確認されたい。

(4) 福祉事務所及び保健所等の機関に指導監査にかかる業務を委任している都道府県が見受けられるが、これらの都道府県においては、統一した方針のもとに指導が行われ、また、介護保険施設等のそれぞれに対する指導に差異が生じないように研修会、連絡会議等を開催して一定の指導水準の確保を図るともに、これら機関による指導の実施状況を的確に把握し、必要に応じ、本庁の介護保険担当課による十分な助言を行うこととされたい。

(5) 介護保険施設等の指導結果の通知及び改善報告書の内容については、利用者保護等の観点から事業者等の活動区域に所在する市町村(保険者)への情報提供及び利用者等への情報開示について十分配慮することとされたい。

(ウ)適切な苦情の処理について

 都道府県に寄せられた苦情については、必要に応じて市町村、国民健康保険団体連合会等へ連絡を行うなど関係機関と連携を図って適切に処理することが重要である。
 また、市町村(保険者)等に寄せられた情報についても、市町村(保険者)の内部において適切に処理されることは当然であるが、介護保険施設等に係る人員、設備及び運営に関する基準に違反又は違反の疑いのある情報については、介護保険施設等に対する指導監査権限及び指定取消処分等の権限を有する都道府県に対して情報提供がなされることが極めて重要であるので、都道府県及び市町村等関係機関において苦情の処理の事務が有機的に行われるよう努められたい。

イ 市町村(保険者)に対する指導について

 平成13年度に国が都道府県と合同で実施した市町村(保険者)の指導等の結果、要介護(要支援)認定事務、保険料の徴収事務及び利用料の減免について改善、検討すべき点が認められたので、下記の事項を踏まえ指導を実施されたい。

(ア)要介護(要支援)認定事務の適正な処理について

(1) 要介護(要支援)認定申請及び要介護(要支援)更新申請事務の円滑な処理

 要介護(要支援)認定に当たり、申請日から30日以内の法定期間内に処理されていない事例が多く認められる市町村(保険者)が見受けられ、その理由としては、主治医意見書の提出の遅れや認定審査会開催数の不足等があげられている。また、延期通知が適切に発出されていない市町村(保険者)も見受けられた。ついては、利用者保護の観点から原因を分析し、その解消に努めるよう指導され、やむを得ず法定期間内に処理することが困難な場合にあっては、認定延期通知書の発送が遅滞なく行われるよう併せて指導されたい。

(2) 要介護(要支援)認定に係る主治医意見書の管理の徹底

 介護保険施設入所者の主治医意見書が未封のまま当該施設職員である認定調査員が作成した認定調査票と同一の封書にて市町村に返送された事例が見受けられた。要介護(要支援)認定事務を適切に行うためには、主治医意見書に係る情報の取り扱いについて特に注意を払うことが重要であるので、市町村(保険者)に対して指導の徹底を図られたい。

(3) 要介護(要支援)認定に係る調査員の資格の確認

 認定調査に係る介護保険施設等との委託契約を更新する際、当該委託施設等の認定調査員の資格を確認していない事例が見受けられた。要介護(要支援)認定は、介護保険給付の要件である要介護状態等にあることを確認するものであり、認定業務の公平・公正な実施は、介護保険制度に対する信頼を確保する上で極めて重要であるので、委託契約を更新する場合においても、委託を受けた介護保険施設等に所属する介護支援専門員等であって、都道府県が実施する認定調査に関する研修を修了している者であるかどうか確認されるよう指導されたい。

(イ)保険料の適正な徴収について

(1) 保険料の減免について

 市町村(保険者)における保険料の取扱い状況をみると、低所得者に対する保険料を減免している市町村(保険者)が見受けられた。市町村(保険者)の判断により低所得者の保険料に関し独自の施策を講じる場合であっても、国民皆で制度を支える介護保険法の本旨に照らすと、
 ・ 保険料の全額免除
 ・ 資産状況等を把握しない一律の減免
 ・ 保険料減免分に対する一般財源の繰入
 或いは、これらと同様の結果となる措置は適当ではないと考えている。
 ついては、保険料の減免を上記のような方法により行っている市町村(保険者)に対しては、制度の趣旨を踏まえ前記3原則を逸脱したものとならないよう指導するとともに、他の市町村(保険者)への指導に当たっても、同様の趣旨の周知を図られたい。

