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イチョウ葉エキスの有効性および安全性
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独立行政法人 国立健康・栄養研究所 食品表示分析・規格研究部 杉山朋美、梅垣敬三 |
1.はじめに
イチョウ葉エキスは、イチョウの葉を乾燥させ、アルコールまたはアセトンを用いてフラボノイドやテルペノイド等の有効成分を抽出したものです。イチョウ葉エキスは、特に脳血管循環の改善効果を有するという報告 (1-3) があることから世界中で注目されています。日本においても「頭が良くなる」「痴呆防止に効果あり」等のイメージで、いわゆる健康食品等に添加され、その市場規模は拡大しつつあります。しかし、市場には、名称はイチョウ葉エキスでも、イチョウ葉エキスの含有量、品質の異なるさまざまな商品があります。これらは臨床試験を行っているイチョウ葉エキスと規格や品質が同等であるかどうかわかりません。さらに諸外国で利用されているイチョウ葉エキスと我が国で利用されているイチョウ葉エキスの調製方法は若干異なります。食品は一般にイメージで販売されることが多く、イチョウ葉エキスにおいても、イチョウの木の神秘性が関連づけられることもあります。そこでここでは、現在得られている科学的な情報をもとに、イチョウ葉エキスの有効性や安全性を紹介します。
2.イチョウ葉エキスの含有成分と規格基準について
イチョウ葉エキスには、ケルセチン、ケンフェロール、イムラムネチンなどに糖鎖が付いたフラボノイド配糖体、ギンコライドA、ギンコライドB、ギンコライドCおよびビロバライドなどのテルペノイドという化合物、プロアントシアニジンなどが含まれています。ギンコール酸は、接触皮膚炎やアレルギーを起こす成分であり、イチョウ種子の外皮に多く含まれているものですが、葉にも0.1〜1.0%含まれています。そのため、イチョウ葉エキスからはできるだけギンコール酸を除去する必要があります。
イチョウ葉エキスを健康食品等として利用するためには、有効成分と有害成分の規格がなければ、安全に利用することはできません。そこで、一般にイチョウ葉エキスの規格品としては、「フラボノイド類を24%以上、テルペノイド6%以上を含有し、ギンコール酸の含有量が5ppm以下」という規格が用いられています。日本でも(財)日本健康・栄養食品協会がイチョウ葉エキスに対して同様の基準を設けています(健康補助食品規格基準集(追補)、平成15年1月15日、(財)日本健康・栄養食品協会http://www.health-station.com/jhnfa/)。
イチョウ葉エキスの商品の解説で、「イチョウ葉エキスはヨーロッパでは医薬品として利用されている」、また、「ヒト試験で有効性が示されている」など、消費者の安心感と注目をそそる解説がされています。ここで注意しなければならないのは、ヨーロッパでもイチョウ葉エキスには、その品質が医薬品グレードのものと食品グレードのものの両方があること、ヒトの臨床試験を行っているのは医薬品グレードのものであることです。ドイツには植物由来の薬品を評価する委員会(通称Commission E)がありますが、この委員会が承認しているイチョウ葉エキスは、イチョウ葉エキスの製造法、フラボノイド、テルペノイド、ギンコール酸の量が規格に合致したものだけです(4)。
欧米で利用されているイチョウ葉エキスと日本で利用されているイチョウ葉エキスはその製造方法が若干異なります。欧米におけるイチョウ葉エキスの製造は、アセトンと水を用い、日本ではエタノールと水を用いています。これは日本の食品衛生法の関係でアセトンが利用できないためです。イチョウ葉エキスで特定されている成分は、フラボノイドやテルペノイドなどであり、その含量はエキス全体の半分にも満たないため、フラボノイドやテルペノイドなどの含有量が同じであっても、アセトン抽出品とエタノール抽出品が同等かどうかの判断はできません。
3.イチョウ葉エキスの有効性の評価
(1)生理作用の報告
イチョウ葉エキスの生理作用を検討した報告には、以下のものがあります。
抗酸化作用:
