項番13
15健327

請求人
A男
昭和44年生
代理人
B子
原処分をした行政庁
甲社会保険事務所長

主文       甲社会保険事務所長が、平成15年9月l0日付で、再審査請求人に対し、家族療養費を支給しないとした処分は、これを取り消す。
理由
第1  再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。
第2 再審査請求の経過
1 請求人は、請求人の被扶養者(子)であるC(平成8年10月9日生。以下「C」という。)が遠視性乱視(両)、不同視弱視(左)(以下「当該傷病」という。)であるため、Dリハビリテーションセンター眼科E医師(以下「E医師」という。)及びF病院眼科G医師(以下「G医師」という。)の診療を受け、両医師の診断に従って治療用装具「眼鏡」及び「アイパッチ」(以下、併せて「眼鏡等」という。)を購入使用したとして、その購入に要した費用について、平成15年8月14日(受付)、甲社会保険事務所長に対し、健康保険法(以下「法」という。)による家族療養費(以下単に「家族療養費」という。)の支給を請求した。
2 甲社会保険事務所長は、平成15年9月l0日付で、請求人に対し、健康保険家族療養費支給申請書の書類を審査した結果、眼鏡等は当該傷病の治療のための装具とは認められないとして、家族療養費を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。
第3 問題点
本件の事実関係は、後に認定するとおりであるが、その大筋については、眼鏡等が当該傷病に対し治療的効果を有するものである点を含め、当事者間に争いがない。したがって、本件の問題点は、悠の使用する眼鏡等の購入が、法第110条第7項において家族療養費の支給について準用される法第87条第1項に規定する療養費の支給要件に該当し、家族療養費の支給対象となるものと認めることができるかどうかということである。
第4 審査資料
本件の審査資料は、次のとおり(資料3を除き、いずれも写)である。なお、公開審理期日において、参考人としてG医師の陳述を聴取した。
資料1 健康保険家族療養費支給申請書に添付された、E医師作成の補装具装着に関する意見書及び装具装着証明書(いずれも平成15年8月6日付)
資料2 再審査請求書に添付された悠に係る補装具給付交付意見書
2−1 G医師作成のもの(平成16年1月23日付。以下「G医師の意見書」という。)
2−2 E医師作成のもの(平成16年2月12日付。弱視訓練記録添付)
資料3 当会委員長の照会に対するG医師からの回答書(平成16年6月8日付。以下「G医師の回答書」という。「弱視の診断と治療(慶応義塾大学名誉教授植村恭夫)」と題する文献添付)
資料4 文献「3歳児健診で弱視の早期発見を」日本小児眼科学会3歳児健診検討会監修
資料5 パンフレット「臨床の場における弱視の治療方針」(仁科幸子・東範行=「日本の眼科」75・2号所収)
資料6 文献Pediatric Ophthalmology and Strabismus(Wright&Spiegel)
第5 事実の認定及び判断
1 前記審査資料及び公開審理期日における参考人及び当事者の陳述によれば、以下の各事実を認定することができる。
(1) Cは、当該傷病により平成15年6月11日よりE医師のもとで外来加療中のもので、同医師が、装具療法として眼鏡等の装着の必要性を認め、これを装着させたものである(資料1、同2−2及び審査請求書の記載)。
(2) G医師の意見書(資料2−1)、同医師の陳述から主要部分を摘記すると、次のとおりである。
傷病名:遠視性乱視(両眼)、不同視弱視(左眼)
障害の状況:上記疾患のため、正常な視力の発達が妨げられており、視力発達のためには、眼鏡での屈折矯正・健眼遮蔽治療が必要不可欠である。
必要と認める補装具の種目、名称:弱視治療用矯正眼鏡、弱視訓練用眼帯
使用効果見込:屈折矯正を行い、10歳までには(左)矯正視力1.0を目指している。
その他の参考事項:両眼遠視性乱視があり、裸眼視力は今のところ改善は望めないが、治療用の矯正眼鏡を(治療具として)常に装用し、アイパッチ(弱視治療用眼帯)を併用し、矯正視力は順調に発達している。現在は、E医師からの紹介を受けて、F病院G医師(小児眼科、斜視・弱視の専門外来を担当)が加療中である。
なお、小児の弱視は、早期に発見・治療を行えば、矯正視力は発達するが、感受性のある時期を逸すると治療できない。
(3) 資料2−2に添付された弱視訓練の記録によれば、治療中のCの視力検査の結果は次のとおりである。
検査年月日 右眼(矯正) 左眼(矯正)
H15.6.11
(6歳8カ月)
0.9(1.2)
 
0.1(0.2)
 
6・15 1.0(1.2) 0.06(0.15)
7・1 0.8(1.2) 0.06(0.15)
7・9 1.2(1.2) 0.1(0.3)
7・23 1.0(1.0) 0.06(0.4)
7・25 1.2(1.5) 0.1(0.4)
8・6 1.2(1.2) 0.06(0.4)
8・29 1.2(1.2) 0.1(0.5)
10・6 1.2(1.2) 0.1(0.6)
10・24 1.5(1.5) 0.1(0.6)
11・26 1.2(1.2) 0.06(0.7)
12・24 1.2(1.5) 0.06(0.8)
H16・1・23
(7歳3カ月)
1.5(1.5)
 
0.1(1.0)
 
(4) G医師の回答書(資料3)、同医師の陳述及び資料4ないし6の文献によると、当該傷病の治療は、眼鏡とアイパッチの使用によって施行され、この治療方法は、わが国の学界においても、国際的にも認知されていること、治療に使用される眼鏡は児の眼の屈折値の変化に応じて何度も変更され、良好な視力、両眼視機能が安定して得られると治療終了とされること、治療を施行しない場合は、弱視のまま経過して、眼鏡を装用しても視力改善は得られないことが認められる。
2 前記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 健康保険では、傷病の治療に関しては、療養の給付(いわゆる現物給付)を原則とし、現金給付である療養費の支給は、療養の給付で果たすことができない部分を補完するものとされている。そうして、療養費の支給対象となる治療用装具の範囲については、保険者は従来疾病又は負傷の治療遂行上必要不可欠な範囲のものに限って療養費の支給を認めてきているところである。
(2) 医学的知見によれば、弱視は、形態覚遮断弱視、斜視弱視、微小角斜視弱視、不同視弱視、非正視弱視(屈折弱視)に分類され、「視覚の発達期に、視性刺激遮断あるいは異常な両眼相互作用によってもたらされる片眼あるいは両眼の視力低下で、眼の検査で器質的病変はみつからず、適切な症例は、予防、治療が可能なもの」と定義され、感受性期内(生後から7〜9歳まで)における視性刺激遮断あるいは異常な両眼の相互作用(競合)が共通の成因であり、主たる障害部位は脳内中枢であるとされている(資料3)。
(3) 前記1によると、当該傷病は、患者の眼に感受性のある時期を逸すると治療できないものであること、眼鏡等はその治療遂行上必要不可欠な装具であり、明らかな治療効果が認められていることが明らかであり、これからすると、本件の治療用装具(眼鏡等)は法第87条第1項に規定する療養費の支給要件に該当し、家族療養費の支給対象となるものと認めるのが相当である。このような弱視治療用の眼鏡を、一般の、日常生活の不便を避けるために使用される眼鏡と同列に扱って療養費の支給を拒むことは、事柄の実態に目をそむけた極めて不当な態度とのそしりを免れないであろう。
(4) そうすると、原処分は妥当ではなく、取り消さなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。
(平成16年10月29日)

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