(2) 保険料滞納者の管理について

 第2号被保険者のうち、要介護(要支援)認定の申請を受けた者に係る未納保険料等が把握されていない状況が見受けられた。要介護認定をうけた第2号被保険者に未納医療保険料等がある場合には給付制限がかかることとなるので、第2号被保険者に係る要介護(要支援)認定申請受理情報の医療保険者への提供及び医療保険者からの保険料滞納状況の把握を適切に実施されたい。
 また、要介護認定をうけた第1号被保険者が、納期限から1年間保険料を納付しない場合には、保険給付の支払い方法を介護保険施設等への代理受領による支払から償還払いに変更することとされている。ついては、該当者を的確に把握するとともに、給付制限等の措置を講じる前に、この措置についての周知やきめ細やかな納付相談を実施し、この措置を講ずる者が生じないよう指導されたい。

(ウ)利用料の減免について

 市町村(保険者)における介護給付を受けた利用者が支払うべき利用料の取扱い状況をみると、市町村(保険者)の独自の判断により、負担能力に関係なく全額を、又は一律に肩代わりしている市町村(保険者)が見受けられた。
 介護保険の利用者負担は、サービスを利用する者と利用しない者との負担の公平性や適切なコスト意識の喚起の観点から設けられたものであり、市町村(保険者)において地域の実情に応じ特別な配慮を行う場合であっても、制度の趣旨を踏まえ、節度をもった対応が求められるところである。
 また、利用者が支払うべき利用料を肩代わりする方式ではなく、国の「社会福祉法人の利用者負担軽減」と同様の仕組みを民間企業や医療法人等に広げるとともに、対象サービスの範囲を拡大している市町村(保険者)が見受けられた。
 社会福祉法人の利用者負担軽減は、社会福祉事業を任務とし慈善博愛の精神に則って低所得者の負担軽減を行うことが期待され、非課税で寄付金収入も想定できる社会福祉法人に限って特別に認められているものであり、社会福祉法人以外の民間企業や医療法人等がこうした措置を実施する場合又は対象サービスを社会福祉事業以外の事業に拡大する場合は、介護サービス費用の9割を給付するという介護保険の仕組みそのものや運営基準に反するおそれがあるものであり、適当ではない。
 ついては、利用料の減免を上記のような方法により行っている市町村(保険者)に対しては、引き続き制度の趣旨について理解を求めるよう努められたい。

ウ 介護保険施設等の適正な運営の確保について

 平成13年度に国が都道府県等と合同で実施した介護保険施設等の指導の結果においては、人員、設備及び運営に関する基準等の理解不足等からこれら基準等が遵守されておらず、是正改善指導を行った介護保険施設等も散見されたところであり、利用者に対する適切なサービス提供の確保を図る観点から、下記の事項を踏まえ指導及び監査を実施されたい。

(ア)人員に関する基準及び勤務体制の確保について

 介護保険施設等に配置しなければならない職員については、厚生省令で定める人員に関する基準に定められているが、これまでに指定取消の行政処分や是正指導が行われた事例において、事業所等の職員数が基準数を下回っていたり、一定の資格を有する者によりサービスの提供を行わなければならないにもかかわらず無資格者によるサービスが行われている状況が認められた。このような状況が放置されると、介護保険給付の上で格差を生じ、利用者にとって不利益となり、ひいては介護保険制度の信頼をも失うこととなる。人員に関する基準を満たす職員配置の確保と、適切な職員によるサービスの提供が行われるよう指導の徹底を図られたい。

(イ)内容及び手続の説明、同意について

 介護保険施設等は、介護サービスの提供の開始に際し、あらかじめ利用申込者又はその家族に対し、利用申込者のサービスの選択に必要な重要事項を記した文書を交付して説明を行い、提供の開始について利用申込者の同意を得なければならないこととなっている。しかしながら、重要事項を記した説明文書に、「事故発生時の対応」、「利用料その他の費用の額」、「苦情処理の体制」等について記載されていない事例が見受けられたところであるので、利用者保護の観点に立ち、利用申込者がサービスを選択するために必要となる重要事項に記載漏れがないよう指導の徹底を図られたい。

(ウ)掲示について

 介護保険施設等は、施設、事業所の見やすい場所に、運営規程の概要、従業者の勤務の体制、利用料その他の利用申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を掲示しなければならないこととなっている。しかしながら、重要事項が掲示されていない介護保険施設等が相当数見受けられたので、利用者保護の観点に立ち、適切に掲示が行われるよう指導の徹底を図られたい。