活性酸素は脂質過酸化、血小板凝集、炎症反応などに関係し、神経細胞や組織の損傷を引き起こすため、生活習慣病や老化の原因と考えられています。イチョウ葉エキス中の主にフラボノイド類には、活性酸素やフリーラジカルの消去作用、血小板凝集の阻害効果 (5,6)、炎症細胞からの活性酸素産生の抑制作用(7)が認められています。
血液凝固抑制作用:
血小板活性化因子(PAF)は、血小板凝集、アレルギー物質の放出、活性酸素の放出などを誘発し、血栓形成、アレルギー反応、炎症、気管支収縮、脳循環系の機能障害を引き起こす情報伝達物質として働きます。イチョウ葉エキスの中のギンコライドBは特異的なPAFの阻害物質であることが確認されており(8,9)、脳梗塞や動脈硬化の予防(10)にその効果が期待されています。
その他、血液循環改善作用(11)、血圧上昇抑制作用(12)、血糖上昇抑制作用(13)などの報告があります。
(2)有効性の臨床試験の報告
欧米において医薬品として用いられているイチョウ葉エキスでは、その有効性をヒトにおいて検討した報告(臨床試験)が多くあります(14)。これらの報告は、主にEGb761というイチョウ葉エキスの規格基準品を用いた試験です。以下はその報告例です。
痴呆症の改善
痴呆症には大きく二つに分けてアルツハイマー型と脳血管型があり、特にアルツハイマー型は原因が解明されていないために治療が困難とされています。EGb761は脳血管型およびアルツハイマー型、両方の痴呆症の症状を改善することが数多くの臨床試験で報告されています(15)。
1997年にLe Barsらは、軽度から重度のアルツハイマー症または脳血管性痴呆症の患者309名に対し、EGb761を一日120mg、52週間投与しました。その結果、患者の認知力を測定するADAS-Cog(Alzheimer's Disease Assessment Scale-Cognitive subscaleの略)スコアが、プラセボ群に対してEGb761投与群で1.4ポイント改善し、患者の行動指数を表すGERRI(Geriatric Evaluation by Relative's Rating Instrumentの略)スコアが0.14ポイント向上したと報告しています(16)。また、224名の痴呆症患者にEGb761を120mg、26週間投与した試験において、ADAS-CogおよびGERRIスコアの有意な改善が認められました(17)。さらに、Kanowskiらは軽度および中等度の痴呆症患者216名に対し、EGb761を一日240mgの用量で24週間投与し、プラセボ群に対して有意な神経変性病変症状の改善作用を報告しています(18)。そして、6ヶ月から1年に渡るEGb761摂取は安全であり、痴呆症患者の認識機能や社会的機能を安定させ、改善させることが示されています。
記憶改善
イチョウ葉エキスには痴呆症患者の注意力、記憶力低下の改善作用も期待されています(19)。一方、健常人に対する大量投与実験で、脳内α波を増加させ、記憶力を増大する結果が報告されています(20)
脳機能障害の改善
イチョウ葉エキスEGb761の適応症として脳血管障害、脳循環不全による機能障害(めまい、耳鳴り、頭痛)があり、末梢血管の血流促進による耳鳴り等の改善効果が認められています(21)。
末梢循環障害の改善
ヨーロッパでのEGb761の適応として、間欠性跛行の治療があります。間欠性跛行とは血液循環の不全のために下肢骨格筋への血流が滞り、しびれて歩行が困難になる病気です。
1998年にドイツで行われた末梢循環不全による間欠性跛行患者111名を対象とした24週間のEGb761投与で、全歩行距離および痛みを感じるまでの歩行距離の有意な延長が確認(22)された他、EGb761による間欠性跛行の症状改善効果が報告されています(23,24)。
4.イチョウ葉エキスの安全性
(1)一般的な副作用について
イチョウ葉エキス摂取による副作用として、まれに軽度の胃腸障害、頭痛、アレルギー性皮膚炎が認められています(25)。また、静脈内投与によりアナフィラキシー反応などの症状が現れるという報告があります(26)。しかし、通常の規格化されたイチョウ葉エキスの摂取量(120〜240mg/日)では、顕著な副作用の発現は認められていません。言い換えれば、240mg以上のイチョウ葉エキスの摂取、あるいは品質的に含有成分の規格がない製品の摂取では、その安全性は明確になっていないと解釈できます。イチョウ葉エキスの効果を期待するあまり、自己判断による過剰な摂取は思わぬ弊害をもたらす可能性があります。医師等の専門家の助言のない状況で、いわゆる健康食品等に添加されたイチョウ葉エキスを有効に利用するためには、適切な摂取量を守ることが重要です。