(エ)身体拘束の廃止について

 介護保険施設等においては、介護サービスの提供に当たって、入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体拘束を行ってはならないとされている。例外として極めて限定的に身体拘束を行うときには、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由について記録することが義務づけられている。 しかしながら、緊急やむを得ない場合以外に身体拘束が行われている事例や、身体拘束に係る記録が整備されていない事例が認められたところである。
 身体拘束の廃止の取組みについては、「身体拘束ゼロ作戦」の推進について(平成13年4月6日老発第155号)により通知されているところであるので、(1)各都道府県の「身体拘束ゼロ作戦推進会議」の開催や相談窓口の設置、シンポジウムの開催など創意工夫の上、様々な機会を積極的に設けて意識啓発に努める、(2)介護保険施設等全体で取り組む方針を徹底するため、施設等内に「身体拘束廃止委員会」を設置するなどして介護職員、看護職員等を応援する態勢を整えるよう指導する、など積極的な取り組みが必要である。
 また、指導の対象となるような身体拘束が確認された後、改善計画の作成やケアの是正等の指導を行っても、改善計画の作成や身体拘束の廃止が行われない場合等については監査の対象とし、監査を行った結果においても、指導に従わず身体拘束が日常的に常態化している場合など介護保険施設等の指定の基準に従って運営ができないと認められる場合及び報告徴収、質問、立入検査等に従わない場合については、指定取消も含めた厳正な対応をされたい。

(オ)利用料等の受領について

 介護保険施設等の利用料等の受領については、人員、設備及び運営に関する基準等でその取扱いが定められているが、保険給付対象のサービスと明確に区分されにくい「あいまいな名目による費用の受領」が行われると、保険給付そのものの信頼を失うこととなるので、適切な利用料等の受領が行われるよう下記の点に留意の上、引続き指導の徹底を図られたい。

(1) 保険給付の対象となっているサービスとの間に重複関係がないか

(2) 費用の内訳が明らかにされているか

(3) 対象となる便宜又はその額は、運営規程に定められ、重要事項として見やすい場所に掲示されているか

(4) 受領する額は、対象となる便宜を行うための実費相当額の範囲内で行われているか

(5) 受領について利用者等又は家族等に事前に十分な説明を行い、その同意を得ているか

(6) 当該同意については、サービス内容及び費用の額を明示した文書に利用者等の署名を受けることにより行われているか

(カ)サービス計画の作成について

 介護保険施設等がサービス計画を作成するに当たっては、利用者及び家族の希望、利用者について把握された解決すべき課題等に基づき、サービスの提供に関係する従業者で協議することとなっている。しかしながら、個人毎の具体的なサービス計画が作成されていない事例や、特定の職員が作成し関係する従業者間での協議が十分行われていない事例等が見受けられたところであるので、サービスの質の確保及び利用者保護の観点に立ち、適切なサービス計画が作成されるよう指導の徹底を図られたい。

(キ)介護給付費の算定及び取扱いについて

 介護給付費の請求に関して以下のような誤った請求事例が散見されたところであるので、介護保険制度の信頼確保及び利用者保護の観点に立ち、適正な介護給付費の請求が行われるよう指導の徹底を図られたい。

(1) 身体介護中心型や複合型の訪問介護を3級ヘルパーが行った場合は、所定単位数の95%を算定することとされているが、減算をしないで算定していた事例

(2) 専ら機能訓練指導員の指導に従事する常勤の理学療法士等が配置されていない期間について、機能訓練指導体制加算が算定されていた事例

(3) 特別な療養環境の提供(特別な居室)により特別の料金を徴収している入院患者について、病院療養型病床群療養環境減算を行わないで算定していた事例

(4) 併設する指定短期入所生活介護事業所から引き続き施設入所した者の初期加算を、施設入所日から30日間算定していた事例

(5) 入所者の外泊期間中に同意を得て、そのベットを短期入所生活介護に活用し、入院又は外泊時の費用を算定していた事例

(ク)指定の取消しについて

 平成13年9月28日開催の「全国介護保険担当課長会議」以降、各都道府県から報告いただいた指定取消等事例の概要は別紙のとおりである。
 また、指定取消処分を受けた事業者、及び指定取消処分には至らなかったが指定取消処分に準ずる不祥事を起こした事業者については、厚生労働省ホームページ「トピックス/介護保険制度について」中「お知らせ」欄に「介護保険事業所及び施設の指定取消等事例」として掲載しているので、参考とされたい。
 なお、当分の間、全国的に整合性のとれた指導・監査の実施を確保する観点から、指定取消等の介護保険法に基づく行政処分の必要性が考えられる場合には、速やかに当室あてに連絡するようお願いしたい。

エ 指導監査実施状況等の提出について

 平成13年度に各都道府県等が実施した指導監査の実施状況等を把握したいので、その状況を平成12年度の実施結果報告と同様、平成13年3月12日老指第2号により作成し、提出願いたい。


トップへ
戻る