平成14年11月、国民生活センターから、「イチョウ葉食品の安全性」に関してアレルギー物質であるギンコール酸の含有量の問題が取り上げられました(http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20021125.pdf)。これは市販のイチョウ葉エキスの製品中に、アレルギーを起こすギンコール酸の濃度が極めて高いものがあるという内容です。最近の雑誌の中に、「イチョウ葉茶の作り方」ということを記載したものがあります。イチョウ葉を集めてきて、自分でお茶を作るという内容であり、調製したお茶にはかなり多量のギンコール酸が含まれると予想され、そのようなことは勧められません。
(2)医薬品との相互作用について
一般に健康食品を利用する対象者は、健康に不安がある人です。特にイチョウ葉エキスの場合は、痴呆症や末梢動脈閉塞症に効果があるという報告から、その利用対象者は高齢者が多いと思われます。高齢者は、医薬品を摂取する機会が多く、イチョウ葉エキス自身が安全であっても、併用する医薬品を介して、安全性に問題を生ずる可能性があります。そのため、イチョウ葉エキスと医薬品の相互作用に注意が必要です。
これまでに報告されているイチョウ葉エキスと医薬品の相互作用としては、アスピリン、ワルファリンなどとイチョウ葉エキスを併用した際に起こる出血傾向が挙げられます(27)。これは、イチョウ葉エキスに含まれるギンコライドによる血小板活性化因子(PAF)の阻害作用を介して、血液抗凝固薬の作用が増強されたことに関係していると考えられます。また、アルツハイマー症の患者においてイチョウ葉エキスと低用量のトラゾドン(抗うつ薬)を服用した際に昏睡症状となった例が報告されています(28)。
イチョウ葉エキスのようないわゆるハーブ類の中で、抗うつ作用のあるセイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)は、肝臓の薬物代謝酵素を誘導し、医薬品の代謝を促進して医薬品の有効性を低下させることが知られています(29)。イチョウ葉エキスには肝臓薬物代謝酵素の誘導作用がないと報告されています(30)。しかし、最近、イチョウ葉エキスの過剰摂取により肝臓の薬物代謝酵素が誘導され、医薬品の薬理効果に影響がでる可能性が示されています。(31,32)。この報告は、過剰のイチョウ葉エキスを摂取させた実験動物で行った研究であり、ヒトにおいても同様の現象が起こるかどうかは、今後の検討を待たなければなりません。しかし、イチョウ葉エキスを利用するときには過剰摂取は慎み、医薬品を併用するときには、相互作用が起こるかもしれないことを気に止めておくことが賢明でしょう。
なお、著者らは本研究所のプロジェクトにおいて、いわゆる健康食品が医薬品の有効性に及ぼす影響を検討しています。
5.おわりに
健康食品に利用されている素材の中で、イチョウ葉エキスについてはかなり学術論文があり、その有効性と安全性が明らかになっています。しかし、それらの研究は、医薬品グレードのイチョウ葉エキスを利用した研究結果であり、市場に存在するイチョウ葉エキス関連商品で同等の効果があるとは言えません。さらに、ある薬理作用があるということは、過剰に摂取すれば、別の望まない効果が発現することが当然予想できます。イチョウ葉エキスを適切に利用する上でのポイントは、1)規格基準があり、その製品の品質に問題がなく、安全性がある程度把握できるものを利用すること、2)効果をあまりにも期待して過剰に摂取しないこと、3)疾病があり、医薬品を用いた治療を行っている人は、医薬品を用いた治療を優先させ、また医師等の専門家の助言を受けることです。このような点に注意してイチョウ葉エキスを利用すれば、多くの臨床試験結果から推定できるように有効に活用することができると思われます。
参考文献
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